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たった一つの行路 №216

/たった一つの行路 №216

 41

 リクがある人物にメールを送って、夜が明けた。
 ポケモン総合研究所の跡地に張ってあるテントで、まだかまだかとリクは待ち続ける。
 だが、その一方で動きがあったところがあった。

「……っ……」

 フェナスシティにあるとある病院。
 そこで一人の男が覚醒のときを迎えていた。

「ぐっぅ……」

 起き上がろうとするが、体に感じるあちこちの痛みで顔を歪ませる。
 だが、彼は強引にも起き上がった。

「はぁ…はぁ…。いったい、ここは……?」

 額に汗を滲ませて、あたりを見回す。
 見ての通り清潔な病室だった。
 花瓶にはなんの花も挿されてなく、ゴミはチリ1つ落ちてはいない。
 自分ひとりだけの個室だった。

「俺はどうしてこんなところへ……?」

 頭に手を当てて記憶を辿ってみる。
 思い出されるのは、気絶する前に見た相手の顔だった。

「畜生……あの男め……今すぐに見つけ出して叩きのめしてやる……」
“あ、ちょっと、あなた!起きちゃダメじゃない!”
「ぬおっ!」

 部屋に入ってきたのは、白い服のナース服のお姉さん。
 とても可愛らしく細めの、しかし、胸元がたっぷりしている彼と同じくらいの歳の女の子だった。

“あなたは建物の破壊騒動があった場所で酷いケガをして寝ていたところを運ばれたのよ”
「破壊騒動?」
“ええ。あなたを看てくれた人がその破壊騒動に巻き込まれてしまって、それでこの病院に搬送されたの”
「そうなのか……っぅ!」
“ほら……あなたはまだ万全じゃないのよ。静かに寝ていなさい!”

 そういって、ナースは彼の体をゆっくりと寝かせる。
 それでも、体のダメージは大きいようで、顔を歪まして寝かせられた。

“それと……あなたのP☆DAにメールが入っていたわよ。大丈夫、誰も見てないから安心して。じゃ、私は医師<せんせい>を呼んでこなくちゃ”

 それだけ言って、ナースは足早に去っていった。

「(このメールは、リクか……)」

 彼はメールを開いた。

「…………!!」

 そして、黙って短いメールを素早く読んだ。



 ―――10分後。

“医師<せんせい>を呼んできたわよー。あれ?”

 そのとき、ナースと医師は慌てて部屋の中に入り込んだ。

“ちょっと、どこへ行ったの!?”

 ベッドの下やクローゼットの中などを探すが、どこにも見つからなかった。

“窓が開いている……まさか……そこから……?”

 そういって、ナースは窓の外から顔を出してみるが、彼女の目には彼の姿を見つける事はかなわなかった。

“ちっ”

 そこで、頭がハゲた出っ歯な医師が舌打ちをする。

“(この高い部屋に止まらせて、莫大な医療費を請求し、私のポケットマネーにしようとしたのに……勘付いて逃げおったな)”

 どうやら、この医師はとんでもない医者だったらしい。

“あんなケガで……遠くまでいけるはずがないわ……。すぐに探さなくちゃ!”

 ナースは慌てて部屋の外に飛び出してく。
 しかし、彼女が彼を見つけることはできなかったのだった…………



 42

 次の日の昼のこと。

「リク。待たせてちゃったわね。メールに気付いたのが昨日の夜で、しかもハレがなかなか私から離れなくて……」
「いえ、無理に頼んだのは僕の方なんです。そんな謝らないでください」

 ポケモン総合研究所跡地のテント。
 そこでリクに頭を下げているのは、すっかり一児の母の雰囲気を醸し出しているカレンだ。

「それで、今はどんな状況になっているんだ?」

 カレンの隣には、相変わらず無愛想なハルキが立っている。

「あ。はい。詳しく話しますね」

 パソコンを復旧してから送ったメールに、誰も返事が返ってこなかったことから、リクは不安に思った。
 そこで自分が知っている中で協力してくれそうなトレーナーをリクは呼んだ。
 それが、オーレ地方の英雄、アゲトビレッジのトレーナーのカレンとハルキだった。
 メールには簡単な救援要請しかしていないために、リクはお茶を飲んでもらいながら、詳しく事情を説明した。

「あのユウナが定時連絡をよこさないのは、確かに何かあったとしか思えないな」

 ロケット団時代、ユウナと一緒のロケットルーキーズというチームのメンバーだったハルキが冷静に頷く。
 当時、ハルキは単独行動をすることが多かった。
 そのために、幾度となく連絡についてハルキはユウナに叱られたことがあった。

―――「“ほうれんそう”。“報告”、“連絡”、“相談”はチームとしての基本よ?それがしっかりできないと、チームとしていつか支障をきたすことになるのよ?わかった?」―――

 ユウナの言葉を思い出し、ハルキは苦い顔をする。

「ハルキ?どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「そう?」

 ハルキがなんでもないというので、カレンは何も考えずにリクに向き直った。

「それより、そのユウナさんが行った場所に時の笛を奪った連中がいるのよね?」
「……断定はできませんが、その可能性は非常に高いと思われます」
「それなら、そこに行くわよ。例え危険でもね!」

 以前、ハレを人質にされて、セレビィを呼び出す時の笛を奪われてしまったカレン。
 時の笛を奪還するため、カレンの闘争心は非常に燃え上がっている。

「だけど……」

 リクが口を濁す。

「だけど何?」
「行くとしたら、何かしら作戦を立てていかないといけませんね」
「対策なんて、あっちに行ってから立てればいいじゃない!今すぐに行こうよ!」

 リクの意見を却下して外に出ようとするカレン。

「っ!」

 そのとき、右腕を掴まれて、カレンは後ろを振り向いた。
 黙って自分を見つめるハルキが居た。

「ハルキ……?」
「もしかしたら、あのユウナが捕まっている可能性があるんだ。何も考えずに行けば、捕まることは目に見えている。冷静になれ」
「……ハルキ……」
「俺は絶対お前を守らなくちゃならないんだ。だから、俺の言うことを聞け。いいな?」

 その言葉を聞いて、カレンは顔を赤くしてコクンと頷く。

「リク」
「あ、あ、は、はい!?」

 何故か顔を赤くして激しく慌てふためきながら、リクは返事をする。
 一瞬、不審に思ったが、気にしないで置くことにしたようで、続けて言った。

「できるかぎり、正確な作戦を立てて、廃れた工場に潜入したいと思う。だから、お前も案を出してくれ」
「わ、わかりました」

 ハルキはカレンの右腕を引っ張って、そのままエスコートするようにソファに座らせた。
 その様子をリクは、パソコンの準備をしながら、横目で見ていた。

「(ハルキさん、カッコイイです……。僕もあんなふうに、ナルミさんをリードできたら……)」

 寡黙ながらも、肝心なところでビシッと相手を惹きつける言葉を言うハルキはリクにとって憧れの的だった。
 その横顔を羨望のまなざしで見ていた。

「リクくん?」
「あ、はい。準備しますっ!」

 カレンに呼ばれて、準備をしていたリクは慌てて一回こけたという。



 43

 ―――夜。
 場所はフェナスシティの病院。

「くっ……」

 病院の廊下で、拳を握り締めている男が居た。
 見た目はかっこいい感じの男なのだが、その表情は苦しそうだった。
 服装は一応入院していたみたいで、病院の服を着せられていた。

「俺は……俺は……悔しい……。……くそっ……なんで守れなかったんだ……」

 壁に拳をドンっと叩き付ける。

「自分自身が許せない……。口で守るとか言っておきながら、結局のところ、俺は実行することができなかった……」

 ドンドンッと二度三度、壁を叩き続ける。

「…………」

 そして、彼は壁を見続ける。
 少しの間、見続けると、彼は冷静になって、壁から拳を離した。

「今からでも……遅くない……」

 前を向き、傷ついた拳を見つめながら彼は言う。

「助けるんだ。攫われたのなら助ければいい。オトハさん。無事でいて……俺が今から助けに行くから」

 彼は決心した。
 もう、自分がどんな目に遭おうと、助け出すと。
 例えそれで命を落としてしまっても……。

「オトハ……?え、君、オトハちゃんを知っているの!?」
「え?」

 そのとき、男の後ろで可愛い女の子の声が聞こえてきた。

「(巨乳……)」

 その女性の第一印象はそれだった。
 加えて、顔は中学生でも通用しそうなつくりをしていた。
 俗に言うロリ顔だ。

「ねぇ、君、オトハちゃんをどこで見たの!?」
「あ、え?」

 そのロリっ子で巨乳な女性に迫られて、たじたじと後ろへ下がっていく。
 壁に押しやられて、逃げ場がなくなった男は、胸を押し付けられて、自分の顔に近付けていく。

「えっと……その……君はいったい誰……?」
「私?私の名前はミナミ~☆ ノースト地方のオートンシティのSHOP-GEARと言う店でよくソフトクリームを食べている女の子だよ~☆」

 自己紹介をすると、ぺろりとどこかのお菓子のマスコットのように舌を出して、お茶目に笑う。
 その様子を見て、彼は若干引いていた。
 どうやら、あまり好みではないらしい。

「お、俺の名前はカツトシ……。それより、君こそどうしてオトハさんのことを知っているんだい?」
「それはねー……」

 喋ろうとするが、そこでコホンと咳を払う人物がいた。
 中年の女性の看護師……恰幅のいい婦長さんのようだ。
 それを見て、カツトシはミナミを引っ張って、そこから立ち去った。

「あ。こっちー☆」
「え?」

 カツトシはミナミに誰かの病室へ引っ張られた。
 そこは豪華な個室で、一人の少年が眠っていた。

「ケイちゃん……なかなか目を覚まさないね……」
「(あ。なんだ、彼女の知り合いの病室だったのか……)」

 少しほっとするカツトシ。

「(開いてない病室へ連れて行かれて、モラルのないことをされるかと思った……)」
「私達、仕事でオトハちゃんの彼氏を探すの手伝っているのー」
「仕事?」
「そうなの。でも、この依頼はオトハちゃんの友達のユウナちゃんの頼みだから、報酬はもらえないんだけどね~……」

 ちょっと、しょげるミナミ。

「実は、俺もひょんなことからオトハさんに会って、彼女の探していた人を探していたんです。でも……」
「でも……?」

 カツトシは暗い表情で、ワケを話し始めた。

「つまり……オトハちゃんはクロノって言う人に盗まれちゃったってこと?」
「…………」
「そして、オトハちゃんは今、クロノちゃんにあーんなことやこーんなことをされているかもしれないってこと?」

 ガンッ

 カツトシは拳を思いっきり、壁に撃ちつけた。
 拳からは、血が滲み出る。

「全ては俺のせいなんだ……」
「…………」

 壁を向き俯くカツトシと同時に、ミナミは暗い表情で俯く。

「ケイちゃん……早く起きないかな……?」
「(え?心配するのはこっちじゃないの?)」

 そのままの姿勢で、ミナミの発言に心の中でツッコミを入れるカツトシ。

「ケイちゃんが元気になってくれないと……私、何にもできないよ……」
「(自分から何もしないだけじゃ……) ええと……俺の話聞いていました?」

 とにかく、姿勢を直し、ミナミの方を向いて、尋ねるカツトシ。

「え?」

 キョトンとミナミはカツトシを見る。
 少しの間、考えた後、ミナミは頷く。

「もちろん聞いていたよ~☆ オトハちゃんがクロノって人にあーんなことやこーんなことをされちゃって、もうどうしようもないって」
「(だめだ……この人、話を全然聞いてない……。なんで、断定で過去形なんだ……)」

 ミナミは、勝手に話を確定させてしまった。
 彼女と話していると疲れると思い、それとなく部屋を見渡してみる。

「(あれ?この部屋……) ミナミさん」
「なあに?カツトシちゃん」
「この部屋……凄く高いんじゃないのかい?」

 冷汗を掻くカツトシ。
 今は夜で、電気もついていないからパッと見じゃわからなかったが、ハイビジョンテレビやハイテクなベッド、全自動の出入り口、リモコンであけることができる窓などなど、無駄と思える機能まで幾つもついていた。

「え~?私知らないよ~☆」
「じゃ、誰がこの部屋を選んだの?」
「ケイちゃんをこの病院に連れてきたとき、フラッシュを使えそうな頭をしたコラッタのような前歯を持ったおじさんがこの部屋が快適だから使いなさいって案内してくれたんだよ~☆」

 にっこりとミナミはそういった。

「(……絶対、ミナミさん……悪い医者にカモられてる……)」

 そう思い、カツトシははぁとため息をついた。
 その近くのベッドで、ケイは未だぐっすりと寝息をたてて眠っていたのだった。



 44

 ―――廃れた工場。シファーの部屋。
 ミナミとカツトシが出会ってから、さらに1日が経った夜。
 そのとき、CLAWのボスと思われる男の部屋に腹心のアルドスが入ってきた。

「シファー様。ダークポケモンとわるいポケモンの生成は順調です」
「あと何日くらいで、計画に移せそうだ?」
「……いえ、数日では無理かと……。あと、数週間はかかります」
「クッ。まだそんなにかかるのか?」
「はい……。成熟したダークポケモン、悪いポケモンを生成するにはそれなりの時間を要しますので……」
「…………。邪魔者が入らないと考えるとまだいいか」

 そういって、ワインを口に含むが、ご機嫌は少し斜めだった。
 今のシファーは高級なソファに腰をかけて、脚を組み、まるでどこかの社長のようなブランド物の服装で悠然としている。
 ただし、上着は脱いでいるが。
 年齢は……大体50代といったところだろう。

「クックック……一刻も早くこのオーレ地方を我が物にしたいものだ……。アルドス。ワインの御代わりだ」
「はい」

 ちょうどそのときだった。

 ズシーンッ

「!?」

 何かの揺れを感じて、上を向く。

「アルドス。地震か?」
「地震だと思うのですが……。念のために確認してきます。ワインは別の者に持たせますので少しの間、待っていてください」

 シファーの部屋を出ると、アルドスはすぐに近くの部屋に居たCLAWの下っ端の中年の男にシファーのワインを渡すように命令し、地下五階にある自分の部屋へと移動した。
 アルドスの部屋は、自分の休憩室であると同時に、各階に仕掛けられている小型カメラを見ることが出来る監視室となっている。
 つまり、侵入者が現れた時は、ここからバレバレなのである。
 ちなみに、シファーの部屋とアルドスの部屋は、実はそれほど近くはなく、アルドスは走って移動する羽目になったという。

「まさか、侵入者……?いや……」

 各階のフロアをカメラで監視するが、怪しい人物は映っていない。

「(……地震だったか……?)」

 バリーンッ!!

「っ!!」

 ちょうどそのとき、一階のカメラに衝撃音が映り、砂埃で見えなくなった。

「し、侵入者か……」

 アルドスは冷静にカメラを見て、どんな奴か見極めようとする。

“オイ”
「っ!!」

 手が移り、びくっとし、アルドスはビビる。

“ユウナは……無事なんだろうな!?”

 砂埃が消えると、そこに映っていたのは、煙草を口にくわえた黒い髪のポニーテールの男だった。

「こいつは……『王侯の潰し屋:バン』!? 『王翼のバドリス』が潰したはずじゃなかったのか!?」

 そして、バンの顔がアップで映ったのを最後に、そのカメラの映像は砂嵐を流し続けたのだった。



 たった一つの行路 №216
 第三幕 The End of Light and Darkness
 Evil box in the dive① ―不屈のバン― 終わり



 蛇のようなポケモン使いのトレーナーは、王様のように建物を潰し、借金を潰し、全てのモノを潰していく。


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Last-modified: 2015-08-16 (日) 15:53:56
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