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たった一つの行路 №185

/たった一つの行路 №185

「ちげぇっての!俺はマイコンのメンバーじゃねぇって言ってんだろ!!」

 ここはヤマブキシティ。マイデュ・コンセルデラルミーラのレジスタンスのヤマブキ本部。
 その取調室で尋問を受けていたのは、不良っぽい男、ラグナだった。

「そんな言い訳が通用すると思っているのか?」

 煙草を吸いながら、かっしりとした帽子を被った女はキッと睨んで言う。

「今、コガネシティはマイコンに襲われて壊滅に追い込まれていると言う。いや、もしかしたら壊滅してしまったかもしれない。そんな状態の中、マイコンがリニアで逃げようとする者を逃すはずはない」
「奴らがどうあろうが俺は知らねぇ!第一、ステーションはかなり手薄だったぜ!それで、仲間と一緒に乗り込んだんだよ!」
「仲間?仲間がいるのか? まさか……ヤマブキシティを偵察しているのか!?くそっ……すぐにマイコンと思しき人物を探せ!」
“ハッ!!隊長!!”

 部屋で書記をしていた男が命令に従って部屋を出て行った。

「仲間は何人だ?」
「話、聞いてんのか?俺はマイコンじぇねぇ!」
「じゃあ、何故シンクロパスを持っていた?」

 隊長と呼ばれている女は、懐からパスを取り出した。
 それを見て、ラグナは懐に手を入れる。

「(ない)」
「これは、お前の持っていたシンクロパスだ。非売品であるこれを持っている事がマイコンである何よりの証拠だろ!?」
「ちげぇよ!そいつはある女から貰ったんだ!」
「ある女?……どうせ幹部のミントあたりだろ?」
「だから、マイコンじゃねっての!」
「じゃあ、誰か言ってみろ」
「誰が言うか、アホ」
「馬鹿にしているのか、貴様!!」

 机をバンッと叩きつける女隊長。

“隊長ー”
「なんだ?」

 部下に呼ばれて、女隊長は部屋を出て行った。

「(つか、何で俺はこんなところにいるんだよ)」

 記憶がないのも無理はない。
 コガネシティのリニアに乗ってから、ずっと乗り物酔いで気を失っていたのである。
 その状態でマイコンのレジスタント組織に捕えられて、そのまま組織の本部に連れてこられたのである。

「(オトノも捕まってんのか……?)」

 一緒にこちらへ来たはずの女を考えてみる。

「(あいつもマイコンと間違えられてるんだろうな)」

 数十分後。
 ガチャっとドアが開くと、女隊長が現れた。

「もう一度言うぜ。俺はマイコンじゃねぇ。早く解放しやがれ!パスを返しやがれ!」
「そのことはもういい。出ていいぞ」
「え?」

 あっさりと承諾されて、ラグナは拍子抜けだった。

「要らぬ濡れ衣を着せてしまい、すまなかった。許してはくれないか?」
「え?ああ……」

 予想と反して、深々と頭を下げられて困惑するラグナ。 

「わ、わかればいいんだ……わかれば」

 誠意を持って謝る者に対して、責め立てることはできなかった。
 そして、女隊長の後をついていくと、一人の黒いセミロングの女がいた。

「ラグナ!大丈夫?」
「……! (捕まってたんじゃなかったのか) ああ。なんとかな。」

 女はラグナを一目見て安心した顔をすると、女隊長に向き合う。

「お手数をかけました」
「いや。こちらこそとんだ早とちりをしてしまい、申し訳ない」
「仕方がありませんよ。ジョウト地方は今激戦区なんですから」
「…………」

 そういうと、女隊長は黙り込んでしまった。

「じゃあ、あたしたち、もう行きますね。ラグナ、行こう!シノブが待っているよ?」
「あ゛?シノブって誰だ?」

 笑顔で彼女は走り出し、ラグナはその後を追っていった。

“隊長!何故あの男を逃がしたんですか!?あの女のせいですか?あの女もマイコンの仲間じゃないんですか?”
「それはない」

 キッパリと女隊長は否定した。

“何故?隊長……あの女は何者なんですか?あの女を知っているんですか?”
「知らないのか?」
“あんなかわいさと美しさを兼ね揃えた女、知りませんよ。アイドルでもないみたいだし……”

 部下に聞かれて、隊長は口に煙草を咥える。

「ポケモン図鑑のIDを確認して、正直驚いたよ」
“ポケモン図鑑……”
「お前はサクノと言う女性を知っているか?」
“……え!?サクノってあのサクノ!?”
「そうだ」

 深く隊長は頷く。

「さっきの女の子は……その娘だ」
“……っ!! マジっスか!?”

 部下は去っていった女の子の後姿を見る。

“ど、どおりですごい美人だったわけだ……”
「今、サクノは行方不明と聞く。それを聞いて黙っていられなくなったのかもな」
“サクノが行方不明?まさか、マイコンの奴らのせいで…………?”

 隊長も女とラグナの姿を見た。

「彼女が希望の光を灯してくれる。私はそう思うんだ」



 いつも腰に携えている二つの刀を右手に掴み、彼女はあぐらをかいていた。
 傍から見たら精神統一をしているように見える。
 何せ、袴に草履という姿であり、誰がどう見ても、彼女は昔ながらの侍に見えていた。

「シノブ、お待たせー」

 名前を呼ばれて、ぴくっと身体を動かすシノブ。
 目を開けて、自分の名を呼んだ者を見る。

「用事は終えたのか?」
「うん。終わったよ」
「……オトノ、そんなに急ぐな!」

 オトノのペースに付き合って走ってきたラグナは少々息を切らしていた。

「そんな急ぐ必要があったのか?」
「別に。必要はなかったよ?」
「じゃ、何で走ったんだよ?」
「うーん。特に意味はないよ。でも、あたしは楽しかったよ」

 笑顔を見せるオトノ。

「そうかよ」

 苦笑いをするラグナ。

「…………」

 そして、微妙に不機嫌そうなシノブ。

「貴様がラグナか」
「うん?」

 今気付いたように、ラグナはシノブを見る。

「(……刀?剣士?) ……そうだけど、なんだ?」

 ジロジロとシノブはラグナを見る。
 まるで値踏みするかのように。

「なんだよ」

 その目に不快感を明らかにするラグナ。

「オトノ殿に手を出したら、あたいが容赦なく切り捨てる!」
「……うるせぇ。“手を出す”ってなんだ、“手を出す”って」
「“手を出す”は“手を出す”じゃ」
「オイ、オトノ!コイツはいったいなんだよ!」
「へ?」

 何故か赤面しているオトノ。
 その上にいきなり話を振られて、本当に驚いたようだ。

「何ぼけっとしてやがんだ?」
「べ、別に!シノブはね、キキョウシティの郊外で倒れているところを助けたことがあるの。そこからの付き合いよ」
「そう。オトノ殿のご恩は一生忘れはせんのじゃ。だから、あたいはオトノ殿をあらゆる災厄から護るのじゃ!」

 すると、シノブはボソッとラグナの耳元で呟く。

「そして、貴様からもな」
「…………(汗)」

 押し殺した声を出すシノブ。
 どうやら、本気のようだ。

「時にオトノ殿。手筈どおりに行くのじゃな?」
「ええ。その通りに行くわよ」
「手筈どおりってなんだ?」

 改めて、オトノはラグナにさらりと簡単に計画を話した。

「シンオウ地方か……。何でマイコンは本拠地をシンオウ地方に置いたんだ?」
「え?」
「普通、一番核になるヤマブキシティに置くはずじゃねぇか?」
「それは……」
「貴様、アホじゃな」
「あ゛?」

 シノブに言われてカチンと来るラグナ。

「ヤマブキシティには、カントーでもっとも強固な警察が居て、さらにさっきの迷彩服のマイコンのレジスタント集団もおる。もしこんなところに拠点を置いたら、いくらマイコンの奴らが強かろうともただでは済まん」
「シノブの言うことも一理あるね」
「そうか?」

 ラグナは首を傾げる。

「何か理由があるんじゃねぇかと思うんだがよ」
「貴様の考えすぎじゃ」
「(ラグナの考えも一理あると思うけど……)」
「……考えすぎならいいけどよ……」



 現在、ヤマブキシティのラグナ、オトノ、シノブ。
 まだここにはマイコンの勢力の影はないようだった。
 この日は遅かったこともあって、彼らはポケモンセンターに宿をとった。
 そして、次の日に彼らが見たニュースによれば、コガネシティがマイコンのメンバーによって壊滅させられたという。
 これでジョウト地方は残すところ、ヒワダタウンとフスベシティとワカバタウンだけになってしまった。



「(ノースト地方はまだ襲われてねぇみたいだな。ユウナたちは大丈夫なのか?)」

 ポケッチで連絡を取ろうとするが、相変わらず繋がらない。

「ラグナ。誰に連絡を取ろうとしているわからないけど、連絡通信機器は使えないよ?」
「何でだ?」
「マイコンが世界全体に電波機器を狂わせる何かを流しているって言っていたの」
「しっかし……」

 ラグナは周りを見て、腕をぶんぶん回して言う。

「クチバシティはまだかぁ?」
「アホか。そう簡単に着くわけがなかろう」
「歩いていくのは久しぶりだったからよ。あぁーエアローバイクがあればなぁ」
「エアローバイク?何それ?」

 オトノが横から尋ねる。

「高性能のホバーバイクだ。砂漠でも湖でも好きなところを走ることができる」
「確かにそれがあったら便利よね」
「ラグナ、無いもの強請りなど、みっともないだけじゃ」
「うるせぇ。てか、何でてめぇは俺にばっかり突っ掛かるんだ!?」

 いつの間にか、シノブはオトノとラグナの間に割って話に加わっていた。

「あたいは貴様を信用していないからじゃ。いつオトノ殿を襲わんと限らないからな」
「そんなことするか!!」
「ふん。どうだか……」

 ジトリと横目で冷ややかな目をして、シノブは先に歩いていった。

「……ラグナ。シノブは悪気があったわけじゃないよ?……多分」

 ちょっと、ほんわかと赤い表情をしたオトノは言う。

「さぁな。奴は俺のことが嫌いなんだろ?」
「(そうなのかな……?)」

 先に行くシノブとラグナの後姿をオトノは黙ってみていた。

「しっかし、トレーナーの一人も居ねぇし……暇だな……」

 そして、ラグナはそう呟いた。



 ―――夜。
 流石に一日でクチバシティにたどり着くのは無理で、ラグナたちは湖の近くの森の中で野宿をすることになった。

「……オトノ?今日は大丈夫だろうな?」
「大丈夫よ!そう何度も失敗なんかしないんだから!」

 そういって、鍋をかき混ぜるオトノ。
 一方のシノブは立って精神を統一させていた。
 そして……

「行くぞ、一文丸<いちもんまる>!!」

 目をカッと開いて、次々とジャガイモ、タマネギ、ニンジンを投げていく。
 そして、右腰にある刀を左手で抜いた。

「『仏汰斬<ぶったぎり>』!! 『銀杏斬<いちょうぎり>』!! 『半月斬<はんげつぎり>』!! 『千斬<せんぎり>』!!」

 スパンッ!! スパパパパンッ!!

 それはもう見事としか言いようのない包丁捌きだった。
 あっという間に、ジャガイモを一口サイズの大きさに、タマネギをバラバラに、ニンジンを千切りにしてしまった。

「ちょ、シノブ!ニンジンは千切りじゃなくて、縦に切っちゃって良かったのに……」
「な……申し訳ない……」
「食べられないわけじゃないからいいけど……」

 そういって、シノブの斬った野菜をドバドバと鍋の中に材料を入れていった。

「オトノ殿の料理かぁ。久しぶりじゃの」
「てめぇも食べたことあるのか?」

 調理をオトノに任せて、ラグナとシノブは隣同士に座っていた。

「あれは忘れもしない……。おいしいお結びとサンドイッチをご馳走になった。あの味は忘れられないのじゃ」
「…………」
「どうした?」
「……いや……なんでもない……」

 どこかラグナは顔色が悪そうだ。

「お待たせー!」

 そういうと、トンッと皿によそわれたシチューが出てきた。

「美味しそうじゃ。では、頂く」
「召し上がれ♪」

 オトノは2人が口につけるのを心待ちにしていた。

「って……オイ」

 しかし、ラグナは異議を唱えた。

「確か、オトノ……シチューって言ってたよな?」
「そうよ?」

 オトノは素直に頷く。

「これ……本当にシチューか?」
「何を言っておる。オトノがシチューと言った物はすべてシチューじゃ」
「てめぇは黙れ」

 ラグナが文句を言うのももっとも。
 なぜなら、そのシチューはシチューと言えるとろみが全くなく、ただの汁物だったのだ。

「シチューだけど…………ん…………?」

 3秒の沈黙。

「!!」

 そして、オトノの驚き。

「ゴメン……シチューのルーを入れるの忘れてた……」
「塩とか胡椒ならまだしも、シチューのルーを忘れるか!?」
「忘れちゃったんだから仕方が無いでしょ!!」
「逆ギレするなよ!」
「キレてないよ!!」

 睨みあうラグナとオトノ。

「いいよっ!それなら、ラグナは食べなければいいじゃない!」
「そうじゃ。文句があるなら自分で作るんじゃ」
「……てめぇらな……」

 ルーの入ってないシチューをオトノとシノブは啜る。

「(といっても、食べないわけにはいかねぇよな……。腹がもたねぇ。まぁ、前回よりマシか)」

 前回のオトノの料理は、オトノの家でチャーハンを作ろうとしたのだが、米を真っ黒けになるほど炒めてしまった。
 原因は、ラグナと喋ってしまって、フライパンのことをすっかり忘れていたからであるが。

「……ん?意外と美味い?」

 だが、味は良かったらしい。
 そのラグナの言葉にオトノはちょっと機嫌を直したようだった。



 ―――2時間後。

「ふぅー……久しぶりだなぁー」

 周りは木々が覆っており、そして、その中心に水浴びができる水溜りがあった。
 その場所に、全ての服を脱ぎ去った女の子の姿があった。

「タマムシシティに行きたかったけど……マイコンを倒すのが優先だよね……。おばあちゃん、大丈夫かな……?」

 オトノはやや俯きがちに一言呟いたが、次の時には顔を上げた。

「おばあちゃんなら大丈夫だよね。それよりも……」

 身体に水を流し、擦りながらため息をつく。
 ため息の原因である部分を押さえると、ぼんやりと遠くを見る。

「辛いなぁ……流石に抑えるのは良くないかな……? でも、見られるのはヤだし」

 そして、自分でその部分を揉み解すオトノ。
 ちょっと気持ちよくなって、はっとその手を止める。

「……何でこんなに大きくなっちゃったんだろう……」

 自分の胸にコンプレックスを抱くオトノ。
 大きさゆえに、町を歩くと注目されるらしい。
 そのことを知った時から、オトノは自分の胸をさらしで軽く押さえるようにした。

「(シノブが見張ってくれているし、大丈夫だよね)」

 シノブが先に水を浴びるように言ったのだ。
 今、シノブは近くの見えない場所で刀を携えて見張っている。
 これなら、襲われても大丈夫……と、オトノは安心しきっていた。

「(でも、ゆっくりするのは悪いから、早く身体を拭いてシノブと交代しよう……)」

 そう思って、水浴びでついた水を身体中から滴り落としながら、タオルに手を伸ばした時、視線を感じた。
 ふと、後ろを振り返った。

「……え?」
「…………」

 そこに、奴はいた。
 奴を見て、オトノは大きく目を見開いた。
 そして、胸元を隠して、腹話術の人形みたいに口をパクパクとさせていた。

「すげぇな……まさか、オトノがそんな巨乳だとは思わなかったぜ。服の上からではせいぜいDカップくらいかと思ったのにな」
「な、な、ななななななななな……!? み、みみ、見ないでよぉ―――!!」
「何で隠すんだよ?」
「見せたくないから隠すのよぉ―――!!変態!!このっ、へ ん た い!!」
「あ゛?なんで裸を見るのが変態なんだよ?いつからそんなことが決まっているんだ?」
「アダムとイブがエデンの園で神に禁じられたリンゴを食べたときからに決まっているでしょー!!」
「随分具体的な例を挙げているだろうけど、それいつの話だよ。第一アレだ」

 奴は真剣な表情で言った。

「女の裸は、見られるためにあるんだろうがっ!!」
「やーぁーんー」

 オトノはほとんど泣き声に近い。
 背を向けて、オトノは逃げ出した。

「貴様……何をしている?」
「あ゛?……え?……ゲ」

 奴は後ろを振り向いた。
 そのときが奴の最後だった。

 ズバッ!!

 振り向きざまに刀が振り下ろされた。
 “/”のごとく振り下ろされた一太刀は、奴の腹に見事にヒットした。
 そして、その一撃で、奴は吹っ飛び、勢いよく水溜りに沈められた。

「ラグナ……やはりあやつは危険な男じゃった」
「(うぅ……もう、お嫁に行けないよ……)」

 タオルを羽織ってその場に崩れ落ちるオトノ。
 顔から耳元までオクタンに負けないくらい真っ赤に染まっていた。

「…………っ!!」

 不意にシノブは、サッと顔を赤くした。
 そして、慌ててオトノに背を向ける。

「オトノ殿……大丈夫じゃ。あたいがついておる。奴は始末した。これでもう貴女が恥ずかしいと思うことは無い」
「……え?始末って?」
「峰撃ちとはいえ、まともに攻撃に当たったんじゃ。気絶したまま水に沈んで窒息して終わりじゃ」
「えぇ!?そこまですることないじゃない!!」

 そういって、オトノはタオルをばさっと捨てて、再び水溜りに飛び込んだ。

「オトノ殿!!」

 シノブがオトノを制止するが、彼女は全く聞く耳を持たなかった。
 数秒後。
 オトノはラグナを引っ張りあげた。

「ラグナ……大丈夫?ラグナー!!返事をしてよ!」

 頬をパシパシと叩くオトノ。

「あたいの峰討ちを受けたんじゃ。2~3日は寝たきりじゃろう」

 相変わらず、オトノを視界に入れずにそう言うシノブ。

「そんな…………ラグナ……」

 沈んだ顔をするオトノ。

「うぅん……」
「え?」
「何……?」

 パッチリと、ラグナは目を覚ました。

「つぅ……」
「ラグナ!!」
「(何故じゃ? …………。そうか。ラグナの上半身に巻いている“さらし”のせいか?それで威力を抑えたというのか)」

 シノブは冷静に分析しつつ、2人を見ていた。
 だが、何を思ったかシノブはオトノを見た瞬間にその場から走り去ってしまった。

「大丈夫?ラグナ?って、あれ?シノブ!?」
「……うん?あー……オトノか」

 仰向けのラグナはオトノの顔を見てそう言った。
 そして、すぐにその目線は下の方へスライドしていく。

「やっぱ、胸、でけぇな」
「…………っ!!!!」

 タオルは投げ捨ててしまい、オトノは何も羽織っていない。
 再び、ラグナはオトノの裸体をジロジロと視姦する。

「一体何を食ったらそんなに大きぐほっ!!」

 オトノの踏みつけ攻撃!
 ラグナは気絶した!
 オトノは大きく息を吸い込んで叫んだ。

「ラグナの……バカッ―――――――――!!!!」

 こうして、夜は更けていった……



 とある船の一室。
 ぐがーと、豪快ないびきが聞こえてくる。
 どんな男かと思うと、そいつは、大柄な体格を持った者だった。
 鼻から風船を出して、ボリボリとお腹を無意識に掻いていた。

 ドドンッ!!

 そこへ響く衝撃音。
 しかし、そいつは全く目を覚ます気配がなく、眠っている。

 ドドンッ!!

 今度は衝撃音と共に船が揺れた。
 だが、それでも、そいつは起きなかった。

“せ、船長ぉ~!! 起きて下さいよ~!!”

 情けない声を出しながら、一人のセーラー服(水兵服)を着た一人の少年が慌てて飛んできた。
 どうやら寝ている奴とは、その船の船長らしい。

“またマイコンが襲ってきましたよぉ!このままじゃ沈められてしまいますよぉ!!”

 そいつの体を思い切り揺する少年。
 少年の身長は150センチほど。
 10代前半で伸び盛りではあるが、彼とそいつとではかなりの体格の違いがあった。

「ふわぁ……マイコン?」

 やがて、そいつはハンモックからむくりと起き上がった。

“そうなんです!船長、お願いしきゃあ!!”

 そいつは立ち上がって、少年の頭を片手で持ち上げた。
 かなりの腕力だ。
 しかも、身長は少年の30センチほど上乗せしたほどであり、さらにお腹周りと二の腕はがっしりとしていた。

「それくらいのこと、お前たちで何とかしろよ!わざわざ起こすんじゃないの!」
“す、すみません……”

「ったく……仕方が無いな……」

 手を放すと、少年は頭を抑えて、涙目で上を見た。
 そいつはモンスターボールとロープ……そして、シンクロパスを持っていた。

「眠気覚ましに、いっちょ暴れてくっか」

 この船の名前はウィッチャークック号と呼ばれている。
 そのウィッチャークック号が無事にクチバシティにたどり着くのは、この夜から77時間後のことである。



 たった一つの行路 №185
 第三幕 The End of Light and Darkness
 珍道中 終わり



 港町。そこは潮の香りが漂い、荒れ狂う船乗り達が行き交う町。


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Last-modified: 2015-07-01 (水) 23:25:10
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