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たった一つの行路 №279

/たった一つの行路 №279

 先に仕掛けたのはサクノのほうだ。
 モンスターボールを落として、宿木の種を指示する。
 繰り出したのはエルフーン。
 そして、その特性は『いたずらごころ』。
 変化球の技を先制攻撃で当てることができる特性だ。

「効かん」

 しかしながら、シファーのポケモンは、迷わずに突っ込んできた。
 宿木の種がまったく効果が無かった。
 それもそのはず。
 シファーの出してきたポケモンは、草ポケモンであり、宿木の種は効かないのだ。

「やれ、ジュカイン」

 ドガ!

 先制攻撃を受けて、エルフーンはゴロゴロと転がっていく。
 それに追い討ちをかけるように、リーフブレードを展開した。

「ラック、『コットンガード』!」
「切り裂け」

 ふわふわの身体を使って防御力を固めるコットンガード。
 特性の力を持ってさえすれば、相手よりも早く動ける。
 作戦は、成功していた。
 だが、

 ズバッ!!

「……!」

 ジュカインの黒いリーフブレードがその防御を上回ったのだ。

「こんなものか……アキャナイン。そろそろ主力のポケモンを出せ。さもなくば、一瞬で消す」

 ドスの含んだ老人の声にただならぬ殺気を感じる。
 サクノが次に繰り出したのは、フローゼルだ。

「『ソニックブーム』!!」

 音波を飛ばし、ジュカインに攻撃を仕掛ける。
 だが、当然その様な単調な攻撃は避けられる。
 ジュカインは再び黒いリーフブレードを展開し、フローゼルの顔面目掛けて振るった。

「そのくらい……!!」

 仰け反ってフローゼルは攻撃を回避した。
 そして、牽制の意味で口から冷凍ビームを吐き出した。
 ジュカインが引いたために当たらなかったが、その間にフローゼルは体勢を立て直して、高速移動に入った。

「高速移動からの狙い撃ちか?だが、こいつも高速移動を使える」

 ジュカインも同等のスピードで動き、フローゼルと互角の攻め合いをする。
 いや、互角だったのはスピードだけだった。
 そのことは、両者共にわかっていた。

「ジャック!『Archer』!!」

 はたりとフローゼルは移動するのをやめた。
 足を踏ん張って、まるで弓を構えるかのように左手を前に出し、右手を引く。

「Shoot!!」
「『リーフストーム』!!」

 フローゼルが右手を瞬時に前へ突き出す。
 とは説明するものの、実際にはそんな動作はまったく見えない。
 コンマ何秒足らずで拳を前に突き出し、すぐにその拳は元の位置に戻る。
 フローゼルのこの一撃で飛ばすのは拳圧。
 さらにかまいたちなどの風、水の波動などの水……の属性を乗せることができる。
 すなわち、この一撃がフローゼルの必殺技である。
 だが……

 ズドォンッ!!

 その一撃は、ジュカインのリーフストームによって相殺されてしまった。
 水と風が弾き飛び、前方を確認することを困難とさせる状態へと変化させる。

「(畳み掛ける)」

 優勢だと判断したシファーは、ジュカインに前進を指示。
 ところが、それは間違いだと次の瞬間気づかされることになる。

 ズドォッ!!

 ジュカインを遙かに凌ぐスピードのポケモンがジュカインを吹っ飛ばしたのだ。
 風が収まり、シファーの目に腰に骨をぶら下げた一匹の二足歩行のポケモンの姿が映った。

「……ルカリオ……『Soul Blade』か……だが、神速を使ったにしては、速い……。…………。なるほどフローゼルのバトンタッチか」

 独り言で話を解決させるシファー。
 その間に、ルカリオが『波動弾』でジュカインに止めを刺した。

「ラグラージ」

 新たに出したポケモンが地面を叩き、ボコボコと衝撃波を飛ばしていく。
 『だいちのちから』だ。

「エンプ!」

 ルカリオはサクノの指示で避けると同時に前に出て、腰に装備していた骨を抜いた。

「来い。Soul Blade。貴様の剣などへし折ってやる」
「エンプの剣はそう簡単には折れないわよ」

 ラグラージの拳に纏う黒い水。
 それに向かって、ルカリオは右手で骨を振り下ろした。

 バキッ!!

「……!」

 サクノは意外そうな顔をする。

「呆気なかったな」

 逆にシファーはニヤリと笑みを浮かべた。

「“Soul Blade”なんて、たいそうな技名かと思えば、ただの『骨棍棒』ではないか。拍子抜けを通り抜けて笑ってしまうわ」
「拍子抜けてもらって結構。剣が折れたのは意外だったけど、私がエンプに指示した技は、ただの『骨棍棒』よ」
「何?」
「そして……これが……」

 ルカリオの左手に波動の力で作った剣が生まれる。
 それを振りかざして、ラグラージを切りつけようとする。
 流石に真正面からの攻撃では、同じように黒い水の拳で受け止められてしまう。
 だが、今度は折れなかった。
 そのまま、ラグラージを吹っ飛ばした。

「クックック……中々の威力だが、『アクアパンチ』に防がれる程度のレベルじゃ、まだまだってところ……」
「……これが……『聖なる剣』よ」
「…………は?」
「最後に、これが……」

 ルカリオが右手に持った折れた骨の剣を両手に持ち直した。
 すると、今までにない凄まじい闘気が骨の剣に宿った。
 これを波動ともいい、闘気とも言う。
 いずれにしても、サクノのルカリオのオリジナルの技だった。

「『Soul Blade』!」
「は、『ハイドロポンプ』!!」

 突撃してくるルカリオに対して、闇の水流を放つ。
 しかし、それが足止めにもならない。
 ましてや、フローゼルの高速移動をバトンタッチで受け継ぎ、スピードが上がっている。
 今のルカリオを止められるポケモンは、探してもなかなか見つかるものではないだろう。

 ズバッ!!!!

 水流も黒い拳もすべてを打ち負かし、ラグラージを地面に這いつくばらせた。
 しかし、ルカリオは肩で息をしていた。

「いいだろう。この私の本気を見せてやろう」

 次の瞬間。
 ルカリオは一撃で倒された。

「……え!?」
「なんや!?」

 サクノとビリーは息を呑んだ。
 とはいえ、サクノにはすでに何が起こったか目の前のことは分析済みである。

「バシャーモ。貴様でこいつら全員、闇に沈めてやろうか」
「ジャック!」

 アクアジェットで先制攻撃を仕掛けるフローゼル。
 ところが、炎を纏った腕で弾かれた。
 決して、威力で負けたわけではない。
 相手が攻撃をいなす技術が上だったのだ。

「『かまいたち』!!」

 風の刃がバシャーモに向かっていくが、先ほどのフローゼルのようにバシャーモは弓のような構えを取る。

「『トリプルダークファイヤー』!」

 風の刃を軽く相殺する闇の炎。
 そんなものが、まだ2つもフローゼルに向かって跳んでくる。
 1つは何とか回避したが、もう1つの方をまともに受けてしまった。

「まさか……サクノはんのルカリオとフローゼルがこんなに呆気なくやられてまうなんて……」

 ビリーは気絶しているカナタを抱えて、隅っこでサクノの戦いに巻き込まれないようにしていた。
 流石のサクノもここまで追い込まれて緊迫しているのではないかとビリーは危惧した。
 しかし、そんなのは彼の杞憂に過ぎなかった。

「レディ!」

 右手のモンスターボールの中から飛び出すイカズチ。

「!!」

 ドガガガッ!!

 三連続の電気を帯びた打撃技に、バシャーモも多少怯んだ。
 そして、そのイカズチはスタッとバシャーモと間合いを取って着地した。

「(さっきフーディンを倒したのもそいつか) 『ダークファイヤー』!」
「レディ!突っ込む!」

 右腕に盾のような黄色いプレートを括りつけたその可愛らしいポケモンはライチュウ。
 黒い炎の塊を回避して、一直線に走っていった。

「『ボルテッカー』!!」

 ズザザザザッ!!!!

 ライチュウの捨て身の一撃がバシャーモを押していく。
 だが、バシャーモが拳に炎を纏って、電気のダメージを遮断している。
 ただバシャーモはライチュウの勢いに負けて、押されているだけである。

 ドゴッ!!

 そして、バシャーモは壁に押しやられた。
 バシャーモの炎のパンチによる防御とライチュウのボルテッカーによる攻防が続く。
 壁があるからもうバシャーモは逃げられないと、サクノは踏んでいた。
 しかし、それがシファーの狙いであった。

「ここまで押しやられたら、足で踏ん張らなくてもいいよな」
「……しまった!レディ!」

 引くように指示を出すが、遅い。

「『ブレイズキック』!!」

 背中をピタリとつけたまま、炎の蹴りをライチュウの腹部に命中させた。
 放物線を描いて、ライチュウは地面にドサリと叩きつけられる。

「『ダークファイヤー』!」
「『10万ボルト』!!」

 両者の攻撃は連続で続く。
 攻めるために出している炎攻撃と、防御の為に出している電気攻撃。
 なんとか、電撃で炎を逸らすのがやっとだった。

「(あっちのほうが攻撃力が高いわ……何とか、懐に入らないと……!) 『エレキボール』!!」

 電気の球を打ち出した。
 単調な攻撃ではあるが、速度はかなりある。
 ダークファイヤーの攻撃を一回止めた。

「『10万ボルト』!!」

 そして、連続攻撃でバシャーモに向かっていく。

「クックック……当たるものか」

 電撃はかわされる。
 しかし、その動きを見越していたサクノとライチュウは、すでに新たな攻撃を構えていた。
 尻尾の先が電気で刃物のように鋭く精錬されていく。

「……!」
「レディ、『Sander Slice』!!」

 バシャーモに向かって突きつける。
 だが、一歩踏み出して、ライチュウに接近する。
 刃の部分を触らずに根元の尻尾の部分を掴んでしまう。

「!!」
「たたきつけろ」

 ズドォンッ!!

 思いっきり岩の地面にたたきつけられた。

「レディ!『10万ボルト』!!」
「もう一回だ!」

 バリバリバリッ!!!! ガガガガガッ!!!!
 
 電撃が命中し、その影響でバシャーモは尻尾から手を放してしまった。
 ライチュウは顔で地面を削るように飛ばされていった。

「クックック……」

 シファーは嘲り笑う。
 隣にはまだ擦り傷ほどしかダメージの負っていないバシャーモが並んでいる。

「誇り高き女教皇<アキャナインレディ>とか呼ばれても、所詮女子供。この闇の力に精通した私に勝てるわけがない」
「…………」
「はっきり言って、実力がこんなものだったとは……失望した。もういいから消え……」

 ドガガガッ!!

「むぅっ!?」

 バシャーモがよろける。
 先手に出したライチュウの電光攻撃である。

「それなら……この一撃を受けてみる!?」

 ライチュウは右手につけていた小手のような黄色いプレートを取り外して真上に投げた。
 このアイテムはいかずちプレートという電気技の威力を高めるための道具である。
 そのアイテムが落ちてくる間に、ライチュウは拳に電気を一点集中させた。

「レディ……」

 ライチュウの目線といかずちプレートとバシャーモが一直線に結ばれる。
 その刹那、

「……Smash!!」

 懇親のかみなりパンチでいかずちプレートを打ち抜いた。
 すると、信じられないほどの密度の超高エネルギーの電気がバシャーモに向かっていった。
 シファーの顔から余裕が消えた。

「バシャーモ!『ダークインパルス』!!!!」

 チュドォォォォォォ――――――――――――――――――ンッ!!!!

 凄まじい爆発がフロア全体に巻き起こった。

「…………」

 サクノは黙って、状況の行く末を守っている。
 その隣でライチュウが息を吐く。
 バシャーモによる打撃攻撃は、間違いなくライチュウの体力を奪っている。

「(この一撃で決まっていなければ…………)」
「クックック……」
「…………」

 薄ら笑いと共にシファーが傷だらけのバシャーモと共に現れた。

「な、なんやて……?サクノはんのライチュウの『Railgun』を受けても、倒れないやと!?」
「正直、危なかったぞ。これが、必殺技の『Railgun』か。ユニークで威力のある攻撃だった」

 バシャーモがダークファイヤーを構える。

「……あの攻撃を防がれるのは、予想外だわ……」

 サクノとライチュウも構えるが、正直、ライチュウでもう勝負になるとは思えなかった。
 少なくとも、ビリーはそう思った。

「これで終わりだ」
「そうだね。これでおしまいにしよう」

 突然、謎の男の声がこのフロアに響いた。

「誰だ!?」

 シファーの驚く声に、全員が謎の男のほうを見る。
 そこに居るのは、小汚い白衣を着た赤い髪で優しそうな表情をした30代後半かそこらに見える男性だった。
 ただし、かなり眠そうにしている。

「新たな敵?」

 ビリーも警戒する。
 しかし、一人だけは首をかしげていた。

「あの人……どこかで見たことある気がする」
「……え。サクノはん、それほんま?」

 その男性はシファーと対峙した。

「調査しようと思ったら、地響きが聞こえて、何事かと思っていたらこんなことだったんだね」
「貴様も私の伝説のポケモンの捕獲を邪魔する気か?」
「……伝説のポケモン? まさか、ウルガモスのことを言っているわけじゃないよね?」
「そんなポケモンではない!イッシュ地方に眠るといわれている電気の竜、ゼクロムのことだ!」
「それなら、ここには居ないよ……ふぁぁぁ……」

 あくびをしながら男性は言う。
 その言葉に、シファーは唖然とする。

「な、何故そんなことが……」
「数十年前に、そんな騒動がここであって、そのときにゼクロムも、そして対を成すレシラムもどこかに消えたって言うし」
「そんな……はずが……あるかーっ!!」

 シファーは怒って、バシャーモで突進してくる。

「『ダークインパルス』!!」
「戦う気はないんだけどなぁ……」

 といって、男性がポケモンを繰り出す。

 ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ!

「……は?」

 ダークインパルスという正体不明のダーク技を、白いオーラが纏った7回のドラゴンクローが打ち消した。
 そして、そのままバシャーモに叩き込んで、あっという間に倒してしまった。
 シファーは唇を噛み締めた。

「打撃技が自慢か!?なら、ゴローニャ!」
「戻って、ガブリアス」
「やれっ!!『ダーク……」

 ガチンッ!!

「シファーって言ったよね。確か、30年前、行方不明になっていたんだよね。一体何があったのかな」

 ゴローニャをトレーナーのシファーごと凍り付けにしてしまった。

「が……はっ……ヤミ……の……チカラ……が……何故……マケル……?」
「……え?」

 シュワシュワとシファーの身体が粒子となって消えていってしまった。
 残ったものは何もなかったという。
 サクノたちが苦戦したシファーという男を謎の研究員があっという間に倒してしまったのだ。

「君達、大丈夫?」
「お、おおきに」

 ビリーとサクノはその男性にお礼を言った。

「ガブリアスにグレイシア……そうか、あなたはエビス博士ね?」
「ふぁ?そうだけど……?」

 自分のことを呼ばれて、目が点になる。

「ううん……あー!?エビス博士!?」

 カナタも今目を覚まして、エビス博士を指差す。

「ふぇ?一体なんなの?」
「ハレおじさんのお父さんだったよな!」
「……ん?ハレを知っているの?」

 そこから、何だかんだで世間話が始まったのだった。



「ここから北へ行けば、ライモンシティだよ」

 エビス博士は、サクノたちを次の町に行きやすいところまで案内してくれた。

「おおきに」
「ありがとな!」
「ありがとうございます」

 気軽にお礼を言うカナタとビリー。
 そして、丁寧にお辞儀をするサクノ。
 エビス博士は、研究の為に古代の城へと戻っていった。

「エビス博士……思っていた以上にやさしい人だったわね。面白い話もたくさん聞けたし」
「正直、もっと抜けた人かと思っていたけど、そうでもなかったみたいだな」

 カナタは笑いながら、ビリーの隣を歩いている。

「しっかし、あのエビス博士って、デタラメな強さやな。何者なんや?」

 サクノが優しい声で言う。

「あの人は、元々ポケモンマスターなの。そして、世界を救った人なの」

 へぇと2人は頷く。

「それにしても、サクノはん、危ないところを助けてくれておおきにな」
「いいえ、2人が無事で何よりよ」
「ほんと、お姉様がいてくれて助かったぜ。ビリーなんかまったく役に立たなくてさ…………って、何?」

 2人が驚いたように自分の顔を見ていることに気付いた。

「ついに、カナタ、俺のことを名前で呼んでくれる様になったんだな!」
「……っ!!」

 カナタははっとして、顔を赤くした。

「う、うるせぇ!」
「やっぱ、カナタ、俺に惚れたな?でも、俺にはサクノはんが……」
「お前はどっか消えろっ!!」

 カナタのビリーに対する暴走が始まったのだった。

「よかったわ。私もこれで安心ね」

 うんうんと、サクノはよくわからない安心の仕方をするのだった。



 ……ところで……



「ムニャムニャ……ママ、もう少しだけ……寝かせ……てよ……」

 砂の上で自分の妻が起こす夢を見ているのか、エビス博士は困ったようや表情で眠っていたという。
 つーか、はたして、調査はしなくてよいのだろうか……?



 たった一つの行路 №279
 第四幕 Episode D&J
 古代の城(後編) P50 立秋 終わり


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Last-modified: 2016-01-13 (水) 22:54:24
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