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たった一つの行路 №182

/たった一つの行路 №182

“いやぁ――――!!!!”
“逃げろ――――!!!! マイコンだ――――!!!!”
“捕まったら命はないぞー!!”
“うぇーん、ママー”
“あなたぁ――――!!”

 ジョウトの大都市:コガネシティ。
 かつてない混乱がここで起きていた。
 誰一人として太刀打ちできない。
 誰もこの状態を抑えられるものは居なかった。
 しかし、そんな状況の中、コガネシティの大通り、一匹のミルタンクと一人の少女が居た。
 彼女の目の先に居るのは一匹のオニゴーリとエイパムだ。

「はぁ…はぁ……ミルタンク!!」

 ミルタンクが彼女の指示によって前転し、凄まじい速さでエイパムに向かって行った。
 傍から見てもエイパムに当たれば恐らく一撃で倒せるだろうと思うほどの一撃だった。
 その攻撃をエイパムはいとも簡単にかわす。
 影分身とか身代わりなどは使ってない。
 ただ単純にエイパムのスピードが早かっただけの話。
 しかし、少女は笑みを浮かべる。

「喰らいな!!」

 さらにミルタンクはスピードを上げた。

 ズドンッ!!

 エイパムが振り返ったときには、オニゴーリに攻撃がヒットしていた。

「どうや!?」

 最大パワーの転がる……この攻撃が効かない筈はない……少女はそう思っていた。
 しかし……

『ふんっ』
「ミルっ!?」

 オニゴーリの頭突きによってミルタンクは跳ね飛ばされて、少女の元へと返って来た。
 何とか空中で体勢を整えて着地するミルタンク。

「ウソや……これも効かへんなんて!」
『ハハッ、この程度なんだね!』
「!!」

 エイパムが少女の目の前に現れたと思うと、左右上下を縦横無尽に駆け抜けて少女をボロボロにしていく。
 ボロボロというのは、まさに言葉そのままの意味。
 身体は傷だらけの上に、服も少しずつ千切っている。
 ゆえにどんどん肌を露出させていった。

『(あともう少しー♪)』
『オイ。これでもういいだろ?』

 エイパムが調子に乗っているところをオニゴーリが止めた。

『えー?もう少しでジムリーダーアカナの素っ裸が拝めると思ったのにー』
『そういうのは、ここでやるべきではないだろ』
『お前はさー羞恥プレイって言うものを知らないの?』
『残念ながらそんなものに興味はない』
「ミルタンク、『破壊光線』!!」

 不意打ちというべき、一撃だった。

「はぁはぁ……よくも……この服、高かったんやから! くっ……」

 手傷を負っているアカナは腕と腹を抑えてうずくまる。

「(強い……相手が隙を見せたから勝てたものや……。マイコンってどいつもこんなに強いんか……?)」
『まぁ、羞恥プレイというものには興味がない。だが……』
「え?」

 アカナは一瞬で意識を奪われた。
 彼女自身、本当に何が起きたかわからなかっただろう。

『女を閉じ込めて鑑賞するのは好きだ』
『変な趣味ー』
『お前のようなサディスト的趣味よりはましだ』
『そうかー?』

 オニゴーリの『凍りつかせる』攻撃。
 一瞬にして相手を凍り付けにする技だった。
 それによって、アカナとミルタンクは氷の中に閉じ込められている。

『ふっ、永遠に氷の中で眠れ。……今日からお前は私のコレクションだ』
『他のメンバーも徐々に住人を襲撃しているようだし、後3日くらいあればここは殲滅できるかなー?』
『だろうな。私はこのアカナの氷像を持って帰る』
『じゃ、俺は続いて女の子でも狩っているかー♪』

 そして、コガネシティの狂乱の宴は、続いていた…………



「ウソ……何これ……」
「騒ぎになってるな」

 2人がコガネシティについたのは、そんな騒動の真っ最中だった。
 建物が次々と壊されていき、人の悲鳴が至るところで聞こえて、やがて消えていく。

「まさか、マイコンがこんなところにまで迫っていたなんて……」
「よし、じゃあ、片っ端から倒すか」

 ラグナは右手にクチートのモンスターボール、左手にシンクロパスを持っていた。
 その顔はまさに戦いを楽しもうとしている顔だった。

 パシッ

 頭を叩かれてラグナは不機嫌な顔をしてオトノを見る。

「なにすんだよ!!」
「こんな奴ら全員と戦ってたら、時間がなくなる上にあたしたちの体がもたないわよ!!」

 そういって、オトノはラグナの手を取って壁伝いになる。

「ここでのあたしたちの目標は戦いのための道具の買物だったけど……この状態じゃ無理ね……。一刻も早くリニアに乗ってカントーに行くべきだわ」
「え゛?ここに来たのってリニアに乗るためだったのか!?」
「一番の目標はそれよ?何か問題でもある?」
「……い、いや……」

 心なしか気分を悪そうにしているラグナに首を傾げるオトノ。
 リニアとはジョウト地方のコガネシティとカントー地方のヤマブキシティを繋ぐ近代的乗り物である。
 ラグナの記憶では、つい5年くらい前に完成して、運行を始めたと聞いている。

「さぁ、早く行くわよ!!」
「あ、あぁ……」

 現在コガネシティに居るマイコンはおよそ20人弱。
 ほとんどが二人一組で行動して、住人や施設を襲撃していた。
 奴らはわずか6時間で、町の10分の1の人間と建物を消していた。

「ところで思ったんだがよ」
「何?」
「このシンクロパスって、そんなに貴重な物なのか?」

 その質問にオトノは速攻で首を縦に振る。

「非売品なのよ。つまり、どこの店にも売ってない。そして、持っている人が少ない貴重な物なの」
「貴重な物?なら、何でマイコンの奴らは当たり前のようにこのシンクロパスを持っているんだ?」
「それは……あたしにもわからない」

 困った顔でオトノはそう答える。

「もしかしたら、そのシンクロパスを作った技術者がマイコンのメンバーの中にいるのかもしれないわ……」
「そうか。だから、警察や住人達は全く歯が立たないわけだ」
「うん。多分純粋なポケモンの強さで言ったら、マイコンの下っ端の実力は、ジムリーダー以下の者がほとんどよ。でも、シンクロをすると、ポケモンの強さに加えて、その人の肉体的強さ、精神的強さも加わるの」

 「なるほどな」とラグナは頷く。

 この調子でラグナとオトノはマイコンのメンバーに見つからずにリニアの駅に向って進んでいく。

「…………」

 いや、それは間違いだった。
 二人の後ろにくっ付いてくる謎の人影が存在していた。
 やや異質な殺気を持って…………



「さて、これからどうする?」

 そして、2人はリニアの駅に辿り着いた。
 駅にはしっかりとリニアが停まっていた。
 だから、これに乗って発車すればいいのだが、問題はその出入り口に居る男だった。

「絶対、あれはマイコンだよな?」
「うーん。制服を着ているから、マイコンとは違うんじゃないの?」
「んなワケねぇだろ。奴らが逃げ道であるリニアを封鎖しねぇワケがねぇだろ」
「封鎖をし忘れたとか?」

 オトノがさらりと言ったのに対して、ラグナは怪訝そうな顔で振り向く。

「忘れるって、てめぇじゃあるまいし」
「ちょっと!! 誰にだって忘れることはあるでしょ!?」
「あーわかった!わかったっ!!大きな声出すなっ!!」
「そーゆーラグナも声がでかいっ!!」

 面と向って声を飛ばすラグナとオトノ。

「そこにいるのは誰だ?」
「「あ゛」」

 そして、声が大きくなっていることに今更気付いた2人。
 駅員に見つかってしまった。
 いや、その男は正確には駅員ではなかった。

「ふっ、リニアで逃げるつもりだったのか。いいだろう、乗せてやる。だが、そのチケットの代金としてお前らの命を頂くぞ!!」

 駅員が繰り出してきたのはリザード。

「よし、新技を試してみるぞ!リザード、『破壊爪<デストラクションエッジ>』!!」

 出してきて駅員がすぐに、リザードに技を指示する。
 鋭い爪を光らせて、一気に二人に襲い掛かる……

 ドガンッ!!

「なっ!?」

 吹っ飛ばされた。
 しかし、それはリザードの方だった。

「効くかよ、んなもん!」

 繰り出したラグナのポケモンはノーダメージだった。

「馬鹿な!最近小説を読んで覚えたばかりの新技なのに!?くそっ、こうなったら……」

 駅員は懐からシンクロパスを取り出そうとした。
 が……

 バキッ!!

「ぐふっ……」

 見えない何かが駅員を気絶させた。

「ラグナ、今のは?」
「ヌケニンの『影撃ち』だ。ったく、物理攻撃がこいつに効くかってんだ」

 そして、駅員を踏んづけて乗り込むと、最後に一言言う。

「てめぇは一生そこで小説でも読んでやがれ」
「早く、発車させないと……。多分追っ手が来るよ?」
「そうだな。しかし、シンクロして来ないと、ほんとに弱いな」

 リニアに乗り込んで運転席へと急ぐ二人。

「くそっ……」

 内側のインカムに駅員の男は口をつけた。

「ミント様……リニアが、リニアが乗っ取られました……。二人組みの男女です。すぐに応答を…………!!!!」

 一瞬暗くなったかと思い、駅員の男は上を見上げた。

「な……お前は!?や、やめろー!!」

 ザシュッ

 次の瞬間、男は絶命した……



「ええと……このレバーを引けばいいのかな?」

 数あるボタンやレバーを見て、迷いながらレバーを手前に引く。

「そして、ああして、こうして…………」

 オトノの操作は偶然にも全て正解だった。
 エンジンがかかり、ブレーキが外れて、そして、列車は動き出した。

「よし、これでオッケー!!」

 動きだすリニア。
 このまま、カントーのヤマブキシティへと一直線である。

「これでマイコンと戦わず、無傷でカントーまでいけそうね、ラグナ! ……あれ?」

 ふと、後ろを振り向けど、ラグナは居なかった。

「あれ?どこいったんだろう?」

 不思議に思って、操作をそのままにしておいて、他の車両へと移動した。
 他の車両といえども、操作室と、客車が2つあるだけの3両編成であるために、すぐに最後尾までたどり着いた。

「……どこ行ったのかな?」

 ラグナは見当たらなかった。

「よし、上手く着いたようだな」 「さすがワープポイントだな」
「なっ!?」

 突然、謎の男2人がオトノの目の前に現れた。

「一体どこから現れたの!?」
「知りたいですか?」

 すると、さらにもう一人、奥から女性が現れた。
 しかし、その女性は二人の男と違ってどこか違った雰囲気を醸し出していた。
 オトノはそれを察して身構える。

「あんた……一体何者!?」
「ふふっ、私の名前はミント。マイデュ・コンセルデラルミーラの甘い光<スウィートライト>の一人よ」
「え!?甘い光<スウィートライト>のミント!?」

 オトノは驚いた。

「ミントはあたしとラグナがアルフの遺跡で倒したはずなのに!」
「ふうん……ということは、あなたがオトノね。よくも私の諜報部員を倒してくれたね」
「に、偽者だったというのね……」
「その通りなのよね」

 ゴクリとツバを飲み込む。

「そして、あなたの質問に答えてあげるね。私はリニアの最後尾……つまりこの車両についているワープパネルを使ってここに転送されてきたのよね。もちろん、これは私たち組織が駅を乗っ取ってから取り付けたものなんだけどね。付ける理由は一つ……」

 ミントはビシッとオトノを指した。

「あなたのような列車に乗った者を葬るためなのね。さぁ、あなたたち、やりなさい!」

 2人の男はポケモンを繰り出した。
 クロバットとコモルーだ。
 それから、2人はパスを取り出した。

『喰らえ!『エアカッター』!!』
『『火炎放射』』

 風の刃と炎がオトノを襲う。
 ここは、車両の中。
 逃げられる場所などなかった。

「あっぶなかった……」

 しかし、椅子を盾にするようにしゃがみこんで、攻撃を何とかやり過ごした。

『さぁ、観念しろ!!』
「(とりあえず……) 行くわよ、ジュカイン!」

 シンクロパスとモンスターボールを同時に繰り出して、一気にシンクロモードへ持っていった。

『『月舞踊:朔凪』!!』

 その場でオトノ=ジュカインは一回転周った。

『……?』 『??』

 コモルーとクロバットは首を傾げる。

『なんだかわからないが、不発だな!』
「いえ、ちゃんと当たっているみたいね」
『え?』

 ミントは冷静にしっかりと見ていた。
 コモルーとクロバットはミントの目線の先を見てオトノの攻撃の意味を理解した。

『そういうことか!!』
『畜生、やってくれるな!!』

 二人とミントがここに来るために使ったワープポイントが粉々に破壊されていたのである。

『まずは逃走経路と増援を断たないといけない。ここであんたたちを倒すわ!』
『オトノとか言ったか!?お前、俺たちに勝てると思っているのか!?』
『てか、ミント様が出るまでもないし!!』
『なんとでも言ったらいいわ!!』

 ウィーン

 そのとき後ろのドアが開いた。
 オトノはその人物を見て、「よしっ」と思った。

『こっちにはマイコンを倒す救世主が居るのよ!?あんたたちなんて、ラグナにかかったら、いちころなんだから!!』

 そして、オトノはラグナの腕を掴んで言った。

『さぁ、ラグナ、行くわよ!!』
「あなたの言う救世主とやらの力、見せてもらうわね」

 オトノは思いっきり引っ張った。

 バタッ

『え?』

 そして、ラグナは倒れた。

『…………』

 その場にいた全員が言葉を失った。

『ちょ、一体どうしたの!?ラグナ!』

 思いっきり揺するジュカインもといオトノ。
 ラグナをひっくり返してみると、顔が真っ青で、しかも目を回していた。

「俺……乗り物……駄目なんだよ……うっぷ……」
『まだ、乗って5分も経ってないじゃないの!!』

 そう、ラグナは乗り物に弱い。
 ポケモンだろうと、バイクだろうと、もちろんリニアであろうと。

『ちょっと、ラグナ……』

 バキッ!!

 思いっきり翼で叩かれた。
 身体が宙を浮かび、壁に叩きつけられた。

『くぅ……』
『隙有り』

 クロバットが不敵に笑う。

『どうやら、救世主とやらは、お寝んね中の様だな』
『くっ……』

 オトノは一旦シンクロを解いて、ジュカインをモンスターボールに戻した。

『お前一人でこの俺たちと戦うか!?』
『ははっ、楽勝だな!行くぜ!』

 クロバットがオトノに襲い掛かる。
 ヤドキングのモンスターボールを取ろうと手を伸ばすが、それよりもクロバットの翼が早かった。

「あうっ」

 モンスターボールを身体ごと飛ばされて、明後日の方にモンスターボールを落としてしまった。

『終わりだ!!』

 そして、のしかかるようにコモルーが飛び掛った。

「(避けられない……)」

 客席に“く”の字の形に嵌まるような体勢をしているオトノにかわせるはずがなかった。
 痛みをこらえようと歯を食いしばり、目を瞑って耐えるしかなかった。

 キンッ

「??」

 しかし、想像した痛みは来なかった。
 代わりに金属の音がした。

「(一体何が……?)」

 恐る恐る目を開けてみるオトノ。

『くっ!!お前は一体なんだ!?』
『だれだ?』

 クロバットとコモルーは一旦様子を見るように“そいつ”から離れた。
 その人物は銀色の袴を着用していて草履を履いていた。
 そして、さらに特徴を言うと、銀色の髪で腰まで長さがあるポニーテール。
 前髪ともみ上げ辺りもそれなりに長かった。

「え?……まさか……」

 口元を押さえるオトノ。

「オトノ殿、久しぶりじゃ」

 真剣を左腰の鞘に納めてその人物はオトノの手を取った。

「……シノブ……シノブなのね!?」

 オトノは喜びの声で彼女の名前を呼んだのだった。

「ぐぉぉ……誰か……気持ちわりぃ……」

 そして、ラグナは苦しみの声で地面をのた打ち回っているのであった。



 たった一つの行路 №182
 第三幕 The End of Light and Darkness
 女侍 終わり



 世界一の剣技……此処に有り


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Last-modified: 2015-06-29 (月) 22:25:30
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