11
―――二日前。風霧の本拠地でのこと。
そこには風霧の幹部とそのボス、また提携を持ちかけてきたアルドスにベルと2人の組織が所属するボスがいた。
円卓が用意されていて、各自椅子を引いて、バラバラに腰掛ける。
そこで、1時間の会議がなされて、2つの組織の目的を明らかにした。
質問や疑問が飛び交って、意外にも話は円滑に進み、会議は終わりに差し掛かっていた。
「クチャクチャ……とりあえず、僕たちの目的はわかってくれたよな?」
足を机に乗せてガムを口の中に含みながら風霧の幹部の一人のウゴウは、目の前にいるアルドスに向かって乱暴に言った。
「お前たちの戦力や能力も把握してもらった。これからは互いの不利益な障害を潰し合って行くことができるだろう」
「そのために一つ、あたしから提案があるのよねー」
チャラっと首の鈴を鳴らして立ち上がったのはベルだ。
アゲトビレッジの祠を壊した彼女である。
「まず、真っ先に潰しておいた方がいい組織があると思うのよね」
「うん?それはなんて言う組織っスか?」
部屋の中でも麦藁帽子を被った男、ハヤットが軽い口調で聞き返す。
「そこのガムを食っている人も知っているわよ」
「ウゴウもっスか?」
ハヤットはウゴウを見る。
「……もしかして、祠の破壊を妨害してきた連中か……?」
「そう。“SHOP-GEAR”」
神妙な顔でベルは頷く。
「確かにあいつらは厄介だった。あのログって奴、次会ったら叩きのめしてやる!!」
ガタンと立ち上がり、ウゴウは机を叩く。
「(ログ……?)」
ピクリとアルドスの横の男が微かに反応した。
それと同時に黄色いマントの男……風霧のボスが立ち上がった。
「小生たちの目的の邪魔する者は、子供だろうが女だろうが容赦はしない」
「バドリスはいつもいつも、目的のためには容赦ないっスね」
友好的な口ぶりでハヤットは、隣に座るボスにそう言った。
「はっはっは。なら、バドリス。最初にやることは決まったな」
アルドスの横にいる声の主をアルドスとベルは見た。
彼らのボスである。
「まずはSHOP-GEARを潰す。そして、小生達の……風霧の目的を果たす」
「いや、同時進行でも問題ないと思うわ」
風霧のボスのバドリスに軽口を叩くベル。
「だって、実際にSHOP-GEARで厄介なのは『ロケット団の娘:ユウナ』、『一閃の野獣:ラグナ』、『王侯の潰し屋:バン』の3人。他は雑魚同然よ」
「クチャクチャ……じゃあ、そいつらを潰せば、障害はなくなるわけだ」
ウゴウがガムをぺっと吐き出した。
そのガムは見事にゴミ箱の中へと入っていった。
「ふふっ、そうよ。だから、手分けして潰すがいいのよ」
不敵にベルが笑う。
「ところで……」
ウゴウがガタンと椅子を倒して立ち上がる。
「どうして、君たちの幹部の残り2人がいないのか、説明して欲しいな」
「たいしたことではない」
「そうよ。例の“記憶喪失の男”はすでに作戦を実行中。そして、“あいつ”は光を嫌う一匹狼で単独行動が好きなだけよ」
アルドスとベルが説明を終えると立ち上がる。
「そんな事を言ったら、そっちだって幹部があんたたち2人しかいないじゃない」
「まぁ、その話はいいじゃないっスかー。今は幹部が2人だけなんスよ」
ハヤットが弁解すると、会議は幕を閉じた。
そして、2つの組織が動き出した……
12
☆前回のあらすじ
アンダーでミナミはポケモントレーナーのケイと出会う。
だが、息つく間もなく、数人の賞金首が2人に襲い掛かる。
ビックス、ウェッジ、ジェシーを退けたケイとミナミ。
しかし、懸賞金33万ポケドルの『お灸拳法のディオ』の攻撃を押し切れずに、ケイとミナミは爆発に巻き込まれたのだった。
「くぅ……」
身体をむくりと起こすディオ。
そして、辺りを見回して人の気配を確認する。
「逃げられただの……」
周りに気をつけながら、ディオはドラピオンに近づいて、撫でてやる。
あれだけの攻撃を受けたにもかかわらず、ドラピオンはダウンしてなかった。
だが、ダメージは手ひどく受けており、このまま戦い続けるのは厳しい状態であった。
「逃げられたなら、それでいいだの。警察や賞金稼ぎが来る前に逃げればいいだけの話だの」
そうして、ディオはドラピオンをモンスターボールに戻すと、暗闇の中へ姿をくらましたのだった。
たった一つの行路 №163
ガガガガッ
金属が擦れるような音が鳴り響く。
動いているのは、長方体の囲いのような中が見える箱。
いわゆる、エレベーターである。
「ふぁぁ……」
「う~ん……」
2人はエレベーターの真ん中で、互いに背中合わせでへたれこんでいた。
結局、2人は最大の攻撃を撃った瞬間に乗じて逃げたのだった。
攻撃を撃ったフカマル、いや進化したガバイトはモンスターボールの中でぐったりとしていた。
「疲れたー……」
「眠いよー……」
ぐったりと2人は呟く。
ガチャンッ
エレベーターが上に到着すると、太陽が2人を照らしつける。
「うぅん……眩しい……」
「ついたー?……早くパイラタウンへ行こう……」
「もう眠いよ……1歩も動けない……」
「仕方がないねー☆」
ミナミはクスリと笑う。
自分も疲れていたのだが、まどろんで動けないケイを背中におぶる。
そして、2人はパイラタウンの宿屋まで歩いていったという。
―――パイラタウンの宿屋。そして、夜。
アンダーから帰ってきた2人はすぐにそのホテルにチェックインをした。
すでにそのときにケイは眠っていたので、すぐにリクに『賞金首に襲われちゃったー☆』とメールを送った。
「えー!?」
夜になって、ケイが目を覚ましたとき、ミナミが自分の話をしたのである。
そのときに話した内容にケイは驚いたのである。
「ポケモン総合研究所が襲われたって……ママとアイは無事なの!?クレイン所長は!?」
いつも眠そうな目をしているケイの目が見開かれて、ミナミの服に掴みかかる。
「大丈夫だったよ☆ でも、研究所は跡形もなくなっちゃったみたいだけどねー☆」
「そ、そうなんだ……」
ケイは顔を上げた。
「僕は明日、研究所に帰るよ」
「研究所に帰るのー?それなら、私も戻るー」
「何で?」
「大抵のところは聞き込みしたから戻るのー。リクちゃんから何か情報がもらえるかもしれないしー☆」
「じゃあ、一緒に行こう?」
「うん、いいよー☆」
ケイとミナミは向かい合って、笑顔で約束した。
「じゃーその前に……」
「ふぁぁ……そうだね」
バタッ バタッ
ミナミとケイはそれぞれベッドに倒れこんだ。
そして、そのまま1日間眠ったままだったという。
13
ガタン ガタン ……と、この中は揺れていた。
中というのも、ここは大きな車の中。
いわゆる、バスの中である。
自分で好きにオーレ地方を移動する手段と言えば、ケイが使っているホバー型スクーターやハルキの大型バイクくらいである。
もちろん、普通のタイヤのスクーターでも移動することはできるが、たまにタイヤが砂にとられる場所があり、タイヤ型のスクーターを使う者はあまりいない。
徒歩で移動する人もいるにはいるが、砂嵐や砂地獄の危険があるためにあまり徒歩という手段をとる者は滅多にいない。
たまにエクロ峡谷付近でランニングをしている者もいるようだけど、そこらへんは足場が安定しているのだと思われる。
というわけで、最近移動手段として、提案されたのが、このオーレ運行のバスなのである。
始発をアイオポートとし、アゲトビレッジ~オーレスタジアム~パイラタウン~ラルガタワー~終点のフェナスシティを始めとする4本のバスが運行されている。
このお陰でオーレ地方へ訪れる旅人達の移動が格段に良くなったと言える。
そして、とある一台のバス。
このバスはラルガタワーを経由して、終点のフェナスシティへと向かっていた。
このバスの中に、“彼女”はいた。
腰ほどまである黒く清らかな長い髪の先端をピンクのリボンで整えている彼女は、移動中もずっと窓の外を眺めていた。
目に映るのは、乾いた風によって巻き上げられる砂と雲ひとつない青い空だった。
「…………」
ふと、自分の周りを確認してみる。
彼女の隣には、パイラタウンから乗ってきて、買物のためにフェナスシティへ向かおうとしている黒縁メガネの老女がいた。
「お主もフェナスシティまで?」
70代ほどの老女と目が合うと、相手の方から愛想よく微笑んで尋ねてきた。
「……ええ」
彼女も自然と微笑んで老女に答える。
「オーレ地方へ観光に来たのかな?」
「……いいえ。それは違います」
首を軽く横に振った。
「スタジアムめぐりかな?最近の若者は、道端でバトルするよりもスタジアムでバトルする人の方が好きらしいからの」
「そうですね」
彼女は頷いて微笑む。
「でも、違うみたいね。それなら、実はフェナスシティの市長のダグデさんに頼まれた一流の探偵かの?」
悪戯をする子供のように老女は笑いながら言う。
その様子はまるで数十歳ほど若く見えるほどだった。
「残念ながら違いますよーぅ」
笑顔で軽く手を振って否定しながら、彼女は答える。
「あら、自信があったのに。……この答えで違ったのなら、きっと私の思いつかないような理由でここへ来たのでしょうね」
老女は落ち着いた様子でそう呟いた。
そのとき、彼女は俯いて口を開いた。
「実は……探している人がいるのです」
「ほう……尋ね人か」
「……ハイ……」
「それはもしかしてお主の大事な人……恋人ではないか?」
老女はにっこりと笑って、彼女に問いかける。
「……はい」
彼女は頬を赤らめてそういう。
「でも、ちょっと違います」
「どう違うのかな?」
「私にとってはかけがえのない人なのですけど、相手は私のことが見えていないんです」
「つまり……片想いか?」
「…………」
彼女は黙ってしまった。
「その大切な人を探してここまで来たというわけじゃな」
「……ええ。でも、オーレ地方にいると決まっているわけじゃないんです。他の地方も探してみましたけど、結局見つからなくて……」
膝元に置いてある手が、白いロングスカートをギュッと握り締める。
「生きているかどうかさえもわからないんです……」
「そうだったのか……」
酷く落ち込んだ彼女を見て、老女はバッグから何かを取り出した。
ふと、隣が気になって、顔を向けると、透明な球を取り出してきた。
いわゆる、占いとかに使う水晶玉である。
「私はパイラタウンで占いをしておるビーディという。よければ、そなたを占って差し上げようか?」
「占い……?彼の居場所がわかるのですか?」
「……やってみないとわからない。とりあえず、お主の名前を教えてくれんか?」
「……オトハと申します……」
やや控え目な口調で彼女……オトハは名乗った。
ビーディは頷いて水晶玉の中に目を通す。
「(……これは……)」
目を細めて、占いの結果に微妙な唸り声をあげる。
「どんな結果が出たのです?」
オトハはビーディの横に顔を寄せて不安そうに水晶玉を眺める。
しかし、オトハには水晶玉が光っている様子しか見えない。
「…………」
「……ビーディさん?」
黙りこむ様子を見てオトハは不安になる。
「……居場所はわからなかった。だが……」
次の言葉をオトハは固唾を呑んで待った。
「お主の大切な人はきっとどこかにいる」
「……つまり、生きている……」
「…………。そうじゃ」
「そう……なん……だ……」
オトハは両手で胸を押さえて、目をギュッと瞑っていた。
「……今まで私が信じてきたことは正しかったのですね……」
例え占いでも、誰かにそう言われたことでオトハはとても救われていた。
「私……探し続けます!絶対に見つけます!ビーディさん、ありがとうございます。お陰で元気が出ました」
「…………。私はたいしたことをしておらんよ」
オトハはほっとした顔でお礼をいい、再び窓の外を眺めた。
だが、一方のビーディは曇った表情をしていた。
「(……私には言えない。彼女がこんなに必死に探しているのに、尋ね人が“存在しない”なんて……) おや?」
「……どうしました?」
水晶玉を再び見るビーディにオトハは首を傾げる。
「黒い暗示……何か災いが起ころうとしている……」
「災い?いったいそれは…………?」
ボゴ――――――――――――ンッ!!!!
「え?」
「何事だ!?」
災いというものはすぐに振りかかるものだった。
バスが不自然に揺らぐ。
「きゃあっ!!」
感じたかと思うと、天井が地面に、地面が天井にとひっくり返ってしまった。
外から見るとわかるように、バスは砂上地帯のど真ん中で横転していた。
「ビーディさん……ビーディさん!!大丈夫ですか?」
隣に座っていた黒縁メガネの老女は、気絶していた。
それだけではなく、他の乗客も何らかのケガを負っていて動けないようである。
「(大変……早くバスの外へみんなを避難させないと……)」
とにかく、オトハは横転した際に割れた窓から外へと抜け出した。
いや、正確には抜け出そうとした。というのが正しい。
「えっ!!」
窓の縁に手をかけて、外から飛び出た瞬間に、どす黒い球体がオトハ目掛けて飛んできたのである。
這った体勢でたいした回避などできなく、攻撃の余波で外へと飛ばされた。
砂利の地面に一転、二転し、ヘッドスライディングのような体勢で何とか止まった。
「(誰かが攻撃を仕掛けている!?)」
とにかく、オトハはボールに手をかけようとした。
しかし……
「……!! (手が……動かない!?)」
膝をついた体勢で動きがピタリと止まった。
冷静を保ってこの状況を整理しようとする。
すると、自分の腕が何かに絡め取られているのが見えた。
「……これは……影? まさか……この影は!?」
「覚えていてくれたようだね、オトハ」
岩陰からスッと、出てきたのは黒いフード付きパーカーに黒いブーツ、黒いネクタイに白いシャツ、そして黒いGパン系のズボンにメタルのチェーンをぶら下げた男だった。
頭にすっぽりと被ったフードを除けて、男は堂々とした態度で彼女を見ていた。
「……クロノ……さん……」
呟くような口調でオトハは彼の名前を口にする。
最初は驚きの表情をしていたが、すぐに彼女は納得し、真剣な表情をした。
「久しぶりだな。俺の眩しい太陽」
「太陽……?」
キョトンとオトハは顔を上げる。
「君のことだ」
指をビシッと指してクロノは言う。
「率直に言おう。君を迎えに来た」
「私を……迎えに?」
「そうだ。君は俺のものになるんだ」
オトハに一歩、また一歩近づいていくクロノ。
何とか逃れようとオトハはじたばたとするが、全然動けない。
「無駄だよ。サーナイトの『シャドーナイツ』が君を縛り上げているんだ。いくら君といえどもこれから逃れることはできない」
クロノは無表情で人差し指と親指でオトハの顎をクイッと持ち上げる。
オトハは困った表情でクロノを見る。
「今まで何をしていたのですか?探していたのですよ?」
「君は僕を求めていたのか。嬉しいよ」
「違います」
キッと彼女にしては強気な目で否定する。
「私はあなたの間違いを正すために探していたのです」
「俺に説教をしようというのか。無駄なことだな」
鼻で笑うクロノ。
「前も言ったはずだ。お前は光。俺は闇。光と闇は決して交わらない。光と闇の関係であるのは、闇は光を飲み込むこの一点のみ。この意味、お前ならわかるはずだ」
「……難しいことはわかりません。でも、光は闇を晴らす物だと思うのです」
「光が闇を凌駕するというのか。それはないな。闇はブラックホールのように全てを飲み込む物だ。……とにかく言いたいことは一つ」
「っ……!!」
ふとしたとき、オトハの目の前には彼の目が直近にあった。
そして、彼女の唇は奪われた。
必死でもがくオトハ。
だけど、サーナイトの技が邪魔をして、抵抗も無意味だった。
「君は俺に飲み込まれる運命なんだよ。闇と光と同じようにな」
口を離して無表情にクロノは呟く。
顔を真っ赤にしたオトハは手を出せず、睨みつけることしかできなかった。
「とりあえず、俺と一緒に来てもらうよ」
抵抗できずにオトハは俯く。
「(ここで捕まるわけには行かないの……。私はクロノさんを救って、探さなくちゃいけないの!!大切な人を……)」
「さぁ……少しの間……眠っててくれ」
「(そういえば、“あの時”もそうだったわ……シオンタウンでポケモンを持たずに肝試ししているところをロケット団に襲われて、彼は助けてくれた……。一つ望むのなら……お願い……助けて……ヒロトさん……)」
クロノがスリーパーを繰り出して、持っている振り子をオトハの目の前で動かす。
催眠術だ。
これに完全にかかったら、深い眠りに陥ってしまっていただろう。
バチンッ!!
「……?」
だが、後ろから強烈な一撃がスリーパーを吹っ飛ばした。
「……何者だ?」
クロノは後ろからの攻撃に振り向いた。
「(ヒロト……さん……?)」
少し催眠にかかってしまったオトハは、まどろみながらも必死で目を凝らして、その先を見たのだった。
第三幕 The End of Light and Darkness
「君を迎えに来た」 終わり