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たった一つの行路 №236

/たった一つの行路 №236

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「……え?」
「オーゥ?お前さんは……」

 ばったりと2人は顔を見合わせた。
 少女とオヤジが前に会ったのは、アイオポート。
 ここでの出会いで2回目である。

「あー!あのときの変態オヤジ!」
「変態オヤジじゃねぇよ。親切オヤジだ」
「どこが親切なのよ!」

 そのファーストコンタクトが、とにかくナルミにとって記憶に残したい思い出ではなかった。
 しかし、それでも記憶に残っているのにはワケがある。
 実際戦ってみて、ナルミはこの男が半端じゃない強さを持っていると感じたからである。

「まさか……私のことを追いかけてきたって言うの!?サイテー!ヘンタイ!ストーカー!」
「いくら俺様でも、一度逃げた女を追い回すのは趣味じゃねーよ!」
「じゃあ、なんでここに居るのよ!?」

 本当に嫌そうな目をして、ナルミは手拭いをした親父を見ていた。

「あ、ナルミさん」

 ナルミが変態オヤジと罵る後ろの方から、一人の美しい顔立ちの女性が歩いてきた。
 それを見て、慌ててナルミは彼女の腕を掴んでオヤジと引き離した。

「ミライさん、あのオヤジは変質者よ!近づいちゃダメ!」
「え?ナルミさん……この方は……」
「なんだ。ミラちゃん、そこの嬢ちゃんと知り合いなのか?」
「ええ」

 変態オヤジの言葉にミライは首を縦に振って頷く。
 それを見て、ナルミは面食らった表情をしている。

「どういうこと……? 知り合いなの……?」
「はい。この方はコズマさんと言います。そして、ラグナくんのお父さんなんですよ」

 次の瞬間、フェナスシティのポケモンセンターに驚嘆の声が響き渡ったと言う。



「カズミ……?」
「うん……そうだよ……カズミだよ、ユウナおねえちゃん……」

 個室の中にユウナがいた。
 そして、その彼女に向き合って座っているのがまだ6歳くらいの幼女のカズミだった。

「……うん。確か……キャメットの温泉街でラグナに助けられたのよね」
「うんっ、そうだよ!」

 ぱぁっとカズミは笑顔になる。

「ラグナおじさまがね、たすけてくれたから、いまのわたしはここにいるの。しょうらいはラグナおじさまのおよめさんになるの!」

 屈託のない笑顔でカズミは笑う。
 それに釣られてユウナも微笑んだ。

「…………」
「…………」

 その様子を部屋の外で見守っているのは、所々に怪我の処置をして、ボロボロの格好をした2人……リクとジュンキだった。

「案外、記憶の方は何とかなりそうだな」
「そう……ですね……」

 どこか不安そうにリクはジュンキの言葉に頷く。

「後はユウナが戦えるようになってくれれば、一気にクロノをぶっ潰せる!」
「…………」
「なんだよ」
「え?」
「辛気臭い顔して、不安なことでもあるのか?」

 ジュンキは基本空気な男だが、このときはリクの空気を読んだ。

「ユウナさんの記憶……このまま戻してしまって大丈夫なのでしょうか?」
「……? どういうことだ」
「ユウナさんが記憶喪失になってしまった原因と言うのが、バンさんを殺してしまったと言う理由なら、思い出させてしまうのは重荷になるんじゃないかと思うんです」
「つまり、その事実を消したいがために、ユウナは記憶を失ったって言いたいのか?」
「その通りです」

 リクはジュンキから目を伏せて呟いた。

「じゃあなにか、バンの兄貴のことはこれから話題にもせずに居なかったことにしろと言うのか!?」
「そこまでは言っていません……」
「同じことだろ」
「…………」
「…………」

 ジュンキはキッとリクの顔を見ていた。
 肝心のリクは気まずそうに目を合わそうとはしなかったが。

「……わかった。ミナミにもこのことは俺から言っておく。お前だって辛いのに、当たって悪かったな」

 ジンジン痛む背中の傷で顔を歪ませながら、ジュンキはミックスオレを飲んでいる。

「しばらくは……これでいくしかありませんよね……」

 しばらく、二人の間に沈黙が流れる。

「話は変わるが……」

 ここで空気を変えたのはジュンキだった。

「俺はカズミの将来が少し不安になってきたぞ」
「どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味だ!ラグナのお嫁さんになるとか言ってんぞ!?」
「いいじゃないですか。とても微笑ましいじゃないですか」

 リクはスマイルで言うが、ジュンキは難しい顔で唸っていた。

「へぇー。ウチのバカ倅、あの嬢ちゃんに好かれてんのか」
「……!? どちら様ですか!?」

 突然現れた手拭い上半身露出男を見て、リクは構える。
 松葉杖をついているために、そう速くは動けないが、それでもリクにしては素早い動きだった。

「ラグナの父親だとよ」
「ラグナさんのお父さん!?」

 コズマはその二人の間を通り過ぎて、部屋に入っていった。
 もちろん、部屋の中の二人はきょとんとした顔でコズマを見ていた。

「嬢ちゃん。ラグナのことが好きなのか?」

 ただ、一言コズマは聞いた。
 その答えに、カズミは大きく首を縦に振った。

「ラグナおじさまはね、わたしのいのちのおんじんなの!」
「そか。助けられたのか。じゃ、このスペシャルなおじさまが、マーベラスな餞別を送ってやろう。手を出しな」

 カズミはなんの迷いもなく、コズマの前に手を差し出した。
 その手に渡されたのは、1つのモンスターボールだった。

「これって……ポケモンのたまご……?」
「俺様からのアドバイスだ!もしラグナに近づきたいなら、強くていい女になれ!」
「つよくて……いいおんな……? うん、わかった!!」

 屈託のない笑顔でカズミは頷いた。

「オーゥ。グレイトな笑顔だ!」

 クシャっと親父も笑顔になった。

「リク、あれ、止めなくていいのか?」
「小さい頃からポケモンを持つことはいいことだと思いますよ。まして、タマゴですし。カズミちゃんならよいポケモントレーナーになると思います」
「どうだろうな」

 ミックスオレの缶を投げ捨てて、ジュンキはその場を去って行った。

「よかったね。カズミ」
「うん!」
「ところでそこの嬢ちゃんもラグナのことを知っているのか?」
「え…………まあ…………」
「あっ、ちょっと待ってください!」

 ユウナに質問しにかかったところで、リクがコズマの元へと近づき、引っ張っていった。
 松葉杖のために、そんなに力強くはなかったが。
 そんな二人を見送って、カズミとユウナは再びお喋りを再開したのだった。



 その半日後の出来事である。
 病院のある一室にSHOP-GEARのメンバーが集まった。
 とはいえ、半分くらいはそのメンバーではないのだが。

「これから、今まであったことをまとめます」

 発端はポケモン総合研究所がCLAW<クラウ>の幹部ベルに襲撃されて、破壊されたところから始まった。
 トキオからその報告を受けたSHOP-GEARのメンバーは、カズミとミライを残して、オーレ地方へとやってきた。
 だが、時を同じくしてアゲトビレッジでは、風霧のウゴウとCLAWのベルが祠を壊そうと襲い掛かってきた。
 カレンとハルキを含めたアゲトビレッジの人々は応戦し、いち早くその狙いに気付いたユウナはログを連れてアゲトビレッジへ行ったのだが、彼らを止めることはできなかった。
 それからSHOP-GEARはオーレ地方の調査に乗り出し、CLAWのアジトを突き止めることに成功した。
 ところが、CLAWと風霧が手を組み、SHOP-GEARを潰そうとしてきた。
 その戦略に見事にはまってしまい、バンは風霧のボス:バドリスの前に倒れ、ユウナはアジトで捕まってしまう。
 満身創痍のSHOP-GEARだったが、傷だらけのリクがカレンとハルキに協力するように頼み、アジトへと潜入する。
 結果的にCLAWという組織は壊滅したと言ってもいいが、バンの死と新たな敵の出現と言う衝撃的な結果を生むことになった。
 新たな敵のリーダーと言うのは、かつてダークスターのメンバーに所属していたクロノだった。
 クロノは5つの場所に蒼い光の装置を設置して、オーレ地方を水晶のように凍りつかせようとしていたのだ。
 当然、SHOP-GEARはそれを止めるために動いた。
 しかし、この戦いでハルキ、ログが帰らぬ人になり、アイとミナミとカツトシが帰って来ない。
 バトル山とスタンドの南東とオーレコロシアムの装置を壊したのだが、まだポケモン総合研究所と風霧のアジトが残っている。

 と言うことをリクはまとめて話した。

「すぅ……すぅ……」
「おいっ!寝るなっ!!」
「ふぁ!?」

 ジュンキの隣でぐっすりと寝ていたのはケイ。
 叩き起こされ、ごしごしと目を擦っている。

「てか、ミナミとこいつの妹のアイが帰って来ないぞ!?何かあったんじゃないか!?」
「大丈夫だよ」
「どこがだ!?」

 自信を持って発言するケイに対して、ジュンキがツッコミを入れる。

「オーゥオーゥ、ともかくそこのボウズが言ったニケルダーク島に行けば、オーレをこんな風にした張本人に会えるし、固化現象の解き方がわかるってわけだな?」
「そうですね。でも……そこにはどんな罠が待っているかわかりません」
「そんなの関係ねえだろ。罠なんて踏んづけてなくしちまえばいい!」
「いや、踏んだら元も子もないだろ」
「じゃ、俺様とニケルダーク島に行く奴は誰だ!?」
「聞けよっ!」

 すっかりツッコミ役に回っているジュンキ。
 だが、そんなものをもろともせずにコズマは立ち回る。

「僕は無理です……」

 とリク。
 無理もないだろう。
 ポケモン総合研究所跡で風霧のバギマと戦い怪我を負い、更にCLAWのアジト潜入の時にシファー、バトル山でログと戦い、いずれも負けている。
 戦いの度にリクは怪我を負い、今は松葉杖をついて歩ける状態だった。

「私は行ってもお役に立てるかどうかわかりません……」

 と、ミライはしょぼーんとする。

「じゃ、決まりだな」

 そういって、コズマは立ち上がってぐいぐいとある二人を抱き寄せる。

「俺とボウズと嬢ちゃん、この3人でニケルダーク島へ行くぜ」
「ふぁ~?」
「え!?ちょっと!?」

 ケイは特に驚きはしなかった。
 逆に激しく驚いたのは、キャミソールの普通の女の子だった。

「ちょっと!なんで私が行く羽目になるの!?」
「どうせ、ここにいてもすることないんなら、お前も来いよ!今度こそ手取り足取り……」
「この……変態オヤジ……」

 ジト目でナルミはラグナの親父を罵るのだった。

「カツトシさんからも連絡がないんですが……」
「あいつ?ああ。そんな奴もいたな」

 と、ジュンキ。

「ジュンキくん!カツトシさんを忘れるなんて酷いんじゃないですか?」
「そうよ!人間として最低よ!」
「……オイ、お前ら……」

 ミライとナルミの総口撃を受けて、ジュンキは表情を引きつらせる。
 いつも、俺のことを忘れるクセにと言いたげだ。

「それなら、私がアイちゃんとミナミさんを探してきます」
「オイ、ミライ。一人で行くんじゃない!俺も行くぞ」

 と、ジュンキもミライに同行することになった。

「本当はユウナも一緒に戦えればいいんだが……」

 ジュンキが言葉を濁しながら、ユウナとカズミの方を見る。
 ユウナは記憶を取り戻すのに必死になっている。
 だが、バンのことになると頭を抑えて苦しんでいた。

「やっぱり……バンさんのことを引き摺っているために記憶喪失になったみたいですね……」
「…………」

 リクの言葉に、全員複雑な表情で頷いたのだった。

「オーゥオーゥ、腕がなるぜ、マーベラス!」
「ふぁぁぁ……」

 この2人以外は。



 77

 少し前のこと。

「……ぐっ……」

 電撃を受けてボロボロの焦げ焦げの青年が地下室にいた。
 ここはどこかというと、はっきり言ってしまえば、風霧のアジトの地下である。

「ぐわぁぁぁ……」

 体は切り刻まれて、更にビリビリと体に帯電した電気が彼の体を支配していた。

「ぐっ……ぅ……」

 そして、仰向けになると空から光が差した。

「(こんな地下に……光……?)」

 天井が壊されていることに彼は気がついた。

「(そうだ……あのナポロンとの戦いに負けたんだ…………あれ?)」

 カツトシは気が付く。
 負けて倒れているにもかかわらず、拘束は一切されていない。
 殺すと言う選択肢が相手にないのなら、拘束くらいはされててもおかしくはないと思った。

「(何にしてもこれは……)」

 彼の目船の先には、蒼い光の装置があった。
 無防備なほどに。

「これを……壊す……!」

 カツトシはトリトドンと共に、その装置へと這って行き、攻撃を放った。

「くっ……限界……だ……」

 そして、装置を壊すと、彼は体の痛みと痺れから再び意識をなくしてしまったのだった。


 今、最終決戦が始まろうとしている。


「やめ……て……ティラナぁ……」
「うるさい!この雌牛!」
「あっ♪ティラナのポエム発見したぜ♪」
「なっ!?アンカラ、やめなさいっ!(赤面)」

 ニケルダーク島でなにやら和んでいるのは、ポケモン総合研究所を守護していたアンカラ、ソフィア、ティラナの女ユニット。
 そして……

「まったく。楽しいけれど、そろそろ作戦が始まることを自覚して欲しいな」

 3人に注意を促す。
 アンカラはその言葉に耳を傾けず、ティラナはアンカラのイタズラに振り回される。
 ソフィアだけがおとなしめに返事をする。
 しかし、雰囲気的に何故か落ち込んでいるようだ。
 それを確認してからクロノが後ろを振り向く。

「お前もそう思うだろ?」
「……ふっ……」

 そこにいたのは漆黒の何かで、鼻で笑ったようだった。


「こんなことになるなんて……」

 部屋に閉じ込められし、月島の踊り子。
 彼女は与えられた服を、シーツに包まったまま拾い上げた。

「私の言葉は……クロノさんに届かない……?」

 服を丸く包めて、抱きしめる。
 やや呼吸が早く、顔が赤く上気しているようだった。

「この部屋から出られない私は、クロノさんを止められない……?」

 バタンとベッドに横になるオトハ。

「どうすればいいのでしょうか。教えてください……」

 目をぎゅっとつぶった。
 そして、一人の男の姿が目に浮かんでくる。

「助けてください……ヒロトさん……」


 さらに……

「FUFUFU……」

 オオスバメに乗って、タキシードを着た男がオーレ地方の空を西に向かって飛んでいた。

「面白いことになりそうですNE」

 ナポロン……いや、ザンクスも動きだす。


 一方……

「リクおにいちゃん……みんなはだいじょうぶなの?」

 フェナスシティの病院に残っているのは、リク。
 幼い女の子のカズミは、この病院を飛び出して行った者たちを心配した。
 ここは大丈夫ですよと言おうとするリクなのだが、悪いことに悪いことが重なりすぎているせいですぐに実行に移せなかった。

「大丈夫よ」

 そのせいで、先にカズミを宥められてしまった。
 ベッドで休んでいるユウナだ。

「みんな、強いもの。そうでしょ?」
「……はい。その通りです」

 ユウナの言葉にリクは、強く頷いた。


 オーレ地方の……いや、すべてのアワ界の運命をかけた戦いが今、始まろうとしていた…………!



 そして……

「ここが問題の時代か?」

 首に赤いマフラーをした黒髪をした少年が海の上に突然現れた。

「……え゛?海の上?」

 ドボンッ!

 当然、少年は海の中に落ちたのであった。

「いきなりなんだ、このオチはっ!!聞いてないしっ!!うわっ!溺れるッ!!(汗)」



 たった一つの行路 №236
 第三幕 The End of Light and Darkness
 タイムリミットカウントダウン 終わり



 辿り着いた3人の前に立ちはだかる強敵は……?


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Last-modified: 2015-12-24 (木) 21:51:12
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