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たった一つの行路 №176

/たった一つの行路 №176

 子供たちへ

 ―――未来。
 漢字で書くと、『“未”だ“来”ない先の時間』。
 ―――過去。
 逆に、それは、『“過”ぎ“去”ってしまった時間』。
 現在を生きる私が、過去を見るには、“ある方法”を使うことでしか“それ”をなすことができない。
 しかし、もしその方法を使ったとして、私の力では過去の“あの失態”を正すことはできない。
 過去の償いは未来でしなければならない。
 罪悪感を覚えるとするならば、その償いが私だけに課せられてしまったものではないということ。
 私が死んでしまって、誰もが私の名前も実績も所業も覚えていなかったとしても、この罪は消せはしない。
 全ては私自身の力を過信してしまったせいだ。
 私はこの先の未来を知るよしもないが、確かな予感があった。
 カントー地方に月が落ち……オーレ地方は闇に飲み込まれ……ホウエン地方が水没する…………そして、最終的には星丸ごと滅んでしまうということ……。

 未来の子供たちに任せるのはとても心苦しいことだが……どうか、この手紙を読んだ私の子供たちは私の願いを聞き入れてほしい。
 光と闇が世界を包み込み、全てを滅ぼそうとした時、己の全ての力を持って、喰い止めて欲しい。
 勝手だと言うことはわかっている。
 しかし、そうでもしなければ、いずれこの世界は滅びてしまうだろう。
 頼みましたよ。私の血を受け継ぐ者よ……

 ルイ・セブンスィー より



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 ほんの少し前までは、世界は光で輝いていて、とても綺麗だと思っていた。
 春は色とりどりの花を咲かせてあたしたちの視覚を楽しませ、心を躍らせる。
 花を摘んだりして、子供のころはよくお花畑で寝転がって空を見ていた。
 夏はアサギシティで釣りをしながら、渦巻き列島の方角にある雲をのんびりと眺めて、心を落ち着かせる。
 時々、スコールが襲うこともあるけれど、たまに雨に濡れてみるのも気持ちがよかったりする。
 秋はたくさんの本が刷られて、涼しい気温の中で木にもたれながら、読むことができる。
 昼寝なんかしたりして、とても心地よく過ごすことができて、あたしは一番好きだ。
 冬は木々が丸裸になり、身も心も冷たくなるような風が吹く。
 あたしはこの季節はあまり好きじゃないけど、クリスマスや雪が降るというイベントはとても好き。
 好きな男の子はまだ居ないけれど、いつかできたら、一緒にこのイベントを過ごしたいなと思っていた。

 2~3度、トレーナーとして、世界を旅して、約1年間歩き回ったら、いつもこの村に戻ってきていた。
 旅をすることで、それなりに実力もついたし、旅立つ前と比べて村の子供たちに旅の話をしてあげるくらい知識が深まった。
 あたしは、このまま村で暮らして、適当に遊びながら仕事をして、たまにポケモンバトルをして、他所から来た強くてカッコイイ男性トレーナーと恋に落ちて、子供を産んで……
 そんな女の子が誰でも夢見るような普通の幸せを考えていた。
 ……でも、あの1年前の出来事が、あたしの夢に描いていた理想の幸せを壊してしまった。
 もう、あたしはあの頃の気持ちへ戻ることは、……できない。
 世界を元に戻すことは、もうできない……。
 そう…………思っていた…………



 戦争というものには憧れておった。
 1年前まで、平和なこの世界をあたいは退屈だと感じておった。
 小さい頃から身を削る思いで身につけた剣術。
 それが戦いで役に立つことは、もう皆無だと感じておった。
 あたいがそう願ってしまったためか、世界の平和は気付いたら崩れておった。
 チャンスだと思い、あたいは刀を取って戦場へと赴いた。
 ……じゃが、すぐにそれは間違いだったことを思い知らされた。
 敵はとてつもない強さで、他の人間をばっさばっさとなぎ倒していった。
 そして、油断したあたいも傷つけられて、地面に伏せてしまった。
 あたいは自分の弱さを呪った。
 あれほど修行したのに、まさかこんなことであっさりとあたいの命が戦場で奪われることになろうとは全く予想もしていなかった。
 傷の痛みから、あたいはそのまま目を閉じて、不覚にも気を失ってしまった。

 気がついたら、ケガの手当てをされて、ベッドの上に寝かされていた。
 どういうことか、よくわからず困惑しておったが、横を振り向くと、右手にナイフを持った女が座っておった。
 あたいはベッドから飛び出して、近くに立てかけてあった刀を取った。
 ポカンとあたいを見る女を見て、自分が少々気が立っていたことに気がついた。
 女が持っていたナイフは、果物ナイフであり、その左手にはリンゴが存在した。
 一言、「寝てなくちゃ駄目」と声をかけられたと思うと、刀を没収され、力いっぱいにベッドに押し倒された。
 何か不思議な感じがする女だと思った。
 あたいがケガをしていたとはいえ、全く何の抵抗もできずに押し包められるなんて、男や師匠を相手にした時もなかったことだった。
 1週間、その女の家に泊まり、話を聞いた。
 鍛錬もせずにその家にとどまったことは、あたいにとってこの上ない経験であった。
 あたいは、それから女に黙って旅に出た。
 今度戻ってきた時は、あの人を守れるくらいに強くなることを誓って…………



 なんだ。この世界。
 馬鹿げている。
 腹立つんだよ。
 本当に。
 ポケットモンスター。縮めてポケモン。
 ポケットに入るモンスターだからポケモン。
 そう名付けたのは、間違いもなく、俺たち人間だ。
 ポケモンは人間によって飼われることにより、真価を発揮する生き物。
 それ以上もそれ以下もない。
 ロケット団とか昔のそんな組織のボスがそんなことを言っていたような気がする。
 …………。
 その考えは、すごく正しいだろ。
 ポケモンは一度捕まったら、人間の思うように働くしかない。
 それなのに、どうして、この世界はこんなことになっている?

 馬鹿げている。
 腹立つんだよ。
 本当に。
 そして、馬鹿な人間も嫌いだ。
 数十年前に起こった事件だって、そんな馬鹿な人間がやったことだ。
 母なる海を増やすことによって、世界を支配するとか、馬鹿だろ。
 そんな馬鹿な人間のせいで、ホウエン地方は水没した。
 今でもそれは変わらない。
 理想を掲げる人間ほど愚かな奴はいない。
 どうして、目の前にあることから逃げようとする?
 愚の骨頂だ。
 滑稽すぎる。
 なんだ。この世界。
 馬鹿ばっかりだな。
 ろくな人間がいない。
 こんな世界……俺がぶっ壊してやるよ。
 そして……“あいつら”もな……



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 ある所に、一人の少女がいました。
 その少女は、旅の途中で腹ペコの少年に出会ってポケモンバトルをしたの。
 少年に一切れのパンを渡したことがキッカケで2人は一緒に旅をすることになったわ。
 最初は何てことのない旅の仲間としてみていたのだけど、少女は少年のことが好きになった。
 それは少年も同じで、2人は船の上で生涯を共にすることを誓ったわ。
 しかし、あるとき少年は悪い奴らに攫われてしまうの。
 少女はその悪い奴らと戦おうとしたのだけど、全く歯が立たなかった。
 でも、少女は諦めず少年を追いかけた……
 そして…………



「…………」

 木の椅子に腰をかけて語っていた少女が、ふと黙り込んだ。

「どうしたのお姉ちゃん?」

 スモック(襟無しの丈の長い上着)を着たちっちゃい女の子が首を傾げる。
 いきなり話をやめてしまったので心配そうにしているようだ。

「ゴメン……。今日はこの辺でいい?」

 黒髪のセミロングで、水色のハーフパンツを穿き、その腰周りにはスカートより生地の薄い布を巻いていた。
 首周りがダフッとしているノースリーブの薄いパーカーに、顎の下までファスナを引き上げている。
 10代後半の少女のようだ。

「え?お姉ちゃん。もうお話終わりなの?」

 5歳ほどの女の子が目を潤ます。
 その様子を見て、お話を語っていた女の子は頭をかいて困った顔をする。

「ゴメンね。お姉ちゃん、ちょっと用事があるんだ」
「用事ってなあに?」

 首を傾げて小さい女の子は、お姉ちゃんに問いかける。

「駄目よー。マホ」

 すると、マホという女の子の母親が出てきた。

「お姉ちゃんは忙しいんだから、また今度話をしてをしてもらいなさい」
「はーい……」

 母親にたしなめられると、マホは渋々と返事をして、部屋の奥へと行ってしまった。

「いつもいつもお話をしてもらってゴメンね」

 母親が申し訳なさそうに女の子に謝る。

「いいんですよっ!あたしはこうして話をしているのがとっても好きだし!全然気を遣わなくていいって!」

 さばさばと明るい声でマホの母親に言う。

「そう?それならいいのだけど……」
「じゃ、あたし、行くね!」



 女の子はさばさばしてとても明るい子だった。
 それだけではなく、時折、男勝りなところもあり、活発的な性格のトレーナーだった。
 ポケモントレーナーとして、旅立った時、彼女はジョウト地方を中心に冒険をしていた。
 数年間旅をして、彼女はふるさとのヒワダタウンへ戻ってきて、平穏に暮らしていた。
 しかし……彼女にはある苦しみがあった。

「…………」

 西のゲートを通って、深い森の中へと入り込んだ。
 この場所は、ヒワダタウンの西に位置するウバメの森と言われる場所である。
 森の深さは、ジョウト随一を誇り、地元の人間で無いとすぐに迷ってしまうと言われている。
 また、このウバメの森には祠があり、時折、その祠の近くに謎のポケモンが訪れると言われている。
 彼女は、その祠を横切って、ボーっとして歩いていた。
 その表情に、先ほどのマホと言う女の子に見せたさばさばした明るいイメージも男勝りで活発なイメージも無かった。
 酷く不安で落ち込んだ表情をしていた。

「……ぐすっ……」

 近くの切り株に座って、目元を覆う。
 だが、覆った手が無意味なほどに、涙が頬を伝って、顎から滴り落ちる。

「本当に生きているの……? 生きているなら帰ってきてよ……父さん……母さん……」

 1年前から世界は大変なことになっていた。
 その一ヵ月後に、彼女の父と母はその世界を平和にするために村を飛び出していった。
 それなりに有名なトレーナーだったから、程なく帰って来ると思っていた。
 しかし、一つの手紙以降、何も音沙汰なく今に至る。
 彼女も強いトレーナーではあるが、村の外を出ることは滅多にない。
 たまにコガネシティへ行って、買物と情報を収集する程度である。

「お婆ちゃん……あたし……どうすればいいの……?」

 元来から彼女の父と母は両方とも、ヒワダタウンにとどまっていることはなかった。
 父が村にいると母が居て、母が村にいると父が旅に出る。
 ほとんど入れ違いな生活をしていることが多いのだが、酷いときになると、どちらも居ないことがあった。
 そんなこともあり、彼女は祖母の家に預けられていたことが多かった。
 父と母とはあまり会う事ができないために、彼女は祖母が一番好きだった。
 だが、世界が大変になってから、彼女は祖母には一度も会っていない。
 最近では、通信機器とかもメチャクチャにされて、連絡さえも取れない状況にされている。
 不安で、不安で彼女は仕方が無かった。
 なおも、彼女は涙を流し続ける。

 その時だった。

「……?」

 辺りに不思議な風が吹き始めた。
 彼女はそれを感じ取ったのか、自然と泣くことをやめた。

「……一体、なあに……?」

 立ち上がって、風を感じてみる。
 身を風に委ねて、どの方向から風が吹いているのかを瞬時に見極めた。

「こっち……?」

 瞬時に判断して、彼女は駆け出した。

「(何かが起ころうとしている……?こんなこと、今までなかったもの……)」

 感じたことのない大きな風のうねりが彼女に期待と不安の両方を予感させる。
 そして、息を切らしてたどり着いたのは……

「祠……?」

 少女はウバメの森にただ一つ存在する祠の前に来ていた。

「なっ……?光り始めた?」

 ピカッ!と、大きくまばゆい光が放たれたかと思うと、光は少しずつ、少しずつ小さくなっていった。
 彼女は手で目を覆って、その様子を恐る恐る見ていた。
 するとどうしたことだろうか。

「……なっ!!なに、これっ!!なんなの!?」

 驚くのも無理はなかった。
 彼女の前に姿を現したのは、びしょ濡れの上に、体のあちこちが傷だらけで、血を流して、うなされている男だったのである。

「一体……何があったの……?」

 彼女はとにかく冷静に考えた。
 祠の光に関しては何も分からないけれど、もしかしたら、また“あいつら”の仕業によって傷ついた人なのかも。
 そう思って、彼女は彼を運ぶことにした。

「(にしても……凄い体……)」

 マジマジとその男の身体を見る。
 胴にさらしを巻いていて、そのさらしは血で真っ赤に染まっているが、その男の身体はとても引き締まっていた。
 ちなみに、彼女は元から男と接する機会があまりなかったようで、顔を赤くして見ていた。
 ボーっとしていた彼女は顔をブンブンと振って、気を取り直した。

「い、急いで家に運んで手当てをしないと!!」

 男の手を自分の首に回して、担ごうとする。
 少女の身長は170センチくらいはありそうで女性の中では大きい方だと思うが、男の身長は180センチほどあり、運ぼうとするのは大変だった。
 男の血で服を汚しながらも、少女は彼を支えて、急いで家に向かっていったのだった。



 たった一つの行路 №176
 第三幕 The End of Light and Darkness
 出会い 終わり 



 そして、彼女の運命の歯車は彼に出会ったことよって廻り始める……


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Last-modified: 2015-06-23 (火) 21:45:01
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