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たった一つの行路 №188

/たった一つの行路 №188

 シンオウ地方キッサキシティ。
 そこはシンオウ地方の港の一つであり、また雪が積もる町として有名である。
 地面一面に雪が積もっていて、さらに風が非常に冷たい。

「はぅ~……」

 船から降りたオトノは恥ずかしそうな顔をして俯いていた。

「オトノ殿……大丈夫か?」
「大丈夫……じゃないかも……」

 そして、ぐったり疲れているようにも見えた。
 オトノはあれからカナタの身体検査を受けて、身長、体重、スリーサイズ……などの基本的な項目を調べられた。

「……って、よく考えたら、船長って他にやることないの?(汗)」

 オトノの言うことはもっともで、彼女のスタイルを測っていた以外は、ずっと寝ていたようだった。

「とにかく、今日は宿をとって早く寝るべきじゃな。オトノ殿……早く行こうぞ」
「え?……あれ?でも、なにかを忘れているような……?」

 オトノが腕を組んで首を傾げていると、シノブがその腕を引っ張る。

「大丈夫じゃ。忘れ物などありはせぬ!」
「ううん。大事なものを忘れて…………って、ラグナよっ!!」

 シノブの手を振り切って、慌てて船へと戻っていくオトノ。

「…………」

 その様子をシノブはつまらなさそうに見ていたのだった。



「ラグナ!」

 ベッドの上で、ラグナは目を回していた。
 と言うか、気絶しているようである。

「もう……ラグナったら……」

 ラグナの腕を自分の首に回して、擦り引きながら船をあとにしようとする。

「おっ!オトノ!まだ残っていたのか?」
「カナタさん……って、その片手にあるものはなんですか?」
「見ればわかるだろ!仕事明けの一杯だ!」

 その片手に持っている缶にはでかでかと“ビール”とかかれている。

「(まわりで部下が掃除しているのに、いいのかな……?)」

 この船は大丈夫なのか?と本気で思ったオトノであった。

「ところで、そっちの男は、もしかして、オトノの“コレ”か?」
「“コレ”って表現はなんか違う気がしますけど……って、違うよ!!そ、そんなんじゃないよ!」
「ふうん……」

 カナタはニヤニヤとオトノを見ていた。

「96、53、88」
「うっ!?」

 そして、耳元でカナタは囁く。

「あんたほどの身体を持っていれば、男をオトすなんて簡単なもんよ」
「~~っ!!」

 オトノは顔を真っ赤にして、可愛く唸った。

「ところで、そいつは大丈夫なのか?ずっと、気絶しているみたいだがよ」
「乗り物に弱いんだって。出港した時からずっとこんな調子だったの」
「軟弱だな」
「だから、もう行きます」
「そうか……。じゃあ、オトノ、がんばれよ」
「はい。ラグナ、行くよ」

 そうして、オトノはラグナを引っ張って、ウィッチャークック号を後にしたのだった。



「(……ラグナ?)」

 オトノが去って行った後、グイッと片手の缶ビールを一気に飲み干した。

「(同じ名前の奴って意外といるもんだな)」

 そして、ポイッと投げ捨てると、見事にゴミ箱に入った。

「よーし!お前ら!飲みに行くぞー!」
“って、せんちょー!掃除手伝ってくださいってば!片付きませんよ!”
「それなら、半分は私に付き合って酒場へ!キッサキ名物、雪焼酎が飲みたいんだよ!とにかく、半分は掃除な!じゃあ、レッツゴー!」
“せんちょー!!だから、待ってくださいってば!そのまま行ったら……”

 カナタが船から降りて、陸に着地したそのときだった。

「う……バランス感覚がおかしい……ふらふらする……」
“カナタ船長が陸酔いしている!!”
“誰か、船長に酒を!!”

 この日も、カナタは酔っ払って、トレーナーに絡んだのだという……。



 ―――次の日。

「で、これからどうするんだ?」
「ええと……」

 オトノは腕を組んだ。

「どうしよう……」
「どうしようって、お前な……」

 ラグナはため息をついた。

「ちゃんと予定を考えておけよな!」
「ゴメン……」
「貴様……オトノ殿にだけ責任を押し付けると言うのか!?」
「シノブ、てめぇは黙ってろ!」
「黙ってろとはなんだ!貴様なぞ、リニアの時もウィッチャークック号のときも寝込みおって……全く役に立たなかったじゃろ!」
「う、うるせぇ!」
「2人とも、ケンカはやめて!」

 オトノの一喝に2人は押し黙る。

「とにかくシンオウ地方に行こうと言ったのはあたし。でも、マイコンのアジトがどこにあるか、あたしにはわからないの」
「そうか」

 ラグナは立ち上がった。

「と言うことは、アジト探しから始まるってワケか。……まずは大きい町へ行ってみっか」

 そして、オトノの頭に軽く手を置いた。

「怒鳴っちまってわりぃ」
「ううん」

 オトノは目を瞑って首を横に振った。
 そして、やや照れた様子でラグナを見つめた。

「そうと決まれば膳は急げじゃ。ここもいつマイコンが攻めてくるやもわからぬ」
「シンオウじゃ、マイコンの侵攻状況はどうなってんだ?」
「さっき、町を見回った限りでは、キッサキシティは大丈夫みたいだけど……」
「とりあえず、さっさと町を出ようぜ」



 3人はキッサキシティを南下して行く。
 しかし、彼らの前に立ちはだかるのは自然の厳しさだった。
 轟々と吹雪が3人を飲み込まんと吹き付ける。

「オトノ殿、大丈夫か!?」
「う……うん……平気よっ!!」

 シノブの掴む手を振り払って、オトノはザクザクと足を進めていく。
 言葉では強がっているが、オトノは実際のところかなり無理をしていた。
 この吹雪に全く適応できていないみたいで、今でも凍えて眠ってしまいそうな顔をしていたのである。

「オトノ、無理すんじゃねぇぞ?」
「無理なんか……してないってばっ!」

 むにっ

「っ!!」

 片手で両頬を掴まれて、目を見開いた。

「なら、もっとハキハキしてろっ!元気じゃないてめぇなんてオトノじゃねぇよ!」
「(……ラグナ……)」

 優しくラグナの手を払って、オトノは足をさらに進める。

「あたしがいつハキハキしてないって?いつもあたしは元気凛々よ!」
「…………。なら問題ねぇ」
「ラグナ」

 少々元気になったオトノを先に進ませて、シノブが声をかける。

「貴様、かなりこの雪の気候に慣れているようじゃな」
「まぁな。俺はこのシンオウ地方出身で雪道や寒いのには慣れてっかんな。そういうてめぇも寒さは平気そうだな」
「鍛えておるからの」
「侍だから、当たり前か……って、大丈夫か!?」

 前方でオトノが雪に足を取られてこけた。
 それを見て慌ててラグナは起こしにいく。

「(平気そうに見えるか……。これでも、貴様とオトノ殿の手前、かなり無理しておるのじゃがな)」

 ラグナがオトノを引っ張りあげるが、ラグナも雪に足をとられてこけてしまう。

 ボムッ

「っ!!」
「ん?やわらけぇ」

 柔らかい感触にラグナは顔を委ねていた。
 そのラグナの行動を見て、オトノは一気に顔を真っ赤にさせた。

 バキッ

「ラグナのえっちっ!!」

 もちろん、鉄拳が飛んだ。
 ラグナは宙を舞った後に頭から雪の中にズモッと埋もれてしまった。

「何でこんなことばっかりするのかな!?」

 しかし、今回はワザとではない。

「……オトノ殿……やはり、あの男は始末した方が……」
「う……そこまでしなくても……いいよ……」

 シノブを止めた後、オトノは恥ずかしくなって先に行ってしまった。

「(オトノ殿……もしかして、あの男のことを……)」
「んー……。ぜってぇ、あの胸はなんかで押さえてるよな?前に覗いた時に見たときよりも、ちっちぇえし」

 いつの間にか、ラグナは雪の中から復活して、シノブの隣に立っていた。

「貴様……今度、オトノ殿に触れたらただじゃ済まさんぞ!」
「だから、てめぇはオトノのなんなんだよ……」

 呆れて首を振るラグナ。

「少なくとも、あたいは貴様からオトノ殿を守る者じゃ!」

 そういって、オトノを追いかけて行った。

「ったく、わけわかんねぇ奴だぜ」



 吹雪は強くなる一方だった。
 前方は全く見えず、視界は完全に遮られた。
 そんな中、3人は必死に足を前に出して先に進んでいく。

「とりあえず、トバリシティかハクタイシティに行くためにテンガン山を経由しないとな」
「そう……考える……と……ハクタイシティ……が……一番…近いよ……ね……」
「オトノ殿……大丈夫か!?」
「平気…………!!」 「!?」 「!」

 そして、3人は同時に気配を察した。
 こちらに攻撃が向けられていることに。
 ラグナは即座にクチートを繰り出して、その攻撃を防いだ。
 ポケモンを出さなかったシノブは、刀を抜いて、数個の大きな飛び散る氷のつぶてを受け流しきった。
 しかし……

「……ぁっ……」

 ボフッ

「……なっ!?オトノ!?」 「オトノ殿!?」

 後ろを振り向くと、ジュカインとオトノが揃って倒れていた。

「オトノ殿!大丈夫か!?」

 シノブはオトノに触れるが、即座に手を放す。

「冷たっ!半端じゃない冷水を受けてびしょ濡れ……この天候じゃすぐ凍り付いてしまうぞ!」
「ちっ……この攻撃……半端な攻撃じゃねぇ。前方の氷のつぶてはわかったが、オトノを襲った水攻撃が視界が悪すぎるせいでよくわからなかった」
「こうなったら……」
「ああ……」

 シノブとラグナは同じことを思い、シンクロパスを取り出した。
 同時にシノブは刀を地面に差してニドクインを繰り出した。

『『メタルボール』!』
『『真空波・一閃』!』

 偽りの口から放つ金属砲弾と風鋼丸の切っ先から飛び出す一閃の斬撃。
 とにかく四方八方に飛ばして、攻撃を当てようとする。
 しかし、まったく手応えはなかった。

『このままでは埒が明かない。あたいが飛び出すから、ラグナ……貴様が後方で援護するんじゃ!』

 そして、ニドクインが前方へと進んでいく。

『待て!シノブっ!!』

 ボガンッ!!

 一回の爆発音が聞こえた。
 相当な威力であったため、その場所だけ吹雪が一瞬だけ止んだ。

『マジかよ……?』

 そこで見えたのは、シンクロが解けて体を凍らせられたシノブの姿だった。

『(地面に仕掛けられた氷爆弾のトラップか!?他にどこに仕掛けられているかわからねぇぞ……)』

 冷静に辺りを見回して、シノブに接近して炎のキバの熱で氷を溶かしてやる。

“次は君の番だ”
『っ!!』

 吹雪の中から聞こえてくる声に、ラグナは警戒をいっそう強めた。

『(相手は1人か?それとも複数か?それに何を仕掛けてくる?氷属性と水属性……あとさっきの氷の爆発……属性は大体わかった。だが、この天候じゃ拉致があかねぇ!)』

 対抗策は思いついていた。
 だが……

『(天候を変えられる技も持ってねぇし、この天候に適応できるポケモンも持ってねぇ……駄目だ。ここは逃げるしか手はねぇ)』

 条件が悪いときにわざわざ相手にすることはない。
 最近、1人対複数で戦ったときにそう思ったことだ。
 1対1で戦っていけばいいと。
 しかし、今回はそんなわけには行かなかった。

『(オトノとシノブ……こんなところに置いて行ったら、間違いなく凍え死んじまう……。そのためにはやっぱり……)』

 ラグナは気合を入れて自分の頬を叩いた。
 そして、『鉄壁』を自分にかけて防御力を高める。

『かかって来いよ!誰だか知らねぇが、こそこそ攻撃していたぶるのが好きなのか?趣味がわりぃ野郎だぜ!男なら正々堂々正面から来やがれ!』
“…………”
『オラ、どうした!?俺はここだぜ!!』

 挑発して、相手を引っ張り出す作戦だ。
 こんな方法でしか、もはや相手を倒す策はないようだ。

“『水柱』、『エアブレイク』、『来電』、『冷凍ビーム』”
『なっ!!』

 予想もしなかった怒涛の連続攻撃。
 攻撃は一つも避けられなかった。
 下から突き上げられる数本の水の柱に打ち上げられ、上空からの風を纏った強烈なタックルを受け、数本の雷をまともに浴びた。
 さらには桁違いの冷凍光線で打ち抜かれた。

『ぐっ…… (なんだこれ……聞こえてくる声は一つなのに……すべてシンクロをしたような威力の技を繰り出してきやがる……。シンクロしていない状態のポケモンの技なら、クチートの『鉄壁』で受けきれるのに……一体何者だ!?)』
“望みどおり、正々堂々と攻撃してやるよ。とどめだ!『ボルテッカー』!!”

 前方から迸る電気を纏った一匹のネズミポケモンが向かってきた。
 その一撃がラグナ=クチートを捉える。

『ちぃっ!うぉぉっ!!『マウスバッド』!!』

 ズドッ!!!! ゴンッ!!!! バリバリバリバリ!!!!

“!!”

 結果だけを言うと、ラグナは相手のボルテッカーを打ち破った。
 そして、技を放ったポケモン……ピカチュウは転々と転がっていき、雪に埋もれた。

『はぁはぁ……』
“『ウォーターライフル』”
『っ!!』

 ピストルの弾のように回転を加えた水攻撃がクチートを打ち抜いた。

『がはっ!!』

 打っ飛ばされたとき、ラグナとクチートのシンクロが解けて、ラグナは雪原に沈んだ。

“よし。撃破だな”

 モンスターボールにポケモンが回収された音が響く。

“でも、まさか、ピカチュウが倒されると思わなかった……。この男……ここで倒しておいてよかった”

 そして、飛行ポケモンのデリバードに乗って、強烈な吹雪の中、ダークグリーンの髪をした男はその場から去って行ったのだった。



 ラグナ、オトノ、シノブ……彼らは謎の男の襲撃を受けて倒された。
 このまま、3人はドンドン雪に埋もれて行った。

 ざっ

 そのまま凍え死ぬと思われたところ、3人を雪から引っ張り上げる奴がいた。

「…………」

 黙ったまま、その人物はオトノとシノブを見た後、ラグナを黙って見つめる。

「…………」

 そして、不敵に男は笑った。

「なんだ、勝てると思っていたのに。たいしたことなかったね」

 その声を聞いて、ぴくっと手が動いた。
 ラグナの手である。

「なんだよ、まだ生きていたのか」

 嘲笑うかのように男は言った。

「助かりたいのか?無駄なことを……。もし助かったとしても、苦しむことになるんだ。何故そこまで生きようとする?」

 ラグナの手が握り締められる。

「俺が助けてやっても、苦しむだけだ。苦しむなら、そのままくたばっちまえ。下手に助かるよりはいいだろ?」

 そういって、魔法使いが被るトンガリ帽子を被った男は去っていったのだった……



 たった一つの行路 №188
 第三幕 The End of Light and Darkness
 シンオウ地方の厳しき雪原 終わり



 現実主義者<リアリスト>は淡い希望を抱かない。冷静かつ冷酷に自分のやるべきことを実行する。


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Last-modified: 2015-07-05 (日) 21:07:32
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