ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №156

/たった一つの行路 №156

 3

「ひ、酷い……」

 青色のオーバーオールの少年……リクは現在の“この場所”の有様を見てそう呟いた。
 ここはオーレ地方唯一の研究所……ポケモン総合研究所が“あった”場所。
 今では無残な瓦礫の山と化していた。

「こんなに無残に壊されるなんてな……一体誰の仕業だろうか……」
「さ~ね☆」

 瓦礫の山に近づいて、ごちゃごちゃと遊んでいるのはミナミ。
 ジュンキはミナミを静止しようとするが、そのくらいで止まる彼女ではなく、興味津々に研究所だった周りに近づき、瓦礫を積み木みたいに遊んでいた。

「しっかし……」

 ふぅーっと吸った煙草の煙を空へと吐き出しながら、バンは言う。

「中の奴らはいったい何をやっていたんだ?まさか無抵抗でやられたわけじゃあるめーし」
「抵抗したとしてもそれ以上に敵が強かったんじゃないでしょうか?」

 バンと並んでリクが推論を述べる。
 ちなみに並んでいると言っても、バンとリクとでは身長が20センチ以上も離れている。
 こうしてみると兄弟に見えなくも無い。

「もしくは、不意打ちだったとか……」
「つまり、この研究所の中に侵入して、爆弾を仕掛けたケースか……」

 短くなった煙草を地面に落として、足で踏みつけて火を消す。

「だとしたら、こんなことが出来るのは研究所の中で出入りしても怪しまれない人物か、よく忘れられる空気キャラぐらいだな」
「バンの兄貴?なんか言いました?」
「別にお前のことじゃねーよ」

 一応、バンは突っ込んだ。

「(普通にバンさんもジュンキさんのこと空気キャラだと思っているみたい……)」

 密かにそう思ったリクだった。
 バン、ミナミ、ジュンキはチームトライアングルとして3人チームで依頼をこなしていて5年以上にもなる。
 それでいて、ミナミは能天気なおバカキャラ。ジュンキは空気キャラとしてSHOP-GEARのメンバーに認識されているらしい。

「一体、誰の仕業なのでしょう?」
「さぁな。オーレ地方の北にある地方の温泉街のキャメットには凶悪な犯罪者や組織がたくさん蠢いているからな。そこから来たなんかじゃねえか?」
「……その温泉街といえば、ワールドコネクションセンターと言う建物がありましたよね」
「あったみたいだな。だが、オーナーの組織が潰れてそのセンターもほぼ2年ほどで取り潰しになったらしいぜ。ユウナから聞いた話だがよ」
「本当におっかない街みたいですね……」

 やや声を潜めてリクはそう言うのだった。



 たった一つの行路 №156



 それから10分後。
 リク、バン、ミナミ、ジュンキの4人はトミタ博士に会うことができた。

「いきなり、研究所の中が爆発したんだ。私はクレイン君と慌てて中へ戻って行ったよ。重要な書類を取るためにね」
「いくら大事といっても、爆発して火事が起きているんですよ!? 危ないですよ……」
「それでも大事なものだったからね」

 でも、トミタ博士はギプスをはめられている左手を庇いながら、表情を曇らせた。

「しかし……そのデータは奪われてしまったんだ」
「え!?」

 トミタ博士はそのときの話をした。



 慌てて中へ戻ったトミタ博士。
 トミタ博士はデータを回収して、クレイン所長は慌てている研究員たちを宥めてリライブホールを中心に消火活動を行い始めた。
 しかし……

―――「ダメじゃない!消火しちゃ」―――

 リライブホールの周囲に火炎がワッと吹き上がった。
 研究員達はその火の勢いに吹っ飛ばされる。

―――「君は……ここの研究員じゃないよね?」―――

 クレインが聞くと白衣を着て首に鈴をした彼女はふふっと妖しく微笑む。

―――「そこのあんた、トミタ博士よね。さっき懐にしまったデータを渡してもらおうかしら?」―――
―――「渡すわけがないだろう!」―――

 女がリングマを出したことからポケモンバトルになった。
 トミタ博士はキノガッサで迎え撃つ。

―――「マッシュ、頼んだぞ」―――

 頷いて勇ましくマッハパンチを繰り出すマッシュことキノガッサ。
 消えた瞬間にリングマの腹に強烈な一撃を叩き込んだ。
 だが……

 ズドンッ!!

―――「!?」―――

 吹っ飛んだのはマッシュの方だった。
 しかも、コンクリートの壁を貫通するほどのパワー。
 マッシュは戦闘不能であること間違いないだろう。

―――「仕上げね。リングマ」―――

 ズドンッと地面を揺らして激しい地震を繰り出した。
 建物が崩れて行った。



「それから、覚えてないんだ。気がついたら懐に入っていたデータもなくなっていて研究所もこの有様さ」
「…………」
「だいじょ~ぶ!そんなの私たちチームトライアングルが簡単に奪還して見せるわよ☆」
「そう簡単に行くかよ……」

 相変わらずミナミとジュンキのボケ&ツッコミは続く。

「それにしても……その女の人って何者なのでしょうか……」

 と、リク。

「さあな。それより、俺はその女が何で研究所を襲ったかが気になるな」

 再び煙草に火をつけてバンは呟く。

「……? 普通に考えてトミタ博士の研究データを狙ったんじゃないのですか?」
「それは低いと思うぜ」
「どうして?」
「トミタ博士のことを知っているのは、そこそこ有名だからとしても、オーレ地方にいるかどうかなんてわかりやしない。トミタ博士を狙うとしたら研究所のあるマングウタウンを狙うだろ?」
「う~ん……」
「俺の勘は……総合研究所にある“何か”だと思うぜ」
「総合研究所にある“何か”…か……」

 リクはう~んと首を傾げて考える。

「それにしても、よく無事でしたね。トミタ博士」
「本当だよ☆ トキオちゃんが慌てて来た時はもうダメかと思ったよ~☆」

 ジュンキとミナミが言うと、そのときの話をし始めた。



―――「トミタ博士が!?」―――

 マングウタウンから走ってきたトキオの話を聞いたSHOP-GEARのメンバー達。
 ちなみに、トキオが来た時、すぐにミライとカズミ以外のメンバーはこの喫茶フロアに集まっていた。
 つまり、この場にいるメンバーは責任者のフウト、ユウナ、ログ、バン、ジュンキ、ミナミ、リク、トキオである。

―――「ポケモン総合研究所……つまりオーレ地方ね」―――
―――「そうなんだよ、ユウナさん。本当は俺が行けばいいんだけど、ラティオスが故郷へ帰ったから、すぐに行く手段がないんだよ。ルーカス姉さんは『心配だけど自分の仕事はしなさい』って言うし……」―――
―――「当然よ。自分の仕事も出来ない人が他の人を助けることなんて出来ると思っているの?」―――

 と、トキオを叱るユウナ。

―――「大丈夫よ。私たちが様子を見に行ってあげるから、あなたは戻って仕事をしなさい」―――
―――「うぃ~そういうことだ~」―――
―――「フウト師匠……酒は控えてくださいよ……」―――

 フウトが持っているライズ産梅酒を取り上げるリク。
 すると、赤ちゃんみたいにフウトは駄々を捏ね始める。

―――「(……なんで本当にこんなダメな人がここのリーダーをやっているのだろうか……)」―――

 ログはいつもながらそう思うのであった。



「そうか……トキオ君にも迷惑をかけたか……すまないね、みんな」

 頭を下げて謝るトミタ博士。
 しかし、みんなはそれぞれ「気にしてない」とか「仕事だし」とトミタ博士を気遣った。

「よし、それじゃ俺たちはトミタ博士の盗まれたデータを取り返しに行くぜ! ジュンキ!ミナミ!」
「ああ」
「はいな~☆」

 そう言って、バンたちは行動を開始する。

「じゃあ、僕はこの場所で待機でいいですね?」
「そうだな。お前はここで待機して情報の司令塔をやれ。つーか、フウトが酔いつぶれて寝なければ、フウトを連れてきたのによ!」
「僕じゃ不満ですか?」

 少々不機嫌な声でリクは言う。

「不満というほど不満じゃねーな。真面目さはお前の方が上だし、気配りとか状況判断はお前の方が上だと見るぜ、俺は」

 そういって、バシッとリクの頭を叩く。
 すると、ジュンキとミナミがホバースクーターを準備してやってきた。

「俺は北の地方の温泉街へ行く。ジュンキは怪しい場所を探索しろ。ミナミは近くの町で聞き込みだ。わかったな?」

 バンの言葉に頷いたことを確認すると、すぐに3人はこの場所を離れていった。
 並木を駆け抜ける3つのバイクは3方向へすぐに消えて行った。



 リクは周りが安全な石段に腰をかけて、SHOP-GEAR専用のノートパソコンを開いた。

「新しい情報はなし…か……」

 ふと、リクは思いに耽る。

「(襲われたポケモン総合研究所。これはバンさんの言うとおりトミタ博士のデータを狙った犯行ではないのでしょうか? このほかにこの研究所を襲うメリットってなんだろう……)」

 それから「あ」とリクは口をポカンと開けて、思い出した。

「(そういえば……ユウナさん、トキオさんから話を聞いたとき、何かわかったような顔をしていましたね……。アイオポートで別れたけど、もしかして、もう襲撃の理由がわかっていたのかな……?)」



 4

 ―――オーレ地方。
 そこは基本的に砂漠地帯とされているが、その中でも緑溢れる場所がある。
 その場所の名前はアゲトビレッジ。
 この村の大半が大きく名を馳せたトレーナーで長い旅を終えて暮らしている。
 中でも一番有名なのはローガン。
 相棒がピカチュウで有能な孫を二人も持つ今でも元気な白髭のおじいちゃんである。
 孫のうちの一人は、マングウタウンの研究所で働くトキオ。
 本来ならこのアゲトビレッジの長を継ぐはずだったのだが、トキオは村に縛られるのがイヤで家出をしてしまった。
 そして、もう一人はこの場所に住んでいるカレン。
 7年ほど前にシャドーというダークポケモンを使った組織と戦い、一時平和をもたらせたトレーナーである。
 しかし、戦ったのは彼女の他にもう一人いる。
 それが、現在カレンの夫となっているハルキである。
 彼は元々スナッチ団に所属していたが、彼らの所業の数々に呆れて、裏切った。
 そのあと、ロケット団に入って自分の生きる目的を探したが、見つからなかった。
 しかし、カレンと再会する事により、自分の存在意義を見つけ、彼は一生カレンを守ることを誓った。
 そして、ハルキは現在アゲトビレッジの№2として君臨していた。
 いずれはアゲトビレッジの長になることだろう。
 さらにハルキとカレンの間には一人の子供をすでに授かっていた。

「どうだ?ハレの様子は?」

 聖なる祠で黒いジャケットを着た男……ハルキが彼女……カレンの手元を覗き込むように見ていた。

「静かに眠っているわ」
「そうか……」

 エプロン姿のカレンがゆりかごのように赤ん坊をあやす。
 その姿を見て、ハルキは微笑む。

「珍しく笑ったわね」
「……?」
「あなたのことよ」
「……っ」

 カレンに指摘されて、ハルキはプイッと顔を背ける。
 ややハルキの顔は赤くなっていた。
 その姿をカレンに見せたくなかったのだと思われるが、カレンはお見通しだといわんばかりにクスクスと口を押さえて笑っていた。

「ここは人間にとってもポケモンにとっても本当にいい場所よね」
「……ああ」
「私はこの場所を……次の世代のために守ってあげたい……」

 遠くを見るようにカレンは呟く。

「私“は”……じゃないだろ」
「?」
「私“たち”だろ。俺を忘れるな。一人でがんばろうとするな」

 そうして、ハルキはカレンの隣に座って肩を抱き寄せた。

「この場所も、次の世代も、そしてお前も俺が全て守ってみせる」
「ハルキ……」

 じっと見つめあう二人。
 カレンはハルキのことがよりいっそう逞しく見え、ハルキはカレンのことがよりいっそう愛おしく思えていた。
 その2人の想いは、シルエットのように重なり合っていった。
 そして、少しの間、そのままの姿を保っていたのだった。



 平和のアゲトビレッジ。
 村の中は平穏な一日を過ごしていた。
 だが……突如、漆黒の翼が舞い降りた。

“なっ?何だ!?”

 村人が目にしたのは舞い落ちる無数の漆黒の羽。
 その中からギラリと何かが光った。
 その次の瞬間、村人は吹き飛んだ。

“なんだこいつ!?”
「…………」

 男はツバの長い帽子にグレーのパーカーにフードを被っていた。
 そして、口の中に何かを含んでクチャクチャと噛んでいた。

「なぁ……そこのお前。聖なる祠ってどこにあるか知らないか?」
“それを知って何をする気じゃ”

 質問された老人は警戒した様子でフードの男に逆に問う。

「答えないんなら、別にいい。自分で探す。そうだなぁ、お前の質問には答えてやるよ。そうさ、祠を破壊してやるのさ」

 ニヤッと男が笑うと、漆黒の翼が舞い上がり、次々と村人を襲っていったのだった……



 そして、アゲトビレッジのトレーナーは全滅。
 もちろんポケモンを繰り出して抵抗を試みた。
 だが、実力差は圧倒的だった。

「ぐ……まさか……あやつの攻撃の正体は……」

 負けた一人の中にローガンも含まれていた。
 だが、戦ってヒントは掴んだようで何とか立ち上がり、祠へと急ぐ。

「カレンと……ハルキに……知らせんと……」

 ハルキとカレンの願いは悪意によって踏みにじられようとしていた…………



 第三幕 The End of Light and Darkness
 「珍しく笑ったわね」 終わり


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-06-04 (木) 20:03:02
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.