38
乾いた風が砂を巻き上げて上空へと押し上げる。
オーレ地方では、砂の竜巻がしょっちゅうおきていた。
ここはオーレ地方の南東にある町外れのスタンド。
冒険者が立ち寄る変わった店である。
どんな風に変わっているかといえば、使われなくなった機関車をそのまま店にしているという辺りだろう。
ガガガガガッ!!
その町外れのスタンドから南へ1キロ進んだ場所で力と力がぶつかる衝撃音が鳴り響いていた。
その音を聞くかぎり、どちらも高いレベルの威力の技を繰り出していることが聞いて取れた。
「ドクロッグ!?ぐ……やるだの……」
テッカテカのスキンヘッドに格闘の構えをした男が、唇を噛み締めて吹っ飛ばされたポケモンを戻す。
そのドクロッグと対峙していたのは、大きなハサミを持ったカニを連想出せるポケモン、キングラーだった。
そして、そのキングラーのトレーナーは黒の手拭いを巻いたがたいのいい中年の男だった。
「オーゥオーゥ、そんな抵抗すんなよ。テメーは『お灸拳法のディオ』だろ?大人しくこの俺様の言うことを聞け」
ゴキゴキと拳を鳴らして、キングラーの頭をパンパンと叩く男。
ニヤッと不敵な笑みを零していう。
「どうせこのスペシャルな俺様からは逃げられないんだからよ!」
「めんどくさいだの……。せっかくアンダーの警察の包囲網を抜けてきたというのに……」
『お灸拳法のディオ』。
その人物はアンダーに住みついて、パイラタウンで悪さをしていたという懸賞金33万ポケドルの賞金首である。
しかし、アンダーに潜入したミナミと偶然居合わせたケイによって、その場から脱出する羽目になり、現在、オーレ地方の砂漠を放浪していた。
だが、そのとき、この謎の中年男に居合わせて、追い回されていたのである。
仕方がなくバトルとなってしまったが、この謎の中年男の力はディオの想像の上を行っていた。
逃げながらとはいえ、ドグロックがあっという間にやられてしまったのだから。
「仕方がないだの……。迎え撃つしかないだの……」
繰り出したのはドラピオン。
ディオの相棒であり、もっとも強いポケモンである。
「オーゥオーゥ、ようやくやる気になったな?テメー、負けたらスペシャルな俺様に捕まってもらうぜ?」
そういうと、男はキングラーに指示を出した。
すると、予想もつかないスピードでキングラーがドラピオンに飛び掛った。
「(『高速移動』だの!?)」
素早いスピードからのハサミの一撃だ。
ドゴ―――――――――ンッ!!
しかし、ドラピオンが自分の尻尾を自分の腕に刺して、力を上げる。
それと同時に、腕を前に出してそのハサミの一撃を防ぐ。
「ぬっ!?」
ドラピオンが一瞬よろめくが、ダメージはほとんど決まっていない。
それをみて、キングラーは一旦引いた。
「逃がすなだの!」
相手の様子をいて、ドラピオンは毒針を放つ。
毒針にも直接針で刺すタイプと連射で飛ばすタイプがある。
しかし、このドラピオンの毒針のタイプは、1つの鋭く強力な毒針を前方に打ち出すタイプだ。
さらに打ち出すスピードは速く、避ける間もなくキングラーに命中した。
「やるな!だが……」
確かに命中したのだが、当たったのはキングラーのハサミ。
毒針は貫通せずに、ハサミによって弾かれてしまった。
それでも、毒針を弾き返すのに3メートルほど後方へ押し込められてしまった。
「もう2回、『ツボをつく』だの!!」
ブスッ、ブスッ、と2回連続でドラピオン自身に刺激を注入する。
「キングラー!」
それを見て、男はキングラーに技の指示を出す。
地面にハサミを差し込んで、一気にその地面を巻き起こした。
『マッドショット』という技だが、規模的に砂と泥だけでなく大きめな岩も含んでいるようだった。
ふっ
「……むっ!!」
ドラピオンが圧倒的速さでそのマッドショットをかわす。
その回避はまったくの隙がなく完璧だった。
「これでそっちの攻撃は効かないだの!」
「…………」
能力上昇で自信を持ったディオがドラピオンで攻め立てる。
『クロスポイズン』、『毒突き』、『毒針』、『辻斬り』といった打撃技でキングラーを攻め立てる。
中年男の方は、黙ってその攻撃を受ける側に回っていた。
「……だの?」
だが、ここで不安になってきたのはディオのほうだった。
「(これだけ攻撃しているのに、まったくダメージを与えている気がしないだの……)」
「これで、テメーの攻めては全部か?案外ノーマルな技ばっかりだったな!」
「なんだの?」
「キングラー!!」
中年オヤジが指示を出すと、キングラーはハサミをブンブンと振り回し、一定時間後、周りの空気を吹き飛ばした。
ディオもドラピオンも吹き飛ばされそうになるが、何とかこらえる。
「どぁっ!テメー!ちょっとは手加減しろ!」
そして、中年オヤジだけは自分自身のポケモンが放った『剣の舞』によって吹っ飛ばされた。
「ドジだの……」
「あ゛!?なんか言ったか!?……って、クールになれ、俺」
ゴホンと男は、立ち上がって咳をする。
「テメーのドラピオン、『ツボをつく』を3回やって、防御力、素早さ、回避力をあげたんだろ?だからこっちの攻撃があたらねぇし、ダメージも入んない」
「……気付いてただの。けど、気付いただけで、勝てると思うなだの!」
そういうと、ドラピオンが鋭い毒針を放つ。
「打ち返せ!」
キングラーがハサミで毒針を打ち返してしまう。
「なっ!?」
毒針はライナーでドラピオンに向かっていく。
とはいうものの、回避能力が上がっていたドラピオンは、その奇襲にも伏せて対応して見せた。
「叩きつけろッ!!」
ズドンッ!!
「ぬお!?」
地面を叩きつけるキングラーの攻撃。
ただの『叩き付ける』攻撃なのだが、この攻撃はさながら『地震』のようだった。
揺れる地面に足を取られて、ドラピオンは体勢を崩す。
そこが、唯一のキングラーの攻撃のチャンスだった。
「キングラー、『エアリルハンマー』!!」
飛び上がるキングラー。
高速移動と剣の舞によるスピードとパワー。
降下する力を生かして、ハサミを振りかざす。
「弾き返すだの!」
ドラピオンも防御力を上げた腕の硬さでその攻撃を防ごうとする。
結果は……
「俺様の勝ちだ」
そういって、中年の男は接近してディオの胸倉を掴んだ。
その瞬間に、ドラピオンがキングラーの攻撃によって地面に埋められてしまった。
「私のドラピオンを一撃で倒してしまうなんて……何者だの!?」
「…………。俺が誰なんか、テメーに教える気なんてねえ!という訳で……」
男が一瞬手を振りかざしたのを見て、ディオは目を瞑った。
しかし、何も起こらないことを見て、ディオは目を開ける。
すると、そこには……
「おい。早くやれよ」
常時むき出しの背中をディオに見せるように、腹ばいになっていた。
「……何だの?」
「何だのって……テメー、お灸拳法の使い手だろうが!?早く、俺にスペシャルなお灸を据えやがれ!」
「…………。(私を捕まえるんじゃなかっただの……?)」
自分の首を狙って追ってきたのだとディオは思っていたため、その男の行動に拍子抜けした。
仕方がなく、ディオはその中年男にお灸をしてやるのだった。
たった一つの行路 №215
39
―――ラルガタワー。
この場所で氷の欠片と風が360度にわたって吹き荒れた。
その風と氷が吹き荒れる中心にいるのは、グレイシアとレックウザだ。
お互い、最大の一撃で打ちのまさんとしていた。
レックウザの『逆鱗』は我を忘れ荒れ狂う最強の打撃技。
まして、基本能力が高いレックウザの力にグレイシア耐え切れるかどうかは時間の問題だった。
だが、そのレックウザに関してもグレイシアの『あられ』&『吹雪』のチェーン攻撃は相性が悪く厄介だった。
一見、レックウザの特性『エアロティック』で『あられ』の天候を無効化できると思われるが、ケイのグレイシアは天候を変えるためにあられを繰り出したわけではない。
自分の体にあられを纏わせて、防御力の上昇と、次の攻撃の威力倍増の為に繰り出したのだ。
ゆえに、この激突の結果がどうなるかは、ケイもミナミもバドリスも予期できなかった。
「風は鳥ポケモンの武器だ……レックウザ!」
凄まじい冷風が吹き荒れるフィールドの中で立って、バドリスは自分のポケモンに呼びかける。
風の中を激しく動き回り、グレイシアに2度3度ぶつかろうとする。
「グレイシア……ここでフルパワーだよっ!!」
コクンと頷いたそのときだった。
「……なっ!?ぬおっ!!」
グレイシアの吹雪の威力が一瞬だけ格段に上がった。
風も凍りつかせるようなまさしく絶対零度に達する温度の域。
まるで凍てつく真空波のような攻撃だ。
「決めるよ。スナッチボール!!」
攻撃がレックウザを苦しめている間に、ケイが左手でモンスターボールを投げた。
2年前から幾度となくスナッチを続けているケイにとって、造作もないことだった。
凍りつきつつあるレックウザは、ボールに入るとそのまま大人しく収まってしまった。
そして、コトンっと音を立ててボールはフィールドに落ちた。
「ふわわ……スナッチ完了……ふぁわ……」
焦ったように任務完了を告げると、気が緩んだか、ケイはいつもどおりあくびをした。
それと同時に、グレイシアが力なくぐったりとした。
「無理させちゃってゴメン……ゆっくり休んでいて」
ケイはゆったりとした動作でモンスターボールを掲げてグレイシアを戻す。
「(グレイシアのフルパワーは確かに伝説級のポケモンの技も押し切れるんだけど、一回しか使えないし、使ったら倒れちゃう技だからね……)」
「ケイちゃん、すごーいっ!!」
「ムグッ!!」
ミナミが突如ケイを抱きしめた。
「伝説のポケモンを5匹も一人で倒しちゃうなんて凄いよー」
「……く、くるしい……」
「私……ケイちゃんに惚れちゃいそうだよ☆」
そして、よりいっそう、抱きしめるミナミ。
当然のことながら、Fカップの豊満な胸をケイの顔に押し付けているミナミ。
だが、ケイにとってそれは嬉しいことではなく、苦しさしかなかった。
「負けた……ホウオウが仲間にいなかったとはいえ、負けた……」
バドリスはただ呆然として空を見ていた。
「鳥ポケモンの強さを証明するために、小生は負けるわけには行かなかったのに……なんでこんな子供に……」
「バドリスー」
そこへ他の幹部3人がエレベーターに乗って駆けつけた。
「ホウオウはもう捕まえたっスか……って、どうしたっスか!?」
「敵?SHOP-GEARの連中か?」
「ふぃー!?でも、ユウナという人がいませんよ!?」
バドリス、ウゴウ、クイナがそれぞれに発言する。
「すまない。小生はあいつらに負けた……」
「そんな!?バドリスがっスか!?」
「ふぃー!?信じられません……」
「…………」
3人ともケイとミナミを見る。
とはいえ、ミナミはまだケイを抱きしめていて、ケイはドンッドンッとミナミの背中を叩いている。
「ふっふっふ~☆ そんなの当たり前じゃないですか~☆」
そういって、ミナミはVサインを決める。
「正義は必ず勝つんだよ~☆」
「おじさん……」
ようやく解放されたケイは少しよろけながら、バドリスに近づいていく。
「なんで、アゲトビレッジの祠を壊そうとしたの……?そして、これから何をしようとしているの……?」
真っ直ぐで純粋な目でケイはバドリスに尋ねる。
「仕方がない。教えよう。アゲトビレッジの祠を壊したのはホウオウを怒らせるためだった。そして、怒ったホウオウを小生の前に姿を現させるため。7年前にワルダックという男がそうだったように、小生もラルガタワーにいれば会えると思ったんだ」
「じゃあ、風霧の目的はホウオウを捕まえることだったってこと?」
「そうだ。そのためだけにCLAW<クラウ>と手を組んだ」
「そのCLAWの目的って……?」
「その組織の目的……ボスのシファーの目的は、ダークポケモン、わるいポケモンを使って、オーレ地方を征服することだ」
「ふぁ!?オーレ地方の征服!?」
「そんな大それたことをするの!?」
ケイとミナミはたいそう驚いた。
「ダークポケモンとわるいポケモンの生成は進んでいるらしい。近いうちに町に攻撃を仕掛けるんじゃないかと思うな」
「じゃあ……そのCLAWのボスのシファーちゃんを倒せばいいんだね!?」
「できるものならな」
そういって、バドリスは嘲笑する。
「奴の力は俺と同じくらいかおそらくそれ以上。君たちが2人力を合わせても勝てるかどうかはわからない」
「……やるよ」
一言、ポツンとケイは言った。
「オーレ地方に誰一人悲しむ人を出したくはない。僕は誰かが泣いている人を見たくは……な……」
ばたっ
「ケイちゃん!?」
まるで電池を失ったおもちゃのようにケイは気絶した。
ミナミはケイを揺さぶるが反応がない。
「バドリス~、これからどうするっスか?」
「小生は焦りすぎたのかもな。だから、ホウオウを捕まえることもできなかったし、この少年にも負けた。だから、鳥ポケモンの強さを知らしめる活動は地道にやって行ったほうがいいんじゃないかと思った」
「ということは……」
「ああ。“風霧”は解散する。だが、小生の道に賛同するものはついて来てくれないか」
そういって、バドリスはフィールドを後にする。
そして、すぐにその後をハヤットはついて行き、少し迷ったあとクイナもとことことついていく。
「…………」
ウゴウは何も言わず、ドンカラスを取り出した。
「まさか、君達がバドリスを倒すとは思わなかった。……次に会うときが楽しみだ」
というと、ウゴウはドンカラスの脚に捕まって徐々に飛び上がっていく。
「1つ教えてやる。CLAWのアジトは昔、ダークポケモンを生成していた工場の地下にある。CLAWを潰せると思うんだったら行ってみるんだな」
ウゴウは飛んでいってしまった。
「ケイちゃん……おきてよ……ケイちゃん!」
しかし、ミナミの耳にウゴウの言葉は入らなかったという。
ピロピロリ~ン♪
同時にメールが着信したのだが、ミナミがそれに気づいたのは、だいぶ後だったという。
40
有益な情報が入りました。
リブラ号を探索していたジュンキさんが、その場所でタキシードを着用した怪しい男を見かけたというのです。
その男はあらゆる町を転々とした後、2年前シャドーがダークポケモンを生成していたシャドーの秘密工場へ行ったそうです。
現在、ジュンキさん、ユウナさん、ログさんがその場所へ潜入しています。
しかし、潜入して1日になりましたが、定期報告が途切れました。
他の人はともかく、ユウナさんの定期報告が途切れたのが非常に気にかかります。
手が空いている人は、僕に連絡後、すぐに廃れた工場へと向かってください。
by リク
―――ポケモン総合研究所。
上記のようなメールを送って、早10時間が経過した。
すでに夜になっていて、しかも誰からもメールが帰ってこなかった。
「……誰も連絡をして来ないなんて……一体何かあったのでしょうか……?」
上記のメールの送り先はまず、バンとミナミ。
そして、返信を求めるためにユウナ、ジュンキ、ログ。
さらに今のSHOP-GEARの状況を伝えるために、ラグナ、ミライのメンバーほぼ全員に送っていた。
だが、未だに返信数はゼロ。
この状況にリクは焦燥と大きな不安しか浮かんでこなかった。
「まさか……みんな何かがあったのでしょうか……?でも、ラグナさんは最近不通だったからわかりますけど、ミライさんまで返信がないなんて……?」
現在、ポケモン総合研究所のテントは、情報収集をリクが務めているが、何一つ今の状況を把握していなかった。
まさか、ほぼ全員が戦闘不能状況であると、彼には知るよしもなかった。
「ここは……僕が動くしかないのでしょうか……?でも、一体どうすればいいんでしょうか……?」
困り果てるリク。
いつもなら、ここでユウナがリクにアドバイスをくれて助けてくれる。
しかし、そのユウナは今はこの場にいない。
彼が決断しなければ、何も進展しないのである。
「潜入するにも……僕一人の力じゃ……誰か、頼りになる人を…………!!」
ピカーンッとリクはある顔が思い浮かんだ。
「そうだ……居ました。あの2人なら協力してくれるはず……!!」
そして、すぐにリクはその2人にメールを送った。
ここから、リクの行動が始まる…………
たった一つの行路 №215
第三幕 The End of Light and Darkness
vs王翼のバドリス④ ―風霧解散― 終わり
果たして、リクが呼んだ二人とは……?