☆前回のあらすじ
ヒロトを探すと約束した矢先、オトハは突然倒れてしまう。
カツトシは、オトハを助けるためにバトル山の近くにあるポケスポットへと向かった。
その一方で、バンは風霧の賞金首『風帽子のハヤット』の襲撃を受ける。
そして、ハヤットからキャメットで出会った少女、チドリは風霧の仲間だと言われて…………
「準備はいいな?ウゴウ」
「クチャクチャ……準備ならとっくにできてるって」
ガムを噛みながら、ウゴウは手をポケットに突っ込んでアルドスを睨んでいた。
「それじゃ、ボス。行きましょう」
「クックック……そうだな。すぐに取り掛かろう」
ウゴウ、アルドス、そしてアルドスにボスと呼ばれている男は、ある作戦に取り掛かったのだった。
たった一つの行路 №166
「チドリ……貴様……俺を騙していたな!?」
「…………」
チドリは俯いて何も話さない。
そのことがバンは苛立たせた。
「何か言え!!黙ってんじゃねえよ!!諜報部員ってことは、ずっと俺を監視してたんだろ!?」
「あ……いや……その……」
「(面白い展開っスね~)」
口からキセルと取って、一息するハヤット。
「(この様子を見る限り、チドリはバンに風霧の情報を漏らしていないみたいっス。裏切ったわけでは無いっスね)」
ハヤットはストライクを繰り出した。
「チドリ。どっちらかを選ぶっスよ。バンの味方をするか、それとも、こっちに戻ってくるか。選ぶっス」
「…………」
「(チドリの奴……俺を見張っていたわけじゃないのか?)」
ハヤットの言葉を聞いて、バンは少し落ち着いた。
「バンさん……風霧へ入りませんか?」
「……!?」
「風霧は最強の鳥ポケモン使いたちが集う集団なのです。そのために日夜、がんばっているのです。だから……」
「そのために、アゲトビレッジの祠を壊したり、伝説のポケモンのレックウザを狙ったり……か?」
「……それは……」
バンから目を逸らすチドリ。
「答えはNOだ。貴様らを潰してやる」
「交渉は決裂っスね」
そして、バンとアーボックが動く。
「『毒々の牙』!」
「『剣断ち』!」
ズドッ!!
2匹が正面から激突する。
アーボックの牙とストライクの鎌。
二匹が交錯し、共に体が揺らぐ。
「『ダストシュート』!!」
「さらに『剣断ち』!!」
毒々しく黒い液体をストライクに向かって放とうとする。
だが、アーボックは動けない。
一方のストライクは先ほどと同じく剣の舞をしながらの居合い斬りで襲い掛かる。
「(トゲキッスとの戦いのダメージが残ってっか!?) アーボック!『蛇睨み』!!」
「さっきの手は通用しないっス!」
実は、トゲキッスの時に捨て身タックルを防いだのはこの方法だった。
アーボックの『蛇睨み』と特性の『威嚇』でダブル威圧で相手の勢いを削いだのだ。
しかし、今度はそうは行かなかった。
剣の舞で風を巻き起こしながらの突撃で、アーボックの威圧をもろともせずに一気に切り裂いた。
「チッ……厄介な技を……。ライボルト!!」
「電気系のポケモンっスか。しかし、あっちたちに安易な電気攻撃が通用するとは思わない方がいいっスよ!」
「それはどうだかな!『電撃波』!!」
「ストライク!『剣断ち』!!」
集束した電撃がストライクに命中した。
だが……
「効かないっスよ!!」
電撃が剣の舞で巻き上げている風によって弾かれて、ストライクには届かない。
さらに、ライボルトへ鎌の一閃。
「……厄介この上ねえ!『チャージビーム』連発!!」
何とか鋭い一撃を耐え切り、電撃を形振り構わず撒き散らす。
「そんなの当たらないっスよ!!」
正確に弾道を見切って攻撃をかわしている。
ストライクの能力は剣の舞による防御だけではないらしい。
「ちょこまかと……!!」
そして、攻撃を休まず続けるライボルトにはやがて疲れが押し寄せてくる。
ついにはチャージビームを止めてしまった。
「チャンスっス!!『剣断ち』!!」
このストライクの剣断ちは一撃一撃打つたびに威力が増していった。
その理由は剣の舞による攻撃力上昇である。
ライボルトに攻撃が襲い掛かる。
「それはこっちも同じなんだよ!!ライボルト、『電撃波』!!」
最初の激突と同じ攻撃同士になった。
「結果は明らかっスよ!?最初に見せたじゃないっスか」
「舐めんじゃねえ!こっちはライボルトの身体が暖まったとこだ!」
バンの言うことは、間違ってはいなかった。
電撃波の威力は、最初の時と比べると桁違いだった。
「『チャージビーム』で自分の攻撃力を上げていたからっスか?同じことっスよ。それを含めた上であっちは言ったんスよ!!」
風と電気の激突。
そして、最終的には爆発した。
ライボルトとストライクは共に爆発の影響で吹っ飛ばされて、結果は相打ちだった。
「(……予想が外れたっスね……) カイリュー!行くっスよ!!」
「……!」
ストライクがダウンしたことを確認するや否や、待機していたカイリューにすぐ指示を出すハヤット。
予想をしていなかった展開にも関わらず、バンは切り替えしが早かった。
「ハガネール!出番だ!」
猛スピードで突っ込んでくるカイリューに対して、硬い身体で攻撃を押さえ込もうとした。
だが……
「『炎のパンチ』っス!!」
スピード+弱点の攻撃を受けて、ハガネールは吹っ飛ばされた。
ハガネールは頑丈である。
しかし、カイリューの力も生半可ではない。
「もう一度っス!!」
「『アイアンテール』だ!打っ飛ばせ!!」
同じ攻撃を繰り出してきたカイリューを迎え撃つ。
だが、カイリューは攻撃を回避して、顔に炎のパンチをヒットさせた。
そのまま、連続でラッシュをかけて、ハガネールに隙を与えない。
「ちっ!『アイアンヘッド』!!」
スカッ!
瞬時の行動も、カイリューは後退して攻撃をかわしてしまう。
そして、カイリューは息を吸い込んだ。
「『大文字』っス!!」
指示と同時に炎がハガネールに襲い掛かる。
「(これを受けたら終わりだ)『竜の息吹』!!」
攻撃を相殺しようと放つ。
2匹の攻撃はカイリューがやや押し気味だったが、結局途中で爆発して相殺で終わってしまった。
その爆発の勢いにカイリューはバランスを崩した。
「そこだ!捕らえろ!!」
一方のハガネールは爆発の影響をもろともせずに、カイリューに接近していた。
そして、尻尾を伸ばして爆発に戸惑うカイリューを捕らえて締め付けた。
「カイリュー!そのまま『大文字』っスよ!!」
「そこから叩きつけろ!!」
少し早くカイリューが炎を放ち、ハガネールにダメージを与えた。
しかし、それは少しの差で、結局はハガネールがカイリューを地面にたたきつけた。
そして、さらに地面に投げ飛ばして、カイリューは地面に倒れる。
「まだっスよ!!」
「トドメだ!『アイアンテール』!!」
立ち上がろうとするカイリューに追撃する。
だが、カイリューはここで穴を掘って攻撃を回避した。
「何っ!?」
そして、カイリューがハガネールの懐から現れて、頭を思いっきり攻撃した。
「決めるっス!『大文字』!!」
「ちっ!『捨て身タックル』!!」
近距離戦だった。
ゆえに、カイリューの大文字は攻撃を活かせるレンジではなかった。
攻撃は確かにハガネールに命中したが、大文字の最大パワーに達する前にハガネールの一撃がカイリューにヒットした。
そのまま、カイリューは悶絶し、ダウンした。
「(ギリギリだな……)」
ハガネールの体力を見て、バンは唇を噛み締める。
「本当にやるっスね。やっぱ、『王侯の潰し屋』という異名はダテじゃないっスね」
カイリューを戻して、ハヤットは次のボールを取ろうとしていた。
「ここまでだ」
「……?」
しかし、一人の男の声がそれを遮った。
その男の格好は、黄色いマントを羽織っていた。
あまり、おしゃれとは言えない。
そして、存在感もあるとは言いにくかった。
「……なんだ、貴様!?」
さらに、バンよりも身長が低く、160センチあるかないかギリギリだった。
「あらら……あっちだけでいいって言ったのに、バドリスまで来ちゃったんスか?」
「……バドリス……?」
「……ボスのバドリスさん……」
「ボス?こいつが、風霧の……!?」
岩陰に隠れているチドリの声を聞いて、バンはその男を睨みつける。
チドリは息を呑んでその様子を見ていた。
「君が『王侯の潰し屋:バン』か……。ハヤットと互角以上とは、やはりあいつらが言っていたことは正しかったようだ」
「バドリス~。互角以上って、まだあっちは負けてないっスよ?」
「いや、ハヤット。君がこのまま戦っても、恐らく勝てはしないだろう。良くて相打ちだろう」
「あっちにはまだ、バドリスに見せてないとっておきがいるっス」
ハヤットは軽い口調でボスに文句を言う。
名前で呼び合っていることから、バドリスとハヤットは結構仲がいいらしい。
「あいつらって誰のことだ!?」
バンがギラッと睨みつける。
「知る必要はないよ。君は小生によって、翼をもがれ、地面に這いつくばるがいい。そして……」
バドリスがボールを構える。
「君が持っているレックウザ……小生の手に委ねて貰おう」
「ケッ。やっぱり貴様の目的は、俺様のレックウザか!望むところだ!!」
バンはハクリューを繰り出した。
「行けッ!!」
「さぁ……小生の鳥ポケモンの力、君に見せてあげよう」
そして、バドリスのモンスターボールが開かれた。
「……なっ!?このポケモンは!?」
バンはそのポケモンたちを見て、息を呑んだ。
「あっちのボスのバドリスは、強いっスよ?あっちと連戦でバドリスに勝てると思わないことっスね。もっとも……」
バリバリバリッ!!!!
凄まじい攻撃音が響き渡った。
「あっちと戦わなくても、ボスには敵わないっスけどね」
15
「ふう……ここか……」
バトル山……の近くの洞窟。
そこには、ポケスポットと呼ばれる野生のポケモンが出現する場所が存在していた。
ポケスポットと呼ばれる場所は、2~3年ほど前からパイラタウンのギンザルや他のトレーナー達によって作られた場所である。
その頃から、野生のポケモンたちがオーレ地方に安定して住み着くようになったのである。
2~3年前まで、ポケスポットはオーレ地方から東のオアシス、町外れのスタンドの北にある岩場、および、バトル山の麓にある洞窟の3つしかなかった。
現在は、その3つに加えて、砂漠や湖など、ポケスポットも増えてきていた。
「“黒い影”を振り払うためのもの……か。いったいここに何があるんだ……?」
フェナスシティでスクーターをレンタルして、カツトシは何事もなくバトル山の麓までやってきていた。
「ポケスポットだから、ポケまんまを置かなければ、襲ってこないよな……?」
だが、そう簡単には行かなかった。
いきなり、大きな岩が飛んできた。
「うわっ!!」
あわてて、カツトシは飛び退いて攻撃をかわした。
そして、しっかりと確認する。
「ゴローンだな?」
正体は硬い身体を生かした体当たりだった。
再びゴローンは攻撃を仕掛けてくる。
カツトシは逃げずに、迎え撃つためにマスキッパを繰り出した。
ツルを伸ばし、ゴローンを捕らえると岩の壁に向かって、投げつける。
ぶつかった衝撃でゴローンは怯む。
「マスキッパ、『パワーウィップ』!!」
バキンッ!!
岩を撃つ激しい音を立ててゴローンを吹っ飛ばして倒した。
「……襲ってくるとは思わなかった……。ん……?」
ふと、カツトシは洞窟の奥の方が光っているのを確認した。
「奥に何かあるのか……?」
ここ最近まで、洞窟のポケスポットはただポケモンを捕獲するだけの行き止まりの洞窟だった。
しかし、今はさらに奥へと進めるルートがいつの間にかできていたのである。
「ここには何もないし……奥へ進むしかなさそうだね……。待っててくれ……オトハさん」
カツトシは勇気と彼女を想う気持ちで前へと進む。
道は登ったり下ったり……だが、どちらかと言うと登りの方が多かった。
途中、野生のポケモンたちが襲いかかることがあった。
しかし、シンオウリーグを制したことがあるカツトシはここの野生のポケモンにそれほど苦戦はしなかった。
ちなみにリブラ号に住んでいる野生のポケモンたちと比べると、こちらの方が若干弱いのだが……。
そして……
「このポケモンは……?」
慎重に数時間かけて進んだ先に待っていたのは、扉と一匹のポケモンだった。
そのポケモンはボスゴドラだった。
とはいえ、ただのボスゴドラではない。
微妙にオレンジがかかった色違いのボスゴドラだった。
「(……後ろの扉を守っているのかな?)」
そう思ったとき、ボスゴドラがカツトシへ向かって突進してきた。
ボスゴドラのスピードはそれほど速くなく、カツトシが対応する時間は充分にあった。
「マスキッパ、『宿木の種』!!」
相手の体力を吸収する種をボスゴドラへ向かって打ち出す。
しかし……
バキッ、ボゴンッ!!
「!!」
ボスゴドラが地面へパンチすると、岩が飛び散り、宿木の種を軽く防いだ。
しかも、それだけでなく、飛び散った岩がマスキッパへ向かって飛んでいく。
つるのムチで辛うじて岩を砕いていたが、全て防ぎきれたわけでなく、攻撃を少し受けてしまった。
「それならば、『パワーウィップ』!!
マスキッパの最大の技を解き放つ。
ビシッ!!
硬い音を立てて完全に命中させた。
しかし……
「なっ!?マスキッパ!?」
攻撃の際に生じた光がマスキッパを襲って、一気にダウンさせてしまった。
「『メタルバースト』か……?それなら、一気に勝負をかける!!ムクホーク、『インファイト』!!」
同じく打撃系の技で一気に押し切ろうと攻撃を仕掛ける。
しかし、またしてもボスゴドラはメタルバーストの体勢に入っていた。
「今だ!ゴウカザル、『インファイト』!!」
若干、タイミングをずらして、2匹同時攻撃を繰り出した。
空中と地上からの同時攻撃だ。
ズドオォ――――――――ンッ!!!!
「よしっ!!」
ムクホークとゴウカザルの同時攻撃に砂煙が上がった。
効果は抜群だし、これで戦いは終わったと思った。
「……!!」
しかし、現実は違っていた。
「ゴウカザル!?」
煙が晴れるとゴウカザルの拳は、ボスゴドラに届いてなかった。
それどころか、ゴウカザルは足で踏みつけられて、地面にめり込んでいた。
そして、ムクホークのインファイトは完全に決まっていた。
それにもかかわらず、ボスゴドラは立っていた。
「咄嗟にメタルバーストをやめて、強い方の攻撃を阻止して、もう一方の攻撃を受けきったのか!?野生のポケモンなのに、何て強さだ……」
息を呑むカツトシ。
そして、その一瞬が命取りだった。
ムクホークに向かって、鈍色の光弾を飛ばして、一発でダウンさせた。
慌ててカツトシはムクホークとゴウカザルを戻した。
そして、ボスゴドラがカツトシに向かって襲い掛かる。
「……ちょっと、まずいかな……?」
第三幕 The End of Light and Darkness
「翼をもがれ、地面に這いつくばるがいい」 終わり