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たった一つの行路 №272

/たった一つの行路 №272

 ―――そんな……また……繰り返すの?
 ―――やだ……ボクはもう……誰かを死なせたくないっ!!
 ―――あの人のように……エバンスのように……ボクは……ボクはッ!!


 ……これは、数年前にとある少年がホウエン地方を冒険したときのお話です。



 たった一つの行路 №272



 ☆孤高の賭け師

 カラカラカラと球の加速する音やがやがやと人の話声の聞こえるこの場所はキンセツシティのカジノです。
 昔はゲームコーナーと呼ばれていましたが、ルーレットやブラックジャックなどの要素が入り、多くの人々が出入りするようになってカジノという呼び名に変わりました。
 ここに来るお客は、お金持ちだけでなく、所得の中間層の人たちも入れるくらいのなじみのカジノでした。

“お前ら手を挙げろ!”

 しかし突如、覆面を被った数人の怪しい男達が入ってきました。
 男達はポケモンを繰り出して、お客だけでなく警備員も次々と制圧していきました。

“よし、ズラかるぞ!”

 男達は外へと飛び出していきました。

「おい、お前ら」

 そんな男達の前に現れたのは、クシャッとした束感のある灰色の髪。
 茶色のジャケットに水色のストライプのワイシャツを裾から出している灰色のスラックスの少年でした。
 年齢は17歳くらいでした。

「せっかく、珍しくストレートフラッシュが出てぼろ儲けをしたと思ったら、トイレにいっている間にすべてのお金を奪うなんて、ふざけろよ?」

 彼の名前はエバンスといい、とてもポーカーの大好きな少年でした。

“邪魔をするな!”

 そして、襲い掛かる男達を一匹のポケモン、ラグラージでなぎ倒しました。

「お前らのお金は没収だ」

 そういって、強盗からすべてのお金をエバンスは取り上げたのでした。

“き、貴様……横取りする気……か……!”

 その後、強盗たちは警察に捕まったのでした。



 ☆正義の少年

 エバンスという少年は自己中心的な人間でした。

「あんたはエバンスと言ったな!みんなのお金を返してやれよ!」

 そのエバンスと強盗との戦いを、茶色のラフな短パンで赤くかっこいいプリントシャツの格好をした少年が見ていました。
 彼の名前はケビン。
 ポケモンレンジャーに憧れるポケモントレーナーでした。
 強盗から奪ったお金だから、自分が使ってもいいだろうという勝手な言い分に、正義感を持っていたケビンは許せなかったのです。
 当然、ケビンは必死になって説得しましたが、エバンスは動じませんでした。
 ポケモンバトルになり、2人は戦いました。
 結果はエバンスがラグラージとポリゴンZの2匹で勝利しました。

「そんなに言うなら、返すよ。でも、二度と僕の前には現れないでよ」
「くっ……!」

 スタスタと去るエバンスの後姿を見て、ケビンはもっと強くなることをこのとき誓いました。
 これが、エバンスのライバル、ケビンとの始めての出会いでした。



 ☆カナズミシティにて

 エバンスの目指すはホウエンリーグへの挑戦でした。
 そのために、バッジを8つ集めなくてはなりませんでした。
 すでにトクサネ、ルネ、ムロ、およびキンセツのジムを制して、彼が訪れたのはカナズミシティでした。

「ん?せっかくジム戦をやろうとしたのに、誰か戦っているな」

 自分より幼い黒髪の少年がフシギソウとエルレイドを駆使しつつ、キリッとした凛とした先生のようなジムリーダーとバトルしていました。

「『花びらの舞』」

 バトルは序盤挑戦者が苦しんでいましたが、最終的には逆転してしまいました。
 しっかりと少年はバッジをゲットしていきました。

「君もツツジとバトルするのかい?」

 エバンスの存在に気付いた少年は気安く話しかけてきました。

「そうだけど、何?」
「俺の名前はオト。もし君がよかったら、参考までにバトルを見て行っていいかな?」
「…………。(鬱陶しそうなヤツ……)」

 最初は断りましたが、オトがどうしてもと言うので、結局了承してしまいました。
 エバンスはツツジの得意とする岩ポケモンの『岩石封じ』殺法をラグラージのパワーで粉砕し、見事に勝利しました。

「エバンスは強いんだね」

 オトのペースに乗せられたまま、喫茶店に入り、そのまま時間を潰しました。
 オトはエバンスに矢次に質問しましたが、彼は適当に答えました。

「じゃ、今度会ったらバトルしよう」
「(終始偉そうなヤツだったな)」

 若干、不快に思いながら北へと向かおうとしたエバンスの前に、黄色い髪のロングヘアでレンジ色のリボンをした水色と白のエプロンドレスを着た少女が現れました。
 彼女の名前はミホシといいました。

「さっきからコソコソ俺をつけて何をしているんだ?」
「……違う。君じゃない」

 ボソッとした話方のミホシに眉間にしわを寄せました。

「……私はオトを追ってるの。そんな彼が君に興味を示した。私は君を試す」

 エレキブルとユンゲラーを繰り出しつつ、ミホシは襲ってきました。

「なんだってんだよ!」

 ポリゴンZとスリーパーで相手の攻撃を防いで、エバンスはミホシのトリッキーな攻撃をかわして行きました。

「『水牢』」

 ミホシが新たに出したシャワーズは、エバンスたちを水の中に閉じ込めようとしました。

「ちっ『破壊光線』!!」

 地面に向かって放った光線は、水牢をぶち破りました。
 そして、砂煙で見えなくなったところでエバンスは逃げ出しました。

「……なるほど。オトが興味を示すのも判った気がする」

 ミホシは納得して、もうエバンスを追おうとは思いませんでした。



 ☆謎の組織と美少女たち

 エバンスが行き着いたのは、流星の滝でした。

「なっ!?」
「きゃあっ!!」

 エバンスはスレンダーでモデルのような女の子にぶつかりました。
 赤のセミロングより少し長めのサイドテールで、赤いミニスカートの下にスパッツ、緑色のぴっちりした服に青いストールの格好をしていました。

「イタタタ……」

 少女はお尻を抑えつつ立ち上がりました。

「……!」

 そして、なにやらエバンスをややじっと見てから、言いました。

「あ……ええと……あのっ!一緒にいた女の子……マキナって言うんだけど、探すの手伝ってくれないっ!?あ、あたしアスカって言うんだけどっ!」

 元気そうだが、心なしか緊張したようにアスカはエバンスに頼みました。

「イヤだ」

 即座に拒否しました。

「なっ、なんで!?」

 理由を言わずにエバンスは流星の滝を進んでいきました。
 アスカはエバンスの後をついて行きました。
 そこで二人は偶然アスカの親友と言うマキナを見つけました。
 白のショートカットで赤のカチューシャ、ピッチリとした黒のワンピースの上に茶色のセーターのふんわりとしたイメージの女の子でした。
 しかし、マキナは数人の男達に絡まれていました。

“また、ガキがいるぞ!”
“見られたからにはたたじゃおかない!”

 その男達はエバンスたちにも気付いて、ぐるりと囲みました。

「めんどくさいな」

 男達は全員ぴっちりとした水色の服装をしていました。

「一体、あんた達は何なのよ!」

 アスカは先ほどエバンスと喋っていたときとは違い、マキナを庇うように立ってハキハキと相手に向かって睨みつけました。

“何といわれて、教えるわけが無いだろ。始末するぞ”

 男達はマキナとアスカに襲い掛かりました。

“こっちの女の子はポッチャリとして好みだな”
“俺はラインがはっきりとしてイイ!”
“要するに、どっちも将来が楽しみだな!”

 と、男達はバトルに集中しておらず、複数人でありながらも、マキナとアスナと互角でした。

“てか、灰色の男はどうした?”

 エバンスはとっとと先に北へと行こうとしていました。

“逃げるな!”
「うるさいな。僕はこんなことに関わりたくないんだよ」

 かなり不機嫌のエバンスは、ラグラージを投入して、男達を蹴散らしました。
 マキナとアスナもそれなりに実力が高く、エバンスの参戦で、一気に蹴りは着きました。

“くっ……灰色の男に……将来有望な2人組の女……覚えてろ……”

 そういって、一人の男はヨロヨロと逃げ出しました。

「ねぇ!どこに行くの?」

 アスカはエバンスを捕まえて、問いただしました。
 連れのマキナはアスカの後ろに隠れています。

「……? ハジツゲタウンを経由してフエンタウンに行くんだ。ジム戦の為にな。お前に関係ないだろ」

 その話を聞いて、ぱぁっとアスカは明るい顔をしました。

「あ、あたしも一緒に行っていいでしょ!?」
「……なんで?」

 怪訝そうな表情でエバンスはアスカを見ました。

「なんでって……たまたまあたしもフエンタウンに用があるから……さっ!」

 しどろもどろながらも、アスカは必死にエバンスを説得しました。

「…………。イヤだ。じゃあな」

 そうして、エバンスは二人を残して流星の洞窟を去っていきました。



「……アスカ……エバンスのことが好きなのね」
「は、はいぃぃ~!?」

 ずっとエバンスから隠れるようにアスカの後ろにいたマキナは、アスカにズバリと図星をつきました。
 頓狂な声をあげて、アスカは驚いた表情を見せました。

「べ、別にエバンスの事なんか……」
「バレバレよー」

 マキナが笑顔で言うと、アスカは口をむっと紡いで俯きました。

「とりあえず、行こう」
「え?」
「アスカらしく、強引に行けばいいじゃないの」
「あ、え、でも……」
「(へぇ……こういうときのアスカは、押しが弱くなるのね)」

 マキナはクスクスと笑いつつ、アスカの手を引いてエバンスを追いかけていったのでした。



 ☆格上の者たち

 ハジツゲタウンは流星の滝の北にあり、フエンタウンに行くには経由しなければならない町でした。

「…………。アスカと言うヤツ……僕のことに気があるみたいだったな」

 エバンスは何故アスカが緊張していたかとか、何故一緒に行こうと思っていたかを理解していたようでした。

「正直、鬱陶しい。人を好きになるとか、人を愛するとか、煩わしいだけだ」

 ある出来事を思い出しながら、独り言でぶつぶつ呟いていて、町を通り過ぎようとしていました。

「あ~!!あんた、待ちなさいっ!!」

 一人の甲高いソプラノ系の声にエバンスは引き止められました。
 黒のマイクロミニにへそだしの白のノースリーブシャツに赤いジーンズタイプのジャケットを着用した魅力的な女性でした。
 10人の男がいれば、2人くらいは彼女の脚を見て踏まれたいと思うほどの美脚を持っていました。
 怪訝な顔をしたのち、エバンスは無視して立ち去ろうとしました。

「バクフーン!!」
「!!」

 猛々しい炎がエバンスに襲い掛かりました。
 ラグラージで防御に出ますが、あまりの威力にエバンスも吹っ飛ばされました。

「ゴウカザル!」
「っ!スリーパー!」

 闘気を纏ったゴウカザルのパンチをスリーパーは受け止めます。
 バクフーンとラグラージ、ゴウカザルとスリーパーが互角の戦いを繰り広げました。

「(……!僕が押されているだと!?)」

 エバンスの方が相性は良かったのだが、それでも相手の実力の方が上回っていったのです。

「カズミ姉さん……ま、待ってよ~!!その人じゃないよっ!!」

 成熟した女性との戦いの中で、短めの茶髪の黒いアンダーシャツに白い半袖のシャツ、青いジーンズの男の子が現れました。

「え?」
「だって、その人、僕が持っていた“アレ”を持っていないでしょ」
「…………」

 カズミという女性は、ジロジロとエバンスを見て、頷きました。

「ゴメンなさい!人違いでした!」

 バクフーンとゴウカザルを戻して、潔く謝った。

「…………」
「もー、キトキったら……。それならそうと、早く言ってよね!」
「そんなこと言ったって……」
「……なんだったんだ?」

 カズミという女性との実力差に多少の悔しさを感じました。



 そして、しばらく街を歩いて、エバンスは先に進もうとしました。

「エバンスー!!」
「(げ)」

 こちらへ向かってきたのは、流星の滝で出会ったマキナとアスカでした。
 ところが、アスカはエバンスの前に立つとオドオドとし始めます。

「……何?」
「ええと……」
「ん……?その男が2人の彼氏!?」

 知的そうなメガネをかけた銀色の髪の悪趣味な髑髏のシャツを着た男がアスカとマキナに次いで向かってきました。

「そ、そうなんです」

 アスカの後ろに隠れつつ、マキナがゆったりとした声で言いました。

「二人ってことは無いんじゃない?そうじゃなきゃ、そこの男は二股をかけていることになるよ?」
「そ、そうなんです!」

 マキナが狼狽しながらも言うと、メガネの男はエバンスに向かってモンスターボールを掲げました。

「二股なんてこの俺……ハレが許さない!覚悟しろ!」
「(また変な奴が現れた……)」

 自分と同じ歳のハレを見て、ため息をつくエバンスでした。

「……っ!!」

 ところが、バトルはハレが優勢に進めていきました。

「僕のポリゴンZのトライアタックがいとも簡単に防がれた……!?」
「俺のルナトーンの防御能力なら、その程度ワケ無いぜ」

 最大級の攻撃が通用せず、エバンスはポリゴンZ、スリーパーと倒されて、ラグラージも劣勢状態に立たされました。

「(どうする……)」

 絶えずポーカーフェイスのエバンスの額には冷汗が流れていました。

「何やってんのよっ!!」
「ぐほっ!!」

 ところが、エバンスとハレのバトルは中断せざるを得ない状況になりました。
 先ほどのカズミがキトキを連れて猛然と戻ってきて、ハレとルナトーンをバクフーンで打っ飛ばしたのです。

「こんなところで女の子をお茶に誘っている場合!?行方不明になった従兄弟を探しに来たんでしょ!?」
「ご、ごへんなはい……」

 目を回しているハレは、カズミに連れられて退場していきました。
 キトキはペコリとエバンスたちに頭を下げてカズミの後ろへとついて行きました。

「……なんだったって言うんだ……あいつら……」



 ☆フエン湯煙騒動

 何だかんだして、結局、エバンスはマキナとアスカと一緒にフエンタウンへと辿り着きました。
 2人と一緒に行動した理由は、練習相手がほしかったからと言うものでした。
 エバンスのその心理を知らず、アスカは喜んでついて行きました。
 一方のマキナは、少しずつながら、エバンスに話しかけて、軽くお話しをできる程度になりました。
 しかし、エバンスはどちらと話すのも少々めんどくさそうでした。
 とりあえず、ジム戦の前にマキナに連れられてフエン名物の温泉に行きました。

「効能は抜群なんですよ」

 と話すマキナは、実はこのフエンタウン出身で、温泉旅館の一人娘だったのです。
 一人になりたかったエバンスは、もちろん承諾して、さっさと入って行きました。

「(広くていい風呂だ。てか……男風呂と女風呂が仕切り一枚で仕切られている展開って言うのは……)」

 ベタだな……とエバンスは思いました。
 彼は何も考えず、ボーっとのんびりとしていました。

「プハッ!!」

 そこへ青い髪が飛び出してきました。
 キラキラと水滴を弾きながら、その髪は青く輝いていました。

「…………」

 エバンスはボーッとその姿を眺めていましたが、その正体を知ったとき、固まりました。

「……や、や、や……」

 相手の方も驚いて言葉が出ないようでした。

「やぁんっ!!」

 彼女の名前はユミといいました。
 どうやら、泳いでいるうちに潜って一枚の板をくぐってきてしまったようでした。
 ドッパーンとユミは水飛沫を起こして、13歳にしてEカップという胸を隠して去って行きました。

「…………」

 エバンスはそのまま思考停止のまま、風呂場に浸かったままのぼせました。

「……え、エバンスさん!?」

 そこでマキナは恥ずかしがりながらも、エバンスを助けたのでした。

「(エバンスさんのハダカ……ハァハァ……エバンスさんのハダカ……ハァハァ……)」

 その後、マキナはフエンジムに行くまで、エバンスを意識しっぱなしでした。

「(……なんだこいつ……)」

 エバンスはマキナを怪訝そうに見ていました。



 ☆フエンタウンのジムリーダー

 何はともあれ、フエンジムにたどり着き、フィールドに立ったエバンスでしたが、戦う相手を見て驚きました。

「エバンス、あたしがフエンジムのジムリーダーよ!」

 そこにいたのは、先日まで一緒に旅をしていたマキナの幼馴染のアスカの姿がありました。

「まさか、お前がここのジムリーダーだったとはな。正直、運がいい」

 エバンスはラグラージを繰り出して笑みを浮かべました。

「この勝負、貰った」
「それは、どうかなっ!?」

 エバンスとアスカの実力はほぼ互角です。
 フエンタウンに来る道中で何度も戦いましたが、マキナの目から見ても互角そのものでした。

「え……?」
「そんな……!?」

 だから、こんなに勝負が決まってしまうなんて、マキナもアスカも思っていませんでした。

「お前のクセは見切っている。森羅万象は僕の掌の中だ」

 バッジを手にして、エバンスはさっさと立ち去っていこうとしました。

「え、エバンス!」
「追いかけて来るなよ?」

 追いかけてこようとするアスカをエバンスは静止させました。

「『あたしも一緒に旅に行かせて』なんて言うんだろ?最初に言っておくよ。鬱陶しいんだ。もう一度言う。追いかけて来るな」

 エバンスの強い拒絶はアスカをその場に縛り付けました。
 そのアスカをマキナはやさしく慰めたのでした。



 ☆水郡『司馬のタスク』

 誰よりも強くなりたいというエバンスの願いは、進む足を速くさせました。
 それだけではなく、道の端から端にいるトレーナーに勝負を挑み、勝利していきました。

「これではダメだ。あのカズミって女やハレって男には勝てない」

 ジムバッジを5つゲットしたエバンスは、ヒマワキタウンへと向かっていました。
 しかし、そのためにはキンセツシティを経由しなければいけませんでした。
 ゲームコーナーでポーカーもやりたいと考えていたエバンスは、なおさら、急いでいました。

「水郡に逆らおうとしているバカな青二才とはおのれでゲスな?」

 巻き髭を生やしたちょっとえらそうな男が現れました。
 彼の名前はタスクといいました。
 “水郡”と呼ばれる組織の幹部の男でした。
 通称『司馬のタスク』呼ばれる賞金首にもなっている男でした。

「話にならないでゲスな」
「……ぐっ……」

 ラグラージ、ポリゴンZと、タスクのフローゼルに封殺されて、エバンスは地面に這いつくばって、タスクに体を踏みにじられていました、

「僕が……こんなヤツに負けるワケが……」
「負け惜しみでゲスね」

 エバンスはそこで気を失いました。
 タスクがエバンスに止めを刺そうとした瞬間、猛烈な炎がフローゼルと押しのけました。
 体勢を崩したフローゼルは、仰向けに寝転がしました。

「誰でゲスか!?」
“タスク様!SHOP-GEARの『天照<てんしょう>のカズミ』です!”
「ついに会ったわね、『司馬のタスク』!」

 カズミは攻撃を放ったバグーダと共にタスクを睨んでいました。

“戦いますか?”
「邪魔者は排除したいところでゲスが、あの有名なSHOP-GEARが相手ともなると話は別でゲス。一旦退くでゲス」

 さっさとタスクと下っ端たちは退いて行きました。
 追いかけようとするカズミでしたが、ボロボロのエバンスに気付きました。

「あれ、この子は前に会った……いけない!手当てをしないと!」

 カズミはキンセツシティへエバンスを運んでいきました。



 ☆最初の運命

「……ん。ここは……?」

 目を覚ましたエバンスは天井を見て、目をぱちくりさせました。

「大丈夫……ですか?」

 傍から聞こえてくるのは、柔らかい物腰の丁寧な声でした。
 両耳辺りからダークグリーンの三つ編みを前に垂らして三つ編みの根元には星型のピンをした女の子でした。

「(っ……あのタスクってヤツの攻撃のせいか……)」

 体の痛みはありましたが、それを目の前の女の子に見せようとしませんでした。

「だい……じょうぶ……です……か?」

 もう一度、少女はエバンスに優しく問いかけましたが、エバンスは無視してベッドから出ました。

「……あの……だい……」
「なぁ」
「……は……い……?」
「お前はなんと言う名前だ?」
「あ、はい。エナメルという名前……です」

 自信なさげな声でエナメルと言う少女は自分の名前を聞かれて答えました。
 エバンスはためらいもなく言いました。

「エナメル。鬱陶しい。今後、僕の目の前に姿を現すなよ」
「……へ?……あ、……え、……」

 顕著にイライラした表情で、エバンスは部屋を去っていきました。
 エナメルはエバンスの言葉にただ戸惑うばかりでした。
 しかし、この二人の出会いは、この先、エバンス自身を、エナメル自身を、そしてホウエン地方の運命を大きく変えていくことになるとは、知るよしもありませんでした。



 第四幕 Episode D&J
 レジェンドシーα<アルファ>① ―――エバンス――― 終わり


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Last-modified: 2016-01-09 (土) 13:23:25
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