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たった一つの行路 №155

/たった一つの行路 №155

 アジェンリミト。
 それは、一人の神がアジェンリミトと言う次元の中にある全ての世界を支配していた場所。
 あるとき、神はアジェンリミトの中の一つの世界を滅ぼした。
 その世界の住人達だったリリスらエグザイルと呼ばれる組織は、神に復讐することを誓った。
 彼らは神に対抗するために神と互角に戦ったと言われる禁忌<きんき>と呼ばれる存在を呼び覚ますことを決意した。
 しかし、彼らの研究で禁忌と呼ばれる存在の場所はわかったのだが、復活させるにはとてつもないエネルギーと特別な生贄を必要とすることを知った。
 様々な世界へと飛び、あるときは人を光のように消滅させ、あるときは人を石化させ、形振り構わずエネルギーを集めていった。
 エネルギーが集まったのはそれから50年もの後の話。
 一度、神と戦い、敗れた時にかけられた呪いによって彼らは50年間も歳を取ることはなかった。
 その甲斐あって、エグザイルのメンバーはいよいよ神との決戦に臨もうとしていた。
 しかし、そこで生贄を取り戻そうとする者たちがエグザイルにバトルを仕掛けてきた。
 リーダーのリリスは禁忌と融合して、神を倒そうとしたが、すでに神は亡き者となっていた。
 目的をアジェンリミトの征服に変えたリリスは、まず生贄を取り戻そうとする者たちを根絶やしにしようとした。
 予定では圧倒的な実力でリリスが勝つはずだった。
 だが、最終的に負けてしまった。
 最大の一撃を急所に受けてリリスは消滅してしまった。
 アジェンリミトは、神もリリスも統治する者の居ない自由な世界になった。
 アジェンリミトの次元に属する世界の者たちも、これからは安心して暮らしていけることだろう。

 ―――そして、これからのお話は、時と闇のお話……。



 光と闇。
 太陽と月。
 朝と夜。
 有と無。
 過去と未来。
 気体と固体。
 希望と絶望。
 支配と従属。
 瞬間と永遠。
 記憶と忘却。
 喜劇と悲劇。
 勝利と敗北。
 空想と現実。
 そして、始まりと終わり……
 全てが対をなし、反対の性質を持つものたち。
 しかし、その2つが成り立つことで、世界は輝くもの。
 片方がなければ片方も無く、片方があれば片方も有る。
 ここにわたくしが存在することの反対の意味は、“この方”が存在することなのだと思います。
 全ては時の神によって描かれた運命の書の導くままに……



 1

「ふぅ……」

 外で煙草を吸う30代前半の男が一人いた。
 口から煙を吐き出すと、その煙の行き先を辿るように空を見上げてた。

「……ここはいつ来てもすごいな」

 彼が言うのも、頷ける。
 ここはオーレ地方。
 砂漠地帯と認識されているオーレ地方はやはり砂漠が多い。
 だが、彼が言っているのは草むらを越えた先にある広大な砂漠のことではなく、澄み切った青い空のことだった。
 彼が今いる場所はその砂漠地帯の北西の方角にあるオーレ地方唯一の研究所、ポケモン総合研究所である。

「あっ!ここにいましたか!トミタ博士!」

 一人の若い男性が自動ドアから出てきた。

「クレインくん」

 彼の名前を呟くトミタ博士。

「ちょっとこの色違いのポケモンについて聞こうと思ったのですが……」

 そう言って、緑色の色違いのピカチュウの写真を取り出そうとした。
 トミタ博士はノースト地方でポケモンの色違いや遺伝子による研究を主に専攻している博士である。
 だから、クレインは聞こうとしたのだが、写真を引っ込めた。

「今休憩中ですね。すみません」
「ああ……」

 ぼんやりしてトミタ博士は呟く。

「例の少年……まだ見つからないんですか?」
「ああ。行方不明になって2年も経つと言うのに」

 寂しそうにトミタ博士は呟く。

「元気出してください。そのうち彼もひょこっと帰ってきますよ」
「そうだといいけどね」

 無理してトミタ博士は笑って見せた。

「そういえば……」
「なんですか?」
「あの2人はどこにいるんだい?いつもなら、2人でポケモンバトルの特訓でもしていると思ったんだけど」

 「ああ」とクレインは頷いた。

「2人は随分前から、外へ遊びに行って帰って来ないんですよ。僕は大丈夫だと思っているんですけどリリアさんが心配性で……」
「そうだろうね」

 話を切って、トミタ博士は煙草をもみ消して、建物の中に入ろうとした。
 その時だった。

 ズドオォ――――――――――――――――――ンッ!!!!

 ポケモン総合研究所で突如、謎の爆発が生じたのだった。



 たった一つの行路 №155



 2

 ―――ノースト地方。
 それはカントー地方をやや北に行ったところにある田舎同然の地方。
 有名な都市と言えば、水産で有名なブルーズシティ。
 野菜やお米がいつも豊作のライズシティ。
 世界トップクラスの図書館のあるブーグシティ。
 ノースト地方で唯一研究所のあるマングウタウン。
 そして、ノースト地方最大の都市であるジョウチュシティである。
 しかし、始まりの舞台はジョウチュシティではない。
 ―――オートンシティ。
 その街に一つの店があった。
 その店の名は“SHOP-GEAR”。
 オートンシティの中ではその店の名を知らないものはいなかった。
 何せ家電製品を直させたら世界一!
 情報収集をさせたら世界一!
 恋人へ素敵な贈り物をオーダーメイドさせたら世界一!
 ……を目指す店なのだから。
 いや、目指すだけじゃなく、間違いなくノースト地方の中ではこれほどの力を持つ店は無いだろう。
 ジョウチュシティにもこんな店は無い。
 同時にこの店では、知り合いだらけの喫茶店になりつつあるのだが……

「「はぁぁぁぁぁぁ―――…………」」

 最近、喫茶店のように改装した店内のカウンターに頬をベタっとくっつけて、ため息をついている少女が2人。
 一人は、ゆったりとしたキャミソールを着た高校生のようなどこにでもいそうな少女。
 もう一人は、おかっぱ頭のそれこそ5~6歳くらいの幼い少女だった。
 その二人は並んで同じような格好でため息をついていた。
 まるで歳の離れた姉妹ようだ。

「あの2人、どーしたの?元気ないね☆」

 2人の様子をうかがっているのは童顔で巨乳な女性。手元にはフルーツパフェがあり、スプーンで掬っては口へと運んでいる。
 そして、彼女の隣には影が薄そうで幸薄いメガネの男が座っている。

「……放っておけ。どうせあのラグナを恋しがってんだろ」
「えー?ラグナちゃんを?」
「ミナミ、知らなかったのか?」

 男は向き直って、童顔のミナミの顔をじっと見る。

「ナルミとカズミはラグナのことが好きだったんだぞ?」
「知ってるよ☆」
「知ってるなら説明させるな!!」
「だって……」

 頬杖をついて、ミナミは彼を見つめる。

「ジュンちゃんをからかうのがたのしーんだもん☆」

 にっこにっこ笑うミナミを見て、ジュンちゃんことジュンキは額に手を当ててヤレヤレと呟く。
 彼女のペースに付き合うジュンキはいつも苦労するらしい。

「できたよー」

 奥からそんな声が聞こえると、その喫茶店のフロアにいた4人は一同に彼らを見た。
 幼くショタ顔の少年と無愛想で口にマフラーを巻いた少年の両手には、それぞれお皿が乗せられていた。

「リクちゃん、ログちゃん、今日のお昼は炒飯だね☆」
「……それはいいんだが……」

 ジュンキはリクとログの皿の数を、1、2、3……と数えた。

「4枚しかないぞ?」
「え?」

 リクは慌ててこの場にいる人数を数える。
 自分、ナルミ、カズミ、ログ、ジュンキ、ミナミ……

「でも、私はパフェを食べているから、炒飯はいらないって言ったよね☆」

 つまり、ミナミを除いた5人分あればいいわけである。

「そうか、わかった」

 ログは頷いた。
 足りない理由がわかったらしい。

「ジュンキ。君の分がないんだ」
「何でだ?」
「きっと、僕が炒飯の人数を数えた時、君は景色と一体化されていてカウントしなかったんだよ」
「……俺はカクレオンか?」

 ジュンキは怒って立ち上がる。

「やるのかい?」

 ログも腰のモンスターボールを取るが……

「ジュンキさん、ログさん落ち着いてください!炒飯なら僕の分を上げますから!」

 リクのその言葉で何とかケンカは静まった。
 食べ物の恨みは恐ろしい。

「でも……」

 ナルミは苦笑いを浮かべた。

「今日のはあまり見栄えが良くないね」
「まずそう……」

 ナルミとカズミがそれぞれそんな感想を述べた。

「じゃあ、俺はこれをいただく!」

 ババッとジュンキは近くにあった炒飯を取ってしまった。

「あージュンキさんずるい!!」
「早いもん勝ちだ」

 ナルミがブーブー言うが、すでにジュンキは口に運んでしまっていた。

「しょうがないわね。じゃあ、こっちの見栄えのよさそうなのをカズミちゃんにあげる」
「わーい!ナルミおねえちゃん、ありがとう♪」

 少々焦げたのを仕方がなくナルミは食べることにした。
 そして、一同口に運んだのだが……

 カラン……

 スプーンの落ちる音がした。
 そして、バタッと誰かが倒れた。

「え!?」
「ほうひたんはひ?」

 驚くリクと口にいっぱい頬張っているログが倒れた方を見る。

「か、カズミちゃんが!?」
「一体何があったんだ!?」

 ナルミは慌ててカズミを抱き上げて、ジュンキもカズミを呼びかける。
 しかし、カズミは気を失っているのか、返事をしない。

「リク!あんた、この炒飯に何を入れたの!?」

 ナルミは当然怒る。

「え!?ぼ、僕は何もしてないけど…………あ」

 思い出したようにリクは呟く。

「言い忘れていたけど、その4つの中の半分はログの作ったものだよ」

 そして、後頭部に大汗を掻く。

「そんな重大なことを何で今まで言わなかったのよ!!カズミちゃん、意識がないわよ!」
「待て。半分ってことはもう一つは誰が食ってんだ?」

 ジュンキとナルミは一度顔を見合わせてから、今も黙々と食べ続けているその人物を見た。

「ひょうか、ひょうか……こずみもひほうしひゃふふはいふははっははー」
「そんなわけないだろ!」

 と、ジュンキが突っこむが、

「何でログさんの言っていることが理解できるのですか?」

 と、そのジュンキにリクが突っ込んだのであった。

「『そうか、そうか……カズミも気絶するほど上手かったかー』って言っているみたいだよ☆」
「って、ログさんの言葉がわからない僕らの方がおかしいのですか?」

 と、自分の常識を疑ったリクだった。
 ふと、ナルミはカズミの物を一口運んでみた。

「―――――――――――――――っ!!!!!!!!」

 そして、飲み込んだ瞬間、トイレへと直行した。

「それ以前に、何であんたはこんなもの食べて平気なのよ!!」

 30秒足らずでナルミは戻ってきてログにそう言い放った。

「おかしいね。やっぱりこのおいしさは僕にしかわからないようだね」
「知りたくないわ……あんたの味覚なんて……」



 そんなこんなで昼の時間も終わり、ナルミはジムリーダーの仕事をこなすためにジムへと帰っていった。
 ジュンキとミナミはその場に残って、オセロをしている。
 倒れたカズミは今、ログが面倒を見ていた。

「ふう……」

 奥のドアから喫茶店フロアにやせた美人が入ってきた。
 すかさずリクは挨拶した。

「お疲れ様です、ミライさん。コーヒー、飲みますか?」
「じゃあ、お願いします」

 数分かけてリクはミライにクリームが入ったコーヒーを差し出した。

「仕事は進んでいますか?」
「ええ。ちょうど、細かい細工が終わったところですよ。後もう少しで今回の依頼のペアリングの指輪も完成します。納期まで3日しかありませんから急がないといけないんですよ」
「ミライさんは本当に真面目ですね」

 そういって、リクはオセロで遊んでいる2人を見ていた。
 「少しは仕事しろよ」と思っているのだろう。

「それにしても……心配ですね」

 窓の外を見て呟くようにミライは言った。

「何がです」
「え?あ……いや、なんでもないですよ」

 慌てたところを否定するミライを見てリクはさらりと聞いた。

「もしかして、ラグナさんのことですか?」
「え、ええ……」

 彼の言葉を出すと、ミライはシュンとしてしまった。

「もう2ヶ月もここに戻ってきていませんし、ちょっと心配になってきたのです……」
「2ヶ月か……。でも、ミライさんが来る前はもっと長い期間もありましたし……」
「それどころか、1ヶ月前にラグナくんに頼まれてユウナさんがカズミちゃんを連れてきた時は驚きました。まさか、ラグナくんの隠し子なんじゃないかと思いましたし……」
「いや……それはないと思いますけど……」

 ちなみにラグナは21歳。カズミは6歳である。

「とにかく、私は心配なのです……」
「……ミライさん……」

 しんみりとしたところで、リクはカズミのことをミライに話した。
 すると、ミライは看病するといって、カズミのところへといってしまった。
 それと入れ替わりになるように、緑のワンピースの秀麗な女が入ってきた。

「リク、ブラックコーヒーをお願い」
「わかりました、ユウナさん」

 頼まれてせっせと淹れるリク。

「それにしても……ラグナ……いつまで私の依頼に時間をかけるつもりかしら?」
「ユウナさんもラグナさんの話ですか……」
「“も”?他にラグナの話題を出す人は……あ、いるわね」

 苦笑いを浮かべるユウナ。

「考えたくないけど、まさかラグナがやられてたりなんかしないわよね……」
「まさか……あのラグナさんですよ?DOCという場所へ行って瀕死の重傷を負いながらも生き残って、海で溺れて生死を彷徨いながらも奇跡的に復活したあのラグナさんですよ?」
「そんなの知っているわよ」

 「でも」とユウナは呟く。

「私が頼んだあの依頼は……もしかしたら想像以上に危険な依頼だったのかもしれない……」

 ユウナが深刻な顔をする。

「その依頼って……?」

 リクは聞き返す。

 ドゴォンッ!!

 だが、次の瞬間、玄関のドアが爆発した。

「何!?」

 リクは慌てるのと同時にユウナは腰のモンスターボールを構えていた。
 しかし、その正体を見るとユウナはボールを引っ込めた。

「何やってるの、あなた?」

 入ってきたポニーテールの男に白い目を向けるユウナ。

「バンさん……ドア代、弁償ですよ」
「た、頼む!リク!ユウナ!」

 バンはその場で頭をつけた。

「かくまってくれ!!」

 すると、バンは奥へと入って行った。

“オラ!オラ!オラッ!!!! バンはどこへ行った!?”
“金返せー!”
“金を出せー!!”
“借りたもんは返さんかい!!”

 5人くらいの黒服の男たちが、土足でSHOP-GEARに入り込んできた。

「はぁ……」

 ユウナはため息をついて懐に手を入れたのだった。



 ―――10分後。

「悪いな!本当はギャロップレースで倍にする予定だったんだがよ、どうもツキが悪かったみてーでさ!」

 バンは煙草を吸いながらそんなことをほざく。
 そんなバンの頭をバキッと、ミナミとジュンキが叩く。

「バンの兄貴!俺のお金までつぎ込むなんてどういうことですか!?」
「酷いよー☆ あのお金は今度のデートで使う予定だったのにー」

 ジュンキとミナミはそれぞれ怒りと悲しみを顔に表していた。

「デートって一体誰とですか?」

 リクがミナミにツッコミを入れるが、

 ドンッ!!

 机を叩く音でみんなが彼女を見た。

「バン。さぁ~“これ”はいつ返してくれるのかしら?」

 ユウナはにっこりとしながら、彼女のⅠ☆NAのディスプレイをバンに突きつける。
 その表示にはユウナがバンに貸したお金がきっちりと計上されていた。
 ちなみに、さっきの怖そうなお兄さん達に立て替えたお金もきっちりと計上されている。

「あ~え~……多分来年?」

 曖昧なバンの答えにユウナはバンの頬を抓った。

「うわぁ……」
「あれは痛い……」

 リクとジュンキはバンが攻撃されている様子を震えて見ていた。
 たぶん、楽しんで見ていたのはミナミくらいだろう。

「わかったわ。バン。あなたには私がやろうとしていた仕事に付き合ってもらうわよ」
「何!?お前ととか♪」

 ムギュッとバンの耳をさらに抓るユウナ。
 バンはギャーッと悲鳴をあげるしかない。

「なに下心を全開にしてるのよ」

 一通りバンを説得したそのときだった。

「ユウナさん!」

 飛び込むようにドアをこじ開けて、白衣の男が入ってきた。
 折角、ログがドアを直したのにまたドアを直す羽目になりそうだ。

「あらトキオ。どうしたの?」

 はぁはぁと息を切らして、トキオは言う。

「ポケモン総合研究所が……トミタ博士が……!!」

 そして……事件の幕が開ける……



 第三幕 The End of Light and Darkness
 「金返せ!」 終わり


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Last-modified: 2015-06-01 (月) 21:37:49
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