ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №168

/たった一つの行路 №168

 ☆前回のあらすじ
 カツトシは門番である色違いのボスゴドラを撃破して奥へ行くと、ホウオウに出会った。
 ホウオウから『聖なる灰』をもらい、オーレ地方の危機を聞き、フェナスシティへ急いで戻るが、途中で瀕死の状態で倒れているバンを見つけたのだった。
 一方、ミライの前にSHOP-GEARを壊滅させようとするウゴウとアルドスが現れた。
 戦力差の前にミライは追い詰められるが、トキオが駆けつけて…………



「クチャクチャ……本当に手助けしなくていいのか?」

 ガムを噛みながら、ウゴウは気軽にオールバックの青い髪の男に話しかける。

「うるさい!」
「アルドス、もう3匹も倒されているじゃん」
「お前なんか、最初の一撃で、ほとんどのヤミカラスが撃墜されてるだろ?」
「クチャクチャ……まーそうだけど」

 アルドスはギラリとウゴウを睨みながら喋っているのだが、一方のウゴウはそっぽを向いてどうでも良さそうにしていた。

「……サンダース、ローガン流『ドラゴンサンダー』!!」

 トキオのサンダースが、電気の竜を形作り、アルドスへ向かって放った。

「ガルーラ、『ダークエンド』!!」

 ズドォオンッ!!!! バリバリバリッ!!!!

 凄まじい音を立てて、電撃の竜とガルーラがぶつかる。
 だが、ローガンから受け継がれてきた、まるで生き物のような動きをするこの威力の高い攻撃をガルーラは受け止めることができなかった。
 このガルーラがダークポケモンだったにもかかわらず。

「すごい……トキオくん……」

 ミライは自然とそう呟いた。
 ミライにとってトキオは、研究員のイメージしかなく、トキオがポケモンバトルをしているイメージはなかった。
 だから、ミライにとって、本当にトキオは救世主に思えた。

「アルドスー。クチャクチャ……これで、4匹ダウンだーね」

 冷静に呟くウゴウ。
 手助けする気はないらしい。
 ちなみに、ウゴウの腕にはまだ混乱しているカズミが抱えられている。

「あっちはヘルガーとゲンガー、こっちはフーディンにキングドラ、ヘラクロスとダークガルーラがダウン。圧倒的に不利じゃん。確か、アルドスは後一匹だろ?」
「うるさい!!言われなくてもわかってる!!」
「今だ!エアームド!!」
「……!!」

 トキオが奇襲を仕掛けた。
 空からウゴウとアルドスに向かって、鋼の翼を繰り出してきた。

「(これで決まりだ!!)」

 トキオはそう確信した。

 ズシャッン!!!!

「……な?」

 だが、トキオは呆気に取られた。
 攻撃が決まったと思ったときには、エアームドは撃墜させられていたのである。

「いったい何が起きたのです……?」

 ミライも息を呑んで状況を確認する。
 アルドスとウゴウの前にいるのは一匹のバシャーモだった。

「クックック……どうやら、私の出番らしいな」

 カツッ、カツッ、と足を音を立てて、革靴を履き、ブランド物のスーツを着た男はトキオに近づいていく。

「……っ!!」

 トキオは一瞬気後れした。
 相手の醸し出す雰囲気に。
 相手の威圧感に。
 そして、相手の底知れぬ不気味さに。

「(なんだ、コイツは……?……なんか、ヤバイ!!) サンダース!!気をつけろ!!」

 気を引き締めて、トキオはスーツの男と対峙する。

「すみません、シファー様」

 アルドスが謝ると、シファーと呼ばれた男は、彼の肩をぽんと叩いた。
 それから、バシャーモを一旦戻して、別のボールを構えた。

「アルドス、下がっていろ」

 そして、シファーは黒い瞳でトキオを見ていた。

「さぁ……私の久遠なる闇の力……とくと味わうがいい……」
「…………!!」



 たった一つの行路 №168



 18

「ねー」
「…………」

 白のワンピースにベルトをして、その腰のベルトにボールをセットした女の子が尋ねる。

「…………」

 しかし、影の薄そうなその男は答えないため、少女はムスッとして彼に近づく。

 ムギューッ

「―――いい゛っ!!!!」

 声にならない奇声をあげて、影の薄い男は飛び上がった。
 どうやら、耳を抓られたらしい。

「お兄ちゃん、ケライなんだから、アイの言うことは聞きなさい!」

 頬を膨らましながら、彼女……アイは言う。

「何だよ……」

 耳を押さえて、影が薄い男……ジュンキは涙目で聞き返す。

「いったい、アイたちは何のためにこうやって毎日毎日ここで見張りをしなくちゃならないの?」

 アイが不満を漏らしているのは言うまでもない。
 ウソハチを助けたその日から、アイとジュンキはずっとこの場所を張りこんでいるのだ。
 怪しい男の情報をもたらしたのがアイで、本当ならジュンキは一人でここを張りこむつもりだったのである。
 しかし、アイは言った。

―――「ケライは勝手に行動しちゃ駄目だよ!」―――

 勝手に行動しようとしたジュンキを一人にはさせず、アイはついてきたのである。
 一応、ジュンキは危険だから、アイを街に置き去りにして来たつもりだった。
 だが、アイはジュンキの目的地を知っていたために、すぐにここ……リブラ号でジュンキを見つけたのである。
 ここまでついて来られて、ジュンキは反論する気を無くした。
 しかし、それと同時にジュンキは思った。

―――「(この子、トレーナーとしての実力は俺以上だし、問題はないか)」―――

 と。

「イヤなら、家に帰ったらどうだ?俺は一人でも大丈夫だ」
「何を言っているの?お兄ちゃんはアイのケライなの!ケライを野放しにして置けるわけないでしょ!」

 ビシッ!! と、かなり怒った様子でアイは、ジュンキの頬を打つ。

「……つぅ……。わかった。教えるって。アイの言っていた不審な男を捜しているんだ」
「……不審な男……?」
「そう。不審な男だ」
「不審な男」
「ああ」
「不審な男ー!」
「いや、そうだって言っているだろ」

 バキッ! と、ジュンキは再び叩かれる。

「何すんだよ」
「“不審な男”って言っているじゃない!」

 アイは指差しながら、密やかな声で呟いた。

「え?」

 アイに促されて見ると、確かに今まで見たことのない不審な男がいた。

「確かに……こんな砂漠の中、黒いタキシードを着ているなんて怪しい……不審な男にしか見えない……」
「……それで、どうするの?」

 アイはワクワクしながらボールを取り出している。
 そのまま、ジュンキが何もしないと飛び出しそうな勢いだ。

「飛び出したら駄目だぞ?」
「…………」

 ムギューッと無言でアイはジュンキの頬を引っ張った。

「わかってるよ!アイに命令しないで!」
「(……さっき、『どうするの?』って聞かなかったか?)」

 たぶん、そう聞き返しても無駄だろうと思い、突っ込まなかったジュンキだった。

「何をやっているか、見るんでしょ」
「(わかってるんならいいけど……)」

 そうして、タキシード男の行動を観察することにした。
 男は、リブラ号の奥へと進んで行った。
 進むたびに野生のポケモンと遭遇したが、まったく問題にしておらず、エレキブル一匹でリブラ号に棲むアーボックやサンドパンなどの毒系や地面系のポケモンたちを軽く蹴散らしていった。

「(……強い……。バンの兄貴よりも強いかもしれない……)」

 ゴクンと息を呑むジュンキ。
 アイも男の強さがわかっているようで、黙って見ているだけだった。
 やがて、男は奥へとたどり着いた。
 そこで懐から、モンスターボールをいくつか取り出す。
 中から出てきたのは、アーボックやゴローンと言った、ここら辺でもよく見るポケモンである。
 ……普通に見ればの話だが。

「(ポケモンを逃がした?)」

 そのポケモンたちは、互いに戦い合う。
 しかも、よく見るとそのポケモンたちは、異様な力を持っていた。
 攻撃を発動する時のみ、アーボックのキバは大きくなって船の壁を砕くし、エアームドのエアーカッターはまるで散弾銃のように船の壁に穴を開けていった。

「(まるで、あのポケモンたち……この前、捕まえたグライオンみたいじゃないか)」

 最初にリブラ号へ来た時、ジュンキとアイは他の野生のポケモンとは何かが違うグライオンと戦った。
 後日、再び来た時にジュンキは戦って、グライオンをゲットしたのである。
 その時と同じ感覚を、男が逃がしたポケモンから感じたのである。

「(あのポケモンたちをどこから……?)」

 そして、男は振り向いた。

「(まずい)」

 ジュンキとアイは、急いで来た道を戻って行った。
 戦ったら、恐らく2人でも勝ち目は薄いと思い、とにかく、リブラ号を飛び出した。
 そして、物陰に隠れてリブラ号から男が出てくるのを待った。

「お兄ちゃん……あの男を追うわよ」
「……ああ。(ん?)」

 スクーターの準備をしながら、ジュンキは首を傾げた。

「(何で、俺はアイに命令されているんだ?)」

 それは単純に、ジュンキがアイのケライだからである。

「出てきた」

 タキシードの男はモンスターボールを手に持っていた。
 すると、オオスバメを繰り出して、それに捕まって行ってしまった。

「逃がさない!!」
「絶対ね!!」

 こうして、ジュンキとアイは謎の男を追いかけて行ったのだった。



 19

 ―――ポケモン総合研究所跡地。
 テントの中で、トミタ博士はモンスターボールをじっと見ていた。
 ボールの中にはグライオンが入っている。

「トミタ博士……なにかわかりました?」
「……リクくん」

 顔を見上げると、両手に湯飲みを持ったリクの姿があった。

「お茶を淹れて来ました。どうぞ」
「ありがとう」

 お礼を言って、博士は唸り声をあげる。

「傍から見たら普通のポケモンみたいだ。ジュンキくんの言っていたハサミの色を変えて打ち出す技をさっき外で見たけれど……」
「けれど?」
「技が異常と言うだけで、他の部分には何の問題もなかったんだ」
「技が異常で他が問題ない……。つまり、皮膚などの細胞レベルでは、問題がないってことなんですね?」

 トミタ博士はなおも唸りながら頷いた。

「クレインくんは、心の問題じゃないかって言っていたけどね。ダークポケモンみたいに」
「でも、ダークポケモンではないんですよね」
「そうみたい。サーチャーで調べてみたけど、ダークポケモンの反応は得られなかったからね」

 お茶を啜るトミタ博士。

「今、クレインくんとリリアさんがカミンコ博士のところへ行っている。そこで機械を借りて検査をするからそのときにわかると思うよ」
「そうですか」

 リクはその場をトミタ博士に任せて、ノートパソコンを持ち、外へ出た。

「今日は暗雲が立ち込めていますね。オーレ地方でも雨が降るのでしょうか……?」

 カチカチッと、メールフォルダを確認する。

 ピロ~ン♪

「うん?メールが来ている……」

 それはジュンキからのメールだった。
 内容は「怪しい男を見つけることができたからそのまま尾行する」という要件だった。

「ジュンキさんに動きがありましたね。……すぐにユウナさんとバンさんに連絡しないと……」

 急いでメールを作成するリク。
 だが、そのメールを送ることはできなかった。

 ブォンッ!!

「……え?……わっ!!」

 何かが飛んできたと悟り、咄嗟にパソコンを放してその場に尻餅をつくリク。
 しかし、放して正解だった。

「……っ!!パソコンが……!!」

 パソコンは、画面とキーボードが真っ二つに切断されてしまったのである。
 もし放してなかったら、リクもただでは済まなかっただろう。

「バハハ……失敗しちゃったかぁ」
「誰!?」

 声の主を探すと、そこにはツバの長い帽子を被った出っ歯の中年男がいた。

「ツバの長い帽子……!? まさか、風霧!?」
「ぐむ。よくわかったな!それがわかっているなら上出来だ!」

 傍らにいるトロピウスにアイコンタクトをして、リクに向かって手をかざす。

「そんなわけで消えるんだなぁ!バハハ!」
「!!」

 先ほど襲った葉っぱカッターがリクに向かって飛んでくる。

「わわっ!!」

 前方の視界広く飛んでくる葉っぱカッターを何とかかわして、リクは逃げ出す。

「何で僕を狙うんですか!?」
「目的を達成するためには当然のことなんだぁ!バハハ!」
「目的……?僕を倒すことがですか……?」
「そうだろ?だって、お前は……ここにいるってことは、多分、SHOP-GEARのメンバーだろ?」
「え?そうですけど……?」
「じゃあ、くたばれぇ!!」

 さらにおびただしい数の葉っぱカッターがリクに襲い掛かる。

「うわぁっ!!正直に答えるんじゃありませんでした!!」

 そして、逃げに逃げて、リクと出っ歯男は、研究所跡地から林の中へと場所を移していた。

「林かぁ……隠れる場所が豊富だな。しかし、そんなのかんけーねぇ!そんなのかんけーねぇ!『エアスラッシュ』!」

 トロピウスは翼を羽ばたくと、風の刃が横に飛んで行き、一直線上に林を切っていった。
 林は次々と斜めに伐採されて、スライドするように崩れていった。 

「(どうやら隠れるて逃げ切るのは無駄のようですね。それなら……)」

 リクはモンスターボールを取って反撃に出る。

「どこへ行ったんだ?」

 下手に動かずに男はリクの出方をうかがっていた。
 そのとき、ガサリと木で物音がした。

「そこだ!」

 一閃のエアスラッシュ。
 木から出てきたのはモココだ。
 しかし、そのモココはあっけなくエアスラッシュの餌食になってしまう。

「バハハ!弱いぞ!!」

 そして、モココは消滅した。

「……! 『身代わり』か!?」
「モココ!『放電』!!」

 そして、真逆から広範囲の電撃を放つモココ。
 虚を突かれたトロピウスと男は攻撃を避けることはできなかった。

「うぎゃーっ!!」

 ダメージを負って、男は膝をつく。

「モココ、畳み掛けてください!『かみなり』!!」

 放電で麻痺したトロピウスの頭上へと、強力ないかずちを落とした。

「よし……これで……」
「『リーフストーム』!!」
「……え?うわっ!!」

 攻撃は完璧に決まっていた。
 しかし、当たっていてもトロピウスは攻撃を耐え切ったようで、反撃を繰り出してきた。
 強力な緑風を受けて、モココとリクは吹っ飛ばされた。

「ぐっ……」

 ちょうど、飛ばされた先にある木に激突したリク。
 モココはそのままダウンしてしまった。

「こうなったら……ニドキング!『どくづき』!」
「ぐむ。それなら、『エアスラッシュ』!なぎ払え!」

 林を切り裂く刃が襲い掛かる。
 だが、ニドキングはヒョイッとそれをかわすと、トロピウスに一撃をぶち込んだ。

「……ぐむ!?」

 トロピウスは吹っ飛んで、男に命中した。

「ここからが勝負ですよ」

 立ち上がってリクはニドキングの元へと歩み寄る。

「ぐむぅ……毒の追加効果まで受けているか……トロピウスはもう下げた方がよさそうだな」

 そして、トロピウスの代わりにワタッコを繰り出してきた。

「バハハ!『眠り粉』!!」

 ふわふわと移動してきたと思いきや、突如吹いた風に乗ってニドキングの頭に掴みかかった。
 どうやら、攻撃を受けても放さないつもりらしい。

「本当にそれでいいのですか?」
「ぐむ?」
「絶対放しちゃいけませんよ?ニドキング、『角ドリル』!!」

 男は失念していた。
 ニドキングの頭には強力な鋭い角があったことを。
 角はその技の通りドリルのように回転して、凄まじい風を起こした。
 ワタッコはその風に巻き込まれて、吹き飛ばされて、あっという間にダウンしてしまった。
 もちろん、眠り粉も吹っ飛ばしてしまって、無傷でワタッコを倒してしまった。
 ここで一旦、リクはニドキングを戻した。

「以前、風霧のシロという人と戦ってから、少し鍛えたんです。そう簡単に負けるわけには行きません!」
「……ぐむぅ!?元幹部のシロくんと戦ったことがあるんだ!?」

 男は意外そうに呟く。

「そのときはどっちが勝ったんだ?」
「……どっちでもいいじゃないですか!」
「負けたんだな?」
「う……」
「図星だな」
「黙っててください!」
「それなら……シロくんに負けた相手に負けるわけには行かないんだな!オラの名前はバギマ。風霧の新入りだ!バハハ!」
「新入り……」
「といっても、オラにかかっている賞金は25万ポケドル。そこらへんの雑魚と一緒にしないで欲しいだぁ!バハハ!」
「(25万ポケドル……。僕に勝てるのか……?)」

 冷汗を垂らしつつ、リクは新たにモンスターボールを取って投げた。
 林の中の戦いははじまったばかりである。



 第三幕 The End of Light and Darkness
 「そんなのかんけーねぇ!そんなのかんけーねぇ!」 終わり


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-06-16 (火) 06:40:08
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.