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たった一つの行路 №218

/たった一つの行路 №218

「地下一階の奴らが全滅……!? なんてことだ……」

 地下五階にある監視ルーム。
 そこは、アルドスの自室でもある。

「下っ端の中でも、わるいポケモンと与えたラフィとシャトレなら止めてくれると思ったが……見込み違いのようだな……」

 軽く頭を抑えて、アルドスは俯く。

「地下二階の風霧のメンバーでもヤツを倒すことはできないかもしれない……。それなら、地下四階に招き入れてわるいポケモンとダークポケモン連合で……」

 そう口走ってから、ブンブンと頭を振った。

「ダメだ。地下一階の今の状況を見るかぎり、ヤツを地下四階までしのび寄せたら、地下三階までボロボロにされてしまう。そうなったら、シファー様が怒るに違いない……」

 どうしようか……と腕を組んで考える。

「(待てよ。風霧といえば……)」

 ハッと気付いて、すぐに受話器を取り、回線を繋いだ。

“何事だ?アルドス”

 不機嫌そうな男の声が聞こえてきた。

「おい。シロ。お前も戦え」

 すると、受話器の向こうからため息が聞こえてきた。

“いきなりなんだよ。それと僕に命令するな。風霧の幹部とCLAW<クラウ>の幹部は同格だといっただろ”
「何を言っている。貴様は我がボスシファー様に手を出して、幹部を失脚させられた身だろ」
“…………”

 黙ってはいるが、悔しそうな雰囲気がひしひしと伝ってくるのがアルドスにも感じてとれた。

「とにかく、今、このアジトに侵入者が入ってきている。地下一階で暴れて、後に地下二階へ降りて行くだろう。そのとき、お前も前線に出て戦ってもらう」
“…………”
「返事は?」
“わかった”

 相手は素直に返事をしたようだったが、最後に大きなガチャリッって音が耳に突き刺さった。
 その音に顔をしかめるアルドス。

「とにかく……これで時間稼ぎができるだろう。その間にベルとナポロンを起こさなくては…………あれ?」

 地下三階のFフロアのベルの部屋に通信を繋ぐが、誰も出てこなかった。
 同じく地下五階のCフロアのナポロンの部屋にも繋いで見るが、音沙汰はなかった。

「幹部2人揃ってどこかへ出ているのか?……これをシファー様は知っているのか?」

 困った顔をするアルドス。

「(幹部といえば、クロノも一体どこへ姿を消したのやら……)」



 たった一つの行路 №218



「おい、貴様」
「ぐっ」

 地下一階の通路。
 そこには、2人の女が倒れていた。
 2人とも服はびしょ濡れで、ぺったりと肌に張り付いていた。
 そのおかげで、下着のラインまでぴっちりと見て取れる。
 とはいえ、彼はそんなことをまったく気にしていないようだが。

「ユウナの場所を知っているんだろ?教えろ。さもなくば……」
「がっ……」

 バンはスタイルのいい女、ラフィの首を鷲づかみにし、壁に押し付けた。
 ラフィはじたばたと足掻いて抵抗するが、バンの力にまったく太刀打ちはできなかった。
 ムチを持った相棒のシャトレといえば、頭に大きなたんこぶをつくって気絶している。
 どうやら、『天の川』の際に流されて、壁に頭をぶつけたらしい。

「い……う……わ……。ちか……に……かい……の…………」

 そこまで言って、泡を吹いて気絶してしまった。
 バンは首を離して、チッと舌打ちをする。

「地下二階を手当たり次第に探すしかないな」

 そして、近くにあったDと書かれているドアを蹴りつけた。

「ビンゴだぜ」

 その先にあったのは、地下二階へと通じる階段だった。



「(……いつっ……)」

 体の痛みにビリッと来て、足を止めるバン。

「(こんなところで止まるわけには行かないんだよ……。ログを……ジュンキを……そして、ユウナを助けないといけねーんだ!)」

 額に汗を滲ませながら、痛みを引き摺りつつ、バンはFフロアと書かれた部屋を蹴りつけた。

“ん?侵入者か!?”
“あ、こいつ……SHOP-GEARのバンですわ!”
「(ここはたまり場か!?)」

 そこにいたのは、6人のトレーナーだった。
 だが、地下一階で見たメンバーとは違い、みんな帽子を被ったトレーナー……つまり、風霧の者だった。
 中には、ピジョンをブラッシングしたり、チルタリスに抱きついてモフモフして遊んでいる者も居た。

“あいつは……あの時の!?”
“リベンジしてあげなくちゃ!”

 そして、その中には以前バンと戦った者もいたようだ。
 その3人連中は、オニドリル、オオスバメ、ヨルノズクを繰り出してきた。

“オニドリル!『マシンガンドリル』!!”
“オオスバメ!『スパイラルシュート』!!”
“ヨルノズク!『エアウィング』!!”
“ええと……戦わなくちゃいけませんね!トゲチック!”
“チルタリス!『突進』!!”
“えっと……えっと……ムックル、『風起こし』して”

 全ての攻撃がバンに向かって飛んでくる。

 バキンッ!!

“きゃあっ!!”

 5匹の攻撃はたった一匹のポケモンによって防がれた。
 巨大で硬い尻尾は、全ての攻撃を受け止めると、ブンッと大きく振り回して、5匹を地面にたたきつけた。

“ええと……『天使のキッス』”
「何!?」

 しかし、一人だけ時間差で攻撃して来た者がいた。
 その女の子のトゲチックは、バンの鉄壁を誇るハガネールを混乱に陥れた。

“タシギ、よくやった!”
“チルタリス、『大文字』!!”

 ハガネールを戻そうとするバンだが、一足遅く、最初のアイアンテールで倒れなかったチルタリスに炎攻撃を浴びせられてしまった。
 この一撃は大きい。

“よし、アイサのチルタリスに続け!”

 もともと居たチルタリスやトゲキッスに加わり、新たに4匹の鳥ポケモンが飛び出してきた。
 マンタイン、ヤンヤンマ、アゲハント、トロピウス……鳥ポケモンと分類するには疑わしいポケモンもいるが、全て飛行タイプのポケモンだ。
 そして、いずれも打撃技じゃなく、特殊系の技を飛ばしてきた。

「束になって来ようが同じだってんだよ!」

 ダメージを負って怯んでいるハガネールの前に飛び出してきたのは、一匹のライボルト。
 そして、光の壁を張り、攻撃を受け止めた。

「くらえ、『サンダーカッター』!!」

 その後、防御に使った光の壁を形状変化させ、さらに電気を纏わして投げつける。
 そのカッターは、次々とポケモンを切りつけて、最終的には壁を切りつけた。

“なっ!?”

 ズド――――――ンッ!!

 最終的に攻撃は爆発した。
 同時に悲鳴が聞こえ、ライボルトとハガネールを戻すころには、休憩所に居た6人全てが気絶していた。

「そこで、潰れていろ」

 懐から取り出した煙草を一本口に咥えて火をつけた。

「……バンさん……」
「!!」

 ふっと人の気配に気付いて、後ろを振り向く。
 そこにはブロンズヘアーに帽子を被ったぼんやりとした女の子がバンがたまり場と言っていた休憩所に入ろうとしていた。

「……チドリ……か……」
「バンさん……どうして……こんなことを……」

 地下二階の休憩所に倒れている仲間達に近づくチドリ。
 揺すって起こそうとするが、みんな気絶していて、起きることはなかった。

「……どうしてこんな酷いことをするんですか!?」

 チドリは目に涙を蓄えて、真っ直ぐとした目でバンを見る。

「酷いことをしようとしているのはそっちじゃないのか?」

 バンは睨みつけるようにチドリを見る。

「CLAWの奴らは、オーレ地方を征服するために着々と行動を進めているって言っていた。貴様ら風霧はそれに加担しているだろ!それが俺の酷いこととどっちが酷いってんだ!?」
「……オーレ地方征服!? だけど……こんな……」
「仕掛けてきたのはそいつらだ。俺は返り討ちにしただけ……いわば正当防衛ってヤツだ」
「……バンさん……」
「チドリ。……貴様は邪魔すんなよ」

 そういって、彼女に背を向けて、バンは歩いていく。

「待って!」

 ドガッ!!

 弾けたようにチドリがモンスターボールを投げつけると、スバメが飛び出した。
 そのまま、バンに向かって一直線に飛んでいき、ぶつかった。
 しかし、逆にバンが繰り出したアーボックの頭突きに吹っ飛ばされた。
 バンはゆっくりと後ろを振り向く。

「スバメ!オニスズメ!行って!」

 『電光石火』と『つつく』攻撃だ。

「アーボック」

 シャーッ!!と、強烈な威嚇を放つと、スバメとオニスズメはアーボックに近寄ることなく、地面にバタリと墜ちてしまった。

「……っ!! それなら、ポッポ!」
「『ポイズンヴァイト』!」

 ズドンッ!!

 ポッポに噛み付き、そのままチドリを掠めて、壁に激突した。
 あっという間に、3匹のポケモンがダウンしてしまった。

「……バンさん……」
「これでいいだろ?もうついてくんな」

 今度こそ、バンは先へ進もうとする。

「……バン……」

 息を呑んでチドリは呟く。

「あなたが……好きです……」

 その声は、バンの耳に確かに届き、一旦足を止める。

「最初に助けてもらったときから……あなたに心を奪われたの。だから、風霧を捜しているって聞いたときも、協力したいと思った。例え敵同士でも……」

 俯くチドリ。

「幹部のハヤットさんに正体をばらされたときだって、私は組織をとるかあなたをとるかで迷った……。でも、それをあなたは拒んだ……」

 チドリは立ち上がって胸に手を当てる。

「CLAWが世界征服をしようとしているというのは初めて聞いた……けど、風霧のメンバーがそのことを知っていたのはほんの一部。でも、それを知ったバンが風霧を潰そうとするのは、仕方がないことだって思うしかないよね」

 そして、彼女はバンへ向かっていく。

「そのことを考えると、風霧はもう潰れるね……。そうなったら、私の居場所はどこにもない……。お願い……。……あなたを止めることができないなら……私を…………」
「…………。『ヘドロ爆弾』!」
「きゃっ!!」

 目の前に毒攻撃が飛んできたのを見て、慌てて止まろうとして尻もちをついた。
 すぐ足元には毒液で解けた地面があった。

「知ったこっちゃねえんだよ。俺は貴様に何の興味もない。それにここに来たのは、大事な仲間と大切なヤツを助けるためだ。わかったら、そこでじっとして夢でも見てろ」
「…………」

 アーボックを戻して、バンは振り返らずに走り去った。
 チドリは立ち上がって、その後姿を黙って見つめていた。



「チッ……ここは階段か。まだ下に用はねーんだ」

 そういって、バンッとEと書いてあるドアを蹴りつけて閉める。

「残りはなんとなく直感で避けていた2つの扉か……」

 二階も一階と同じでドーナッツ状になっていて、外側に扉があってフロアや階段がある仕組みになっている。
 バンは、一通り一周したが、安全そうなFとEの扉に入ったのである。

「(……しかし……)」

 不審に思い、Bと書かれた扉の前で立ち止まる。

「(ざっと回って、なんでAとCの扉がないんだ?)」

 そうバンが思うのも不思議ではない。
 この地下二階にある扉は、B、D、E、Fの4つだけなのだから。

「(単につけなかっただけか……それとも隠された扉があるのか?……っ……)」

 胸を押さえて扉に寄りかかる。
 苦しそうに呼吸して、息を整えようとする。

「(体の調子は最悪ってワケか……だが……)」

 バンは意を決して、Bの扉を開いた。

「(ユウナ……あいつだけでも助けることができれば、この状況を一変できる。あいつはちょっとやちょっとでくたばるタマじゃねえ)」

 フロアに入ると、誰かの一室のようだった。
 本棚があり、ソファがあり、机がある。
 部屋で過ごすには少し広い気がするが、アジトということもあり、複数人存在するこの中ではちょうどいい広さなのだろう。

「(……向こうにはAと書かれている扉……んでもって!!)」

 バンは冷静に中央にあるものを見た。
 それは、木の椅子だった。
 だが、もちろんただの木の椅子ではない。
 そこに首輪を施された女性が座らされていた。
 ただし、彼女の手は肘掛にぐるぐると固定され、足も椅子の脚に密着するようにロープで縛られていた。

「オイ!大丈夫か、ユウナ!?」

 彼女の体はぐったりと椅子の背もたれに預けている。
 バンはゆっくりとその椅子に近づき、ペシペシと彼女の頬をたたく。

「気絶……しているわけじゃなさそうだ。寝てんのか?……ってか、よく寝れるな。……それとも催眠術かなんかで眠らされたのか……?」

 バンは懐から、ナイフを取り出して、右手、左手、左足、右足とユウナを戒めているロープを切断した。

「チッ……寝てんじゃ仕方がねえ……。背負っていくしかないか」

 一旦しゃがんでから、椅子を蹴り飛ばし、だらんと垂らしている腕を自分の首に回してやる。
 そこから、彼女の体重を背中と若干手で支えて立ち上がった。

「(……ぐっ……)」

 顔をしかめて、さらに、膝をついてしまう。

「(体が……痛ぇ……。チッ……ユウナを持ち上げる力もほとんどないなんてな……しかし、ここでくじけたら、「私はそんなに重くない!」って怒られそうだな。もっとも、俺におんぶされるのも嫌がるだろうがな……)」

 心の中で苦笑しながら、バンは力を振り絞って立ち上った。
 そして、ゆっくりと、ゆっくりとこのBフロアから出て行こうとする。

「(とにかく脱出して、それから、作戦を立ててまた来ないとな……。ハハッ、単独で行ったってリクが聞いたら、きっと怒るだろうな……)」

 こうして、バンはこのアジトから脱出することになった。
 ……そうなれば、上手く行けばよかったのだが……

 ギュッ―――ッ グググッ

「っ!!!!」

 突如、首に感じ始める圧迫感。
 そのせいで、空気を吸うことさえも困難な状況に陥られる。
 バンはその要因を考えるが、どう考えても、1つしか思い浮かばない。

「づっ!!うりゃっ!!」

 背負っていたユウナをフロアの中心に投げ飛ばした。
 ユウナは転がりながらも、受身を取って体勢を立て直す。
 荒い息を吐き、バンはキッとユウナを睨む。

「ユウナ!いきなり何をすんだ!」
「…………」

 黙ったまま、バンを見つめるユウナ。
 しかし、その瞳は虚ろな目をしていた。

「(なんだ?ユウナの偽者か?……いや、本人であることには間違いない!となると……操られているのか!?)」
「『10万ボルト』」
「(後ろ!?) ぐあっ!!」

 いつの間にか、外へ出ていたレアコイルが、バンに向かって電撃を放つ。
 不意を突かれたバンは、避けられずに攻撃を受けてしまう。
 さらに、連続でレアコイルは電撃を放つ。

「くっ、ライボルト!」

 だが、バンに向けられた電撃は、全てライボルトに引き寄せられる。
 特性の『避雷針』だ。

「おい、ユウナ!」
「『トライアタック』」
「チッ……『光の壁』から『サンダーカッター』!」

 防御に出るライボルト。
 だが、レアコイルのトライアタックの勢いに押されて、吹っ飛ばされてしまった。
 攻撃は防いだのだが、次のサンダーカッターに繋げることはできなかった。

「(こうなったら、倒すしかねぇ……!!) ハガネール、『アイアンテール』!!」

 圧倒的な体重差でレアコイルを叩き潰そうという作戦のようだ。
 鋼の攻撃は相性的にあまり効果はないようだが、叩き潰すだけでも相当のダメージを与えられるとバンは踏んでいた。

「『デルタウォール』」

 バキンッ!

「(この攻撃を弾くだと!?)」
「スズりん……『大地の力』」

 地面から突き上げられるエネルギー波。
 その攻撃は、ハガネール、ライボルト、バンの三方向に向かっていった。
 光の壁を展開しようとするが、ライボルトは手遅れで天井にめり込む。
 ハガネールは力負けして、壁に吹き飛ばされる。

「チッ!!」

 そして、バンに攻撃がぶつかろうとしていた…………



 第三幕 The End of Light and Darkness
 Evil box in the dive③ ―チドリの意思― おわり



 深き闇に閉じ込められた光の心。その光は闇に蝕まれてしまうのか?


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Last-modified: 2015-08-16 (日) 15:55:56
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