ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №165

/たった一つの行路 №165

 ☆前回のあらすじ
 オトハを捕らえようとするクロノの前に、シンオウリーグ優勝経験を持つカツトシが現れた。
 だが、クロノとの実力差に、カツトシは追い詰められていく。
 しかし、オトハがクロノの油断を突いて復活し、クロノを退けることができた。
 フェナスシティにたどり着いたオトハは、カツトシの強い申し出により、一緒にヒロトとクロノを探すことになったのだった。



「うぃー梅酒……リクぅー梅酒はどこだー!!」

 なんとも情けない親父のダミ声が聞こえてくる。
 ここはオートンシティのSHOP-GEARである。

「フウトさん。リクくんはオーレ地方に行っていませんよ?忘れたのですか?」

 フウトの怒鳴り声のうるささに、部屋へ入ってきたのは、痩せた美人のミライだった。
 ミライの体型は、プラス的イメージに取れば、スレンダーでスリムだ。

「梅酒ー……ムニャムニャ……」
「寝言……ですか……(汗)」

 「夢の中でまで酒を飲んでいたのね」と解釈するミライ。

「(そういえば、今日はトキオさんが来るって言ってましたね。何かもてなさないといけないわね)」
「……ミライおねえさん……」
「……ハイ?」

 ひょこっと顔を出したのは、幼い少女カズミだった。

「ユウナおねえちゃんやリクおにいちゃんはいつかえってくるの?ラグナおじさまはいつになったらあえるの?」

 不安そうな表情でカズミはミライに尋ねる。

「(この子は本当にラグナくんに懐いていますね……)」

 じっとカズミの顔を見るミライ。

「(…………そういえば、ラグナくんの好きな人って誰なのでしょう?いちばん可能性がありそうなのは、ユウナさんかな?それともミナミさんかな……?……カズミちゃん……には興味ないって言っていたよね……)」

 と、カズミに背を向ける。
 そして、はっとする。

「(でも、カズミちゃんが凄くグラマーな身体になったらどうしよう!?もしかして、私が一番ラグナくんと一緒になる可能性が低い……?)」

 ふるふると首を振るミライ。

「(今からこんなこと考えていちゃ駄目。駄目よ!)」

 そして、気を取り直してカズミの頭に手を乗せて撫でてあげた。

「大丈夫です。すぐに会えるでしょう」

 ミライはカズミに微笑んだのだった。



 彼女達は知らない。
 事態が急速に動き出していることを……
 彼女達は知らない。
 自分たちも巻き込まれようとしていることに……



 たった一つの行路 №165



「……ほんとにいい子だな……」

 フェナスシティのポケモンセンターの一室で、ベッドに仰向けになり、青年は呟いた。
 彼の名前はカツトシ。
 バス事故で偶然、オトハと居合わせた青年だ。

―――「私の探している人は、ヒロトさんと言います」―――

 彼はバスの事故の後、オトハとフェナスシティの喫茶店で詳しく話を聞いた。

―――「ヒロトさんは、とても一途な人なんです」―――

 オトハから、出会いのことを聞いた。
 シオンタウンでロケット団に襲われているところを、ヒロトに助けられた。
 そして、その後のお祭で彼の人柄に触れて、オトハは彼のことが好きになった。
 だけど、ヒロトには幼馴染のヒカリという女の子のことが好きで、世界を探し回っていた。
 オトハは、気持ちをヒロトに伝えて、ヒロトの幸せを願っていた。

―――「でも……まさか、あんなことになるなんて……」―――

 オトハは、俯いて口を濁した。
 実はその幼馴染のヒカリはロケット団に入っていた。
 そして、バトルの果てにヒカリは、組織の計画に巻き込まれて死んでしまった。
 ヒロトは何とか自分の命を賭けて、ヒカリを助けようとしたけど、最終的には助けられなかった。
 深い悲しみに陥ったヒロトは、そのままどこかへいなくなってしまった。

―――「私は、ヒロトさんを一人にしておくわけにはいきませんでした」―――
「(彼女は本当にヒロトのことを考えているんだ……)」

 オトハの決意した目を見て、カツトシは息を呑んだ。
 オトハは、一度はヒロトを見つけることができた。
 そして、ヒロトにずっとついていくと、強く宣言した。

―――「でも、私は彼に置いてかれてしまった……」―――

 ある騒動で、オトハが気絶している間に、ヒロトは爆発に巻き込まれて消えてしまったのだという。
 そこから、オトハは再びヒロトを探す旅に出ているのだと、カツトシは理解した。

「(ヒロトって言う人もそうだけど、オトハさんもすごいな……。こんなにも一人の人を愛せるなんて……。そんな人に愛されるんだったら、一生懸命に俺もその愛を返すんだけどな……)」

 そう思ったとき、不意にカツトシは胸が苦しくなった。
 慌てて深呼吸をして息を整える。

「(……く……。なんで、俺はそういう人ばっかり好きになっちゃうんだろう……。オトハさんは駄目だ……。好きな人がいるんだから……)」

 掛け布団を頭から被って、カツトシは少しずつ意識を解放していった。

「(でも……ヒロトさんが見つからずにオトハさんが一人でいるようなら……俺が…………)」



 ―――次の日。

「う~……」

 カツトシはあまり眠れなかった。
 しかし、それでもきっちりと服装を整えて、カウボーイの帽子を被る。
 目を擦りながら、オトハの寝ている部屋の前で待っていた。

「(余計なことを考えるんじゃなかった……。でも、決めた。俺は好きな人のためにできることをしよう。彼女の幸せが俺の幸せなんだ。だから、俺は彼女に協力する!)」

 カツトシは意志をきっちりと固めた。
 そして、今日することを考えていた。
 だけど、それから2時間が経った。
 時計の針は9時と半を回った。

「……まだ寝てるのかな?」

 カツトシは心配になった。
 昨夜、部屋へ戻る際に「8時に食堂で会いましょう」とオトハから言われていた。
 カツトシは、それよりも早くオトハの部屋の前で待ち伏せをして、一緒に食堂へ行こうと考えていたのだ。

「(……勝手に入るのは……まずいよな……)」

 といいつつ、カツトシはドアノブに手をかけていた。

「(……でも、彼女に万が一のことが……?風邪でも引いていたとしたら……?)」

 そのまま、カツトシは5分ほど迷走していた。

 ガチャリ

「……うわっ!!」

 突然のドアが開いて、カツトシは飛び退いた。
 いろいろと言い訳を考えて混乱していたのだが、そういう状況じゃないと、瞬時に思った。

「……!! オトハさん!?」
「……カ…ツ…トシ……さ…ん……」

 カツトシが見たのは、酷く衰弱しきっていたオトハの姿だった。
 手の力が緩み、支える物が無くなってそのまま廊下にパタリと倒れてしまった。



―――「原因はわかりません。処置の施しようがありません……」―――

 フェナスシティの医者は、そう言って、熱を下げるための処方を施しただけだった。
 オトハはベッドで寝かされていた。
 息は苦しそうで、顔は真っ赤で見るだけで熱があるとわかるほどだった。
 そして、普段はかかない汗をびっしょりとかいていた。

「いったい……どうして……?昨日はなんともなかったのに……」
「……黒い影が見える……」
「……ハイ?」

 突然、黒縁メガネの老女が入ってきていた。
 その人は、ここに来る途中、オトハとお喋りをしていたビーディだった。

「っ!! どこから入ってきたんですか!?」
「もちろん、入り口からだよ」
「それは、わかりますけど……」

 そういうことが聞きたいんじゃなくて……とカツトシは言おうとしたが、ビーディの言ったことが気になった。

「“黒い影”ってなんですか?」
「お主には見えんじゃろうが、水晶玉に黒い影が映っている。これは、昨日のバス事故と同じようなものじゃ」
「昨日のバス事故……まさか、あのクロノって奴の仕業か!?」
「この子は病気なんかじゃなくて、何か呪いの類にかかっているのではないかの?」
「……呪い……」

 息を呑むカツトシ。

「ということは、呪いを解くには、クロノを倒さないといけないのか……!?」
「呪いを解く方法は様々。呪術者を倒せば解ける呪いもあるし、倒しても解けない呪いもある。これが何によってなされた呪いかわかるか?」
「これは……」

 カツトシは昨日の記憶をたどった。

「(あの時、オトハさんはサーナイトのシャドーナイツによって縛られた。そして…………!!)」

 そして、カツトシは思い出した。

「あいつ……オトハさんにキスをしていた……。オトハさんに直接触れたのはあれだけだった。…………。あれ?でも、これって呪い?」
「もしその接吻が原因だとしたら、呪いじゃないかもしれん。となるとこれは、黒い影そのものかもしれん」
「黒い影そのもの……?」

 カツトシは首を傾げる。
 その一方でビーディは水晶玉に念を入れる。

「……バトル山近くのポケスポット」
「え?」
「そこに、“黒い影”を振り払う物があると出ている」
「バトル山近くのポケスポット……」

 カツトシはリュックからオーレ地方のタウンマップを取り出した。

「洞窟のポケスポットですね」
「そうじゃ」

 ガタンと、カツトシは立ち上がった。

「俺、急いで、その場所に行ってきます」
「そのほうが良さそうじゃ。この子、精神力は強い方だと私は見るけど、もって2日だろう」
「それまでに……か。オトハさんをお願いします」

 礼をして、カツトシはオーレ地方のタウンマップを握り締めて飛び出した。

「(オトハさん……。ヒロトさんに会わせずにあなたを死なせはしない。俺が絶対に助けてみせる!!)」



 14

 ―――とある周りが砂漠の道路。
 オーレ地方でバスが運行され始めてから、道路も整備された。
 元々、道はある程度作られていたけれど、本格的に整備されたのはここ2~3年だった。
 そこを一つのスクーターが走っていた。
 しかし、一つのスクーターに乗っているのは2人。
 一人は、背の高く見た目が怖い男。
 もう一人は、ショートヘアの女の子で、男にしがみついていた。

「結局、見つかりませんでしたね」
「キャメットに行ったのは、無駄足だったな」
「え、バンさん。それは私を助けたのが無駄だと言いたいんですか!?」
「そうとも言えるかもな」
「ひどぉーい!」

 ポコポコと背中を殴りつける女の子……チドリ。
 といっても、本気で殴っているわけではないらしい。

「風霧の本拠地さえわかれば、一気に攻め込んでやるのによ。ったく」
「……そうですね」
「『……そうですね』って。お前も戦う気か?」
「駄目ですか?」
「お前のレベルじゃ、風霧の下っ端にも勝てると思えねえけどな」
「…………」
「どうした?本当のこと言われて、落ち込んだか?」
「……はい……。とても落ち込みました……」

 そういって、チドリは黙り込んでしまった。

「……ったく。そのくらいで落ち込んでんじゃねえよ!それなら、強くなればいいんだ。それだけだ!」
「……そうですねー」

 クスッとチドリは笑い声をあげた。

「……! ワザと落ち込んでたな!?」
「あれ?ばれました?」
「コノヤロウ……!!」
「んにゃぁ~」

 バイクを止めて、バンはチドリの鼻を摘んでやった。
 このように何気に2人は楽しそうだった。
 2人が向かっているのは、リクのいるポケモン総合研究所。
 バトル山近くを通るルートだった。

「バトル山が見えてきましたね」
「そうだな」

 ブォォッ!!

「!?」

 突然のことだった。
 バンは背後から、何かが飛んでくる気配を感じた。

「チドリ!しっかり捕まってろ!!」

 ズドォンッ!!

 バンはスクーターから飛び降りた。
 二度三度、転がるように転がって、バンとチドリは体勢を整えた。
 乗っていたスクーターを確認すると、跡形もなく木っ端微塵になっていた。

「ちっ……何だ?襲撃か?」
「あ……。あれは……」

 チドリが手をかざす。
 つられてバンが見ると、そこにいるのは一匹のトゲキッス、そして、カイリューだった。
 先ほどの攻撃はトゲキッスの『波動弾』だということに、バンは瞬時に気付いた。

「見つけたっスよ。『王侯の潰し屋:バン』!」
「……貴様は……」

 麦藁帽子を被り、無精髭を生やした男だった。
 口にはキセルを加えて、プカプカと煙を蒸かしていた。

「懸賞金76万ポケドルの『風帽子のハヤット』!!」
「流石にあっちの顔は知っているみたいっスね」

 トゲキッスが翼をはためかせて、一気に接近してくる。

「!!」

 バンはすぐにアーボックを繰り出して、攻撃を迎え撃つ。
 エアスラッシュとヘドロ爆弾の撃ち合いだ。

「ここで風霧の幹部に会えるとは思わなかったが……『見つけた』とは、貴様がこの俺に何の用だ!?突然襲撃をかけてきやがって!!」

 アーボックがトゲキッスに飛び掛って噛み付きに行く。
 しかし、さらりと回避されてしまう。

「『何の用か』っスか?別に用はないっスよ。ただ……」

 トゲキッスは旋回してアーボックの背中へ思いっきりタックルした。
 捨て身タックルだ。
 アーボックは地面に叩き落とされた。

「計画のために、君たちの存在が邪魔なんスよ」

 ダメージを負ったが、アーボックは身体を起こして、再びヘドロ爆弾を繰り出していく。
 しかし、トゲキッスのスピードの前に当たる気配はまったくない。

「計画のためだと……?」

 トゲキッスが消えた。
 すると、後ろから風が吹いた。
 風の如く、トゲキッスは後ろからアーボックを打っ飛ばしたのだ。

「そうっスよ。あっちたちの作戦に最も邪魔になるのは、SHOP-GEARの連中だということがわかったんスよ」

 そして、追撃の波動弾をアーボックへ向かって放った。

「だから、ここで屠らせてもらうっスよ」

 ズドンッ!!

 波動弾が爆発した。
 だが、それはアーボックへ命中したためではない。

「生憎だが、貴様らの計画通りにはなりそうにないぜ」

 ヘドロ爆弾で波動弾を相殺したのだ。

「貴様を潰して、風霧の居場所を吐かせてやるぜ!!」
「トゲキッス!!『とっておき』!!」

 全ての技を使ったときにのみ発動する最強の技をトゲキッスが繰り出す。
 しかも、全速力で向かってくるその動きを捕らえるのは容易ではない。

「アーボック!!」

 シャァーッ!!とトゲキッスを睨みつけて吼えるアーボック。
 ただそれだけのことだった。
 しかし、たったそれだけのことでトゲキッスは怯んだのである。

「なっ!?」
「『ポイズンテール』!!」

 毒の尻尾でトゲキッスを叩き落とす。
 地面にトンットンッと体を撃ち付けると、すぐにアーボックの追撃が待っていた。

「『ポイズンヴァイト』!!」

 超強力な毒牙での噛み付き攻撃だった。
 トゲキッスに噛み付いて、一気にダウンに至らしめたのだ。

「やるっスね」

 トゲキッスを戻して、ハヤットは地面に降り立った。

「じゃあ、次は…………?」
「ん……?なんだ?」

 ハヤットの目線が別の方を向いているのに気になり、そっちを見ると、チドリが岩陰に隠れていた。

「あいつは関係ねえぞ!!相手は俺だろ!?」
「……どう言う訳っスか?」
「は?」
「君、チドリっスよね?どうして、敵のバンと一緒にいるんスか?」
「…………」
「は……?敵のバンと一緒……?」

 バンは一瞬、混乱した。
 が、すぐにその状況を認識した。

「チドリ……貴様……」
「君の思ったとおりっスよ。チドリはあっちたちの組織“風霧”のメンバーっスよ。優秀な諜報部員っス」



 第三幕 The End of Light and Darkness
 「んにゃぁ~」 終わり


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-06-15 (月) 06:47:10
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.