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たった一つの行路 №196

/たった一つの行路 №196

 地面を蹴る音がドッドッと鳴り響く。
 ケンタロスが左右にするどく曲がりながら、向かっていく。
 その先にいるのはルカリオ。
 構えをとってケンタロスの攻撃を受け止めようとしていた。

 ドズンッ!!

『っ!!』

 激突した。
 ルカリオがケンタロスの頭を抑えるが、勢いは止まる所を知らない。
 ケンタロスは頭を抑えられたまま、ルカリオを押し切っていく。

『なら、これでどうだ』

 掌に波動の力を集めてそれを放出しようとする。
 『はっけい』だ。
 だが、ぐいんっとルカリオの体が持ち上げられる。
 空中へと投げ出されて、はっけいは当たらない。

『喰らいな』

 自身から発される強力な電撃攻撃。

『くっ!』

 空中へと投げ出されたルカリオに向かって一直線に10万ボルトが決まった。

『『エアスラッシュ』!!』

 一方のヤドキングとペリッパーの激突は技の応酬だ。
 エアスラッシュをサイコキネシスで防ぐと、水の波動で反撃に出る。

『威力は互角!?それなら……!!』

 極大の水の波動をひょいとかわすと、猛スピードでヤドキングに突撃した。
 『電光石火』だった。
 ヤドキングは両手でガードしたが、勢いに負けて吹っ飛ばされた。

『隙を与えないよー!』

 さらに燕返しの応酬。
 なすすべもなく攻撃を受け続けるヤドキング。
 ヤドキングは押されつつあった。

『どうやら、オトノが倒れるのも時間の問題のようだ』

 優勢に戦いを進めているペリッパーを見てから、電撃で痺れているルカリオを見てほくそ笑むケンタロス。

『それは…どうかな?』
『強がっても無駄だ。次の一撃で決まる』

 すると、ペリッパーが上空からヤドキングを急襲した。

『『ギガインパクト』!!』

 ズドーンッ!!

 真上からの攻撃にヤドキングは吹っ飛んだ。
 まともに攻撃を受けてしまったヤドキングは一転、二転と転がって、バタリと地面に倒れてしまった。

『ほら。これでオトノは敗れた。そして、レイタ、お前もこれで終わりだ』
『ふっ』

 ケンタロスのセリフを鼻で嘲笑う。

『これでオトノに勝ったと思っているなら、現実的に君たちの負けだよ』
『何を? …………。(そういえば、ヤドキングはダウンしたはずなのに、何故シンクロが解けない?) しまった、ソーヤ!気をつけろ!』

 しかし、ケンタロスが気づいた時には遅かった。

『『月舞踊:桜舞<おうぶ>』』
『え……?』

 一瞬のうちに音もなくペリッパーの背後を取ったのは、一匹のジュカインだった。
 リーフブレードに電気の力を纏わせて、一気に通り抜けた。

『『サンダーブレード』!!』
『うわぁっ―――!!』

 バリバリと帯電して、ペリッパーは墜ちた。
 そして、シンクロが維持できなくなって、ペリッパーと男に分かれた。

『まさか……あのヤドキングはシンクロをせずにあそこまで戦っていただと!?』
「正確には、ヤドキングにはあらかじめ『わるだくみ』を指示して、攻撃の威力だけを上げていたのよ」

 ジュカインとシンクロを解いたオトノが説明する。

『こうなったら、俺一人でお前らを……』
『もう終わりだよ』
『……!』

 レイタは右手に掌に収まるほどの大きさの丸いボールを浮かばせていた。
 しかも、いつの間にかルカリオの帯電は消えていた。
 ケンタロスの視界から消えたと思うと、横を取った。
 『神速』だ。

『麻痺なら、波動の力で抑えた。そのくらいワケないよ』
『くそっ!!』

 ケンタロスの3本の尻尾の『アイアンテール』。
 苦し紛れながらも少し離れるようにジャンプしながら、ルカリオにぶつけようとする。
 しかし、この状況下に置いて、明らかにルカリオの方が有利だった。

『吹っ飛べ、『波動丸<はどうがん>』!』

 波動弾を圧縮した近距離ヒット用の技だ。
 命中率は遥かに波動弾を下回るが、直接ぶつけるだけあって、通常の波動弾よりも威力が高かった。
 波動丸は弾けて、ケンタロスを吹っ飛ばした。
 壁にぶつかったケンタロスは、シンクロを解除されて、そのまま地面に横たえたのだった。



「カンナギタウンの人たちはどこへ行ったのかな?」

 村を支配していたマイコンのメンバーを次々と縛っていくオトノは心配そうに呟いた。
 すると、精神を統一していたレイタが目を開けた。

「微かに近くから気配がするんだけどね」
「探し出すことできないかな?」
「マイコンが仕留めそこなった村人を探すのは容易ではないよ」

 そういって、肩を窄めるレイタ。

「それに……ラグナはどこへ消えちゃったんだろう……」

 両手で軽く胸を押さえるようにして、うつむくオトノ。

「ラグナなら少なくともこの村の中にいないことは確かだよ。しかし、あの消え方は現実的ではなかったね」

 ドサッと地面に座って、感慨深そうに喋るレイタ。

「まるで、昔あったといわれる“神隠し”事件みたいだね」
「…………」

 レイタに言われると、オトノはさらに暗い顔をする。

「まず、それよりも、こいつらをどうしようか」

 そういいつつ、一本のサバイバルナイフを取り出し、縛っている5人のマイコンを見据えていた。

「ちょっ……レイタ!?まさかあんた……」
「まさかって何?何を躊躇する必要があるの?」

 不思議そうな顔でレイタはオトノを見る。

「こいつらは平気で町を襲い、ゲームのように人の命を奪ってきたんだよ。その罰を彼らは受けるべきだよ。間違っているか?」
「……確かにマイコンのやってきたことは悪いことよ!けど……だからって……」
「オトノ、君は甘いよ。そんなことじゃ、足元を掬われるよ」
「甘くてもいい……。あたしは誰も死ぬ所なんて見たくない……」
「ふんっ」

 レイタは鼻で笑って、ナイフをしまった。

「現実から目を背けるの?なら、とことん現実から逃げるがいいさ。でも、逃げる先にあるものは絶望だけさ」
「…………」
「いいよ。君が言うなら、こいつらは生かしておくよ。でも、次は……」

 レイタが眼光鋭くオトノを見る。
 その視線に耐え切れずに、オトノは目を逸らした。

 ガサッ

「誰か来たようだね」

 近くの草むらから出てきたのは、数人の中年以上の人間だった。

“あんたたちは……襲ってきた奴らではないみたいだな……”
「あ……はい。襲ってきた連中ならここに……」

 オトノとレイタは、カンナギタウンの人達に今までのことを説明した。
 マイコンのメンバーを倒したこと。
 ラグナが消えてしまったこと。
 そして、2人は情報を得ることができた。

「「魔女……?」」

 レイタとオトノはハモって首を傾げた。

“その壁に消えたって言う超常現象を説明できる一番の手っ取り早い考えは、近くに住んでいる魔女って可能性が高いよ”
“その魔女には気をつけたほうがいいよ?近年、その魔女のせいで若い男が行方不明になったって言うから。もしかして、食べられちゃったんじゃないのかな”
「もしかして、ハレさんの言っていたラグナを呼ぶ人って、その魔女と関係あるのかな」
「現実的にどんな関係?」

 そして、腕を組んでレイタは一つ疑問に思ったことがあった。

「オトノ。君はラグナとはどこで出会ったんだ?」
「……え? あー……ええと……どこだったっけ……」
「…………」

 ツッコミをせずに、少々テンパっているオトノをジト目で見るレイタ。

「あっ。そうだよ!ウバメの森。そこで傷だらけになって倒れているところを助けたのよ」
「ふうん。だとしたら、素性が知れないね、ラグナって」
「え?でも、ちょっと怖いイメージがあるし……その……」

 少し顔を赤くするオトノ。

「……えっちだけど……」

 どうやら、覗かれた事のことを思い出したらしい。

「……悪い人じゃないよ……」
「じゃあ、あいつのことをどこまで知っている?家族は?出身は?仕事は?……彼の経歴を君は知っているのか?」
「…………」
「俺は君がラグナのことを把握していると思って安心だと考えてついてきたけど、それだとラグナのことを信用できないね。彼は俺のことを怪しいと言ったけど、こっちからしてみれば、彼の方が怪しいと思うね」

 そう言われると、黙るしかないオトノ。

「それで、現在、ハクタイシティが襲われているですって?」
“ええ。カミヤと言う一人の男が、時間をかけて町を破壊して行っているらしいのよ。それが時間の問題みたいで……”
「ううん……」

 レイタは頷く。

「ハクタイシティって、テンガン山の向こうよね……」

 オトノが元気なく呟く。

「やっぱり、あたしたちはマイコンの上層部を叩くしかないよね……」
“あんたたち、マイコンを倒そうって言うの!?”

 驚きの声をあげる村人達。

「そうだとしたら、何だって言うの?」

 レイタがちょっと不機嫌そうに言った。

“やめときなさい。あいつらに敵うわけがない。この下っ端たちは倒せたかもしれないけど、幹部や大幹部はあんたたちの想像を超える力を持つのよ!?”
「ふっ。忠告なんて止めとくんだね。なんと言われようが、マイコンは倒す」
“忠告じゃないよ。警告だよ”
“そうさ。あいつらを倒すなんて、夢の話……無理な話なんだ……”
「夢?無理?ふっ」

 片っ端からレイタは鼻で人々を笑い飛ばす。

「そう思いこんでいるうちは、君たちに現実の世界が開けるはずがない。死ぬまでここで隠れて怯えているんだね」

 そして、くるりとレイタはオトノを見た。

「で、どうするの?」
「え?」
「ラグナを探すの?探さないの?」
「……もちろん探すわよ!」

 焦ってオトノは答える。

「なら、早く探してくるんだね。俺は村に残っているよ」
「一緒に探してくれないの?」
「あいつを探すくらいなら、ここで情報を収集していた方が俺にとっては現実的だからね」
「わかった」

 そして、踵を返そうとしたところだった。

“そこの子……ちょっと待っておくれ”
「え?」

 一人の中年のおばさんがオトノを止めたのである。

“あの男……本当でマイコンを倒す気なの?”
「ええ……。そのつもりらしいです。……あたしもそのつもりですけど……」
“そう……。あんたの後姿を見て、嫌な記憶が蘇ってね”
「嫌な記憶……?」
“カンナギタウンが殲滅された時のことよ……”

 言い辛そうにしながらも、おばさんは喋り続けた。

“2ヶ月くらい前だったかな。村に一人の女性が訪れたのよ。その女性はあんたとちょっと似ていてね……と言っても、年齢はその人の方がずっと年上なんだけど……”
「……え?」

 オトノの心が揺らぐ。

“マイコンを倒すといってジョウト地方からシンオウ地方に遥々来たみたいなのよ。とってもさばさばとして正義感の強い優しい女性だったの。よほど良い両親に育てられたのね”
「(まさか……)」
“そして、マイコンを倒すために村を発とうとした時だったわ。奴らが襲ってきたの。その女性が筆頭になってマイコンに抵抗したのよ。でも結果はこの通り…………”

 おばさんはうつむく。

「そ……その女性は……どうなったんです……か……?」

 口元が震えて上手く発音ができない。

“女性はズタズタにされて、捕えられてしまったわ。そして、テンガン山にあるマイコンの本部に連れて行かれたわ。多分、もう…………”
「…………」
“あんなに強い人でも、マイコンの前では無力なんだってわかったの。だから、これ以上犠牲を出したくないの。それを私たちはわかって欲しかったのよ。…………?”

 おばさんは首を傾げる。

“大丈夫?あんた、顔色が悪いよ?”
「その人の名前って…………もしかして…………“サクノ”ですか…………?」
“……!!”

 おばさんの目が大きく見開かれる。
 どうやら当たっているようだ。

“どうして……? …………! まさか!”

 オトノは何も言わず、その場から走り去って行ったのだった。



 ―――時間は少し遡る。

「ぐわっ!」

 ドスンッ! と大きな音を立てて、地面に落ちるのは黒髪で眉間にしわを寄せる不良男のラグナだった。

「……んあ?なんだこりゃ。村の中にいたのに……何で森の中なんだ?」

 頭を掻きながら、辺りを見回してみるが、まったく見覚えのない場所だった。

「二人は居ねぇな……。オトノとレイタと合流しねぇとな。……だが、さっきの不意に見えたアレはなんだったんだ?」

 頭を抑えて、その内容を思い出そうとする。

「ブロンズの髪……法衣の女……素足……。そして……胸は確実にFカップはあったぜ!」

 ラグナの女性の胸の大きさを測る眼は確かである。

「しかし……あいつは何度か見たことがある奴だな……。だが、実際に会ったことがねぇ。いったい奴は……?」

 ボ――――――ンッ

「なんだ?」

 爆発音を聞いたラグナは、すぐにその場所へと足を運ぶことにした。
 その方向がカンナギタウンだと思ったためである。

 ズドンッ!!

「よし、近い!」

 音は大きく聞こえるようになり、目的の場所は近づいてきた。
 そのとき……

 ドンッ!

「なぁっ!?」
「きゃっ!!」

 目の前に突然現れた女性にラグナはぶつかった。
 いや、ぶつかったと言うよりもタックルして押し倒したようだった。
 もちろん、ラグナに悪気があったわけではないが。

「わ、悪い!すぐ避け…………!」

 近かった顔を離して、良く女性の顔を見ると、ラグナは気付いた。
 ブロンズの髪に美しく端正な顔立ち。
 徐々に立ち上がって、全体を見ると白い法衣に白い素足。

「てめぇは……」

 そして、ラグナの全ての記憶が繋がった。

「手配書……死の淵……そして、さっきの映像……全ててめぇが映っていた」

 女性は慌てていたようだが、ラグナの顔を見ると、すぐに落ち着いた。
 柔らかい安心しきった表情になった。

「お待ちしておりました、ラグナ様」
「ラグナ“様”ぁ!?」

 突然、そんな呼び方をされて怪訝な顔をするラグナ。

「てめぇにそんな呼び方をされる筋合いはねぇぞ!2万ポケドルの賞金首……『魔女:ココロ』」

 そういって、ラグナがココロと呼ぶ女から離れて、モンスターボールを取る。

「それに待っていたとはどういうことだ!?……てめぇ……俺を狙っていたのか!?」
「それは……。 …………!!」

 ハッとココロは後ろを振り向いた。
 そして、大きくその場から飛び退いた。

「!!」

 ココロがいた場所に鋼の塊が落ちてきた。
 どうやら、それはココロを狙ってきたらしく、鋼の塊はぐるりと方向を変えてココロを見た。

『逃げるんじゃないワヨ!』
「なっ……この声は!?」

 ラグナは聞き覚えがあった。
 
『ん?ココロを追って来たのに、別のターゲットも居たみたいネ!』
「確か、てめぇは甘い光<スウィートライト>のバニラ!?」
『よくあたしの名前を覚えていたワネ!』
「てめぇがここに居るということは……」
『察しの通りヨ。ハレはすでにこの世に居ないワ。あたしが葬ったのだからネ!』
「……! まさか、シノブも……!?」
『あの女侍のコト?あいつならまだ生きているワヨ。こんなやっつけ任務さえなければ、あの女を消しに行きたいところなのニ!』

 凄く悔しそうな声をあげるバニラ=フォレトス。

「(あいつは無事か……しかし……) やっつけ任務って何のことだ?」
『それは……そこに居る女を消すことヨ!』

 もちろん、ここに居る女とはココロしか居ない。

『大幹部たちが言うには、計画の邪魔になるんだってネ。確かにその女の歴代の先祖は厄介な術とか薬とかを作っているからネ!』
「術や薬……?」
「…………」

 いつの間にかココロは、ラグナの後ろにササッと隠れていた。

「って、いつの間に!?」
「ラグナ様……あなたに話したいことがあります。しかし、この状況ではそれもままなりません。お願いします。わたくしを守ってください」

 そう頼まれて、ラグナはめんどくさそうに眉間にしわを寄せてバツの悪そうな顔をする。
 美しく清らかな顔で丁寧な話し方をしているわりに、甘ったるいかわいい声でお願いされているからだ。

「どこら辺が魔女かといえば、てめぇは性格が魔女か?」

 モンスターボールとシンクロパスを取り出すラグナ。

「仕方がねぇ。てめぇには聞きたいことが山ほどあるんだ!俺が奴を倒すから、てめぇは下がってやがれ!」
「はい」

 ココロはそういってラグナから離れて、木陰に隠れる。
 一方のラグナは天狗のようなポケモンを繰り出していた。

「行くぜ、ダーテング!!」

 ダーテングと一体になり、フォレトスと立ち向かう。

『この一撃を受けてみやがれ!!『裂水<れっすい>』!!』

 水を切り裂く一太刀の斬撃。
 ダーテングの得意技であり、最も安定した技である。

『フフッ……そのくらいの攻撃……』

 フォレトスはその場で回転をする。
 『高速スピン』だ。
 そして、向かってきた斬撃をあっけなく逸らした。

『……! へぇ……どうやら、幹部だけあって、やっぱできるようだな!』

 そういって、ダーテングは不敵な笑みを浮かべたのだった。



 たった一つの行路 №196
 第三幕 The End of Light and Darkness
 手配書の魔女 終わり



 全てを貫く矛と全てを弾く盾ありけり。しかし、その2つではどちらが勝る?


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Last-modified: 2015-07-19 (日) 15:55:30
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