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たった一つの行路 №203

/たった一つの行路 №203

 ―――テンガン山洞窟外部。雪の降る山道。ラグナvsアソウ

『っつくしょう……危なかったぜ……』

 ウインディの『神速』を受けて、吹っ飛んだラグナ。
 激突した瞬間に、雪が巻き上げられて、見えなくなったが、むくりと姿をあらわした。
 どうやら、間一髪でシンクロをし、ダメージを抑えたようだ。

「流石ね……ラグナ」

 アソウはウインディの頭を撫でながら、そう呟く。
 ウインディはかなり歳をとっているようで、どこか猛々しい貫禄のようなものが見える。

『オイ……アソウって名前は、確かてめぇの父親の名前だろうが……何故てめぇが使ってんだよ』
「ようやく気付いたのね。正確には父親の名前ではなくファーストネームよ」
『どっちにしろ、そんなの関係ねぇよ……。なんでてめぇがマイコンの大幹部なんだよ……?』

 悲痛な面持ちでラグナが言葉を零す。

「…………」
『何とか言えよっ!!』
「時が経てば変わるものもあるのよ」

 表情をまるで変えずにアソウは、そう言った。

「あなたはこの世界の50年程をまったく知らない。だからそんなことが言えるのよ」
『……50年……』
「お願いだから、邪魔しないで」
『ダメに……決まってんだろ』

 静かなしっかりとした声でラグナは言った。

『てめぇ、昔俺に言ったよな?『無意味な復讐を止めるのが仲間というもの』だって。今てめぇがやっているものが復讐かどうかは知らねぇが、俺はてめぇを止めるぜ』
「無理よ。ラグナでもあたしを止めることはできない」
『ぜってぇ止めてやるっ!!』

 そして、ラグナ=オーダイルが先に動き出した。
 雪に足を取られながらも、前へ進み、水の爪<アクアスティンガー>を繰り出した。

「ポリりん」

 アソウはウインディを戻して、ポリゴン2を繰り出した。
 そして、そのポリゴン2は軽量が状態になり、グンとスピードを上げた。

『っ!!こいつは……アドバンス・フォルムチェンジのスピードフォルムか!?』

 水の爪を軽くかわして、そこから、アソウはポリゴン2とシンクロする。

『……ちっ!速過ぎる!!』

 攻撃がまるで当たる気配がない。
 前を見ると、すでにポリゴン2は10メートルほど離れたところに居た。
 目を光らして、強力な電気攻撃を繰り出す。
 『電磁砲』だ。

『そんな攻撃、当たっかよっ!!』

 自分<オーダイル>の体勢はまったく崩れていない。
 かわすのは容易いと思っていた。

『この攻撃はかわせないわよ』

 バリバリバリッ!!

『ぐあっ!!』

 電磁砲はまるで意思を持っているかのように、オーダイルに向かっていき、炸裂した。
 体に電気を纏い、ひざまずくオーダイル。

『ちく…しょう……事前に『ロックオン』をしてやがったか……』
「だから言ったでしょ。ラグナでも止められないって」

 ポリゴン2とのシンクロを解くと、再びウインディとシンクロをするアソウ。

『……っ……。なんで…てめぇは……ポリゴン2とか性別の無いポケモンや……♂のウインディとシンクロできんだ……?』
『いいことを教えてあげる。このシンクロパスを作ったのは、もう一人の大幹部のエデンなの。そのエデンが私の為に全てのポケモンとシンクロできるように改良してくれたの』
『そう…いう…こと…かよ……』

 ビリビリの体ながらも、立ち上がるオーダイル。

『そういうこと。それじゃ、この一撃で沈んでちょうだい』

 前方にラグナに不意打ちを食らわせた『炎の渦』と『火炎車』の合成技を放った。
 その技に飛び込んで、さらに神速で加速した。

『っ!!この技は、未完成の筈の……』

 オーダイルは目を見開いた。

『『ソニックスパイラル』!!!!』

 ヒュッ ズドゴォォォォォォォ――――――――――――――――――ンッ!!!!!!!!!!

 オーダイルも一瞬の出来事としか感じなかった。
 次の瞬間には、壁にぶつかっていたのだから。

『……っ……。『ソニックスパイラル』が未完成なのは、いつのことだと思っているの?言ったでしょ。時が人を変えるって』
『くっ……つぅ……』

 ラグナは一旦オーダイルとのシンクロを解いた。
 だが……

「(ちくしょう……ダメージが…大き…すぎ…る……)」

 ふらふらで目が霞みそうなラグナ。
 すでに今にも倒れそうな致命傷を負っていた……



 ―――テンガン山洞窟内部。レイタvsサニエル(チョコ)
 波動の嵐と岩の塊が激しく火花を散らしていた。
 ルカリオが波動弾を撃てば、サニーゴがパワージェムをぶつけて押さえ込もうとする。
 力と力の激突は、なかなか決着がつかずにいた。

『『とげキャノン』!!』

 サニーゴが全身のトゲを打ち出していく。

『何!?』

 ボーンラッシュを構えていたルカリオは、とげキャノンの目測を失って、一瞬息を呑んだ。
 ふと、次の瞬間、360度のあらゆる場所から、トゲが飛んできた。
 自分に向かって、一斉にトゲが襲い掛かる。

『くっ!!』

 ガガガガガッ!!!!

 波動を形状化した骨で打ち返そうとするが、全ての方向のトゲを弾き落とせるわけではない。
 前方向のトゲを弾き落とそうとすれば、背中に攻撃が当たり、後方のトゲを弾き落とそうとすれば、前から攻撃を受けることになる。
 どちらにしても、この攻撃を弾き落とす術はなかった。

『(一撃一撃が強い…ね……。相殺がやっとであいつに攻撃が当たらない……。それなら、全力の攻撃だ)』

 サニーゴが間髪を与えず、岩の嵐……『パワーストーム』を繰り出す。
 一方のルカリオは、波動の力を最大限にまで練り上げようとしていた。
 その間、岩の嵐を受け続けることになるが。

『ぐっ……』
『やあっ!!』

 サニーゴが力をこめて、押し込もうとした。
 力が増して、ルカリオは差し込まれようとしていた。

『くらえっ……『気合球』!!』

 力を入れた強力な波動弾。
 波動の力を込めた最大の一撃だ。
 その一撃が、サニーゴのパワーストームと拮抗していく。

『……っ!?まさか、押し込めないのか!?』

 最大の自分の攻撃が相手の攻撃を押し切れないのを見て、顔をしかめるルカリオ。

『(それなら、次の作戦だ)』

 ルカリオは波動弾を掌に集めて、波動丸<はどうがん>を作る。
 一方のサニーゴもすでに動いていた。
 気合球がパワーストームを押し込んだと思うと、次の瞬間には『大地の力』をルカリオに向かって放っていた。

『そこだ』

 ルカリオが神速を使って、一気にサニーゴの後ろを取った。
 手に持っていた波動丸をぶつけようとした。

 ドゴンッ!!

『っ!?またいない!?』

 抉ったのは岩の地面だった。
 当のサニーゴは……

『『ロックニードル』!!』

 ズドガッ!!

『ぐふっ……』

 ルカリオのさらに背後に陣取って、サニーゴの背中から槍のように強烈な突きをかました。
 一転二転とルカリオは転がって、岩壁に激突した。

『こうなったら…………っ!?』
『『アームハンマー』!!』

 ルカリオが立ち上がろうとしたときにはもう遅かった。
 サニーゴからウソッキーにスイッチしたサニエルが飛び上がって……

 ズド―――ンッ!!!!

 地面の岩をも砕いて、ルカリオをたたきつけた。

『がはっ……』

 大ダメージを負ったルカリオ。
 しかし、まだ動けるようだ。
 波動弾を打ち出して、ウソッキーを引き離した。

『はぁはぁ……ぐっ……』

 ダメージの大きさから、一旦シンクロを解いたレイタ。
 腹を抑えて苦しそうだ。

『私の大切な者をバカにするあんただけは許さない……訂正して』
「俺は現実的なことを……言った……だけだ……。訂正なんて……しない……よ……」
『訂正しないなら……それでいいわ……。地面に埋もれて窒息してしまえ!』

 そして、ウソッキーは走り出す。
 体勢を見ると、捨て身タックルだ。

「っ……」

 ガラガラのモンスターボールを持っているが、シンクロしてもこのままでは防ぐのが難しそうだった。

『『月舞踊:朔凪<さくなぎ>』!!』

 ズバズバッ!!

『っ……! くっ!』

 不意に生じた風塵を受けて、戸惑うウソッキー。
 そこへ現れたのは一匹のジュカインだ。
 エナジーボールを地面に打ち出して、その反動で吹っ飛んでやってきた。

『『ストライク・リーフブレード』!!』

 勢いそのままでリーフブレードを決めようとした。

 スカッ

『くっ!!』

 攻撃は空を斬り、そのままジュカインは地面を滑っていった。

『かわされた……。レイタ、大丈夫?』
「オトノ?……ミントを倒したんだ?」

 レイタの言葉に首を横に振るジュカイン。

『ミントはシノブが抑えていてくれている。あたしを先に進ませてくれたの。……で。あそこにいるのは誰?』

 ジュカインはウソッキーを指差して行った。

「あいつは甘い光<スウィートライト>のチョコ……いや、サニエルと言うらしいね」
『幹部ね。レイタはダメージが大きいみたいだからここはあたしに任せて』
「そう行きたいが、あいつは俺が……くっ……」

 腹を抑えてうずくまるレイタ。

『行くわよっ!『リーフブレード』!』

 さっきとは違い、安定した太刀で斬りかかるジュカイン。
 それに対して、ウソッキーは逃げるように大きくジャンプして後方へとかわす。

『それなら、『月舞踊:桜舞<おうぶ>』!!』

 一方、ジュカインは相手を逃がしまいと高速の移動術で接近して切りかかろうとする。

 バキッ!!

『(当たった!)』
『それはダミーなの』
『えっ!?』

 次の瞬間、ウソッキーは消えた。
 さらに同時にジュカインを囲むように岩が襲い掛かった。

『『岩石封じ』!!』

 ズドドドドッ!!

『(『月舞踊:流漂<りゅうひょう>』!)』

 でも、打撃攻撃を無効化する必殺技でその場を凌いだジュカイン。
 岩石を跳ね除けて、リーフブレードで切りかかろうとする。

『かかったね』
『しまっ……!!』

 勢いよく切りかかったのが失策だった。
 ウソッキーが身代わりを使ったのは、岩石封じを目晦ましに使うため。
 そして、その目晦ましの目的は、ウソッキーからユレイドルへのスイッチを目視させないためだった。
 そのことに気付いたが、飛び込んだのが後の祭り。
 自ら相手が打ち出してきたヘドロ爆弾を受けに飛び込んでしまった。

『きゃあっ!!』

 ヘドロが爆発して、吹っ飛ばされるジュカイン。

『うっ……体の力が……』

 さらに毒の攻撃まで受けて、徐々に体力を減らされていく。

『止めよ。『パワーストーム』!!』

 岩石の嵐が今度はジュカインに襲い掛かる。
 かわそうと思ったが、後ろを向くと傷ついたレイタの姿があった。
 回避したら当たってしまうと思い、相殺するしかないと踏んだ。

『『リーフストーム』!!』

 葉っぱを撒き散らす嵐のような攻撃だ。

『くっ……そんなっ!!』

 威力は片方の圧勝だった。

 ズドドドドドドドドッ!!!!

 岩石の嵐がジュカインとレイタを巻き込んで炸裂した。
 そして、サニエルはシンクロを解いた。

「物理的質量で、葉っぱが岩に勝てるわけないでしょ。そのまま岩の下敷きになって死ねばいい」

 岩石の下敷きになっていると思われるジュカインとオトノに向かってそう呟いたのだった。



 ―――テンガン山洞窟外部。雪の降る山道。
 先ほどまであった地面の雪は、アソウとウインディの『ソニックスパイラル』によって吹き飛ばされた。
 それほどの熱量を持った攻撃だった。
 そして、その攻撃を受けたラグナはふらふらで、アソウはまだまだ余裕綽々。
 傍から見て、勝負はもう決まったかのように見えた。

「はぁはぁ……ちくしょう……」
『私は悟ったのよ。世界は人がいる限り憎しみや悲しみが生まれることを。だから、全ての人間が居なくなれば、憎しみも悲しみも無くなるって。他の人に味合わせたくないのよ……この気持ちを……』
「そんなの……てめぇの……言い分じゃねぇか……。誰も……そんな事……望んじゃいねぇ……」
『その人が望むか望まないかなんて関係ないわ。これは私が善意でしていることなのだから』
「善意……だと?」
『そうよ』
「…………」

 ラグナは息を整えて、立ち上がろうとする。

「てめぇは……変わっちまったな……。てめぇは……もう俺の……知っている……お前じゃ……ないんだな……」
『言ったじゃない。時間が人を変えるって』
「なんでだよ。……なんで……こんなことになっちまってるんだよ!?」
『今のあなたに話をしても理解できないわ』
「理解できないかは……問題じゃ……ねぇよ……。俺は……俺は……お前の……仲間じゃ……ないのか……?」
『…………』

 ウインディはしばし黙り込む。

「理解するかどうかは、わからねぇ。だけど、話ぐらいは……聞ける……だろう?話せよ……」

 そして、ウインディは首を横に振った。

『あなたと私はもう仲間じゃないのよ』

 口を大きく開けるウインディ。

『もう……消えてちょうだい。『スパイラルショット』!!』
「……っ!!」

 ラグナは仕方がなく、ピクシーのモンスターボールを取った。
 これしか、この攻撃を防ぐ可能性のあるポケモンはいないと思ったからだ。
 だが……

 ズゴ―――――――――ンッ!!!!

「……!?」 『上!?』

 上空からの強烈な火炎放射が、スパイラルショットを相殺した。
 雪が降る空から悠然と降りてくるのは、一匹のリザードンだった。

『(……リザードン……? スパイラルショットを相殺するほどの威力を持つ者……? 一体誰……?)』

 そして、リザードンはラグナを前に立った。

『ほんとにこんなことになるなんて……思ってもいなかったな。それより、ラグナ、久しぶりだな』
「…………。リザードンにその声……まさかてめぇは!?」

 ラグナの問いに、リザードン……もとい、ヒロトは唇を緩めたのだった。



 たった一つの行路 №203
 第三幕 The End of Light and Darkness
 未来の運命の戦い③ ―ヒロト推参― 終わり



 守るべき者がいる。消したい奴がいる。叶えたい望みがある。……それぞれの意思は固く強い。


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Last-modified: 2015-07-26 (日) 15:29:07
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