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たった一つの行路 №158

/たった一つの行路 №158

 ☆前回までのあらすじ
 ノースト地方のオートンシティに存在するSHOP-GEARは、この日も愉快なメンバーが揃っていた。
 そこへ、トキオがオーレ地方のポケモン総合研究所が破壊されたと駆け込んできた。
 マングウタウンのトミタ博士も巻き込まれたのだという。
 一同は、一部のメンバーを除いてオーレ地方へと赴くことになった。
 一方、アゲトビレッジでハルキとカレンは幸せな日々を送っていた。
 しかし、漆黒の羽根を撒き散らす男が現れて、祠を壊そうとしていた。
 さらに、首に鈴をつけた女がカレンの持つセレビィの笛も狙ってきて、2人は追い詰められる。
 そんなところへ、ユウナとログが現れて……?



「これでよしっと。僕の送った情報……役に立つでしょうか……?」

 ポケモン総合研究所……跡地の瓦礫に腰をかけて、リクは頷いていた。
 メールでユウナ宛にトミタ博士から聞いたポケモン総合研究所を襲った者の情報を送ったようだ。

「とりあえず、僕は僕自身にできることをやらないといけませんね!」

 パチンと両手で自分の頬を打ち、気合を入れたリクは、そのままノートパソコンと向き合ったのだった。



 たった一つの行路 №158



「キャプチャ……?」
「そうさ。キャプチャさ。知らないのか?」

 男にそういいつつログは、ハルキに歩み寄る。

「大丈夫か?」

 ログは手を差し出して、ハルキはその手を掴んで立ち上がる。

「……何とか……。お前は誰だ……?」
「僕の名前はログ。一応、言っておくけど敵じゃないよ」

 ぶっきらぼうにログは言った後、男と対峙する。
 そして、一方では未だに黒い謎の物体はごちゃごちゃと荒れていた。

「さっきここへ来る途中、立派な白い髭のおじいさんに会ったんだ。そのおじいさんにその黒い物体の正体を聞いたんだ」
「(……カレンの爺さんのことか) 正体……?」
「その実態は…………」

 ログが答えるのと同時に、その正体は明かされた。
 黒い物体が見事に弾けた。

「大群のヤミカラスと数匹のドンカラスだ」

 ログの言うとおり、黒い物体がはじけると、指折りだけでは数え切れないほどのヤミカラスが存在していた。
 これだけ多いとドンカラスが何匹いるかさえも把握ができない。

「なるほどな……」

 そういうと、ハルキはコソコソとしながら立ち上がった。

「ドンカラスはヤミカラスを率いて行動するという。 ……つまり、あんたが実際に指示を出していたのは特定のドンカラスだけで、残りは野生のヤミカラスだったということさ」

 敵の男に向かってそう断言するログ。

「……半分は当たっているよ。間違っている点がある。ドンカラスは数匹じゃなくて、2匹。そして、ヤミカラスは全部僕のポケモンだよ」
「全部!?」

 ログは今も戦い続けている数十匹のヤミカラスの群れたちを見て呟く。

「僕の名前はウゴウ。ヤミカラスとドンカラスが好きな鳥ポケ使いだ。持っているポケモンは全てヤミカラスとドンカラス」
「……鳥ポケ使い……まさか、“風霧”!?」

 ウゴウはログとハルキを見据えて言う。

「祠の破壊を邪魔するのなら容赦はしない」
「祠の破壊なんて……させない」
「……右に同じく。そのために僕は来たんだからね」

 ハルキの言葉にログが重ねた。

「というか、いつまで混乱しているんだ!しっかりしろ!お前たち!」

 一匹のリーダーであるドンカラスとヤミカラスは、同じく分かれた一匹のドンカラスとヤミカラスたちと戦いを繰り広げていた。
 分散して分かれていたため戦力は互角だ。

「キャプチャの説明がまだだったね。キャプチャは混乱させるものじゃない。相手の気を静めて僕と心を通じ合わせるのさ。まさかトレーナーのポケモンにも効果があるとは思わなかったけどね」
「……何!?」
「……終わりだ、ウゴウ」

 ハルキがそういうと、次の瞬間、バサバサっとヤミカラスとドンカラスは地面へと落ちていった。

「何!?いったい何をした!?」
「こいつの気配に気付かなかったのか?」

 ハルキがその場から避けると、そこには一生懸命に歌うムウマの姿があった。

「っ!? まさか、『滅びの歌』だと!?」
「ログの時間稼ぎのお陰で何とか発動にまでこぎつけることが出来た。感謝する」
「感謝されることは何もしてないさ」

 ムウマがダウンすると、その場にいた大量のヤミカラスと2匹のドンカラスも例外なくすべて戦闘不能になった。

「お前の負けだ。ウゴウ」
「……何をバカなことを言っているんだ?」
「?」
「僕はまだ負けてないよ」

 すると、ウゴウはドンカラスを繰り出してきた。

「……っ。まだいたのか……」

 ハルキは戦おうと前に出ようとするが、いま戦えるポケモンがブラッキーしかいないことに気付く。
 しかも、もう体力もギリギリだ。

「ここは僕がやるよ」

 代わりに出たのは、ログだった。

「……頼む」

 こうして、ログvsウゴウの戦いがはじまる。



 ―――アゲトビレッジの広場。

 ズゴゴンッ!!

 凄まじい音がして、一匹のポケモンが宙を舞う。

「ブラりん!」

 吹っ飛ばされたブラッキーだったが、ユウナの声を聞いて、体勢を立て直して地面に着地する。

「……この一撃で倒れないなんて……やるわね」
「ふふっ。そっちこそ」

 ユウナと鈴をつけた女の戦いは、一進一退。
 ユウナはブラッキー。
 相手はリングマ。
 ユウナは持久戦を決め込んでいたようで、強力な攻撃を受け流しながら、少しずつ相手にダメージを与えているようだ。

「でも、この一撃で終わりにしてあげる。リングマ、『アームハンマー』」
「こっちもいくわよ、ブラりん!『ファントムハリケーン』!!」

 女のリングマが禍々しい気を発しながら腕を振り下ろす。
 一方のブラッキーは攻撃をかわす。
 そして……

 ズドズドズドッ!!!!

 残像が出来るほどのスピードでリングマに攻撃を加えていった。
 だが、リングマは足を踏ん張って攻撃を耐え抜いてみせた。

「そのくらいじゃ、倒れないわ」

 相手がリングマに手で指示を出して、止まったブラッキーに向かって腕を振り下ろした。

「そう。それなら、これでどう?」

 不意にブラッキーが消えた。

「!?」

 そして、リングマの背後にブラッキーが飛びかかっていた。

 ズドドドド―――ン!!!!

 連続攻撃でリングマは吹っ飛ばされる。
 地面を転がり、仰向けに倒された。

「『ダメ押し連弾』よ。……さあ、次のポケモンは何かしら?」
「(やるじゃない)」

 女は意外そうな顔をした後、少し考えていた。
 それから、一つのボールを取り出した。
 中から出てきたのはエネコロロだ。

「次はエネコロロね。ブラりん。行くわよ!」
「……!! ユウナさん!後ろ!」
「!?」

 カレンに言われて後ろを振り向くと、リングマが存在していた。
 攻撃は確かに効いていたが、それでもダウンさせるには至らなかったようだ。

「くっ!!ブラりん!!」

 電光石火とブレイククロー。
 威力の差は歴然。
 ブラッキーは跳ね飛ばされて、ユウナもブレイククローの余波によって吹っ飛ばされる。

「っ……」

 上手く受身を取って、ケガはしなかったが、ブラッキーは相当なダメージを負っていた。
 しかも……

「キャッ!!」
「カレン!?」

 エネコロロがカレンに襲い掛かった。
 カレンは今度はハレを奪われないようにしっかりと抱きしめた。

 ササッ

「え?」

 しかし、エネコロロはカレンに危害を与えず、ただ彼女の横を通り過ぎて行っただけだった。

「エネコロロ……ご苦労様。さて……」

 エネコロロから何かを受け取ると、鈴の女はエネコロロをボールに戻した。

「あんたたちに“もう用はないわ”。じゃーね!」

 そういうと、女はリングマの穴を掘るで下へと逃げてしまった。

「なんだったの……?」
「(もう用はない……?) あっ!?カレン、時の笛は持ってる!?」
「え?時の笛……?」
「早く!」

 ユウナはハレを預かって、カレンは必死にポケットの中を探す。
 しかし……

「ない!! ……いつの間に!?」
「やられた……さっきのエネコロロが使ったのは『泥棒』ね……。初歩的な手にやられたわ……」
「どうしよう……セレビィが……」
「穴を掘るを使ったということは、まだ遠くまで行ってないはず。……ここの下というと……」

 ハッと、2人同時に顔を見合わせた。

「「聖なる祠!!」」



 ドドンッ!!

 激しい攻撃音が響いた。

「くっ……」

 攻撃の主はウゴウのドンカラス。
 強力なドンカラスの悪の波動がログのムクホークをあっという間にダウンに至らしめたのである。

「『ここは僕がやる』……か。てんでたいした事ないな」

 鼻で笑うウゴウ。

「……まったく相手になってないぞ。ここは俺も加わる」

 ハルキがブラッキーを参戦させようとするが、ログは制した。

「『ここは僕がやる』っていったはずだ。邪魔をしないで欲しい。それに、次が本気だ」

 そういってログが繰り出したのはトゲキッスだった。

「行くぞ!」
「ドンカラス対トゲキッス……闇と光の飛行対決か……」

 多分、ウゴウの言った言葉の意味は、闇の石で進化したドンカラスと光の石で進化したトゲキッスのことだと思われる。

「『エアスラッシュ』!!」

 トゲキッスがログの指示を受けて、ひと羽ばたきして一陣の風攻撃を放つ。
 縦に長い風の攻撃は洗練されていて、なかなか簡単に出せる攻撃ではない。

「ドンカラス」

 ズバッ!!

 しかし、そのエアスラッシュをウゴウはそれを上回る翼で攻撃を消し去らせた。
 『辻斬り』だ。

「そこだ」
「……!」

 だが、エアスラッシュはフェイク。
 辻斬りを発動させた時点で、トゲキッスも別の技を発動させていた。
 素早く動き、相手に強力なダメージを与える『神速』である。

「ドンカラス!」

 ドガッ

 攻撃をかわそうとしたが、一歩間に合わず、ドンカラスは吹っ飛ぶ。

「隙を作るな!連続攻撃!」

 ドンカラスが攻撃に怯んだ隙に、トゲキッスが連続で神速を仕掛ける。
 『これならば一気に決められる』……とログは確信を持っていた。
 そして、攻撃はドンカラスへ当たろうとした……

「かかったな?」
「!?」

 神速のトップスピードの攻撃にも関わらず、ドンカラスに攻撃をかわされる。
 それどころか、逆に返り討ちにあって、吹っ飛ばされる始末。
 まだまだ、トゲキッスは戦えるが、負ったダメージは相当な物だ。

「(……神速のスピードを上回ってる!?) くっ……いったい何を……? 『波動弾』!!」

 ログの手前にまで戻ってきたトゲキッスを気遣いながらも、波動攻撃を指示する。それにトゲキッスは応える。

「やっぱり、お前じゃ僕には勝てない。ドンカラス。アレで決めろ」

 ズバッ!!

 圧倒的にドス黒い何かが、波動弾を押しのけ、一気にトゲキッスに攻撃を決めた。

「トゲキッス!?」
「勝負ありだ」

 地面に落ちたトゲキッスを見て、ウゴウは懐からチューインガムを取り出して口の中に放り込む。

「(……あのドンカラス……おかしい……)」

 ふとハルキが違和感を感じていた。

「(嫌な感じがする。……かつてのダークポケモンのような気配がする。……まさか、ダークポケモンなのか……?)」
「本当に対したことなかったな。クチャクチャ……この村のトレーナーも、助けに来たそこのスカーフの奴も、全てね。あまりにも簡単な仕事だったよ」
「……やめろっ」

 ハルキが大きな声で制止するが、もはや止められない。
 ドンカラスは黒い物を纏って、祠に向かって攻撃を仕掛けた……

 バシッ

「な!?」

 だが、ウゴウが予想だにしなかったことに、ドンカラスの攻撃が弾かれた。
 いや、弾かれたというよりも、その場でズバズバと切り裂かれていく。
 そして、結果的にドンカラス自体が祠から引き離される形になった。

「……いったい……」
「『風の渦』さ」
「!?」

 ウゴウはすぐにログを見た。

「!? トゲキッスは倒したはず……!?」
「単に油断を誘っていただけだよ。そしてさっきのは、僕のトゲキッスのトラップ技『風の渦』さ。所定の場所に仕掛けて、入った相手をかまいたちのような攻撃で攻撃するのさ」
「ちっ、風だから目に見えないということか?」
「『炎の渦』の応用だけどね。『エアスラッシュ』!!」
「ちっ!!」

 ドンカラスはエアスラッシュの攻撃をかわす。
 しかし、今までのスピードはまったくない。
 トゲキッスがドンカラスの後ろを取った。

「チェックメイト!『スパイラルショット』!!」
 
 ドゴンッ!!

 ドゴォ―――――――――――ンッ!!!!

 『風の渦』と『吹き飛ばし』を合成させた強力な風の技が、ドンカラスを一気に吹っ飛ばした。
 言うなれば、ユウナのウインディの『スパイラルショット』の飛行系バージョンである。
 この一撃でドンカラスはダウンした。
 だが、同時に大変なことが起きていた。

「…っ」
「な!?」
「!!」

 3人とも2度目に生じた『ドゴォ―――――――――――ンッ!!!!』という音の生じた方を見た。

「祠が……」

 ハルキが言葉をなくす。

「あの女……」

 ログが突如現れた鈴の女とラッキーの出方をうかがう。

「ふう。これで一通り完了ね」

 にっこりと笑って、鈴の女はハルキとログを見る。

「じゃあ、あたしはこれで。さよぉ~~ならぁ~~♪」
「なっ!?待て!」

 トゲキッスは波動弾を仕掛けるが、鈴の女は地面に生じた黒い闇に飛び込んでその場からいなくなってしまった。

「いったいあいつは……?」
「……わからない」

 ハルキの疑問にログが答えていた。

「とりあえず、これで目的は達成された。失礼するよ」

 一方でウゴウも新たに別のドンカラスを繰り出していた。

「くっ、待て。ブラッキー」
「ブラりん、『悪の波動』」

 ハルキのブラッキーのシャドーボールと、たった今駆けつけたユウナのブラッキーの悪の波動だが、攻撃はかわされた。
 あっという間にウゴウは空高くへと逃げて行ったのだった。



「ハルキ、ゴメン。私がもうちょっと早く気付いていれば……」
「あんたが謝るな。俺がもっと強ければこんなことにはならなかった」

 ハルキ、ログ、ユウナ、カレンはローガンの家に集まっていた。
 村はケガ人だらけだったが、幸い重傷者はいなくて、数日経てばどうにかなるようなケガだったらしい。

「私も時の笛を盗られちゃった……どうしよう……」
「カレン……」

 落ち込むカレンを慰めようとするが、言葉が見つからないハルキ。

「とりあえず、時の笛は私たちが取り戻すわ」
「そうだね。むしゃむしゃ……あの女から取り戻さなくちゃね。もぐもぐ……だけど、ユウナ。クチャクチャ……あの女っていったい何者なんだひ?」

 ログは出されたパンをむしゃむしゃと食べながら、ユウナに質問を飛ばす。
 「行儀悪いわよ」とユウナはログを叩いてから答える。

「そこまではわからないわ。何かあの女に繋がる手掛かりがあればいいんだけど……」
「ユウナさん。そういえば気になることがあるわ」
「カレン?」

 カレンは気になっていたことをユウナに話す。
 それは相手の女のポケモンがダークポケモンとは違った形で異色なものを感じたということである。

「……まさか……」

 ユウナはボソッとそう呟いた。

「ユウナさん、何か知っているの?」

 ユウナが腕を組むのを見て、ログとカレンは一様に注目する。
 ちなみにハルキはハレのお守りをしながら、ユウナを見る。

「何か知っているのか?」
「……まだ断定はできないけど……多分、その組織は、私がラグナに調べるように頼んだ組織なのよ……」



 5

「『ロケット団の娘:ユウナ』……か」

 とある建物の中。
 一つの電灯だけが鈴の女を照らして怪しい雰囲気を醸し出していた。
 
「聞いていた以上に厄介じゃない……」
「様子を見てきたのか?ベル」

 暗闇の中から鈴の女……ベルに近づくのはサングラスをかけて青いゆったりとした服を着た男だった。

「ええ。計画通りに“風霧”がアゲトビレッジの聖なる祠を壊すのを支援してきたわ」
「そうか」

 ニヤリとグラサンの男は成功を喜ぶ。

「ねー、アルドス」

 ベルに名前を呼ばれて、男は振り向く。

「今度はどうするの?」
「決まっている。リライブホール、聖なる祠、セレビィ……この3つの要素がなくなった今、ダークポケモンを元に戻す方法は存在しない。つまり、今がダークポケモンの復活時だ!!」
「ふうん。じゃあ、あの場所でダークポケモンを生み出すのね?」
「そういうことだ」

 アルドスは嬉しそうに話を続けている。
 しかし、ベルがふと表情を曇らせる。

「でも、簡単には行かないかもよ?」
「なぜ?」
「『ロケット団の娘:ユウナ』がこの地方に来ているのよ」
「……“あの男”の仲間か」
「ええ」

 ベルは頷いて壁に寄りかかる。

「それにユウナが所属する“SHOP-GEAR”は何かと厄介な連中が揃っているのよ。ユウナ、バン……とね」
「確かにな。“あの男”も厄介“だった”しな」

 アルドスは唸りながら頷く。

「だから、もしもの場合に備えて“SHOP-GEAR”に対する手は打っておいたほうがいいと思うわ」
「そうだな。ボスが戻ってきたら、計画を立てようじゃないか」
「そうね」

 そして、電灯は消された。

「(それにしても……“あいつ”はどこまで行っているのかしら?)」



 第三幕 The End of Light and Darkness
 「ここは僕がやる」 終わり


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Last-modified: 2015-06-04 (木) 20:04:12
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