☆前回のあらすじ
温泉街のキャメットでチドリと言う女の子を助けたバン。
その日、バンとチドリは楽しい一日を過ごして2人は別れたのだが、次の日、チドリはバンの風霧探しを協力すると言い始めたのだった。
一方、パイラタウンの地下の街、アンダーで賞金首のディオに襲われたミナミ。
何とかディオから逃げ出すことができたが、新たな3人の襲撃者がミナミと鉢合わせになった少年に向かって強烈な一撃を繰り出してきたのだった。
「う~ん。情報が全然手に入らないみたいですね。チームトライアングル<バンさんたち>も苦戦しているみたいですね」
カチッとメールを確認するリク。
バンやミナミの情報を見て、ため息をついた。
「(そういえば、ミナミさんは一人で行動する機会なんてまったくないって、バンさんから聞いたけど大丈夫かな……?)」
実は、ミナミはかなり記憶力が悪い。
言葉で覚えた情報は、すぐに忘れてしまうのである。
それなら、メモをすればいいじゃないかと思うのだが、実はそれには難点がある。
ミナミの文字は、自分でも判読不能だからである。
なので、情報の報告はジュンキやバンに任せて自分はのんきに遊んでいるのである。
「不安だなぁ……」
リクの不安はまさに現在進行形として、的中していた。
たった一つの行路 №162
「ふぁぁ……危なかった……」
「い、いったいなあに?」
ミナミはライトを照らして、先ほどの強烈な一撃の跡を見て唖然とした。
地面には穴が開いていて、そして、穴の手前には少年のビーダルがダウンしていた。
「避けられちまったか」
「サワムラーのタイミングが遅かったんじゃないですか?」
「ビッグス、ウェッジ、ボヤボヤしている場合じゃないよ!なんか、もう一人いるし!」
声の方にライトを照らして確認すると、バルキーから進化する3匹の格闘ポケモンと3人の柔道着を来た男女がいた。
しかも、3人とも似た色のバンダナをしていて、明らかにこちらに襲い掛かろうとしている。
「ね、ねえ……あの3人は何!?」
「……ふぁ?お姉さんは誰?」
2人はともに質問をしあう。
「……えーと……」 「……う~ん……」
そして、2人は説明しようとして同じタイミングで喋りだしたために言葉を濁す。
だけど、その隙を連中は許してはくれなかった。
「カポエラー!!」
「サワムラー!!」
カポエラーの高速スピンとサワムラーの伸びるキックが2人に襲い掛かる。
2つの攻撃はギリギリのところで2人を掠めた。
男の子もミナミも、何とか回避行動を取っていたのだが、それでも2人の動きを先読みしたような攻撃を2匹が放ってきたのである。
「エビワラー!!」
軽いフットワークで一気に接近してくる。
エビワラーが使ってくる技はマッハパンチ。
絶対先制を取れるスピード系の技である。
「フワンテ!」
ミナミの手前で、エビワラーの攻撃は止まった。
ゴースト系に格闘系の技は効果が無い。
「エビワラー!?」
ズドンッ!!
零距離のシャドーボールがエビワラーに当たって吹っ飛ぶ。
しかも、その先にはカポエラーとサワムラーもいて、上手く巻き沿いにすることに成功した。
「ジェシー!!何をやってんだよ!早くエビワラーをどかせよ」
「カポエラーがそこにいるのが悪いんでしょ!!」
「何をーっ!?」
「おい」
「何?」 「何だよ!!」
エビワラー使いのジェシーとカポエラー使いのウェッジが、残りのビッグスに怒号を浴びせる。
「2人が消えた」
「……逃げられたの!?」
「ったく……誰のせいだか」
「ウェッジ!!」
そして、ケンカになる2人をビッグスはため息をついて放っておくのだった。
「私はミナミ。よろしくー☆」
3人組から何とか逃げることができた2人は、昔、ショップだった建物に隠れて自己紹介をしていた。
こんな時でも、ミナミの口調は明るく、飛びぬけていた。
挨拶とともに手を差し出す。
「ええと。僕の名前はケイ」
手をズボンに擦ってきれいにしてから、ミナミの手を握り返す。
「とりあえず、状況を説明すると、僕はあの3人組に寝込みを襲われていたんだ」
「寝込みを襲われていたー?」
ミナミは首を傾げる。
「……夜這いのこと?」
「うん。……うん?それは違うと思う」
腕を組んで、遠くを見るようにケイは話す。
「僕はただここに来て睡眠を楽しんでいただけなのに」
「ケイちゃんは寝ることが好きなんだー☆」
「うん」
どこか眠そうに、しかし、笑顔でケイは答える。
「だけど、何であの3人は襲ってきたんだろう?何か理由があるのかな?」
「あ」
ミナミはピンっときた。
「どうしたの?」
「思い出したんだけど、あの3人……以前見た賞金首のリストに載っていた気がするー☆」
「本当ー?」
「確か、ビックス、ウェッジ、ジェシー……だよね?」
コクンとケイは頷く。
「その3人は、3人とも3万ポケドルの賞金首だったような気がするよっ☆」
「賞金首かぁ……」
ケイはふと、モンスターボールを取り出した。
「お昼寝するためだけにここに来ていたから、訓練中のポケモンを4匹しか持ってきていないんだよ。2匹はもう気絶してるし」
「戦う気なのー?」
「あんまり戦いたくないんだけどなぁ……ふぁぁ……」
あくびをしつつ、ケイは立ち上がる。
「このまま隠れてても、見つかるだけだし……行こうよ」
「…………」
ミナミはふと、ケイの手を掴んだ。
「?」
「いいこと考えたんだけど、やってみない?」
にっこりと微笑みながらミナミはそう言ったのだった。
「あーあ」
「どこに行ったんだ?」
「早く見つけないとね」
薄明るい街頭がちらちらと照らす広場。
先ほどの3人は血眼になってケイとミナミを探していた。
「……!! サワムラー!」
ビッグスはいち早く気付いた。
こちらに向かって、岩の塊が投げつけられていることに。
指示されたサワムラーは、すぐに足を伸ばして、飛んできた岩の塊を粉砕する。
「そこね!エビワラー!!」
先ほどと同じく、スピードのあるマッハパンチを繰り出すジェシーのエビワラー。
目線の先にいるのは、リオルだ。
そして、パンチがリオルを捕らえた。
「違う……! これは影分身ね!?」
物陰からリオルが飛び出してくる。
はっけいの構えでエビワラーを狙う。
「ジェシーは甘いんだよ!『トリプルキック』!!」
サポートに入るように、カポエラーが空中に飛び、3回の蹴りを決めようとする。
だけど、リオルも黙って攻撃を受けるわけがない。
最初の一撃をかわしたのである。
あくまで最初の一撃だけだったが。
後から来た2回のキックはもろに受けて、弾き飛ばされる。
「リオル、『まねっこ』!」
ケイは物陰から飛び出して、リオルに指示を繰り出す。
蹴り飛ばされたリオルは、受身を取って、カポエラーに向かっていく。
まねっこでコピーしたのは、カポエラーが繰り出したトリプルキックだ。
「オイ。こっちを忘れるなよ」
「私もいるのよ?」
サワムラーとエビワラーがそれぞれメガトン系のキックとパンチを繰り出してくる。
トリプルキックはいとも簡単に2匹に破られて、リオルは地面を擦るように吹っ飛ばされる。
「リオル!!」
ケイは呼びかけるままにリオルに近寄っていく。
「これで終わりだ!」
「私たちの必殺技を受けなさい」
「戻ってきたことを後悔するんだな」
エビワラー、サワムラー、カポエラーが3つ重なり合うように飛び上がる。
「(来た!さっきの大技!?)」
ケイは息を呑んだ。
この大技の前にビーダルがあっという間にノックダウンさせられたのである。
「「「『さんみいったい』!!!!」」」
まるで彗星の如く、3匹は落下してリオルとケイに襲い掛かる。
「しまった……」
と、ポツリとケイは絶望した表情で言う。
だが……
「(?)」
「(笑っている!?)」
ケイはすぐに表情を変えていた。
「かかったね。『まもる』!」
舌をペロッと出して、防御の指示を出す。
ガガガッ!!
強力な一撃を受け止めたのである。
そして、攻撃を弾き飛ばした。
「なっ!?」
「まずい!バランスが!?」
「サワムラー!!」
3人がそれぞれ動揺したところが、彼らのチャンスだった。
「フワンテ~!」
ミナミが建物の屋上から傷だらけのフワンテを繰り出した。
そして、彼女の出した指示はただひとつだった。
「『大爆発』~☆」
「「「!!!」」」
空中に滞空しているエビワラー、サワムラー、カポエラーに避ける暇を与えなかった。
体中の力を溜め込んだと思うと、フワンテはエネルギーを放出して、凄まじい爆発を起こした。
その威力は、ディオから逃げる時に使った『小爆発』よりも3倍くらい威力が高い。
「キャッ!!」
「のわっ!!」
「ぐぉっ!!」
そして、その威力の巻き沿いになった3人は、爆風で吹っ飛ばされて気絶した。
「ふぁぁ……危なかった……」
ケイは咄嗟に建物に隠れて、爆発をやり過ごしていた。
リオルも爆発に巻き込まれる前に回収して、大事には至らなかった。
「うまく行ったね☆」
「あの『さんみいったい』の隙を突く作戦を聞いたときは、うまく行くか半信半疑だったけど……。『まもる』で相手の体勢を崩せると思わなかったなぁ」
ケイとミナミの作戦は、相手に『さんみいったい』を出させて、『まもる』で弾くこと。
そして、3匹が固まって、しかも体勢を崩して反撃できないところを狙って、最大の技を相手に与えることだった。
つまり、ケイがオトリになって3匹をひきつけて、ミナミが決めるという、作戦としてはスタンダードなものだった。
「これで終わりだね」
「ね☆」
互いに握った拳をつき合わせて、勝利を祝った。
「じゃあ、早く出ようか。この3人のことをヘッジ署長に報告しないと」
「……あれ?」
「……? ミナミさん、どうしたの?」
首を傾げるミナミ。
「何か……忘れているような……?」
そう。ミナミは肝心な奴のことを忘れていた。
「ここにいただの!!」
野太い声が聞こえてきた。
「あっ!思い出した!」
「なんですか?」
ミナミは目の前にいた男を指差した。
「私も懸賞金が33万ポケドルの『お灸拳法のディオ』ちゃんに追われていたんだった~☆」
「あー。ミナミさんも追われていたんだ……」
明るく発言しているところを見て、苦笑いをするケイ。
「次は逃がさないだの!ドクロッグ!」
「ミミロップ~『ピヨピヨパンチ』!!」
可愛らしいパンチを繰り出すが、ドクロッグはいとも簡単に回避する。
そして、カウンター気味の『どくづき』をミミロップの腹に叩き込み、打っ飛ばす。
「ミミロップ!?」
弱々しい声をあげて、一回は立ち上がったが、フラッとよろめいたあげく、あっけなく倒れた。
単に強い一撃を受けただけでなく、毒の追加攻撃まで受けていたらしい。
「うわーん……もう無理!勝てないよぉ~」
「観念するだの」
「それなら、僕が相手になるよ?」
「え?」 「む?」
ボゴッ!!
ドクロッグの足元が、急に崩れた。
そして、ドクロッグはずるずると地面に飲み込まれていく。
「これは……『砂地獄』だの!?」
「ふぁぁ……正解!『竜の怒り』」
中心に向かって、炎に似たブレスを吐き出すのは、鮫のような愛くるしく見えるポケモン……フカマルだ。
攻撃は確実にドクロッグへダメージを与えていた。
「『竜巻』!『ドラゴンクロー』!!」
そして、息もつかぬ連続攻撃だった。
竜巻で砂地獄に埋もれつつあったドクロッグを空中に引っ張り上げつつダメージを与えると、硬く鋭い爪で切り裂いた。
ズドンッ!!と音を立ててドクロッグは叩きつけられて、気絶した。
「凄まじいチェーン攻撃だの……」
「次、来るの?」
口を押さえて、あくびを噛み締めるケイ。
「ケイちゃんすごい♪こんなに強いのに、何でさっきは逃げてたの~?」
「ふぁ?さっき言ったよね?僕は訓練中のポケモンしか持ってきてないって。今持っている中で最強のポケモンはフカマルなんだよ」
「あー。なるほど☆」
ミナミは能天気にケイに頷く。
「そっちが最強のポケモンなら、こちらも最強のポケモンで行くだの!!」
そして、繰り出して来たのは、ミナミを追い詰めたドラピオンだ。
「ケイちゃん、気をつけて!そのドラピオンは強いよ!」
ミナミの警告に頷きつつも、肩の力を抜いて、ケイはリラックスした状態で迎え撃つ。
「行くだの!」
ドラピオンが動く。
しかも、スピードはかなり速くて、既に右サイドのほうへ回りこんでいた。
そして、尻尾攻撃がケイに襲い掛かる。
「(速い!?)」
間一髪、身体を逸らしてかわした。
「『ドラゴンクロー』!!」
懐に飛び込むフカマルの爪一閃だ。
「『ツボをつく』!!」
ガギンッ!!
攻撃はドラピオンの腕を掻い潜って、もろに入ったはずだった。
「ふぁ!?効いてない!?」
「なぎ払うだの!」
腕を振り回して、フカマルを打っ飛ばしてしまった。
「普通に今の攻撃を受けてたら危なかっただの。だけど、『ツボをつく』で防御力を上昇させてもらっただの!これでどうだの?」
「『竜巻』!!」
ケイは冷静に次の攻撃を繰り出していた。
物理攻撃の効果が薄いと思い、特殊攻撃に切り替えたのである。
その代表といえるのがこの技だった。
ドラピオンは吹き飛ばされまいと、脚を踏ん張っていた。
「『砂地獄』!!」
そして、先ほどと似たようなコンボを繰り出す。
「さっきと同じ?」
「(違うだの?今度は足場を崩すためだけに、砂地獄を!?)」
ケイの狙いは、ドラピオンを竜巻で空に打ち上げることにあった。
「しかし、竜巻など破ってやるだの!『吹き飛ばし』!!」
自ら繰り出す風の技が、あっという間に竜巻をぶち破ってしまう。
「キャッ☆ ……あれは、もしかして、パチリスとカメールの合体攻撃を破った技!?」
吹き飛ばしの余波がきて、腕で目を覆うミナミ。
一方のケイは口元を緩めて余裕の表情をしていた。
「『竜の怒り』を連射だよ!」
ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!!
一回、二回、三回……次々と怒涛の攻撃を竜巻の影響によって滞空させられているドラピオンに向かって撃ち込む。
「ドラピオン、腕で弾け!!」
怒涛の連続攻撃を左右の硬い腕で防御していく。
とはいえ、ダメージは確実に与えていた。
「『クロスポイズン』!!」
「最大パワー『竜の怒り』!!」
ドラピオンはどんどん地上へと降下し、そして、フカマルに牙を剥く。
一方のフカマルも負けじと先ほどの連射と比べて威力の高い攻撃を放っていた。
そして、二匹の攻撃は激突した。
砂煙が起こり、ただでさえ薄暗くて見えないのに視界はなおも悪くなった。
「ふぁ……どうなったんだ?……うわっ!!」
ケイは様子をうかがおうと煙の中を進もうとしたが、吹っ飛んできた何かによって砂煙から弾き出されてしまった。
「ケイちゃん!?大丈夫!?」
「いてて……フカマル!?」
飛んできたのは深く傷ついていたフカマルだった。
まだ、戦えるものの後一撃受ければ、ダウンは免れない。
「ふぅ……なかなかの連続攻撃だっただの。だけど……」
風が巻き起こり砂嵐が吹き飛ぶと、ドラピオンとディオの姿が薄暗闇の中から出てきた。
「……アレだけの攻撃でまだ倒れないのー?」
ミナミが慌てながら、ケイを揺さぶる。
「ケイちゃん、どうしよう!?」
「ふぁぁ……参ったなぁ……」
抱えているフカマルを撫でてやるケイ。
すると、フカマルがケイの腕から飛び出た。
「ふぁ?フカマル?」
「まだやるだの?」
「フカマル……もしかして……?」
フカマルは咆哮をあげる。
そして、ドラピオンに向かって突進していった。
「やっぱり……!!」
「なんだの!?」
「『ドラゴンクロー』!!」
フカマルは姿を変えつつ突撃し、ドラピオンに一撃を加えるときには、鮫のような鋭い眼をしたポケモンに進化したのである。
ズシンッ!!
そして、ドラピオンとガバイトは組み合った。
「進化して基礎能力が上がっただの?でも、そのくらいじゃ、勝てないだの!!」
尻尾がガバイトに向かって襲い掛かった。
「『竜の怒り』!!」
自分もダメージを受ける覚悟で攻撃を仕掛けた。
そして、両者ともに吹っ飛んで、2匹の距離が開いた。
「これで決めるだの……『破壊光線』!!」
「最大パワー『竜の怒り』!!」
2匹の攻撃は互角……いや、ガバイトのほうが押されていた。
徐々に竜の怒りが押されていく。
「駄目かも……」
「ケイちゃん!!任せて!」
すると、今まで黙っていたミナミがポケモンを繰り出した。
そのポケモンとはオオタチだった。
「『手助け』!!」
手を叩いて、まるで応援するようにオオタチが騒ぎ立てる。
すると、ガバイトの威力が上がって、相手の破壊光線を押しとどめた。
「でも、押し返せない!!」
数秒押し合った後、2つの光線は爆発した。
「きゃぁっ!!」
「ふわっ!!」
「ぐっ!!」
そして、暗闇と凄まじい爆風の中、戦いの行方は煙の中に覆われてしまったのだった。
第三幕 The End of Light and Darkness
「夜這いのこと?」 終わり