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たった一つの行路 №193

/たった一つの行路 №193

「君は地面に埋もれて……何を遊んでいるの?」

 両手で思いっきり“そいつ”を地面から引っこ抜き、片手に持ち替えた。
 そうしてから、“そいつ”を投げ捨て、冷たく呟くレイタ。

「こんな様子じゃ、現実的にマイデュ・コンセルデラルミーラのアジトに着く前に全滅しちゃいそうだね」

 やれやれと両手を肩の辺りに持ってきて首をすくめ、今度はオトノにそう言い放った。

「レイタ……サンダースは……?」
「サンダースならちゃんと倒したよ。戦略的撤退だって言っただろ。この場で戦うのは得策じゃないからね。コンビネーションをされたら厄介だから。……で」

 レイタは空にいるリザードンを見上げる。
 奴はもちろん、ベリーがシンクロしているリザードンである。

「ベリーが使ってきたポケモンは?」
「オオスバメ、グライオン、リザードンだよ」
「だいぶ、スイッチしているね」
「あたしはもう体力が限界……戦えそうにないわ……」
「なら、邪魔にならないところで休んでいるんだね」

 すると、フッと忽然と現れたレイタのポケモン。
 ヨノワールだ。

「ここからは、俺が現実的にじっくりと倒す」

 レイタはヨノワールとシンクロして、リザードンに立ち向かって行った。
 相手が空を飛べることから、レイタも空中を移動できるヨノワールを選んだのだろう。

『今度はキミが相手になるのー?』
『そうさ。そして、君は今動けない。これで倒れるんだね!『ストーンジェム』!』

 大きな口から吐き出されるのは、大量の石の礫だった。
 そして、動けないリザードンにクリーンヒットしていく。

『っう!動けないー!』
『さっき、君はとどめのつもりでオトノに『ブラストバーン』を放ったからね。ヨノワールの『身代わり』で防がせてもらったよ。そして、反動で君は動けない。格好の的だよ』

 岩タイプ属性の攻撃を受けて、リザードンはフラフラになる。
 相当のダメージを与えたようだ。

『むー!『炎の渦』!!』

 螺旋を描いて放つ炎。
 一方のヨノワールは両手を合わせて、力を溜めていた。

『俺の力……見せてあげるよ』

 一見、普通のシャドーボールだった。
 だが、そのシャドーボールの外側には何かの膜が張られていた。
 炎の渦にぶつけると、あっという間にかき消して、リザードンに命中した。

『キャーッ!!』

 そして、リザードンは地面に墜ちた。

『俺の力……すなわち波動の力は技の威力を高める』

 拳に電気の力を纏って、一気にヨノワールは攻めに出た。

『そう簡単には……攻めさせないよー!!』

 リザードンは口から煙を吐き出した。
 煙幕だ。
 少しでも相手の視界を奪おうという作戦のようだ。

『そんなの、俺には意味がない』

 目を瞑ったヨノワールがあっという間に煙幕を抜けだした。

『むー!『シャドークロー』!!』

 目を瞑ったヨノワールの打ち出す『かみなりパンチ』と力を振り絞って黒い爪を振るうリザードン。
 二つの力が激突した。

『くー!!』
『っ!!』

 2つの攻撃が交錯した。
 そして、共に背中を向けて、次の技を繰り出そうと振り返る。

『やー!』

 リザードンは2回目もシャドークローだ。
 しかも、明らかにタイミングはリザードンの方が早かった。
 攻撃が命中する……

 バキッ!

『はひっ!?』

 当たる寸前に、体が仰け反らされたリザードン。
 体勢を崩されて、攻撃を当てる事が叶わなかった。
 ヨノワールの『影討ち』だ。

『墜ちるんだね!!』
『むーっ!!』

 ズドンッ!! バリバリッ!!

 リザードンにかみなりパンチがクリーンヒットした。
 力を込めて、思いっきりふっとばし、木にぶつけてダウンさせた。
 さらに、その木に乗っていた雪がドサッと落ちて、リザードンを雪に埋めてしまった。

『目になんか頼らなくても、波動の力で相手の居場所なんか簡単にわかるんだよ。俺には煙幕は効かない』
「そうだったんだー……危なかったー」
『(……!)』

 拳のすぐ下でウェイトレスの格好のベリーがしゃがみこんでいた。

『(間一髪でシンクロを解いたんだ!?)』
「ピンチのあとにチャンス有りーってねー♪」

 ベリーが繰り出したのは、オオスバメだ。
 シンクロして、ヨノワールの懐から一気に風で吹き飛ばす。

『ぐっ……!』

 ダメージはそれほど受けてないが、体勢を崩した。
 そこへ大きく翼を広げた捨て身の大技がクリーンヒットする。
 『ブレイブバード』だ。

『ぐっ! きつい一撃だね……でも、これなら……!!『ストーンジェム』!!』

 地面で体勢を立て直したヨノワールが放つ岩の礫。
 だが、攻撃は当たらない。
 素早いスピードでいとも簡単にかわされてしまう。

『『ブレイブバード』!!』
『突っ込んでくるなら、この一撃で決めるよ!『目覚めるパワー』!』

 波動の力を付加したエネルギー体を放つヨノワール。

『……!』

 それを見たオオスバメは、その場でストップして、片翼を羽ばたいた。

『(弾かれた!?)』

 目覚めるパワーを弾き返し、攻撃がヨノワールに命中する。

『ぐぅっ!!』

 自身の強力な攻撃を受けて、地面に手をつくヨノワール。
 しかも、それだけでは止まらなかった。

『下を向いてちゃダメだよー!』

 ズドンッ!!

 さらに、ブレイブバードの追い討ちが決まって、ヨノワールは地面をゴロゴロと転がっていった。
 転がったせいで雪が体に纏わりつき、手が出せない状態になってしまった。

『……っぅ……しまった……』
『次の『ゴットバード』で決めるよ?』

 そういって、力を蓄え始めるオオスバメ。

『(油断した……現実的に……。ラグナになんてついていくべきではなかったね……)』

 覚悟を決めたレイタ。
 勝負はすでに決まったとかと思われた。

『…………!!』

 しかし、次の瞬間、レイタはハッとした。

『なんだこの気配は……?』

 気になる方向を見てみると、1人の男と一匹のポケモンが立っていた。
 男の傍らにいたポケモンは、『瞑想』をしていたようだが、技を止めて目を見開いた。

「レイタ、遊んでて悪かったな!こっからは、俺がやってやるぜ!」
『ラグナ!?』

 シンクロパスを片手に持ち、そして、傍らのポケモン……ピクシーに触れた。

『キミー、また戦うの?』

 オオスバメはそんなラグナを馬鹿にしていた。
 自分に勝てるはずがないと。

『戦うならやってあげるよー?でも待っててねー。このヨノワールを倒してから相手になるからー』

 そして、ゴッドバードの攻撃がヨノワールに向かっていく。

『行くぜっ!この『アンリミテッドブレイク』で!』

 ピクシーは指を天に掲げた。
 するとどうしたことだろうか。

『あれっ?』

 オオスバメの進路が自身の意思とは関係なく、急に向きを変えてピクシーの方へと向かっていったのである。

『(『このゆびとまれ』……か。でも……)』

 レイタは冷静に分析して、ラグナがこのあとをどうするかを見ようとしていた。

『まーいいやー!このままキミに『ゴッドバード』!!』

 ピクシーに向かっていくその技は火の鳥の如く勢いだ。
 まるで本当に炎属性の力を持った技のように、オオスバメは地面スレスレに飛び、雪を溶かしながら、突撃技を炸裂させようとする。

『真っ向から勝負してやるぜっ!!』

 バギャズドンッ!!

『ぐっ!!』
「ラグナー!!」

 動けないレイタと避難していたオトノは凄まじい衝撃に何が起きたか一瞬わからなかった。

「……え?これは……?」

 2匹がぶつかった地点を見ても、誰もいなかった。

『『大文字』!!』

 ぶつかった地点の後方から、ピクシーの強烈な炎攻撃が放たれた。

『そんな技、返してあげるよ!『エアクロール』!!』

 翼をブワッと羽ばたいて、攻撃を弾き返す技『エアクロール』。
 これによって返せない技は今のところなかった。
 だが……

『っ!!な、何この威力!?キャッー!!』

 エアクロールは確かに発動した。
 しかし、180度Uターンで返すことができなかった。
 Uターンが180度だとすると、今エアクロールで曲げたのは、20度程度だろう。

『どうやら、そのエアクロールにも限界があるようだな!』

 ベリーは信じられないような目をしている。

『まさか……この風のベールを突き破るなんてー……』
『なんだ?ショックだったか?』
『このエアクロールが破られたのは、今までに8回くらいしかなかったんだよー!』
『いや、結構破られてるんじゃねぇか(汗)』

 なんとも言えずにツッコミを入れるラグナ。

『でも、こんなにきっちりと破られたのは2回目……。こうなったら、全力で行くよ!』

 オオスバメがシュンッと消えた。

『(スピードの撹乱か?)……しかし、わりぃけど、もう自由には飛ばせねぇよ!『重力』!』
『!?』

 上から下へ押しつぶそうとする力を発生させる。
 ダメージを与えることはできないが、飛んでいるポケモンを地面に落とす技である。

『そんなのどうってことないよー!』
『なっ!?』

 しかし、オオスバメは低空ながらも空を飛び上がる。
 そして、燕返しで急襲する。
 両手でガードをするものの、攻撃の勢いで弾き飛ばされる。

『(こいつは一気に片付けねぇと厄介だ!)こいつでどうだ!『サイコグラビティ』!!』

 飛ぶことができると言っても、オオスバメはピクシーの射程圏内の場所を飛んでいた。
 そして、ラグナが繰り出したこの技は、『重力』よりもさらにきつい重力系の攻撃技。
 ある一定の視界に生じる強烈な重力は、相手を地面へと叩きつける。

『オラッ!!』

 ズドンッ!!!!

 オオスバメを一気に叩き落した。

『つぅ……まだまだだよー……』
『いや、これで終わりだっ!』

 オオスバメの目に飛び込んできたのは、ピクシーの拳だった。

『どりゃあっ!!』

 止めの一撃。
 殴り飛ばすこの攻撃でオオスバメは、雪の乗る林を抜けて見事に打っ飛んで行った。
 そして、最後に少し遠くでズドンッと言う音がしたのだった。

「ふぅ……勝てたな」

 ラグナはシンクロを解いて、息をついた。

「ラグナー……大丈夫?」
「いや、オトノこそ大丈夫かよ?ふらふらだぜ?」
「あたしはだいじょ……あっ……」

 不意に足元の雪に取られて、体がぐらりと倒れようとするオトノ。

 ガッ

「あんまり大丈夫とは言えなさそうだな」
「え?あ……ちょ、ラグナ……」

 自分の顔を思いっきりラグナの胸に押し付けてしまっていたオトノ。
 まるで、自分から抱きついてしまったかのような体勢になってしまっていた。

「さて、これからどうするか……?」

 オトノの両肩を掴んで、自分の胸から引き離しながら、ラグナは眉間にしわを寄せて、次の行動を考える。

「なぁ、オトノ、てめぇはどうすればいいと…………!」

 ビシ バシ

「……うっ!!」

 オトノの往復ビンタが炸裂した。

「な、何すんだよ!」
「い、いや、だって……」

 ラグナに背を向けてしゃがみこんでいるオトノ。

「(両肩を掴まれて、見つめられたら…………。…………。顔がちょっと赤くなっているのを見られたら恥ずかしいじゃない…………)」

 実際にはちょっとどころではなく、顔が真っ赤になっている。

「レイタが見ていたらどうするのよ!」
「いや、あいつは関係ねぇだろ。……ん?」

 ラグナがキョロキョロと辺りを見回しているのを見て、オトノも同じ動きをした。
 そして、ラグナの疑問に思ったことをオトノは口に発した。

「レイタはどこへ行ったんだろう?」



「……いたたー……油断しちゃったよー……」

 ラグナとシンクロしたピクシーに殴り飛ばされて、オオスバメは最終的に木に激突した。
 その際に、シンクロが解けたようだ。
 彼女がシンクロしていたオオスバメは、隣でぐったりと倒れていた。

「まさか、あの人たちがそこまでできるとは思わなかったなー。とりあえず、一度本部に戻ろうかなー……。ハレの討伐はバニラが果たしてくれるだろうしー」

 オオスバメをモンスターボールに戻しつつ立ち上がろうとするベリー。
 しかし、ダメージがかなり蓄積しているようで、木に寄りかかってゆっくりとした調子で歩き始めた。

「ははは……これじゃ、減給かなー……。今月のご飯が少なくなっちゃうかなー……」

 しみじみと空を見ながら、ベリーは呟いた。
 そんな時だった。

「がっ!!」

 何か強い力がベリーの首を絞めあげるように、木に押し付けたのである。

「な、何をするんだよー……」
「何をだって?そんなの決まっているだろう?」

 そこにいたのは、先ほど彼女と戦っていた赤い長髪の男……レイタだった。

「弱っている君に止めを刺しに来たんだよ」
「……っ!!」

 ベリーはゴクリと息を呑んだ。
 この男が本気でそういうことを言っていると思ったからである。

「私に止めを刺したところで……マイク・コンテストの戦況は……変わらないと思う……よー……?」
「別に君だけを消すわけじゃない。俺はマイデュ・コンセルデラルミーラの連中を全て消し去るんだ。現実的に忌々しいあの連中をね」

 その言葉を聞いて、ベリーは苦しみながらも笑う。
 それを見て、よりいっそう首を強く握る。

「何がおかしいんだよ?」
「キミの力じゃ……無理だよ……大幹部や頂点<ボス>はもっと強い……」
「言いたいことはそれだけだね?」

 そして、レイタは懐からサバイバルナイフを取り出したのだった…………



 ……もっと……お腹一杯ご飯が食べたかったよー…………



 ベリーとのバトルが終わってだいぶ時が経った。
 もう日が沈んで夜になっている。

「シノブを探さなくて本当に良かったのかよ?」

 切り株の椅子に座って、ラグナは鍋をかき混ぜている女の子に向かって言う。

「シノブは大丈夫よ。彼女はあたしよりも強いもの」

 その言葉を聞いて、彼女の隣でふっと笑った存在があった。

「何がおかしいのよ!?」
「別に」
「それよりも、つまみ食いをしないでよ!」

 その男……レイタはスプーンを持ってきて鍋に手を突っ込んでいた。

「うーん。現実的に物足りないね。ヨーグルトとリンゴとアボガドとハチミツは入れた?」

 そう言われて唸るオトノ。

「……あー……ゴメン。ヨーグルトだけ買い忘れてた……。でもヨーグルトはないけどヤク○ト<乳酸菌飲料>ならあるよ」
「じゃ、それで大丈夫だね」
「ってか、てめぇら、いったい何を作るつもりだ!?」
「さぁ?それはオトノに聞いてみたら?」

 レイタにそう言われて、オトノに詰め寄るラグナ。

―――「何がおかしいのよ!?」―――

 先ほどオトノに聞かれた言葉を思い返すレイタ。

「(心配しているのが見え見えだよ。本当は一刻も早く助けに行きたいくせに)」

 そう嘲っていたが、口論をしている二人を見たとき、レイタの考えは少し変わった。

「(ラグナか。あいつが彼女の支えってわけか)」

 すると、オトノがフライパンでラグナの頭を叩いた。
 それに怒ったラグナがオトノの胸倉を掴み、睨み付ける。

「(ラグナのことは知らないけど、どうやら……オトノはラグナのことが好きみたいだな)」

 そう思ったレイタだが、一瞬で冷めたような顔をした。

「(そんないたわりの感情や愛情なんて……理解できないけどね)」

 胸倉を掴んだラグナだったが、その伸びたTシャツから、不意に下を覗き込んでいた。
 オトノはそれに気がついて、もう一回フライパンで殴り飛ばした。
 今度はクリーンヒットして、地面に倒れたラグナ。
 真っ赤な顔でオトノは息を荒くしていた。

「(ラグナは子供か?)」

 そして、不意に腹を抑えるレイタ。

「オトノ、そろそろご飯にしようか」
「じゃ、ちょっと待って。今から分けるから」
「待て。そう言えば、ヤ○ルト<乳酸菌飲料>は入れたか?」
「……あ。ゴメン。忘れてた」

 失敗失敗と呟きながら、リュックの中に入っていたそれをドバッと入れるオトノ。

「オトノ……」

 地面にうつ伏せに倒れているラグナは言う。

「てめぇ……何でさらしなんて巻いているんだよ。そんなの巻かなくたっていいだろ」
「う、うるさいわよ!」
「もっと胸をアピールしろよ!俺はな、胸が大きい女が好きだぜ?」
「……っ!」

 そう言われて、オトノは顔を赤くした。
 そのまま、つかつかとラグナに歩み寄ると、思いっきり背中を踏みつけた。
 まるで、アホな牛みたいな悲鳴をあげると、ラグナは気絶したのだった。

「(……違う。奴は子供じゃない。ただの現実的な馬鹿だ)」

 レイタはラグナをそう認識したと言う。



 たった一つの行路 №193
 第三幕 The End of Light and Darkness
 現実主義者のレイタ 終わり



 敵対する二人。繋がる二人。引き裂かれる二人……


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Last-modified: 2015-07-15 (水) 23:04:04
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