月が砂漠を照らす。
砂漠地方というのは、たいてい日中が暑くなって、太陽が沈むと急激に冷え込むところなのである。
街から遠くはなれたところに寂れた建物があった。
見ての通り、外装はぼろぼろで隙間風が入るようだった。
そこに数人の若者たちが入っていった。
「それにしても、さっきの奴笑えたな!」
「そうね。『パワーウィップ!』とか言って、勝手に攻撃を外しているんですもの……」
口を押さえてウェーブのかかった少女が言う。
どうやら、笑いをこらえているようだ。
「それにあいつ、俺たち全員がかかっていっても、勝てる気でいたみたいだぜ」
ブニャットのトレーナーの少年がおどけた声で言った。
「笑っちゃうわよね!私たち下っ端はほとんど同じくらいの力を持っているのよ!ブニャット1匹に勝てない奴が全員に勝つなんて笑えるわね!!」
額にバンドをして髪を抑えている少女がバンドを外して髪を直しながら言った。
「ふっ。だけど、あいつは正々堂々としたバトルは強そうに見えたな。1対1で大会のようにトレーナーに攻撃しなければ、負けていたかもしれないかもよ」
メガネをかけたグレーの髪の少年が、左手でメガネをくいっと直しながら冷静に言った。
「でも、もっと笑えたのは、こいつが何者かって知らなかったことかだよな!!」
耳に2連ピアスをしていた少年が笑いながら言うと、他のものも皆笑って騒然とした。
ピアスの少年が左手で掴んでいるのは、先ほど捕まったはずの女の子、カズミであった。
カズミは暴れることをせず、うつむいて彼らに従って歩いていた。
すると、入り口付近でだべっていた彼らの前に、白いワイシャツに黒のスラックス、そして赤いネクタイをした男が建物の奥から姿を現した。
「成果はどうだ?」
「一応こんなもんだ。カズミ、見せてやれ!」
先ほど戦ったブニャットのトレーナーが足でカズミを蹴りつけると、ふらりと前に出されてそのまま赤いネクタイの男にぶつかった。
カズミはあるものをその男に差し出した。
「……これでどう……?」
「ふむ……」
カズミから受け取ったものを物色する男。
それは誰でも持っている財布だった。
正確には、カツトシの財布である。
「……5,6,7……9万ポケドルか……。なかなか上出来だ。カズミ」
赤いネクタイの男は、それだけ言うと、また奥へと去っていった。
「ちっ!俺たちの分け前はないしか!」
「仕方ないだろう。今盗んでいるお金はこれからの勢力拡大のための資金なんだ。それまで俺たちは我慢しなければならない」
「だけど……こんなこと続けて本当にお金なんて貯まるわけ?」
「さぁ?計画の全てはボスと側近の2人が決めることよ。私たちに権限はないわ」
少年と少女たちが愚痴をこぼす。
それをカズミは彼らのほうを見ずに暗い表情で聞いていた。
「それにしても、あんたもガキとは思えないわねぇ。あんな優しい男から平気で財布を抜き取るんだから」
ウェーブの髪の少女がカズミに言う。
「私だったら出来ないわね!」
「…………」
黙るカズミ。
そこへ、また奥の方から一人の男が姿を現した。
彼の姿はマントを身に着けて、いかにも偉そうな格好をしていた。
ボスのようだが、どこかボスとしての風格は欠けていた。
「あ!!ボス!!」
少年、少女たちは、そのままの体勢でボスを見る。
壁に寄りかかっていたり、机の上で体育座りをしていたり、欠伸をしたり……ボスとはみんな呼んでいるけれども、敬う気持ちはあまりないらしい。
ボスはカズミに話しかける。
「よく働いてくれたな。だが、これでお前の役目は終わりだ」
「えっ!?」
「お前をこれから他の街に売り飛ばす。そして、金にする」
「ちょ、ちょっとまって……まってよー!」
カズミは慌ててボスの服の裾を掴んだ。
ボスの身長はそんなに大きくないが、カズミはまだ幼く、身長もそれほどないためにシャツの裾ぐらいしかつかめなかった。
「わたしがおかねをあつめるのをきょうりょくしてくれたら、パパをみつけてくれるっていったよね……?」
叫ぶカズミ。しかし、ボスは言う。
「言ったぜ!だが、この程度で協力というんだというのなら、お前はもういらない!たかが、他人の財布を盗んだくらいで資金が集まるわけがないんだよ!!だから、手っ取り早くお前を売りさばいて金にしたほうが手っ取り早いんだよ!」
「そ……そんな……」
「そういうわけで、お前ら、後は任せた。俺は奥で一眠りすることにする」
カズミを蹴り飛ばして、ボスは奥へと消えていった。
カズミは蹴られた腹を押さえて慌てて追いかけようとするが、少年に首を掴まれて持ち上げられた。
「だとよ、カズミちゃん」
「パパを探せなくて残念だったわね」
「気の毒だが……これも我が組織のため……最後の役に立ってもらおう」
ピアスの少年、バンドの少女、赤いネクタイの男が順々に言った。
カズミは泣きながら、消えたボスのいる通路に手を伸ばした。
―――2週間前。
6歳の少女……カズミは温泉街行きのバスに乗っていた。
もちろんそれは、母親と一緒だった。
―――「ねえ、ママ!どこにいくの?」―――
―――「フフッ」―――
行き先に興味心身で聞きながら、ママに甘えるカズミ。
―――「温泉よ!そこの温泉は美容にも体にもスタイルにもいいって聞いたことがあるのよ」―――
―――「そうなんだ~たのしみだね!」―――
しかし、その会話の後そのバスは運転手がハンドルを滑らして、バスの転倒事故を起こした。
乗客はほとんどが軽症ですんだが、カズミの母は、打ち所が悪く、死んでしまった。
カズミは、母が外に投げ出してくれたために、砂漠の砂場クッションになって、擦り傷だけで済んだのだ。
それからカズミは温泉街に来た。
でも、一人ぼっちだった。そこに声をかけてきたのは、赤いネクタイの男だった。
カズミはそのとき、あるときの母親のやり取りを思い出していた。
―――「ねぇ、わたしのパパはこの人だよね?」―――
カズミは部屋にあった写真を指差す。
それをみて母親は、苦笑いをしていった。
―――「その人は私が最も愛した人なのよ。名前はカズキ。10年間私はその人を信じ続けて待ってたの。でも、彼はある事件で私のために犠牲になってしまった……。だから、あなたのパパは違う人なの」―――
―――「えっ!?まえはこのひとっていっていたよね?」―――
―――「この人だったらよかったのにという話よ……。私が勝手に捻じ曲げちゃったの……。そう、あなたのカズミという名前だって、私と彼の名前をあわせたんだから……」―――
―――「ふ~ん……そうなんだ……それじゃ、わたしのパパは……?」―――
―――「きっとどこかで旅をしているわよ!今もどこかにいるはずよ」―――
そして、カズミはなんでもするからパパを探すのを手伝ってと男を通してボスに伝えた。
それから、カズミは必死になって盗み、スリ、万引きを中心にこの2週間を過ごしてきた。
「泣いているとこ悪いけど、あんたを街へと連れて行かなくちゃね」
「高く売れるといいな!」
「カズミちゃんよ!大丈夫だぜ!きっと、買ってくれる人が可愛がってくれると思うぜ!」
ケケケと、みんなが笑う。
6歳にして、カズミはどん底の絶頂だった。
あまりにも残酷だった。
この街はそういうところだった。
「だれか……たすけて……」
か細い声で言う。
ドガーン!
「なっ!何だ!?」
少年、少女たちはびっくりして大きな音がしたほうを見た。
大きな音はどうやら壁に大きな穴が出来たためのようだ。
大きな穴……その穴を開けたのは、一台のバイクだった。
「なんだ、お前は!?」
バイクから降りて黒いコートをはためかせる。ヘルメットを外すと、ツンツンとしたとがった髪型が姿を現す。
一同は、ごくりと息を飲んだ。
しかし次の瞬間。
「おぇー」
男は、膝をついて、嘔吐した。
「な、何してんだお前!!」
「キャー!汚い!!」
「外でやりなさいよ!」
「というか、お前!ここがなんだか分かってここに突っ込んで来たのか!?」
男は、少しして深呼吸して、息を整えてから、言った。
「もちろん、分かってここに来たんだぜ!それと、俺は乗り物酔いする体質なんだ。戻したからって気にするな!」
「気にするなとか、そういうレベルの話じゃねーよ!」
「それにしても、運転して酔うなんてありえるの?」
「あるとしたら、運転しなければいいのに」
もっともである。
「さっきの……おじさん……」
カズミはもう泣き止んで、男を見ていた。
「分かってきたんなら、覚悟しろ!ブニャット!!『シャドークロー』!!」
まだ、気分を悪そうにしている男に向かっていきなりの先制攻撃だった。
「……雑魚に用はねぇ!!」
一閃。
ブニャットに空気の刃のようなものに切り裂かれて、ダウンした。
「何が起きた!?」
「お、俺のブニャットが……い、一撃だと!?」
「くそっ!何だあいつは!?」
「み、みんなでやるわよ!!」
全員がポケモンを繰り出して、襲い掛かる。
「言っただろ……雑魚に用はねぇって!束になっても同じだ!『裂水周覇<れっすいしゅうは>』!!」
一匹のポケモン……ダーテングが一振りしたとき、先ほどの風の刃が全方向へ瞬時に飛び出して、全てのポケモンを引き切り裂いていった。
攻撃を受けたポケモンは全てダウンした。
「う……」
「そんな……」
「こんなことが……」
少年と少女たちは萎縮した。
「す、すごい……」
カズミは何が起きたかわからず、ぽかんと呟いた。
「やるようだな」
赤いネクタイの男が前に出る。
「てめぇに用はねえ」
「ということは、狙いはボスか?」
「何度も言わすな!てめぇに用はねえ!」
「俺は貴様に用があるんだよ!ボスの元には行かせない!」
―――数分後。
男は、建物の最深部まで入っていた。
その後ろからカズミがひょっこりと付いてきていた。
「あのおじさん……なにをするつもりだろう……?」
カズミは信じられなかった。
先ほどの赤いネクタイの男のポケモンをわずか1分かからず全滅させて、ネクタイの男を拘束した。
少年と少女たちは恐れをなして逃げてしまった。
そして、男はボスの前に立つ。
「久し振りだな。バリーよ!」
「久し振りだと?お前は誰だ!?」
「まぁ、知るはずがねーよな。てめぇは元ロケット団幹部、高速のエドの部下。そして、俺はてめぇがヒロトに負けた後に名を上げたんだからな」
「お前……何故俺がロケット団にいたこと知っているんだ!?」
「班長のバリー!てめぇの30万ポケドルの首……いただきに来たぜ!」
黒いコートをはためかせてボールを構える。
「頭に乗るな!!俺にかなうと思うのか!?やれ!オニゴーリ!!『アイス・ブロック・ボム』!!」
氷の塊を放出して男へと放つ。
一つの塊の大きさが半径30cmほどで5つくらいの塊を連続して放出してきた。
「ケッ!」
コートの男は一匹のポケモンを出して、後は何も指示を出さなかった。
オニゴーリの攻撃は、全弾命中した。
しかも、ただ攻撃が命中しただけではない。当たって塊が花火の如く弾けたのだ。
煙と冷気で視界が遮られていった。
「身の程知らずが……。何者か知らないが、俺の『爆撃バリー』の首を狙いにきたのが運のツキだったな」
「何だ?この程度かよ!」
「何!?」
攻撃が当たったはずの男とそのポケモンは全くの無傷だった。
「次はこっちから行くぜ!!ピクシー!『フレアーリング』!!」
炎のリングを両手で作り上げ、そのまま接近していく。
そして、切り裂くようにオニゴーリを攻撃した。
「舐めるなぁ!!オニゴーリ!!『絶対零度』!!」
「そんな攻撃、レベルの低いやつにやるんだな!『サイコグラビティ』!!」
絶対零度をもろともせず、ピクシーの重力を圧縮した攻撃でオニゴーリを押しつぶしてノックアウトさせた。
「っ!!ドサイドン!ポリゴン2!まとめて行け!!
ポリゴン2が鋭いレーザーのような攻撃を繰り出し、ドサイドンは尖った角で突進をしてきた。
「ふん!なぎ払え!」
言いながら、新たにポケモンを繰り出す男。
中から飛び出してきたのは、抜け殻ポケモンのヌケニンだった。
ヌケニンの特性“神秘の守り”は弱点以外の攻撃を全てガードする攻撃で例外はない。
もちろん、2匹の攻撃は全く効果がなかった。
しかも、ドサイドンのメガホーンの際に、強力な爪の一撃でかっ飛ばした。
「なっ!?バカな!?ただの攻撃でドサイドンの腹が……」
その一撃で、ドサイドンの腹のプロテクターが砕け散った。
岩……鍛えればそれ以上の硬さにまでなるドサイドンの体をヌケニンの一撃で崩したのである。
「わからねえのか?てめぇのドサイドンの防御力より、俺のヌケニンの攻撃力の方が勝っていたってだけの話だ!」
「ふざけるなぁ!!ポリゴン2!『シャドーボール』を乱れ撃ちだ!!」
ヌケニンに向けて攻撃を連続で放った。
「一発でも当たれば終わりだ!!避けられるものなら避けてみろ!!」
「避けるまでもねぇよ!!」
「何だと!?」
ヌケニンは、一つ一つを全て爪で弾き返して、さらにドサイドンに全て命中させていった。
「なっ!?それならこれでどうだ!?『トリ・トライアタック』!!」
トライアタックを三つ重ねて大きな一つのトライアタックを作り出した。
建物が崩れんばかりの大きさだ。
「氷、電気、炎……全ての属性を合わせた技だ!!破れるものなら破ってみろ!!」
「大きいだけの能無しの技だな!『消滅の光』!!」
ヌケニンが禍々しい質量の重い光を放ったと思うと、ポリゴン2の攻撃をいとも簡単に相殺してしまった。
さらに、ポリゴン2の後ろをいとも簡単に取って、あっという間にダウンさせてしまった。
「ば、バカな!?……俺のポリゴン2の最強の攻撃をあのへんてこな光で消しただと!?それと同時に後ろを取りやがっただと!?」」
「てめぇは……雑魚だな。30万ポケドルの価値もねえ」
「……ふざけるなぁ!!俺はロケット団を辞めてここに来て、自分の世界征服を達成するための組織『エビルバット』を組織したんだ!!貴様のようなどこの馬の骨とも知らないよう奴に負ける訳がないッ!!ドサイドン!命がけで撃て!!最強の攻撃だ!!『岩石波動砲連弾』!!!!」
ドサイドンは立ち上がり、静かに息をして力を溜めていった。
「この攻撃で貴様は終わりだ!!塵となれ!!」
「御託は終わりだ。つーか、隙がありすぎだ」
「なっ!」
力を溜めているドサイドンの前に現れたのは、今まで小さくなって姿をくらましていたピクシーだった。
「終わりだ!『モルガナ彗星拳』!!」
そういうと、ピクシーが目にも止まらぬ速さで拳を打ち出して行った。
しかもその威力は一撃一撃がドサイドンの腹に食い込み、岩を砕いていくほどで、攻撃が終わったとき、ドサイドンについていたはずのプロテクターはぼろぼろになっていた。
「あぁ……」
バリーは後ずさりをした。
「最強の技というのはな、隙がなく、それでもって絶対的な破壊力のある技のことを言うんだぜ!!」
男はそしてそのままバリーの腹を殴って気絶させたのだった。
「ケッ!こいつが30万ポケドルの賞金首とは、マジで警察の目もどうかしてやがるぜ」
「おじさん……たすけてくれてありがとう」
「助け?俺が何でてめぇを助けねーと行けねぇんだ?俺はエビルバットの噂を聞きつけて、こいつの首を取りに来ただけだ!」
そういって、悶絶しているバリーの腹を足でつつく。
「……ねぇ……おねがい……わたしをいっしょにつれていってくれない?なんでもするよ……」
カズミが懇願のようにお願いをする。
「何度も言わせんじゃねぇ!俺はガキには興味がねぇんだ!」
「わたし……いくあてがないの……」
「さっきの優しくしてもらった男がいるだろ?あいつに頼めばいいだろうが!」
「できないよ……あのひとのさいふ……ぬすんじゃったんだもの……」
「謝ればいいだけの話だろうが。あいつのことだから許してくれるだろうが」
「おじさん……わたしはおじさんと……」
「だぁ!何度も言わすな!俺はおじさんじゃねえ!それに一緒には行かねぇ!」
「…………」
「だが、あいつのところまでは送ってやる!それでいいだろ!!」
男はバイクに乗って、カズミを乗せて、バリーをバイクの後ろに括りつけて、エビルバットのアジトを後にしたのだった。
夜が明けて、日中になって、2人は昨日の騒動があった場所に戻ってきた。
「カズミちゃん!!」
カツトシは、優しい笑顔でカズミを迎えた。
「大丈夫!?ケガはないかい!?……君、彼女を助けてくれてありがとう!」
男は頷こうともせず、ただバイクに寄りかかって、2人を見ていた。顔色は悪かった。
どうやら、またバイクで酔ったらしい。
そしてカズミは、地味な財布をカツトシに差し出す。
「これは……僕の財布!?」
「ごめんなさい……わたしがぬすんでいたの……わたし……パパをさがすためにさっきのひとたちにきょうりょくしていたの……ごめんなさい……」
カズミは泣いて謝る。
「(そうか……そんな理由があったのか……)大丈夫。君が反省しているなら許すよ」
「ほんとうに?」
「ああ、本当さ」
カズミはほっとした。
「それじゃ、今日の宿を探そうか……」
と、行こうとするところへ、男がカツトシの肩をつかんだ。
「気が変わった。てめぇみたいなチキン野郎にこいつは渡せねぇ」
「な、何だと!?」
カズミはポカンとしていた。
「それじゃ、君が彼女と一緒に行くというのか!?」
「それも少し違うな!とりあえず、てめぇには渡せねえ」
「……カズミちゃんはどうしたいんだい?」
「わたしは……」
カツトシの顔を一瞥した後、男の足に組み付いた。
「そうか……分かったよ。カズミちゃん、お父さんが見つかるといいね」
「うん……カツトシさん!ありがとう」
カツトシは笑顔で2人が街の中へ消えていくのを見送っていた。
「(さて、俺はこれからどこに行こうかな……?)」
カツトシは、また、見知らぬ土地を目指して旅に出たのだった。
「おじさん!これからよろしくね!」
「…………。最初に言っておくが、俺はてめぇと旅をする気はねぇぞ!」
「え!?どういうこと?」
「後で説明する。そして、何度も言うようだが、俺はおじさんじゃねぇ!まだ21歳だ!」
「じゃあ、なまえをおしえてよ!おじさん!」
「……ラグナだ」
自分の名前を一回だけ、ポツリと言った。
「わかった!ラグナおじさま♪」
「……もう何とでも呼べ……」
黒いコートの男、ラグナはため息を付いたのだった。
―――数週間後。
「このふねにのればいいの?」
「ああ。この船に乗れば、俺が言った場所に着く。そこでてめぇは過ごすんだな」
とある港。ラグナはカズミを見送っていた。
「じゃあな」
「ありがとう!ラグナおじさま!!」
彼女は船に乗ってこの地方を後にする。
―――「え?人を預かって欲しい?それも子供!?ラグナ……あなた一体何を考えているの!?」―――
ラグナはとある知り合いに連絡を取ってカズミを預かってもらうように頼んでいた。
―――「別に何を考えていようがてめぇに関係ねえだろ!?」―――
―――「関係あるわよ!大変なのは私なのよ!それにフウトさんにも迷惑かけることになるし……」―――
―――「あの酔っ払いは関係ねーよ。俺はてめぇに頼んでるんだ」―――
―――「はぁ……それが頼む人の態度なの!?」―――
彼女は怒っているというよりも、呆れているようだった。
―――「あいつは……てめぇに似てんだよ」―――
―――「え?」―――
―――「親がいなく、兄弟もいない……そして、一人ぼっちだ。だから、てめぇなら頼めると思ってな」―――
―――「…………」―――
―――「もちろん引き受けるよな?」―――
―――「あなたはいつも勝手よね。そうやって、いつも強引に決めるんだから……。分かったわよ。カズミちゃんは私が責任を持って預かるわ。ジョウチュシティで待ってるから」―――
―――「頼むぜ。ユウナ」―――
ラグナは安心して、ポケッチのスイッチを切ろうとしていた。
―――「ところで、私から頼みがあるんだけどいいかしら?頼みというよりも、依頼ね。受けるかしら?」―――
―――「ふっ愚問だな!金の上での依頼は俺は断らねぇぜ!」―――
その依頼を聞いた後、ラグナはポケッチの通信機能をオフにしたのだった。
「(俺は、何であいつのことを気にしたんだろうか?ユウナと状況が似ていたからか?そんなのしらねぇな……)」
ラグナはフッと鼻息をして、ヘルメットをかぶってバイクにまたがった。
そして、依頼をクリアするために目的地へと向かっていったのだった。
たった一つの行路 №152
砂漠の温泉街<キャメット>② 終わり