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たった一つの行路 №242

/たった一つの行路 №242

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 ―――ニケルダーク島。断崖絶壁とリフトのフロア。

「クチャクチャ……よくそこまで意識を失わずに立っていられるね」
「はぁはぁ……うっぷ……」

 ラグナのオヤジ……コズマは虫の息だった。
 それもそのはず。
 苦手な断崖絶壁でのバトルを強いられ、さらにウゴウのヤミカラスたちに総攻撃をまともに受けているのだから。
 しかし、それでも倒れないのは、一日も休まずに続けていると言うたゆまぬ鍛錬のおかげだろうか。

「1,2匹ヤミカラスを倒されたからって問題は何もないし。どっちにしても、お前の一撃パワーアタックのバトルスタイルじゃ、僕には勝てないよ」

 パーンと風船ガムを破裂させるウゴウ。
 その表情は至って余裕だった。

「畜生……ちょこまかとしやがって……うっぷ……」

 キングラー、サンドパン、モジャンボ、ドラピオン、レントラー、バクフーン……コズマの全てのポケモンで攻撃を試したが、どのポケモンでも攻撃を当てることはできなかった。
 むしろ、指示を出しているコズマがこの調子じゃ、冷静な攻撃指示を出せるわけがない。

「いい加減、降伏しろよ」

 ウゴウが手を挙げると、ヤミカラスたちがわらわらとウゴウの手の真上に集まっていく。

「オーゥ……しないに決まってんだろ……」

 そうはいっても、千鳥足でコズマはフラフラしている。

「ふーん。それで、ポケモンを戻してどうするつもりなんだ?」
「この俺様のスペシャルな体術を見せてやるよ」

 ウゴウは白々しくコズマを見る。

「何を言い出すかと思えば、酔拳でもするつもり?この無数のヤミカラスたちを倒せるもんならやってみなよ」

 手を前に出すと、ヤミカラスたちはバサバサと黒い羽根を落としながらコズマへと襲い掛かっていった。

「『漆黒の槍』」

 コズマはそのヤミカラスたちの群れに飲み込まれていった。
 恐らく中では、『袋叩き』にあっていることであろう。
 ヤミカラスたちが通り抜ける20秒の間、ウゴウは噛んでいたフーセンガムを崖の下にペッと吐き捨てた。
 そして、『フォアグラ味』と書かれたラベルのガムを新たに口の中に放り込んで食べ始めた。

「……ん」

 通り過ぎたヤミカラスたち。

「はぁはぁ……どうだ」
「酔拳……どうやら本当に使えるようだね」

 地面には3匹のヤミカラスが目を回していた。
 更にコズマは両手にヤミカラスを掴んでいた。

「でも、もうボロボロのようだけど」
「だからなんだって言うんだ?俺様はまだまだやれるぜ?……うっぷ……」
「本当にやれるのかな?」

 面白く笑い、コズマを嘲る。
 ウゴウが手を回すと、コズマをぐるぐると囲んでいった。

「『漆黒の輪』。これでジワジワとお前をいたぶっていくよ」
「全て叩き落してやる!……うげぇ……」

 そのとき、コズマは膝をついて、下を向いてしまった。

「(スペシャルに気持ち悪ぅー……)」

 酔いが限界になってしまったようだ。

「隙有りだ。『漆黒の十字』」

 ヤミカラスたちはコズマをぐるぐると囲む輪から、コズマを左と後から直線となって襲い掛かってきた。

「(……畜生……対応できねー……)」

 反応はできたが、体がうまく動かなかったコズマ。

 バリバリバリッ!!!!

「うんっ!?」

 しかし、突如コズマの頭上から雷が落ちてきた。
 その電撃はうまくコズマを逸れてまるで守るように落ちていた。
 その影響で、10匹ほどのヤミカラスがダウンした。

「お前はザンクスにやられたわけじゃないのか?」
「残念ながら、やられてないからここにいるのよ!」

 ウゴウの前に現れたのは、一見普通の女の子であるナルミだった。

「ヘンタイオヤジー!一体何をやっているの?」
「オーゥ……嬢ちゃんか……ちょっと酔っ払っちまって……」
「バッカじゃないの!?」
「へっ。褒めても何もでねぇぜ」
「全然褒めてないわよっ!!」
「『漆黒の流れ』」
「!! 『電撃波』!!」

 襲いかかってくるヤミカラスたちに対して、ナルミはライボルトで迎撃に出る。

「甘いな」

 電撃波を受け止める前面のヤミカラスたち。
 すると、後方の多くのヤミカラスが前面のヤミカラスを乗り越えてナルミとライボルトに襲い掛かっていった。

「前面の『守る』の防御で、後衛で攻撃を仕掛けるのね。でも、一気に倒させてもらうわよ!」

 もう一匹繰り出しつつ、片方の手にはアイテムを持っているナルミ。

「ライボルト!これを!!」

 呼ばれたライボルトはナルミが投げたアイテムを食べてから、漆黒の軍勢に向き直った。

「『雷光波』よ!!」
「……むっ!?」

 3本の雷が落ちる。
 しかも、その雷は地面を削りながらスピードを増して漆黒の軍勢に向かっていった。

「(見るかぎり、最大レベルの技だ。それを完全にコントロールしている……)『漆黒の球』!!」

 ぐるぐるとヤミカラスたちはボール状になっていった。
 それで電撃を弾こうと言う作戦のようだ。

 バリバリバリッ!!

「体勢が崩された!?」

 その3本の雷撃は、ヤミカラスたちのコンビネーションをばらばらにした。
 それがナルミの狙いだった。
 もう一匹のポケモンが一番近くにいたヤミカラスに最大の一撃を叩き込んだ。

「『シャインバレッド』!!」

 赤く輝くハサミを思いっきりぶちかまし、更にそのハサミに秘められているエネルギーを無数の赤い光弾に変えて放出する近距離砲弾技。
 一番近くにいたヤミカラスに攻撃を当てたために、後方のヤミカラスたちは無数の光弾エネルギーの巻き沿いを食ってしまう。

「まさか……僕のヤミカラスの軍勢をここまでにするなんて……お前で2人目だよ」

 ヤミカラスたちの大半が崖の下へと堕ちていた。
 残ったのは飛べすに地面を這いつくばっている数匹のヤミカラスと辛うじて飛んでいる2匹のドンカラスだった。

「こうなったら、こっちの2匹でお前を倒すしかないようだね」

 2匹のドンカラスを戻すと、新たに2匹のドンカラスを繰り出した。
 しかし、そのドンカラスたちはさっきのドンカラスたちと比べるとどこか違和感があった。

「嫌な感じがする……何このドンカラスたち!?」
「クチャクチャ……CLAW<クラウ>が作った切り札、わるいドンカラスとダークドンカラスだよ。さぁ、いきな!」

 二匹のカラスが滑空して、ナルミに襲い掛かる。
 ライボルトとハッサムが前に出て攻撃をガードする。

「くっ!?」

 しかし、両者共のパワーは強大で2匹は弾き飛ばされる。

「(翼が強くなっている方は、飛行系の能力が上昇している……もう片方は、危険なオーラを感じる……どっちにしても強敵ね)」

 ナルミは再びポシェットの中からアイテムを取り出した。
 だが、大きな翼を広げたドンカラスがナルミの横を通過した。
 ポシェットを叩き落されたのだ。

「『さしおさえ』て貰ったよ。回復とかされたら、めんどくさいからねー」
「……しまった……」

 ポシェットの中には、このニケルダーク島に来る前に元気の欠片が4つ、プラスパワーとディフェンダーにさっき使ったヨクアタールを2個ずつ入れていた。
 ヨクアタールを1個使用し、元気の欠片は2つ使った。
 残り2つは念のために取っておいたのだ。

「『ダークレイブ』!」

 ダークドンカラスはライボルトの攻撃が届かない上空へと移動して攻撃を放つ。

「『ラスターカノン』よ!!」

 闇の砲撃と鋼の砲撃がぶつかり合う。
 二つの攻撃は爆発する。

「(このままじゃ、ライボルトの攻撃は届かない……!) ライボルト!」

 フィールドのリフトに気がついたナルミは、リフトに乗るように指示を出す。
 爆発の煙の中、ライボルトはリフトに飛び乗って、空へと追いかけていく。

「クチャクチャ……もう一匹の方を忘れているね。『ロストバード』」

 ドゴォッ!!

 ライボルトはドンカラスの見えない翼攻撃にリフトから叩き落されてしまった。

「(見えなかった……『シャドーダイブ』みたいな技なの!?)」
「『ダークレイブ』の連続攻撃」

 完全にフリーになったダークドンカラスが、上空から槍の雨のような連続攻撃を繰り出してくる。

「……くぅ……(このままじゃ、防戦一方ね……)」

 ハッサムがラスターカノンの連発で攻撃を防ぐものの、いつまでも耐え切れるわけがない。
 ライボルトも何とか攻撃を避け続けるが……

「『ロストバード』」

 ドゴォッ!!

「ライボルト!?」

 ダークレイブの攻撃の最中、わるいドンカラスはふっと現れて、ライボルトを吹っ飛ばした。
 その先は崖で、慌ててナルミはモンスターボールにライボルトを戻す。

「クチャクチャ……あとはそのハッサムだけだな」
「それは……どうかしらっ!!」

 ダークレイブが降り注ぐ中、エアームドを繰り出すナルミ。
 攻撃をしているダークドンカラスへと向かっていく。

「同じことだよ」

 『ロストバード』がエアームドに襲い掛かる。

「甘く見ないでよねっ!」

 『鋼の翼』で防御力をあげて、攻撃を防ぐエアームド。

「攻撃を防いだか」
「『エアーカッター』よ!!」
「『ブラックフェザー』!」

 ドガガガガッ!!

 空ではエアームドとわるいドンカラスが空気の刃と黒い羽根を打ち合い、ハッサムとダークドンカラスは鋼のエネルギーと闇のエネルギーを打ち合う。
 戦況はほぼ互角だった。
 特に、ハッサムとダークドンカラスの打ち合いは、ずっと続いている。
 ゆえに、戦いの行方はエアームドとわるいドンカラスが握っていた。

「(ダークドンカラスがへばる様子はないね)」
「(ハッサムの体力はまだ大丈夫……)」
「(エアームドを倒せば、決着が着く!)」
「(わるいドンカラスさえ止めれば、勝てる!)」

 遠距離技が互角と知ると、ウゴウもナルミも打撃技を指示する。
 絶対命中の接近技『ロストバード』と攻撃防御一体の『鋼の翼』。

 ボーンッ!!

 二つの攻撃は衝撃を生み、空気を震わす。
 二匹ともに吹っ飛ぶが、すぐに2匹は向かい合って激突する。
 3度、4度……角度を変えてぶつかっていくが、結果は変わらない。

「(あいつのエアームド……こっちが『ロストバード』で姿を消しながら攻撃しているにもかかわらず、対応してきている……。真正面から攻撃を受けたら不味いな)」
「(『鋼の翼』で側面を防御しているから致命傷は受けないけど……このままじゃ、ただ時間が潰れるだけね……)」

 そう思うと、エアームドはダークドンカラスの攻撃に被弾しないように、徐々に高度を下げてわるいドンカラスの下を取った。

「『エアスラッシュ』よ!!」
「『ダークフェザー・トルネード』!!」

 先ほどの黒い羽根を竜巻のように操り、攻撃をかき消してエアームドを閉じ込める。

「そのくらい……『きりばらい』よ!!」

 まるで霧を払うかのように、囲んでいた黒い羽根をバラバラに散らした。

 ドゴォッ!!

「!!」
「クチャクチャ……ようやく隙を見せたね」

 『ロストバード』でエアームドのきりばらいの隙をついてきた。
 空中で何とか振りとどまるが……

「『ダークフェザー・トルネード』」
「くっ、『エアカッター』!!」

 わるいドンカラスの怒涛の攻撃に圧されて行くエアームド。
 再び黒い羽の竜巻に閉じ込められた。

「(きりばらいをしたら、また『ロストバード』が来る……!)エアームド!」
「『破壊光線』」

 チュドォ―――ン!!!!

 ハッサムとダークドンカラスの攻撃の爆発よりも大きな音が発生した。
 爆発の影響で黒い羽の竜巻がパラパラと焦げて落ちていく。

「……クチャクチャ……効いてないのか?」
「『スチールカーテン』が間に合ったみたいね」

 破壊光線を防いだのは、透明な光沢をした壁だった。

「どうしてあんたは、クロノに味方するの!?」
「特に理由はないよ。強いて言うならクロノの闇というモノに惹かれただけだよ」
「それだけなの……?」
「漆黒よりも真の深い闇を……彼は僕に見せてくれそうなんだよ。風霧をやっていた頃には味わえないスリルに満ちた闇なんだろうね」
「やらせるわけには行かない……エアームド、あの技を使うよ」

 ナルミの掛け声に力強く返事をするエアームド。

「『パワートリック』!!そして、『鋼の翼』!!」
「……『パワートリック』? まさか……!」

 破壊光線で反動を受けているわるいドンカラスに強力な一撃を叩き込んだ。
 倒すことはできなかったが、明らかにドンカラスの息は上がっていた。

「あんたを倒して、クロノも私が倒す!エアームド、『ゴットバード』!!」
「(『パワートリック』を使ったのなら、防御は下がっているんだろ?) この一撃で倒すよ。『クリティカルウィング』」

 翼にエネルギーを纏ったドンカラスがエアームドに対抗する。

「墜ちろ!!」
「行って!!」

 2匹の攻撃は激突とともに爆発を生んだのだった。

「ううぷ……」

 ちょうどそのとき、コズマは酔いが限界にまで回って気絶したのだった。



 90

 ―――ニケルダーク島、ヘリポート。

「…………」

 黒いスーツの男、クロノは一人へリポートの中央で静かに目をつぶって立っていた。

「…………」

 傍から見れば、本当に目をつぶって立っているだけである。
 しかし、ある人にはクロノのある変化が見えるのだ。

「(俺がこいつに操られるか、それとも操るか……それはやって見ないとわからない。だが……)」

 ゆっくりと6匹目のモンスターボールを握り締めるクロノ。

「(俺は全ての闇を支配する男だ。できないはずがない)」

 そして、モンスターボールを投げようとして、ぴたっと手を止めた。

「……ここで邪魔が入るのか……」

 後ろにいる気配にクロノは見ずに呟く。

「あの女ユニットたちは足止めくらいにしかならなかったか」
「…………」
「オーレの英雄、ケイ。よく来たな」
「ふぁ~。やっとここまで来たよ」

 脱力しているようにも見えるが、ケイは相当気が張っている。

「(このクロノの力はなんだろう……)ん?」

 突如、ヘッドセットが反応した。
 ダークポケモンを見切るダークサーチャーだ。

「……ふぁ?どういうこと!?」

 そのダークサーチャを通して黒く見えたのはポケモンではない。
 クロノ自身が真っ黒なオーラを滲ませていたのだ。

「ポケモンじゃないにもかかわらず、ダークポケモンと同じ状態なの?」
「当然だ。俺は全ての闇を支配する。ダークポケモンもわるいポケモンもな。さらに……」

 クロノは軽くネクタイを直す。

「それ以外にもこれから支配しようとしている強大な闇がある。お前の力を持ってしても、その闇に勝つことはできない」
「…………」
「サーナイト」

 クロノが繰り出したのは、エスパーポケモンのサーナイト。

「別に僕は君の闇に勝てなくてもいいよ」

 ふっと穏やかな笑みを零すケイ。

「カレンお姉ちゃんを助けることができれば、それでいいんだ」
「…………」

 クロノはケイの言葉を反芻していた。

「この俺に勝てなければ、カレンは救えない」
「それなら、答えはひとつだよ」

 ケイはヘルガーを繰り出した。

「君に勝つよ」
「単純な思考……子供だな。『シャドーナイツ』」

 13体の影の騎士達が姿を現していく。

「行くよ」

 戦いの火蓋は切って落とされた。



 第三幕 The End of Light and Darkness
 The End of Turth deep darkness① ―幕開け― 終わり



 激突!スナッチャーケイvs真深の闇クロノ!!


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Last-modified: 2015-12-28 (月) 23:47:15
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