ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №229

/たった一つの行路 №229

 ☆前回のあらすじ
 オーレ地方は5つの地点にある謎の蒼い光による柱によって支配されつつあった。
 その現象を巻き起こした連中というのは、クロノの一団だった。
 クロノの一団を止めるために、SHOP-GEARと仲間達は5つの地点へと向かっていた。
 町外れのスタンドの南東に向かっていたジュンキは、操られていたミナミを解放するが、盗空のマルクがジュンキの前に立ちはだかる。
 エクロ峡谷近くの風霧にアジトに辿り着いたカツトシは、記憶喪失のナポロンとバトルを開始して苦戦を強いられる。
 ポケモン総合研究所のアイとミナミは、アンカラ、ソフィアおよびティラナの3人娘と対峙することになった。
 オーレコロシアムで待ち構えていたのは壊滅したCLAW<クラウ>の幹部のベルだった。カレンとハルキが戦おうとするが、そこへクロノまで現れた。
 そして、リクは現在バトル山へ向かっている途中である。



 67

 ―――フェナスシティの病院。
 おかっぱ頭の少女がベッドの淵で座ってじっとしていた。
 少女の目に映るのは、ヘッドバンドを外した茶色の髪の少年とセミロングの華麗な女性だった。

「ユウナおねえちゃん……」

 主に少女が心配しているのは、いつも慕っているユウナの方だった。
 テキパキとした行動力に、優れた決断力、少女の目から見ても目を見張るものがあった。
 それだけに、目を全く覚まさないのは少女にとって、涙が出そうになるほど心配だった。

「おきてよ……」

 リクが病院を発ってから数時間の間、少女はユウナを見守っていた。

「…………?」

 そのときのことだった。
 音もなくスッと起き上がる者が居た。
 少女は驚いて、彼女に飛びついた。

「ユウナおねえちゃん!!心配したんだよ!!」

 喜んで彼女の胸元で泣く少女。
 自分のことを助けにきてくれたユウナが、ビデオ越しに倒れるのを少女は見ていた。
 だから、こうやってユウナが無事でいてくれるのが何よりも少女は嬉しかった。

「…………」

 ボーっとユウナは少女の頭に手を置き、軽く頭を撫でてあげる。

「ユウナおねえちゃん……いまね、リクおにいちゃんやミナミおねえちゃんたちがそとへしごとにいっちゃったの……。だから、いっしょにいよう?」

 当然、少女はユウナが頷いてくれるものと思っていた。

「……リク……ミナミ……」

 名前を一つひとつ読み上げるユウナ。
 そして、ユウナの口から飛び出してきたのは意外な言葉だった。

「それは…………誰なの…………?」



 たった一つの行路 №229



 68

「モココ!ベイリーフ!」

 電撃と草の最大技がリクを襲うポケモンたちに炸裂する。
 『かみなり』は飛んでいるポケモンたちを一掃し、『ソーラービーム』は地面に居るポケモンたちをなぎ払っていく。

「はぁはぁ……まさか、こんなことになるなんて思いもよりませんでした……」

 SHOP-GEARの技術者のリクは、現在バトル山のエリア76に到達していた。
 バトル山はエリアが100まであり、1ずつ勝ち抜いていかないことには最終地点のエリア100まで到達することはできない。
 彼がエリア100を目指す理由は、その場所にあると映像で確認した氷結現象の元凶である蒼い光の柱の装置の破壊である。

「敵が多いですね……」

 次々と現れるポケモンたち。
 飛行タイプや地面タイプなどさまざまなタイプのポケモンが、リクの前に立ちはだかっている。

「あなた達と戦っている場合ではないんです!リオル、『波動弾』です!」

 正面へ攻撃を飛ばし、エリア77へと足を進めていく。



 リクがバトル山に到着した時、既にエリア100から80までのトレーナーが凍り付けにされていた。
 つまり、そのトレーナーたちは戦う間もなく蒼い光の柱によって戦闘不能にされたのである。
 79以下のトレーナーたちは、急いで100エリアへ近づいて、その元凶を断とうとしたのだが、そこを守る謎のトレーナーによって阻まれていた。
 見知らぬ力を持った謎の人物に、バトル山のトレーナーは手も足も出ずに敗退したのである。
 緊急事態ということで、リクはスクーターを使って一気に60エリアまで進むことができた。
 しかし、そこからは100エリアから出てきたであろうポケモンたちによって阻まれて、スクーターを壊されてしまった。
 リクの力だけでは現在も足止めされて居ただろうが、50エリア以下のトレーナーたちも参戦して、何とかリクの通れる隙を作ってもらい、先に進んでいた。
 以上、70エリア以降はリク一人で進んでいたのである。



「ニドキング、『げきりん』です!!」

 ズドォンッ!!

「ドードリオ、『吹き飛ばし』です!!」

 ブワッ!!

「ナマズン、『しおみず』です!!」

 ズバシャッ!!

 6匹をすべて繰り出して、リクはポケモンをアイテムで回復させながら98エリアまで登っていった。
 ここまで到達すると、完全に地面は凍り付けになっていた。

「酷い……」

 もはや襲ってくるポケモンは全く居なかった。
 変わりに凍り付けになったトレーナーとポケモンによって襲われて気絶しているトレーナーがそこらじゅうに倒れていた。

「(こんなことって……。でも、よく見たらすべてのトレーナーのモンスターボールが空?もしかして……襲ってきたポケモンはすべて彼らのものということでしょうか?)」

 そう考えると、リクはこの場所を襲った犯人に目星がついた。
 信じたくなくて、その推論を否定したくて、走ってエリア99を駆け抜け、エリア100に到着した。
 エリア100の地面もやはり凍りついていたが、フィールドの下は火山がボコボコとマグマを噴いていた。
 落ちたら命はない。
 真ん中には凍りつく現象の元凶である蒼い光の柱の装置が立っている。
 そして……

「そんな……そんなことって……」

 その装置の傍にいる人物を見てリクはその推理が当たっていたことに愕然とした。

「…………。来たようだね、リク」

 紫色のバンダナに忍者のように口元に巻いて唇を隠す黒いスカーフ。
 彼はSHOP-GEARの仲間だったはずだった。

「ログさん……どうしてですか?僕たち……仲間じゃなかったのですか?」
「仲間……?ふっ。思い違いだな。僕は金のために君たちと行動を共にしていただけだ」
「金のため……?」
「そうだよ。SHOP-GEARで働くより、知り合いだったCLAWのボスのシファーの元で働くより、クロノの手足となって働いた方が金がもらえると思った。だからだ。そのためならなんだってやる。例え相手が元の仲間でもね」
「そんな事……」
「実際にユウナがCLAWに捕まったのだって、僕が金をシファーに積まれたからなんだよ」
「……! ウソ……ですよね?」

 リクは信じられない表情でログを見る。

「ウソなんてついてどうするの?僕はすべてのことを捨ててでも金を集める。そして、目標を達成する」
「目標って……一体何のために金を集めるんですか!?」
「…………」

 じっとリクはログを見る。
 だが、次のとき、ログの手元が動いた。
 繰り出してきたのは、尻尾を2本持ったエテボースだ。

「モココ!」

 ドゴォッ!

 リクのモココが前に出てかみなりパンチを打ち出した。
 だが、それよりも早くエテボースの尻尾がモココの手を払って、吹っ飛ばす。

「がら空きだよ」

 フリーになったリクに、もう片方の尻尾のアイアンテールが襲い掛かる。

「リオルっ!」

 ギリギリだった。
 一歩でも遅れていたら、尻尾の一撃を受けて気絶していただろう。
 リオルがエテボースの尻尾を素手で流した。
 『見切り』を使った防御の応用だろう。

「『ダブルアタック』!」
「リオル、もう一回です」

 エテボースの猛攻をリオルが受け止める。
 尻尾の1つの攻撃が凍りつく地面を抉っている。
 まともに入れば、致命傷になりかねなかった。

「モココ!『10万ボルト』です!」

 『ダブルアタック』を防がれたエテボースは、モココの一撃を避ける余裕が無かった。
 リクが2度目もリオルに防御させたのは、モココの体勢を立て直すためである。

「効かないよ」
「えっ!?」

 エテボースは尻尾をぐるぐると回し、電撃をシャットアウトした。
 そして、接近してきて、リオルとモココを蹴散らした。

「リオル!モココ!?」

 倒れはしなかったが、体勢を立て直している間にエテボースがリクに迫る。
 再び『ダブルアタック』が来るのを見越して、リクはベイリーフを繰り出した。
 『リフレクター』だ。

 ミシッ!!

「っ!?」

 わずか一撃目でリフレクターにヒビが入り、

 ズドンッ!!

「うわっ!!」

 二撃目でベイリーフとリクが同時に吹っ飛ばされた。
 ゴロゴロと転がっていき、リクはフィールドのギリギリのところまで押しやられた。

「(……うっ)」

 ちょうどリクは下を見てしまった。
 標高ウン千メートルというバトル山の高さ。
 そこから下はボコボコと沸き立つ溶岩。
 落ちたら命はないことを再び自覚し、ごくりと息を飲み込む。

「エテボース、そのままリクを落とすんだ!」
「っ!ベイリーフ!」

 リクと一緒に飛ばされていたベイリーフは、すぐにエテボースへと反撃を開始しようとする。

 ドガッ!!

 尻尾の二撃を受けてよろめくベイリーフ。
 しかしながら、その後で懇親のタックルを決めた。
 エテボースはログのところまで吹っ飛ばされた。

「(『カウンター』のようだね。それなら……) 決めろ、『気合パンチ』!」

 尻尾に力をこめるエテボース。

「(今のうちだ)」

 淵に居たリクはすぐにその場所へ移動し、ログへと接近する。
 気合を溜めているうちは、エテボースは攻撃ができない。
 その隙を狙って、ベイリーフは『ソーラービーム』の力を溜め始める。

「そこだ!」 「今です!」

 力が溜まったのはエテボースの方だった。
 しかし、その直後、すぐにベイリーフの力も溜まった。
 距離から言って、ベイリーフのほうが有利だとリクは思い込んでいた。

 ボゴッ!!

「えっ!?」

 リクは目を疑った。

「(今の尻尾の変化は……!?)」

 エテボースは何事もなかったかのように、尻尾を元に戻した。
 そして、その攻撃を受けたベイリーフはソーラービームを発射することもなく、地面にダウンしてしまった。

「エテボースの尻尾が伸びたのは僕の見間違いではないのですよね?」
「そんなに自分の目が信じられないのか?」

 本当にあったことだと納得して、ベイリーフを戻すリク。

「(今のエテボースの『気合パンチ』はまるでゴムのように伸縮した一撃でした。まったく、リーチを無視していますね) リオル!『波動弾』です!」
「無駄だよ」

 エテボースはスピードスターを繰り出して、波動弾を相殺する。

「リク……諦めるんだね」
「そんなことはしません!」

 リオルとエテボースが肉弾戦を繰り広げるが、徐々にスピードでリオルが押されて行く。

「モココ、『10万ボルト』です!」
「『影分身』!」

 先程よりも強力な電撃をエテボースに放つ。
 リオルがエテボースを相手にしている間に、モココは『充電』で電撃の威力を溜めていたのだ。

「当たらなければ意味はないよ」
「っ……ナマズン、『濁流』です!」

 茶色の津波をなまずのようなポケモンが巻き起こす。

「『スピードスター』!」

 その中心を狙って、星攻撃が茶色の津波に穴を開ける。
 そこから、エテボースとログが飛び出してきた。
 即座にエテボースはリオルに攻撃を仕掛けた。

「それとリク、忘れたわけじゃないよね?」
「……っ!」

 濁流攻撃をかわしたログの構えを見て、リクはひとつ思い出したことがあった。

「キャプチャ、オン」

 スタイラーを構えて、ログはぐるぐると棒を回し始めた。
 狙いはナマズンだ。

「戻ってください、ナマズン!」

 モンスターボールに戻そうとするリクだったが、既に遅かった。
 ナマズンはモンスターボールの中に入らなかった。
 代わりにナマズンは、『マッドショット』をモココに当ててきた。

「っ……!」
「僕は元々ポケモンレンジャー。このキャプチャの能力を忘れていたようだね」

 これでこの場は、リクがリオルとモココ。
 そして、ログの場にはエテボースとリクのナマズン。
 ナマズンをログに奪われた形になってしまった。

「ナマズン、モココを倒せ」

 ドゴォッ!!

 ナマズンの『大地の力』がモココにクリーンヒットした。
 味方を攻撃することに躊躇したモココは、そのまま無抵抗でダウンしてしまった。

「っ!このままじゃ……」

 バコッ!!

 リオルもエテボースの伸縮自在の尻尾になすすべなく吹っ飛ばされる。

「(一応、薬で傷は回復していると言っても、疲れは取ることができない。それに味方を攻撃するなんて……)」

 ナマズン、およびログを見て、目を瞑るリク。
 そこへエテボースがリクに襲い掛かる。

「(攻撃なんて……できない……)」

 ドガッ!!

「……!?」

 懇親の一撃だったエテボースの尻尾を止めた。
 そして、その尻尾を止めたのはリオルではなかった。

「……え?リオル……じゃなくて、ルカリオ?」

 リクの戸惑う声に進化したルカリオはコクンと頷く。
 更にエテボースの尻尾を持って投げ飛ばしてナマズンに当てた。

「…………」

 リクとルカリオはじっと目を見つめあった。
 先に目を閉じたのはリクの方だった。

「そうですね。わかりました」

 ルカリオの瞳にリクは意志を固めた。

「(今は戦うしかないんです。例えそれがかつての味方だったとしても……) ルカリオ、『神速』です!」
「エテボース!」

 ドゴッ!!

 2匹の攻撃がぶつかり合う。
 リオルだった時とは異なり、ルカリオに進化して攻撃の威力が格段に上がっていた。

「そこです!『波動弾』!」
「『アイアンテール』!!」

 ドゴォンッ!!!!

 攻撃が爆発し、エテボースが吹っ飛ぶ。
 勝利を確信した時、エテボースが尻尾を伸ばして、ルカリオに巻きつける。
 自身が吹っ飛んだ衝撃を利用して、ルカリオを投げ飛ばしたのである。
 エテボースはダウンするが、ルカリオも地面に叩きつけられてダメージを負った。

「ルカリオ、かわしてください!」

 同時にナマズンの『水の波動』が飛んできた。
 かわせずに攻撃を受けてしまい、ルカリオは目を回す。

「『大地の力』!」
「うわっ!!」

 混乱したルカリオに向かって容赦なく地面攻撃を打ち込んだ。
 エテボースと戦ってたときからダメージを受けていたルカリオは遂に倒れた。
 ルカリオを戻すのと同時にリクはニドキングを繰り出した。
 『のしかかり』でナマズンを押しつぶし、『メガホーン』で反撃の間も与えずに一気に倒した。

「ムクホーク!『ブレイブバード』!」
「戻ってください!ドードリオ、『ブレイブバード』!」

 ナマズンとニドキングを同時に戻して、飛行ポケモンの激突になった。
 二匹は互角だった。
 そして、同じように後方に吹っ飛んだ。
 しかし、先に体勢を立て直したのはドードリオだった。

「『電光石火』です!」

 1歩目で地面を思いっきり蹴って、2歩目で加速してムクホークにくちばしを入れた。
 更に3歩目でログのところまでくちばしのダメージを与えようとした。

「……っ!!」

 ログは間一髪で服を掠めた。
 服の一部分を引き裂いただけでダメージはなかった。

「『とんぼがえり』!」
「ドードリオ、『追い討ち』です!」

 ドゴォンッ!!!!

 ダメージを与えてログの方へ戻っていくムクホークをドードリオが追いついて反撃に出る。
 ドードリオは何とか多少でもダメージを負わせる事に成功した。
 そして、代わりに出てきたのはトゲキッスだった。

「(ログのトゲキッスは確か風の『スパイラルショット』を使いますよね。気をつけないといけませんね……)」

 ペシャッ

「ん?」

 気を引き締めようとしたそのとき、一陣の風が吹いた。
 ドードリオが引き裂いたログの服から、一枚の紙がひらりと舞って、リクの顔に張り付いた。
 これはなんでしょう、とリクはクエスチョンマークを頭に浮かべてその紙を見る。
 同時にログはポケットの中身を確かめてから、リクを見て眉間にしわを寄せた。

「これは…………」

 その紙は一枚の写真だった。
 映っているのは、紫色のバンダナをしたスカーフをしていない10歳くらいの少年のログ。
 更に隣には、ログにピッタリと寄り添う本を持った大人しそうなやや年上に見える女の子の姿があった。

「(ログさんと……誰……?)」
「返せ……」
「……え?」
「僕の写真を返せっ!!」
「うわっ!!」

 ログが直にリクに組み合った。

「(く、苦しい……!!)」

 片腕で首を絞められて、ログは必死にリクが持っている写真を取り返そうとする。
 リクは返そうと思っていたのだが、ログが首を押さえつける手が強かった。
 レンジャー時代に培った腕力の強さは折り紙つきだったといえるだろう。
 そのせいで、リクはその写真を自然と握り締めて放せなかった。
 ドードリオが助けに出ようとするが、トゲキッスが立ちはだかってそれができない。

「返せっ!!」
「(ぐっ……)」

 ログは冷静を失っていた。
 こんな力づくで取り返そうとしたらどうなるかというのを、わかっていたはずなのにログは気付けなかった。
 映っているログと寄り添っている大人しい女の子が引き裂かれるまで…………。



 第三幕 The End of Light and Darkness
 コールドペンタゴン④ ―メカニックマンのリクvsレンジャーのログ― 終わり



 差し伸べた手を掴むことはない。自分の手で切り開くと決めていた……


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-10-04 (日) 16:56:15
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.