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たった一つの行路 №227

/たった一つの行路 №227

 ☆前回までのあらすじ
 CLAWのアジトを壊滅させたリクたち。
 しかし、その戦いの中でバンがユウナの手にかかって亡くなってしまう。
 その事実を受け入れたくなく揉めに揉め、行き場のない怒りと混乱は燻り続けていた。
 これからの戦いをどうするか考えている最中、テレビでオーレ地方の5つの地点が徐々に凍り付いていくという現象が報道される。
 その原因がCLAWの残りのメンバーの仕業だと考えたリクたちは、オーレコロシアム、エクロ峡谷、バトル山、町外れのスタンド、ポケモン総合研究所へ向かって動き出したのだった。



 62

「オーレ地方のすべてが凍りついたとき、次の段階が始まるんだ」

 服からほぼ黒一色に纏ったクロノは、ベッドの淵に座って彼女に語りかけた。
 その彼女は、シーツに包まって恥ずかしい部分を隠しつつ、キッとクロノを睨んでいた。

「いい加減、君も俺のものになったらどうだ?」
「そんなことには、絶対になりません……」

 ふっとクロノは鼻で笑う。

「時間の問題だよ、オトハ」
「そうでしょうか?」

 オトハは迷いのない目でクロノを見ていた。

「オーレ地方<ここ>には、カレンさんやハルキさんが居ます。だから、絶対そんなことにはなりません!」
「…………」

 ふっとクロノは立ち上がった。

「そうか。だけどいいさ。希望が大きければ大きいほど、突き落とされた時の絶望は大きいものだ。信じるのは勝手だけど、裏切られたときのことも考えるんだよ」

 そういって、オトハを置いて部屋を出て彼は行ったのだった。

「クロノさん……」

 オトハはシーツをぎゅっと握り締めながら、困った表情でクロノの出て行った扉を見ていたのだった。



 たった一つの行路 №227



 63

「あれは……」

 彼の目に見えたのは、立ち上る蒼い光。
 いかにも怪しいと感じ、彼はフェナスシティの南東にある町外れのスタンドに向かっていた。
 その途中、レンタルバイクをその辺に放り捨てて、メガネ男のジュンキがその光景を見て息を呑んだ。
 町外れのスタンドにあるその喫茶店が、完全に凍りついてしまっていたのだ。
 それだけでなく、じりじりと固化現象が砂漠を侵食していくのを確認した。

「テレビで凍り付いていると聞いているけど……」

 実際に凍り付いている部分に乗ってみるジュンキ。
 だが、足で地面を調べ、更に手で触ってみてジュンキは思った。

「冷たくないし滑らない……つまり、これは氷じゃないよな」

 地面をチェックし終えると、すぐに凍り付いているスタンドへと走って行った。

「……っ!!」

 中に入ると、すべてが凍り付いていた。
 食器からカップ、店で売っているモンスターボール、更に喫茶店に入っている客まで氷のように固まって動くことはなかった。

「……一体これはどういうことなんだ……?誰がこんなことを……」

 店を調べて凍り付いている以外に不審な点はなかったと思い、改めて蒼い光を見据える。

「あそこが怪しいな」

 町のスタンドを更に南東。
 その場所へと向かってジュンキはレンタルバイクで走り始めた。
 3分も走ると、その蒼い光がはっきりと見えてきた。

「根元に見えるのは装置か?……あれが凍りつかせている原因なのかもしれない。もしかしたら……敵も……」
「『渦潮』」
「っ!?」

 声が聞こえて咄嗟にバイクを手放して地面に転がるジュンキ。
 バイクはそのまま一直線に走って行き、突如出現した渦潮に巻き込まれていった。
 ぐるぐるとバイクは渦の中で回っていき、粉々になった。

「危なかった……だけど、今の技は……」

 バイクの弁償の心配も一瞬だけ過ぎったが、何よりも放ってきた渦潮が気がかりだった。
 渦潮が消えると、その先に一匹のポッチャマの姿があった。
 その隣には、背が高く地味な服を着た美人な女性の姿があった。

「っ!?やっぱり、ミライ!?……けど」
「…………」

 ジュンキはミライの様子がおかしいと一目で気づいた。
 何より、すぐにポッチャマがハイドロポンプをジュンキに向かって放ってきたのがその証拠だった。
 同時にジュンキはハッサムの光の壁で攻撃を凌いだ。

「ミライっ!」
「カイリキー」

 ポッチャマのパートナーとして出たのは、4本の腕を持つカイリキー。
 ハッサムに炎のパンチを叩き込んだ。

「まだだ!」

 ハサミでカイリキーの攻撃を受け止める。
 炎によるダメージは大きいが、それでも攻撃を耐え切った。

「ラフレシア、『花びらの舞』!!」

 両手に持っている片方のモンスターボールから大きな花を持ったポケモンが飛び出した。
 ハッサムの後ろから花びらを巻き上げつつ、カイリキーと接近しつつあったポッチャマを吹っ飛ばす。

 ザッ

「っ!?(最大の攻撃でどっちも倒れない!?)」

 少なくともポッチャマは倒せると思っていたジュンキ。
 しかし、予想以上にポッチャマたちの能力が上回っていた。
 攻撃を踏みとどまってすぐに襲い掛かってきた。

「『爆裂パンチ』。『ドリルくちばし』」

 ドガガッ!!

「っ!ハッサム!?ラフレシア!!」

 あっという間にジュンキの2匹がノックアウトになってしまった。
 間髪居れずにポッチャマとカイリキーが襲い掛かる。
 『気合パンチ』、『ドリルくちばし』だ。

「くっ!」

 ドガッ!ドガッ!

 ジュンキが両手のモンスターボールを戻して、もう1つのモンスターボールを右手に持ったとき、長い影がポッチャマとカイリキーを仰け反らせた。
 『影討ち』だった。

「カイロス!『ハサミギロチン』だっ!!」

 厄介なカイリキーに向かってはさみを振り切った。
 強烈な一撃を与えてカイリキーをノックアウトさせた。
 一方のポッチャマは、ふんぞり返ってきていた。

「『威張る』攻撃なんて効かないっ!」

 透明な壁がジュンキの前に出現した。
 すると、ポッチャマの目が星になってしまった。
 どうやら混乱したようだ。

「姿を現して『秘密の力』!!」

 赤いギザギザの模様が浮いているかと思うと、徐々に緑色の体に舌が長いポケモンが姿を現した。
 両手を当てて前へ突き出すと、強力な衝撃波を巻き起こしてポッチャマを撃破した。
 ポッチャマの威張るを防いで跳ね返したのはこのポケモンの『マジックコート』によるものだった。

「『ソーラービーム』」
「っ!?(パワフルハーブを持っている!?)」

 ミライがキレイハナを出してきたのを見て、ジュンキは息を呑んだ。
 草系の中でノーリスクの最強の技がジュンキに向かってきた。

「(ツボツボが間に合わない……!) カクレオン、『秘密の力』!」

 ポッチャマを撃破した強力な技だが、キレイハナのソーラービームには足元にも及ばない。
 攻撃を少し弱めた程度で、カクレオンに命中した。
 カクレオンは倒れてしまうが、ジュンキにダメージはなかった。

「カイロス、『シザークロス』!」

 ソーラービームという強力な技を撃った隙を狙ったのだが、キレイハナは華麗なムーンサルトで攻撃をかわした。

「(絶対ミライは何かに操られている……)」

 カイロスがキレイハナに攻撃を与えようと躍起になっている最中、ジュンキはひたすら考えていた。

「(しかし、どうやって操っているのかカラクリが全くわからない……)」

 キレイハナがエナジーボールでカイロスを牽制してくる。
 あちらの攻撃は当たるのに、こちらの攻撃はかすりもしなかった。
 ゆえに、どんどん不利な状況に差し込まれていく。

「(とにかく、ミライのポケモンを全滅させるしかないっ!) カイロス、はさめ!」

 ジャキンッ!!

 しかし、やはりキレイハナは華麗なバック宙で攻撃をかわす。

「それを狙ってたんだよっ!モルフォンっ!」

 ガブッと小さいながらも鋭い牙でキレイハナにかぶりつくモルフォン。
 その後は地面に叩き付けた。

「ドーブル。エネコロロ」
「一気に来たな!?」

 『角ドリル』と『捨て身タックル』がカイロスに襲い掛かる。

 ドガッ!!

「効かないぜ!」

 二匹の攻撃をいとも簡単に遮断したのは、6匹目のポケモンのツボツボだった。

「今だっ!カイロス、『はさむ』!モルフォン、『シグナルビーム』!」

 ツボツボにブロックされた2匹は隙だらけだった。
 特に一撃必殺技を防御されたドーブルは顕著で、持ち前のスピードを発揮できずにカイロスに捕まった。

「『バックドロップ』!!」

 はさんだドーブルを自分もろとも背中に向けて地面に思いっきりたたきつけた。
 頭から地面に受けたドーブルは一撃でノックアウトした。
 一方のエネコロロも虫タイプのビームで一気に吹っ飛ばした。
 ……筈だった。

「っ!?(消えた!?身代わり!?)」

 バッとモルフォンを見たとき、背後にエネコロロの姿があった。

 ドシャッ!!

 そして、体重をかけて両方の羽根を押さえられて、モルフォンは飛べなくなってしまった。
 同時に吹雪が炸裂し、モルフォンはダウンしてしまった。

「カイロスっ!」

 ドガッ!!

 援護に向かわせようとしたカイロスの背後から、キレイハナのソーラービームが入った。
 地面を一転二転と転がって行く。
 ダウンとは行かなかったものの、カイロスはヨレヨレだった。
 それが最後の力だったか、キレイハナはモルフォンから受けた猛毒で倒れた。

「残りはエネコロロとバリヤードか?」

 ジュンキがそういったとき、ミライが残りのバリヤードを繰り出した。

「カイロス、ツボツボ、コンビネーションで一気に勝つぞ!」

 カイロスがツボツボを持って、突進して来た。

「エネコロロ、『吹雪』」

 カイロスがツボツボを前へと出す。
 なんと、攻撃はツボツボが受け止めている。
 まるですべてを防ぐ盾のようだった。
 ツボツボの体格と飛びぬけた防御能力があるからできる戦法だ。
 バリヤードもサイコキネシスで攻撃をするが、すべて同じだった。

「食らえっ!!『シザークロス』っ!!」

 ズバッ!! ズバッ!!

 バリヤードとエネコロロに攻撃が決まった。
 『身代わり』だが。

「そして、そこだっ!『投げつける』っ!!」

 ドゴォッ!!

 カイロスが投げつけた先に居たのはバリヤードだ。
 硬いツボツボの剛速球を受けて、バリヤードはノックアウトした。

「エネコロロ」

 ウインクを放つと、カイロスは硬直した。

「『メロメロ』だけど……これで終わりだ!『ストーンエッジ』!!」

 ズド――――――ンッ

 バリヤードにタックルをしたツボツボが岩の破片を飛ばしてエネコロロをダウンさせた。

「アタックした時に『パワートリック』を使ったんだ。こうなった時の俺のツボツボの攻撃に耐え切れる奴はいないぜ!」

 とは言うものの、シファーのゴローニャには耐えられてしまったのはつい最近のことである。
 カイロスとツボツボを戻してミライを見るジュンキ。

「ミライ!お~い、目を覚ませっ!!」

 頬をペシペシと叩いてみる。

 バシッ

「っ!!」

 しかし、逆に頬をたたき返されてしまう。
 さらに、両手で首を絞められる。

「ぐっ……(ミライがこうなっている以上、他の誰かがこの元凶を作っているはず!!)」

 何とか振り払おうと、彼女の手を掴み、放そうとする。

「(あれ……?)」

 ふと、ジュンキは気がついたことがあった。
 胸元に光る小さい黒い宝石だ。

「(ミライはこんなもの作ったことがないはず……)」
―――「宝石は綺麗な輝きで人の心を虜にします」―――

 ミライの言葉を思い出し、その宝石に手をかけた。

「(ミライがこんな悪趣味な黒い宝石をつけるはずがない!)」

 ブチッと紐を切って投げ捨てた。
 すると、どうしたことだろうか。
 ミライが倒れこんできたのである。

「おっと……」

 ジュンキは彼女を受け止めた。
 赤毛のショートよりも少し長い髪がジュンキの鼻を掠める。

「大丈夫か?」
「……うぅ……」

 苦しそうな表情を見せるミライをゆっくりと凍り付いている地面に下ろす。

「ジュン……キくん……?」
「ミライ、気がついたか!?」
「私……一体何を……?」
「何も覚えていないのか?」
「ええ……」
「そうか……」

 覚えていれば次の行動がしやすいと思ったジュンキ。
 そうもうまく行かなかったようだ。

「ミライ、あんたはここで休んでろ。俺はやることがある」
「うん……気をつけてね」
「…………。わかった。行ってくる」

 少しの間だけミライの顔をじっと見てから、立ち上がった。

「行かせるかよ!」
「っ!?」

 ドガッ!!

 鋭い爪がジュンキに襲い掛かる。
 間一髪でジュンキのカイロスが爪を払って攻撃を捌ききったためにダメージはなかったが。

「誰だっ!?」

 弾き飛ばされたマニューラは、クルクルと回転しながら後退していくと、トレーナーの元に着地した。
 そのトレーナーはグレーのライフセイバー風のジャケットを羽織り、びっしりとしたズボンとブーツを穿いていた。

「さっきの女を庇うような戦い方からして、お前はその女の仲間……つまり、SHOP-GEARのメンバーだな?」

 かなりいい感じに髭を生やした30代半ばの男がじっとジュンキを見下ろしてきた。

「そうだが……お前は一体なんだ!?CLAW<クラウ>の幹部か!?」
「CLAW?ハンッ」

 男はくしゃみをするように笑った。

「シファーが作った組織になって俺は属していない。俺は元ダークスターのクロノに手を貸している」
「(ダークスターのクロノ……あいつか……!)」

 カレンから聞いたシファーを圧倒的実力差で退けた男のことだった。

「(ということは、これからの戦いはクロノが率いる組織との戦いということか?)」
「そして、俺の名前はマルク。かつてロケット団でボスの右腕と呼ばれていた『盗空のマルク』だ」
「っ!!」

 すると、マニューラがジュンキに襲い掛かった。
 しかし、再びカイロスが前に出てマニューラの攻撃をブロックする。

「『盗空のマルク』!? (……確か懸賞金70万ポケドル。そして、こいつの特徴は……)」
「マニューラ、『大文字』!!」
「ぐわあぁぁぁぁ!!!」

 マニューラが口から炎を吐き出す。
 カイロスとほぼ距離がないところでこの技は避けようがなかった。
 同時にその攻撃はジュンキにも命中したのだった。

「くそぉっ……」

 何とか攻撃を耐え切り、体勢を立て直すジュンキ。
 しかし、息も絶え絶えでカイロスは火傷を負っており、倒れるのは時間の問題だった。

「(奴は……ポケモンに普段ならありえない技を教え込む達人……このままじゃ……)」
「さて、お前とそこで倒れている役立たずの闇に堕ち損ねた女を消そうか……!!」



 第三幕 The End of Light and Darkness
 コールドペンタゴン② ―フリーターのジュンキvsスタイリストのミライ― 終わり



 闇の勢力の力がSHOP-GEARを飲み込んでいく……


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Last-modified: 2015-09-28 (月) 23:08:06
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