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たった一つの行路 №183

/たった一つの行路 №183

 銀色の袴を着用し、左腰に長剣、右腰に短剣を装備している彼女は、無愛想ながらも口元を緩めてオトノに言った。

「オトノ殿、久しぶりじゃ」
「本当に久しぶりだね!あの時はいきなりいなくなちゃったから心配したけど!!」
「それは本当にすまないと思っとるんじゃ。じゃが、もう、あたいはオトノ殿の前からいなくなったりはせん」

 優しくオトノに言った後、キッとクロバットとコモルー、そして、ミントを睨みつけた。

「あたいがオトノ殿を仇為す者を片っ端から斬り捨てる!!そして、貴女を守る!!貴様ら、覚悟するんじゃ!!」
『覚悟する?どっちがだ』
『お前一人で俺たちを片付けるだと!?無理に決まってんだろ!!』

 まず、弾けたようにクロバットが飛び出してきた。
 とは言うものの、馬鹿正直にシノブに突っ込んでいくわけではない。
 この狭い列車の中で影分身を繰り出して、惑わしながら襲い掛かってくる。
 シノブの攻撃は刀ということが見てわかる。
 クロバットは一太刀を受けないような戦法を取っているようだ。

『ハハハッ!!お前の剣など、これで絶対当たらない!!』
「そのような下級戦法……あたいには通用せん!」

 シノブは懐からモンスターボールとシンクロパスを取り出した。
 すると、即座にポケモンを繰り出して、一気に攻め立てた。

『なっ!?ぐはっ!!』

 目にも留まらぬ電光石火とはまさにこのこと。
 クロバットは気付いていたら、地面に沈んでいた。

『……『半月斬<はんげつきり>』……』

 残心を残した後、ポツリとシノブもといストライクは技名を言い放った。

『何故だ……?何故攻撃を当てることが出来た……?』

 それは簡単なこと。
 単にシノブのストライクの技が、『ツバメ返し』のように鋭い攻撃で回避が不可能だったから。
 さらにもう一つの要因として、シノブの動体視力が常人と比べて良かったことが挙げられる。

『くっ、相棒!よくも!』
「あなたは下がって!」

 ミントが不意に下っ端の男に指示を出す。
 だが、コモルーは止まらなかった。

『『捨て身タックル』でも喰らえ!!』

 次はコモルーが突進してくる。
 コモルーはストライクよりも大きな身体を持っている。
 防御力の低いストライクでは、恐らく一撃くらいしか耐えることはできないだろう。
 セオリー通りならば……

『なっ!!』

 そう、これこそセオリー通りと言えるだろうか?
 コモルーは呆然とした。
 ストライクがその場から消えたのである。

『どこを見てるんじゃ?こっちじゃ』

 背後に回ったストライク。
 コモルーのスピードではストライクのスピードを捉えきることはできなかった。
 敗因は、相棒の敗北にカッと来て自分から動いてしまったことである。

 ズバッ!!

 ストライクのVの字の一太刀。
 背中を斬られて、コモルーは一撃でダウンした。

『……『銀杏斬<いちょうぎり>』……』

 二人を倒し終えると、シノブは元に戻った。

「すごい……」

 オトノは彼女の強さにただ驚いていた。

「だから、下がってと言ったのにね」

 シノブがストライクの入ったモンスターボールを懐に入れるタイミングで、ミントがそう呟いた。

「次は貴様の番じゃ」

 左腰に差してある刀に手をかけて間合いを計るシノブ。

「ポケモンにはポケモン、人にはその刀で斬ろうって言うのね。心底あなたの刀は息を呑んじゃうわね。さすが『女侍』の称号を持つだけのことはあるわね」
「『女侍』?」
「あら、オトノは知らなかったのね。そのシノブって子は、今世間でも知られている現代に生きる有名な剣士……つまり侍なのよ?」
「世間でも有名……」

 と、オトノはシノブを見る。

「あたいは名声などに興味はない」

 「たが」とシノブは続ける。

「助けてもらった恩義は絶対に忘れはしない。あたいはオトノ殿を助けるんじゃ」

 そう言って、左腰の刀を抜くシノブ。

「ミントとか言いおったな?貴様をこの『風鋼丸』の錆びにしてやる」
「やれるものならやってみるのね。でも、一つだけ忠告してあげるね。あなたの攻撃は私に一つも届くことはないわね」

 シノブがじりじりと草履を履いた足で、少しずつすり足で接近する。
 一方のミントはモンスターボールとシンクロパスを出した。

「(あ)」

 オトノは危うく忘れるところだった。
 二人の戦いはこの狭い車両の中で行われている。
 この場にいるのは、自分の他に、シノブとミント、そして、先ほどシノブが斬り捨てた下っ端二人。
 さらに、もう一人居た。

「ぐぉっぷ……」

 酔いつぶれているラグナである。
 目立たないところで、ラグナはうずくまっている。

「ラグナ、本当に大丈夫?」

 オトノはラグナの脇を持って、ずるずるとお尻を引きずしながら、隣の列車に移動させた。

「これで、ラグナが戦いに巻き込まれる心配はないね。でも、リニアで酔うなんて、どんな神経をしているんだろう?」

 ともかく、シノブを助けるために先ほどの車両に戻るオトノ。

 ズドーンッ!!

「!!」

 大きな音がした。
 嫌な予感がして、急いで戻ってみると、客席が綺麗になくなっていた。

「シノブ!!」

 そして、シノブは地面に這いつくばっていた。

「……大丈夫じゃ……」

 そう言って、刀を突いて難なく立ち上がるシノブ。

『下っ端と同じ実力と見ないことね。私は『甘い光<スウィートライト>』のミント。選ばれし5人の一人なのよね』
「そのような肩書き……あたいの知ったことではない!!」
『そうね。じゃあ、始めましょうか』

 ミントは持っているスプーンに力を込めた。
 すると、スプーンに力がどんどん集まっていく。

『『サイコボール』』

 集まった超能力の塊を高速でシノブに向かって放った。

「なんの!」

 横に飛び退いてかわすシノブ。
 だが、ボールが弾けると、衝撃が巻き起こった。

「なっ!」
「きゃっ!」

 予想外の衝撃にオトノとシノブはよろめいて地面に転ぶ。

『次は『サイケ光線』ね』 

 転んだ隙を逃がしはしない。
 シノブに向って、虹色のビームが放たれる。

「くっ」

 しかしながら、その攻撃を刀で受け止めるシノブ。
 相手との根比べが始まった。

「しかし、その体勢ではあなたの負けは決まっているわね」
「ぐわぁっ!!」

 最終的に刀が弾かれて、サイケ光線がシノブに直撃した。

「シノブ!!」
『次はオトノ、あなたの番ね』
「!!」

 再びミントはスプーンに超能力エネルギーを集中し始めた。
 先ほど自分とシノブを吹っ飛ばした『サイコボール』である。

「そう簡単には行かないわよ!!ジュカイン!」

 ボールを投げて、そして、シンクロパスをかざした。
 オトノ=ジュカインは戦闘態勢に入った。

『シンクロね。でもそんなことしてももう遅いよね』

 サイコボールはエスパーのエネルギーを凝縮して、当たった瞬間に大きく弾ける技。
 例え避けたとしても、弾ける衝撃波で相手に確実にダメージを与える。
 ましてや、オトノの今の位置じゃ、完全にかわすことができないのは明白だった。

『『月舞踊』……』

 両手をあわせて冷静さを保つオトノ。
 そして、相手の攻撃に合わせて、右手を前に差し出した。

 フワッ

 凝縮されたエネルギーは音もなく消えてしまった。

『……攻撃が消えた!?』
『……『無姫<なきひめ>』から『桜舞<おうぶ>』!!』
『それなら、『サイケ光線』!!』

 攻撃の種類を変えて、ビームを繰り出すミント。
 だが、まるでテレポートのような移動術の前に攻撃を当てることができない。

『『リーフブレード』!!』

 ミントの間合いに入り込んだ時、オトノは思いっきり地面を蹴った。
 一撃で決めるつもりだ。

『(させない!!)』

 ガキンッ!!

『っ!!』

 だがしかし、そう簡単には行かなかった。
 ミントは咄嗟に防御手段をとった。
 ほぼ全ての攻撃を防ぐという『まもる』だ。
 オトノはリーフブレードを弾かれて後退させられた。

『(体勢を立て直して……もう一度……)』

 だが……

『『サイコウェーブ』!!』
『!!』

 受身を取って次の行動に入ろうとしたとき、目の前にはミントの持っているスプーンがあった。
 反撃は不可能だった。

『あぁっ!!』

 超能力の波を受けて吹っ飛ぶオトノ。
 衝撃で地面をぶつけて、さらに壁にぶつかった。

『っ……』

 左肩を抑えて、オトノは立ち上がる。

『あら、意外と効いてないのね』
『(咄嗟に『月舞踊:受風<じゅふう>』で攻撃を防御したからミントの攻撃は受けなかったけど、壁にぶつかったダメージは軽減しきれない……)』
『それなら、どんどん行くね』

 ミントがそう宣言すると、右手からはシャドーボール、左手からはエナジーボールを間髪無く投げてくる。
 攻撃をかわすこと自体は大きな問題ではなかった。
 無音の移動手段『桜舞』で攻撃をかわせるし、『無姫』で打ち消すこともできる。
 だが、それは防御だけで接近することが叶わなかった。

『(くっ!!ミントはフーディンを媒体としてシンクロをしているから、接近してリーフブレードを一撃かませば倒せるはず……でも、接近できないんじゃ……)』
『『サイコキネシス』!!』

 ミントの視界に渡る領域に超能力を一気に放つ。
 二種類のボールを捌いているオトノは、その攻撃に気付くのが一足遅かった。

『あうっ!!』

 真正面からの攻撃を受けて、ジュカインは壁にずるずるともたれる。

『シンクロが解けないということは、まだやれるようね。でも、』

 そういうと、ミントは超能力を圧縮したボールをオトノへ放った。

『これで、フィニッシュね』

 オトノは目を瞑った。
 だが、終わりを悟ったわけではなかった。

 フッ

『……まだそんな力が残っていたのね』
『はぁ…はぁ……』

 息を切らしながらも、『月舞踊:無姫』で攻撃を打ち消したのだ。

『でも、もう動けなさそうね。じゃあ、あなたがその防御を出来なくなるまで、攻撃をし続けてあげるね』

 そういって、両手にサイコボールを準備する。

『(……流石に何度もあれを防御することはできないわよ……)』

 冷汗が流れて、本当にマズイと息を呑む。

『さぁ、耐えてみてね!!』

 右手のサイコボールが放たれた。

『くっ……』

 その攻撃は先ほどと同じく無姫で打ち消す。
 だが、オトノは悟った。

『(次の攻撃は無理……間に合わない……)』

 冷静に考えてのことだった。
 オトノは観念した。

『貴様……あたいを忘れては困る』

 やや冷たい女の声がオトノの耳に届いて、目を開かした。

『!!』
『『十字斬<じゅうじぎり>』』

 ガガッ!!

 ミントとすれ違うようにシノブが斬り付けて通り過ぎていった。
 シノブと言っても、今のシノブはカモネギの姿をしていた。
 そうやら、ネギでミントもといフーディンを斬り付けたようである。
 そのおかげでオトノへのサイコボールの攻撃を止めることに成功した。

『オトノ殿、大丈夫か!?』
『シノブ……ええ、何とか』

 シノブはオトノの前に立つ。

『後はあたいに任せて貴女は下がるんじゃ』
『そんなわけには……』
『大丈夫じゃ。あやつは次の一撃で倒す』
『でも……』

 ネギを構えるシノブにオトノは心配そうに呟く。

『危なかったわね』

 ミントが心のままに驚いたような声をしている。

『(効いてないじゃと?)』
『咄嗟に『まもる』をしてなかったら、致命傷を受けていたわね。オトノへの攻撃をキャンセルして正解だったわね』

 そういって、スプーンを前に差し出す。

『オトノ殿はそこに居るんじゃ!』
『シノブっ!!』

 にっこり笑って見せると、ミントを見据えた。

『『サイコウェーブ』!!』

 広範囲にわたる超能力の波。
 しかし、シノブは攻撃を低空飛行で掻い潜った。

『っ!!』
『(速い!?)』

 単に電光石火を使っただけなのだが、ミントの目にその攻撃は映らなかった。
 電光石火による『突き』を受けて、ミントはやや吹っ飛ばされる。

『(来る!?)』

 連続攻撃で来ることをミントは容易に予想できた。
 案の定、シノブは頭上を飛んで、一撃を叩き込まんとしていた。

『(これで終わりじゃ)』
『(『まもる』!!)』

 スタ

 シノブが地面に着地する。

『(え?今、シノブ、攻撃を外した?)』

 自分の目から見て、オトノはミントに攻撃を当ててなかったように感じた。
 そして、ミントはシノブに向けてスプーンを構えていた。

『シノブ!危ない!!……サイコキネシスが来る!!』
『空振りなら『まもる』必要はなかったわね』

 フーディンのサイコキネシスが放たれようとしていた。

『……『時雨抜き』……』
『え?』

 シノブはミントを見ずにネギを左手に持ち替えて、左手を腰に持ってきて、まるで刀を納めるような仕草をとった。

 ズバッ!!

『がっ!! な……まさか、フェイント?』

 ミントは、膝に地面をついた。
 喋る声が聞こえて、シノブは振り向いた。

『まだ意識があるんじゃな。この一撃で倒せると思っておったのに』
『私は甘い光<スウィートライト>よ?こんな一撃で、マイコンの幹部が倒せると思っていたの!?』
『マイコン……?そうか。貴様がマイド・コンセルバトワールの幹部じゃな』
『ちが…う。マイデ・コントリュー……バトワーゼルよ』

 シノブの言葉にミントが否定する。

『どっちも違うでしょ!マイデュ・コンセルデラルミーラでしょ!(なんで敵まで間違うの!?)』

 ツッコミを入れるオトノ。

『そんなのどっちでもいいね。こんなところで、私は負けるワケには行かないのよね……』
『どうして?』

 オトノは不意に呟いた。
 ミントが顔を向ける。

『どうして、あんたはマイコンに入ったワケ!?どうして、次々と人間を消して行っている奴らに手を貸すわけ!?どうしてよ!?』
『…………』
『あんた、自分の親しい人が消えるってどんな気持ちだかわかってるの!?それさえわかっていれば、こんなことなんて……』
『親しい人?……そんな人居ないわね』
『居ない?そんな馬鹿なこと…………』

 ミントはシンクロを解いた。
 そして、フーディンのモンスターボールを仕舞った。

『マイコンに入ったワケ?聞きたいの?そんなの決まっているじゃない。この世の人間を全て消したいから』
『……あんた、本気で言っているの……?正気なの?』
『……私は最初から本気だし、正気よね。とりあえず……』

 ミントはさっきとは別のモンスターボールを取り出した。

『マイコンの計画の邪魔になりかねない、『女侍:シノブ』と『月島の末裔:オトノ』……あなたたちをここで仕留める!!』

 ミントの繰り出したポケモンはブーピッグ。
 彼女がブーピッグとシンクロして、再び戦いは動き出した。



 たった一つの行路 №183
 第三幕 The End of Light and Darkness
 甘い光<スウィートライト>:ミント 終わり



 果たして、止めることはできるのか……?


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Last-modified: 2015-06-30 (火) 06:50:51
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