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たった一つの行路 №238

/たった一つの行路 №238

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 ケイたちがニケルダーク島に潜入し、女ユニットと戦っているその頃。

「オトハ……諦めろよ。君の希望は潰えたんだ」

 1つの大きなダブルベッドがある部屋。
 そこはクロノがオトハを閉じ込めるために用意した部屋だった。

「ハルキは死に、カレンも戦うことができはしない。これ以上どうしてこらえる必要がある?」
「…………」

 ベッドに押さえつけられているオトハ。
 呼吸が乱れているが、まだその瞳には光が宿っている。

「……どうした?喋る力も残ってないのか?」

 ふっと口元を緩めてクロノは笑う。

「……私は……クロノさんが……目を覚ますまで……諦めません……」
「目が覚めるまでか。いや、実際に目が覚めていないのは君のほうだ。この現実から逃げて、いつまで寝ているつもりだ?」
「…………」
「……さぁ……」
「……うぅ……」

 再びオトハに手を伸ばしていくクロノ。

 ドゴォッ!!

「……!?」

 衝撃音にびくっと反応し、オトハはその方向を見た。
 部屋の一部が破壊されたようだった。

「……一体なんだ?」

 冷静な様子でクロノは後ろを振り向く。
 そこに現れたのは、黒いタキシードの男だ。

「ナポロンか」
「ナポロン……? FUFUFU……違いますYO」

 不敵な笑みを浮かべて、乗ってきたオオスバメをモンスターボールに戻す。

「確か……あの人は……ザンクス……さん?」
「OYAOYA……小娘、覚えていましたKA。それなら話は早い……あのときの雪辱を……果たさせてもらいましょうKA!」

 そういって、ザンクスはエレキブルを繰り出す。

「……!」
「『雷鳳丸<らいほうがん>』!!」

 エレキブルの掌に丸く集束させた雷の珠を素早いスピードでオトハに向かって突きつけた。

 ズドォンッ!!

「……MU!?」

 しかし、攻撃をぶつけた時、違和感を感じるザンクス。
 すぐにエレキブルは後退する。

「ナポロン……いや、ザンクスと言うのか。記憶が戻ったのか」

 エレキブルの攻撃で生じた煙が晴れていく。
 そこに悠然と立っているのは、クロノと闇のオーラを纏わせてダメージを押さえ込んだブラッキーだった。

「お前がオトハを消そうと言うのなら、俺はお前を闇に還す」
「FUFUFU……そう来ますKA。それなら、小娘共々、倒してあげましょうKA」

 エレキブルとブラッキーが激突する。
 その瞬間、凄まじい衝撃がクロノの部屋で巻き起こったのだった。



 たった一つの行路 №238



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 ―――渦潮実験装置フロア。

「んあ?ここはさっきの場所じゃねえか」

 ドラピオンと共にこの場所に着地したのは、手拭いを頭に巻いた上半身裸体の男のコズマ。
 キョロキョロと辺りを見回して、この場所がケイとナルミと一緒に通過した場所だと確認する。

「その通りです。ここは先ほどあなたが通った場所です」
「攻撃してきたのは……てめーか」

 コズマの前に現れたのは青い服の女性のソフィア。
 パートナーはエンペルトだ。

「クロノさんを守るために、私はあなたを倒します」
「邪魔すんのか、この巨乳女が!」
「ひぃっ!」

 なんかコズマはすこぶる機嫌が悪そうだった。
 その形相にソフィアは震えて一歩足ずさりした。

「なんだ?ビビッてんのか?」
「そ……そんなことありません!『アクアジェット』です!」

 傍らのエンペルトが、すぐに水を纏って突撃してくる。

 ドゴォッ!!

「オーゥ、スピードはあるみてぇだが、パワー不足だ」
「!」

 コズマがそう言う証拠に、エンペルトが纏っていた水だけが勢いでコズマにびしゃりとかかった。
 技を繰り出したエンペルトは、片腕でドラピオンに止められていた。

「『アームスイング』だ!」
「っ!エンペルト!」

 ブンッとドラピオンの片腕がエンペルトの首を狙う。
 『メタルクロー』でガードに出るエンペルトだが、力の差は歴然でガードを押しつぶされて、吹っ飛ばされた。

「それなら……!」

 ソフィアは自分の元に吹っ飛んできたエンペルトの代わりに、美しい尾ひれを持つ水系のポケモン、シャワーズを繰り出す。

「『バブル光線』です!!」
「その程度の攻撃で……」

 ボンッ! ボンッ! ボンッ!

「うぉっ!?」

 百に近いバレーボールほどの泡攻撃を甘く見ていたコズマ。
 一個一個が強力な爆発をして、ドラピオンを攻め立てていく。

「なろっ!サンドパンっ!」

 ドラピオンから相性の悪いはずのサンドパンにスイッチする。

「(どうしてなの!?)」
「切り裂けっ!」

 シャワーズのバブル光線を一個一個切り裂いていくサンドパン。

「……まさか、爆発まで切り裂いているの!?」

 通常なら、一つひとつの泡を破裂させるたびに爆発するのが、ソフィアのシャワーズのバブル光線である。
 しかし、コズマのサンドパンの切り裂く攻撃は、風をも切り裂く『真空斬』。
 ゆえに泡と同時に爆風まで切り裂いているのである。

「……!シャワーズ!」

 泡攻撃を止めて、今度は『ハイドロポンプ』を撃ってきた。
 テクニックのある攻撃ではなく、パワー系の攻撃だ。

「効くかよっ!」

 サンドパンはその場でくるくると回り始める。
 『高速スピン』を応用して、水攻撃を弾いた。

「っ……!それなら……シャワーズ!」

 コクンとシャワーズは頷くと、目の色を変えた。

「ん……?こいつは……」

 視界がどんどん悪くなっていく。
 そして、まわりが細かい水滴で包まれて、辺りが完全に見えなくなった。

「『コーラルミスト』です」

 と、ソフィアが外からコズマに向かって言う。
 実は視界が悪くなっているのは、コズマの周囲5メートルだけで、ソフィアとシャワーズは何の影響も受けていない。
 つまり、ソフィアのシャワーズが外からコズマとサンドパンを閉じ込めているのである。

「この中にいるだけで、体力は奪われていきます。更に……」
「うぜぇ!!!!」

 ズドォンッ!!!!

「……!?」

 コーラルミストと呼ばれる球体の霧の上部から、極大な炎が打ち上げられた。
 その炎を中心に、一気にコーラルミストは蒸発した。

「そんな……!このシャワーズの切り札をいとも簡単に破るなんて……!」
「バクフーンの『噴火』だ」

 コズマのパートナーがサンドパンからバクフーンに代わっている。
 閉じ込められている間にチェンジしたのだろう。

「どうした、ネタ切れか?この雌牛巨乳っ!」
「……~っ!どうしてそんなことを言うんですか!?」

 さっきから罵られてばっかりのソフィア。

「あ゛?」
「いくら私が敵だからと言って、そんな……牛だとか……巨乳だとか……変な事を言わないでください!」
「あ゛?うるせぇ!!!!」

 コズマが何故かキレた。
 ソフィアは相手のあまりに凄い剣幕に縮こまる。

「俺は胸をポヨンポヨンさせている女がスペシャルに嫌いなんだよ!!」

 コズマの変なカミングアウトが始まる。

「そ……好きでポヨンポヨンさせているわけじゃ……」

 胸を強く押さえつつ、顔を赤くして、コズマを睨むソフィア。

「巨乳の奴はみんなそういうんだ!形振り構わずポヨンポヨンさせやがって……そんなに自慢したいのか!?」
「じ、自慢なんてしたことないです!」

 むしろ、ソフィアはそのネタを元に、幾度となくティラナに苛められている。
 逆にコンプレックスを感じているほどだ。
 とは、説明するものの、コズマにはまったく耳に届かない話だが。

「女はぺったんが一番なんだよ!!」

 と、コズマは力説する。

「そんなこと言われましても……」

 ソフィアはコズマに背を向けて、渦潮装置のガラスを見ながら自分の胸に触れている。

「(なんで……こんなに大きくなっちゃったんだろう……)」

 沈んだ気持ちで、シャワーズがソフィアの頭に乗った。

「慰めてくれるのですか……?」

 と、シャワーズの頭を撫でようとするが、シャワーズはそういう意図でソフィアの頭に乗ったわけではなかった。

「……はっ!?」

 ソフィアが気がついたときには、すでにシャワーズがハイドロポンプで攻撃を仕掛けていた。
 だが、攻撃の相手はそれを掻い潜り、物凄いスピードでソフィアとシャワーズに近づいてきたのだ。

「『バーストタックル』!!」

 背中の炎で爆発的にスピードを上げて、バクフーンは一気に捨て身タックルをかました。
 シャワーズが身を挺してソフィアを守るが……

「がはっ!!」

 バクフーンの攻撃はとどまらず、ソフィアにも当たり、

 ばり―――んっ!!

 渦潮の実験装置のガラスが破って吹っ飛ばした。
 シャワーズは気絶し、ソフィアはそのまま渦潮の中へと落ちていった。

「けっ!隙がありすぎなんだよっ!」

 そういって、コズマはバクフーンを戻し、先へ進もうとしたのだった。

「……てか、どうやってここに来たんだ?」

 どうやらコズマはワープポイントのことを理解していなかったらしい。



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 ―――チェーンリフトフロア。

「いたたた……ここはなに……?」

 視界に広がるのは、天井からぶら下がっている幾つものチェーンと先端に取り付けられているフック。
 そのチェーンの一つひとつには動かす装置が備わっていた。

「そういえば、赤い服の女がワープポイントって、言っていたわね」
「その通りだっ!!」
「っ!!」

 後ろからの気配を感じて、ナルミはダイノーズでパンチ攻撃を防いだ。
 攻撃を仕掛けてきたゴウカザルはすぐに思いっきり離れて、天井に伸びているチェーンを掴んだ。

「ここはあたしの庭だ!」

 赤い服の女もゴウカザルと同様、身軽にチェーンリフトに掴まっていた。

「えーと……あんたはアンカケ!?」
「アンカラだよ!物覚えの悪い人だな!」

 プンスカとまるで子供のように腹を立てるアンカラ。

「名前を間違えた罪は重いぞ!行くぜ、ゴウカザル!」

 左手でぶら下がり、右手で拳を振るう。
 すると、巻き起こるのは『しんくうは』。
 ゆらゆらと揺れるチェーンリフトで、寸分の狂いもなくナルミたちを狙うのは相当のバランス感覚が必要だが、アンカラはこの場所を庭と称している。
 恐らく、この場所での戦いには相当の自信があるのだろう。

「ダイノーズ!」

 攻撃はナルミの前に立ったダイノーズに命中した。
 しかし、効果は抜群であるはずなのに、ダイノーズはびくともしていなかった。

「ん?効いてないのか!?もっとだ!」

 同じ場所から、ゴウカザルは幾つもの『しんくうは』を撃っていく。
 だが、何度やっても同じでダイノーズに攻撃は効いていなかった。

「『10万ボルト』よ!!」

 11度目のしんくうはがダイノーズに命中すると同時に、強力な電撃を放つ。
 カウンター気味のいい攻撃だ。

「うわっつ!」

 ところがまるでジャングルのツタを飛び移るターザンのように、同じ事をチェーンリフトで行い、アンカラとゴウカザルは攻撃を回避する。
 すばしっこい動きにダイノーズも狙いをつけることが難しかった。
 それでも、しつこくダイノーズに攻撃を指示していた。
 10万ボルトが当たらないにしても、隙を作ることはできると考えていたから。

「(攻撃が当たらないなら……!) ダイノーズ!」

 ナルミは攻撃をやめさせて、ダイノーズにある技を指示する。

「(あれは『ロックオン』?最強の技を確実に攻撃を当ててくる気だな!こっちのしんくうはは効かないわけだし、こっちも最大の技で行くか) ゴウカザル!」

 動きを止めて、ゴウカザルは左腕と足でうまくバランスをとり、チェーンに掴まる。
 そして、両手を合わせて力を溜める構えを取った。

「ダイノーズ!『電磁砲』よ!!」

 電気の塊をぶちかました。
 アンカラが予想したとおり、ロックオンをしているから、避けきることは不可能である。

「その程度の攻撃……!あたしのゴウカザルの敵じゃないぜ!『ブラストバースト』!!」

 力を溜めていた両手を前へ突き出して、掌から炎を放出する。
 互いの最強の技が激突した。

「むっ!?」
「え!?」

 ズドォ――――――ン!!!!

 技の激突の結末は両者共に意外な気持ちを抱かす結果になった。

「ダイノーズ、大丈夫!?」

 何とか……と言いたげに鳴き声をあげるダイノーズ。
 大きなダメージを負ったわけではないが、決して傷が軽いわけでもない。

「(最強の威力の攻撃技が負けるなんて……!)」

 冷静にナルミはダイノーズをモンスターボールに戻した。

「(まさか、あたしのゴウカザルの攻撃を押し返そうとするなんてな……)」

 アンカラはじっとナルミを観察する。
 次に何を出してくるか、注意しているのだ。

「(最終的にはこっちが勝ったようなもんだが、最初はこっちの技が差し込まれていたからな……。なかなか強いな)」

 ナルミが次に出したのはドータクンだ。

「『シャドーボール』よ!!」
「……!! ゴウカザル!動けっ!」

 黒い球体がゴウカザルに向かっていった。
 そして、ゴウカザルの頬を掠めた。

「(さっきはかすりもしなかったのに……?余裕をかましている時間はないみたいだな。次で決める!今度は相殺されないように……!) 動き回れ!」

 チェーンリフトを縦横無尽に動き回るゴウカザル。

「……こっちから攻撃することは無謀みたいね……」

 ゴウカザルの動きを目で追うナルミ。

「そこだ!『ブラストバースト』!!」

 背後を取ったその瞬間に、再び最強の炎攻撃を打ち込んだ。
 しかも、今度は相手の攻撃の出にあわせて撃った間に合わせの『ブラストバースト』ではないため、威力は最初から電磁砲を破った威力だ。

「ドータクン!」

 ズドォ――――――ン!!!!

 攻撃は命中し、爆発が起こった。

「これで撃破だな!」

 余裕の表情を浮かべて、チェーンのリフトから飛び降りて、ゴウカザルと共に地面に降り立つアンカラ。

「まー、あたしにかかれば、侵入者なんて楽勝だな!」
「それはどうかしら?」
「え……!?」

 煙が晴れると、まったく無傷のナルミとドータクンの姿が現れた。

「くっ!なんで!?」
「『シャドーボール』!!」

 ドゴォッ!!

 ゴウカザルに攻撃が命中し、吹っ飛ばされる。

「……っ!なんで!?」
「『スチールカーテン』。攻撃を遮断して弾き飛ばす技よ。私はその『ブラストバースト』の弱点を知って、受けきることを選択したのよ」
「一発目で見切られていたのか。撃ったあとは反動がでかいことを……」
「これであんたの最強の技は破られた。ケイとオッサンに合流しなくちゃいけないし、そろそろ決めさせてもらうわよ!ドータクン!」

 連続してラスターカノンを打ち出すドータクン。
 ところが、そのラスターカノンの塊は、そのままゴウカザルに向かっていかず、空中で停止する。
 そして、五十ほどのラスターカノンが空中にとどまった。

「それを連続でかます気だな!?」

 アンカラがゴウカザルに手を差し出した。
 頷いてタッチすると、ゴウカザルはジャンプしてチェーンリフトのある天井へと逃げた。

「当たり♪いっけぇー!!」

 ドガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!

 まるで流星のごとく、攻撃は打ち出される。
 ゴウカザルは間一髪で攻撃をかわして行った。

「(あと10、9、8……!)」

 ドガガッ!!

「ゴウカザル!」

 最後の2発が当たって、ゴウカザルは地面へと落下する。
 だが、しっかりと足をついて着地をした。

「よし。今度はこっちの番だ!」
「また『ブラストバースト』ね!?」

 回避の後半から、ゴウカザルが両手を合わせて力を溜めていたことをナルミはしっかりとわかっていた。
 でも、攻撃は防げると言う自信から、たいした懸念はしていなかった。

「食らえっ!!」

 ゴウカザルの掌から打ち出される強力な火炎弾。

「同じことよ!『スチールカーテン』!!」

 透明なのに光り輝くオーロラのような壁がナルミとドータクンの前に張り巡らされる。
 この技でナルミは攻撃を防げる。
 と、そう思っていたのは間違いだった。

「え!?」

 何故なら、さっきと条件が違っていたからだ。

「ぶち破れ!ブースター!」
「(……ゴウカザルの『バーストブラスト』の炎に覆われたブースターが突撃!?ヤバイ……!!)」

 ゴウカザルの最強の技にブースターの攻撃能力。
 この二つの掛け合わされてしまい、ナルミのヤバイという予感は見事に的中。

 ドゴォ――――――――――――ンッ!!!!

 爆発で壁は壊れ、ナルミを守ったドータクンは倒れてしまった。

「それなら……きゃっ!!」

 何かの尻尾がナルミに襲い掛かっていた。
 それがブースターとだと言うことは、間違いないのだが。
 悲鳴をあげながらも、何とか攻撃をかわしたナルミは、ブースターと間合いを取った。

「(とにかく、あのブースターを倒さなくちゃ!ゴウカザルとコンビプレイされたら厄介だわ!……あれ?)」

 腰元にあったモンスターボールを掴もうとするが、空をきる。

「ない!?」

 キョロキョロと辺りを見回すと、地面の隅っこに自分のモンスターボールがすべて叩き落とされていた。

「(さっきのブースターの尻尾攻撃は『叩き落とす』攻撃!?)」

 慌てて取ろうとするが……

「もう動くなよ!」
「……うっ……」

 ブースターとゴウカザルがナルミを包囲した。
 ナルミは冷汗を流す。

「動かなければ、撃たないからさ!」

 そういって、ニヤリとアンカラは勝利を確信したのだった。



 第三幕 The End of Light and Darkness
 混迷のニケルダーク島② ―破天荒オヤジのコズマvs慈愛のソフィア― 終わり



 ダークポケモンをスナッチすること……それがスナッチャーの宿命。


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Last-modified: 2015-12-26 (土) 09:51:06
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