☆前回のあらすじ
ミナミとケイは、賞金首の『お灸拳法のディオ』との戦いの末にアンダーを脱出した。
倒した3人組の逮捕をパイラタウンの署長ヘッジに任せて、ミナミの話を聞いたケイは、一緒にポケモン総合研究所の場所へ戻ることになった。
一方、フェナスシティの近くでバストラブルが起こった。
そこに居合わせたオトハは、幼馴染のクロノと対峙し、ピンチを迎えていた。
「ケイくんが見つかったのかい?」
「あ、はい。そうみたいです」
リクがそう答えると、後ろでクレイン所長がほっと息をつく。
「彼はカレンちゃんと同じくシャドーからオーレ地方を救った英雄というべきトレーナーなんだ。本人はまったく自覚はしていないけどね」
「……と言うことはとっても強いのですね?」
頷くクレイン所長。
「やっぱり、彼の父親の影響かな」
「父親ですか……」
「ケイくんのお父さんは優秀なポケモントレーナーで素晴らしい研究員だったんだ」
「“だった”?」
疑問に思い、話を端折って質問したリクだったけど、不意にクレイン所長は黙り込んでしまった。
やや少し重い雰囲気になり、リクは慌てる。
「あの人は病気で亡くなったのよ」
「……リリアさん?」
薄いピンクの看護婦のような服を着た女の人……リリアがコーヒーを持ってきて、そう呟いた。
「あれはカレンちゃんがダークポケモンを全てスナッチしたときのことね。ダークポケモンの存在が許せなかったあの人は、自らが先頭に立ってリライブホールを作るための計画を立てた。でも、それからすぐに病にかかってしまい、わずか半年も経たずにあの人は……」
「……ごめんなさい……。僕……」
「いいのよ、リクくん。今の私には、ケイとアイがいるもの。それに、あの人に頼まれたの。『僕が死んでも、なんとしてもリライブホールを完成させてくれ』と……。あの人は死ぬ間際までもポケモンのことを考え抜いていたのよ」
「…………」
「そんな一途なあの人のことを好きになって、私は本当によかったと思っているわ」
遠くを見つめるリリアを見て、リクとクレインはなんとしてもこの事件を解決させないとと思ったのだった。
たった一つの行路 №164
「(ヒロト……さん……?)」
うつらうつらとオトハは、眠りかける寸前だった。
そこへ、スリーパーを吹っ飛ばす一撃が飛んできた。
「……何者だ!?」
クロノはギロリと睨んで後ろを振り向く。
カウボーイがよく被る帽子に、グレイの長袖Tシャツの上に茶色のベスト。
黒いGパンを着用していて、胸とお尻の辺りに缶バッチをつけていた。
パッと見た感じは、どこかの格好付け野郎に見えるが、内面を見るとそうは見えなかった。
大体の人がやさしい雰囲気を纏った好青年と見るだろう。
「俺の名前はカツトシ。しがないイチトレーナーさ。……そんなことより彼女を放すんだ!!」
物怖じもせず、カツトシは叫ぶ。
「……お前はオトハの何だ?」
「“何だ”だって?そんなの関係ないさ!こうやって、バスの事故を起こしたのはお前なんだろ!?それなら、俺はお前を許してはおけない!!」
カツトシの隣には、先ほどスリーパーを吹っ飛ばしたマスキッパの姿がある。
いつでもカツトシの指示に応えられるように準備は万端だ。
「一端の正義感を持っているようだな。だが……所詮それは仮初の正義だな」
「正義感?仮初の正義?そんなの関係ない!とにかく、彼女を放すんだ!! マスキッパ!!『種マシンガン』!!」
口を大きく開けて、散弾をドドドッとクロノに向かって撃つ。
「その程度か?」
「……!?」
先ほど攻撃を受けたスリーパーが持っている振り子で種マシンガンを弾き飛ばしていく。
まるで、節分の豆まきで飛んできた落花生を弾くように。
「くっ!それなら、『パワーウィップ』!!」
先ほど吹っ飛ばした一撃ならと思い、技の指示を出す。
手から伸びていくムチがスリーパーを激しく打つ。
「そんな技、効くと思っているのか?」
「……なっ!?」
パシッ
ムチは片腕で止められていた。
「(さっきは確かに効いたはずなのに!?)」
「さっきはな、こちらとして警戒していなかった一撃……不意打ちを受けた。だが、今のは真正面からの一撃。つまり、こちらは攻撃を受ける場所さえ意識していればその程度のダメージを軽減させることなんて簡単なことなんだよ」
「……それなら、『痺れ粉』だ!!」
「『神秘の守り』」
ほぼ同タイミングでアクションを起こした。
だから、痺れ粉は神秘の守りに阻まれてしまう。
「くっ!!『宿木の種』!!『締め付ける』!!」
「『サイコカッター』」
2つ同時の攻撃を繰り出してきたマスキッパに対して、たったひとつの大きな超能力の刃で吹っ飛ばしてしまう。
「うわっ!!」
エスパーエネルギー状の刃は、砂漠の地面に大きな痕跡をつけた。
そして、その痕跡を埋めるように、砂がさらさらと落ちていく。
「お前レベル程度のトレーナーが襲ってきたところで、まったく相手になりはしない」
「くっ……」
カツトシもそれを薄々感じていた。
自分の攻撃が最初の一撃以外、まったく効いていないのだから。
そして、マスキッパもさっきの一撃でダウンしていた。
「それでも……俺は諦めたりなんかしない!!」
そして、新たに二匹のポケモンを繰り出す。
マニューラとドータクンだ。
「サーナイトで充分だ」
ずっと傍らにいたサーナイトが前へ出る。
そして、オトハを縛り付けている影から、いくつかの影が現れた。
その影は、槍を持っている形をしたり、盾を持っている形をしたり、剣を持っている形をしたり……つまり、中世の騎士団のような連中だった。
「『シャドーナイツ』……13匹中5匹もいれば楽勝だろう」
計5匹のシャドーナイトが現れて、マニューラとドータクンを襲っていく。
あっけなく2匹は吹っ飛ばされた。
「負けない……全員で行け!!」
さらにカツトシはトリトドン、ムクホーク、ゴウカザルも繰り出して、シャドーナイトの頭数と同じ5匹をそろえる。
数では互角なのだが、一匹一匹の実力差にはばらつきがあった。
「(勝てているのは、ゴウカザルとマニューラだけ……?)」
ドータクンとトリトドンは互角の勝負を繰り広げているが、ムクホークは劣勢状態になっていた。
「どうやら、俺の見込みが少し甘かったようだ」
クロノがサーナイトにアイコンタクトを送る。
すると、さらにもう2体のシャドーナイトがオトハを縛り付ける影から出てきた。
そして、互角の状況だったドータクンとトリトドンを一気に蹴散らした。
「ゴウカザル!マニューラ!他の3匹をフォローするんだ!」
「他所を気にしてていいのか?」
「……え?」
バシュッ! バシュッ!!
ほんの少しの不意を突かれて、ゴウカザルとマニューラが本来相手をして競り勝っていたシャドーナイトに吹っ飛ばされた。
ダメージはそれほど大きくはない。
だけど、勝負の流れを大きく変える一撃だったようで、そこから計7体のシャドーナイツの一斉攻撃が襲い掛かった。
「くっ、させない!!マニューラ、『冷凍パンチ』!ゴウカザル、『火炎車』!」
必死にカツトシは指示を出して、猛攻に耐えようとしていた。
だがそれも、シャドーナイツの猛攻の前には、時間の問題と思わせる怒涛の攻撃だったのである。
「くぅ……(本当に強い……)」
ドータクン、トリトドンと次々に倒れていく。
残ったのは、マニューラとゴウカザルのみ。
カツトシ自身も相当の傷を負っていた。
「諦めろ。トドメだ」
カツトシは目を瞑ってしまった。
「…………。…………?」
しかし、何も起こらない。
いや、それは間違いで、優しい風が吹いたような気がした。
「……あれ?」
よくみると、シャドーナイツは消え去っていた。
「……この男を相手に力を裂きすぎたか」
クロノがポツリとそう漏らしながら、カツトシとは別の方を向いていた。
クロノの目線を辿っていくと、一匹のポケモンと一つの人影があった。
「クロノさん……これ以上はやめてください!」
オトハとスイクンだった。
どうやら、自分自身でシャドーナイツの拘束を破ったようだ。
「さっきの技は『聖なる風』。以前『シャドーナイツ』を破った技と同じか……?」
「そうです。……さぁ、行きますよ」
傍らのスイクンが地面を蹴る。
サーナイトに接近する。
「サーナイト」
一方のクロノとサーナイトは迫ってくるスイクンに対して、サイコキネシスを放つ。
シャドーナイツを破られたために、通常技で攻めるしかないようだった。
強力な超能力攻撃に怯みながらも、スイクンはサーナイトにタックルし、吹っ飛ばす。
しかも、それだけではなかった。
受けたサイコキネシスを返すように輝くエネルギーを飛ばす。
サーナイトは避けようとしたが、タックルの直後の攻撃のせいでまともに回避できずにもろに受けてダウンした。
「(今のは……『聖なる衣』か?) スリーパー!」
自身が持っているチャクラムを投げる。
ただ、それは投げるだけではなかった。
かわしたはずのオトハとスイクンなのだが、スイクンは攻撃を受けて飛ばされた。
しかも、チャクラムが自在に動いてオトハにも襲い掛かる。
「…………」
しかし、オトハは冷静だった。
見た目よりも殺傷能力が広範囲のチャクラムをかわす。
「まさか、当たらない……!?オトハは構うな!スイクンに集中しろ!」
「スイクン!」
刹那にスイクンはスリーパーの後ろをとって、一気に押し飛ばした。
「『ハイドロポンプ』です!!」
相手の体勢を崩しての強力な水攻撃を放つスイクン。
スリーパーは水に飲み込まれて、近くの岩を砕くようにぶつかった。
「(『月舞踊:桜舞』からの攻撃……これでどうでしょう?)」
「やはり、オトハ。君は強い」
クロノが手を叩きながら言う。
「聖属性の技を使いこなせる者など、この世に一人しかいなかった。月島の踊り子の開祖、クレハだけだ」
「…………」
「俺はどうすればその聖属性の技を破れるか考えた。そして、それがこの答えだ!スリーパー!」
瓦礫の中から、ゆっくりと這い出ると、黒く大きな刃のようなものを放った。
「『ダークカッター』!!」
「スイクン、『聖なる風』です!!」
禍々しい刃と神々しく煌く風が激突する。
そして……
「……!!」
一方の攻撃が打ち抜き、一気に相手をダウンさせた。
「…………」
「くっ……まさか……」
吹っ飛ばされたスリーパーを見て、拳をギュッと握り締めるクロノ。
「闇属性の攻撃が……敗れるだと……?」
スリーパーとサーナイトを戻して、別のボールを取り出しながら、カッとオトハを睨むクロノ。
「クロノさん……私は……」
「いや、闇が光に負けるはずがない……きっと俺がまだ弱いせいだ。ゲンガー!!」
ゲンガーに黒い球体を右手に集めさせる。
黒い球体は毎秒ごとに直径1センチずつ大きさを増していく。
「まだ力が足りないらしい……。まだ、闇が足りない。……次こそは、君に勝って、君を手に入れてみせる……」
すると、ゲンガーの作り出した黒い球体にクロノは入っていく。
「だけどそれは、“君が戦えたらの話”だけどね。また、迎えに来るよ」
「……クロノさん!待ってください!!」
オトハが手を伸ばして、クロノに掴みかかろうとする。
だが、ゲンガーと共に黒い球体にすっぽりとクロノが入ってしまうと、黒い球体と共にクロノはいなくなってしまった。
「オトハさん、大丈夫?」
左腕を押さえながら、カツトシがオトハに近寄る。
しかし、オトハは呆然とクロノが消えた空間を見ていた。
「……クロノさん……」
この色気もない砂漠の周りにあるのは、横転してあちこちが破損し、使い物にならない大型のバスだけだった。
その後、オトハとカツトシは警察の事情聴取を受けた。
クロノという男がバスを襲ったのだと言うと、すぐにクロノはすぐに手配された。
そして、2人は目的地のフェナスシティへとやってきた。
「え?どうして、カツトシさんは私のことを知っているのですか?」
口元を押さえて、オトハは驚いて言った。
「覚えてないかな?昔、タマムシシティにロケット団が襲い掛かってきたことがあっただろう?あの時、俺もロケット団に挑んだのさ」
「タマムシシティ……ロケット団……」
う~んと首を傾げるオトハ。
「カツトシさん、そのとき、本当に居ました?」
「居たよ!居たけど……バトルする間もなくやられた……」
最後の方はやや落ち込みがちにそう呟いた。
「そうでしたか……道理で私が知らないはずでした」
頭を抑えて舌をペロッと出して笑って見せる。
「と、ところでこれからどうするんだい?」
やや慌ててカツトシはオトハに尋ねる。
「私……探している人がいるんです」
「探している人……?もしかしてさっきの男……?」
「…………。はい。クロノさんは私の幼馴染なんです」
「え?」
呆然とした顔でカツトシはオトハを見る。
「クロノさんは私の故郷である月島を滅ぼしたんです。でも、クロノさんのして来たことはそれだけじゃありません」
黙り込むオトハを見て、カツトシも黙ってしまう。
クロノが何をして来たか、カツトシは分からない。
だけど、オトハの沈黙を見ていると、よっぽどのことをクロノはして来たのだろうと思った。
「私はクロノさんに罪を償ってもらい、まっとうな道に進ませたいのです。……幼馴染として」
「……クロノのことが好きなのか……?」
その問いにオトハは首を横に振る。
「クロノさんにそういう気持ちはないです。そして、もう一人別に探している人がいるんです」
「その人はどこにいるんだい?」
「…………」
オトハは黙り込むと空を見上げて口を開けた。
「きっとこの空の下のどこかにいるはずです」
「……恋人……かい?」
カツトシは聞くけど、オトハは頷かなかった。
しかし、彼女の顔は少し赤くなっていた。
「わかった。俺が協力するよ」
「え?」
オトハは驚いて振り向いた。
「1人で探すよりも2人で探した方がいいだろう?」
「え?でも、そんな悪いですよぅ」
両手を出して横にブンブンと慌てて振るオトハ。
「困っている人は放っておけない性質なんだ。協力させてくれないか?」
「…………」
ふとオトハはカツトシの目を見た。
「(澄んだ目をしている……カツトシさんは悪い人じゃないですね)」
オトハは深々とお辞儀をする。
「しばらくの間よろしくお願いします」
「……こちらこそ!」
こうして、2人の人探しが始まろうとしていた。
第三幕 The End of Light and Darkness
「……お前はオトハの何だ?」 終わり