ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №207

/たった一つの行路 №207

 ―――やりのはしら

「エンペルト、『水柱』!」

 一匹の皇帝ポケモンのエンペルトが、エデンの指示によって地面から勢い凄まじい水柱を立てる。
 しかし、高速移動で素早く動くスピアーに攻撃を当てることはできなかった。
 さらに、スピアーに気をとられていたエンペルトは、横から近づいてくるダーテングに気がつくことができず、後ろから一撃を受けてしまった。

『『リーフスラッシュ』!!』
『『一点集中』!!』

 ズバッ!! ドガッ!!

 葉っぱの手に空気を纏った接近攻撃と、2つの針を重ねて突く捨て身攻撃。
 二つの技をエンペルトに叩きこみ、ダウンさせた。

「…………。ふうん……」

 敵……エデンは感心しているようだ。
 うんうんと頷いている。

「よく俺が作ったシンクロパスをここまで操ることができたものだね」
『そういえば、てめぇが作ったんだってな』
「アソウの婆さんから聞いたか?そうさ。このシンクロパスは俺が発明したものなんだよ。マイデュ・コンセルデラルミーラが世界を救済する為にね」
『救済……。人間を滅ぼすことが救済だというの?』
「…………。そんな事、俺には知らない」
『知らないってどういうこと!?』
「最初に言っただろ?俺はある人物を消せればいいだけだ。ただ、その人物がこの世に存在しているかも大幹部のアソウに聞いてもわからなかったからな……」
『存在しているかどうかもわからねぇ奴に復讐だ?アホか?』
「黙れ。どっちにしろ、マイコンの目的を掲げたのは、俺じゃない。アソウの婆さんのほうだぜ」
『…………』

 そういわれて、ダーテング(ラグナ)は黙り込んだ。

『(本当に何があったんだよ……?)』
『あんたの……』

 ふとオトノが呟く。

『その消したい人って、そんなに憎い相手なの?』

 純粋にオトノはエデンに質問する。

「憎いに決まっているだろ!」

 思いっきり手を振り上げて、声を張り上げる。

「あの男のせいで……お袋がどれほど酷い目にあったと思っているんだ?どれほど悲しい想いをしたと思っているんだ?」

 ぐぐぐと拳をぎゅっと握り締めている。

「あんな悲しい想いを2度もしなければ、きっと俺は生まれて来なかった」

 唇を噛み締め、エデンは酷く険しそうな表情をする。

「あの“悪魔”のような男を……俺は生かしてはおけない!!」

 そして、キッとスピアーとダーテングを睨みつける。

「君たちの実力はわかったよ。“そこそこ”そのシンクロパスを使いこなせているようだ。ここからは俺も本気で行くよ」
『(シンクロをするのか?)』

 ダーテングはじっとエデンを見ていたが、シンクロパスを出す様子はまったくなかった。
 それよりも、エンペルトにささっと近寄って、体に触れていった。
 すると、淡い光がエンペルトを包み込んだ。

『なっ、なに!?』
『ラグナ、どうかしたの? ……っ!!』

 エンペルトの傷はみるみるうちに消えていき、そして、立ち上がったのだ。
 さらに、エデンはもうひとつのモンスターボールから別のポケモンを繰り出した。

「さぁ。エンペルト、ピカチュウ。行くぞ」

 2匹はコクンと頷く。
 エデンは目を瞑ると精神を統一し始めた。
 同時にピカチュウとエンペルトが動き出した。

『(っ!?)』
『(速い!?)』

 アクアジェットと電光石火で移動しているとはいえ、2匹のスピードは上級のポケモントレーナーが育てたポケモンを遙かに凌駕するものだった。
 正確に言えば、人間とポケモンがシンクロしている状態となんら変わりないスピードであったのである。

『オトノ!』

 ラグナが声をかけたのは、オトノの方に2匹が向かって行ったので注意をするためだ。
 ピカチュウの電光石火が決まりかけるが、スピアーは高速移動で回避した。

 ドガッ!!

『くぅっ!!』

 しかし、エンペルトのアクアジェットからのドリルくちばしをかわしきることはできなかった。
 勢いそのままにスピアーは吹っ飛ばされて柱に激突した。
 ダーテングはスピアーに近寄ろうとするが、すぐに2匹がダーテングに狙いを絞ってきた。

『邪魔するな!!『裂水周覇<れっすいしゅうは>』!!』
「むっ!」

 体を捻り、体全体を使って風の斬撃を360度に放出するダーテングの切り札の技だ。
 エンペルトもピカチュウも慌てて後退しようとするが、先制技で突進している二匹が止まることはできず、まともに受けて吹っ飛んだ。

「オトノ!大丈夫か!?」

 ラグナはダーテングとのシンクロを解いて、ほぼ同時にシンクロを解いたオトノを抱きかかえる。
 
「これくらい……ラグナの傷と比べたら……たいしたことないわ……」

 そういって、ラグナの肩を借りてオトノは立ち上がった。

「まだ、行けるんだから!」

 今度はジュカインにシンクロするオトノ。
 再びエンペルトとピカチュウが襲い掛かってくる。
 エンペルトはハイドロポンプ、ピカチュウは尻尾から強力な電気の塊を撃ち出して来た。

『『月舞踊:桜舞』!!』

 流れる桜の花びらのようにかわし、接近するジュカイン。
 それを見てピカチュウが瞬発的な電光石火でジュカインを捉えた。

『っ!!』

 ジュカインはタックルを受けて体勢を崩した。
 エンペルトが止めを刺すために冷凍ビームを仕掛ける。

『『炎牙<えんが>』!』

 レントラーが間に入って、攻撃を防御した。

『くらえッ!!『回転雷牙<かいてんらいが>』!!』

 そして、先ほどの炎のキバと違いかみなりのキバで回転しながら攻撃に出た。
 あくまでエンペルトは真っ向勝負で潰すつもりだ。
 『鋼の翼』を撃ち出して来た。

 ガガガガガガガガッ!!!!

 腕を噛み付かれたエンペルトはそのまま地面に叩きつけようとするが、体が痺れてどうすることもできなかった。
 そのまま体力を奪われて、エンペルトはダウンした。
 仕方がなく、ピカチュウは空中に飛び上がり、ジュカインにアイアンテールで止めを刺そうとする。

『『月舞踊:流漂<りゅうひょう>』!!』

 ドガッ!!

 殴りつけるような音が響いて、ジュカインは吹っ飛ばされるが、まったくダメージを受けている様子はなかった。
 そして、そこからジュカインはピカチュウの着地視点を狙った。

『『リーフストーム』!!』

 ズバズバズバッ!!!!

 空中で動ける術はなく、圧倒的なダメージを受けてピカチュウはダウンした。
 そこで、エデンが目を開ける。

「流石に普通に戦ったら、そっちの方が強いか……」

 さらりと言うとエンペルトとピカチュウを戻した。

「それなら、次は……」
「待て、てめぇ」

 レントラーとのシンクロを解いて、ラグナは納得いかないような表情でエデンに聞いた。

「さっきのエンペルトを回復させた力……“トキワの力”だろ?なんでてめぇがその力を持っているんだ?」
『(トキワの力?)』

 ジュカインは何のことかわからず首を軽く捻っていた。

「まさか、この力のことをアソウの婆さん以外にも知る奴が居たんだね。じゃあ、教えてあげるよ。俺の異名は“大幹部:零雪の創設家”」

 すると、エデンは4つのモンスターボールを同時に繰り出した。
 出てきたのは、ユキノオー、デリバード、ユキメノコ、そしてグレイシアだった。

「……そして、俺の本名は“エデン・デ・トキワグローブ”だ」



 ―――テンガン山洞窟外部。
 ヒロトはプテラが飲み込まれて行った砂地獄の中をじっと見ていた。

「(これで終わりだろうか……?でも、もしこれで終わりだったとして、こんな終わり方でよかったのだろうか……?)」

 砂嵐は静まり、雪が再びしんしんと降り始めていた。
 雪が再び積もるのも時間の問題だろう。

「(とりあえず、ココロに報告するか……)」

 砂地獄から目を離したそのときだった。

 ズモッ!!

「っ!!」

 地面の中から数十匹のブラッキーが飛び出してきたのだ。

「この技はっ!!」
『『ファントムハリケーン』!!』

 ドガガガガガガガガッ!!!!

 襲い掛かる電光石火の連撃。
 ヒロトに容赦はなかった。
 だが、ブラッキーが離れた時、そこには息を切らしたライチュウが居た。

『(間一髪でシンクロをしたのね。しかも耐え切った。でも……)『ダメ押し連弾』!!』

 さらにファントムハリケーンの追加攻撃。
 『ダメ押し』はダブルバトルで相方が一匹のポケモンに攻撃した時に同じポケモンを狙うと効果が高い技である。
 アソウは『ダメ押し』をさらに強化し、ファントムハリケーンとチェーン技にすることで効果を数十倍に引き上げた。

『『電撃波』っ!!』

 ドガッ!!

 素早く動くブラッキーだが、ヒロトのライチュウの電撃波はレーザーのごとく正確で避けられる物ではない。
 影分身だろうが、電光石火で残像を作ろうが、狙いを定めたら必ず当たるロックオンの如く正確だ。

『はぁはぁ……やっぱり、こっちの油断を狙っていたな……』
『ふぅふぅ……ふふ……別にそんなつもりじゃなかったわよ……。結果的にそうなっただけ……』

 両者共に息が荒い。

『どうしてなの?どうして邪魔をするの?この時が……未来がどうなろうとあなたには関係ないことじゃない』
『確かに。もしかしたらこの時間の俺はすでに死んでいて、こうやって君を止めることは意味のないことかもしれない。だけど、君を止めるって俺は誓ったんだ。これ以上罪を重ねさせることはさせたくない!』

 ヒロトにとって、ココロの約束よりはそちらの方がずっと大きく気持ちのウエイトを占めていた。

『罪なんて……幾度となく背負って来たわ。それに今私のやっていることこそ罪滅ぼしなのよ!』
『そんなの、罪滅ぼしでもなんでもない!!』

 両者共に電光石火でぶつかり合う。

『全ての人間を滅ぼして、自分の犯した罪さえも消し去ろうとする気なのか!?』
『人間は醜く汚い……自分の罪と共に全てを消し去るのよ』

 焼け焦げた地面と砂漠化した地面を行き来し、2人は猛烈なスピードで攻めあう。
 ブラッキーの尻尾攻撃や体当たり等は、ライチュウを押し切っている。
 しかし、決定的なダメージを与えるにはもう一押し足りなかった。
 一方のライチュウの電撃攻撃は、スピードで回避されている。
 先ほどダメージを与えた『電撃波』は、防御に意識を集中させて、攻撃を耐え忍んでいる。
 ゆえに、このままでは勝負は決まらない。

『未来は悲しいだけじゃないんだ。楽しいことや喜ぶことも待っている』
『いいえ。決してそれが全員に当てはまることとは言えない。辛い思いを抱えて一生を過ごす人だっている』

 ブラッキーが攻撃をせずに素早い動きで、ライチュウの周りを動きまくる。
 それを見て高速移動で追いかけようとする。

『辛い思いだって、いつか報われる日のときのためと思えば……』
『甘いのよ。ヒロト』

 ベチャッ!!

『うっ!』

 高速で動いていたために、足元の水溜りに気付かなかった。
 だが、それはただの水溜りではない。
 紫色に濁ったドロドロとした毒液だった。

『『ポイズントラップ』。高速で攻撃する相手なら、それを利用するまでよ』

 電光石火で移動しながら、『どくどく』を地面に落としたようだ。

『これで徐々にあなたは体力が尽きる』
『まだだ!』

 高速移動でブラッキーを追い抜くと、今度はライチュウがブラッキーの周りを動き始める。

『同じ攻撃なら効かないわよ』

 足元をしっかりと見て、攻撃を見極めようとする。

『かかったな。『電磁線』!!』
『っ!!足元じゃない!?』

 いつの間にか、体に電気の糸の様な物を纏われているのに気づいたブラッキー。

『電気を糸のように垂れ流し、高速で移動する相手を絡み取る。スピード系の相手なら、引っかかると思っていたぜ』

 そして、ライチュウは電気を溜め始める。
 その様子を見てアソウがブラッキーからポリゴン2に、そしてフォルムチェンジしたポリゴンZにスイッチした。

『私はもう……戻れないことを覚悟しているのよ!『破壊光線』!!』
『させるか……『マルチ10万ボルト』!!』

 ズガガガガガガガガガッ!!!!!! ドゴ――――――――――――――――――ンッ!!!!

 ポリゴン系最強の攻撃と、ヒロトのライチュウの10本もの10万ボルトを一気に放出する最大の攻撃。
 その激突の結果は……

「はぁはぁ……くっ……」

 ヒロトはシンクロパスを片手に、膝をついた。
 ライチュウはモンスターボールの中に入っている。

「ひぃひぃ……ヒロト……」

 両手を杖において、酷く息をしながらアソウはヒロトを睨みつける。

「どうしても、私を止めたいのなら…………」
「なっ!!」

 アソウの限界は近いはず。
 しかし、それにもかかわらず、アソウはウインディとシンクロをした。

『…………私を殺しなさい』

 大きく息を吸い込んで、吐き出す炎。
 しかも、ただの炎攻撃ではない。
 炎の渦と火炎車を合成した必殺炎『スパイラルショット』だ。

 ドガ―――ンッ!!!!

 ヒロトのいた場所が爆発するが、上空へ何かが飛んで行った。
 それは一匹のリザードンだ。

『私を殺すことができないのなら、私があなたを殺すわ』

 そういって、再び上空へスパイラルショットを放つ。

『(……あの技って、そう何度も打てる技じゃないだろ?ほんとにあいつは死ぬ気なのか!?)』

 確かにスパイラルショットだけでも、相当の負担がかかる技のはずである。

『(そこまで、あいつの憎しみは大きいものなのか……?)』

 ドガ――――――ンッ!!

『ぐあっ!!』

 ボーっと思考に耽っていたら、リザードンに攻撃が命中した。
 そして、地面に着地する。
 だが……

『『スパイラルキャノン』!!』

 スパイラルショットを前方に放ち、自身もフレアドライブをぶつけるという超捨て身の技を放ってきた。

『くっ!!『ドラゴンクロー』!!』

 チュドゴ―――――――――ンッ!!!!

『ぐはぁっ!!』

 技のレベルに圧倒的差があった。
 ドラゴンクローが何の役にも立たず、リザードンは吹っ飛ばされて洞窟の外壁にぶつけられた。
 その衝撃で、壁が崩れてリザードンは埋もれてしまった。

『これで……終わりね……』

 さらに積み重なった岩に向けて、『スパイラルショット』を放った。



―――「それじゃ、私のこと……ずっと守ってくれる?」―――

 真面目な顔をして冗談を飛ばすあいつ……。

―――「答えるまでも無いでしょ?」―――

 優しく背中を叩いて背中を押したあいつ……。

―――「『自信がない』とも言いたいの?」―――

 叱咤激励して励ましたあいつ……。
 あいつはもうここに居ないのか?
 それとも、もともと君はここに居なかったのか?
 全てが悲しい記憶……苦しい記憶で埋もれてしまったって言うのか……?
 時って……なんて残酷なんだ……。
 俺も変わっちまうのかな……。
 ヒカリのことも、いつか忘れ去ってしまう日が来るのか……?
 …………。
 いや、絶対に忘れない。
 忘れてたまるか。
 俺は……俺に負けてたまるか。
 だから……君も…………



『……古より眠りし力……今解放せん!!『エンシェントグロウ』!!!!』

 ズド――――――ンッ!!

 スパイラルショットが炸裂した。
 しかし、その中から、両腕にλ<ラムダ>の刻印をした赤黒いリザードンが立ち上がった。

『(これが噂の……)』

 ウインディから見てもはっきりわかった。
 リザードンの力がひしひしと伝わってくるのが。

『(昔、他の世界には進化を超えた進化、メガシンカがあると聞いたことがある。これがそうかしら?……それなら、最大の攻撃で仕留める……)』

 キッと睨んでウインディは体勢を整えた。

『(シンクロしているとこの状態は負担が大きい……。次の一撃で仕留めるしかない……)』

 一方のリザードンも向かい合うつもりだ。

『『ソニックスパイラル』!!』

 スパイラルショット、フレアドライブ、神速……。
 全ての技を合成し、史上最大最速の攻撃でリザードンに向かって行った。
 そして、リザードンも同時に動いていた。

『『エンシェント・ストライク・ドラゴンクロー』!!』

 尻尾の炎を後ろに向かって放出した。
 それによって、勢いよく加速した。
 さらに、技のキレが増したドラゴンクローでウインディに切りかかった。

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ―――――――――――――――――――ンッ!!!!!!!!!!

 この日、最大の一撃がテンガン山をも揺らした。
 そして、ついに決着は着いたのだった…………



『…………』

 ふと、そのとき、何かがその大激突を眺めていた。
 空は雪が降りつつも、バイオレットの奇妙な色をしていたという……



 たった一つの行路 №207
 第三幕 The End of Light and Darkness
 未来の運命の戦い⑥ ―トキワグローブ― 終わり



 声が聞こえなくなりしとき、覚醒の時がやってくる。


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-07-31 (金) 06:58:22
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.