ダメだね……全然……
やっと、一番に好きな人に会えたというのに……私の思いは届かない……
それに、彼の想っている人にも全然敵わない……
外見も強さも……
私が誇れるのは……鳥ポケモンと喋れるという能力だけ……
それだけ……
小さい頃から鳥ポケモンが好きだった。
そして、気付いたら鳥ポケモンの言葉がわかるようになっていた。
それだけじゃなく、自分の言葉も相手に伝わっているようだった。
鳥ポケモンと過ごす毎日がとても楽しくて、私の周りにはいつも鳥ポケモンがいた。
でも、その代償に、私の周りには人間の友達がいなかった…………
ある時、風霧という鳥ポケモン好きの組織を知って、メンバーになった。
活動はとても楽しいものだった。
鳥ポケモン用のポケモンフーズを作ったり、鳥ポケモンと遊んだり、どうすれば鳥ポケモンをもっと強くできるかとか、毎日が楽しかった。
あるときから、私は鳥ポケモンと喋れる能力を生かして諜報部員として、他の組織に偵察へ出る事が多くなった。
役に立てることは嬉しかった。
でも、これから組織が何をしようとしているかが不安でたまらなかった。
そんな時、砂漠の温泉街:キャメットで彼に出会った。
背が高くて強くてカッコイイ……私の理想とする男の人だった。
もし、彼の役に立てるのなら、組織を敵に回してもいいかもしれないと思ったのは、このときからだった。
しかし、彼にも好きな人がいたみたい。
彼女は私よりも数段魅力的な人だった。
できれば、最後に私は彼女のことを救いたかった。
でも、私の力じゃどうすることもできない。
もう……ダメ……
吹っ飛ばされた時に、頭の変な所を強く打っちゃったからかな……?
意識が……遠ざかっていく…………
何も見えなく……なって…………
たった一つの行路 №220
46
「よし、バンはもう終わりだな」
ユウナのウインディが最大の技『スパイラルキャノン』を放ったあたりで、監視室のアルドスはそのモニターの電源を切ってしまった。
「使わないテレビは切らないと、電気の無駄になってしまうからな」
そうして、アルドスはうたた寝をし始めた。
「(シファー様に報告するのは……シロがこっちに連絡して来てからでいいだろう……)」
ゆっくりと意識を落ち着けていく。
ガチャ
彼は気付かなかった。
この小さな物音に。
そして、このフロアを見る視線があったことに、彼は気付けなかった。
47
―――地下二階、Bフロア
パチッパチッと部屋の至る所に火がついていた。
それは、先ほど炸裂したウインディによるスパイラルキャノンによるものだ。
「…………」
ユウナは無言でその倒れた3匹の小鳥と2つの人影を見下ろしていた。
見下ろしていたとは言うが、実際のところ、彼女の目に何が見えているかわからない。
「終わったな」
シロは無機質にそう言い放つ。
そうしてから、ユウナはシロの元へと駆け寄って、膝をついた。
「……お願い…します……ご褒美を…ください……」
焦点の定まってない目で、シロにポツリと訴えた。
それを見て、シロは冷静な笑みを零して頭を撫でてやる。
「少し後でだ。僕は忙しいんだ」
そういって、ユウナを残して今度こそAのフロアへと戻ろうとした。
ガサリ
「……!」
物音が聞こえて、シロは後ろを急いで振り向いた。
最初にチドリの方を見たが、死んだようにピクリとも動かない。
スパイラルキャノンを直撃同然で受けたのだから、当然だろう。
「……お前……」
彼は立ち上がった。
その姿をシロは目を丸くしてみていた。
「そんな体でどうして立てるんだ?ボスのバドリスに死ぬ目に遭い、さらにここで幾度ともなくユウナの攻撃を受けて、どうして立てる!?」
「……?」
ザクッと、バンは一歩、ユウナに向かって足を一歩踏み出した。
「(……おか……し…い。なんか……体が凄く軽い。痛みも何も感じない……)」
さらに一歩、バンは足を前へ前へと近づいていく。
「(……俺……歩けてるのか?全然そんな気がしないのに……。まあいいや……このまま、ユウナに……)」
「ユウナ、あいつに止めを刺せ!」
シロが命令すると、ユウナが再び手を翳す。
「……『スパイラルショット』……」
ズドンッ!!!!
指示に従って、向かってくるバンに向かって攻撃が直撃した。
彼の歩くスピードでこの攻撃を避けることは不可能だった。
「今度こそ終わったか……? なっ!?」
炎の中から、なおもこちらに向かって、歩いてくる。
ゆっくりとした足取りで、ユウナに近づいていく。
「(なんか……全然痛くも熱くない……俺、どうしたんだ……?)」
「な!?もう一回だ!」
「……『スパイラルショット』……」
ズドンッ!!!!
もう一回、強力な炎攻撃が炸裂した。
しかし、その攻撃は何度も撃てるものではない。
明らかに『スパイラルキャノン』を打ったときから、攻撃の威力は落ちていた。
ウインディも全身で息をしている。
「ウソ……だろ?」
なおもバンはユウナに近づきつつあった。
「ユウナ!早く……」
命令に従い、もう体力が限界だったウインディを戻す。
そして、ポリゴン2のモンスターボールに手をかけようとする。
だが……
ガシッ
「…………」
「……っ……」
バンがユウナの両肩を掴んで、ユウナの動きをホールドした。
「やっ…と……捕…まえ…た……」
ふらふらのバン。
着ていたシャツやバドリス戦後に施された治療のあとの包帯は、度重なるスパイラル系の炎技で焼き尽くされ、ゴムで束ねられていたポニーテールは炎で燃えて短くなっている。
ズボンも所々ボロボロで、全身が火傷を負っていて、痛々しかった。
そんな姿ながらも、力を振り絞って、ユウナの両肩を強く握った。
「ユウ…ナの……バカ……目を……覚ま…せ……」
だが、バンの声に何も反応しない。
彼女の目にバンは映っていないのだろうか。
「ふっ。ユウナは僕の言うことしか聞かない。あんたの声など届きはしない」
「ユ……ウ……ナ……」
シロの声に耳を貸さず、もう一度彼女の名前を呼ぶ。
それでも反応がないと見たのと同時に、バンの足の力がガクッと抜けた。
「(限…界…か……?俺はもうダメだ……。それなら……)」
体重を前へとかけて、そのままユウナと一緒に押し倒そうとする。
まったく力も入らず、ユウナも何も抵抗をしなかったために、相当の衝撃が生まれる。
しかし、幸いなことに、倒れこもうとした所は柔らかかったために、押し倒されたユウナは怪我をせずに済んだが。
「…………」
「ユ……ウ……ナ……」
勢いのまま、2人の顔が重なった。
偶然ではない。
バンは狙ってこの体勢に持ってきたのだ。
「何をするかと思えば……」
シロは鼻で笑う。
「そんなことで、ユウナが元に戻るとでも思ったのか?」
「…………」
童話では呪いを解くには王子様の口付けというのは、ベタな話だ。
でも、それでも、バンはそれに懸けたかった。
けっして、自分がユウナの王子という柄ではないとは思っていたが、彼女が元に戻るのなら、そんな自分の位置づけはどうでもよかった。
「ユ……ウ……ナ……」
唇と唇を合わせたまま、バンはユウナの瞳をずっと見続ける。
「(こいつの目って……こんなに綺麗だったのか……? なんだか、安らいで……行くぜ……)」
だが、従って強烈な意識の離れが近づいてきていた。
「ユ……ウ……ナ……」
もう一度、彼女の名前を呼び、そして、最後の力を振り絞って手を握る。
「目を……覚…ま…せ……」
バンは願いをこめて、もう一度、強く唇を押し付けた。
「(……バ……ン……?)」
「(……!)」
ユウナの瞳が徐々に力が戻っていくのが、わかってきた。
そして、唇を離し、首をもたれる。
「ユ……ウ……ナ……」
「バ……ン……?」
互いに首を捻って、向き合った状態で互いの名前を呼び合う。
「ヘッ」
一回だけバンは笑った。
「(もう……俺はダメだな……こんなところで……。まあいいか……)」
「……バ…ン……?」
バンの唇がゆっくりと動く。
それを、ユウナはじっと見ていた。
あ い し て た ぜ
それだけを言い残して、バンは笑ってガクリと力を失った。
まるで、ユウナを庇うかのような体勢で。
「(最期に……こうやって、本当に好きなヤツ<女>の傍にいられたんだから……)」
48
「……バ……ン……? ……え……?」
自分の上にのしかかっているのは紛れも無いバンだった。
彼は酷いケガを負いながらも幸せそうにまぶたを閉じていた。
「……え? バ…ン…?」
彼を揺するユウナ。
ゆっくりと起き上がり、彼を寝かせて、再び揺すってみる。
だが、返事はなかった。
「バ……ン?ウソ……でしょ……? また私をからかって寝たフリをしているんでしょ……?」
ワナワナと腕の震えが止まらない。
「うそ……うそ……何……これ……どうなってるの……?ウソだと言ってよ……」
―――「へぇ……なかなかいい女だな」―――
思い出されるバンとのはじめての出会いの一言。
―――「え?お金?……あ~大丈夫!明日一山当てて返すから!」―――
「まだ……借金も……返してもらって……ないのよ……?」
―――「まーそんなんじゃ、男は寄ってこねーぜ?」―――
―――「そうだな。もし、お前が売れ残っていたら俺が嫁に貰ってやろうか?なんてな」―――
軽口を叩くバンがどんどん思い出されていく。
「バン……起きてよ。起きなさい……。こんなところで寝たら……風邪……引く……わよ……」
だが、どんなに揺すっても声をかけても、バンが目を覚ますことはなかった。
やがて突きつけられる逃れようのない現実。
「この火傷……炎技……私が……?まさか……私が……?」
バンの体の火傷を見て、ゴクリと息を呑む。
「そうさ、ユウナ」
声をかけられて、ユウナはびくりと後ろを見た。
シロが威圧感をかけてユウナを見下していた。
それに怯えてバンを抱きしめるユウナ。
「バンはあんたが殺したんだ」
突きつけられる言葉。
次の瞬間、ユウナは酷い眩暈に襲われた。
「私が……バンを……?」
「そうだ」
「ウソよ……ウソよ……ウソよ……」
「ウソなんかじゃない。そのバンの火傷はあんたがウインディによってつけたものだ。自分で命令したのに覚えてないのか?」
責められてユウナは、自然と目から涙を流し始めた。
「いや……ウソよ……そんな……いや……いや……いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!」
まるでタガが外れたかのようにユウナは紛糾した。
理性が外れて感情がコントロールができなくなってしまったようだった。
「ユウナ、黙れ」
シロが押し殺して命令する。
しかし、ユウナには聞こえない。
完全にシロの命令を無視して、叫び続けた。
「僕の命令が聞けないというのか……エアームド」
バキッ!!
エアームドの『鋼の翼』だった。
無抵抗のユウナは放物線を描いて、地面に叩きつけられた。
「……ウソ……よ……こんな……の…………」
涙を流したまま、ユウナは感情を暴走させたまま気を失った。
「ダメだな。もう使い物にならないな。『地獄の番犬』は一回限りか……」
呆れたように呟いて、倒れているバンとチドリを無視して、ユウナに近づいて見下ろした。
「エアームド。止めを刺せ。仲間の命を自分の手でかけて自分だけ生きている方が苦しいだろうからな。せめてもの手向けだ」
空中に飛び上がって勢いをつける。
そして、そのままユウナの首を目掛けて、『ドリルくちばし』を繰り出した。
やっぱり……ダメなのね……
私が好意を持ってしまった相手はみんな死んじゃうんだ……
父さんや母さん……お兄ちゃん……それに……今も……
…………。
なんで、私じゃないの……?
どうして、みんないなくなっちゃうの……?
……もう……私……
……私……
……わ…た…し……
……消えて……しまい……たい……
すでに動かないバンとチドリ。
気絶してしまったユウナ。
この部屋の中で、エアームドの攻撃を防げるものは何もなかった。
「!!」
そう。あくまで、“この部屋の中”での話。
シロはいち早く気がついた。
部屋の外から、モンスターボールが投げられてきたことに。
「(これは……!)」
しかも、そのボールはポケモンを繰り出すために投げたものではない。
エアームドに当たったボールは、手のオーラを醸し出して、エアームドをモンスターボールの中に封じ込めようとした。
だが、じたばたと暴れてエアームドは間一髪、ボールの中から抜け出し、ユウナから間合いを取ってシロの手元に戻ってきた。
「(今のは、スナッチか……?) 誰だ?」
「…………」
黙ったまま扉をくぐって中へ入ってきたのは、銀色の髪にブルーのジャケット、そして、目付きの鋭い男だった。
「ふん。なんだ。お前か」
正体がわかる否や、白はふんっと鼻で笑った。
「誰が出てくるかと思えば……。ウゴウごときに一人で手も足も出なかったお前が僕と戦うのか?」
「…………」
しかし、彼は挑発に動じない。
倒れていた一人ひとりを確認していく。
そして、冷静に彼は問いかけた。
「これはすべてあんたがやったのか?」
「…………。違うな、そこで気絶しているユウナがやったことだ」
「…………。信じられないな」
「信じられなくても、それが事実だ。その男の命は、ユウナが奪ったんだ。紛れもなくな」
「……黙れ」
押し殺したように低い声で、シロに向かって言った。
「ユウナは仲間の命を奪うような奴じゃない。ユウナに一体何をした?」
「……さあね。それより、あんたはどこから入ってきたんだ?ハルキ」
シロが質問すると、ハルキはモンスターボールを取り出した。
「……さあな。それより、ユウナを連れて帰る。あんたは……」
中からマイナンが飛び出す。
「……邪魔だ!」
「っ!! エアームド!!」
バリバリバリッ!!
強烈な10万ボルトがシロのエアームドに直撃した。
49
「なるほど……ポケモン総合研究所のアイ……つまり、CLAWの潜入捜査のために来たのですね」
「別に捜査とかそんなんじゃないよ!アイは……ただ……遊びに来ただけだもん……」
ほろりと涙を流し始めるアイ。
ロープで自由を奪われているアイは、この場から動くことはできない。
「遊び……そんな理由でここに来たのですか……。でも、遊びでも許されることではありません。そこで反省してなさい」
この部屋を巡回に来たシロの忠実なるしもべのハクは、アイにそれだけ言って、部屋を出て行こうとした。
「……見つけた!」
だが、突如その扉は開かれた。
「……!! 誰!?」
ハクが警戒してモンスターボールを腰にかける。
同時に、その入ってきた人物を見て、アイが笑顔になる。
「カレンお姉ちゃん!!」
アイは今まで泣いていたのがウソのようにキラキラとした表情になった。
「……カレン……。まさか、オーレの英雄の一人……?というよりも、何故こんなに簡単に侵入されているの?」
50
カタカタカタ
地下一階で、パソコンを打っている少年の姿があった。
リクだ。
その隣には、ベイリーフのつるのムチで縛られた、憔悴しているシャトレの姿があった。
「ハルキさんとカレンさん……無事に入れたようですね。僕も情報を聞き出したら、すぐに援護に行きます」
ここから、SHOP-GEARは反撃の狼煙を上げたのだった。
第三幕 The End of Light and Darkness
Evil box in the dive⑤ ―手遅れからの反撃― 終わり
信じる者はどんな幻にも負けはしない。