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たった一つの行路 №205

/たった一つの行路 №205

 全てはそう……エデンと言う奴のせいだった。
 あの男が私の全てを狂わせた……
 クミ(ミント)は知らないかもしれないけど、私はクミと同じ施設の出身の後輩だった。
 だから、クミが一人でパソコンを弄ったり、ポケモンと遊んでいるのを見たことがあった。
 対照的に私は一人でいることはあまり無く、自然と周りに人が集まって来ていた。
 自分で言うのも恥ずかしいけど……魅力があるらしい。
 それに加えて、私は年下の子の面倒見が良くて、しょっちゅう世話をしていたことがある。
 多分、そのせいで私は年下の子達に“頼りになるおねえちゃん”って思われていた。
 私は面倒を見ることが嫌いではなかったし、むしろ好きだったから、ずっとこの施設でお手伝いしていけたらいいなと思っていた。
 しかし、そんな折にあの男はやってきた。
 あいつは私に一目惚れしたのだという。
 その上で、私の力を見込んだ上で組織に入れと言ってきた。
 当然、私は断った。
 だが、あの男は強かった。
 私を圧倒的な強さで負かせた後、施設の子供たちを人質に取った。
 『言うことを聞かなければ……わかるよな?』と。
 私はあいつの物になってしまった。
 時々反抗してみるものの、全ていい様にあしらわれてばかりだった。
 そして、核となる部分で反抗しようとすると、絶対的な力を持って私を捻じ伏せようとする……
 私には選ぶ手段が無い。
 大切な弟妹<きょうだい>を守るには、マイコン……エデンに力を貸して、邪魔する者を倒していくしかなかった…………



 ―――テンガン山洞窟外部。雪の降る山道。
 雪が降りながらも、その場所は、炎によって地面を焦がされていた。
 ゆえに雪はもうすでになかった。
 ただ、そこにいるのは、不良のような男、ラグナと向かい合うリザードンとウインディだった。

「なんでてめぇが未来にいるんだよ!?」

 ラグナは当然驚くしかない。
 すると、リザードンは消えて、緑のマフラーをした一人の緑髪の男が姿を現した。

「どうして未来に飛ばされたかは……多分お前と同じ理由だと思うな」
「……!? てめぇもココロに会ったのか!?」
「ああ。そして、ココロに頼まれたんだ」

 ヒロトはモンスターボールとシンクロパスを持って、ウインディを見据えた。

「『後に大きな騒動を起こすであろうアソウを止めてくれ』と」
「……あいつ……こうなることを予測していたのか?」

 眉間にしわを寄せて、ラグナは呟く。

「とにかく、ここは俺に任せろ。あいつは俺が止める」
「てめぇが……あいつを?」
「ああ」
「止められるってのか?あいつを」
「それはわからない。だが、あいつを止めるのが俺の役目なんだと」
「……ココロが言ったのか?」
「そういうことだ」

 ふんっと鼻で笑うラグナ。

「それなら、頼むぜ。俺はエデンって奴と戦わないといけないんでな」

 ラグナは右手を挙げた。
 それに合わせて、ヒロトは同じく右手を挙げてパチンと叩いた。
 バトンタッチ……選手交代の合図だった。

「これを持っていけ」
「……ミックスオレか?」

 受け取った缶ジュースとヒロトを見比べる。

「体力が減ってんなら飲んだほうがいいだろ?」
「いや、俺、ポケモンじゃねぇから」
「ポケモンじゃなくても、効くだろ?」
「ま……そうだがよ。とりあえず、貰っとくぜ」

 なんだかんだヒロトにツッコミを入れながらも、ラグナは素直にアイテムを受け取った。
 そして、傷ついた体を引き摺りながら、やりのはしらへ行くための洞窟の入り口へ進んでいく。

「……ヒロト……。あなたも私の邪魔をするというの?」

 ヒロトがラグナを見送った後にアソウを見ると、ウインディが消えていて、杖をついて老眼鏡をかけた老女の姿があった。

「…………」
「あなたならわかるはず。大切な人を亡くしてしまった苦しみを。自分の本質を知ってしまった苦しみを。お願いだから邪魔しないでよ」
「その願いは聞けないな。君がどうあれ、ここまで世界を破壊してしまったんだ。これ以上、放っておけやしない!」
「ヒロト……今のあなたは青いわ。この世界の50年を知らないからこんなことを言えるのよ」

 ギリギリとモンスターボールを握り締めるアソウ。

「私は世界を浄化する。全てゼロにする!」

 そして、アソウはラグラージを繰り出した。

「(……君は……もう世界を信じられなくなったのか……?)」
『『マッドショット』!!』

 シンクロし、泥の攻撃を打ち出してきた。
 狙いは寸分の狂いもなく、ヒロトに向かっていった。

「っ!!」

 ヒロトはダッシュして全力で攻撃をかわしてから、モンスターボールとシンクロパスを取り出した。

『くらいなさい。『水柱』!!』

 ズボーンッ!!

 ヒロトの足元から吹き出る強烈な水飛沫。
 ハイドロポンプが地面から噴出されるような強力な一撃だった。

『…………。そう来たのね』

 結果を言えば、その攻撃はヒロトにまったくダメージを与えられなかった。
 しかも、その結果にアソウはまったく動じていなかった。
 特性の『ちょすい』で水攻撃を防いだと、わかっていたからだ。

『『冷凍ビーム』!!』

 水柱から出てきたラプラスが、一筋の冷凍光線を打つ。
 この温度の中での一撃は威力が高いはずだ。
 だが、ラグラージは表情を変えず、水柱を目の前に打ち出し、冷凍ビームを防御した。
 同時にラグラージは、拳に力を溜める。

 バリンッ!!

 冷凍ビームで凍らされた水柱を叩き壊し、氷の礫を放った。
 ラプラスは動いて攻撃をかわそうとするが、飛んでくる氷の速度が速く避けられない。
 数十の氷の礫を受けてしまう。
 さらに、氷の礫を盾にラグラージは接近する。
 攻撃を受けきったラプラスがハイドロポンプを放って反撃に出た。

 ズモッ

『!!』

 ラグラージが地面の下に潜ってしまい、攻撃はあっさりとかわされてしまう。
 すぐに足元を警戒するラプラスだが、ラグラージの滝登りの勢いを利用したアッパーカットが決まって、吹っ飛ばされた。

『……っ!』

 受身を取って体勢を立て直すラプラス。
 そんな折に、降っていた雪が突然止んだ。
 変わりに、テンガン山の空を猛烈な砂嵐が吹き荒れるようになった。

『(あいつが『砂嵐』をしたのか……。なら一気に行くしかない!)『アイススプレッド』!!』

 ラグラージのいると思われる前の空間に『絶対零度』を放つ。
 さらに間髪をいれず、できる限り早く『ハイドロポンプ』を連発で放つ。
 絶対零度の空間を通ったハイドロポンプは、瞬間的に凍結し、強力な氷の槍となる。
 それを、10発連続で砂嵐の中で放った。

『残念だけど、後ろよ。『気合パンチ』!』
『っ!!』

 ズドッ ガンッ!!

 砂嵐の範囲から、ラグラージは再び穴を掘るで脱出したようだった。
 証拠に、ラプラスの後ろにはラグラージが掘った穴があった。
 吹っ飛ばされたラプラスは、ラグナがぶつけられた外壁に同じくぶつけられた。

『くっ……(迂闊だった。あいつはレイン(ラプラス)の『アイススプレッド』を知っていたんだっけ。その大技の隙を狙うために技と砂嵐を展開して攻撃を出させたのか……)』

 すると、ヒロトはラプラスとのシンクロを解いた。

「データに基づいた戦略はその歳になっても健在ってことか……それなら、そのデータに無い戦いをするまでだ」

 次にヒロトがシンクロしたのはフライゴンだ。
 砂嵐をいとも簡単に潜り抜け、ラグラージを空から急襲する。

『『ドラゴンクロー』!!』
『『冷凍パンチ』!!』

 ズドガッ!!

 フライゴンがいとも簡単に吹っ飛ばされる。

『…………。いや、こっちは身代わりね』

 アソウの読みどおり、吹っ飛ばしたフライゴンは消滅した。
 そして、くるりと振り向くと、そこにフライゴンの姿があった。

『…………。『アイスボール』』

 口から雪玉を発射し、フライゴンに向けて放つ。
 しかし、雪玉はフライゴンをすり抜けた。

『(やっぱり『影分身』ね)』

 しっかり確認すると、連続で辺りに雪玉を放っていく。
 連続で攻撃するたびに威力はどんどん上昇していった。

『そこね!』

 ラグラージがその場から飛び退くと、フライゴンが地面から飛び出してきた。
 そして、視界の悪い砂嵐の中で最大パワーのアイスボールを空中でぶっつけたのである。

「そこであなたは『地割れ』放つのよね」
『っ!?』

 着地してシンクロを解いたアソウは、プテラにスイッチをした。
 飛び上がると、アソウの読みどおり、自分の立っていた場所が大きな衝撃と共にぱっくりと割れて行くのを確認した。

『(『身代わり』からの『地割れ』を完全に読まれている!?)』

 すると状況は、アソウ=プテラが制空権を取った。
 強力な音波攻撃がフライゴンに向けて放たれる。

『くっ!!』

 同じく音波の攻撃で、プテラの攻撃を相殺した。

『(『超音波』を『ソニックブーム』で相殺したのね)』

 冷静に分析をすると、鋼の翼を展開して、上空からフライゴンに襲い掛かった。

『『ドラゴンクロー』!!』

 一方のフライゴンも上空へ向かって飛び上がった。

 ズドガンッ!!

 砂嵐の吹き荒れるテンガン山の上空で、激しい空中戦が始まった…………



 ―――テンガン山洞窟内部。

「(ほんとは戦いたくない。……あんな奴のいうことなんて聞きたくない……)」

 モンスターボールとシンクロパスをそれぞれ手に持って、迷った目で岩の残骸を見るサニエル。

「(でも、戦わなければ、弟達が…………)」

 ドゴンッ!!

 そのとき、パワーストームで埋め尽くされた積み岩が、弾け飛んだ。
 岩を蹴散らしたのは、骨を持ったポケモン、ガラガラだ。

『波動の力……見せてやる……』
『……レイタ』

 やや傷ついたジュカイン=オトノも立ち上がる。
 突撃するガラガラを援護するようにエナジーボールを放った。

『『ミラーコート』!』

 再び持っていたユレイドルでシンクロをし、援護してきたエナジーボールをガラガラへと弾き返す。

『そんなもの……』

 ガラガラが、骨にすべての波動を集める。
 そして、

 ガガガガッ!!

 エナジーボールの威力に押されながら後退するも3秒後に……

 ガキンッ!!

 エナジーボールをユレイドルへ打ち返した。
 そのエナジーボールを盾にして、強力な一撃に備えた。
 『ボーンスラッシュ』だ。

『『ミラーコート』!!』
『2回目!?』

 骨で弾き返したエナジーボールをさらにいとも簡単に返すユレイドル。
 だが、それをガラガラは見通していた。

『そんな攻撃は受けないよ』

 ジャンプして、エナジーボールをかわした。
 そして、波動を纏った骨を思いっきり振り上げた。

『終わりだよ』
『『ミラーコート』!!』
『え!?』

 ズドンッ!!!!

『……ぐあっ!?』
『今のは何!?』

 3度目のミラーコートは、ジャンプしてかわしてガラガラが見送ったはずのエナジーボールを弾き返したのだ。
 角度もバッチリで、攻撃はガラガラの背中に直撃だった。
 吹っ飛ばされた勢いで、壁に激突した。

『がっ……くそっ……(こいつは『ミラーコート』を好きな空間に出せるのか……?)』

 骨を突いて、まだ立ち上がるガラガラ。
 一方、ジュカインはユレイドルの背後を捉えた。
 『リーフブレード』だ。
 だが、ゆらりとユレイドルは体をしゃがんでかわした。
 そして、ぐるりと振り向くのと、2撃目のリーフブレードが決まるのは同じだった。

 ガギッ!!

『っ!!』

 ジュカインは吹っ飛ばされた。
 ダメージを受けたわけではない。
 同タイミングで『原始の力』を繰り出されて、技の激突の衝撃で吹き飛ばされたのである。

『(くっ……これ以上は……)』

 壁に激突せず、上手く着地したジュカインだったが、一旦シンクロを解いた。
 パワーストームを受ける前に、ジュカインはヘドロ爆弾で毒の追加効果を受けていた。
 その効果を受けないためにも、一旦シンクロを解除するしか方法はなかった。

『『骨ブーメラン』!!』

 ガラガラが波動を纏った骨を投げつける。

「……これで眠って」

 シンクロを解いたサニエル。
 そこから、骨ブーメランを掻い潜って、ウソッキーにシンクロする。

『……くっ!!』

 拳に波動を纏い、力をこめるガラガラ。
 一方のウソッキーは全力でガラガラに接近してきた。
 骨ブーメランの2撃目は、ガラガラに戻ってくる前に決まりそうにない。

『『波動正拳』!!』
『『ウッドハンマー』!!』

 ズド―――――――――ンッ!!!!

「はぁはぁ……レ…イ…タ……」

 激突の結果は地面に倒れているガラガラとレイタを見れば明らかだった。
 そして、ウソッキーはジュカインになんでもなおしを与えているオトノを見た。

『地面に埋もれたくないなら、大人しくこの場から去って。私は戦いたくないの。誰も傷つけたくないの……』
「傷つけたくないなら……なんでこんなことをするの!?……マイコンがどういう組織か知らないはずはないでしょ!?」
『知っているに決まっているでしょ……。でも、こうするしか方法がないの……。私が守れるのは、掌で数えられるくらいしかないんだから……』

 そういって、自分の指で数えていくウソッキー。

「あたしたちは……マイコンの頂点<ボス>を倒さないといけないの。お願い!通して!」
『できない……。そんなことをしたら……そんなことをしたら……』

 すると、ウソッキーが涙ながらにオトノに向かって突進してきた。
 『捨て身タックル』だ。

「っ!!」

 ズガギッ!!!!

 攻撃はオトノの前で止まった。

「ニドクイン……シノブ!?」
『オトノ殿……ここはあたいに任せて先に行くんじゃ!』
「ミントを倒したの!?」
『倒したというよりも逃げられたが……もう戦うことはできないはずじゃ』
『あなたがクミを倒した?そんなの嘘よ!』
『っ!?』

 ズドゴンッ!!

「シノブっ!?」

 ウソッキーはばかぢからを発揮して、ニドクインを吹っ飛ばした。

『くっ……。なんじゃこいつ……』

 ダメージを負うものの、ニドクインはすぐに体勢を整えて、風鋼丸を構えて斬りかかる。

『『十字斬<じゅうじぎり>』!!』
『『ものまね』!!』

 ズドッ!!!!

 同じタイミングで同じ技を繰り出すウソッキー。
 斬り合いは互角だった。

『くっ……バカな……。あたいの剣技を完璧にコピーするじゃと……!?』
「(まさか……シノブでも敵わない……!?)」

 息を呑むオトノ。

『オトノ殿……早く行くのじゃ!』
「でも……」
『貴女が行かなければ……あたいは戦いに集中できないのじゃ!』
「……シノブ……」

 オトノはシノブに背を向けて走っていった。

「絶対に追いついてきてよ!!」
『逃がさない!『岩石封じ』!!』
「っ!!」

 オトノの行く道に、どこかから岩が帯びてきて、邪魔をする。

『させない!!『村雨一輝<むらさめいっき>』!!』

 円を描いた斬撃がオトノを封じようとする岩を切り裂いた。
 その隙間から、オトノは抜け出した。
 一度、シノブを一瞥して奥へと姿を消して行った。

“あーあ。サニエル……逃がしちゃったね”
『……っ!!』

 ふと、その場所に響く一人の男の声。
 エデンの声だった。
 シノブもその声を聞くためにストップした。

“契約ではもう誰も通さないはずだったよなー?なのに君は契約を破ってしまった。これは一人壊すしかないよね?”
『ま……待って……待ってください……』

 ウソッキー=サニエルは今にも泣きそうな声で言った。

『今から……この侍を倒して……さっきのオトノも倒すから……だから、やめて……。弟達に手を出さないで…………ください…………』

 必死にすがりつくような声だった。
 その声を聞いて、エデンはピュッと口笛を吹いた。

“じゃ、さっさとその侍を片付けて、オトノを追ってね”
『……はい……』

 ガチャっと拡声器の音が切れた。

『(この女……何かワケ有りなのか?弟達ということは、人質を取られている?……それなら、あたいが先に進めばこの女の兄弟は……)』

 そう思い、シノブは決心した。

『(オトノやラグナが先の連中を倒してくれるまで、あたいはここで時間稼ぎをすれば、あやつの兄弟を殺さなくて済むの)』

 そして、風鋼丸を構えるニドクイン。
 だが……

 ひゅっ

『……なっ!?』

 ウソッキーがニドクインの背後を取った。

『こんなところでモタモタしている場合じゃないの』

 ガズッドンッ!!

 ギリギリでウソッキーのキックを刀で防いだニドクインだったが、威力に完全に押されて洞窟の壁に激突したのだった。



 たった一つの行路 №205
 第三幕 The End of Light and Darkness
 未来の運命の戦い④ ―罪を背負い護る者― 終わり



 約束を胸についに激突!


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Last-modified: 2015-07-29 (水) 23:12:06
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