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たった一つの行路 №225

/たった一つの行路 №225

“くっ……”
“そんな……我々の研究の成果が……”
“僕たちの天才的発明が……全て破壊されてしまった……”
“まだだ。まだ壊れてなんかいない!”

 口々に地下四階の研究員達は、言葉を零す。
 研究員達は、ポケモンバトルに敗れて地面に伏しているか、アリアドスのクモの糸に絡まっているか、壊れてしまったコンピュータを復旧させようと必死になっているかだった。

“あの女……許さない……”
“オーレの英雄カレン……また邪魔してくれたわね……”

 ある者は地面を叩き悔しがり、ある者は涙を流してこのフロアの惨状を悲しんでいたのだった。
 そして、当のカレンは地下三階への階段を駆け上がり、Dと書かれた扉から通路へ飛び出した。

「確か、リクたちがいたのはBフロアの扉だったよね」

 モンスターボールをすでに取り、足止めをしているであろう仲間の下へ急行するカレン。
 しかし、その場所に到着した時、カレンの目に映ったのは……

「リク……!!」

 傷ついて倒れた仲間の姿だった。

「アイちゃん……それに……こんな小さな女の子まで……」

 カズミをカレンは抱きかかえる。

 ドゴォンッ!!!!

「っ!? 何!?」

 衝撃が伝わってきて、カレンがその方向を振り向く。
 すると、音を立てて全身岩のポケモンが倒れた。

「……ゴローニャが……倒された……だと……」

 シファーは呆然として、ゴローニャとバシャーモを戻した。

「君はよくやってくれた。おかげで俺のいい時間稼ぎになってくれたからね」
「(時間稼ぎ……だと……!!)」

 シファーはクロノの言葉に怒りをたぎらせ、最後のポケモン、ラグラージを投入した。



 たった一つの行路 №225



「『ハイドロポンプ』!」

 水流がゲンガーに向かっていくが、ひょいと回避されてしまう。
 不気味な笑顔でズイズイとゲンガーは接近する。

「『アクアテール』!!」

 近づいてきたところを狙い、水を纏い白く変色した尻尾がゲンガーを打つ。
 地面に叩き落されつつも、すぐにゲンガーは立ち上がる。

「クックック……そのゲンガーの遠距離攻撃は凄まじいが、近づいてしまえば何もできまい。『アクアパンチ』!」

 尻尾の次は拳に水を付加させて腕を白く変色させて、突進していく。

 ピタッ

「なっ!?」

 しかし、寸前のところでラグラージの拳が止まった。
 あと数センチ進むことができればゲンガーを投げ飛ばすことができたのだが、どんなに力を込めても動くことはなかった。

「どうしたラグラージ!?」
「『影縛り』。自分の影で相手を拘束する技だ。こいつは確かに近距離戦は苦手だが、別に近距離戦の相手に勝てないわけではない。それ相応の対策を立てている」
「影……そんなの力づくで解いて……」
「無駄だ。お前の闇の力程度では解くことなど到底できない」

 ラグラージはもがいているだけで、まったく動くことはできなかった。

「終焉だ。『影鞭』から『影縫い』」

 バシバシバシッ!! ドシュドシュドシュッ!!

 影が実体化するように暴れ、そして、影がラグラージを突き刺していく。
 突き刺すとはいうものの、精神的のダメージが大きいらしく、外傷的なダメージもかなりあるにしろ、死に至るような傷にはならなかった。
 ゆえに目立った傷跡もほとんどない。

「まさか……」

 ダークバシャーモ、ダークゴローニャ、わるいラグラージ。
 ゲンガー一匹だけにまさか3匹が立て続けにやられることをシファーは予想していなかった。

「まだかかってくるのか?もう諦めろ」

 そうすると、ゲンガーがシファーの足元に黒い空間を作った。

「な、なんだこれ!?」

 足元が徐々に底なし沼のように沈んでいく。

「真深の闇に沈め」
「なっ……貴様……私は……オーレ地方を征服するために……ここまで来たんだぞ……」
「君の目的なんてくだらない」
「くっ……ぐあぁぁぁ」

 足、腰、首、そして、顔とシファーは黒い闇の沼に沈んでいった。
 助けを求めて伸ばした手も最終的に飲み込まれていったのだった。

「さて……邪魔者は片付いたな」

 クロノはおかっぱの女の子を抱えている女を見た。
 もちろん、カレンのことだ。

「(あいつ……CLAW<クラウ>のボスをあっけなく消しちゃった……なんなの!?)」

 ゴクリとカレンは息を呑んだ。

「君はラグナの仲間か?」
「……え?ラグナ?」

 いきなり、問いかけられて、カレンは思い出そうと必死になった。

「(確か、ロケット団時代、ハルキと同じチームだったという……) どうかしらね」
「そうはぐらかさなくてもわかる。君はSHOP-GEARのメンバーに協力を頼まれて、ここへ来た。頼まれなくても、情報さえ知っていれば、オーレの英雄と呼ばれた君ならここに来ただろ」
「…………」
「そのラグナは、約1ヶ月前にこの地下四階にある地下水道へ身を投げた」
「…………」
「死体は見つからなかったけどね」

 淡々とラグナの話をするクロノだが、カレンにはいまいちピント来なかった。
 カレンはラグナと接点がほとんどないため、当然といえば当然の反応だったが。

「それで、何が言いたいの?」
「もしお前達が俺の邪魔をするというのなら、容赦はしない。と、これだけは忠告しておく」

 そういって、クロノは立ち去ろうとする。

「待って!」

 不意にカレンが引き止めた。

「私の時の笛を返して!」
「ああ。セレビィを呼び出せるというアイテムか。それを持っているのは俺ではない。俺の仲間が持っている。もっとも、要らないって言っていたけどね」
「要らない……?どういうこと?」
「そのままの意味だ。使う必要がなくなったってことだよ」
「っ!!」

 ボンッ!!

 弾かれたようにモンスターボールを繰り出し、中から出てきたブーバーンが強大な炎を撒き散らす。
 最大の技『オーバーヒート』だ。
 しかし、表情を一切変えず、クロノはその炎攻撃を一匹のポケモンでやり過ごした。
 そのポケモン、スリーパーはクロノの隣でブーバーンを睨んでいた。

「私の……私の友達に何をしたの!?」
「セレビィはもう君の友達ではない。君の知っているセレビィはもういない」
「うるさい!!『破壊光線』!!」

 口からスリーパーを飲み込もうとする強力な砲撃を放つ。
 だが、黒い壁が攻撃を遮断し、防ぎきってしまった。

「セレビィを取り返したいのか?それなら、取り返してみるがいいさ。君に力があるのなら」
「くっ!待ちなさい」

 ブーバーンに火炎放射を撃たせようとしたが、反動で動けなかった。
 その間にクロノはゲンガーを繰り出して、闇のゲートを作り出し、そこをくぐって消えてしまった。

「セレビィ……」

 仲間が傷ついて倒れている中心で、カレンはペタンとその場に座り込んで、ブーバーンを戻したのだった。



 59

 ―――???。
 火山があるとある島。
 そこに一つの基地があった。
 その場所に突然黒いドアが出現した。
 決してそれは、物理的なものではなく、異質なエネルギーによって作られたものだった。

「FUFUFU……戻ってきましたNE」

 語尾に独特な訛りのある男が、そう呟くと、チリンと鈴の音がした。
 隣に座っていた女の首の鈴が揺れたのだ。

「ちょっと、クロノぉ~どこ行っていたのよ!退屈していたんだから!」
「CLAWを潰してきた」

 クロノが一言そういうと、ベルがぴゅぅ~と口笛を吹く。

「あのシファーを倒すとはやりますNE」

 不敵に微笑むとナポロンはテーブルの上にあったリンゴをがぶりとかじった。

「あっ!クロノ!やっと帰ってきたんだな!」
「アンカラちゃん、ちゃんと“様”つけないとダメですよ。すみません、クロノ様……」

 16~17歳の女の子の二人が出てきた。
 アンカラと呼ばれた子は、パンツルックでスタイルはほどほどな生意気そうなオレンジのショートカットの女の子だ。
 もう片方の女の子は、スタイルが……特に胸が大きく、Gカップくらいはありそうだ。服装はマントを着て少し地味で、髪は茶色のポニーテールである。

「ソフィア。別に気にしてないから大丈夫だ」
「そ、それならよかったです」

 クロノに言われて、顔を若干赤くするソフィア。

「何赤くなってんのよ、ソフィアのクセに」
「……に!?にゃぁぁぁ!!」

 後ろから片手を回され、ムニュッと思いっきり胸をもまれるソフィア。
 その一方では、ソフィアの耳を引っ張って、ダメージを与える。
 そんなことをしているのは、赤毛のロングヘアーの女の子だ。
 胸はペッタンコである。

「何よ、こんな牛みたいな乳!牛みたいな乳!でっかいだけで重いだけじゃないの!」
「や……やめて……あぁぁ……」
「何?感じてるの?ほら、もっと感じなさいよ!ほらほら!」

 いてて……ちなみに、身長はこの子が3人の中で一番高く、ソフィアが一番低い。
 ソフィアが低いといっても、159センチあり、彼女が165センチで、アンカラが160センチである。

「私をクロノだと想像して、もっと乱れなちゃいよ。この雌牛ソフィアちゃん~」
「あぁぁぁ……」
「へぇ~、なかなか面白い連中ね!もっとやりなさい♪」
「OYAOYA……興味深いやり取りですNE」

 ベルとナポロンは面白そうに2人のやり取りを見ていた。
 クロノにいたっては、そのやり取りをまったく気にせず、口元にマフラーをつけた少年にサイコソーダーを渡していた。

「飲む?」
「……ああ」

 ログは受け取って、一口飲む。

「条件はきっちり守ってもらうよ」
「大丈夫だ。シファー以上に金を出す。間接的にお前の事はシファーから聞いている。お前は……」
「それならいい」

 ログは騒いでいるソフィアたちを一瞥した後、この部屋を出て行った。
 クロノはログを見た後、ボーっとしている美人な女性に目をやった。

「ミライ……君も飲むか?」
「…………」

 ゆっくりと頷いて、サイコソーダーをゆっくりと飲んでいく。
 彼女の目には空虚が感じられ、自分の意思が吹っ飛んでいるように感じられる。

「や……めて……ぇ……」
「もっと鳴かせてあげるわよ。ほら、鳴きなさい」

 こっちはまだ続いていた。
 ソフィアは地面に押し倒されて、身体の隅々を服の上から触られているようだった。

「ふわぁ~……よく寝たぜ。あ。クロノ、お前、戻ってきたんだな?」

 そんな、怪しい展開にようやく終止符が打とうとされていた。
 ライフセイバーのようなジャケットを羽織り、びっしりとしたズボンとブーツを穿いた男が現れたのだ。

「OYAOYA……マルクさん、おはYO。あなたもここにいたんですKA」
「ん……?あ!確かお前はダークスターのナポロン!?何故ここに!?」

 ダークスター。
 それはかつてロケット団と提携していた組織の名前である。
 ナポロンはその一員であった。
 だが、彼の本当の正体は、次元の征服を企むエグザイルのメンバーなのだ。
 今は記憶を失っているらしく、クロノに手を貸していた。
 一方のマルクとは、ロケット団の最高戦力だった『盗空のマルク』と呼ばれていた男である。

「なぁなぁ、ティラナー、あの人が来たぜー」
「……っ!?」

 ソフィアを押し倒していじり倒していた赤毛のロングヘアーの女の子が、アンカラの声を聞いて立ち上がってマルクの方を見た。
 そして、アンカラがニヤニヤと笑っているのを見てハッとする。

「ちょ、あ……だ、だからなんだって言うのよ!?」

 腕を組んでアンカラを睨みつけるティラナ。

「え?だって、ティラナはあの人のことー……」
「ちーがーいーまーすー!!」

 大きな声でティラナが否定する。
 その声を聞いて、全員がティラナを見た。
 もちろん、マルクもだ。

「何が違うの?」

 そういって、誰にも聞かれないようにコソコソとアンカラに耳打ちする。

「何って、私はマルクのことなんて……」
「ん?あたしはマルクなんて一言も言ってないぜ?」
「……っ!?」

 すると、顔が真っ赤になるティラナ。

「ち、違うって言っている……でしょ!!ありえないって!絶対に!!」
「ティラナが怒ったー」

 楽しそうにアンカラはティラナから逃げ出そうとするが、ガシッと、着ているフードを捕まれる。
 ところが、捕まえたのはティラナではない。

「アンカラちゃん。ティラナちゃんをからかうのはやめようね?」
「えー?」

 優しい声でソフィアはアンカラに言い聞かせる。
 ティラナにいじめられていた影響で、顔を赤くして息を切らしているようだが、案外ソフィアはタフだった。
 そんなソフィアに言われて、アンカラは不満な表情をする。

「やめようね?……ね?」
「……っ!?」

 終始にっこりとソフィアはしているが、アンカラは逆にそれが怖くて、うんと頷いた。

「それにしても、お前らは本当に仲がいいな」
「はい。子供のころから一緒でしたから」
「そうそうーいつもいっしょだったんだー」

 にっこりとマルクに答えるソフィアと、ソフィアに怯えているようなアンカラは棒読みで答えた。
 3人が談笑するのに対して、ティラナは面白くなさそうにその光景を見ていたのだった。

「あれ?ナポロンー。クロノ知らない?」
「クロノですKA?自室へ行ったんじゃないのですKA?」
「ふーん。まあいいかー」

 ベルは果物ナイフを取って、リンゴの皮を剥こうとしていた。

「クロノ様……」

 巨乳の女、ソフィアはムスッとしてクロノを偲んでいたのだった。



 ガチャリ

 とある一室。
 わかるのは中央にベッドがあるというだけで、辺りは暗闇に包まれていて他はまったくわからなかった。

「…………」

 そのベッドには誰かがいるが、ドアから入ってきたものにまったく気付いてはいなかった。
 それもそのはず。
 彼女は安らかな寝息を立てて深い眠りに落ちていたのだから。

 ギィィ

 音を立てて彼がベッドに腰掛ける。
 座っていたお尻が程よく埋まる柔らかさだった。

「もう目が覚めてもいいだろ?」

 彼は彼女の頬にやさしく触れた。
 指先で軽く唇をなぞって行く。

「……ん……」

 閉じている目がぴくっと動いた。
 それを見て、彼は少しずつなぞる場所を変えていった。

「……んっ……やっ……」

 すると、体全体を動かし始める。
 そのままの状態を彼は彼女をゆっくりと触れていった。

「……ん~……」

 ゆっくりと彼女は目を見開いた。

「…………?」

 彼女の目にはぼんやりと、何かが映っていた。

「ヒロ…ト……さん?」

 自分の探し人の名前をうわ言で呟く。

「……ヒロト……?」

 そして、彼が名前を聞いてムッとした表情になるのと、彼女の意識が急速に戻っていくのはほぼ同時のことだった。

「……え?……クロノさん?」

 ベッドに手をついて、ゆっくりと起き上がる。
 だが、長い間寝ていたせいか、体中が気だるく、硬くなったように彼女は感じていた。

「おはよう。オトハ」

 まだ寝ぼけた頭で必死に周りを見渡すオトハ。

「(私……フェナスシティにいたはずなのに……どうしてここに?)」
「俺がここに君をつれて来たんだよ」
「……クロノさんが!?……いつのまに?……どうして?」
「それはもちろん君という光を飲み込むためだ」

 クロノに言われて、じりっとクロノから離れようとするオトハ。
 周りを見回すが、暗くなっててよく把握できなかった。

「……え?」

 そして、ようやくもう1つ大変なことに気がついた。

「この服は……?」

 自分の服装がいつの間にか変わっていたのだ。
 ヒラヒラのフリルを存分と散りばめたドレス姿だった。
 しかも、胸元が存分に開いていて、足元の裾も凄く短くて中が見えそうなくらいだった。
 いつも穿いている白いロングスカートやピンクのカーディガンも似合っているのだが、足の細さや彼女のスタイルからして、その格好もとても似合っていた。

「とても可愛いよ」

 クロノに言われて、ちょっと赤くなったところで、オトハは関連してもう1つ気がついた。

「…………。クロノさん……一体誰が着せてくれたんですか?」

 しかし、クロノはオトハをじっと見ているだけで答えようとはしなかった。
 その沈黙でオトハは手できわどい部分を抑えて、顔を真っ赤に染めて、俯いてしまう。

「君の全ては俺のものになる。これからたっぷりそのことを教えてあげるよ」

 そういって、クロノはポンッとオトハの頭を軽く触れた。

「また来る」
「…………」

 オトハはクロノが立ち去るまで動くことができず、じっとしていたのだった。



 クロノは通路を通って仲間のいる場所へと向かっていく。

「(“コールドペンタゴン”ミッション。いよいよ始動だ。まずこのオーレ地方を制圧する)」

 ぎゅっとクロノは拳を握り締めた。

―――「ヒロ…ト……さん?」―――

 オトハの呟いた言葉を思い出して、眉間にしわを寄せる。

「(ちっ……ヒロトか)」

 かつて、クロノはフォッグス島でヒロトを追い詰めたことがあった。
 そのときは、トキオによって邪魔されて始末することができなかった。

「(あの時は見逃してやったが……今度は見つけ出して……消してやる……!!)」



 第三幕 The End of Light and Darkness
 Evil box in the dive⑩ ―そして、真深の闇が動き出す― おわり



 傷は大きかった。失ったものも大きかった。これらはなにものにもかえられるものではなかった。


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Last-modified: 2015-09-27 (日) 16:57:02
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