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たった一つの行路 №180

/たった一つの行路 №180

「はぁ…はぁ……ジュカイン!!」

 ヒワダタウンの東……つながりの洞窟。
 その洞窟はキキョウシティとヒワダタウンを行き来するための通路。
 ズバットやイシツブテなど、野生のポケモンが多く住み着いている場所でもある。
 オトノとジュカインは次々と襲い掛かる野生のポケモンをリーフブレードでなぎ倒していく。

「待ってて……マホ……今助けに行くから……」

 ズドンッ!! ズドンッ!!

「!!」

 オトノを阻むように、大きな岩の塊が襲い掛かる。
 しかし、技の隙は大きく、サクサクッとかわしていく。

「はぁ…はぁ……こんな時にゴローニャ……。ジュカイン!」

 ロックブラストで狙い撃ちしてくるゴローニャへ接近し、何とかリーフブレードを叩き込もうとする。
 だが……

「……! ジュカイン!退いて!」

 別の方角から飛んできたのは、紫色の液体。
 明らかな有毒物質だった。
 オトノの声に反応したジュカインは、その場を回避して攻撃を何とか避ける。

「クロバットまで……」

 4つの翼を持つコウモリポケモンを睨みつける。
 苛立つオトノ。
 そんなオトノの気持ちを知らず、ゴローニャはロックブラストでオトノとジュカインを狙い、クロバットはヘドロ爆弾で牽制をしてきた。

「はぁはぁ……邪魔しないでっ!!ヤドキング!!」

 この場を一気に片付けるために、オトノは頭をシェルダーに噛まれたことから進化したといわれるヤドキングを繰り出した。
 目を光らせるとクロバットの自由を奪った。
 そして、クロバットを使って、ゴローニャの打ち出したロックブラストをガードした。
 さらにクロバットをそのままゴローニャにぶつけた。
 役割を終えたヤドキングを戻して、ジュカインが前に出る。

「『エナジーボール』!!」

 止めの一撃が2匹に炸裂した。
 鮮やかな手際で、オトノは野生のポケモンを倒して次へと進んだ。
 ヤドキングの波乗りで水路を移動し、天然の階段を昇り降りした。



「……アルフの遺跡……ここにマホが……」

 アンノーンが眠っていると言われるこの遺跡。
 ある学者が調べて行方不明になったこともあるのだという。

「中なの?」

 なおもずんずんと進む。
 アンノーンのレリーフがびっしりと敷き詰められている。
 何が書いているかオトノには読めなかったが、その神秘さを感じることはできた。
 もちろん、そんな神秘さを感じている暇などないのだが。

「ようやく来たわね」
「……!!」

 大広間に辿り着いた時、その女はいた。

「お姉ちゃん!!」

 ロープをぐるぐる巻きにされた状態で、マホは立たされていた。
 そのロープの先を女が持っているために、マホは逃げることができない。

「マホ!!……待ってて、今助けるから!」
「ヒワダタウンのオトノ。あんたの噂はいろいろと聞いているわよ」
「噂?」
「何でもジョウトリーグを優勝したとか、ジョウトのコンテストを制覇したとか……ジョウト地方で実績を上げているそうじゃない?」
「それがなんだって言うの?」
「有能なトレーナーは、私たちマイド……マイデュ・コンセルデラリ……マイデュ・コンセルデラルミーラにとって邪魔なのよ!」
「(思いっきり噛んでるじゃない)」

 団員でも間違える名前をつけるなよと心の中でツッコミを入れるオトノ。

「あたしもあんたの名前は聞いているわよ。“甘い光<スウィートライト>”の一人……ミント。つまり幹部のうちの一人。フィオレ地方に団員達を率いて壊滅させたと言う。しかも、その実績を買われてジョウトに来ているって話を聞いているわ」
「ふうん。こんな偏狭な地でも名前は知れ渡っていたんだ」
「そんなことより、なんであたしを狙うために、マホまで利用するのよ!」
「決まっているじゃない」

 女はゆっくりとマホの頭を撫でる。
 撫でられてマホはとっても嫌そうな顔をする。

「確実にあんたを呼び出すためよ。この子はあんたを呼び出すための餌に過ぎない。だから、もう用済みよ」

 パッと、女はロープを放した。
 そのことに気付いたマホは、グルグル巻きの格好のまま、オトノに近づいていく。

「お姉ちゃんーー!!」
「マホっ!!」

 怖かったのだろう。
 顔をくしゃくしゃにしてマホは泣いていた。

「……!!」

 しかし、それがオトノの油断だった。
 後ろから近づく殺意。
 不意打ちとも言える攻撃が、オトノを襲った。

「あぶな……」

 間一髪で転がって、オトノは振りかざしてくる鎌をかわした。
 だが、回避と言う行動はオトノにとって最悪な結果を招いてしまった。

「……!?」
「……っ!!!! マホ!!!!」

 オトノを振りかざした鎌を持ったポケモンは、オトノを無視して目の前にいた女の子に向っていた。
 そして……

 ドシュッ……

「ま、マホッ!!!!」

 鎌を引き抜くと、傷口から血が溢れ出る。
 止めることはできないほどの血だった。

「お…ねぇ…ちゃ……」
「うそっ……マホ……」

 倒れ掛かるマホを支えようとする。
 マホにはもう力がなかった。

「……いた…い……よ……」
「マホっ!!しっかりして、マホっ!!」
「……お…ね…………」

 抱き上げるオトノの腕の中で、マホは首をだらんと垂らした。

「……そん…な……」

 信じられない現実に身体を震わせる。
 いつも隣に住んでいた妹のような存在のマホが、今は何も喋らない。

「お邪魔虫は掃除した。次は、あんたよ!! 消えなさい!!」

 鎌を持ったポケモン……カブトプスがオトノに襲い掛かる。

 ガキンッ!!

「……!!」

 しかし、モンスターボールから出てきたジュカインによって攻撃は受け止められた。

「よくも……よくもマホを……」

 顔を上げると頬には目から雫がこぼれ落ちていた。

「……あんた……許さない……絶対に、許さないッ!!!!」
「別にあんたに許してもらわなくたっていいわよ。こっちはこれが仕事なんだから」
「ジュカイン、『リーフブレード』!!」

 緑色のブレードを振るって、カブトプスに襲い掛かる。
 ジュカインの猛攻にカブトプスは押され気味だった。

「『シザークロス』!」

 しかし、横にかわしてカブトプスはジュカインの横から、×の形で切り裂いてくる。
 ガキンッ!!と音が響く。
 ジュカインがリーフブレードで受け止めたのである。
 片方のブレードを振るうがカブトプスは、宙返りをして後退し、再び切りかかってきた。

「『乱れ鎌』」

 乱れひっかきのように鋭い連続攻撃でジュカインを追い詰めていく。
 ブレードで何とか攻撃を耐えているもののこのままじゃ、時間の問題だった。

「絶対に……許さないんだから……!行くわよ!ジュカイン!!」

 攻撃を捌きながらうなづくジュカイン。
 その後ろから、オトノはトランプケースのようなものをジュカインに翳して憑依した。

『『リーフブレード』ッ!!!!』

 バキンッ!!!!

 カブトプスの鎌をも切り裂く鋭い一閃。
 身体を切り裂かれたカブトプスはそのまま地面に捻じ伏せられた。 

『ミント……次はあんたの番よ!!!!』

 ジュカインに憑依したまま、オトノは女に宣戦布告する。

「やってみなさい」

 レディアンを繰り出し、そして、オトノと同じようにトランプケースのようなものを翳した。

『でも、あんたじゃ私には敵わない』
『マホの敵は絶対にとる!!やぁぁぁぁっ!!!!』

 怒りのままに任せて、リーフブレードで斬りかかるジュカイン。

『ふっ……』

 レディアンは笑った。
 ジュカインの攻撃をスルスルと退きながらかわしていく。

 ガタッ

 だが、ここは遺跡の中。
 退き続ければ最終的に壁に当たり逃げ場はなくなる。

『やぁっ!!!!』

 レディアンがもう退けないと見るや否や、掛け声を上げて懇親の一撃を放つ。

 ドガッ!!

 ……一閃。
 しかし、レディアンはジュカインの頭上を跳んで後ろに回りこむ。

『……!!』
『隙有り!!』

 ドドドドドッ!!!!

 レディアンの連続パンチだ。
 背中から多数のパンチを一瞬で受けたジュカインは吹っ飛ばされて、壁にぶつけられる。
 そして、地面に膝をつく。

『ぐっ……』

 だが、すぐに立ち上がった。
 そして、怒りを込めた目でレディアンを睨みつける。

『『エナジーボール』!!』

 息を切らして、レディアンの体の大きさとだいたい同じくらいの緑色のボールを放つ。
 だが、攻撃はあっけなくかわされてしまう。

 バキッ!!

『っ!!』

 しかも次の瞬間には頭がぐらりを揺らぐ。
 身体が空中に浮いた感覚になり、地面にドスンと落ちる。

『ぷっ……弱いわねー』
『……くっ……』

 蹴り飛ばされた頭を抑えて、ジュカインは再びエナジーボールを放つ。
 だが、その闇雲の攻撃はやはり当たらない。

 ドガッ!! バコンッ!!

 全く同じ結果になり、壁にずるずるともたれかけるようにジュカインは地面に沈む。

『……はぁはぁ……マホ……』

 息を引き取ったマホを見るオトノ。
 それだけで、自分の中の怒りがヒシヒシと満たされていく。
 今、彼女を立たせているのは、マホを葬った女に対する憎しみと何もできなかった自分に対する苛立ちだった。

『許さない……許さないんだから……』
『その身体で何をしても無駄よ』
『!!』

 レディアンがまるで分身したかのようなスピードでジュカインを翻弄する。

『そんなの……これでどうよ!?『月舞踊:朔凪』!!』

 ある空間に風を発生させて、相手に攻撃を与える技である。
 その風は何の前触れもなく発生させるために、攻撃をかわすことは絶対に出来はしない。
 例え、相手が超スピードで動いていたとしても……

 バキッ!! バキッ!! バキッ!!

 だが、そんなことはお構い無しにレディアンが怒涛の攻撃に出る。
 3次元のあらゆる方向から縦横無尽に殴りかかり、ジュカインをジワジワといたぶっていく。

『(……なんで……?何で効かないのよ……!?)』

 何も抵抗できずただいたぶられ続けるジュカイン。

『まさか、“それ”の本質を知らずに使っているわけじゃないわよね?』

 超スピードで攻撃を加えつつ、レディアンが喋る。

『吹っ飛びなさい!!『シルバーズインパクト』!!』

 拳に神秘的な色の渦巻く銀色の風を纏うと、ジュカインの腹に拳を叩き込んだ。

『(……っ! 『受風』が……!?)』

 何らかの防御手段をとったようだが、意味を成さなかった。
 派手に吹っ飛ばされて地面にぶつかり、壁にぶつかり、最終的には地面に倒れこんだ。
 そのとき、同時にトランプケースのようなものが投げ出されて、ジュカインからオトノが飛び出した。
 ジュカインは傷だらけでもう限界。
 オトノに至っても、決していい状態とは言えなかった。

『今のあんたの精神状態で、力を発揮できるわけがないでしょ!!マホを殺したのは、あんたを怒らせることが目的だったのよ!!』

 オトノの目の前に飛んできて、嘲笑うかのようにレディアンは言う。

「……ということは、効かないんじゃなくて……技が発動していなかったってこと……」
『ふふっ……』

 ゆっくりとレディアンは近づいていく。
 そして、手から紫色の液体を浮かべて言う。

『後はあんたにこの技をかけて、放置すればいいだけ。この『どくどく』であんたは、誰にも見られずここで息絶えるのよ』
「くっ!!」

 オトノは右手のヤドキングのモンスターボールに手をかけようとする。

『そうはさせない』
「あうっ!」

 手を足で踏まれて、それはできなかった。 

『まぁ、そのポケモンで来ても、この状態の私には敵わないでしょうけど、もう戦うのがめんどくさいから、このまま逝きなさい』

 そして、どくどくがオトノに滴り落ちていく……
 いや、だが、それは中断しざるを得なかった。

『!!』

 レディアンは何かが飛んでくる気配を感じた。
 そして、攻撃を止めてその攻撃をかわした。
 ズドンッと大きな音を立てて、その攻撃は壁にめり込んだ。
 ボウリングほどの大きさはある鉛色の弾だった。

『誰よ!?』

 そこにいるのは、一匹のクチートだった。

『野生のポケモン?それともトレーナー?どっちでもいいわ。邪魔よ!!』

 レディアンはクチートを撃退するために攻撃を仕掛ける。

「あのクチートは……」
「大丈夫か?」

 ふと上から聞こえてくるやや怖そうな声。
 顔に影が重なって、男の顔が目の前にあった。

「ら、ラグナ……」
「ケガはねぇかよ?」

 頭を抱えるように持ち上げられるオトノ。

「……なんで来たのよ?」

 しかし、その腕を払って、オトノは自分の力で立ち上がろうとする。

「何で来たかって?そんなのお前が放っておけないからに決まってんだろうが!」
「……え?」

 彼女の肩に手を置いて、ラグナは真剣に言う。
 肩を掴むその強さが、その心配度を現していた。

「それと、勝手に足手まといと決め付けやがって、それが気にくわねぇんだよ!」

 今、クチートとレディアンが戦っている。
 しかし、現状を言うと、強さの違いは明確だった。
 鉄壁で防御したはずのクチートが、レディアンのパンチ一発でオトノたちの方に向って飛んできたのである。
 相性の良さがあって、ダウンこそしなかったものの、クチートの息はもうあがっていた。

『あら、オトノ。連れがいたのね。あれほど一人で来いって言ったのに。でも、今更関係ないけどね』

 喋りながら『シグナルビーム』を放ってくる。

「クチート、最大パワー『メタルボール』!!」

 口から鉛の玉を吐き出すクチート。
 メタルボール……しいて言うなら『金属大砲』。
 強固な高度を秘めたそれは、かつての敵を吹っ飛ばしてきた技だった。
 だが、それさえもレディアンには通じない。

「なっ!!」

 メタルボールを貫通して、シグナルビームがクチートに入った。
 ただ、それだけでクチートはダウンしてしまった。

『さぁ。あんたもオトノと一緒に逝っちゃって!』
「ちっ……」

 ラグナは相棒のモンスターボールを掴んだ。

「(あのレディアン、相当のスピードだ。ヌケニンのトップスピードなら追いつけるだろうが、そこまでもって行くまでができやしねぇ。ピクシーの『アンリミテッドブレイク』を使う手もあるが、相手に攻撃が当たらないと意味がねぇ。ここはダーテングしかいねぇ。だが……)」

 ラグナにはわかってた。
 相手との基礎的力の差がありすぎると。

「ダーテングっ!!」

 しかし、ラグナはそれでも戦う。
 諦めが悪いのだ。
 それが、ラグナという男なのである。

「ラグナ……」
「なんだ?ケガ人は黙ってろ」

 と言いつつ、ラグナはオトノを見やる。
 すると、オトノはとある方を指差していた。

「“それ”を使って……」
「……これは……」

 “それ”は今まで何度か見たことがあった。
 ヒワダタウンで戦った男も持っていたし、オトノも“それ”を使って戦っていた。
 すぐに拾い上げて、ダーテングに近づく。

「ポケモンに翳して!」

 ラグナの行動とオトノの発言は同時だった。

『……む?』

 そして、ラグナとダーテングが一体となった。

『そう来たのね……でも、一撃で終わりにしてあげる!!』

 レディアンが電光石火さながらのスピードで接近する。

『『シルバーズインパクト』!!』

 銀色に輝く拳。
 一撃に込められた力は、相手に当たった瞬間に弾け飛ぶ。
 ……筈だった。

『でらっ!!』

 ダーテングが手の葉っぱを振っただけだった。
 レディアンの拳が当たる前に、その勢いに負けて、レディアンは吹っ飛ばされた。

『な!?』

 簡単に必殺技を破られて、唖然とするレディアン。

『この力は……?』

 ラグナ自身もこの力に驚いていた。

『じゃ、これでどうよ!?』

 体勢を立て直して、レディアンが素早い動きでダーテングの周りを移動し始める。
 『高速移動』だ。
 これは、先ほどオトノを翻弄した時と同じく、3次元からじりじりと攻撃を加えていく技だ。

『喰らいなさい!!』

 しかし、全くラグナは動じていなかった。

『(全然見えるじゃねぇか。これなら……)』

 ―――勝てる。
 ラグナは確信した。
 腰を屈めて、左足を一歩前に出す。
 そして、腰を捻って体を一回転させた。

『『裂水周覇<れっすいしゅうは>』!!!!』
『なっ!!』

 レディアンには何が起こったかわからなかった。
 ただわかるのは、自分とレディアンが分離して、動けないほどの傷を負っていることだった。
 隣でレディアンはダウンしてる。
 その様子を見て、ラグナが元に戻った。
 右手にはモンスターボール。左手には例の道具を持っている。

「(……ラグナって一体何者……?)」

 今まで見たことのない力に、オトノはただ驚くばかりだった。

「(そういえば、“これ”を使わずにシンクロした下っ端と互角の強さだったって……!……もしかして……ラグナは……この世界を救う救世主なの……?)」

 そして、微かにオトノの心の中に一つの希望が生まれてきたのだった。



 たった一つの行路 №180
 第三幕 The End of Light and Darkness
 一つの灯火 終わり



 鎖された未来に一筋の光を……今、導かん


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Last-modified: 2015-06-28 (日) 15:18:46
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