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たった一つの行路 №206

/たった一つの行路 №206

 ―――テンガン山洞窟内部。シノブvsサニエル

 ズドンッ!!

 壁に激突し、煙が舞い上がる。
 その衝撃の様子を跳び蹴りの体勢から着地して、見守るウソッキー。

『(クミは大幹部のアソウの考えを崇拝していたからマイコンに入った。でも私は違う。マイコンの考えに反対すると、弟達が殺されるから……。そうならないためにも私はエデンに遣えなくてはいけない。どんなに屈辱的な扱いを受けようとも……)』

 ウソッキーが再び攻撃に出る。
 煙に向かって、岩雪崩を繰り出した。
 その岩雪崩はどこからともなく、ニドクインがいると思われる場所へと落ちていく。
 すると、煙の中からニドクインが飛び出してきた。
 岩雪崩の攻撃範囲から抜け出すことに成功した。

『…………』

 黙ったままニドクインは刀を左腰に構えて斬りかかる。
 そんなニドクインの様子を見たウソッキーは、『岩石封じ』に出る。
 やはり、どこからともなく岩が飛んできて、ニドクインにダメージを与えていく。
 しかも、進路を遮るように放っているために、ニドクインの機動力はどんどん削られていった。

『くっ……』

 唇を噛み締めて、ニドクインはウソッキーを見る。

『(こやつを相手に時間稼ぎの戦いは無理じゃ。油断していたらこっちが負けてしまう。全力で行くしかない……)』

 そう思ったシノブは、相手に向かって10万ボルトを放った。

『こんな攻撃なんて、効かない。『アースウェイブ』!』

 ウソッキーは地面に拳を振るった。
 ズドンッ!ズドンッ!と大きな音を立てて、岩が針のように襲い掛かって行った。 
 技の通り、まるで岩の波の様である。
 10万ボルトは、あっさりとその攻撃に打ち消された。

『狙いはこれではないのじゃ。『風鋼丸秘剣:雷嵐<らいらん>』!!』

 風と共に風鋼丸に纏うのは、先ほどウソッキーに放って防御された10万ボルトの電撃だった。
 電気を纏った刀で、ウソッキーが起こした岩の波へと立ち向かう。

 ズガガガガガガッ!!

『うおぉぉぉぉぉっ!!』

 刀を縦に振るい、アースウェイブを切り裂き、道を切り開いた。
 そのわずかな隙間から、攻撃を逃れて、いまだ帯電している刀でウソッキーに斬りかかる。

『…………。もう、力の出し惜しみはしないわ』
『……何を?』
『『気合パンチ』!!』

 だが、ウソッキーが放ったのは、通常と変わらない、しかし強力な一撃だった。
 しかも、一歩も動かず拳を前へと突き出した。

 ドガンッ!!

『がっ!?』

 ニドクインにはどうしてダメージを受けたのか、わからなかった。
 ただ、わかっているのは、攻撃の衝撃は間違いなく背中から受けたということだった。
 攻撃を受けたニドクインは、後ろから吹っ飛ばされて、ウソッキーに吹っ飛んでいく。
 さらに、ウソッキーは飛んでくるニドクインに接近する。

『『アームハンマー』!!』
『っ!!』

 ズドガンッ!!!!

 連続攻撃に考えることもさせてくれなかった。
 ニドクインは地面に叩き伏せられた。

『くっ……一体今の攻撃は……?』

 しかし、まだ立ち上がるニドクイン。
 刀の電気の効果は消えてしまったが、まだ戦う気力は残っていた。

『お願いだから、もう立たないでよ』
『はぁはぁ……そうは行かんのじゃ』

 深いダメージを負って息を荒く吐くシノブ。
 気合パンチとアームハンマーの連続攻撃は、かなり堪えた様だ。

『…………。やるしか……ないのね……』

 そういうと、息を吸い、両方の拳に力をこめた。
 左手で地面を突くと、岩の波が生じた。
 『アースウェイブ』だ。

『くっ……『村雨一輝<むらさめいっき>』!!』

 円を書く斬撃で対抗するが、まるで歯が立たない。
 岩の波に飲まれて、ニドクインは体勢を崩された。
 そして、ウソッキーは容赦しなかった。

『『メテオパンチ』』

 右手の拳でスリップしたニドクインを殴りつける。
 ニドクインが風鋼丸で防御に出る。

 バキンッ!!!! ドガンッ!!!!

『ぐぷっ……』

 風鋼丸が真っ二つに折られた。
 さらに、ウソッキーの拳がニドクインにめり込み、地面にヒビが入った。
 攻撃を終えてウソッキーが引くと、ニドクインのシンクロが強制的に切れて、シノブと分離した。

「…………。ゴメンね」

 シンクロを解きながら一言サニエルはそう呟いた。
 そして、オトノを追おうとした。

「ま……て……よ……」
「っ……行かせない……のじゃ……」

 倒れたはずのレイタがサニエルの前に立ちふさがり、シノブも虚ろな目ながら折れた風鋼丸を持って立ち上がる。

「…………。……もう止めて……。……立たないでよ……」

 サニエルは怯えた声でそういった。

「現実的に……やめるはずが……ないだろ……? 俺は……君ら……マイコンを……潰して……世界を手に……するんだから……」
「ラグナと……オトノ殿の……邪魔は……させない……のじゃ……」

 そして、2人はヨノワールとカモネギを繰り出して、傷を負った体でシンクロをした。

『『草薙剣技奥義・瞬雨<しゅんう>』!!』
『『黒影波動砲弾<シャドーキャノン>』!!』

 二人とも、最強の技を繰り出した。
 シャドーボールに波動を纏わせた破壊光線以上の力を持つ威力の遠距離攻撃。
 接近して、斬撃と連続の時間差の斬撃を叩き込む近距離必殺攻撃。

『…………止めて』

 対するサニエルはサニーゴを取り出した。

『『パワーストーム』!!』

 ズド――――――――――――――――――――――――――――――――――――ンッ!!!!!!!!!!

 洞窟内で激しい爆発が巻き起こったのだった。



 ―――テンガン山洞窟外部。雪の降る山道。
 しかし、激しく砂と風が舞い込むことにより、雪の影響はほとんどなくなってしまっていた。
 アソウのプテラが『砂嵐』を起こしたせいである。
 現在、上空で砂嵐の中、プテラとフライゴンが激突していた。
 だが、戦いの様子はほとんど見えない。
 ゆえにどちらが優勢で、どちらが劣勢かも確認することはできなかった。
 ただ、砂嵐の外からもわかるのは、技と技がぶつかったときに聞こえる衝撃音くらいだった。

『はあっ!!』

 フライゴンが大きく息を吸って、青色の球体のエネルギー弾を吐き出す。
 『竜の波動』である。
 真っ直ぐにプテラへと向かっていくが、尻尾を振り上げて、軽く攻撃をいなした。
 しかし、フライゴンは諦めずに連続で竜の波動を打ち続ける。
 4連続で攻撃を放つが、今度は素早く動いて、攻撃範囲から脱出された。
 プテラが『高速移動』を使ったようだ。
 後ろに回って『竜の波動』を放つが、フライゴンは上昇して攻撃を回避する。
 視界は悪く、プテラも砂嵐を利用してフライゴンの見えないと思えるところから撃ったのだが、フライゴンの赤いメガネは砂嵐を遮断する。
 よって、フライゴンがこの砂嵐で受ける影響はほぼゼロに近い。

『(スピードには自信があるけど、あのプテラ相当速い……。こうなったら……)』

 意を決して、フライゴンは急加速した。
 プテラに一気に接近する。
 『電光石火』だ。

『(それを待っていたわ)』

 不敵にプテラが笑った。
 彼が罠だったことに気づいた時には遅かった。
 進行方向にいきなり尖った岩が配置されていくのが見えた。
 一直線に加速してしまっていたフライゴンは、その尖った岩にぶつかって体力を失われ、さらにスピードまでも削られていく。

『(っ!!『ステルスロック』か!?)』

 そして、ステルスロック地帯を抜けたフライゴンを待っていたのは、プテラの『ドラゴンクロー』だった。

『しまっ……』

 ドガッ!!

 アッパー気味の一撃を受けて、上空へと飛ばされる。
 さらに、プテラが竜の波動の追加攻撃を繰り出し、フライゴンに命中させた。

『いつっ……』

 翼を硬化させて竜の波動の攻撃を軽減させたが、ダメージを受けたことには変わりない。
 さらに、ドラゴンクローのアッパーはまともに入っている。
 戦いの流れはプテラに傾きかけようとしていた。



「抜けた?」

 上空で激突が繰り広げられている最中、テンガン山の洞窟からセミロングの少女が飛び出てきた。
 オトノである。

「何これ……」

 オトノは地面の様子を見た。
 抉られていたり、焦げていたり、穴が開いていたり……戦いの跡がありありと残っていたのである。

「まさか……ラグナと幹部の誰かが戦ったのかな……?でも、誰も残っていないということは……先に進んでいる?急がなくちゃ」

 オトノは空で激戦が行われていることは露知らず、ラグナも入っていったやりのはしらへの洞窟の道を進んで行った。



 ズドォンッ!!

『くぅ……』

 プテラの『アイアンテール』によって、フライゴンは地面へと叩き落された。

『やっぱ君は強いな……』

 独り言を小さくフライゴンは呟いた。
 そして、かなり傷ついた体を無理矢理起こした。

『けど、負けるわけには行かないんだよ。ココロと約束したからな』
『(あの技は……?)』

 フライゴンが地上で何かをしていた。
 その何かをすることによって、岩はボロボロに風化し、解け残っていた雪は消えて行き……地面の一部がどんどん砂漠化していく。

『(まさか……地面のエネルギーを吸収している!?)』

 すると、フライゴンの体の傷がみるみるうちになくなっていった。

『『グランドレイン』。さぁ、ここからが勝負だ!』

 一瞬のうちにフライゴンがプテラの真後ろを取った。

『『ガーネットクロー』!!』
『(素早さが上がっている!?)』

 ドガッ!!

 今度はプテラの方が地面に叩きつけられた。
 しかし、叩きつけられたのは砂の上だったのでそれほど衝撃はなかった。
 だが……

『『砂地獄』!!』

 叩き落されて、流砂に嵌まるプテラ。

『こんなもの……』

 翼を広げて飛び上がろうとする。

『『輝きの風』!!』

 銀色の風よりもさらに煌びやかな風が、プテラを吹き付ける。
 バランスを崩し、飛べなくしたようだ。
 プテラは流砂に足を取られた。
 それをみて、フライゴンは流砂に向かってダイヴした。

『これで眠ってくれ……『ガーネットクロー』』

 再び光り輝く爪をプテラに向ける。
 しかし、それで黙っているプテラではなかった。
 口を大きく開けた。

『『破壊光線』!!』
『っ!!』

 ズドンッ!!

 フライゴンに直撃した。
 だが、構わずフライゴンはプテラに攻撃を叩き込んだ。

『おりゃっ!!』

 ズモッ!!

 そして、プテラは流砂の中に押しやられた。
 流砂の流れが止まるのを確認して、フライゴンは地面に着地してシンクロを解いた。

「…………。終わった……か?」

 しかし、ヒロトはまだ何かある気がして、じっと流砂を見つめたのだった。



 カランカラン

 軽い音が洞窟の中に鳴り響く。
 その音とは、ひとつの空き缶が転がっていく音だった。

「はぁはぁ……ふぅ……」

 息を整えながら、ラグナは前へ前へと足を進めていく。
 しかし、ミックスオレを飲んでいながらも、ダメージは大きく、その足取りはゆっくりとしたものだった。

「(ちっ……あいつ……本気で攻撃しやがって……)」

 現在、ヒロトと戦っていると思われるアソウ。
 彼女の顔を思い浮かべて舌打ちをする。

「(なんでこんなことになっているんだよ……。一体、50年の間に一体何があったんだ……?)」

 ただ、ラグナは信じられなかった。

 ガッ

「っ!!」

 バタリとラグナは音を立てて倒れた。
 少し大きめの石につまづいたようだった。

「痛ぇ……くそっ……」

 手をついて起き上がろうとするラグナ。
 すると、不意に手を差し伸べられた。

「……!?」

 顔を上げると彼女の姿があった。

「ラグナ、大丈夫?」
「オトノ!?どうやってここまで来たんだ!?」

 ラグナは彼女の手を取って、立ち上がった。
 軽く礼を言うと、オトノはうんと頷いた。

「シノブとレイタがサニエルを抑えてくれているの。だから、ここまで来れたの」
「……大幹部のアソウには会わなかったのか?」
「え?うん。居なかったよ?」
「居なかった?……まぁいいや。とにかく、先を急ごうぜ」

 ヒロトのことだから上手くやっているだろうと思い、あまり心配はしなかった。
 先に進もうとするが、肩をグイッと掴まれた。

「なんだ?」
「ラグナ……ボロボロじゃないの……」
「……このくらい今まで経験した戦いや傷と比べたらどうってことねぇよ」
「…………」

 オトノは最初に会った時のことを思い出した。

「……確かにあの時程酷くはないけど……でも、このままじゃ……」
「今は俺の傷より、この世界の未来のことだろ!今無理しないでいつ戦うって言うんだ?世界が終われば、元も子もねぇだろ!」
「そうだけど……でも……あたし……」

 ぎゅっ

 不意にオトノはラグナの腕に抱きついた。
 その表情は今にも泣き出しそうだった。

「ラグナが死んじゃったら嫌だよぉ……」
「……オトノ……」

 左腕に絡みつくオトノの腕をゆっくりと剥がした。
 オトノはほろりと一筋の涙を零しながら、ラグナの顔を見上げた。
 そして、次の瞬間にはラグナがオトノをきつく抱きしめていた。

「…………」

 オトノはまったく抗わず、彼の腰に手を回した。

「俺は死なねぇ。約束しただろ。てめぇの傍でずっと立っててやるって」
「うん……」

 少しの間、2人は互いの温もりを確かめ合っていたのだった。



「ここが“やりのはしら”……?」
「ああ。初めて来た時とあんまかわらねぇな」

 2人の目の前に広がるのは、数本の柱と不思議な紋章が書かれている祭壇があるのみ。
 そして、その中心にいるのは一人の男だった。

「数々の刺客を退けて……ここまで来ちゃったのか……」

 白衣を着て、中に白いセーター、下にはスラックス。
 ダークグリーンのボサボサとした研究員のような男だった。

「てめぇがマイコンの頂点<ボス>か?」

 ラグナが鋭い目で睨みつける。

「残念だけど違うよ。俺の名前はエデン。大幹部:零雪の創設家エデンだ」
「そうか……てめぇが雪原で奇襲してきた奴か……!」
「まー、そういうことだ」

 ラグナはキョロキョロと辺りを見回す。

「マイコンの頂点<ボス>はどこに居やがる?」
「まだ“あいつ”は覚醒してないのさ。でも、後10分位すれば出てくるんじゃないか?空からな」

 そういって、エデンは空を指差した。

「空から……?」
「どっちにしろ、俺が消したいのはお前じゃない」
「てめぇが消したい奴ってのは誰だよ?」
「…………。お前に言ってもわかるはずがないさ。だから……」

 喋りながらエデンは、モンスターボールからエンペルトを繰り出してきた。

「邪魔をするな」

 強力なハイドロポンプがラグナとオトノを襲う。

 ズバッ!!

『わりぃが……そういうわけにもいかねぇんだよ』

 ハイドロポンプを切り裂いて、エンペルトに一撃が決まった。
 必殺技『裂水<れっすい>』だ。

『俺たちはてめぇらをぶっ倒さねぇといけねぇんだ。頂点<ボス>の居場所、教えてもらうぜ!オトノ、行くぜ』
『ええ!』

 そして、ラグナとオトノはダーテングとスピアーにシンクロしたのだった。



 たった一つの行路 №206
 第三幕 The End of Light and Darkness
 未来の運命の戦い⑤ ―2人の約束― 終わり



 過去の罪は未来へと継がれる。その罪を他の誰にも味合わせたくなかった……


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Last-modified: 2015-07-29 (水) 23:17:13
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