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たった一つの行路 №246

/たった一つの行路 №246

―――「この世界の過去と未来を救うこと……そして、先祖であるルイの罪を償うため……わたくしの最後の役目を果たします……!」―――
―――「本当に……やるのか?」―――

 ニケルダーク島に来る少し前のこと。
 すなわち、ヒロトが未来から現代に戻る前のこと。
 覚悟を決めるココロにヒロトは尋ね返す。

―――「過去からそうなることはもう決められたことなのです。……時は変えることはできないのですから」―――

 そういって、魔法の詠唱を始めるココロ。

―――「例え、ヒロト様がこの酷い未来でどんな体験をしようとも、これからの運命は変えられない……それにこれは未来に来ることが必然だったとされるだけなのですから」―――
―――「必要なこと……か……。そう言われると、俺は……少し虚しいな」―――
―――「でも、記憶は消さないのでしょう?」―――
―――「ああ」―――

 ヒロトは頷く。

―――「俺は、嘘の記憶で俺を偽りたくない」―――

 彼のその言葉を聞いてココロはくすっと笑う。

―――「(さすがヒロト様……。やはりジムリーダーのセンリ……そして、大地の守護者と謳われた女トレーナー、勇者アンリの子孫なのですね)」―――
―――「それに、俺は俺であるがために未来の世界を守り、自分の道を切り開く」―――
―――「その言葉を聞いて安心しました。……後は……任せました……ヒロト様……」―――

 その言葉と共にヒロト、ココロはその場から消えてしまった。



 ズドゴォッ!!!!

 二匹のポケモンが激突し、共に吹っ飛ばされ、地面に不時着する。

「(……威力は)」 「(互角だと!?)」

 クロノは自身のブラッキーの力に自信を持っていた。
 どんな攻撃も、ヘルの力で増幅したおかげで打ち滅ぼせると考えていたのだ。
 しかし、結果は互角。

「もう一度、『ヘルロケッティア』」

 通称『地獄のロケット頭突き』。
 ブラッキーの頑丈な体を利用しての捨て身のタックルだ。

「フライト、『ガーネットクロー』!!」

 一方のヒロトのポケモンはフライゴン。
 両手の爪を光らせる通称『輝きの爪』。
 両翼を広げて飛んでくるブラッキーに対抗する。

 ドゴォッンッ!!!!

 フライゴンの肩を攻撃が掠めるが、ブラッキーも自分の腹に攻撃を受ける形になり、不時着して地面を掠める。

「『竜の波動』!!」

 ドラゴンのエネルギーを飛ばすが、ブラッキーは自分の影を伸ばして、針のように攻撃を刺して防御した。

「くたばれ、『影縫い』」
「フライト!」

 飛び上がって、ブラッキーの影攻撃を回避する。
 そして、数匹のフライゴンが空に広がった。

「影使いの俺に『影分身』など通用しない」

 ズバッ!!

 影分身ではないフライゴンを簡単に見抜き、一突きする。
 ところが、フライゴンは消えてしまう。
 『身代わり』だったようだ。

「そこだ!」
「!」

 ドゴォッ!!

 本物は『あなをほる』で地面に隠れていた。
 地面からの攻撃にブラッキーは体勢を崩される。

「行けっ!『流星群』!!」
「『ダークレイブ』」

 空中で闇の力を使って強力なドラゴン攻撃をブロックする。
 止めの一撃として使うはずの流星群をいとも簡単に止められてしまった。
 だが……

「『ガーネットクロー』!!」

 ズドゴォンッ!!!!

 ヒロトは最強のドラゴン技さえも囮に使っていた。
 煙に紛れてブラッキーに一撃を叩き込んだ。
 ブラッキーは影で防御したのだが、それさえも輝きの爪で引き裂かれたのだ。

「ふぅ……」
「『ダークゲイザー』」
「!」

 一息するヒロトに襲い掛かる八方からの闇の槍。
 2~3の槍を自力でかわすが、それ以降に襲い掛かる槍をかわすことはできないと悟った。
 4つ目の以降の槍が自分に当たろうとしていたところで、新たなモンスターボールを取り出していた。
 無数のつるのムチが槍の攻撃を防ぎきったのだ。

「フシギバナ、『ソーラービーム』!!」

 反撃として草系屈指の大技で反撃に出る。
 ほとんど溜める時間なしで撃ったのだが、威力はヘリポートである金属の鉄板を削るほどだった。
 闇の槍を放ってきた振り子を持ったポケモンに直撃した。

「『ダークカッター』」

 だが、ソーラービームにまったく堪えている様子はなかった。
 クロノのスリーパーは振り子を使って闇の超能力の闇を作り出して、撃ってくる。

「(影……!)」

 さらに自分の影が操られていることに気付き、その場を離れようとする。
 しかし、影の動きからどうしても逃げることはできない。

「フライト!」
「ブラッキー」

 影を操るブラッキーに向かってフライゴンは、懇親の輝きの爪で対抗する。
 同時にブラッキーも闇の力を利用したタックルを繰り出してきた。

 ドゴォッ!!!!

 その一方でフシギバナは、連射してきたダークカッターをかわしつつ、つるのムチでスリーパーを討ちにでる。
 しかし、闇の壁は強固で必殺の『ウィップストーム』を防ぎきる。

「『エンドオブライト』!!」

 ヒロトにとって、フシギバナがスリーパーの正面に立ったことがチェックメイトだった。

「……!!」

 神々しき光の光線がスリーパーを一瞬で打ち抜いてノックアウトさせたのだ。
 闇の禍々しき力が抜けたスリーパーは完全に気絶した。

「(ブラッキーとフライゴンは相打ちか)」

 クロノはヒロトとフシギバナの様子をうかがいながら、スリーパーとブラッキーを戻す。

「凄い……ヒロト……こんなにも強くなっていたんだ……」

 幼い赤ん坊と気絶したオトハに気を遣いながら、ナルミはヒロトの戦いを見守っていた。
 かつて10年ほど前にヒロトはナルミにジム戦を挑んできた。
 そのときは、彼女自身もそれほど強くなく、ヒロトも同じくらいのレベルだった。

「残りは3匹か……闇の力を全力に注いで倒してやる!!」

 クロノは全身から吹き荒れるばかりの闇のオーラを繰り出した。

「ダークライ、貴様も力を貸せ!」
『ヤハリコウナルノカ』

 そういうと、待機していたダークライが前へ出る。
 クロノはサーナイトを繰り出す。

「(2つの闇か……少しきついか……)」

 フシギバナに手をついて、ヒロトは眉間にしわを寄せる。
 しかし、次の時、ダークライに飛び掛って行った一匹のポケモンがいた。

 ズドォッ!!

『むっ!!』

 『ドラゴンクロー』。
 それも相当の威力を持った攻撃で、防御したダークライを吹っ飛ばした。

「ケイくん!?」

 ナルミがガブリアスと共にいる彼の名前を呼ぶ。
 そして、ケイはヒロトの隣に立つ。

「あのダークライは僕がやるよ。クロノは僕がダークライを倒すまでお願い」

 そういうと、ケイはガブリアスと共にダークライに向かっていった。

「ダークライを倒すまでの時間稼ぎか……。そう言わずに俺はクロノを倒す気で行く!」

 そして、ヒロトはフシギバナとフーディンの2匹で、クロノのサーナイトが繰り出した13体のシャドーナイツに向かっていったのだった。



 たった一つの行路 №246



 今、オーレ地方のニケルダーク島の頂上であるヘリポートでいくつかの存在があった。

「行け、『シャドーナイツ』」

 サーナイトの影の僕である13体の騎士たち。
 それぞれ、剣、盾、杖、槍……など様々な武器を持って用いて攻撃を仕掛けてくる。
 そのトレーナーであるのは、自分の命さえも闇の力に変えて戦おうとするクロノ。

「ディン!『サイコキネシス』!! フシギバナ、『ウィップストーム』!!」

 自分の力を持って闇に対抗し、討とうとしているのは、最も勇敢な心を持った男であるヒロト。
 フーディンとフシギバナが、絶え間なく襲ってくるシャドーナイツたちに攻撃していく。

 ドゴォッ!!

「っ! (止められない!?)」

 『サイコキネシス』をびくともせず、さらにムチの打撃技を捌ききりながら、一気に13の影が攻撃してきた。

「消え去れ」

 フーディン、フシギバナと立て続けに吹っ飛ばされ、残りの影たちがヒロトに襲い掛かる。
 それを見て、ヒロトは後ろへ一歩跳んで飛びついてきた2体ほどの影をかわす。
 残りの影は避けるのを見てそのまま襲い掛かってきた。

「レイン!」

 避けている間に新たなモンスターボールを用意していたヒロト。
 中から出てきたのは、乗り物ポケモンのラプラス。

「『アイススプレット』!!」

 絶対零度を打ち出し、その空間にハイドロポンプを打ち出して、極大の氷の槍を飛ばす大技だ。
 ハイドロポンプを連射すれば、その氷の槍は連射の数だけ打ち出すことができる。
 ヒロトを倒そうと襲ってきた影の全てがその氷の技に巻き込まれて消え去った。
 そして、本体のサーナイトにも攻撃が届こうとしていた。

「ふんっ。『ブラックホールブラスター』」

 空間を捻じ曲げるブラックホール。
 いくら強力な氷系の技とはいえ、この空間を通したものは全て飲み込まれてしまう。
 ゆえにサーナイトに攻撃は通用しなかった。

「いくら影を倒しても無駄なことだ」

 そういって、サーナイトが目を閉じて瞑想をすると、やられた数の分だけの影が復活した。

「……!」
「いけ、シャドーナイツ」
「くっ!ディン!フシギバナ!レイン!」

 クロノのポケモンは、ダークライ以外すべてヘルポケモンになっている。
 ゆえに闇の力が増大して、今までできなかったシャドーナイツの超速再生が可能になっていた。
 しかも、影騎士たちの力も強くなっている。
 全てはクロノの全身全霊を賭したゆえの結果だった。



 ドゴォッ!!

 一方では闇のポケモンの権化と言うべき存在が『ダークホール』を連射してきた。
 そのポケモンの名前は、ダークライ。
 相手を悪夢に陥れる恐ろしいポケモンである。

「ガブリアス!」

 『ダークホール』をすなあらしで防御する。
 そんな恐ろしいポケモンに対抗しているのは最も優しい心を持った少年であるケイである。

「『竜の波動』!」
『効カンッ!』

 片手で攻撃を弾くダークライ。
 もう片方の手で闇の球体を放ち、ケイとガブリアスを襲うが、白い光を放つ爪で闇を切り裂く。
 そのまま、接近戦に持ち込もうとするが、ダークライの闇の球体の猛襲により、なかなか前へ出ることができない。

『倒レロ、『ダークレーザー』!!』
「……!」

 白きドラゴンクローで闇の光線を弾こうとするが、威力に圧されてしまう。
 防御しきったが、ガブリアスとケイは体勢を崩す。

『貴様ノ負ケダ!』
「(一か八か……)『流星群』!」

 無茶な体勢で最大のドラゴンの大技を放つガブリアス。
 しかし、ケイの一か八かと思っている通り、威力は通常の流星群と比べて弱い。
 それはケイのガブリアスがまだ流星群を完璧に習得していないことに加え、力がうまく技に伝達していないことにある。

『ムグッ!!』

 だが、牽制するには十分すぎる一撃だった。
 攻撃をするのを止めて、一旦退いたのだ。
 ケイ&ガブリアスとダークライは互いにジリジリと間合いを見合っていた。

「戦況は互角……みたいね……」

 闇と戦うヒロトとケイを見守るのは、ここにいることが不思議なくらい普通の少女であるオートンシティのジムリーダーのナルミである。
 まだ生まれて間もない様子の赤ん坊を胸に抱き、気絶しているオトハを看ていた。

「(きっと、この戦いの勝敗で未来が決まる。そんな予感がする……)」

 ヒロトとクロノの互角の戦いが続く中、ついに戦況が動いた。

『俺ニ最強ノ技ヲ叩キ込ンデ来イヨ。どらごんくろーヲ』
「ふぁ……?」

 ダークライがケイに挑発をしてきたのだ。
 だがそんなものにやすやすと乗るケイではない。

『ドチラニシテモ、ソノ攻撃シカコノ私ヲ倒セルかーどハアルマイ』
「…………」
『オ前ガ攻撃ヲスル間、俺ハ攻撃ヲシナイ。ツマリ、次ノ一撃デ私ヲ倒セレバ、オ前ノ勝チ。シカシ、倒セナカッタ場合ハ俺ノ勝チトイウコトダ』
「…………」

 少しの間黙り込むケイだが、次の瞬間にはガブリアスと共に飛び出していた。

『カカッテ来イ!』
「ガブリアス、『剣の舞』……」

 そして、ケイの次の技を言う前には、すでにダークライに急襲していた。

 ズドォンッ!!

『……っ゛!!(『剣ノ舞』ト『どらごんだいぶ』ノちぇーん技!?シカモコレハ……)』

 てっきり、最強の技で来ると思っていたダークライは虚を突かれた形になった。
 さらに、ドラゴンダイブは怯ませる技でもある。
 そして……

「行くよ……」

 そこでガブリアスが白い爪で一気に7連続の攻撃を叩き込んだ。

 ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ!!

 ダークライに与えたダメージは多大なものだった。
 ただでさえ、やさしいポケモンの攻撃は、わるいポケモンやダークポケモンに効果的である。

 ガシッ

『オ前ノ……負ケダ!』

 ガブリアスの腕を掴んで、ダークライは専用の大技である『ダークホール』を展開した。
 逃げられないガブリアスは、そのまま眠りに堕ちてしまった。
 さらにケイにまでその技は及んで行った。

「ふぁ……!」
「ケイくん!?」

 ところが……

「……?」
『何?』

 なんともなかったようにケイは首を傾げる。

『何故眠リニ堕チナイ?』
「僕、寝るのは好きだけど、眠らされるのはダメなんだよね」

 すると、ケイの足元からグレイシアがぴょこっと顔を出した。
 どうやら穴に隠れていたようだ。

「あともう一つ、勘違いしているみたいだよね」
『何?』
「僕のポケモンの最高の技は、ドラゴンクローじゃないよ」

 そういってケイはグレイシアと呼吸を合わせた。
 その言葉のごとく、息を大きく吸い込み、吐き出し、そして……

 カッ!!

『ヌオッ!!』

 冷凍ビームが炸裂した。

『(今マデノ冷凍びーむトハ威力ガ桁違イ……ダト!?) グオッ!』

 さらに小さな氷の礫……すなわちあられと猛烈な吹雪がダークライを飲み込んだ。
 色は全て純白。
 雪の冷たさの白とやさしさの白。
 二つの属性を兼ね揃える最大の技だった。

『(私ノ意識ガ遠ノイテ……イク……!?) コンナ技デ……消サレル……ワケニハ…………!!』

 『冷凍ビーム』→『あられ』→『吹雪』のチェーン技を受けて耐え切るダークライ。
 最後の気合で片手をケイとグレイシアに照準を合わせようとした。

「ダークライ。僕だけは許すよ。君が存在していたことを……」
『……ッ!!』

 最後の白き光がダークライを包み込んだ。

『ハ、『破壊光線』!?マサカ、4連続ちぇーん技ダッタノカ!?グアァァァァァッ!!』

 やさしい力を持った破壊光線。
 純真な心の攻撃は、おぞましき悪の心を消滅させた。
 攻撃の後、その場に残ったものは、何もなかった。
 グレイシアも攻撃を終えて、力を使い果たしてパタリと倒れた。
 倒れたポケモンを戻しつつ、ケイは空を仰ぐ。

「光も闇も……世界には必要なものなんだよね」

 ズドォッ――――――――――――ンッ!!

 ダークライが消滅したそのとき、もう片方の展開もようやく均衡が破れた。

「はぁはぁ……」
「…………」

 ヒロトの目の前には倒れたラプラスとフーディンの姿があった。
 だが、相手のサーナイトは無傷で13体の影と共に健在している。

「くっ、フシギバナ、『桜風』!!」

 花びらの舞を応用した、桜の花びらのような煌びやかな花びらを飛ばす技だ。
 ただしこの技は攻撃の技ではない。

「むっ」

 相手を撹乱させる上に自分の体力を回復させる技だった。
 フシギバナはクロノとサーナイトたちが戸惑っている間に体力を回復させて、相手の背後を取った。

「これで決めるっ!『エンドオブライト』!!」

 特殊攻撃にも強かったクロノのスリーパーをも一撃でノックアウトにした大技を桜風の中でサーナイトに向けて再び放った。
 シャドーナイツを飲み込みサーナイトへと向かっていく。

「撹乱なんて俺には通用しない。『ブラックホールブラスター』」

 ズドォッ――――――――――――!!!!

「っ!!フシギバナ!?」

 フシギバナの方向を見ずとも、クロノは光の感覚を掴んでサーナイトに指示を出したのだ。
 ブラックホールを作り出すその攻撃は、光を飲み込んで行き、更にフシギバナをも飲み込んでしまった。

「くっ!」
「貴様も終わりだ」

 超速再生で蘇るサーナイトの13体の影騎士達。
 一斉にヒロトに襲い掛かる。

「ヒロトくん!!」

 ナルミはキトキを抱きしめて、注意を促してやることしかできなかった。

「……っ!!」

 ボォ―――――――――ッ!!

 だが、ヒロトに近づいた影たちはみんな燃え尽きて行った。

「ほう。なかなかの威力だ。しかし、それでもその程度ではシャドーナイツを突破してサーナイトにダメージを与えることはできない」

 『ファイヤーメイル』で炎接近攻撃力を上げて、シャドーナイツを退けたのは、ヒロトがタイミングよく繰り出したリザードンだ。

「(確かに、あの影の一つひとつが俺のレインやディンに匹敵する力を持っている。それを一気に倒すには……)」

 ヒロトはリザードンに手を置いた。

「ザーフィ、アレで一気に突破するぞ!」

 ヒロトの言葉に逞しい咆哮をあげるリザードン。

「……『エンシェントグロウ』……『フレアメイル』!!」

 ヒロトはザーフィに飛び乗って、ザーフィは咆哮する。
 両腕にはλ<ラムダ>の文字が浮かび上がり、皮膚の色が赤黒く変色する。
 そして、体や爪を炎で強化した。

「切り札か……? しかし、貴様がリザードンに乗るというのは失敗だな。格好の的だ」

 13体の騎士たちが一斉に襲い掛かる。

「ザーフィっ!!」

 右手の炎の爪で襲い掛かってきた影たちをあっさりと払った。
 そこから、急加速でサーナイトに接近する。
 しかしながら、影は復活し、リザードンに襲い掛かる。

「『火炎放射』!!」

 強化された炎攻撃は一瞬にして、影たちを焼き払う。
 そして、サーナイトに向かっていくが……

「『ブラックホールシールド』」
「なっ!」

 空間を切ったような盾に炎は飲み込まれて消滅した。

「やれ」

 本体を叩かない限り、何度でもサーナイトの影は蘇る。

「こうなったら、ザーフィ!」

 シュシュシュと息もつかせぬ高速移動で飛び回る。
 このスピードにヒロトも振りほどかれないように必死だが、クロノも追いつくことはできないだろうと思っていた。

「無駄だ」

 ドゴォッ!!

「ぐぉっ!!」

 まるでそこに出現するとわかっていたかのように、サーナイトのダークレイブは炸裂した。

「光は俺にとって飲み込むべきもの。貴様が闇を忌み嫌い、光を好む者なら、位置など手を取るようにわかる」

 リザードンにダメージはまったくない。
 だが、バランスを崩してヒロトは落ちてしまった。
 あわてて、リザードンはヒロトを回収する。

「『火炎放射』!」

 極大の炎だが、やっぱり、サーナイトのブラックホールシールドで防がれてしまう。
 先ほどと同じスピードを上げてみようとするが、即座にダークレイブで切り返される。

「貴様に勝ち目などない」

 シャドーナイツがヒロトとリザードンに襲い掛かる。

「はぁはぁ……これで決める……」

 『ブラックホールブラスター』の技があるため、接近戦はできない。
 だから、どうしても遠距離技で決める必要があった。

「『エンシェント・熱風<フレアウインド>』!!」

 拡散する炎。
 それは13体のシャドーナイツを一瞬にして壊滅させる。

「……!」

 さらにブラックホールシールドで攻撃を防ごうとするサーナイトにもジワジワダメージを与えていく。

「っ!!この俺をも一気に倒そうというのか!」
「決まれぇ―――――――――!!!!」

 ヒロトの気合は、サーナイトに打ち勝つ。
 熱風の温度に耐え切れなくなったサーナイトはその場に伏した。

「はぁはぁ……がっ……ぐふっ……」

 咳きこみ、明らかに具合が悪そうなヒロト。

「ヒロトくん!」

 ナルミとリザードンが心配そうにしているが、手で制した。

「まだだ」
「貴様の言うとおりだ」

 クロノは黒いシャツや帽子を脱いで上半身をさらけ出していた。

「まさか、初めに会ったあの時、貴様がここまで邪魔になる存在だとは思ってもいなかった。そして、更に貴様がオトハにとってかけがえのない存在になるということもな」
「…………」
「あの時消しておかなかったことを俺は今、後悔している」

 4年前。
 ヒロトとクロノはフォッグス島というロケット団の開発施設の島で出会っていた。
 そのときはクロノが圧倒して、ヒロトの仲間ごと消そうとした。
 ところが、自称ヒロトのライバル兼グラサンの男……トキオの助けにより、難を逃れたのだ。

「さぁ、貴様が消えるか?それとも、俺が消えるのか?」

 クロノが繰り出す最後のポケモンはゲンガー。
 シャドーボールの先制攻撃を仕掛けてくる。

「ザーフィ、『エンシェン……うっ……」

 リザードンに飛び乗ろうとしたが、ジャンプすることさえもできずに、膝をついた。
 そのことに気をとられたリザードンは、牽制の為に撃って来た極大なシャドーボールをまともに受けてしまった。

「しまっ……た……ザーフィ!」
「隙有りだ。『シャドースクリュー』」

 火炎放射を放つリザードンだが、闇のドリルにあっさりと炎ごと貫かれた。
 そして、大きな音を立ててリザードンは崩れ落ちる。

「どうやら、さっきの力は貴様の精神力を相当使うようだな」
「はぁはぁ……」

 パートナーのリザードンがやられて、ヒロトは最後にライチュウを繰り出した。

「今、全力を持って闇を執行する。今のこの俺の力があれば、究極の闇がいなくとも、時と空間ごと世界を消失することができる。全て闇で飲み込んでやる」
「はぁはぁ……何を持ってお前は闇を好むんだ?」

 ライチュウは素早い動きでゲンガーを翻弄しようとするが、ゲンガーも互角のスピードで動く。
 レーザーのような電撃波で牽制するものの、『シャドースクリュー』で攻撃を打ち破られてしまう。

「闇が俺を選んだ。そして、俺も闇を選んだ。ただそれだけのことだ」
「そんなの理由になっていない!」

 充電で力を蓄えるライチュウ。
 そこから発射されるのは、最強の技『マルチ10万ボルト』。
 十数本の10万ボルトの帯びがゲンガーに向かっていく。
 それを似たような闇の帯の攻撃『シャドーホーン』で迎え撃つゲンガー。
 結果は完全な相殺で終わった。

「好きに言えばいい。同時にオトハ。あいつは光に選ばれし踊り子。あいつを闇に染めることで俺の力は永遠のものになるんだ」

 ゲンガーの『シャドークライシス』。
 大きなシャドーボールの中から小さなシャドーボールを無数に打ち出す全体攻撃の技である。

「きゃあっ!!」

 当然、影響を受けるのはナルミたちも同じだ。

「どうして、オトハさんを!?」
「決まっているだろ。俺はあいつのことが好きだからだ。全てを奪いつくしたいほどにな」

 接近戦を仕掛けるライチュウ。
 尻尾でゲンガーを払おうとするがひらりとかわされる。

「だが、あいつは俺のことを見向きもしない。むしろ憐れんでいる。その目が気に食わないんだ!」

 カウンターで小さなシャドーボールをライチュウに撃って吹っ飛ばす。

「時も、空間も、世界も、そして、オトハも……全て闇で包み込んでやる」
「そんなことはさせない」

 シャドーボールに直撃したライチュウだったが、体勢を立て直して着地する。

「俺が、全てを止める」
「何を根拠に。貴様などにでき―――」
「できないなんて、言わせない!俺はお前にないものを持っているから」

 ライチュウが再び『マルチ10万ボルト』を撃つ。
 だが、今度は一部だけを攻撃に回して、他は地面などに命中させて、撹乱を狙った。

「俺に持ってないものだと?」
「信じるべきものだ」

 電光石火と高速移動を絡み合わせたスピードで、主導権を握ろうとする。

「そんなもの―――」
「脆弱なんて言わせない!」

 さらに電磁波を糸のように引かせる『電磁線』。
 これに引っかかった者は体を麻痺させて動きを鈍らすことができる。
 ところがゲンガーは掌から闇の丸鋸を繰り出して、断ち切っていく。
 電気の糸は絡み付くことはなく、闇の中に取り込まれていくようだった。

「かつて俺は好きな人の為だけに世界を守ろうとしていた。そのためなら命なんてどうなってもいいと思っていた」
「(命がどうでもいいだと……?こいつも“あいつ”と同じことを考えるというのか?)」
「だけど、それは違う。あいつは……ヒカリは俺が生きていることが望みだと言ってくれた。だから、俺は生きて幸せになって、いつか死んだ時にあいつに会って悲しませないような生き方をしなくちゃならないんだ」

 10万ボルトがゲンガーを捉えるが、掌から繰り出す闇で振り払ってから、少し後退する。

「俺はもう……迷わない!後悔もしない!オトハさんもお前に渡しはしない!そして、世界を闇に飲み込ませはしない!」
「くっ!!うぉぉっ!!」

 そのとき、クロノは頭を抑えて膝をついた。

「(その目……あの時の“あいつ”と……ハルキと同じ目をしてやがる!)」

 ゲンガーはクロノのことを心配しつつも、闇の丸の子を掌で構えて隙を見せない。

「(他人の為に命を賭して戦う……そんな奴が……そんな覚悟を持った奴が……いるはずがない!!)」
「(クロノが動揺している……?とにかく今だ!)」

 電光石火で間合いをつめ、尻尾サマーソルトでゲンガーを急襲する。
 強力な一撃を仰け反ってひらりとかわされるが……

「『ボルテッカー』!!」

 ゲンガーは闇の丸鋸で防御に出る。
 それにより、電撃を吸収しようとしたが、すべてできずに余った電撃を受ける羽目になる。
 そして、同じくらいのダメージをライチュウは負ってしまう。

「人間なんて……」

 クロノの体からどろりと闇のオーラを垂れ流してきた。

「人間なんて……自分のことしか考えない、闇の塊なんだ!貴様もそうだろ!!」
「確かにそうかもしれない。実際に俺は一時ヒカリの事しか考えていなかった。だけど……」

 ライチュウの充電が完了する。
 最後の一撃を決めるつもりだ。
 同じくクロノもゲンガーに技の指示を出す。
 闇の球体をいくつも打ち出すシャドー系最大の技『シャドーメテオ』だ。

「真深の闇に沈め!!」
「人は変われるんだ!」

 ライチュウは全ての電撃を尻尾に集めた。
 そして、全速力を持ってゲンガーに向かっていく。

 ドゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

「……!」

 極大な闇の隕石がライチュウへと落ちていくが、音をも超えるスピードに達していたシオンに当てることは叶わない。
 そして、ゲンガーへ尻尾を突きつける。

「『エレキテール』ッ!!」

 ズドォォォォォォ――――――――――――――――――――――――ンッ!!!!

 だが、ゲンガーは立っていた。
 確かに攻撃は当たっていたが、両手でガードをしたのだ。
 無抵抗に受けるのとガードするのでは、攻撃の伝わり方が違う。

「シオンッ!!」

 ライチュウは頷いて、尻尾に残った電気エネルギーを放電するため頬袋に集める。

「ゲンガー!!」

 クロノがゲンガーに地獄の闇の力を受け渡してパワーアップさせようとする。

「そこまでだよ」
「……何!?」

 緑色の光を持った何かがクロノの周りを飛び回る。
 そのポケモンをクロノは一瞬にして見抜き、顔を引く付かせた。

「セレビィ!?バカな、そのセレビィは俺がダークポケモンに変えてやったはず……!!」
「ふぁぁぁ……」

 現在はセレビィのトレーナーであるケイがあくびをして言う。

「よくわからないけど、なんだか僕、いつの間にか自然とダークポケモンをリライブできるようになっちゃったみたいなんだよね」
「バカな!……ぐああぁぁぁ!」

 クロノとゲンガーは苦しみだして跪く。

「セレ…ビィの……癒しの…力かぁ……!!」

 苦しみと共にクロノとゲンガーの存在が消えていこうとする。

「まだ……だ……オトハを……オトハを……!!」
「お前に……!」

 ライチュウがクロノとゲンガーの真上を取った。
 そして、最後の攻撃を放つ。

「オトハさんに触れる資格はない!シオン、『100万ボルト』だっ!!」

 10万ボルトの限界を超えた更にワンランク上の技。
 その技を撃つことができたのは、かつて別世界のトキワの力を持っていたという麦わら帽子の少女だけだったと言う。
 しかし、シオンの幾つもの10万ボルトをコントロールする力、そして、キャパシティを超えた電気で、限界を超え、更にヒロトの想いも重なってこの技は発現した。

「俺の……闇が……体が……心が……消えて……行く……のか……うぉぉぉっ!!」

 セレビィの癒しの力とライチュウの限界を超えた電撃。
 二つの力の中で苦しみ、クロノとゲンガーは消えていく。

「……俺は……」
―――「クロノさん、妹のコトハ共々よろしくお願いします」―――

 最後に記憶で見えたのは、まだ幼い頃の踊り子姉妹。
 特にやさしく眩しい笑顔を見せた彼女の顔だった。



 ……俺は……ただ……オトハのことを………………



「勝ったの?」

 キトキを抱えて立ち上がるナルミ。

「やったのね?」

 ケイとヒロトを交互に見る。

「これで世界は救われたのね!!」

 歓喜するナルミを他所に、ケイはあくびをしながらセレビィを戻す。
 そして、ヒロトは頭を抑えながら、その場にしゃがみこんだ。

「(クロノ……俺はひとつだけ間違っていた)」
―――「人は変われるんだ!」―――
「(“自分が変えていく”んじゃなくて、“自分が人によって変わっていく”んだ)」
「ヒロトくん、大丈夫!?」
「ああ。大丈夫だよ……でも、なんでナルミさんがここに?」
「まーそれは……深い事情が……」

 ゴゴゴゴゴゴッ!!!

「うっ!」
「ふぁ!?」
「きゃあ!」

 安堵したそのときのことだった。
 とてつもない地震がこのニケルダーク島を揺らしたのだ。

「なんだこれ!?」
「ふぁぁ……立ってられないよ……」
「ヒロトくん!ケイくん!」

 その場にしゃがみこむ3人。
 だが、そうもしていられなかった。
 地面がどんどん沈んでいく。
 地盤沈下という奴だ。
 つまり、この島は徐々に海へと飲み込まれようとしていた。

「このままじゃ!!!!」
「くっ!」
「ふわわぁ!」



 その30分後。
 ニケルダーク島は完全に海に沈下したのだった。
 それと共に、この地に日が昇ったのだった。



 第三幕 The End of Light and Darkness
 The End of Turth deep darkness⑤ ―光差し込む― 終わり



 あなたは七色の明日を描いていますか?


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Last-modified: 2015-12-30 (水) 10:54:49
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