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たった一つの行路 №173

/たった一つの行路 №173

 ☆前回のあらすじ
 オトハを守るためにクロノと戦うカツトシ。
 だが、圧倒的な実力差の前に、カツトシは倒されて、オトハはクロノに攫われてしまう。
 一方、ユウナとログはナポロンが所属するCLAW<クラウ>と呼ばれる謎の組織のアジトへ潜入したのだった。



「あんたは……シファー?」

 ログは目を丸くして、相手の男の名前を呟く。

「久しぶりだな。ログ」

 口元を緩ませて、シファーはログの名前を優しく呼ぶ。

「シファー……まさかあんたが謎の組織に加担していたとは驚いたよ」
「ふっ。ログがSHOP-GEARに所属している方が驚きだ。そして、君の表現は間違っている」
「……どういう意味かな?」
「組織に加担しているのではない。この組織を動かしているんだよ」
「……!! まさか、あんたがボスなのか!?」
「……そうさ」

 ログはモンスターボールを構える。

「そう構えるな。昔のよしみで提案がある」
「提案……?」
「そうだ。君も私の組織……CLAWに入らないか?」
「……CLAW……」

 シファーの口からこぼれる組織の名をログは呟く。

「それが、あんたの組織の名前なのか……」
「そうさ。それでどうする?」

 ログはボールの開閉スイッチを押した。
 中から飛び出してきたのは、ムクホークだ。

「……昔のよしみと言えど、今の僕に大切なのは、あんたたちを潰すことだよ」

 そういうと、シファーはじーっとログを見つめる。
 数秒見つめた後、シファーは指をパチンと鳴らしてから頷いた。

「君がそうしようとしているのは、何のためだ?クク……そう、それは金のためだろう」
「…………」
「金ならたんまり弾むよ。それならどうだい?」
「…………」

 黙りこむログ。

「“あんなこと”があったから、君はお金を貯めているんだろ?私にはわかっている」
「…………。そうさ。僕はそのためだけにお金を貯めているんだ」
「じゃあ、迷うことはない。君が望む分だけのお金を約束しよう。それくらいに応えられるくらいの財力を私は持っている」
「(だけど……)」

 俯くログ。ムクホークはログを困惑した様子で見ていた。

「(……ユウナのことを裏切ることになる……)」
「裏切りに迷っているのか?君らしくないな。君はいつも自分にとって大事なことをわかっていたじゃないか」
「…………」

 しばしログはそのまま黙り込んでいたのだった。



 たった一つの行路 №173



 27

 ―――廃れた工場(元シャドーの秘密工場)の地下。
 見つけた隠し階段をゆっくりとユウナは降っていた。
 階段はコンクリートでできていて、よっぽどのことがない限り崩れそうにはない。
 下は暗がりでよく見えないために、一歩一歩慎重に降るしかなかった。
 暗がりで底のない様に見えたが、どんな階段にも終わりはあるもので、3分ほどで階段を降り終えた。

「参ったわね……」

 愛用の情報機器、I☆NAをいじりながら、ユウナは呟く。
 I☆NAとは、ユウナがロケット団時代にパソコン、ポケギア、ポケナビなどの利点を兼ね揃え、小さくさせたとっておきのアイテムである。
 その機器に、ユウナ特製の折り畳み式ミニキーボードや電波受信アンテナ、アップグレードや不思議なパッチなどのアイテムを取り付けることもできる。
 今、ユウナが起動させようとしたのはマップアプリケーションだ。
 それは、洞窟や地下を探検する時に使う機能で、マップの地図を簡単に割り出してくれるものなのである。
 だけど、今回はそれが起動しないらしい。

「(もしかして、無線や電波の類の全てが遮断されているのかしら……)」

 I☆NAの電源を切って、いつもどおり右腰のベルトに引っ掛けると、改めて前を見た。
 道は左右に分かれていて、階段とは違い、電灯が道を照らして明るかった。

「自力で行くしかないわね。罠にかからないよう慎重に行かないと……」

 ユウナはこういう潜入とかをするのは苦手ではなかった。
 子供の時……つまりロケット団時代に、潜入訓練や侵入訓練などを身体で叩き込まれてきたのである。
 今のユウナがあるのも、ロケット団時代があったからなのである。
 ただ、本人にとって、それは忌まわしいものでしかないのだが。
 道を左に進んだ。
 敵に見つからないように、気配を消して慎重にだ。
 そのまま数分間、直進していった。

「(敵の気配はない……。このフロアにはいないのかしら?)」

 そして、ユウナは見覚えのある場所に来たと思い知らされる。
 自分が迷った時のためにとつけておいた壁の傷が、そこにあったのである。

「(つまり、ここは円環状になっているのね)」

 一周してユウナが把握したのは、ドーナッツ状になっていることと、周る途中でドアが4つあったこと。
 そして、その4つのドアにA~Dのアルファベットが刻まれていることだった。

「(今は食事の時間かしら?それとも、何かの作戦で出払っているかで基地はもぬけの空か……? いえ、ジュンキの言っていた怪しい男は必ず居るはず……。それにまだ下へ行くための階段があるのかもしれないわ。それならドアの向こうを調べてみるのがいいわね)」

 とりあえず、ユウナはフロアを調べて見ることにした。
 入り口から見て左へ進み、最初のドアに手をかける。
 恐る恐るAと刻まれているドアを開けて、ゆっくりと入っていく。

「……倉庫みたいね」

 特になんてことはなく、木箱や樽が多く存在している部屋だった。
 しかし、普通の倉庫より広く、通路は奥まで続いていた。

「(こういう倉庫の奥なんかに下へ進むための階段が見つかったりするのよね)」

 ユウナは再びI☆NAを起動させた。
 今度はマップアプリケーションではなく、カメラを起動させていた。

「(これで罠もバッチリね)」

 罠感知のアプリケーションだ。
 カメラで写した場所にある見えない罠をディスプレイに表示するというシステムである。
 映像を確認しながら、ゆっくりとユウナは進んで行った。

「(樽とかに入っているのって食料かしら?)」

 進みながら、漂ってくる匂いにユウナは気付いた。
 果物や酒のにおいなど、食欲をそそるものだった。



 ―――2分後。

「(何もなかったわね)」

 結局、進んだけれどもそこは行き止まりだった。
 潔く振り返って戻ろう一歩踏み出した。
 その時だった。

 フシュー!!

「……うっ!!これは……」

 目視で下を見ると、床が罠のパネルに変わっていた。
 しかも、そのパネルは相手に睡魔を催す睡眠ガスのパネル。
 どんなポケモンでも一瞬で眠らす代物である。
 それは人間にも有効で、効き目はユウナにもすぐ現れる。

「……くっ……」

 しかし、倒れる前に一つのモンスターボールを転がり落とした。
 中から出てきたのは、レアコイル。

「『電気ショック』…よ」

 それに頷くレアコイル。
 倒れそうになるユウナに向かって軽く電気を放つ。
 ユウナは呻き声をあげるが、何とか倒れそうなところを踏みとどまった。

「……つぅ……危なかったわ。この部屋は奥まで来ると罠が作動するようになっているのね……」

 I☆NAのディスプレイを見て納得した。
 進んできた道が罠でびっしりと程よく埋まっているのである。

「(さっきまで見えなかった罠が見える。よっぽど高度な罠なのね)」

 自分が歩いてきた場所のパネル辺りに罠が敷き詰められていた。
 だから、ユウナが無事に戻るには、さっき歩かなかった場所を歩けばいい。
 早い話は、罠感知のディスプレイを見ながら戻ってくればいい話である。

「危なかったわ」

 素早くかつ慎重にユウナはそのAフロアを脱出した。
 そして、ユウナはフロアを出て同じ方向へ進み、次のドアを開く。
 Dのアルファベットが刻まれていた。

「……階段……見つけたわ」

 開くとすぐ階段になっていた。
 下から光が見えて、それに向かってユウナは降って行く。

「(……人の声?)」

 ユウナはゆっくりと声の方向へと進んで行った。



「さっきの女の子は結局どうなったの?」
「あー。ナポロンさんが“――階”の“―――”フロアへ連れて行ったみたいですよ」

 2人の下っ端の女、ラフィとシャトレだ。

「そういえば、なんであの部屋にナポロンさんがいたのよ?」
「それは、その部屋の“―――”に用事があったからじゃないのです?」
「(少し聞き取りにくいわね)」

 階段を完全に降り下りて、壁伝いになり、2人に見つからないように聞いていた。

「とりあえず、この階のFフロアに行こう?ちょっと、疲れたー」
「え?ラフィ、さっきもコーヒーを飲みに行ったばかりでしょう?」

 そう控え目の女、シャトレは苦笑いで文句を言いつつも、気ままな女のラフィについていったのだった。

「(Fフロア……。ココには6つ以上の部屋があるってことかしら?)」

 とりあえず、慎重にその2人の後をつけていくことにした。



 ―――3分後。

「やっぱり、四階へ行こうかな……」
「えっ?休憩するんじゃないのです?」

 ラフィの言動にとぎまきするシャトレ。

「アルドスさんに言って私もダークポケモンを貰ってくるの」
「そう簡単にくれるかな……?」
「(ダークポケモン……ここの地下で作っているの……?)」

 ユウナは息を呑んで彼女達の話を聞く。

「頼んでみないことにはわからないじゃない!早く行こ!」
「待ってよー」

 そういうと、下っ端2人はEと書かれているドアを開けて入っていった。
 ユウナが慎重に覗くと、さらに下へと続く階段があった。

「(いい調子ね。このまま四階に行って、ダークポケモンの工場を壊せるわ)」

 そして、ユウナは2人を追いかけていった。
 同じように階段を降り、地下三階にたどり着いた。

「(どの階も4部屋みたいね)」

 二階も数えると4つのドアが存在していた。

「(ということは、単純に考えて最低四階まであって、部屋数が4で、16部屋ってところかしら……?)」

 ふと、通路で2人の女が止まった。
 ユウナも慌てて止まった。

「ここまで来ればいいでしょ?侵入者さん」
「出て来たらどうです?」
「!!」

 2人の声は明らかにユウナに向けられていた。

「(なんでバレたの……? 尾行は完璧だったはず……)」

 冷静に分析しつつ、ユウナはポケモンを繰り出していた。

「ブラりん、『黒い眼差し』!!」

 先手必勝。
 ユウナは2人が逃げないように、素早く策を講じた。

「くっ……」
「んー……」

 増援を呼ぼうとした、シャトレは逃げられずにこけた。
 もう一人の勝気なラフィはすでにモンスターボールを構えていた。

「(下っ端程度には負けないわよ)」
「残念だけど、そこまでよ~♪ 『ロケット団の娘:ユウナ』!!」

 ふと、ユウナは後ろを振り向いた。
 すると、首に鈴をつけた女がそこにいた。
 アゲトビレッジの聖なる祠を壊した張本人でもあった。

「あなたは……」
「お久しぶりね。そんなことよりも、これを見たらどうかしら?」
「これ……?」

 ベルはユウナに壁に埋め込まれているモニターを指差した。
 そこで見たものは……

「えっ!?」
“ここからだしてよぉー!!ラグナおじさまー!!ミライおねえちゃんー。トキオおじさんー。たすけてー”

 牢屋のような場所に拘置されているカズミの姿だった。

「なんでカズミがここにいるの!?」
「そんなの決まっているじゃない。あたしたちがここに連れてきたのよ」
「…………!! (ミライやフウトは無事なの……!?)」

 ユウナに不安が過ぎる。

「という訳で、この子を傷つけたくなければ、大人しく捕まりなさい」
「……あなたたち……本当に卑怯ね……」

 ブラッキーを戻して、ユウナは拳をギュッと握り締める。

「いい子ね。そのまま……」

 ラフィとシャトレが後ろからユウナを抑えようとポケモンを出して襲い掛かる。
 ヤミラミとグランブルだ。

「なっ!?」 「え……?」

 だが、2人は予想だにもしなかった
 彼女に鋭い眼でにらみつけられて、2人は怯んだ。
 その目は追い詰められている目ではなかった。
 そう感じた時、2匹は炎に飲み込まれた。
 一瞬のうちにヤミラミとグランブルはダウンしてしまった。

「ああっ!!」 「いやぁっ!!」

 そして、2人も攻撃に巻き込まれて気絶した。

「……あんた……」

 ベルはユウナとそのポケモン、ウインディを見てモンスターボールを構える。

「……可愛いカズミちゃんがどうなってもいいって言うの!?」

 ユウナは身を翻して、ベルを睨みつける。

「私は脅しに屈しないわ。あなたがどんなカードを持っていようと、自分の身が自由な限り戦い抜くわよ」
「……そういうこと……。厄介ね~あんた……」

 そう言って、ベルはプクリンを繰り出す。

「私はあなたたちの思うようにはならないわ。ウイりん、『フレアドライブ』!!」

 炎を纏って、突っ込んでいく。

「プクリン、『膨らむ』よ」

 プクーッと膨れて、突進してきたウインディのフレアドライブの攻撃を吸収しようとするプクリン。
 だけど、確実に炎でプクリンはダメージを受けていた。
 プクリンは壁にぶつけられたが、持ち前の弾力性でダメージを軽減する。

「弾き飛ばして!」

 そして、密着しているウインディをポンッと吹っ飛ばす。
 まるで砲弾のようにウインディは吹っ飛ばされる。
 転がっていくが、体勢を立て直し、地面を踏ん張って、なんとか壁にぶつかるのだけは阻止することができた。

「『火炎放射』よ!!」
「『吹雪』!!」

 両者共に、遠距離系の技を繰り出していく。
 属性的にはウインディの攻撃の方が有利なのだが、プクリンの攻撃は威力が高いらしく、結局は互角だった。

「(あのプクリン、なかなか攻撃力があるわね。ちょっと厄介だわ) ウイりん、『スパイラルショット』!!」

 炎の渦と火炎放射を合体させた螺旋の炎がプクリンに向かって放たれる。
 これはユウナのウイりんのとっておきの技だ。

「プクリン、『捨て身タックル』!!」

 プクリンは防御に出なかった。
 逆にウイりんに向かって突進してきた。
 プクリンは炎の中に飲み込まれていった。
 炎と共にプクリンは壁に押しやられた。
 プクリンはノックアウトした。

「リングマ!」
「それなら、ブラりん!」

 ユウナはウイりんを戻して、ブラッキーを繰り出した。
 戦いはアゲトビレッジの時とまったく同じ組み合わせになった。

「見せてあげるわ!『ティーターン・クロー』!!」
「!!」

 右腕に強大なオーラをまとうリングマ。
 その力は、『切り裂く』とか『アームハンマー』とか、その程度のレベルでは推し量れないような威力を持っていた。

「回避して!」

 ゴゴッ!!

 コンクリートの地面を軽く抉る取ったリングマ。
 そして、その抉り取ったコンクリートを投げつけてくる。
 ブラッキーは横っ飛びをして軽くかわし、ユウナも飛び退いた。

「ブラりん、『電光石火』!!」

 一方、スピード技でリングマの周りをチクチク攻撃する。

 スピードで翻弄するブラッキーとパワーで押し切るリングマ。
 この戦いは長引くと思われた……

「『スパイラルショット』!!」
「なっ!?」
「くっ!!」

 突如、強大な風が巻き起こった。
 それは、炎による攻撃ではなく、風による攻撃だった。
 それによって、ブラッキーとリングマがそれぞれ吹っ飛ばされる。

「……! ここにいたのね」

 後ろを見てユウナは確認した。
 紫色のスカーフを口元で覆った怪しい男。

「でも、ログ。ここは私にやらせて。あの女は私が倒すわ」

 腕をログの前に出してユウナは制した。
 ベルと戦うのに集中して、前を見た。

 メリッ

 不意に変な音がした。

「……がっ……」

 気付くと自分のお腹にはムクホークのくちばしがめり込んでいた。
 何が起きたか、それではっきりしたけれども、どうしてこんなことになったかが、よくわからなかった。

「……ど…うい…う…こと……?」

 ムクホークはユウナから離れると、マスターの元へ飛んで行った。
 そして、ボールの中に戻っていった。
 ユウナの目の先にいるのは紛れもないログだ。

「……ユウナ。僕はSHOP-GEARを抜けさせてもらう。どうしても、僕にはお金が必要なのさ」
「……あなた……」

 ログの胸倉を掴もうとするが、身体が言うことを聞かない。
 視界が狭くなり、ブラックアウトした。
 そして、手を伸ばしたまま、ばたっと音を立ててユウナは倒れてしまったのだった…………



 第三幕 The End of Light and Darkness
 「私は脅しに屈しないわ」 終わり


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Last-modified: 2015-06-20 (土) 12:15:57
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