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たった一つの行路 №159

/たった一つの行路 №159

 6

 アゲトビレッジの祠が破壊されてから3日ほど経った。

「先に祠を壊された……だって?」

 とある廃墟の場所。
 そこで一人の男が驚きの声をあげる。
 男は細身の身体で黄色い派手なマントをつけていた。
 このマントの男が一番偉いようで、彼は上座の椅子に座っていた。

「ということは、あっちたちの他にもなんかしでかそうという輩がいるみたいっスね」

 口に立派なキセルを加えて、麦藁帽子を被った無精髭を生やした20代後半の男は軽そうにマントの男に向かって言う。

「ウゴウ、それはどんな女だったんだ?」
「気になります……」

 黒いスラックスにグリーンのジャケットを着てツバがやや長い帽子を被った男と、黒いスカートに赤のカーディガンを羽織っていてツバがやや長い帽子を被ってさらに首輪が巻かれてる女がウゴウに尋ねる。

「クチャクチャ……と言うか、シロとハク……居たのか?」
「最初から居ましたよ」
「幹部なんだから当然だろ」

 しかし、その言葉をウゴウは無視した。
 そして、自分の代わりに祠を破壊した女のことを仲間に話した。

「ボス。どうするんだ?」
「一応、計画は達成されたけど、今度はあっちたちの邪魔をしてくるとも考えられるっスね」
「…………」

 黄色いマントの男……風霧のボスは腕を組んだままじっとしていた。
 ちょうどそのときだった。

“ぐわっ!!”
「!?」

 部屋の近くに居た風霧の下っ端が吹っ飛ばされてこの部屋に入ってきたのである。

「何者だ!?」

 シロは咄嗟にボールを取って相手の出方をうかがう。
 ハクも彼の右後ろに陣取って同じ行動を取る。
 しかし、シロとハク以外の幹部やボスはただ冷静にその方向を見ていた。

「どうやら、あちらさんの方から出向いてきたみたいっスね」
「へー。で、話の内容はどういうものだと思っているんだ?風帽子のハヤットさんはよー」

 ウゴウが軽い口調で麦わらの男……ハヤットに尋ねる。

「さぁ。それはわからないっスよ」

 肩を窄めるハヤット。

「君たちが風霧の幹部達だな?」

 フードを被って顔を隠した男が答えも聞かずうちにゆっくりと風霧の幹部達に近づいていく。

「…………」

 ウゴウは息を呑んでその男を見る。
 危うく息を呑みすぎてガムを飲み込もうとしてしまったほどだ。

「実は風霧の皆様にいい話を持ってきたのです」

 フードの男から従者のようについてきたのは、シャドーの幹部として仕えたアルドスだった。

「いい話っスか?」
「そうです。私たちの力を貸します。その代わり、あなたたちも私たちに力を貸してもらえませんか?」

 アルドスがフードの男の代弁をして用件を述べた。

「ふ~ん。どうするんだい、ボス?」

 すっかり冷静さを取り戻したウゴウがボスに意見を伺うが……

「力を貸す代わりに協力しろ……か。笑わせるな」

 シロが飛び出した。
 ボールからエアームドを繰り出し、スピードスターを打つ。
 さらに攻撃を放った後に鋼の翼で急襲した。

 ドドドドドッ!!

 決して弱い攻撃ではなかった。
 むしろ今の攻撃は並のトレーナーなら反応できずにすぐに倒せるほどの威力があった。
 普通のトレーナーなら不意打ちでなくても致命傷を与えるくらいの威力がある。

「……な!?」

 だが、シロが見たのは信じられない結果だった。

「強いな。この力を是非貸して欲しい」

 フードの男はスピードスターの攻撃によってできた弾幕がなくなるとそういった。
 そして、シロのエアームドは地面に不時着していた。

「シロのエアームドをあっさりと倒すとはやるっスね」
「これは文句が言いようがないなー」

 ハヤットとウゴウはくるりとボスの方を見たのだった。



 7

 ☆前回までのあらずじ
 ポケモン総合研究所が何者かによって襲われた。
 その事件を解明すべく、SHOP-GEARのメンバーたちはオーレ地方へと急行することになった。
 さらにアゲトビレッジでは、謎の組織『風霧』のウゴウと言うヤミカラス使いが聖なる祠を壊そうと襲撃をかけてきた。
 ハルキとカレン……そして、駆けつけたユウナとログは迎え撃つが、謎の女のベルによって祠を破壊されてしまう。
 時の笛もベルに奪われて、暗雲が立ち込める展開へと移行しつつある。



「ええと、今ユウナさんはログさんと一緒にアゲトビレッジで手掛かりを探している……と」

 リクはパソコンで今現在の彼らの行動について確認していた。

「バンさんは北の温泉街のキャメットへ、ミナミさんはフェナスシティに行っていて、ジュンキさんは……」

 そこでリクは首を傾げる。

「リブラ号?確かこれって2年前に起こったダークルギアの事件の……?まだ残っていたんだ……」



 たった一つの行路 №159



 8

 風に吹かれて砂埃が舞う。
 砂漠の上に浮かぶ……と言うか乗るというべきか、そんな感じの船がオーレ地方のど真ん中に存在していた。
 下調べをせずにオーレ地方のこの場所に来て、まず第一に考える事と言ったら、『何故こんなところに船があるのか?』だろう。
 この船には砂漠を進む技術を搭載されていないし、ましてや飛ぶことなんてできない。
 ゆえにミステリーな雰囲気を醸し出すこと請け合いだろう。
 実際は2年前のシャドーの事件による被害の産物だった。
 XD001と呼ばれるダークポケモン……ダークルギアの力によってこのポケモンの輸送船リブラ号は運ばれて、砂漠に落とされた。
 そして、ポケモンたちはシャドーによって回収されて、次々とダークポケモンに改造させられていった。
 その事件はとある少年によって解決させられたが、このリブラ号は撤去するにはいろいろと手間がかかるために、このままの状態で放置されていたのだった。



「なんと言うか……不思議な感じだな」

 そこへやってきたのは、SHOP-GEAR随一の空気キャラのジュンキだった。
 一人乗りのホバースクーターをリブラ号の近くに停めてゆっくりとリブラ号の周りを歩き始める。

「しかし、撤去とかしないのか……? 観光名所の名目として撤去しないのだろうか? そういえば、ホウエン地方にも“捨てられ船”という場所があったような……」

 頷きながらぐるりとリブラ号の周りを見ていると、所々の色が剥げていた。
 2年も砂場のようなところに置かれているとさすがに風化の対象になる。
 形有るものは全て砂に還るのである。

「……!」

 そして、ジュンキはくるりとリブラ号を回っているうちに船底からは入れそうな場所を見つけた。

「(爆弾かなんかの衝撃で壊された後があるな……2年前にシャドーが入ろうとした際にあけた穴だろうか……?)」

 足を止めて、他には入れそうがないことをチェックする。

「(よし……調べてみようか。ここに怪しい連中が住んでいるかもしれないし。……可能性は低いだろうが……)」

 ジュンキは腰にあるホルダーをチェックした。
 腰にあるのは5つのモンスターボール。
 彼のパートナー達である。

「(準備OK。だけど……今まで奇襲されたことって少ないんだよな……なんでだろう)」

 不思議がりながら、中へと突入するジュンキ。

「倉庫……か?」

 荷物は基本的に船底に置く事が多い。
 恐らくポケモンたちもこの船底の倉庫に居たのだと思われる。

「(だけど、今は何も置かれてないな。撤去されたか全てシャドーに盗まれたか……どっちかだろうな)」

 辺りを見回して、一息ついた。

「(何もないな。次に進もう)」

 タッ…タッ…タッタッ

「(足音?)」

 靴音がしてジュンキは腰のモンスターボールに手をかける。

「(ここに野生のポケモンではないはずだ……ポケモンの足音だったらこんな音はしない)」

 奥の通路へと忍び足で近づいていく。

 タッタッ……タッタッタ……

 一方の足跡の音もどんどん大きくなっていった。

「(一体誰だ……?)」

 ひょっこりと壁から顔を出したそのときだった。

「ウソッ!!」
「はっ!??」

 ガゴーンッ!!

 ジュンキは凄まじい音がしたと思った。
 そう思ったら、自分は宙を舞っていた。

「(う、うそーん……)」

 そして、ジュンキは気を失った。



「あ。やっと目を覚ました」
「っ……?」

 頭を押さえてジュンキはようやく目を覚ました。
 視点が定まらず、近くに誰がいるかもよくわからなかった。

「いきなり出現しないでよ!お兄ちゃんのせいでウソハチを見失っちゃったじゃない!」

 ジュンキは頭をボーっとさせながらもようやく相手の顔を認識し始める。
 水色の御団子頭に真っ白のワンピース。
 そのワンピースの上からウエストにモンスターボールをセットするためのバックルが取り付けられている。

「(ポケモントレーナー……か?)」

 だが、ジュンキが見るにその女の子は10歳に達しているかどうかと疑問に思うほど幼く見えた。

「この責任……身体で払ってよね!」
「……は?」

 突拍子もない女の子の物言いにジュンキはばっと飛び起きる。

「いや、何なんだよ、君は!一体こんなところで何をやっているんだ!?」
「それはこっちが聞いていることなの!どうしていきなり出現してきたのよ!」
「出現って……」
「だって、何もないところから現れるなんて……魔法使いか手品師なの!?」
「…………」

 女の子はジュンキにはやはり空気キャラに見えるらしい。

「…………」

 仕方がなくジュンキは立ち上がった。

「どこに行くの!?」
「俺は君に構っている暇はないんだ。子供は早く家に帰れ!」

 と、ジュンキは女の子に厳しい言葉を投げかけて通路を進もうとする。

「待った!!」

 ドガッ!!

「っ――――!!!!」

 女の子はジュンキに近づいておもいっきり脛を蹴った。
 ジュンキはひざまずいた。

「な、何を…するんだ……」
「さっき言ったじゃない!お兄ちゃんには身体で責任を取ってもらうって!」
「一体俺が何をしたって言うんだ!」
「お兄ちゃんのせいで追いかけていたウソハチに逃げられちゃったの。だから、その責任で……」
「……探すの手伝えと?」

 ジュンキがため息をつきながら答えるが、女の子は首を横に振った。

「じゃあ、何だ?」
「あなたは今日からアイのケライね!」

 ジュンキを指差して、女の子はビシッとそう言い放った。

「(……家来?まあいいか。とりあえずこの子のウソハチ探しを終わらせて、さっさと調査に戻らないと) わかった、わかった。家来になってやるよ」
「ふふっ♪やったー。これで二人目のケライね! アイの名前はね、アイって言うの。しっかり守ってね!」
「俺はジュンキだ」

 こうして、ジュンキはアイのケライになったのだった。



 ジュンキとアイは通路を通って、甲板に出てから、操舵室へ入った。
 アイの見立てによると、操舵室に奥の倉庫への道があるのだと言う。

「っ!! アイ、隠れていろ!」
「?」

 階段を下って、次の仕切りに入ろうとしたところで、ハブネークが現れた。
 それに気がついたハブネークは、すぐにジュンキに向かって、ヘドロ爆弾を吐き出した。

「ハッサム!」

 ハブネークの攻撃をまともに浴びるハッサム。

「(鋼タイプに毒は効かない!! ……!?)」

 だが、しかし、攻撃を受けたハッサムは苦しそうに身体を震わせた。

「なっ!?どういうことだ……!?」
「シャアッ!!」

 その隙をハブネークは逃さない。
 すぐに接近して毒を持った尻尾を振り下ろしてきた。

「っ!! カイロス!!」

 鋭い尻尾を自慢の角で退ける。
 尻尾を払われたハブネークはバランスを崩した。

「『辻斬り』!!」

 バッ!! ズバッ!!

 タイミングバッチリの返し技と追撃技でハブネークは気絶した。

「何なんだ……? ハッサムに毒攻撃が効くなんて……? それにここに野生のポケモンが居るなんて聞いてない……」
「お兄ちゃん、オーレ地方のこと知らないの?」
「……?」

「オーレ地方には、主に岩、鋼、地面タイプの鉱山タイプのポケモンが生存すると言われていたの。でも、つい数年前に外から来たポケモンたちが野生に解き放たれちゃったの。でも、環境に適応してポケモンたちは生きる術を見つけるように強くなっていったの。だから、さっきのハブネークは多分鋼タイプが相手でも互角に戦えるように進化したハブネークなのかもしれない……」

 一呼吸置かずに話すアイをジュンキは呆然と見ていた。

「(意外と博識な女の子だな……?)」
「って、ママとお兄ちゃんが言ってた」
「ふうん。お兄ちゃんって?」

 軽く質問したジュンキだったが……

 メキッ!!

「っ!! な、何をするんだよ!!」

 また、脛を蹴られて、飛び跳ねるジュンキ……

「ケライが軽々しく質問しないの!早くウソハチを捕まえないといけないんだからー!!行くよ!!」
「(あの女の子……可愛くない!!)」

 先を進むアイを見て、涙目でそう思ったそうな。



 第三幕 The End of Light and Darkness
 「あなたはケライね!」 終わり


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Last-modified: 2015-06-08 (月) 22:02:42
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