「ここ……だな……」
シャドーの秘密工場。いや、今では廃れた工場と呼ばれているこの場所に一人の男の姿がある。
彼の出で立ちは、長い黒髪をひとつにまとめたポニーテールをして、ウィザードスモークと書かれた長方体のケースから一本の煙草を口に咥えて、ライターで火をつける。
しかし、体の所々に包帯が巻かれており、ダメージを負っていると言う事が顕著だった。
「アーボック、全力で『地震』、『ダストシュート』、『破壊光線』!!」
廃れた工場の入り口に立った時、力いっぱいに技を放った。
まず、一撃目の地震で地面ごと建物を揺らす。
廃れた工場というだけあって、このアーボックの一撃で、補修されていない弱いところは崩れていく。
次に放った、ダストシュートは、建物の柱を中心に攻撃を当てていく。
その影響で、毒におかされた柱は、例え丈夫な鉄であっても徐々に腐食して崩れていく。
そして、止めの破壊光線は一直線に崩れた岩やコンクリートを砕いていく。
「ハクリュー、ライボルト、ミロカロス、ハガネール!!」
後に出した4匹がアーボックを援護して、建物を壊していく。
こうして、わずか5分にして、この廃れた工場は陥落してしまった。
「……誰も……いない……だと?」
顔をしかめる男。
「(この建物にいないということは……) アーボック!」
瓦礫をヘドロ爆弾で掻き分けていく。
すると、隠された階段を彼は見つけた。
「地下か。……ここからが本番ってワケだな。やってやるよ。アーボック、『破壊光線』!!」
吸い終えた煙草を後ろにポイ捨てして、アーボックに階段の奥へと攻撃を指示したのだった。
「(リクのメールからユウナがピンチになっている可能性がある。無事なんだろうな!?)」
“バン”と書かれたP☆DAをベルトにぶら下げて、男は迷いなく地下へと乗り込んで行った。
たった一つの行路 №217
☆これまでのバンの行動
SHOP-GEARに舞い込む依頼で金を稼ぎながら、賭け事を繰り返して、借金取りに追われていたバン。
そんな穏やかな(?)毎日の中で、トキオから1つの事件を聞きつけることになる。
それは、オーレ地方のポケモン総合研究所が何者かによって襲撃され、破壊された事件である。
バンは仲間達と共にオーレ地方へと飛び、そこで調査を開始する。
キャメットという温泉街でチドリという少女と行動を共にすることになり、一度ポケモン総合研究所の跡地に戻ろうとしたところ、風霧のハヤットに襲われる。
チドリという少女も風霧と知り、さらに風霧のボス、バドリスも現れ、バンは瀕死の重傷を負ってしまう。
次に目を覚ましたバンは、病院に入院させられていた。
そこに舞い込むリクの一件のメール。
内容を見て、バンはダメージを負った体を引き摺って、CLAW<クラウ>のアジト、廃れた工場の地下へと乗り込んだのだった。
「ここか!? ……っ!?」
地下一階のBフロア。
勢いよくドアを開けたバンだったが、部屋に入った瞬間にドアが閉まり、中からポケモンが飛び出してきた。
サイケ光線、オーロラビーム、ハイパーボイス、エナジーボールの4種類同時攻撃だった。
「『竜巻』!!」
部屋を吹き飛ばすほどの強烈な竜巻だ。
その攻撃で、虹色のエネルギーと氷のエネルギーを弾き、音波をかき消した。
ただし、エナジーボールだけは、竜巻と相殺する形になってしまう。
「(野生のポケモンか……) 雑魚に構っている暇は生憎ねえんだ!」
ドゴーム、コンパンが接近戦を仕掛け、デリバードがその場から冷凍ビームを繰り出してくる。
バンはライボルトのモンスターボールに手をかける。
「蹴散らせっ!!」
バンの一言で、最初に防御したハクリューが流星群を放ち、その後ろからライボルトがオーバーヒートの勢いで駆け抜ける。
ドガドガドガドガドガドガッ!!!! ブォォォォォォッ!!!!
一掃だった。
ハクリューの一撃だけで、向かってきたコンパンとドゴームは一撃で倒れた。
加えて討ちもらした、デリバードもライボルトが攻撃を叩き込んで、ノックアウトした。
「(あいつの手の花が異様にでかい!?) そいつも吹っ飛ばせ!」
最後に残っていた違和感を感じたロズレイドもライボルトがぶっ飛ばす。
だが、そいつだけは抵抗した。
ズササッ
両手の大きな花を前に出して、オーバーヒートを凌ぎきったのである。
「(ソーラービームが来る!) ライボルト!」
集束されたビームがライボルトを打ち抜く。
しかし、ライボルトはその場で消えた。
ロズレイドはただ驚くしかない。
「『ドラゴンダイブ』!」
『影分身』で虚を突かれたロズレイドは、ハクリューの攻撃を受けて吹っ飛び、のびてしまった。
全てのポケモンが動けないのを見て、ライボルトを残し、他のポケモンをボールに戻した。
「ちっ、次行くぜ!」
そういって、部屋のドアをライボルトの電撃で打っ壊して、通路へと飛び出した。
「ナポロンが捕まえた少女を消耗させた部屋を軽くクリアするとは……なんてヤツ……。仮にもロズレイドはわるいポケモンである筈なのに……!?」
アルドスはぐぐぐと拳を握り締めて、通路を移動するバンを監視する。
そのバンは、下っ端たちをライボルトで葬っていく。
「……下っ端では相手にならないか……。む?」
しかし、ある人物を見たとき、アルドスはニヤリとした。
「だが、こいつらはどうだ?」
“行け行け!キマワリ!”
“ネンドールっ!!打っ飛ばすんじゃ!”
“エテボース!『なげつける』よ”
バンに浴びせられる集中砲火。その一つ一つの攻撃は、決して油断できるモノではない。
熱い岩を持たせているキマワリは、日差しが強くないにもかかわらず、特性のサンパワーを発揮し、強力なエナジーボールを繰り出してくる。
ネンドールは、『大地の力』を繰り出してきて、ライボルトの弱点を狙う。
黒い鉄球を尻尾に括りつけているエテボースは、その鉄球をブンブンと振り回してくる。
「『電光石火』!!」
ライボルト一匹で相手の3匹に果敢に飛び込んでいった。
「あの男の人……凄くカッコ良さそうです」
「180あって、筋肉質……マジでいい男だな。是非モノにしたいね!」
後ろから、そのバトルを見る二人の女の姿があった。
一人は背が高くてすらりとしたスタイルを持った女性で、もう一人は腰にムチをぶら下げた可愛らしい少女の風貌の女性だ。
「ラフィさん。私が先に行かせていただきます」
「なっ!?シャトレ、抜け駆けするんじゃない!!」
顔が大きなグランブルを繰り出して、ムチを持ったシャトレが抗争に加わる。
「ちっ!!『雷壁』ッ!」
ズドンッ!!
「えっ!」
電気を纏った壁で、エテボースの攻撃と、シャトレのグランブルを防ぎ、弾き飛ばした。
二匹は体をビリビリと帯電させる。
「ちっ、ヤミラミ!」
舌打ちをし、残されたスタイルのいい女性、ラフィも攻撃に出る。
確実に当たる技『だまし討ち』だ。
“若造……世界の広さを知れッ!!”
ネンドールとヤミラミの同時攻撃だ。
しかし、同時に向かってきたことに、ライボルトは目を光らせた。
サイコキネシスを繰り出そうとするネンドールに噛み付き、そのままヤミラミの方に向かって投げ飛ばしたのである。
二匹はこんがらがって、壁に激突した。
「『ファイヤーカッター』!!」
“キマワリ!!”
ライボルトが薄く大きい炎を付加したカッターを放つ。
対するキマワリは極大のエナジーボールを放つが、真っ二つにされて、そのままキマワリにも叩き込まれた。
スタッと、ライボルトは着地すると、バンは息をふうっとついた。
「貴様らに構っている暇はねーんだよ!」
すると、ライボルトが呼応して、光の壁を張り、それに電気を纏わせた。
さらに、その電気の壁を薄く、鋭く洗練させていく。
“させない!”
“止めてやるわい!”
男と爺さん、そして、無言で女性はポケモンをそれぞれ繰り出す。
ズバズバズバッ!!!! バリバリバリッ!!!!
“ぐあっ!!”
“っ!!”
しかし、一撃で出したポケモンを全て全滅させた。
その近くにいた3人のトレーナーは、そのまま地面に倒れた。
「さすが、やりますね」
「っ……!!」
ズドンッ!!
グランブルのメガトンパンチ。
壁に大きな穴を開けて、瓦礫が崩れる。
「(チッ、ヤツを麻痺させたのは失敗だったか……)」
グランブルの特性が『はやあし』だったらしい。
マヒ状態になったグランブルは、通常の倍近い速さでライボルトに襲い掛かる。
「ヤミラミ、『シャドークロー』!」
バキッ!!
「ぐっ!」
ライボルトが吹っ飛ばされて、バンがキャッチする。
しかし、勢いは強く、バンも吹っ飛ばされた。
「大人しく、捕まってください」
にっこりとした表情で、グランブルに攻撃を指示するシャトレ。
飛び上がって、キックを繰り出してきた。
『メガトンキック』である。
バンはライボルトを抱えたまま、慌てて横っ飛びでかわす。
しかし、その方向から、影が迫ってきた。
それを見て、ライボルトが影に向かって突っ込んで行った。
『スパーク』でヤミラミの『影うち』を打ち破った。
「『10万ボルト』!!」
体勢を崩したヤミラミは、連続で攻撃を受けてそのままダウンした。
「隙有りです!」
大きな体を使って飛び掛ってくるグランブル。
そのまま、ライボルトを押しつぶした。
「……いないです!?」
ゆっくりと起き上がったグランブルの腹を見て、目を疑うシャトレ。
「『かみなり』!!」
ズドンッ!!!!
極大の電撃でグランブルを吹っ飛ばした。
「どうやら、『影分身』で攻撃を上手くかわしているようだね」
「さすが、『王侯の潰し屋:バン』と呼ばれているだけあります」
「試しにこいつを使ってみるか」
「やって見ましょう」
それぞれヤミラミとグランブルを戻して、ラフィとシャトレは別のポケモンを繰り出す。
「(……ドンファンとマスキッパ……)」
バンが相手のポケモンを認識すると同時に、相手が攻撃を仕掛けてきた。
マスキッパが葉っぱカッター、ドンファンが転がる攻撃だ。
「当たっかよ!」
葉っぱカッターを上手くかわすが、ドンファンの進路上に導かれた。
ガシッ
「……!」
足になにかが絡まったのを見て下を見る。
「(地面の中からのつるのムチ……。葉っぱカッターは陽動か)」
ドンファンの転がるは、ジャンプして避けようと思っていたバン。
しかし、かわすと言う行動を封じられてしまった。
「食らえっ!!」
ラフィのドンファンの転がるがぶつかる。
「格の違い……見せてやるよ!」
バンは冷静だった。
まるで、こうなることを予想していたかのように、別のモンスターボールを用意していた。
「『竜巻』!!」
中からハクリューが飛び出し、強力な風の渦を作り出す。
だが、相手にぶつける為ではなく、スクリュー状に飛ばして、地面に風を突き刺した。
ドンファンはその風に乗っかって天井にぶつかった。
「む!!」
「ミロカロス、『冷凍ビーム』!!」
さらに、もう一匹繰り出して、マスキッパへと放つ。
攻撃はかわされたものの、つるのムチの拘束は解かれた。
「ラフィさん。一気に攻めましょう!」
「そうね」
ドンファンが天井から降りてくると、鼻から背中にかけての皮膚が色を変える。
マスキッパはつるのムチの太さが10倍になった。
「ダークポケモンじゃないな?いったい、そいつらに何をしやがったんだ?」
「知りたいですか?」
「これが、CLAWが作っていた“わるいポケモン”よ。体の一部の色や大きさ、形を変えて力を上昇させるのよ!」
「さらに、シャドーが作っていた“ダークポケモン”も再び作っているのです。これらのポケモンを使って、CLAWはオーレ地方を征服するのです」
「ケッ……。何かと思えば、結局のところ、世界征服か……くだらねぇ。この俺様が、貴様らを潰してやる!」
バンの傍にミロカロスとハクリューが寄る。
「そして、ユウナたちは無事なんだろうなっ!!」
「ユウナ?」
「あの、『ロケット団の娘:ユウナ』ですか?」
ラフィとシャトレはニヤニヤと顔を合わせる。
「答えろっ!!」
「それは、探してみたらどうですか?」
「まー、それも……」
ズドンッ!!
マスキッパの強力なつるのムチがバンに向かっていく。
大きな衝撃が巻き起こる。
「……私達に勝てたらの話だけどね」
シャトレの言葉と同時に、ドンファンが力強く鼻を伸ばして叩き付ける。
「やってやろうじゃねーか」
「「!!」」
徐々に煙が晴れていくと、ぶっといつるのムチをかわし、ドンファンの攻撃を頭突きで受け止めるハクリューの姿があった。
「俺様がこんな部分だけを強化したヤツに負けるわけがないだろっ!!」
ズドッ! ズドッ! ズドンッ!!
頭突きを2度かまし、さらに、アクアテールで同じ箇所を追撃する。
すると、ドンファンの装甲にヒビが入った。
「っ!!こいつの皮膚……パルシェン並の硬さがあるのに!?」
「ラフィさん、下がってください。『種マシンガン』!!」
マスキッパが口からバレーボールくらいの大きさの種を吐き出した。
巻き込まれないようにドンファンは穴を掘って回避した。
「ミロカロス、『守る』!」
どんな強大な攻撃も、その技1つであっけなく防いでしまった。
「こうなったら……マスキッパ、『パワーウィップ』です!」
「ドンファン、『破壊光線』!!」
どちらも遠距離攻撃だ。
ドンファンはマスキッパの近くから顔を出し、口から光線を放つ。
それと同時にマスキッパは極大のムチをブンブンと振るった。
「ハクリュー、ミロカロス、行くぜ!」
バンの呼びかけにコクンと2匹は答える。
ミロカロスは凍える風と水の波動を同時に繰り出す。
さらに同じタイミングで、ハクリューはドラゴンタイプ最強の必殺技『流星群』を繰り出した。
氷水と氷と水、そして、『流星群』の輝きが一体になり、二匹のわるいポケモンの攻撃を吹っ飛ばした。
「……うわっ!!」
「……いやぁっ!!」
ラフィとシャトレは悲鳴をあげつつ、マスキッパとドンファンと一緒に流されていった。
「必殺『天の川』。綺麗な星は見れたかよ」
そういうと、バンはハクリューとミロカロスを戻したのだった。
たった一つの行路 №217
第三幕 The End of Light and Darkness
Evil box in the dive② ―vsギャルのラフィ&シャトレ― 終わり
彼女の目には何が映っているのか……?