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たった一つの行路 №219

/たった一つの行路 №219

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「ねえ、ポッポ……」

 地下二階の襲撃された休憩室の中で破壊されてない椅子に座り、チドリは相棒のポッポに問いかけた。
 相棒は首を傾げて、彼女の顔を覗き込む。

「……私の恋は……結ばれないのかな……? ……諦めた方が……いいのかな……?」

 ぽっぽ、ぽっぽと彼女に向かって何かを語りかける。
 その言葉にうんうんとチドリは頷く。

「……でも、バンには好きな人がいるみたい。その人はここに捕まっているんだって……。いくら私が気持ちを伝えても……」

 ブスッ

「っ~!!」

 突然のくちばし攻撃に、チドリは刺された部分に手を当てる。
 攻撃してきたのは、地面に倒れていたオニスズメだった。

「……『諦めるな』……か……」

 さらに、オニスズメと同様にアーボックにいなされたスバメも飛び上がって、鳴き声をあげる。
 その問いかけに、チドリは顔を俯かせる。

「……うん……でも、どうするか……もうちょっと考えさせて……」

 椅子の上に体育座りをして、しばしチドリは3匹の小鳥に囲まれる中、黙っていたのだった。



 たった一つの行路 №219



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 ズゴゴゴゴッ!!

 突き上げる大地のエネルギーがバンの目の前で止まる。
 とは言うが、バンの前に光る壁が見えるのがわかる。
 そのとどまったエネルギーは、向かってきた方向より90度逸れて壁にぶつかった。
 衝撃は相当なもので、少し基地全体が揺らいだようだった。

「(ちょっと遅かったら、ヤバかったぜ……)」

 荒く息を吐きながら、傍らにいる白い蛇のようなポケモンに手をついて体重を預ける。

「(それに、最近になってミロカロスに『ミラーコート』を覚えさせておいてよかったぜ……。全然コントロールができてないが)」
「コイりん、『10万ボルト』」

 バリバリバリッ!!

 ラグラージに代わってレアコイルが攻撃に出る。
 それを見て、今度もミロカロスの『ミラーコート』で攻撃を弾いた。
 バンの言うとおり、コントロールできてないようで、今度はギリギリ後方に弾いたようだが。

「(間違いない。ラグラージにスズりん、レアコイルにコイりんという変なニックネームをつけるのはあいつしかいない。紛れも無くユウナ本人だ!!)」

 ギリッとバンは歯を食いしばる。

「(そうなると、1対1で戦うのは条件的にこっちが不利だ。あっちは体力がマックスに違いない。それに比べてこっちは連戦続きですでにライボルトとハガネールがダウン……。となると……) ……ぐふっ!!」

 考え事をしていると、電光石火が飛んできた。
 ブラッキーだ。
 ミロカロスが竜の波動を撃って反撃するが、簡単に避けられてしまう。
 さらに、レアコイルの電撃が襲い掛かり、バンはダメージを受けた腹を抑えながらミロカロスにしがみついて攻撃をかわした。
 ラグラージはどうやらブラッキーを出した際に戻したらしい。

「(あいつが操られている原因を解くしかねぇ……。おそらく催眠術だろうが……操っているポケモンはどこにいる……?)」

 しかし、いくらこの部屋の中を探しても、操っているポケモンを見つけることはできない。

「(外から操ってんのか?ユウナの攻撃の巻き添えを喰らわないようにすることを考えるとそれもありだが…………ん?アレは……?)」

 ふと、ユウナを見てバンは気付いた。

「……『ファントムハリケーン』……」
「……! 『渦潮』!!」

 電光石火の連続使用による高速の打撃攻撃だ。
 対するバンはミロカロスの拘束技で動きを封じ込めようとする。

「(当たるか……!?)」

 ブラッキーが技に気付いて、攻撃を止めようとする。
 だが、スピードの出ている車にブレーキをかけるように、電光石火で急にストップなどできやしない。
 ブラッキーは猛烈な渦の流れの中に飲み込まれようとしていた。
 なんとか、足を踏ん張って攻撃に飲み込まれまいとしているが。

「(ユウナの首のアレ……首輪だよな?もしかしたら、アレが原因で操られているんじゃねぇか?)」

 それしかないと、バンは踏んでいた。
 秀麗で自分の意思が強いユウナがここまで操られているところを見ると、道具か何かの影響で催眠術系の力を増幅されているに違いないと踏んだ。
 そう考えると、バンの行動は早かった。

「アーボック!!ハクリュー!!」

 ブラッキーをミロカロスに抑えてもらい、ハクリューに乗り移る。

「コイりん、『トライアタック』」

 レアコイルの攻撃を、2匹はひらりとかわし、アーボックがレアコイルに噛み付く。
 ただの噛み付く攻撃ではなく、鋼タイプに相性抜群の『炎のキバ』だ。
 レアコイルは必死にその攻撃を耐えている。
 すると、ユウナがフリーになった。
 ユウナは腰からのモンスターボールを取ろうとする。

「させるかよっ!!」

 ハクリューがブレーキをかける。
 すると、その勢いでバンがユウナに向かって吹っ飛ぶ。

 ズドンッ!!

「……はぁはぁ……ぐっ……」

 ぶつかった痛みと、バドリスから受けたダメージがバンの意識を奪い去ろうとする。
 だが、力を振り絞って、ユウナを押さえつける。
 ユウナの胸の辺りを跨り、左足で彼女の右腕を押さえつけ、見た感じ飼われている犬がつけるような首輪を剥ぎ取ろうとする。

「(チッ……意外と取れねぇ……!!)」

 その間、何度かバンはユウナの目を見る。

「(あともうちょっとだからな)」

 目でそう訴えるが、その瞳は相変わらず、虚ろのままだった。
 まったくバンの事が見えてないように見える。
 でも、それももう少しだとバンは思った。

 バッ!!

 遂にバンはユウナにつけられていた首輪を剥ぎ取った。
 そして、ペシペシとそのままユウナの頬を叩く。

「オイ。しっかりしろ……ユウナ」

 いつもなら大きな声で彼女の名前を呼ぶのだが、体全身が痛んでいてそれができない。
 普通の大きさのかすれるような声で彼女の名前を呼ぶ。

「起きろ……ユウナ……目を覚ませ……」

 ちょうどそのときだった。
 ブラッキーを拘束していた渦潮がなくなった。
 同時に彼女の唇が動いた。

「……『ファントムハリケーン』……」

 ドガガガガガガガガガガガガッ!!!!

 見えない速力で、油断していたミロカロスは次々とダメージを負っていく。
 そして、あっという間に地面にねじ伏せられた。

「なっ、ミロカロス!!」

 予想外の出来事に、バンは立ち上がり、ミロカロスに駆け寄ろうとする。
 だが……

「……っ!!」

 バンに悪寒が走った。
 後ろから凄まじいモノを感じると。
 それは避けられないと、感じた。

「……ウイりん……『スパイラルショット』……」

 すぐ背中に迫る炎の渦と遠距離型火炎車の合成攻撃。
 バンのポケモンはすべて出し切ってる。
 唯一フリーだったハクリューもバンの援護に間に合わなかった。

 ズド―――――――――――――――――――――ンッ!!!!

 激しい爆発音をたてて、バンは吹っ飛ばされた。
 ドガッと壁にぶつかって、ドサッとバンは地面に倒れた。

「…………」

 そして、無言で何事もなかったように、ユウナは起き上がる。

「コイりん……『ディヴァイト』」

 ユウナの指示で、アーボックに噛み付かれていたレアコイルが、3つに分かれた。
 分離したことにより、アーボックは慌てて離れるが、すでに周りを3つのコイルに囲まれていた。

「……『フォーカスサンダー』……」

 その中心にいたアーボックは、3匹のコイルの集中攻撃を受けてしまった。
 バンが指示を出せば、その場は凌げただろうが、彼が倒れたことにより、アーボックは動揺してしまった。
 そこに隙が生じたのだ。
 ミロカロスに続いて、アーボックまで戦闘不能になってしまった。

「…………」

 ユウナは残ったハクリューを見る。
 そのハクリューは、燃えているバンの元へと駆け寄る。
 そして、すぐに水系の技で消火した。

「……な…ぜ…だ……」
「…………」
「(ユウ…ナ……お前……どうしたんだ……?それとも、あの首輪が原因じゃなかったというのか……?)」

 ハクリューがバンに擦り寄ってくる。

「(…………。体が……動か…ない?そんなわけ……あるか……) ユ……ウ……ナ……」

 懇親の力を振り絞るバン。
 手をついて、うつ伏せになっていた体を少しずつ起こしていく。

「はぁはぁ……」

 額には汗を滲ませて、体全身は鉛のように重たいと感じていた。
 だが、それでも、バンは立ち上がった。

「ユ……ウ……ナ……」
「ウイりん……『スパイラルショット』」
「……!!」

 躊躇はなかった。
 ゆっくりながらも、ユウナはウイりんに指示を出した。
 しかも、ウイりんは迷うことなく、指示に従い、バンに向かって強力な炎を吐き出した。

“キューっ!!”

 ハクリューが身を挺して、バンの前に立って盾になろうとする。
 自身はアクアテールを使って攻撃を軽減したつもりなのだろうが、これぞ焼け石に水というのだろうか。
 まったく、威力は落とすことができず、攻撃が直撃した。
 しかも、その爆発でハクリュー、バンは壁に吹っ飛ばされて、壁にもたれるような体勢になった。

「(ハク……リュー……)」

 傷ついて倒れているハクリュー。
 まだ微かに体力は残っているようで、起き上がろうとする。
 それをみて、ユウナが再び手を翳す。

「やめ……ろ……ユウ……ナ……」

 ズド―――――――――――――――ンッ!!!!

 極大の炎が爆発した。
 間近に居たバンは、体を硬直させて、直撃したハクリューを呆然と見ていた。

「お……ま……え……。ユウナじゃ……ない」

 バンには信じられなかった。
 もう、ここにいるのが、ユウナと同じポケモンを持ち、同じ実力を持ち、同じバトルセンスを持った別の人間だと祈りたかった。
 こんな躊躇なく、味方を攻撃するのがユウナであって欲しくなかった。

「…………」

 そして、ウインディ以外のポケモンを戻し、再びユウナは無言でバンに向かって指差す。
 止めを刺すつもりのようだ。

「ユ……ウ……ナ……」

 ボロボロの体で、次撃たれたら、絶対回避はできなかった。

「攻撃を止めろ」

 だが、そのとき、一人の男の声が聞こえた。
 その男は、Aと書かれた扉の向こうから姿を見せた。

「……貴…様…は……!」

 その男にバンは見覚えがあった。
 黒いスラックスを穿き、グリーンのジャケットを着用し、ツバがやや長い帽子を被った男。

「…シ…ロ…」
「これだけ傷ついて倒れているのを見ると『王侯の潰し屋』の名が泣くな」

 白い目でバンを見下すシロ。

「貴……様……が……ユウ……ナに……催眠……術を……」
「催眠術?そんなちゃちなもの、僕が使用するはずないじゃないだろ」

 そういって、シロはユウナに近づき、彼女の頭を撫でた。
 すると、黙ってユウナはなすがままにシロに撫でられていた。

「ユウナは僕の力で従わせているのさ。つまり、今の彼女は僕の番犬と言うわけだ。犬は主人に従う。そうだろ?」

 フンッと鼻でバンは笑う。

「ユウナが……そんな……」
「試してみるか? オイ、こいつを少し黙らせろ」
「……はい。コイりん……『10万ボルト』」
「……っ!!!!」

 彼女にまるで躊躇はなかった。
 圧倒的な電撃がバンに叩き込まれた。
 悲鳴をあげることもできずに、そのまま気を失いそうになる。

「どうだ。これでわかっただろ?コイツは僕の言いなりだ」
「……っ……」

 言葉を発することもままならず、ユウナが跪いてシロに何かぶつぶつと言っているのが見えた。
 それに、シロはほくそ笑んで答えていた。

「止めを刺せ」

 そういって、シロはAの扉へと向かっていく。
 ユウナが手を伸ばしてシロを見ていたが、やがてやめてバンの方に向き直った。
 ウインディの口から強力な炎を蓄え始めた。

「(『大文字』か……よ……。こんなもん、喰らったら……もう…………)」

 ぐっと拳をバンは握り締める。

「(だが……シロ……あいつだけは……許さねえ……。あいつを一発ぶん殴らなければ、死んでも死に切れねー!!)」

 だが、バンの思いも意味はなく、無情にもウインディが口を開いた。

 ドガンッ!!!!

「!!」
「…………」

 しかし、そのとき、ウインディの顔に何かが当たった。
 その影響で、攻撃が別の方向に向かって飛んでいった。
 大文字は壁に当たって、爆発した。

「ん?」

 シロは何かを感じたか、後ろを振り向いた。

「何をやっているんだ……?」

 シロがそういったのは、ユウナに対してではない。
 このフロアに入って来た者に対して、言っているのだ。

「チドリ。自分が何をやっているのかわかっているのか?」
「…………」

 彼女の肩に止まる三匹の鳥ポケモン。
 ポケモンたちは何かを囁くと、チドリは頷いて、足を一歩前に踏み出した。

「バンは……死なせません」

 その目に迷いはなかった。
 一度、ユウナとシロを見据えると、バンの前に立って彼を隠した。

「……っ! (あのバカ……)」

 何も喋ることができず、ただチドリの後姿を見るしか出来ないバン。

「(せっかく、俺が風霧を裏切らないようにしたのに……全部作戦がパーじゃねーか……)」

 チドリを休憩室においていった時に言ったことはすべて、バンの作戦だった。
 あの時点でチドリが仲間になれば、場所の把握もできたし、彼女の気持ちに答えられることができたかもしれない。
 だが、同時に風霧とCLAWを裏切って、敵に回すことになる。
 そうなっては、彼女の実力では逃げることができないと、バンは戦ってみて感じたのである。
 そして、チドリはユウナと対峙しているが、まったく勝負にならないことも確信していた。

「バン……怒らないで。これは私の心が決めたことなの。報われなくたっていい。後悔だけは絶対したくないから……。だから……」

 一度だけ、チドリは振り向いてバンを見た。

「私の好きのようにさせて」
「(……バカ野郎……)」

 すると、チドリは向き直って、3匹の小鳥に話しかける。
 肩から、ポッポ、オニスズメ、スバメが離れると、目付きを変えて戦闘体制になった。

「そうか……。わかった上でバンの味方になるってことか。残念だよ、チドリ。あんたの諜報能力は僕も買っていたのに……」

 シロは目を瞑って、残念そうに呟く。
 実際のところ、本心で言っているのだろう。

「鳥ポケモンと喋れるという能力は惜しいが、こうなってしまった以上、消えてくれ。弱い者は僕のしもべになる価値もないからね。ユウナ」
「……はい……」

 シロの命令に従って、ユウナがウインディに指示を飛ばす。
 『火炎放射』だ。

「『電光石火』!!」

 ドガ ドガ ドガッ!!

「!」

 意外なことだった。
 チドリの3匹の小鳥が、ウインディの炎をかわして、すべての電光石火をヒットさせた。
 タイミングよく攻撃を当てられたようで、ウインディもたまらず後退した。

「…………」
「ユウナ……って言ったよね?どうしてこんなことをするの!?やめてよ!バンはあんたのことを本気で心配しているんだよ!?」

 チドリがユウナに訴えながら、ポッポ、スバメ、オニスズメに連続で攻撃を指示する。
 まるでチドリとその3匹の心が通じているような、見事なコンビネーションだった。

「…………」
「バンをこれ以上傷つけるなら……私が倒すっ!!」

 3匹が纏まって、突撃する。

「『トリプル電光石火』!!」
「…………」

 ズガンッ!

 攻撃はウインディに直撃した。
 ……はずだった……。

「え!?」

 チドリは目を疑った。
 3匹の鳥ポケモンたちが、頭突きで真っ向から弾き飛ばされてしまったことに。

「(ウソ……私の最強の技がこんなにあっさり……!?そんなことって……)」
「(ダメだ……チドリじゃ絶対に勝てない……コンビネーションがよくても、ポケモンのレベルが違いすぎる……)」
「……ウイりん……」

 ユウナは呟く。
 すると、ウインディが『スパイラルショット』を放った。
 その一直線上に、三匹の鳥ポケモン、チドリ、バンが居た。

「(かわしたらバンに当たる……) ポッポ、『守る』」

 決して破れない防御壁を張って、ディフェンスに回った。
 だが、その上でウインディが炎を纏って突撃してきた。

「(アレは……!!)」

 纏った『フレアドライブ』と『スパイラルショット』が1つになった。
 2つの技が合わさることにより、その技の威力は爆発的にアップし、ユウナのポケモンが持つ最強の技となる。

「……『スパイラルキャノン』……」

 ゴゴゴゴゴッ!!!!

「っ!!そんな!?」

 ポッポが『守る』で防御しているにもかかわらず、そのままウインディは障害が何もないかのようにポッポをいとも簡単に押し込んでいく。
 そして……

 ズドオォォォォォォォォォォ―――――――――――――――――――――――――――――ンッ!!!!!!!!

 炎が弾け飛んだのだった。



 第三幕 The End of Light and Darkness
 Evil box in the dive④ ―チドリの決意― 終わり



 もう…………戻ることはできない。


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Last-modified: 2015-09-23 (水) 15:21:09
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