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たった一つの行路 №273

/たった一つの行路 №273

 ☆エバンスvsカズミ

「僕とバトルしろ」
「いやよ」

 エバンスのバトルを申し込まれたカズミは、そのバトルを断りました。

「理由は簡単。私、あんたに負ける気がしないもの」
「ふざけろよ?こっちは全力のパーティで行ってやるんだ」

 エバンスが出したポケモンを見て、ハレやキトキは目を丸くしました。
 でも、カズミはまったく動じませんでした。

「見たことのないポケモンね。でも、同じことよ」
「同じかどうか、やってみなよ!エンブオー!」

 エンブオーとは、イッシュ地方の初心者用のポケモンの中の一匹であるポカブの最終進化形態でした。
 エバンスは溢れんばかりのパワーを持つエンブオーを駆使して、カズミにバトルを仕掛けました。
 しかし、カズミのバクフーンの力の前になすすべがありませんでした。

「そんなに私に勝ちたいの?それならいいこと教えてあげようか?」

 カズミは三つ編みに星のピンをつけた女の子を連れてきました。
 エバンスを介抱していたエナメルでした。

「この子とホウエン地方を周れば、強くなるかもね!」
「……こいつと?」

 エバンスにじっと値踏みされたかのように見られたエナメルは、おずおずとしていました。

「いいだろう。でも、足手まといになるようなら、置いて行くからな」

 そういって、エバンスは渋々了承して、エナメルと共にキンセツシティからヒマワキタウンに向けて出発しました。



 ☆二重人格の兄と盗っ人妹

 エナメルはコミュニケーションを図ろうと、エバンスに積極的に話しかけていきました。
 積極的にとは言うものの、自信がなさそうにポツポツと心細い声でした。
 しかし、エバンスはそんなエナメルの問いに一言二言で答えて会話を終わらせようとしました。

「ボク……この世界の人じゃないんです」

 エナメルが今の自分の境遇を話したときも同じでした。
 霧のようなものに覆われ、何かに殴られて気絶させられたときには、カラクリ屋敷でキトキに助けられたそうでした。

「あっそ」

 関心がなく、進んでいきました。
 数時間後、前方から砂煙が巻き起こりました。

「な……なんですか?」

 エナメルは前方をじっくりと見ました。
 すると、赤い短めの髪のエバンスと同じくらいの歳の男とピンク色のショートカットの女の子が走ってきました。
 銀色の翼を持った鳥ポケモンの大群に追い回されているようでした。

「え、エアームドがあんなに!?エバンスさん、に……逃げましょう?」

 エバンスはエナメルの言葉を鼻で笑い飛ばしました。

「あの程度のポケモンくらいなら、退けられるだろ。行くぞ、エンブオー」

 腰からモンスターボールを取り、エンブオーが入ったボールを投げました。
 いいえ、投げたはずでした。

「……あれ?」

 確かに投げたと思っていたモンスターボールは、どこかに消えてしまっていました。

「エンブオー……?珍しいポケモンですぅ」
「何!?」

 モンスターボールを投げようとした時、ちょうど追い回されていた二人組みが通ったのでした。
 そのときに、ピンクの髪の女の子がエバンスのボールを盗ったのでした。

「なっ!?ふざけろ!返せ!」

 その女の子の名前は、チェリーと言いました。
 チェリーはエバンスの手をするりとかわし、エアームドの大群に突っ込んで、消えて行きました。

「な、オイ、待て、チェリー!また人の物を盗むなよ!」

 そのチェリーの連れは、チェリーの兄でクレナイと言いました。

「ちっ!ラグラージ!」

 水系の攻撃でエアームドを押しのけて、エバンスはチェリーを追いかけました。

「あっ、エバンスさん!?」
「あ、オイ!危ないぞ!」

 エナメルとクレナイはエアームドの大群に囲まれて襲われてしまったのでした。



「エンブオー」

 エバンスはチェリーにようやく追いつきました。
 しかし、そこで立ちはだかったのは、自分のポケモンでした。

「襲われるわ、盗まれるわ……正直今日は運がないな。だが……」

 エバンスが取り出したのは、ラグラージとは違うもう一匹の水ポケモンでした。

「お前が僕のポケモンを使うのは、運がいい。ダイケンキ」

 炎の格闘技の合わせ技を繰り出すエンブオーに対して、ダイケンキは竜巻のような渦潮を打ち出して、エンブオーを一撃で倒しました。

「返してもらう」

 相手のポケモンをも操ってしまうチェリーからモンスターボールを取り返して、エバンスはとっとと先へ行ってしまいました。
 その後姿をじっと見ながら、チェリーはエバンスを尾行していったのでした。
 その尾行は小さな村に辿り着いてからも続きました。

「(何がしたいんだ)」

 とっくにその様子にエバンスは気付いていました。
 あえて、放って置いたのでした。

「お前」

 ゆっくりと休んでいるエバンスの前に現れたのは、チェリーの兄であるクレナイでした。

「どうして、仲間のこの子を置いていったんだ?」

 クレナイは優しくエバンスに問いかけました。
 しかし、その表情は少し険しいものでした。
 何故なら、エナメルは傷を負って、クレナイに背負われていたのでした。

「知ったことじゃない。僕はついて来れなければ置いていくって忠告もしたしね」
「ははは……まさか、それ本気で言っている訳じゃないんだろう?」
「僕は冗談が嫌いだよ。エナメル<そいつ>はただオドオドするだけの鬱陶しいヤツ。非常にめんどくさいよ。カズミ<ムカつく女>がそいつといれば強くなるって言ったから渋々同行しているだけだ」
「…………」

 エバンスはCギアからタウンマップを選び出して、目的地を探しました。

「さて、ヒマワキシティへ行くか」

 そのとき、エバンスは頬の骨がきしむのを感じました。
 そして、地面にたたきつけられました。

「ふざけるな」

 クレナイは優しい顔をしていましたが、拳を強く握り締めていました。

「ナイ様!?」

 エバンスに近寄っていくクレナイを止めたのは、尾行していたチェリーでした。

「ナイ様!落ち着いてくださぃ!」
「放せ、チェリー。このゴミクズを踏み潰してやる」

 優しい顔で怖いことを言うクレナイは、誰もが恐怖に感じるはずでした。
 妹のチェリーでさえ、一度キレた兄と話すのに恐怖をしていました。

「いつもの優しいナイ様に戻ってくださいよぉ!」

 羽交い絞めにしようとするチェリーだが、体格差がありすぎました。
 チェリーはあっても140センチで、クレナイは余裕で180センチを越していました。
 つまり、止めようとしているよりも、チェリーがクレナイの背中に乗っかっているようにしか見えませんでした。

「エナメルは、おれの代わりにケガをしたんだ。それどころか、あのエアームドの大群を一人でほとんど倒してしまった」
「(こいつが?)」

 エバンスは殴られる寸前に地面に寝かされたエナメルをじっと見ました。

「お前が強くなれるはずなんてない。強くなるという意味を本当に知らないヤツにはな」
「うるさい」

 エバンスは逆に睨み返しました。

「お前はアレか?一人よりも二人……守るべき者がいるから強くなるとか言っちゃう非科学的論者か?」

 そして、クレナイを逆に見下し返した。

「そんなもの、鬱陶しい。虫唾が走る」

 立ち上がって、タウンマップの通り、先へと進もうとしていきました。

「エバンス……さん……ボクも……ついて行きます」

 ヨロヨロと立ち上がってエナメルは、エバンスの後を追っていこうとしました。

「エナメル!?」
「クレナイさん……いいんです……ボクは……彼を放って置くことはできませんから」
「…………」

 エナメルは少し遅れながら、エバンスの後ろを着いて行ったのでした。
 その様子をクレナイとチェリー兄妹は不安そうに見ていました。



 ☆エナメルと言う女の子

 ホウエン地方は自然に溢れた地方でした。
 エバンスはその自然の力を決して侮っていたわけではありません。
 しかし、それよりもエナメルが付いてくるということが鬱陶しかったのでした。

「ぐっ……しまっ……」
「エバンスさん!?」

 ヒマワキシティへ向かう道で、集中豪雨が起こり、とんでもない土石流が発生しました。
 それでも、エバンスは先に進もうとエナメルの制止を振り切って意地になっていました。
 その結果が、土石流に巻き込まれると言う結果を生み出してしまったのでした。

「(僕の運も……ここまでだと言うのか……)」

 しかし、次にエバンスが目覚めたのは、木で出来た家の中でした。

「気が……付きましたか……?」
「…………」

 目の前にある顔に、無愛想な表情でエバンスは見ました。
 起き上がろうとすることで、あちらこちらに傷の手当を施されているのを知りました。

「どうして助けたんだ?」

 エバンスの問いにエナメルは首を傾げて答えました。

「助け合うのは……当たり前……じゃないですか……?」
「ふん……」

 礼さえも言わずに起き上がるエバンスをエナメルは止めました。

「だが、僕はジム戦に行く。付いてくるんなら勝手について来い。そしてな……」

 エバンスはエナメルの眉間に人差し指をつけて言いました。

「喋るならもっとハッキリと自信を持って喋れ。オドオドされると不愉快だ」
「あ……ええと……」
「返事はハイだ」
「ハイ!」



 ヒマワキシティのジムリーダーはナギという女性で鳥ポケモン使いでした。
 ホウエン地方のジムリーダーを次々一蹴しているエバンスは今回も楽勝だと思われましたが、意外に苦戦していました。

「……運が悪い……」

 ラグラージやポリゴンZの攻撃が当たらず、素早いオオスバメや耐久力のあるチルタリスに翻弄されました。
 最終的にエナメルの助言とダイケンキの力押しでジム戦に勝利することができました。

「エバンスさん、おめでとうございます!」
「ああ。……ああ、それとな、“さん”付けは辞めろ。聞いていると煩わしい」
「ん。そうですか?わかりました、エバンス」

 少しずつ、エバンスはエナメルという存在を認めていったのです。



 ☆エバンスの過去

「後はトウカシティのジムだけだ」

 意気揚々とジムから出た二人の前にエバンスが敵視する女性が現れました。

「カズミさん?どうしたんですか?」
「キトキが水郡に攫われたの!」

 カズミの話によると、キトキと二人で水郡の情報を探って、水郡の隠れアジトを探っていた時に、キトキが捕まってしまったというのでした。
 キトキは連れ去られて、カズミは水郡のメンバーに一人でミナモシティまでくるように言われたのでした。

「それなら、ボクたちも手伝いますよ?」

 と、エナメルは言いました。

「悪いが、お前一人で行けよ?」

 しかし、エバンスはエナメルの言葉を聞いてすぐに西へ向かって歩き出していました。

「どうしてですか……?」
「僕には関係ないことだ」
「あんた……」

 カズミが無関心のエバンスに詰め寄ろうとしましたが、一度深いため息をついてやめました。

「わかったわ。あんたなんかに頼ろうとした私がバカだったわ。キトキは私一人で助ける」



 エバンスには、親が居ながら、一人で生きてきたという過去がありました。
 それはすなわち、親になんとも思われていなかったということでした。
 自分のことは自分でやれと言われ、彼の両親は彼の面倒を見ることを完全に放棄していました。
 そして、彼はこの世界を生きるには自分の力があればよい、自分さえよければいいと思うようになったのでした。



「言いたいことがあるなら言えよ」

 エナメルは引き止めるために腕を掴んだ時、そんな彼の過去を垣間見たのでした。

「本当に助けに行かないのですか?」
「当たり前だ。関係ない。大体、他人を助けて何になる?」
「なんで関係ないと言い切れるんですか?自分さえよければいいんですか?」
「常識だろ」

 エナメルとエバンスの価値観が激突しました。
 二人は自分の意見を出し、激突し、最終的にポケモンバトルまで発展してしまいました。

「エバンス……もっと他の人にも目を向けてくださいよ。そうすれば、もっと別のモノが見えてくるはずですよ」
「…………」
「それが無理なら……ボクに目を向けたっていいんですよ?」

 その言葉を聞いて、ふんっとエバンスは鼻で笑いました。

「何を言ってんだか。まぁいい、お前の強さを近くで見たくなったからな」



 ☆リベンジマッチ

 ミナモシティは大きな町でポケモンコンテストの発祥の街と言われている場所でした。
 その外れの洞窟にカズミは一人潜入していました。
 しかし水郡の包囲網にかかり、カズミは追い込まれてしまいます。

「弾け跳べ」

 カズミがピンチのところで現れたのは、エバンスとエンブオーでした。
 『ヒートスタンプ』で地面を攻撃し、地震と岩雪崩を巻き起こしたのでした。
 カズミはエバンスが助けに来たことに驚きましたが、すぐに順応して下っ端たちを倒していきました。

「よくもやってくれたでゲスね!」
「ひぃぃぃ!」

 カズミとエバンスはキトキが捕まっている幹部タスクの部屋に辿り着きました。

「こいつの命が惜しければ、大人しくするでゲス!」
「くっ……」
「ふん。誰が大人しくするかよ」

 そういって、エバンスは徐々にタスクに近づいていきました。

「来るなでゲス!」

 ちょうどそのとき、タスクの後ろから一匹のカブトプスが急襲して、キトキを助けました。

「なっ!?でゲス」
「さすがエナメル!」
「はぁはぁ……どうなるかと思った……」

 涙目のキトキをカズミが慰めている間に、エバンスとタスクとのバトルが始まりました。

「またやられに来たでゲスね!?」
「二度も同じ相手にはやられないし」

 フローゼルのジェットスピードに対抗するためにエバンスが繰り出したのは、蛇のような草ポケモンでした。

「ジャローダ、『グラスミキサー』!!」
「そ、そのポケモンはなんでゲスか!?」

 知らないポケモンを出されたことによる動揺と改めてエバンスの実力が上がっていたことにより、タスクを撃退することができました。
 その後、カズミとキトキはミナモシティの水郡のアジトを調べるために残り、エバンスとエナメルはトウカシティへと向かって歩き出したのでした。



 ☆サファリゾーン~おくりび山~ラーメン屋台大食いフェスティバル~キンセツシティカジノ

 ミナモシティからトウカシティへ行く途中にもいろいろなことがありました。
 サファリゾーンでは、ハレが女の子を口説いて、デートをしていました。
 数人の女の子達は、ハレの捕獲の腕をみてキャーキャーと黄色い声をあげていました。
 そんなハレは、エナメルにも目をつけて、口説きました。

「えー……どうしようしましょうか、ついて行きましょうか(小声)」
「好きにしろ」

 エバンスの反応を見たエナメルは、少し不機嫌な顔になって、エバンスの背中を突き飛ばしました。

「このエバンスに勝ったら付き合ってあげます」

 もちろんエバンスは、異論を唱えましたが、ハレが容認した上にエバンスは挑発を受けてしまい、結局、捕獲勝負になりました。
 意外にもエバンスは真剣に勝負に取り組みました。
 途中でポケモン泥棒の邪魔が入って混乱しましたが、最終的にはハレが勝利しました。

「エナメルちゃん、行こうか」
「ううん。やっぱり、やめときます」

 しかし、結局、エナメルはハレの誘いを断りました。
 エナメルはエバンスの真剣な姿を見て、自分を取られたくないんだなと思ったのでした。

「あいつには負けたくなかった、それだけだ」

 ところが、サファリゾーンを出た数日後にそんな話を聞いて、エナメルは不機嫌な顔をしたのでした。



 他にもおくりび山でユミが穴を掘って下から現れて、エバンスの急所を攻撃したり、
 エナメルがサユキという女の子と大食い対決をして負けたりしました。



 そして、再び訪れたキンセツシティでエバンスがポーカーで荒稼ぎしているところに驚愕の敵が現れました。

「私とポーカーで張り合うつもりですKA?」

 ドレットヘアの40代半ばの謎の男がエバンスと互角の心理戦を繰り広げました。

「FUFUFU……まぁ、今日のところはこの辺にしておいてあげましょうKA」

 エバンスのカードは7が3枚、4が2枚のフルハウスでした。
 しかし、ドレット男が捨てたカードはキングが4枚のフォーカードでした。

「っ!! あいつ……勝てるとわかっていて、降りたのか?……何者なんだ、あいつ……」

 いずれ、エバンスはこの男と戦うことになると予感していました。



 ☆トウカシティのジムリーダー

「エバンスとエナメルじゃないか」
「また会ったねぇ」

 トウカシティに付いたところで2人が再会したのは、クレナイとチェリー兄妹でした。

「ここのジムリーダーは強いよ。覚悟しておいた方がいいよ」

 エバンスとエナメルが入ると、現れたのはクレーン頭の巨乳の女性でした。

「ようこそ!私、ハルカ!トウカシティのジムリーダーかも!」
「(かもって、どっちだよ)」

 トウカシティのジムリーダーのハルカは、昔はトップコーディネーターを目指していました。
 しかし、ある程度の技量まで達した時、彼女はバトルの腕の方がセンスがあるといわれるようになりました。
 そこで彼女は、今は一線を退いた父のセンリに特訓を受けて、ジムリーダーになったのでした。
 ちなみに、彼女の旦那は、ホウエン地方のトップコーディネーターでした。

「エンブオー、『ヒートスタンプ』」

 実力は互角でした。

「バシャーモ!『スカイアッパー』!」

 フルバトルの末に、ラストの一体は共に最初のパートナー同士のポケモンでした。
 ハイパワーで仕掛けるエンブオーとテクニックで仕掛けるバシャーモの戦いは白熱しました。



「エバンス、おめでとうございます」

 結局、エバンスがハルカの最後のバシャーモを撃破してバッジをゲットしました。

「いずれ、弟と戦うときが来るかもね」
「確か、ホウエン四天王の一人ですよねぇ」

 そのハルカの言葉を聞いて、チェリーが呟きました。

「ホウエン四天王……ホウエン地方にいる最強の4人ですね」
「でも、あなたならうちの生意気の弟を倒してくれるって信じているわ!」

 そのハルカの言葉を聞いて、エバンスとエナメルは船に乗るためにカイナシティへ、異色兄妹はクレナイが最後のバッジをゲットするためにカナズミシティへ向かいました。



 ☆カイナシティの海水浴

 サイユウシティ行きの船に乗るために、エバンスとエナメルはカイナシティに辿り着きました。

「せっかく海に来たのですから、泳ぎたいです」
「好きにすれば?」

 気が進まないようにエバンスは言い放ちました。

「(水着ねぇ)」

 ポーカーフェイスで冷静を振舞っているようですが、内心は少しドキドキしていたようでした。
 とりあえず、エバンスは一人でカイナシティの砂浜にやってきました。
 エナメルは着替えているので、エバンスは一人青いトランクスの海パンを穿いて、歩いていました。
 季節は夏が過ぎて涼しくなりかけた頃だったので、海水浴のピークは過ぎて、人はまばらでした。

「うん?」

 時に、エバンスは日が遮られたのに気付いて、上を見上げました。
 そこには一匹のポケモンが傷ついて落ちてきました。

「やんっ!」
「ぶっ!?」

 落ちてきたのは、一匹のリザードンと赤いビキニでその豊満な胸をエバンスの顔に押し付ける女の子でした。

「やぁん!?また君やん!?」
「……それはこっちのセリフだ……」

 平静を装いながらも、顔が若干赤いエバンスは、ユミと傷ついたリザードンを見て冷静に言葉を発しました。

「ユミ!待てよ!」
「追いかけてこないでやん!」

 続いて現れたのは、エバンスが女垂らしと認識しているハレとそのパートナーであるソルロックでした。
 ため息をついて、またお前かとハレもエバンスも互いに呆れ顔をしていました。

「エバンス!その子をこっちに渡せ!」
「……勝手にすれば?」

 エバンスは腕に掴まれていた手を振りほどこうとしますが、ユミが放しませんでした。

「ウチ、ハレさんと一緒に行くわけには行かないやん!」

 ユミは初心者トレーナーの頃、オーレ地方をハレの付き添いで冒険しました。
 しかし、今冒険しているこのホウエン地方は一人で冒険したいと言いました。
 それにハレは反対しました。
 ユミは黙ってオーレ地方を旅立ち、一人でホウエン地方を周りました。

「要するに、ハレがユミ<従兄弟>が行方不明だと言ったのは、お前の都合ってわけか」

 片手で頭を掻きながら、ため息混じりにエバンスは言ったのでした。

「あっ!」

 新たにその場所に現れたのは、白いビキニにポッチャリとした身体とFカップの胸を持った白髪の女の子……マキナでした。

「(またややこしいヤツが!?)」
「エバンスさん……アスカのことを鬱陶しいなんて言ったのに、他の女の子と寄り添うなんて……」

 今のエバンスの状態はユミがピッタリとくっ付いている状態でした。
 眉間にしわを寄せて、ユミを引き剥がそうとしましたが、願いは叶いませんでした。

「でも、でも……そんなエバンスさんの焦らしプレイは……ゴクリ……それにしても……ハァハァ……逞しいカラダ……ハァハァ……」
「(こいつ……変態か?)」

 惚けているマキナを見て、エバンスは近寄りたくありませんでした。

「あ、ハレ、ユミ、久しぶりだね!それに、マキナとエバンスもいるね」

 更衣室の方から歩いてきた男の子を見て、4人とも“オト”と彼の名前を呼びました。
 オトが現れてからは話がトントン拍子に進みました。
 結果は、ハレがユミを容認して、一人旅を許すことになりました。

「ところで、ハレはユミが好きなのかい?」
「違うしー!」

 オトの質問をハレは笑いながら答えました。
 しかし、すぐにその笑顔は翳りました。

「好きだと言い続けても、叶わないこともあるんだよな」
「ふうん」
「ハァハァ……オトさんも……心の奥底に……危険な味を持って……いそう……ハァハァ……」
「(こいつ……オトも平気なのか?)」

 マキナの行動を見て、ふとエバンスはそう思ったのでした。



「エバンスー」

 一人になったエバンスの元に、身体の線が綺麗なワンピースを着用した女の子が三つ編みを揺らし、星型のピンを光らせて近寄ってきました。

「……エナメル……か」

 一目見ただけで、プイッとエバンスは海を見ました。

「どうしました?もしかして…………」
「もしかして……なんだ?」
「えーと……」
「言えよ」
「じゃあ。……ボクの水着姿を見て、ドキッとしていましたか?」
「してない!」
「…………。即答しなくてもいいじゃないですか」

 エナメルは不服そうに唸っていました。
 さらにエバンスとエナメルの元へ一人の女の子が現れました。

「エバンス……その女の子は何?」
「(マキナがいたということは、やっぱり、こいつもいたか)」

 エバンスに好意を寄せているアスカでした。
 ワンピースでスレンダーな身体の脚線美を見せ付けるようでした。

「誰でもいいだろ、鬱陶しい」
「良くない!そこのあんた、あたしと勝負しなさい!」
「えっ?ボクと!?」
「エナメル、構うな」
「逃がさない!」

 こうして、アスカとエナメルは激突しました。

「ウソ……でしょ……?」

 圧倒的な力で、エナメルがアスカを打ち倒したのでした。
 その強さを目の当たりにしたのは、アスカだけではありませんでした。

「(こいつ……こんなに強かったのか?……今の俺と比べても……明らかに……)」

 エバンスもエナメルの真の強さをこのとき初めて知ったのでした。
 そして、この後、エバンスを更なる焦燥感が襲い掛かることになるのでした。



 たった一つの行路 №273
 第四幕 Episode D&J
 レジェンドシーα<アルファ>② ―――エナメル――― 終わり


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Last-modified: 2016-01-10 (日) 12:50:47
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