―――少し前。
「ねえ、リクくん。アレを見て!」
3人はCLAW<クラウ>のアジトがある廃れた工場へ向かっていた。
カレンが指差した先にあるのは、ピラミッドのような大きな建造物なのだが……
「見事に崩れていますね。誰かが攻撃で破壊したのだと思います」
リクとカレンは先に瓦礫を押し分けながら進んでいく。
ハルキはといえば、運転してきたバイクを安全な場所に停めてから、2人に合流した。
「ここに入り口があるな」
瓦礫が掻き分けられているところを見つけ、ハルキが2人を呼び寄せた。
「こうなっているのを見ると、誰かが先に侵入したのかな?」
「いえ、それは……」
「ないと思います」と言いかけて、リクは口を噤んだ。
「(……ミナミさんやラグナさんなら有り得る……)」
そう思いながら、3人は階段を降りて行った。
すると、地下一階はすでに守りが全滅した後だった。
「やっぱり、誰かが侵入していますね。このやり方を見ると、ラグナさんかバンさんかと思うんですが……」
ユウナの丁寧な侵入の仕方を思うと、その2人しかいないとリクは推理した。
「……ラグナか。確かに有り得るな」
リクの言葉に納得するハルキ。
これでもロケット団時代が長かったから、性格を熟知しているのだ。
「ねぇ、あそこに誰か倒れているよ」
カレンに言われて、近寄ってみると、そこにはムチを腰に装備した大きなたんこぶの女が目を覚ますところだった。
シャトレだ。
とはいえ、シャトレはあっさり、リクのベイリーフのつるのムチで縛られてしまったが。
「ま、また侵入者ですか!?」
「また?他に誰か来たのですか?」
リクは問いかける。
「教えることはできません」
「ユウナという女はここにいるか?」
「教えることはできません」
「ポケモンの笛を……」
「教えることはできません」
何を言っても、シャトレはプイッと首を振るだけだった。
「…………教えないと、酷い目に遭わせるわよ!!」
カレンが怒って言うが、シャトレは全然、喋ろうとはしなかった。
「仕方がありませんね」
リクはため息をついた。
「ハルキさん、カレンさん、先に地下二階へ行ってください」
「わかった」
「いいけど、リクはどうするの?」
「僕はもう少しここにいます」
わかったと言って、ハルキとカレンの2人は先へと行ってしまった。
「君……一体なんのつもりです?」
シャトレはにっこりと笑ってリクを見る。
そのリクも笑顔で返す。
「さて、教えてください。ここに誰が来ているか、そして、このアジトがどんな風になっているのかをです」
「私は喋りませんよ」
「さぁ、どうでしょうか」
そういって、リクは手をすり合わせた。
「これでも僕は手が器用なんですよ」
「……それが…………っ!!」
シャトレは愕然とした。
「……まさか……それは……やめて……」
「それなら、きっちり喋ってください」
「…………」
「黙っているなら仕方がありません」
「……ちょ……待って……くだ……さい……いやぁぁぁぁ!!」
この10秒後、リクはハルキとカレンにユウナとアイの場所を教えたという。
たった一つの行路 №221
50
「どうして?カレンが侵入しているという報告は入ってこなかった……」
ハクは冷静にカレンを見る。
「誰だかわからないけれど、ここに来るまで、通路やらフロアやらの防衛機能をメチャクチャにした奴がいて、私が来た時は壊れていたんじゃないの?」
そういって、カレンはメガニウムを繰り出した。
『葉っぱカッター』だ。
それに対抗して、ハクはマンタインを繰り出して、防御に出る。
しかし、攻撃はマンタインを逸れていった。
ズバッ!
「あっ!」
アイが声をあげた。
天井に括りつけられていたロープが切れたのを見て、歓喜の声をあげたのだ。
「後は解くだけね」
「させない。マンタイン!」
そういって、この場に2匹のマンタインを繰り出すハク。
「『アクアカッター』、『冷凍ビーム』!」
水の刃と氷の光線をメガニウムに向かって放つ。
だが、カレンが咄嗟に『光の壁』を指示して攻撃を防御する。
「(普通に防がれた!?)それなら、合成技でどう!?『アイスカッター』!!」
片方のマンタインが水の刃を繰り出し、もう片方のマンタインが刃を凍らせて放つ技だ。
「メガニウム、『ハードプラント』!!」
地面を踏みしめると、図太い根っこが地面から飛び出してきた。
アイスカッターを防御すると、そのまま2匹のマンタインに襲い掛かった。
一匹のマンタインには攻撃が当たったが、もう一匹のマンタインはひらりと攻撃をかわした。
「あなた……SHOP-GEARの関係者よね?」
「そうだけど……何?」
「それならこれを見て……」
ふと、ハクは部屋にあるビデオを指差した。
そこに移されたのは、牢屋の部屋だった。
「ここにはSHOP-GEARの仲間も捕まっているのよ。この子が痛い目に遭うのを見たくないのなら大人しくしなさい」
「……脅すつもりなの……って……?」
そのビデオを見てカレンが目を点にする。
「誰もいないじゃないの」
「え……?」
慌てて映像を確認するハク。
確かにそこは牢屋の部屋なのだが、その牢屋の扉は開かれて、中には誰もいなかった。
「(どうして?ここにはカズミがいたはずなのに!?)」
「お姉ちゃん!」
「もう大丈夫よ」
「……!しまった」
その画像に気をとられている間に、カレンがアイを解放してしまった。
すでにモンスターボールを持ち、反撃に出ようとしていた。
「帽子のお姉さん……よくもアイに意地悪してくれたね……許さないよ!!」
そういって、リーフィアを繰り出す。
「させない!マンタイン!」
現在繰り出しているマンタインの他に3匹目のマンタインを繰り出すハク。
「ダブル冷凍ビーム!!」
力を溜めているリーフィアに向かって、強烈な冷凍光線が向かって来た。
攻撃が当たれば、おそらくリーフィアは一撃で沈むだろう。
この場にいる誰もがそう考えていた。
もちろんアイも例外ではない。
それにもかかわらず、避けようともせずに堂々としていた。
「プラスル!」
カレンが絶対フォローをしてくれると信頼していたからだ。
『守る』が二重の冷凍ビームを防いだのだ。
「アイちゃん、決めるよ!『手助け』!」
「うん!ブイブイ、『種爆弾』!!」
剣の舞で力を溜めていたリーフィアが、ハクに向かって強烈な種の嵐を飛ばした。
その種の一つひとつが強力な爆弾であり、次々と壁や地面を壊していく。
「マンタイン!!しっかり!!」
ドガドガドガドガッ!!!!
「きゃああっ!!」
攻撃はクリーンヒットし、マンタインを一掃した。
さらに攻撃はハクにも当たったようで、地面に跪いた。
「うっ……」
「ナゾナゾ、『眠り粉』!!」
そして、隙が出たハクに向かってアイがナゾノクサを繰り出した。
「シロ……さま……」
そのまま、ハクは夢の中へと墜ちて行った。
「アイちゃん、大丈夫?」
「うん。平気だよ!」
「それにしても、なんでこんなところまで来ちゃったの!?」
「だって……」
アイは地面を足でツンツンとして、拗ねたような仕草をとる。
「アイばっかり仲間はずれにしようとするんだもん……」
「…………。危険なことだからアイちゃんを巻き込みたくなかったのよ。……とはいえ、このまま戻るのも嫌よね?」
うんとアイは大きく返事をする。
「懲りてないのね」と苦笑いをするカレン。
「それなら、私達を手伝ってちょうだい。でも、一人で行動しちゃダメよ?それが約束できるなら、ついてらっしゃい」
「わかったー」
ぱあっと笑顔を見せてアイはカレンに抱きついた。
そして、通路へ出るとリクの姿があった。
「アイちゃんを助けることに成功したようですね」
「ええ。リクのナビはバッチリだったわ。それで、他に捕まっている人は……?」
真剣な顔をしてリクに問いかけるカレン。
「地下五階に牢屋があって、そこにカズミちゃんが捕まっているようです」
「「……地下五階の牢屋……」」
アイとカレンがハモって、首を傾げる。
「そのカズミちゃんなら、そこにいないみたいよ?」
「え?どういうことですか?」
「お兄ちゃん、そんなこともわからないの?そのカズミちゃんって子が自力で脱出したってことでしょ!頭悪いねー」
にっこりとアイは自身有りげに言うが、
「それはないと思います」 「それはないわ」
と、アイにツッコミを入れる。
「誰かが助けたってことじゃない?」
「……助け出したならいいのですが……とりあえず、ハルキさんの手助けに行きましょう!地下四階の工場を壊すのはそれからです」
「待って、リク」
カレンがリクのシャツの裾を引っ張って止める。
「ハルキなら大丈夫よ。私達は地下四階へ向かいましょう」
「え……?でも……万が一のことも……」
「私はハルキを信じているもの。絶対に負けないわ」
「うん!アイもハルキお兄ちゃんのこと信じているもん!」
「…………」
2人にそう言われて、リクは目を瞑った。
「わかりました。それなら、先へ進んでカズミちゃんを保護して、地下四階の工場を壊しましょう。階段は、Eフロアにあります!」
3人は急いで地下三階へと向かって行ったのだった。
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「……?」
ふと、目を開けると、そこには聖なる祠があった。
「(ここは……アゲトビレッジ?一体いつの間に俺はここに来たんだ?)」
困惑してハルキは自分の位置を確かめ、祠に手を当てる。
岩の頑丈な造りである。
「(俺はエアームドと戦っていたはず。マイナンの『10万ボルト』で奴のエアームドを叩き落したところまでは覚えているんだが……)」
どうも記憶が曖昧で、ハルキは頭を抑える。
足元ではマイナンが首を傾げていた。
「……ハルキ……」
自分を呼ぶ声がして、振り返る。
すると、そこに2つの人影があった。
「誰だ?」
「……ハルキ……会いたかったよ」 「元気そうだな」
その二つの人影はハルキにだんだん近づいて来る。
「あんた達は誰だ?」
2人の顔はぼやけてよく見えない。
そして、二人は手を伸ばして来た。
「大きくなったな。ハルキ。俺はお前の父親だ」
「私は母親よ」
「……父親と母親……?」
「ええ」 「そうだ」
黙って2人の顔を眺めるハルキ。
「さぁ、帰りましょう」 「俺たちについて来い」
母親と父親と名乗るものが、ハルキを引っ張ろうとする。
だが、パシッとハルキはその手を払った。
「……父親と母親……そんなもの興味ない」
キッパリと、ハルキはそう言い放った。
「あんた達は俺をエーフィと一緒に子供のころに捨てた。今更、親面するのはおかしいだろ」
「ハル……キ」
「俺の目の前から消えてくれ」
ガシッ
「……っ!?」
そのとき、強い力が首を締め付けてきた。
よくみると、その母親と父親が自分に手をかけてきたのである。
「ぐっ!?」
「そうか……親の言うことが聞けないのなら、こうするしかないな」
「力ずくで従ってもらうしかないよね」
「放せっ!!」
ゲシッとハルキは2度、母親と父親と名乗るものを蹴りつけて、吹っ飛ばした。
ハルキは顔を地面に向けて息を荒く吐いている。
「(一体どうなっているんだ……?)」
「……ハルキ……」
すると、今度は馴染みの声が聞こえてきた。
ふと振り向くと、寸分違わぬ彼女の姿があった。
「カレン」
彼女の名前を呟いて、近づいていくハルキ。
グッ
「……!! ……カレ……ン……?」
突如、近づいてきたカレンがハルキの首を絞める。
「私、やっぱりあなたのことが嫌い。この村の長もお兄ちゃんにやってもらうようにお爺ちゃんに頼む。だから……」
さらに勢いよくぎゅっと首を絞めるカレン。
「消えてちょうだい」
最初は苦しんでいたハルキだった。
だが、直にその苦しみはなくなっていった。
「……ハルキ……?」
「カレン……お前がそんなことするはずないだろ」
そういって、ハルキはマイナンを肩に乗せた。
「俺はお前を絶対に信じている。信じているからこそ、俺はお前を守るって決めたんだ」
「…………」
「これは……幻。現実なんかではない」
バキッ!!
「……む!?」
マイナンの電光石火がネイティオを捉えた。
攻撃を受けたネイティオは体勢を整えて、地面に着地する。
「わるいネイティオの幻夢に耐えたのか!?なんて奴だ……」
ハルキは立ち上がる。
「信じるものがある俺にそんなチープな幻覚は通用しない。覚悟しろ」
「覚悟するのはどっちだ」
「『10万ボルト』!!」
「『エアストラッシュ』!!」
電撃攻撃と強烈な風を巻き込む風攻撃。
ネイティオは攻撃を受けながらも突進してきて、マイナンを吹っ飛ばした。
マイナンはダウンしてしまうものの、麻痺して体の自由を失ったネイティオも壁に大激突して、そのままダウンしてしまった。
「わるいポケモンもたいしたことないな」
「それはどうかな。次のポケモンで確かめてみるんだね」
そういって、再びシロはエアームドを繰り出したのだった。
52
「どういうことだ……!?」
アルドスは慌てていた。
ふと目を開けたとき、真っ先に見た映像は、カズミが捕らえられている牢屋だ。
しかし、そこにはカズミは居ず、開けられた牢屋の映像が映し出されていた。
「いつの間にか鍵もなくなっている。ということは、誰かがここまで侵入して、カズミを助け出したと言うことになる。……一体誰だ……!?」
頭の中で推理をしながら、走って地下五階を走り回る。
この階にはA~Cのフロアしかない。
そして、最下層が地下五階であって、Aフロアがアルドスの部屋。
Bフロアがカズミがいた牢屋の部屋であり、Cフロアがナポロンの部屋である。
つまり、地下四階へ上がる階段を抑えれば、侵入者は地下五階から出られないのである。
「(カズミのカメラから目を放してそんなに時間は経っていない。絶対この階層に侵入者はいる!)」
アルドスは階段の前にやってきた。
本来ならば、部下を呼び、ここを代わりに見張らせればいいのだが、そんな時間はなかった。
「(どこからでも来い。……む?)」
アルドスの準備ができたそのときだった。
柔らかい風がアルドスの周りに吹き始めた。
そして、凝視しないと見えないほどの小さな粉が、彼の周りを包み込んだ。
「フーディン、『神秘の守り』」
アルドスは冷静だった。
その攻撃の正体を見破り、『眠り粉』をブロックする。
「『ミラクルアイ』から『サイケ光線』!」
物陰に向かって、攻撃を仕掛けるフーディン。
「出て来い。侵入者」
物陰が壊れると、1つの小さな人影が姿を現した。
幼いおかっぱの女の子、カズミだった。
「一人……だと?」
「こっちだ」
「!」
声の向く方向を見ると、メガネにネクタイをした男が存在した。
彼の連れているポケモンはモルフォン。
『虫のさざめき』を放った。
「むっ!『サイコキネシス』!!」
攻撃がぶつかって消滅する。
威力は互角……いや、相性から考えると、モルフォンの方が上だろう。
「貴様……一体どうやってここに入り込んだ?それに何者だ?」
「なっ!?俺を知らないって言うのかっ!?」
凄くショックを受けたようにメガネの青年は動揺する。
だが、少しして青年はメガネをクイッとかけなおして、冷静になる。
「いいさ。教えてやる。俺はSHOP-GEARのジュンキだ」
第三幕 The End of Light and Darkness
Evil box in the dive⑥ ―快進撃― 終わり
ジュンキは忘れたころに現れる。