☆前回のあらすじ
バギマから風霧のボス、バドリスの居場所を聞き出したリクたち。
ケイとミナミはバドリスを討つ為にラルガタワーへと向かって行った。
一方、謎のタキシードの男を追っていたジュンキとアイだったが、2人はケンカをしてしまい、アイは勝手に先へ進んでしまった。
しかも、次々とポケモンのトラップや落とし穴にかかり、そして、訛りのある謎のタキシード男と遭遇してしまった。
プルルルル……
プルルルル……
受話器から同じ発信音だけが、6度、7度……流れていく。
しかし、どれだけリクが呼び出そうとも繋がることはなかった。
「参りましたね。全然繋がらないですね……」
バンのP☆DAやジュンキのポケギア、そしてSHOP-GEARの電話にかけてみてもまったく繋がらないのだった。
「皆さん……大丈夫でしょうか……?」
たった一つの行路 №171
「侵入者だNA?」
相手の構えを見てアイは息を呑んだ。
「(やっぱり、このおじさん……只者じゃないみたい……)」
じりじりと一歩引いて、アイは拳をギュッと握り締める。
「リブラ号で変なポケモンを逃がしているのは、おじさんでしょ?」
「変なポケモンとはなんDA?」
「惚けないでよ!ハサミが変色するグライオンとか、手の花が大きくなるロズレイドとか……全ておじさんが原因なんでしょ!?」
「FUFUFU……」
「……?」
不敵に笑う男にアイは首を傾げる。
「私が原因というには少し間違いがあるNE。私はただポケモンをその場所へ運んだに過ぎないのだYO」
「……じゃあ、ポケモンをそのようにした原因は他にあるのね……?」
「だが、それを知ってどうする気DA?」
「決まっているでしょ!」
アイは腰のバックルについているモンスターボールを取った。
「おじさんを倒して、その原因を突き止めるの!」
「FUFUFU……」
笑う男に向かって、葉っぱカッターを打つ。
しかし、余裕の表情で1枚1枚をかわしていく。
「ブイブイ!!」
だが、葉っぱカッターはアイにとって陽動だった。
葉っぱカッターをかわしきるころには、ブイブイ……リーフィアが男の足元から飛び出したのである。
穴を掘る攻撃だ。
「FUFUFU……なかなかやるNE。相手になってなるYO」
穴を掘る攻撃で飛ばされるが、男は宙を舞う状態から、スターミーを繰り出した。
しかも、それに乗って空中を自在に動き回る。
「(狙いが定まらない!)」
連続で葉っぱカッターを繰り出すものの、スターミーのスピードが速くて攻撃が当たらない。
「ほら、こっちDA。こっちだYO」
男はおちょくる様にあちらこちら動き回り、アイとブイブイを撹乱した。
「それなら、これでどう!?『草笛』!!」
口に葉っぱを当てて、眠気を誘うメロディをフロア全体に流してやる。
これなら、相手のスピードが速くても関係ない。
……とアイは思っていた。
「いい考えだけど、遅かったNA」
「……え!?きゃあっ!!」
ズドゴォンッ!!!!
アイの気づかぬ間に繰り出したオオスバメの一撃が、アイとリーフィアに炸裂した。
いとも簡単に吹っ飛ばされて、アイとリーフィアは気絶してしまった、
「『蒼燕斬』DA。スターミーと共に素早く動く最中、私がオオスバメのモンスターボールを落としたことに気付かなかったのが、お前の敗因DA」
男はアイにそういうが、すでにうつ伏せに倒れて何も言わなかった。
「FUFUFU……お前みたいな子供が本気で私に勝てるとでも思ったのKA?」
「……あれ?」
ふと、この部屋に鈴をつけた女が入ってきた。
「ナポロン……あんた、シロに貸し付けた部屋で何をやっているの?」
「ベルさんですKA。いろいろと部屋を探検していたのですYO」
「いい加減、部屋の間取りくらい覚えたらどう?」
「物覚えが悪くてすみませんNE」
「まぁ、記憶喪失とはいえ“あいつ”の推薦で、しかも実力があるって言うんだから、問題はないけどね。……ん?」
ふと、ベルは倒れているアイを見た。
「その子供は侵入者みたいだったので、一応倒しておきましたYO」
「間違ってここに入ってきたのかもしれないけど……。まー、一応、空き部屋に捕まえておいた方がいいかもね」
ベルはアイを抱えあげた。
「ところで、シロって誰ですKA?」
「……。あんた、記憶喪失じゃなくて、単に記憶能力がないだけじゃないの?」
そういって、ベルは深いため息をつくのだった。
22
ギュッとタオルを絞る。
すると、滲み込んでいた水が音を立てて下へ落ちていく。
タオルはすぐに広げて、丁寧にたたむ。
程よく形を整えた後、彼は今もまだ眠る彼女の額に絞りたての冷たいタオルを置いた。
「…………」
少しの間、彼女の顔を見ていたが、すぐにやらなくてはいけない事があると気づき、さっさと次のタオルに手を取った。
別のタオルに水を滲み込ませて、先ほどと同じようにギュッと絞り、形を整える。
今度は、柄の悪そうな男の額にタオルを乗せてやった。
一通りタオルを取り替えてやると、彼……カツトシは手を擦って一息ついて椅子に座った。
「(冷た……)」
洗面器に氷と水を入れて、その中にタオルを入れて絞っていたカツトシ。
いくらオーレ地方で砂漠の中のある街で、ある程度温かいといえども、氷水となれば話は別。
手を擦ったり、頬に手をつけたりして、早く手が暖まるように努めていた。
「それにしても……この男は一体何があったんだろう……?」
オトハを助けるためにバトル山近くのポケスポットへと赴いたカツトシは、その帰り道で不審な煙が昇っているのを見つけた。
気になったカツトシは、レンタルのスクーターを走らせて、その場へとやってきた。
そこで見つけたのは、黒焦げになっていたバンの姿だった。
カツトシはバンの事を知らなかったが、彼のポケモンは5匹とも全て戦闘不能になっている上に、致命傷を負っていた。
ボールが一つ空で、ポケモンが助けに呼んだのかと思っていたのだが、周りを見ても助けを呼んでいるようなポケモンはいなかった。
そのような瀕死の状態の人間をカツトシは放っておけなかった。
―――「早く、医者に見せてあげないと!!」―――
背丈が自分よりあるバンを背負って、カツトシはスクーターを走らせた。
フェナスシティへ着いて、医者に見せた。
医者が言うには、威力の高い電撃攻撃か炎攻撃を受けたのではないかと見方をしている。
1週間は絶対安静にしていなければならないと医者に言われたのだった。
そして、3日が経っていた。
オトハには『聖なる灰』を飲ませているが、未だ起きる気配がない。
けど、寝息を立てているから恐らく大丈夫なのだろうとカツトシは解釈する。
バンも同じく目を覚ます気配がない。
こちらは、ケガの具合が酷く、あちらこちらに包帯が巻かれている。
起きないのは当然だと、カツトシは考えていた。
「…………」
何もすることがなく、外へと飛び出した。
カツトシが泊まっている場所は、ポケモンセンターではなく、誰も住んでいない貸家だった。
お金を払えば泊まっていいという大家の了承を得て、ここでバンとオトハの介抱をしつつ自らも身体を休めていた。
「(それにしても、これからどうすればいいんだろう……)」
カツトシはバトル山のポケスポット深部でホウオウと話したことを思い出していた。
ダークポケモンは普通のポケモンではなく、人を襲うということ。
しかも、現在、ダークポケモンのココロを開く、ある人が開発したリライブホールやアゲトビレッジの祠が壊されているということ。
自らの欲望でポケモンに害をもたらそうとしている組織が居るということ。
ホウオウはそれらを食い止めるためにオーレ地方へ赴いてきたのだという。
―――“私はあなたと違うやり方で止めてみせます。あなたはあなたの信じるやり方でポケモンたちを救ってください”―――
「でも……。それらの方法が潰えている今、どうやってダークポケモンをリライブすればいいんだろう?しかも、ダークポケモンがどこにいるかもわからないし……」
カツトシは完全に途方に暮れていたのだった。
「仕方がない。とりあえず、オトハさんとあの男が元気になってから考えよう……」
そして、カツトシはオトハが寝ている部屋へと戻った。
だが……
「……っ!!」
そこに、見た顔の男が居た。
「お前はッ!!」
ヤツは、一目で見て黒い格好をしていた。
髪も黒く、靴も黒い。
唯一、中に着ているYシャツとズボンにぶら下げているチェーンだけは、白や鉛色だった。
「またお前か」
オトハの髪をさらさらと弄りながら、そう呟いた。
「……クロノ……!! オトハさんから離れろ!!」
「そう騒ぐな。俺の愛しい姫が起きてしまうだろ?」
「誰がお前のだ!?……それにお前がオトハさんを苦しい目に遭わせたんだろ!?」
「そうだ」
クロノはしれっと言った。
「サーナイトのシャドーナイツがオトハを縛り付けている間に、俺はオトハとキスをした。そのときに、闇の波動をあててやった。聖なる属性を持っているオトハにとってはすごく苦しむ羽目になっただろうけどな」
「一体何のために……!?」
「言っただろ。オトハは俺のものだ。他のヤツが触れることは許さない。もし、俺の道を邪魔するなら……」
クロノは黒いオーラを纏ってモンスターボールを手にする。
「俺の力で闇に沈めてやる……」
「……ぐっ……」
そのオーラに当てられて、カツトシは膝をつく。
そして、胸を押さえて苦しみだす。
「(何だ……コイツ……? 苦しい……。コイツと向かい合うことが苦しい……)」
ボールを取ることができず、手は地面に着いたまま動かすことができない。
「そうだ。お前はそこでそうしていろ。俺がここに来たのは、オトハを連れて行くためだ。お前なんかに用はない」
ボールを仕舞うとクロノはオトハに手を伸ばした。
―――「クロノさんは私の幼馴染なんです」―――
カツトシはオトハの言葉を思い出した。
―――「私はクロノさんに罪を償ってもらい、まっとうな道に進ませたいのです。……幼馴染として」―――
「(オトハさん……)」
クロノは振り向いた。
カツトシがゆっくりと立ち上がったのだ。
「…………。何故立ち上がった?そこで下を向いていれば楽だったものを……」
「オトハさんと約束した……。お前にまっとうな道を歩ませるって……。そのために……俺は……お前を全力で倒す!!」
「……まぁいい。スケジュールが少しズレるだけだ」
そうして、2人はモンスターボールを投げつけたのだった。
23
オーレ地方、フェナスシティの西。
その方角にあるのはラルガタワー。
シャドーの統帥、メチャリッチが中心となってお金持ちを呼びかけて出資をし、7年前にそのタワーは完成された。
そのまま、シャドーがダークポケモンの強さを世に見せ付けるために、ラルガタワーで大会を開こうとしていた。
しかし、その目論見は、2人の若者……ハルキとカレンによって止められてしまった。
それ以降、ラルガタワーは純粋にバトルを楽しむ施設として、一般のトレーナーでも気軽に参加できるようになった。
だが、今この場所で大きな騒動が起ころうとしていた。
「クチャクチャ……ついにこのときが来たな」
口の中でクチャクチャと噛み締めているのは、お馴染みのカラス使いのウゴウ。
彼の肩には2匹のヤミカラスが止まって、あくびをしていた。
「そのためには、ちゃんとあっちたちの仕事を果たさないと行けないっスね」
麦藁帽子に、キセルを口から放して煙をプカプカと吸っているのはハヤット。
空から飛び降りて、カイリューをボールに戻していた。
「ふぃー……。私がこんなところに来てよかったのですか?」
緑のサンバイザーを被り、青いショートカットの髪の女性が控え目にそう呟く。
「そんなに謙遜する必要はないっスよ?クイナも立派な幹部の一人なんスから」
「ふぃー……。そ、そうですか?」
一歩引いたような態度でクイナは、恥ずかしそうにそう聞き返した。
「僕もシロよりもクイナの方が幹部にふさわしいと思ってたし。てか、あいつなんて、単に鳥ポケモンに厳しく当たっているだけで愛なんて感じないし」
「まぁ、それは鳥ポケモンだけに言えたことじゃないっスけどね……」
苦笑いを浮かべるハヤット。
「ふぃー……。シロさんとハクさんのことですか?」
「そうだけど。てか、さっきからクイナは何を恐れているんだ?」
「……ハイ?」
ウゴウに聞かれてビクッと反応するクイナ。
「だ、だって、SHOP-GEARのメンバーが来たら、大変じゃないですか……」
「大丈夫っスよ。こっちは幹部三人なんスから」
クイナの肩に手を置いて、安心させるように笑顔を見せるハヤット。
「それに計算によれば人数的意味でも、あっちは2人くらいらしいじゃん。問題はないって」
ハヤットとウゴウにそう言われると、ほっとしてクイナはぺったんこの胸を押さえて、深呼吸したのだった。
彼らがいるのは、ラルガタワーの入り口。
そこで、SHOP-GEARのメンバーを待ち伏せするようだ。
「この調子だと連中が来る前に、バドリスが“あのポケモン”を捕獲して終わりっぽいスけどね」
タワーを見上げてハヤットはそう呟いたのだった。
「ついに……小生の夢のパーティが完成する……」
風霧のボス、バドリスはモンスターボール……いや、市販されているボールの中で最も捕獲成功率の高いハイパーボールを持ってラルガタワーのコロシアムのど真ん中に立っていた。
コロシアムには、バドリス以外、誰もいなかった。
あらかじめ、風霧の幹部達は他の客たちを追い出したようである。
そして、コロシアムには一切立ち入りができないようにしたのである。
「さぁ……かかって来い。小生が憎いだろう?叩き潰したいだろう? ……受けて立とう……」
空がきらりと光る。
すると、虹色の光を纏ってそのポケモンはやってきた。
“ダークポケモンは……あなたたちの仕業なのですね……?”
神々しい光を放って、そのポケモンはバドリスに問いかける。
しかし、まったくその話をバドリスは聞いていない。
ただ、笑みを浮かべて、モンスターボールを取って言った。
「大人しく、小生に捕まるがいい。……ホウオウよ!!」
第三幕 The End of Light and Darkness
「スケジュールが少しズレるだけだ」 終わり