ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №283

/たった一つの行路 №283

 ☆前回のあらすじ
 ヒウンシティに到着したサクノとカナタ。
 しかし、透明人間の襲撃により、2人は離れ離れになり、カナタは姿を消してしまう。
 SHOP-GEARのメンバーユミ(実はトキオの娘で無邪気でバカで天然を装いながらも、裏ではほとんど計算しつくして動いている狡猾だった少女)に会ったサクノは、ヒウンシティのゴースト化の謎を解き、カナタを助けるために透明人間を探すことになった。
 途中、サクノは空から落ちてきたビリーを助ける。
 お礼にビリーはサクノを手伝うといい、サクノをつけていた透明人間に戦いを挑んだのだが…………



「ぐっ……」

 場所は西区の建物の前。
 そこに左肩を押さえる一人の痩せた中年男の姿があった。

「チッ。拘束していたはずなのに、どうやって反撃したんだ!」

 男は舌打ちをし、涼しげな表情をした紫色のロングヘアの男をギラリと見る。

「それは秘密さかい」

 ゆるーく、少年ビリーはコガネ弁もどきで返答する。

「つまり、お前は俺を油断させて今のように襲撃するために、期を狙っていたんだな!?」
「それだけじゃあらへんけどな」

 ビリー曰く、クイタランはまだやられておらず、ユミかサクノにこの状況を伝えに行ってしまった。
 さらに透明人間が言う相棒の正体と位置もつかもうとしていたのだ。

「相棒の正体と場所か。だが、そこまで知るには至らなかった様だな」
「いや、もう理解したで」
「なんだと?」

 ハッタリだと思う男だが、ビリーの目には確信があった。

「証明して欲しいか?いいで。とりあえず、あんたはSHOP-GEAR、いや元SHOP-GEARのメンバーのジュンキ。組織から消えた理由は、誰も自分の存在を気にかけてくれなかったからや」
「……っ!!」
「そして、ひがんだあんたは、自分の存在を証明するために、このヒウンシティの計画に―――」

 ビリーは言葉をとぎった。
 自分の顔目掛けて、電撃が飛んできたからだ。

「デンチュラ、もう一発だっ!!」

 高速移動からの10万ボルト。
 フットワーク+力で攻める攻撃だった。

「『ひかりのかべ』!」

 それを、たった一枚の壁で防いでみせる。
 ビリーの妖精ポケモンピクシーである。

「『ムーンフォース』!」
「っ!!」

 月の力を持つ一撃で、デンチュラを撃退した。
 それを見て、ジュンキはラフレシアを繰り出す。

「『花びらの舞』!!」
「『破壊光線』!!」

 撹乱させる大量の花吹雪。
 だが、ピクシーの一撃は中心を吹き飛ばして、ラフレシアに当てた。
 一撃では倒すことはできなかったが、致命傷でラフレシアを怯ませることができた。
 ところが、そのときにはビリーの姿は無く、逃げる後姿が見えただけだった。
 ラフレシアも気を取り直し、連続で花びらの舞を放ち、ピクシーが動けず反撃できないことをチャンスとし、姿を消した。

「よし」

 頷いて、ビリーは一匹のワニのようなポケモンを繰り出す。
 ワルビアルと呼ばれる悪地面タイプのポケモンである。

「北地区の3-5。そのビルの頂上。そうサクノはんに伝えてきてくれや」

 命令に従って、ワルビアルはサクノを探しに行った。

「さぁーて、後はワイが黒幕をサクノはんの前でぶっ潰して、サクノはんを骨抜きにするだけやー♪」

 北地区の3-5。
 その場所へ向かってビリーは走り出したのだった。



 たった一つの行路 №283



「一体どういうことなんだ?」

 カナタは無事だった。
 しかし、彼女は周りの風景を見て愕然とした。
 高層ビルに完璧に舗装された道路は間違いなくヒウンシティそのもの。
 だが、彼女が驚いたのは、溢れんばかりの人、人、人であった。
 すなわち、気を失う前にいた街の様子とはまったく違う風景がそこにあった。

「(しかも、みんな、自然に生活をしている……)」

 カナタの疑問に思う点はそこにある。
 サラリーマンは腕につけている時計を気にして、急ぎ足でかけていく。
 ゆっくりと歩くOLは、同僚のOLと何やら彼氏のことで愚痴をこぼしながら歩いていく。
 誰もが、この世界に疑問を持っていなかった。

「おかしいわよね」
「どうしてこんなことになったっしょ?」

 いや、正確にはこの世界に疑問を持つ者は数人いた。
 例えば、カナタの隣にいる親子である。
 タイヤキック号に乗っていて、カナタを打ち負かしたあの少年とその母親である。

「ともかく、ここから出ないと!!」

 カナタはニョロゾを繰り出すが、少年……カツキが肩を掴んで止めた。

「無駄っしょ。第一どこに攻撃を仕掛けるっていうっしょ?」
「うるさい!どこでもいいからやってみないとわからないだろ!」
「手当たりしだいの攻撃なら、アイがやったから無駄よ」

 カツキの母、アイがため息を混じりにそういう。

「そう。手当たり次第にやっても無理なことだ」

 ふと、一人の男がこの場に現れる。
 Yシャツ姿の割とカッコイイ中年男性だ。

「この現象は、シンオウ伝説にある空間を司るポケモン……パルキアが関わっていると思われる。そして、原因はそれだけじゃない」
「何者だ?」
「自分の名前はシンイチ。最高の小説家だ」

 そういって、シンイチという男は、大き目のハイキング用のバッグを降ろして、その中からずらっと本を並べ始めた。

「書いた小説は数知れず。しかし、ベストセラーになった本は片方の指で数えるほどしかない。その中でお勧めはこれだ」

 シンイチは小説を読み始める。

「ある時、2人の少年と1人の少女が旅をしていた。少年の名前はトキとモト。少女の名前はユキといった。トキはユキのことが好きだった、しかし、モトはトキのことが好きだった」
「BL小説かよ!?」

 カナタはツッコミを入れるが、シンイチは首を振る。

「そして、モトはトキに性転換のクスリを飲ませた。すると、トキはかわいい女の子になった。そして、モトは、おもむろにトキをベッドに……―――」

 ―――っと、シンイチは読み進めようとしたが、途中でゴツンと拳骨が入った。

「子供の教育に悪いからストップよ!!」

 アイがシンイチを止めたのだった。

「ところで、原因はそれだけじゃないというのはどういうことなの?」
「ああ、そうだったね。実はこの空間はパルキアが作り出したものであるんだけど、もう1つ、幻覚も作用しているんだ」
「幻覚?」
「それもパルキアの仕業っしょ?」
「いいや、この力は魔法……すなわち魔術に近い。正確には幻術と言うべきだね」

 そして、シンイチは断言する。

「この虚数の空間を内側から破ることは不可能。つまり、実際のヒウンシティにいる人間が、幻術者を倒さないかぎり、自分たちはずっとこの場に閉じ込められたままというわけだ」
「……お姉様……」

 シンイチの話を聞いて、カナタは自分の尊敬する人の顔を思い浮かべるのだった。



 誰もいないストリートをただ一人駆け抜ける。
 メガネをかけ、地味なワイシャツを着たその中年男性は、大きく息を切らし、汗だくだった。

―――「ここは俺に任せておけって。ジュンキは俺のサポートを頼むぜ」―――
「兄貴……」
―――「だってー、いつもジュンちゃんのプリンがおいしそうなんだもん」―――
「ミナミ……」

 思い出すのは若い頃に共にチームを組んだ2人の男女。
 その2人の触れ合いの日々が彼の支えだった。

「(俺は……やってやる……やってやるぞ……!)」

 ザッ

「!」

 その彼の前に立ったのは、一人の女性だった。
 モンスターボールからリザードンを繰り出して、すぐに攻撃を仕掛けてきた。
 大きな“大”の字は、炎系の大技である『大文字』である。
 彼は一匹のポケモンを繰り出して、その大文字を軽くかき消した。
 硬き甲羅を持ったそのポケモンは、ツボツボである。

「この一撃を簡単に防ぐとは……やるやんね……!」

 青いボブヘアーに白のジーパンの巨乳の女性は、リザードンの首に手を置いて、じっと相手を見ていた。

「……お前はユミか……」
「ん?ウチのことを知っているやん?……ってそうやんね。元SHOP-GEARのメンバーやんね」
「……そう。そして、ミナミの娘だろ」
「……! そうやん。でも、それがどうしたやん?」

 若干、ユミの声がこわばった。

「あんた、“あの人”とどういう知り合いやん!?」
「チームだ。今ではそんな繋がりなんて、もう無いけどな。そう……すべて無いんだ!!」

 ジュンキはツボツボの他にもう一匹のポケモンを繰り出す。
 包帯をぐるぐる巻きにした忍びの様なポケモン、アギルダーだった。

「リザードン!!『竜の舞』!」

 力を溜めて、迎え撃とうとするが、アギルダーの素早さに反応できない。
 後ろから蹴り飛ばされてバランスを崩されたり、気合玉で腹部に衝撃を受けたりとダメージが蓄積されていく。

「(……っ!速いやん!……リザードンのままじゃやられてしまうやん。でも他にアギルダーに対抗できるポケモンは……)」

 アギルダーがユミの正面に立ち、『虫のさざめき』を放つ。
 咄嗟の反応で地面に這いつくばって、攻撃をかわす。
 このときを狙うしかなかった。
 モンスターボールを投げて繰り出す指示は『不意打ち』だった。

「ブラッキー!!」

 ドゴッ!!

 大きな音がした。
 ダメージの音のように思えたが、実際はブラッキーが弾き飛ばされた音だった。
 ツボツボが回転攻撃のように跳んできて、弾いたのだ。

「……前方は虎、後方は狼……みたいな気分やん」

 スピードと防御。
 二つのトップクラスの能力を持ったポケモンがユミたちを襲う。
 ブラッキーが『悪の波動』でアギルダーに仕掛けるも、簡単に避けられてしまう。
 リザードンの『ブラストバーン』も、ツボツボに効果は得られなかった。
 
「くたばれ、『インセクトスラッシュ』」
「っ!!」

 アギルダーの右手が緑色に光る。
 この手に触れるのは不味いとそう悟って、ブラッキーには回避の指示を出した。
 しかし、狙ったのはブラッキーではなく、ユミ自身であった。

 ズバッ!!

「ブラッキー!?」

 トレーナーを狙うことを見越していた相棒のブラッキーは、すかさずユミの目の前に飛びついて、代わりに攻撃を受けた。
 急所に一撃を受けて、ブラッキーは気絶してしまった。

「さぁ、次はリザードンもろとも……」
「『ハイドロポンプ』!!」

 ドゴッ!!

 アギルダーに強力な水流が決まった。
 そして、路地裏へと吹っ飛ばされていった。

「様子見はここまでやん!一気に攻めるやん!」
「今まで手加減していたって言うのか?調子に乗るなよ!」

 新たにジュンキは鍬形ポケモンのカイロスを繰り出してきた。
 対するユミはアリゲイツでカイロスと取っ組み合いを始める。

「……!」

 ジリジリと押し始めたカイロス。
 アリゲイツも懇親の力を込めて押し返す。

「アリゲイツ、『ばかぢから』やん!」
「力の差は歴然だ!『バックドロップ』!!」

 フッとカイロスが力を抜き、アリゲイツがカイロスのはさみに捕らえられ、押し込もうとする力を利用されて、そのまま地面へと叩きつけられた。
 一転二転と転がって、アリゲイツは大きく体力を消耗してしまった。

「『バブル光線』!!」

 反撃として数十もの泡攻撃を繰り出す。

「カイロス!ツボツボと共に攻めろ」

 ジュンキの指示にツボツボを持って攻め入るカイロス。
 バブル光線をツボツボを盾にして、無傷で防いだ。
 その防御にあっけに取られたアリゲイツは、バブル光線を中断してしまう。

「……アリゲイツ!『守る』!!」
「遅い」

 ドガッ!!

 カイロスはツボツボを投げ飛ばして、アリゲイツを怯ませた。
 そして、そのままシザークロスをアリゲイツに叩き込んで撃破した。

「同じ歳だったミナミと比べたら充分強いが、今の俺と比べたら経験が違う。本気で勝てるとでも思ったのか?」
「思っているやん」

 そのユミの言葉に、リザードンの尻尾の炎が反応した。

「カイロスとツボツボがコンビで攻めてくるところを待っていたやん」
「何?」
「リザードン、『ヘルファイヤー』!!!!」

 リザードンの炎系の究極技と言うのは『ブラストバーン』である。
 しかし、この『ヘルファイヤー』と言う技は、『ブラストバーン』の威力を遙かに凌駕していた。
 リザードンの尻尾の炎は蒼白さを越えて透明になっていた。
 そして、ユミのリザードンが吐き出した炎の色は、現実的には有りえない黒炎だった。
 それも膨大な質量を誇っていた。

「カイロス、ツボツボを盾に―――!!」

 チュド―――――――――オオオオォォォォォンッ!!!!!!!!

 猛烈な爆発音が巻き起こる。
 その爆発でビルの柱を消してしまうほどの威力だった。

「あ……しまったやん」

 そして、柱を1つ失ったビルは、そこからヒビが入っていって、倒壊していってしまったのだった。
 それに巻き込まれたカイロスとツボツボは、流石にダウンするしかなかった。
 というよりも、ダウンで済んでまだよかったのかもしれない。

「どうやん?」

 リザードンはげっそりとして、著しく体力を消耗していた。
 体力をすべて使い果たす技のようだ。

 ゴンッ! ドスッ!!

 リザードンが倒れた。
 それは技による副作用ではない。
 ユミも何が原因か、しっかりと理解していた。

「やっぱり、まだ倒れていなかったやんね」
「知らないフリをしていたのか。意外と隙がないヤツだな。ミナミの子供にしては」

 ジュンキの前に再び現れたのはリザードンを小突いて倒したアギルダーだった。

「さっきアリゲイツが倒したのは、身代わりだってわかっていたやん」
「…………」

 アギルダーは手からエネルギー弾を作り出してユミに向けて放った。

「どうしてSHOP-GEARの仲間だったって言う人がヒウンシティをこんなことにするやん!?」
「SHOP-GEAR……懐かしいな。しかし、その中で俺をメンバーとして把握していたのは2人だけだ。それに俺もその2人しか信用していなかった」

 ジュンキは叫ぶ。

「いや、初めは信用していた。だが、いつまで経っても俺を頭数に入れるのは忘れやがる。2人がいなくなってからは尚更だ!俺は自分が自分であることの証明がしたかった。居場所が欲しかった。そのためにSHOP-GEARを離れた。案の定、誰も俺のことを案じてくれるヤツはいなかった。悔しくて仕方がなかった。そこで声をかけてくれたのが、元ロケット団のあの女だ」
「元ロケット団の女?」
「あいつが空間と存在感について研究をしていると聞いて、俺は協力することを決めた。この研究が成功すれば、俺の存在感は一気に上がるッ!!」

 アギルダーが足払いでユミを転ばした。

「だから、邪魔をするな。俺の存在の証明の邪魔をするなッ!!」
「そんなことはできないやん」

 ドゴッ!!

 アギルダーが吹き飛ばされた。

「あんたの言いたいことはわかるやん。でも、そんな自己的な発想は認められないやん!ウチがまとめて止めてやるやん!イーブイ!」

 ドスンッ!!

 アイアンテールで追撃に入るが、アギルダーは持ち前のスピードで呆気なく回避した。

「その程度のスピードで、勝てると思うなっ!」

 ブラッキーを倒した緑色の光を放つアギルダー。
 一閃で襲い掛かる。

「『インセクトスラッシュ』!!」
「イーブイ!!」

 ズドォンッ!!!!

 吹っ飛ばされたのはアギルダーだった。
 そして、遅れて3秒後に、ジュンキも吹っ飛んだ。

「……な……? 何が……!? イーブイが……テレポートした……のか!?」
「残念ながら、外れやん!イーブイ、止めの―――」

 飛び上がって、ダメージを追って動けないアギルダーへ向かって降下した。

「―――『リーフブレード』!!」 

 ドゴォンッ!!!!

 アギルダーを中心とし、コンクリートの破片が飛び散ったのだった。



「幻想を真実に変える……。それが実現すると思ったら、思わぬ障害が現れたわね」

 北地区3-5。
 もっと詳しく言えば、その場所の地下3階。
 部屋の外装といえば、それほど華美なものではないが、女性らしさと気品があった。

「フッ、俺の作戦のため、お前はんには倒れてもらいまんがな!」
「私を敗れると思って?」

 そういうと、妙齢の女性はオドシシを繰り出す。
 一方のビリーもピクシーで攻撃を仕掛けていた。

「私のポケモンに攻撃は当たらないわよ」

 ズドンッ!!

「っ!?」

 女性の自信たっぷりの言葉は、拳の一撃で崩れ去った。

「俺になんかしたか?残念だが、俺には幻覚や催眠なんて通用せぇへん。大人しく倒されるんやな、『幻惑のレイラ』!」
「……! あら、私の通り名を知っているなんて、相当の情報通ね」

 自分の正体が明らかにされても、80代であろうレイラは動じなかった。
 そして、2体のポケモンを追加した。

「(キュウコンとゴチルゼル……炎とエスパーやな)」

 9本の尻尾を持った長寿といわれるポケモンと、ゴスロリのドレスを着たようなポケモン。
 いずれもレイラの幻術の力を持った強力なポケモンであることには違いなかった。

「ランクルス、『ピヨピヨパンチ』!!」

 ところが、ビリーはランクルスに神秘の守りを張り巡らせると、戦いを有利に進めていった。

「まさか、幻術も催眠術もすべて防がれるとは……やるじゃないの」

 キュウコンの状態異常攻撃もゴチルゼルの幻覚攻撃もすべてビリーには通用しない。
 対してピクシーの遠距離攻撃とランクルスのエスパー攻撃が効果的に決まり、レイラを追い詰める。
 だが、ペロリとレイラは舌なめずりをし、余裕の表情を浮かべていた。

「でも、圧倒的な力の前ではどうかしら?」

 右手にどこからともなく取ったハイパーボールがあった。

「何を出しても無駄やでぇ!」

 キュウコンとゴチルゼルをランクルスが蹴散らし、ピクシーがレイラに向かって特攻する。

 ドスンッ!!

「っ!?」

 レイラが出したポケモンの足に押しつぶされたピクシー。
 地面に押し付けられて、動くことを許されなかった。

「このポケモンは……なんや!?」
「イッシュ地方の人には知らないかもね。このポケモンはシンオウ地方の時空伝説に名高い空間を司る神のポケモン―――パルキアよ」
「神ポケモン……!? ランクルス、『サイコキネシス』!!」
「『亜空切断』」

 パルキアはブオンッと巨大な腕を振ると、空間が裂ける。
 ランクルスの超念動攻撃をいとも簡単に切り裂いてしまった。

「それなら、『ピヨピヨ――― 「『ドラゴンクロー』」

 ランクルスの拳より速く、パルキアが爪を叩き込んだ。
 これにより、あっという間にビリーは追い詰められた。

「くっ……何やっていうんや……このポケモン……」
「力の差が出たようね」

 じぃっとレイラはビリーを無表情で見ていた。

「キミがどんな方法を使って私の幻を破っているかは知らないけど、この神の力を破るだけの力はないようね」

 ドゴッ!!

「ぐふっ!!」

 次のポケモンを取り出そうとするビリーにパルキアが水攻撃で吹っ飛ばす。
 壁に打ち付けられて、気を失いそうになる。

「新しい空間……新しい世界。それは、未来にとって必要なこと。世界では人間とポケモンが増殖を続けている。いつかはこのヒウンシティのように人やポケモンで溢れかえり、やがては住む場所や食料をなくし、世界は争いを激化させる。そのために新しい土地を作る実験は必要なことなのよ」

 パルキアが止めを刺そうと、大きく腕を振りかざした。
 再び『亜空切断』を放ったのだ。
 だが、

「確かに立派な考えよ」

 『亜空切断』は見えない壁に阻まれて消滅した。
 その見えない壁も砕け散って消滅したが。

「……亜空切断を防ぐとは……キミが例のアキャナインね」

 攻撃を防いだチルタリスの隣にいるのは、ミッドブルーの髪の少女だった。

「さ、サクノはん……?」
「ビリー、後は私に任せて」

 笑顔をビリーに向けた後、凛とした表情をレイラに向ける。
 彼女の後ろから、ワルビアルが顔を出して、ビリーの元へと戻った。

「キミも未来を壊すために立ちはだかるのかしら?」
「あなたは未来の為にやっていると言っているけど、そんなの独りよがりよ。その独りよがりの為に、知らずのうちにヒウンシティの人々が不幸になろうとしている。その不幸を、私の思いで貫いて変えてみせる!」
「それなら止めてみなさい」
「ファイ!」

 威圧感と共にパルキアが亜空切断を放つ。
 だが、サクノの掛け声と共に、チルタリスは神秘的な色の壁をベールを展開させる。
 伝説的な一撃を持つその攻撃を真正面から受け止めてみせた。
 それは、偶然でもマグレでもなかった。

「……やるじゃない」

 攻撃を防いだ後、チルタリスが緑色の炎を放つ。
 『竜の息吹』というドラゴン攻撃だが、パルキアは攻撃を受け止めた。
 ダメージは少量で、それほど対した影響はなかったが、チルタリスは連続で5連射で放った。

「無駄よ。『ドラゴンクロー』」

 爪で攻撃を次々と弾いていく。
 全力でやれば、パルキアが被弾することはなかった。
 だが、チルタリスの攻撃はそれで終わりではなかった。

「……!」

 天空から降り注ぐのは、複数の隕石のような攻撃だった。

 ズドドドドドドッ!!

「『流星群』よ」

 その技の影響でビルの壁に穴が開けて光が差した。
 その光がサクノとチルタリスを照らしつける。

「ふふ……力は上のようね。でも……この程度で負けるわけには行かないのよね」

 闇の中でレイラは、もう一匹ポケモンを繰り出した。

「(禍々しいシャンデリアみたいなポケモン……一体、どんな攻撃を……?)」

 ゴースト炎タイプであるシャンデラである。
 周りに紫色の炎を撒き散らしていく。

「これで、キミの攻撃はすべて意味を成さないわよ」
「……? 『竜の波動』!」

 ドラゴンタイプの水色の波動攻撃を真っ直ぐ撃つ。
 しかし、まっすぐ放った波動がサクノには、蛇行して進み、最終的には消えていったように見えた。

「(……こんなことって……?)」

 目を擦って、もう一度、水色の波動攻撃を指示するが、結果は同じだった。
 どうしても真っ直ぐに飛ばず、レイラにもシャンデラにも当たらなかった。

「『大文字』!」

 代わりにシャンデラが居る90度の方向から、巨大な大の字の炎が飛んで来た。
 サクノが反応してチルタリスにそちらの方向を向かせるが、チルタリスの後ろから攻撃が命中した。

「っ……!? (後ろから……?ってことは、もしかして、幻を見せられている?それなら……) エンプ!」

 ルカリオが目をつぶって出てきた。

「無駄よ」

 再び大文字が飛んで来た。
 しかも、今度は3つ連続で飛んで来ていた。

「『波動弾』!!」

 大文字に波動弾が当たったように見えた。
 だが、3つの大文字がポケモンに命中した。

「きゃあぁっ!」

 爆発し吹き飛ばされるサクノたち。
 チルタリスが防御を取ったおかげで、皆ダウンせずにいたが、まったくの無傷ではない。

「(ルカリオの波動でも……幻覚を破れない!?)」

 サクノの目にはゆらゆらと紫色の炎が自分たちを包囲し、さらに十数体のシャンデラがこちらを狙ってきているように見えていた。
 どちらから攻撃してくるかわからず、サクノの額から一筋の汗が流れる。

「さぁ、幻の空間で彷徨い続けなさい」

 レイラは勝利を確信した。

「オイ、俺を忘れないでくれや」

 ドガッ!!

 砂を纏った一撃だった。
 シャンデラがそれで吹き飛んだのだ。

「っ!」
「俺に幻は効かないって言うたやろ!」

 ワルビアルの砂を纏った一撃の『サンドクロー』がシャンデラの顔面を打っ飛ばす。

「やってくれたわね。パルキア」

 ハイドロポンプ級の水系技の威力をワルビアルが受け止めようとするが、いかんせん弱点であり、吹っ飛ばされてしまい、一撃でダウンしてしまう。

「ビリー、あなたがくれたチャンス、無駄にしないわ」

 シャンデラがダメージを受けた影響で、サクノに見えていた十数のシャンデラが1つに絞られた。
 同時にサクノの気持ちとシンクロしていたルカリオが動き出していた。
 腰の骨製の剣を抜いて接近する。

「っ……!『大文字』!!」

 焦ったレイラが近づかせまいと炎攻撃を指示する。
 しかし、ルカリオが輝きを放った剣を振るい、大文字をさっくりと真っ二つに切り裂いた。
 そのままの勢いでシャンデラに一撃を叩き込もうとする。

「そのまま『ボーンラッシュ』!!」

 『聖なる剣』の輝きを放った状態での太刀が見えない3連剣撃。
 シャンデラはそのまま地面に墜ちた。

「それなら、パルキア!最大の力で押しつぶしなさい!『亜空切断』!!」

 ワルビアルを倒したパルキアが雄叫びを上げて、数秒の時間を有した後、腕を振るった。

 ドゴッ!!

 攻撃を受け止めたのは、サクノのルカリオの剣だった。
 しかし、徐々に威力で押されていった。

「ファイ、構えて」

 コクリとチルタリスは頷く。
 翼を広げて、力を溜めていった。

「エンプ、かち上げて!『Soul Blade』!!」

 サクノの呼びかけにより、ルカリオの剣が闘気のオーラを帯びる。
 そして、亜空切断を放ったパルキアの腕を上方へ打ち上げた。

「……な!!」
「あの一撃を流したやて!?」

 ルカリオの一撃によりパルキアは完全な無防備になった。

「ファイ、『God Bird』!!」

 今まで溜めていた、力を放出するのと同時に、パルキアへと突撃した。

 ドゴォォォォッ!!!!!!!!

 パルキアは腹部をタックルされて、徐々に押されていく。
 しかし、そこは伝説のポケモン。
 無防備であったにもかかわらず、脚力の力だけで攻撃を踏ん張っていたのだ。

「その強烈な『ゴッドバード』の威力が途切れた時が、チルタリスの最後よ」

 レイラの言葉と同時に、一瞬意識が飛んだパルキアが、気を取り直して『亜空切断』の溜めに入った。
 だが、その『亜空切断』が放たれることはなかった。

「ファイ、『Extra boost』!!」

 チルタリスの力が倍増した。
 力だけではなく、速度も上がったのである。
 すなわち、チルタリスの『God Bird』の威力は倍以上に跳ね上がった。
 そして、チルタリスとパルキアの勝敗は決した。
 パルキアは壁をぶち抜かれて、外で気絶した。
 反撃しようとしたレイラだったが、ビリーが体を取り押さえたのだ。

「……私の命運もここまでってことね……」



「この事件は、恐らくヒウンシティの街人には記憶にない事件になるだろう」

 ヒウンシティの一角である広場の公園。
 そこで大き目のハイキング用のバッグを持った長身で青いYシャツを着た男は、腕を組んでそう話す。

「これだけの騒ぎがあっても、何もなかったことになるってことっしょ?」
「アイたちを異空間に閉じ込めておいて、犯人たちは何も罰せられないなんて、どういうことなのよ!」

 疑問を持って、男に詰め寄る少年と子供のような母親。

「しかし、彼―――シンイチくんの言うとおりだろうね」

 アイとカツキの家族である彼がふとつぶやく。

「カツトシ……どういうことよ」
「誰も認識していない。つまりは警察も消防もジムリーダーも、この事件は起こってもいることを知らなかったんだ。まあ、損害はビルの一部が崩壊したっていうのがあったけど。結果を見れば、誰も傷ついていない」
「ん~、確かに」

 母親は可愛らしい声で頷く。

「そうね。この話は終わり!さぁ、カツキ、あなた、存分に旅行を楽しむわよ♪」
「いつものごとく、母さんは切り替えが速いっしょ」

 そうして、3人の親子は街中へと消えていった。

「記憶にない事件……か」

 サラリーマンがせかせかと歩く雑踏の中で呟く。

「きっと、実際にはその様な事件が手の平では数えられないほどあるんだろうな。まぁ、自分には知る由もないことだけど」

 右耳に掛けていたペンを持って、くるりとペン回しを始める。
 俊敏なる回転に、誰もが目を奪われるほどだった。
 ふと、足を止めて、シンイチは北の方角を向く。

「誇り高き女教皇<アキャナインレディ>のサクノ。彼女はきっと父親と同じ運命に巻き込まれるんだろうな」



「で。お姉様。こいつは何だ?」
「ん?ビリーだけど、それがどうしたの?」

 両手にヒウンシティの名物であるヒウンアイスを持って満足そうに味わっているのは、ヒウンシティのゴースト化事件をさっくり解決したサクノ。
 今は停めているバイクのサドルに腰をかけていた。
 その対面にいるのが、どこか不満そうに隣の頭が悪そうな男を見るサクノの妹分であるカナタだった。

「ワイはサクノはんに惚れたんやー。もう骨抜きにするところか、サクノはんの強さに骨抜きにされてもうたでぇー!」
「だって」

 ビリーの口説き言葉の真意を特に理解していないサクノ。
 理解していない上で、普通の笑顔でカナタに微笑みかける。

「…………」

 カナタはかなり気に入らなかった。

「そんなわけで、ワイもあんさんたちについていくで!女の子二人の旅やなんて、ちょっと物騒さかいな」
「そんな口実でお姉様が一緒に旅をすると思ったら――― 「そうね。一緒に旅をしましょう。人数は多いほうが楽しいからね」

 カナタの表情が「えー、お姉様ぁ……」と不満を漏らしていた。
 だが、口に出しては言わない。
 あくまでカナタはサクノの意見を尊重する。

「さて、アイスも食べ終えたし、行きましょうか」

 と、サクノは前方を見て、あるものに釘付けになった。

「ん?どうかしました?」

 カナタはサクノの視線の先を見る。
 すると、そこには背中がもっこもっこの可愛らしいポケモンの姿があった。

「あれは、エルフーンさかい」
「エルフーン?」
「草ポケモンで少々クセがあるポケモンや」
「か、かわいい。(じゅるり)」
「お姉様?」
「エルフーン!私に捕まりなさい!」

 大型バイクに乗って、エルフーンを追い回すサクノ。

「さ、サクノはん、可愛いものに目がないんやな」
「でも、お姉様の可愛いの基準がわからないんだよな。ライチュウはわかるんだけど、ルカリオとかウインディとか挙句の果てに、テッカニンが可愛いといわれるとどう反応すればいいか……」
「せ、せやな……」

 半狂乱でエルフーンを全力でバイクに乗って追い回すサクノと涙目で逃げ続けるエルフーン。
 カナタとビリーは、同じ気持ちでサクノを見守っていたのだった。



 ……彼らは一体どうなったかというと……



「…………」

 影の薄い中年男……ジュンキは町の雑踏を歩いていた。
 そして、再び自分を打ち負かした年頃の女性に会った。

「どうして、俺を見逃した?」
「シンイチが言っていたやん。この事件は誰にも触れることはできない事件だったって。あなたは別に捕まる必要はないやん。ただ、ウチは自分の行ったことをあなたに見つめなおして欲しいやん」

 鼻でふんっと一蹴するジュンキ。

「それより、お前。俺を倒した時のあのイーブイの力……一体なんだっていうんだ?」
「あ、アレのことやん?」

 人差し指でクルクルと円を描きながら、ユミは説明を始める。

「ウチのイーブイは、ちょっと特殊で、親の技や体質が受け継がれているやん。だから、イーブイの内に『ボルトチェンジ』や『リーフブレード』が使えるやん。他には『悪の波動』や『ものまね』も使えるやん」
「チッ……その存在は反則だろ」

 舌打ちするジュンキ。
 そんなジュンキをユミはじっと見ていた。

「なんだよ?」
「ジュンキ……さん。SHOP-GEARに戻ってくる気はないやん?……できれば、小さい頃の“あの人”のこととか教えて欲しいやん」

 最後のほうはジュンキの耳に入るかはいらないか位のボリュームになるユミの声。
 ジュンキの返答は一言だった。

「今更、SHOP-GEARに思い出なんか……ないな」

 そして、雑踏に消えていくジュンキ。
 透明人間になったように、ジュンキの気配はまったく感じられなくなった。

「そう……残念……やん」

 決別を表すように、ユミも振り向かずにその場を後にしたのだった。



 今後、ジュンキがSHOP-GEARの前に立ちふさがることも仲間になることもなかったという。



 第四幕 Episode D&J
 誰もいないヒウンシティ(後編) P50 夏 終わり


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2016-01-16 (土) 12:22:49
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.