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たった一つの行路 №160

/たった一つの行路 №160

 ☆前回のあらすじ
 トミタ博士のデータを奪った女の居場所を突き止めようとしていたジュンキは、砂漠の真ん中に存在するリブラ号へと突入した。
 しかし、出会い頭に会った少女アイによってケライにされてしまい、ウソハチ捜しを手伝わされるのであった。



「リブラ号……ユウナさんから聞いた話によると、最近、野生のポケモンが棲みついていると言っていましたね……」

 リクはポケモン総合研究所跡の近くに張られたテントの中でそう呟いたのだった。



 たった一つの行路 №160



 ―――リブラ号。
 操舵室から奥へ行こうとすると、次々と野生のポケモンたちが襲いかかってきた。
 そのたびに、ジュンキはポケモンを繰り出して、応戦していった。
 アイの言うとおり、リブラ号のポケモンたちは一癖も二癖もあり、属性や特性がアテにならないことが多くあった。
 そのせいで、ジュンキのポケモンたちは、次々傷ついていった。
 幸い、ジュンキは回復アイテムを多めに持っていたために、何とかその場を凌いではいるのだが。

「思ったよりも、ここの野性ポケモンは強いわね……ウソハチ大丈夫かな……」

 歳相応の女の子のようにしおらしく、ウソハチを思いやるアイ。
 確かに、ウソハチ一匹がこの場に迷い込んだとなると大変である。
 だけど、ふとジュンキは思った。

「(心配するなら、アイも戦えよ!!)」

 実は野生のポケモンに応戦しているのは、ジュンキだけでアイは未だポケモンを出していない。
 ここはアイも戦って早く助けてやるのが筋じゃないのか!?と思うジュンキ。

「(それとも、ここのポケモンが強くて歯が立たないから、俺にお願いしたって言うのか……?そうだとしたらとんだツンデレだな……)」

 と、思った。
 いや、そうだと彼は確信した。

「(ふっ、結構可愛いところあるじゃないか)」
「ねえ、何ニヤケているの?」
「は?ニヤケてなんかいない!それより、もう少しで一番奥に着くみたいだ。この先にウソハチは居るんじゃないか?」
「そうかも!!」

 タッタッタッとアイは走って先に行く。

「ちょっと待てよ!」

 あわててジュンキはアイを追って行く。

「見つけた!ウソハチ、ダメじゃない!!」

 ジュンキが追いつくと、アイはウソハチを抱えて叱っていた。
 彼女の話によると、このウソハチは知り合いのポケモンらしい。

「さあて、帰らないと」
「(……結局、変わったところはないな……ここは外れだな)」
「行くよ。ジュンキお兄ちゃん」
「ああ」

 部屋を出ようと、振り返ったそのときだった。

「っ!! アイ!! 上っ!!」
「上?」

 鋭いハサミがアイの首を目掛けて襲い掛かってきた。

「きゃあっ!!!!」

 ズドッッッ!!!!

 ハサミは厚い鉄の地面に深くめり込んだ。
 そして、そのハサミの主はハサミを引っこ抜くと、ニヤリとアイを見た。

「こいつは……グライオンか!!」

 ジュンキはすぐにハッサムを繰り出した。
 不意打ち気味の電光石火がグライオンに入った。

「……!?」

 だが、平然と片手のハサミを使ってハッサムを捕らえて、投げ飛ばした。
 ガンッ!!と壁にぶつかって鈍い音を立てる。
 それでハッサムは目を回している。

「くっ!! カイロス!!」

 ハッサムがすぐに行動に移れないことから2匹目を出して、応戦させる。

「『いあいぎり』!!」

 ガキンッ!!

 だが、あっけなくハサミによって止められてしまう。

「『地獄車』だ!!」

 ハサミで角を掴んでいるのを利用して、カイロスは回転を加えて、グライオンに攻撃を実行した。
 のだが……

 ズドゴンッ!!!!

 攻撃を受けたのはカイロスだった。

「今のは『カウンター』!?地獄車の力をそのまま利用したのか!?……それなら、『ストーンエッジ』!!」

 カイロスの懇親の一撃。
 しかし、それさえもグライオンはハサミを硬化させて、あっさりと砕いてしまう。

「……ふっ、これでどうだ!?」

 ドガッ!!

 背後からのハッサムの鋼の翼だ。
 カイロスの攻撃はフェイクで、ハッサムの怯みが解けるまでの時間稼ぎだったようだ。
 グライオンは前のめりに倒れこむが、すぐに起き上がってくる。

「もう一発だ!『鋼の翼』!!」

 連続攻撃でグライオンを畳み掛ける。
 しかし、そこへグライオンのハサミに異変が生じた。

「……なんだ!?」

 グライオンのハサミが突如、不可思議な色に変わり始めたのだ。
 そして、次の瞬間……

 ズドッ―――――――――――――――――オンッ!!!!

「っ!!!!」

 ハサミを振り下ろすと、凄まじい衝撃波を繰り出し、ハッサムとその先にいたカイロスを吹っ飛ばした。
 激しいダメージを受けて、ハッサムとカイロスはダウンした。

「……っ!!なんだ、このグライオン……今までの野生のポケモンとは何かが違う!!」

 ハッサムとカイロスを戻して、ジュンキはアイを見る。

「アイ、ここは逃げるぞ!!」

 アイの手を掴んで逃げだした。
 だが、グライオンは追ってくる。
 ジュンキたちを餌だと思っているのだろうか?
 そして、角を曲がろうとした時、グライオンが一瞬のうちにアイとジュンキを抜き差って、通路をとおせんぼした。

「ちっ……しつこいな……」

 ジュンキは再びボールを持ってポケモンを繰り出そうとする。

「でも……果たして勝てるのか……?」

 息を呑むジュンキ。

「はぁぁ……」

 そして、アイはため息をついた。

「ジュンキお兄ちゃんって、役に立たないケライね」
「……は?」

 そういうと、アイはジュンキの前に立って、ボールを構えた。

「下がってて。アイが追い払うよ」

 そして、現れたのは毒ポケモンのニドリーナだ。
 地面タイプのグライオンとは相性が悪いはず……である。
 グライオンはニヤリと笑いながら、突進してきた。
 ニドリーナはウインクしながら、グライオンを見つめていた。

「危ない!」

 ジュンキが声をあげる。
 だが、グライオンはニドリーナをスルーして、壁にドスンとぶつかった。

「え?」
「ニドニド!」

 ニドニドとはアイのニドリーナのニックネームのようだ。
 呼びかけられると、ニドリーナは集中して力を溜めると、一気に壁にぶつかって怯んでいるグライオンに向かって一撃を打ち込んだ。
 ドガッ!!ズドッ!!ガンッ!!と強烈な音と共にグライオンは、ジュンキたちが先ほど通ってきた通路へ吹っ飛んでいった。

「うん、これでおしまい!」
「今、何をやったんだ!?」

 ジュンキはアイの攻撃の手際を見て唖然としていた。

「さっきのは『おだてる』という技で相手を混乱させるの。その隙に気合を溜めて、一気に攻撃をしたってわけ」

 ちなみに、ニドリーナの攻撃は『シャドークロー』で、相手の急所をしっかりと捉えていたために、威力は絶大だった。

「攻撃するばかりがバトルじゃないんだよー!わかった?ケライのジュンキお兄ちゃん」

 と、アイはにっこりと笑う。
 その笑顔の裏には何気に皮肉を含んでいるようだ。

「……と言っても、戦い方はお兄ちゃんが教えてくれたんだけどね」
「お兄ちゃん?」
「そう。アイのケライ」
「……家来……」

 アイの言葉を聞いて、ジュンキは苦笑する。

「でも……おかしいなぁ。さっきのグライオン、今まで戦ったポケモンと比べて様子が変だったよね。噂は本当なのかな?」
「噂?」
「……さぁ、とりあえず、この場所から出よう!ウソハチを持ち主に返してあげないと!」
「ちょっと待って!その噂って何なんだい?」
「だーかーらー!!」

 アイは強引にジュンキの耳を引っ張った。
 そして、そのまま出口へと向かっていく。

「ケライがアイに軽がるしく質問しちゃ駄目なの!行こう!」
「イタッ!!イタいって!!耳を離せって!!」
「もう……お兄ちゃんと比べると弱いし、逆らうし、役に立たないケライね」

 こうして、ジュンキはアイに頭が上がらず、このまま引っ張られて、一旦リブラ号を後にする羽目になるのだった。



「ふぁぁぁ…………ぁぁっくしゅんっ!!くしゅんっ!! …………っ!!」

 どこかの街。
 寝転がっていた少年は、自分のあくびをしながらのくしゃみに驚いて、ふと飛び起きた。
 そして、目を擦りながらボーっと辺りを見回す。

「…………」

 バタッ

 そして、また仰向けに寝る。

「あくびをしながら二回もくしゃみするなんて、誰か噂でもしているのかなぁ」

 暢気にあくびをしながら、そう呟く少年。

「えーと……それにしても……」

 目を瞑りながら、少年は言った。

「ここってなんだっけ」

 この場所は暗く、光が差し込まぬ荒廃した場所。
 少年がいるのも、その廃墟になったホテルのベッドの上だった。

「ふぁぁぁ……まあいいや……思い出すのは……もう一眠り……にしてから……」

 そして、再び少年は眠りについてしまったのだった。



 9

 ―――数日経過。
 ここは、オーレ地方の北にある地方の有名な温泉街“キャメット”。
 観光で毎年賑わっているのだが、それと同時に凶悪な犯罪者達が蠢く治安の悪い場所でもある。
 ここを観光に選ぶ人は、よほどの無知な者か、よほど自分の腕に自信のある者だろう。
 ゆえに、悪党が集まるこの場所に情報があると踏んで、“彼”はちょうど一週間も前からこの街にやってきた。
 そう。今回の事件の情報を集めるために。

「ネェ……バン……モウ一回?」
「(ちっ、煙草切らしたか……) アリッサ、後でな。シャワー浴びてくる」
「ダメ……イマジャナイト……」
「仕方がねえな」

 金髪の女性と濃厚なキスをかわすバン。

 ピピピッ!!

 ここで、バンのP☆ADが着信を告げた。
 バンはアリッサという女性の唇を離し、舌打ちをしてから、誰かも確認せずに、応答に出た。

“バ~ン……あなた、まさか、サボっているんじゃないでしょうね?”

「ゲ。ユウナ?」
「ユウナ?」

 金髪のアリッサという女性は、“ユウナ”という名前を聞いて、不快な表情をした。

「バン、ゆうなッテダレナノ?」
「ちょ、アリッサ、今話してんだから後にしろ」
“バン……やっぱりサボっていたのね”
「違うっての!!これは……」
「コレハナニ?ワタシハ“ふたまた”ヲカケラレテイタッテコトナノ!?バン、ユルセマセーン!!」
「違うっての!!ユウナは俺の女じゃねー!!」
“言われなくても、あなたの女のつもりはないわ”
「お前に言ってんじゃないっつーの!!」

 バチンッ!!

 絵に描いたような平手打ちがバンの頬を打った。

「サヨナラー」

 そして、アリッサは片言口調のセリフを残し、荷物を持って出て行ってしまった。

「っ!!ユウナ!!何でいいところで電話かけてくんだよ!!メールにしろ!!」
“リクに何の情報もよこさないあなたが悪いのよ。つまり、仕事をしていないあなたの自業自得よ”

 ばっさり切り捨てるようにユウナは言う。

「仕事してないわけじゃねえぞ!」

 怒りを含んだ声でユウナに食って掛かる。

「情報が集まんないんだっつーの!!」
“それなら、『情報はない』ってリクに送ればいいじゃない。定期報告は大事なのよ”
「あーわかった、わかった。今度からそうする……」

 過ぎた物は仕方ないとして、バンの方が折れて気持ちを落ち着かせた。

「で。電話の要件はそれだけか?」
“それと、情報の確認ね”
「情報って、ジュンキのだけだろ」

 バンは傍に置いてあったケースから煙草を取り出そうとして手を伸ばした。
 しかし、空だったのに気付いて、思いっきりそれをゴミ箱へと投げ捨てた。
 でも、勢いが強すぎて、ゴミ箱の中に入らず、地面に落ちてしまった。

“ええ。ある女の子から『リブラ号に最近怪しい人物が出入りしている』と言う情報をもらったことね。まぁ、それだけだけどね”
「その件に関しては、ジュンキが見張って尾行するって決めたんだろ?」
“そうよ。私とログはまだアゲトビレッジで情報を探しているけど成果なし。……リクかジュンキに合流した方がいいかしら?”
「さあな、任せる。そういえば、アゲトビレッジの祠って、直らねえのか?」
“それに関してはなんとも言えないわ……。とにかく、トミタ博士のデータの奪還、カレンの時の笛奪還……それを果たさないといけないわ”
「ああ。わかった。こっちももう一度調べてみるぜ」
“とりあえず、風霧には気をつけなさいよ。まったく、女の子をナンパしている場合じゃないのよ”
「ふーん?」

 ちょっと間延びした口調で答える。

“何?”
「お前が相手してくれるなら、ナンパを止めてもいいぜ?」
“…………。寝言は寝て言いなさい”

 ケケケと笑うバンに対して、ユウナはしれっと答えて、通信は切断された。



 夜が明けて、バンは泊まっていたホテルから出てきた。
 ここのホテルは、温泉街の中でも指折りの治安の良さが保障されているホテルである。
 と言っても、このホテルは宿泊のために利用する人は少ない。

「ちっ……ほんとに、ユウナの奴……恨んでやるぜ……」

 手をズボンのポケットに突っ込んでシケた顔で周りに睨みをきかす。
 長髪のポニーテールで耳に髑髏のピアス。腕にチェーンのような装飾をつけて、近寄りがたそうなイメージがバンにはある。

「(“風霧”か……。以前、ジュンキを助けるためにミラクルハーブを採りに行った時も奴らが居たんだよな。そのとき狙っていたのが……)」

 ふと、ポケットからあるポケモンの入ったボールを取り出す。
 それは、伝説のポケモンのレックウザだった。

「(風霧の狙いは一体なんだ?祠を壊して一体何をするつもりなんだ?それに……)」

 習慣からか、口に煙草をくわえて、火をつける。

「(なんか、もう一つ別の組織も絡んでいるみたいじゃねえか。……ったく、ややこしいことになりやがって……。こんな時にラグナの奴は何を遊んでいるんだ?)」

 と言うが、バンも遊んでいるのでお互い様である。

「(とりあえず、風霧について情報を集めるところから再開すっか)」

 煙草から口を離して、煙を吐き出す。

「あ……ポッポ、スバメ……」

 ふと、路地から聞こえてくる女の子の声。

「(なんだ?)」

 バンの耳にも入り、何事か確認しようと物陰から見てみた。
 そこには、一人の帽子を被った女の子を大柄な男3人が囲んでいた。

「や、止めてください……」

 一人の男が彼女の右手を、もう一人が彼女の左手を捕まえる。

「さぁて……一緒に行こうか」
「誰か、助けて!!」
「…………」

 温泉街のキャメットではこんなことが日常茶飯事である。
 女の子が助けを求めているからと言って、いちいち助けていたら、身が持たない。
 バンは助けないでこの場を去ろうと思った。

 バキッ!!

「っ!!」

 いや、思ったはずだった。

「なんだ、お前?」
「朝っぱなから、手荒いナンパとは、よっぽの暇人なんだな。どうよ?俺とバトルしねえか?」
「あ゛?バトル?そんなことするか!」

 女の子を抑えていた2人がバンに襲い掛かる。
 だが……

 バキッ!! ドゴッ!!

「バトルって言うのは、ケンカじゃなかったんだけどな」

 一人の男の拳をかわして、腹に一蹴。
 もう一人の男のまわし蹴りをかわして、顎を一殴り。
 あっという間に、男は一人になった。

「ちっ!!サイドン!!」

 3人の中でリーダーっぽい男の傍らにいたサイドンが、殴りかかってくる。
 女の子のポッポやスバメを倒したのも、そのサイドンだったようだ。

「おらっ!!『捨て身タックル』!!」

 バシュッ!!

 だが、バトルはあっけなかった。

「ぐわっ!!」

 一発の水流が、サイドンを一気に押しやって、男を吹っ飛ばしてしまったのである。
 男とサイドンは目を回してダウンした。

「さて……大丈夫か?」

 改めてバンは女の子を確認した。
 ブロンズのショートヘアで、歳はリクと同じくらいの16歳に見えた。
 口もとがプックリして、バンは「柔らかそうな唇だなー」、「惚けた顔をして美少女とは程遠い女の子だなー」と思っていた。

「温泉のために来た観光客か? それなら、とっととこの街から出ることだな。いつまでもこの街にいるとまたこんな奴らに狙われるぜ?」

 煙草を落として、足で揉み消しつつバンは言う。
 そして、彼女に背を向けて立ち去ろうとする。

「あの」
「なんだ?」

 バンはなるべく優しそうに声をかけるつもりだったが、微妙に怖い声になってしまったことにちょっと不味さを感じた。
 しかし、女の子はそんなことは全然気にしてないようだった。

「私、チドリと言います。よかったら、お礼をさせてはくれませんか?」



 第三幕 The End of Light and Darkness
 「言われなくても、あなたの女のつもりはないわ」 終わり


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Last-modified: 2015-06-08 (月) 22:03:22
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