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たった一つの行路 №234

/たった一つの行路 №234

―――「ラグナくーん」―――

 それは幼い日のこと。
 ミライ、そしてラグナが旅立つ数年くらい前のこと。

―――「なんだよ、ミラ」―――

 額に絆創膏をした不機嫌そうな表情をしたのは、幼い頃のラグナ。
 だが、不機嫌な表情をしたのは、少女に呼ばれたからではない。

―――「そんなに不機嫌そうにしてどうしたの?」―――
―――「オーゥオーゥ、そんな不機嫌な顔をしてどうしたんだ、ラグナ?」―――
―――「親父がいるからだろうが!また、なんか変な事をさせる気じゃないだろうな?」―――

 ミライの後ろにヌッと存在するのは、ラグナが親父と称する実の父親、コズマだった。

―――「変な事?バカな事を言うんじゃない。俺様はお前を一人前の男にするために修行をつけているだけだ」―――

 胸をドンッと叩いて、自信を持ってコズマは言う。

―――「というわけで、今日はクロガネ炭鉱の探検だ」―――
―――「……まだポケモン持ってねぇし!」―――
―――「何を言ってんだ。男たるもの、ポケモンとも素手で渡り合わないといけないぞ」―――
―――「そんなことをするのは親父だけだっ!!」―――
―――「とにかく行くぞ」―――
―――「は、放せっ!!」―――

 小さい頃のラグナは、背丈でコズマに敵うはずがなく、あっさりと片手で背中を掴まれて拉致されたものだった。
 そして、クロガネ炭鉱で酷い目に遭い、またはキッサキ南の猛吹雪やエイチ湖の寒中水泳など、さまざまな悲惨な目を辿ったらしい。

―――「……ラグナくん……」―――

 その修行の成果をミライはずっと見ていた。
 何せ、ポケモントレーナーとして旅立つそのときまで、ラグナはずっとコズマの修行を受け続けたのだから。



―――「おぉ、ミラちゃん。どうしたんだ?」―――

 ラグナが旅立って3年ほど経った時、ミライはクロガネシティでコズマに再会した。
 ラグナもミライもコズマも3年前に旅立って、互いに連絡を取っていたのはラグナとミライの間だけだった。
 しかし……

―――「ラグナくんとの連絡が取れないのです……」―――
―――「息子との連絡が取れねぇか……」―――
―――「はい……。『ホクト地方でバッジを8つ集めてポケモンリーグに出場してやるっ!』と連絡があったのを最後で、後は……」―――

 ちなみにちょうどこの時、ラグナはロケット団に入って行方をくらましたときだった。

―――「そっか……バカ息子を気にしてくれているんだな……ありがとな」―――
―――「あ……ええと……」―――

 ミライはなんて答えたらいいかわからず、顔を赤くしてうろたえた。

―――「こんな可愛い子が心配しているって言うのに……次にあいつにあったらヤキを入れてやらないとな!」―――

 この時、ミライは思った。
 ラグナを追い続けて再会したら、子供のときのように優しく見守って放さないようにしようと。



 たった一つの行路 №234



「ラグナの父親……あいつが?」
「そうです」

 ドゴォッ!!

 猛烈な炎の火柱が立ち上がり、オーダイルが繰り出したハイドロポンプを蒸発させる。

「ぐっ……水系の攻撃が歯が立たないだと!?」
「その程度の炎なんざ、俺様のバクフーンの炎の前じゃ霞んじまうぜ?」
「それなら、『ストーンエッジ』!!」

 オーダイルが繰り出す、岩の破片。
 マルクのすべてのポケモンは、普段は覚えないような技を覚えている。
 それがマルクが血の滲んで取得したポケモン覚えさせのスキルである。
 本当に血が滲んでいたかは知らないが。

「オラッオラッオラァッ!!」

 ドガッ! ドガッ! ドガッ!!

「通じない!?」

 飛んできた岩の破片をバクフーンは、殴り飛ばし、蹴り砕き、挙句の果ては頭突きで粉砕して行った。

「吹っ飛べっ!」

 オーダイルの射程距離に入ったときに、繰り出した技は『フレアドライブ』。
 体全身に炎を纏い、爆発的な威力で相手を吹っ飛ばす大技だ。
 攻撃を受けたオーダイルは、ドンッ!ドガッ!と転がって行き、仰向けに寝転がった。

「……なんていうか……」

 ここでジュンキがポツンと言った。

「ラグナと……性格もバトルスタイルも似ている気がする……」
「その様ですね」

 格好も上半身のラインがしっかり見えるように似ている。

「ふっ……まだやる気だな?」
「「え……?」」

 カビゴンをも吹っ飛ばすほどのフレアドライブを決まってもなお、オーダイルはまだ立ち上がった。

「こいつは防御には自信があるんでな。さて、最近覚えさせた技を試すか。オーダイル!」

 マルクに指示を出されると、目を閉じて何かを考え始めた。

「……あの技は、『わるだくみ』ですよ!?」
「オーゥオーゥ、肉弾戦で敵わないと見て、遠距離戦で行こうってか?案外賢いじゃねーか。だが……」

 ドガッ!!

「(速っ!?)」

 これぞ電光石火。
 早業で瞬時にオーダイルへと詰め寄り、タックルで吹っ飛ばした。

「しかし、その程度の攻撃では破れないぞ!オーダイル、もっと力を蓄えろ。フーディン!ウソッキー!援護しろ!」

 オーダイルの周りに他のポケモンも繰り出した。
 オーダイルの力が最大になるまで、耐え切る作戦のようだ。

「そっちがその気なら、こっちもポケモンを追加させてもらうぜ」

 そういって、コズマが繰り出したのは得体の知れないツルがモジャモジャしているポケモン。
 草系のモジャンボだ。

「フーディン!」

 テレポートで消えたと思ったら、すぐにモジャンボに近づいていた。
 そして、スプーンから繰り出したのは透明の冷気を帯びた光線だ。

「『冷凍ビーム』……!?」

 ジュンキの驚く間もなく、攻撃はモジャンボに命中した。
 しかし、まったくコズマは動じていない。
 それもそのはず。
 モジャンボの目の前には、壁が存在していたからだ。

「あれはなんだ?」

 よく見ると光の壁ではない。
 凍り付いているのはもじゃもじゃとした物だった。

「『つるの盾』のようです」
「盾……?」
「モジャンボの体にあるツタを使って、目の前についたてを作り出すのです」
「随分器用なことをするんだな……てっきり、パワータイプだと思っていたが……」
「……ジュンキ君の言うとおりですよ?」

 バキッ!!

 ミライがジュンキを肯定したとき、一本のムチがフーディンに命中した。
 それだけで、フーディンは瀕死に陥ろうとしていた。

「危なかった……『気合のタスキ』をしていなかったら、これでやられていたところだったな!」
「これで俺の攻撃が終わりだと思ったか?」
「……? ウソッキー!」
「跳べっ!バクフーン!」

 フーディンがモジャンボの攻撃を受けて地面に付く前にコズマ側とマルク側のポケモンが動きだす。
 その激突の前に地面から大きな根っこが飛び出してきた。

「……これは、『ハードプラント』!?モジャンボか!?」

 マルクの予想は当たりで、地面に向かって根を張っているモジャンボの姿があった。
 そして、その攻撃は着地しようとしていたフーディンと突撃してきたウソッキーにも命中して、突き上げた。
 そこへ舞っていたのは飛び上がっていたバクフーンだ。

「『メテオメガ』!」

 両手から直径2メートルほどの火炎弾をウソッキーを中心に放ち、命中させる。
 モジャンボが繰り出したハードプラントにも引火し、まさに地獄の炎を2匹は受けてダウンした。

「だが、時間は稼いだ!オーダイル、『ハイドロポンプ』!」
「バクフーン!」

 呼びかけられたバクフーンは、体に炎を纏って、オーダイルの攻撃を防ぐという作戦に出た。
 だが、力を溜めていたオーダイルの攻撃力は、あっさりと炎のベールを貫いて、バクフーンに直撃した。
 跳びあがっていたバクフーンは地面に不時着した。

「ハッ!流石にそのバクフーンの防御でもオーダイルの最大パワーは防げないようだな」
「別にそうではないぜ?」
「あ゛?」
「バクフーン、『ストラグルメテオメガ』!!」

 バクフーンは跳び上がる。
 先ほどと同じように両手から直径2メートルの炎の塊を繰り出した。
 しかし、違うのはその炎の塊を放った後にバクフーンも落ちてくることだった。
 体をぐるぐると回転しながら落ちてくるその技は、さながらネズミ花火を連想させながら落ちてくるでっかい隕石だ。

「何を……!潰してやる!『ハイドロカノン』!」

 対するマルクのオーダイルの繰り出してくるのは、水の究極の技だ。
 バクフーンに狙いをつけて、攻撃をぶつける。
 ぶつかっている間が戦いだった。
 バクフーンは炎を纏い回転しているおかげで水を弾いていく。
 とはいえ、オーダイルのハイドロカノンはバクフーンを押し戻そうとする。

「吹き飛べ」

 オーダイルが全力を出した。
 その瞬間、バクフーンは吹っ飛ばされた。

「はぁはぁ……どうだ?」
「どうもこうもねぇな」
「なっ?」

 次の瞬間、オーダイルがマルクに向かって吹っ飛んできた。

「(モジャンボの『パワーウィップ』か……!?)」

 共に吹っ飛んだオーダイルとマルクはそれでも気を失わずに体勢を立て直した。
 だが、更に迫り来るものがあった。
 オーダイルがすでにその攻撃を受け止めていた。
 受け止めていたとは言うものの、もうすでに吹っ飛ばされている。

「(バクフーン……だと!?)」
「『ストラグルメテオメガ』はまだ終わっちゃいねーよ」

 バクフーンが回転を止めた時、纏っていた炎を集約して素手で投げつけた。
 同時にオーダイルが吹っ飛び、マルクに積み重なった。
 それを見て、モジャンボを戻した。

「おうし。片付いたな。後はあの装置を打っ壊すだけだ!バクフーン!」

 息を吸い込んで、背中からの炎を噴出する。
 飛び出してきた必殺技『噴煙』は、狙いを装置に絞って当てようとしていた。

 ドゴォッ!!

「あっ!?」
「むっ」

 ところが攻撃を一匹の岩タイプのポケモンが阻んだ。

「こんなオヤジに……負けるのは……この俺のプライドにヒビが入る……」

 頭がでっかい化石ポケモンの一種、ラムパルドがギロリとコズマとバクフーンを睨む。

「じゃくせー!!『気合玉』!」
「(じゃくせー……ってなんだ?)」

 バクフーンのニックネームじゃないよな?とジュンキが疑問に思う最中、バクフーンの攻撃がラムパルドにヒットする。
 この一撃で倒したと思いきや、踏みとどまるラムパルド。

「(この一撃を凌ぎやがった?……って事は次の技は……) めんくせー!バクフーン!」

 気合玉のモーションを取るバクフーン。
 しかし、その気合玉を口の炎と一緒に吐き出した。

「『グレネードバースト』ぉ!!」

 一方のラムパルドは最後の一撃を頭に乗せて突っ込んできた。

「『きしかいせい』っ!!」

 その中心で攻撃はぶつかり合う。

「おぉぉぉぉっ!!いっけぇぇぇぇぇっ!!」
「なにぃっ!?」

 拮抗していたのは最初の数秒だけ。
 その後は一気にバクフーンの炎を纏った気合球が押し切り、ラムパルドを跳ね飛ばし、更に……

 チュドォ―――――――――ンッ!!!

 装置をも打っ壊した。

「ぐっ……!! 負けた……だと……!」

 その装置の近くにいたマルクは、爆発の巻き沿いをくらい、ひと時の眠りに付いたのだった。



「なるほどな。それで、オーレ地方はエマージェンシーになっているってことだな」

 コズマはミライの話を聞いて頷く。
 気絶しているマルクを完全に放置していた。

「んで、バカ息子は行方不明ってワケだ。まさにアホみてーな話だ。仕方がない。この俺様がそのボスのケツをひっぱたいてやるか」
「え?コズマさんが……」
「あいつに見合い話を持って行ってやろうと思ったんだがな……!いないんじゃ、話にならない」
「お見合い……?」
「万が一の話だ。まー、お前さんと息子がデキているんだったら、話は別だけどな」
「…………」

 そう言われて、最初は赤くなったミライだが、実際にラグナとデキているかと聞かれると、首を縦に振ることはできないとミライは落ち込む。

「とにかく、なんだ?どこへ行くんだ?」
「ええと……」

 進むべき道に迷う2人。

「まずはフェナスシティに戻るぞ」
「……ん?おっ!?テメーは一体いつからそこに!?」
「…………」

 どうやら、コズマに認識されていなかったジュンキであった。



 75

 ―――オーレコロシアム。

「うぅ……」

 薄れ行く意識の中、彼は鈴のチョーカーをつけた女に手を伸ばした。

「ぜ~んぜんね!あんたもカレンたちと同じ中で眠りなさ~い♪」

 ベルの隣にはわるいカビゴン。
 だが、一番に気になったのは彼女の向こう側にいる自分が守りたいと思った人。
 しかし、闇に溶けて行く意識。

「(……お姉……ちゃん……)」



 ―――「ケイはやさしいな」―――
 ……あれ?この声って?
 ―――「このやさしさがあれば、きっと僕よりも強いトレーナーになるんじゃないかな。ゆくゆくは立派な博士に……」―――
 ―――「あなたったら……。この子の未来はこの子が決めるのよ」―――
 ……母さんの声……そして……父さん……?
 ―――「リリア、もちろんわかっているよ。しかし、妹のアイにも他の誰にもケイは優しい。のんびりしたところはあるけれど、穏やかな性格はケイの持ち味だよ」―――
 ―――「穏やかといえば、ケイはまったく怒らないわよね」―――
 ―――「そう。怒りという感情も大事だけど、何よりも僕は、ケイにやさしさを大事にして欲しい。そのやさしさは武器だよ。その武器さえ持てば、どんな相手にも勝つことはできると僕は思うんだ」―――
 やさしさ……?
 やさしさが力になるの?
 どういうことだろう……?
 わからないよ……
 ―――「すべてを包み込む力。包容力。ケイ……誰にでもやさしくなるんだよ。やさしさは人もポケモンも救うんだ」―――
 怒りよりも優しさ……。
 つまり、許すということ……?
 そうすれば、強くなれるの……?
 お姉ちゃんを悲しましたあの女の人を……僕は許せる……?
 …………。
 ―――「ケイ。お前ならできる」―――
 ……父さん……。



「……さ~て、宣言どおりに凍らせてあげようかしら♪」

 さぞ楽しそうにベルはケイに近づいていく。
 しかし、ぴくっと指を動かした時、その楽しそうな表情は消え、カビゴンを前線に立たせた。

「どうやらまだのようね」
「…………」

 ケイはゆっくりと無言で起き上がる。

「(……なんか雰囲気が違う……?)」

 ベルはゆっくりとケイを見て、冷静になった。
 何かが来ると、思ったのだろう。

「(ここは……) 起き上がっても無駄よ。あんた程度じゃ、カレンの笑顔は守れないのよ!カビゴン!」

 再びカビゴンは体重を減らして、高速のスピードでケイに接近していく。
 あえて、ベルはカビゴンに攻撃の指示を出したのだ。

「……僕は……わかったよ。きっとあなたは退屈で苦しんでいるんだ」

 ドゴッ!!

「!?」

 猛スピードのカビゴンが吹っ飛ばされた。
 それも、その一撃を受けて、カビゴンは体重がドンッと戻った上にダウンしてしまった。

「(今の状態は防御力が弱いから仕方がない。でも、あのスピードを当てていくなんて……)」

 ケイのポケモンを見て、ベルははっとした。
 『ドラゴンクロー』を放ったケイのポケモンがやや白い光を帯びているのが見えたのだ。
 そして、穏やかな笑みをケイは浮かべた。

「僕は……あなたを救ってみせる」



 第三幕 The End of Light and Darkness
 コールドペンタゴン⑨ ―ケイのやさしさ― 終わり



 悪意vs善意。わるい人とやさしい人。わるいポケモンとやさしいポケモン。


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Last-modified: 2015-11-24 (火) 22:52:26
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