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たった一つの行路 №151

/たった一つの行路 №151


 吹き荒れるからっ風。東西南北に広がるのは見渡す限りの砂漠。雲はなく、容赦なく太陽が地面を照りつける。
 周りを見渡すと、ポケモンが住めるという環境とは断じてない。
 乾燥した環境を好むサボネアやサンド、ナックラーと言う地面ポケモンでさえ、ここでは生存することが出来ない。
 食べるものがなければ、どんな生き物でも生存することが出来ない。
 砂を食べると言われているポケモンでも、ここの砂には全く栄養がなく、住む事ができないのだ。
 だから、この砂漠地方を好き好んで住む者はいないのである。
 しかしながら、この地方にも交易があり、人の集まる場所が3つほどある。
 1つは北の海沿いの港町。
 ここは砂漠に面していないだけあって、水ポケモンを中心に生息していた。そして、船が出て他の地方と交流があるのである。
 2つはその海沿いの町の東の方にある何の変哲もない人の住む集落である。
 港町の近くにあり、そこの人たちは港町へと行って買出しをする。
 しかし、この地方の一番有名な場所は、港町から遥か南の方にある温泉街:キャメットと呼ばれる街である。
 ここの温泉はお肌が艶々になるとか、美容にいいとか、発育がよくなるとか……主に女性にとって、メリットがあるものばかりだった。
 この場所は今、口コミで広がりつつある隠れた温泉街だった。
 だが、それでも客が増えることはないと思われる。
 なぜならこの土地は、警察に捕まってそこから抜け出した悪人や、前科を持つ人間、さらに数多の凶悪な組織が蠢く犯罪街でもあるのだ。
 むしろ、温泉のイメージよりも犯罪で蠢く街と言うイメージがあり、知ってて近づくものはなかなかいないのだ。
 つまり、この街に足を運ぶ者は、悪行を尽くした罪人、警察から逃げてきた悪者、そして、何も知らずにここへ来た観光客ぐらいだろう。
 だが、観光客は1割にしか満たない。
 何も知らずにここに来た観光客は、そのターゲットとして狙われることになるのだ。
 その狙われる大半が女性だと言うことは言うまでもない。

 吹き付けるからっ風。
 その風に黒いコートをなびかせて、進む者がいた。
 黒いズボンに中は白いTシャツだろうか?男か女かは被っているヘルメットによって判別は出来ない。
 その者は、歩いてこの砂漠を渡っているわけではない。
 バイクのような乗り物に乗って、砂漠を進んでいく。
 “バイクのような”と言う婉曲的な表現になるのにはわけがある。
 それは、バイクであってバイクではないのだ。
 といっても、見た目がバイクなので、バイク以外に説明しようがないが。
 とにかくその人物は、北にある港町からずっと南下していた。
 目指しているのは、その凶悪なならず者が蠢く温泉街だった。



 たった一つの行路 №151



「あー気もちいぃ!なんていい温泉なの!?」

 とっても広い温泉場。
 一人のとんでもなくスーパーボインな女性が上を向いて一言そういうと、言葉が空に吸い込まれるようだった。
 この温泉場は、回りが石造りで出来て、いくらならず者が蠢くこの街といえど、簡単に覗きが入れるような場所ではなかった。
 覗きができるといえば、男湯からロッククライムのように登るしかない。

「ここに来てよかったわ~♪」

 もう一度空へ向かって、叫ぶ女性。
 さっきから、感想を漏らしているのはこの女性だけだが、他にも金髪の鼻の高い20代後半の女性と緑髪でセミロングの10歳にも満たない少女がいた。
 この出るところが出ている魅惑の女性は20代前半……10代後半の女性だった。
 いや、少女といっても通用するような顔をしていた。もちろん、体つきはもうすでに大人だが。

「そっちはどう~?」

 彼女が男湯に向かって言ってみる。

「うん!なかなかいいよ!!」

 と、少年のような軽い声が返ってきた。
 その時、声がした。

「あっ!!あそこ!だれかみている!!」

 緑髪の少女が石の壁の上を指をさした。
 すると、その先には黒色のツンツン頭をした男がそこによじ登って、女湯を堂々と見ているではないか。
 その少女に言われて、他の二人もその男を見た。

「ノゾキ、ユルセマセーン!」

 片言な口調で金髪の女性は桶をフリスビーのようにヒョイッと投げると、その男の頭にクリーンヒットして、男湯に落ちていった。

「オイ!一体何やってるんだ!」
「何って……覗きに決まってんだろ!」

 と、男湯の方から、さっきの少年のような声とちょっと不良ぽい声をした声が争っていた。
 どたばた騒動があったようだが、そこから、難なくして騒動は鎮静化した。



 ツンツン頭の黒いコートの男はロープで縛られていた。
 もちろん、それは覗きをしたためである。

「って、ほどけよ!!」
「女湯を覗いといて何を言うんだ!」

 こげ茶のハーフパンツに紫のTシャツ。
 男性と言うには幼く見える少年だった。

「覗いて何が悪ィんだ!?女性の裸体は見るためにあるんだろうが!!」
「言いたいのはそれだけか!」

 二人の男がにらみ合い、火花を散らす。
 しかし、帽子を被り、ネクタイをしたガールスカウト風の少女が少年を引き離した。
 服装はガールスカウトのように見えるが、胸はボリュームがたっぷりで肌ははちきれんほどプリプリしていた。

「ショウ、もうこの辺でいいでしょ」
「でも、コトハちゃん……」
「別に見られて減るものでもないしね」

 コトハがそういうと、ロープに縛られた男は舌を出してべぇー!とショウに向かってやった。

「さっきの金髪の女性も、許してくれるみたいだから、別にほどいてあげてもいいんじゃないの?」
「コトハちゃんはいいだろうけど、僕は……」

 ショウはうつむいて何かを言いかけたが、言葉を飲み込んでしまった。

「どうしたの?」
「……いや、何でもない……」
「じゃあ、先に私は宿に行くわよ」
「え!待ってよ!」

 少々慌てた声をしながら、ショウはコトハの後を追いかけていく。

「てめぇ!ちょっと待て!ロープを解きやがれ!!」

 ぽつんと男は残されてしまったのであった。



 ―――10分経過。

「ロープを解けっー!!」

 相変わらず、周りの者たちは男を全く気にせずに通り過ぎてゆく。
 しかし、不意にロープが緩んだ。

「ん?何だ?」

 緩んだと思って後ろを見ると、どこかで見たような白いワンピースの上に青い袖なしシャツを着た緑髪のセミロングの女の子がいた。
 彼女が、男のロープを解いたらしい。

「……一応礼を言わなきゃな。ありがとな」

 ぶっきら棒に男がそう言うと、その子は右手を差し出した。

「ん?その手は何だ?」
「おかねちょうだい!」
「はぁ?」
「さっき、わたしをみたでしょ?」
「お前を見た?いつ?」
「おじさん……さっき、うえからみていたでしょ!」

 ふと、男は思い出す。

「お、おじ……!?俺はまだ21になったばかりだ!!それと、誰がてめぇを見てたって?て言うか、あの時てめぇいたか?」
「いたよ!だから……」

 男は大きなため息をついた。

「誰が、てめぇみたいなガキに覗き料なんか払うか!」

 男は一括した。
 その子はビクッとして一歩下がった。
 ガキと呼ばれたその子は、せいぜい6~7歳くらいで、男があしらうのも無理はなかった。

「それにガキの体なんて興味ねぇんだよ!実際、金髪の女とコトハって奴しか気づかなかったしな」
「わたしもいたって!」
「居ようが居まいが関係ねえよ!せめてあのコトハって奴ぐらいの体になったら考えてもいいがな!ガキは帰って、ママにでも甘えてろ。俺は忙しいんだ!」

 そう言って、黒いコートを翻して歩き出そうとする男。

「ママは…………じこでしんじゃったの…………」

 ポツリと漏らす、少女。その顔は悲しげだ。

「ふん、じゃあ、パパに甘えるんだな!」
「パパは…………しらないの……」

 シクシクと、泣き出す少女。

「じゃあ、ここで野垂れ死ぬんだな。俺は知らねー」

 泣き出す少女を見ず、男はそのまま歩いて去っていった。
 少女はそのまま、泣いていた……。
 男が見えなくなるまで、様々な人が通り過ぎるけど、誰も女の子を気にも留めなかった。

「大丈夫かい?」

 しかし、一人の青年が手を差し伸べた。

「全く酷い男だね……。酷いのはあの男だけじゃなくてこの街の住人もだけどね。俺の名前はカツトシ。君、名前は?」

 少女の目線に合わせて腰を低くくし、優しそうな声で話しかける青年、カツトシ。
 涙を拭いながら、少女は顔を上げた。

「……カズミ……」
「そうか、カズミちゃんか……どうしたんだい?よかったら、力になるよ?」

 すると、カズミと名乗る少女は、カツトシにいきなり抱きついて、手をカツトシの腰にまわした。

「そうか……寂しかったのか……」

 抱き寄せて、愛おしそうにカズミの頭を撫でる。

「わたし……ひとりなの……。ママはこのまえ、しんじゃったの。パパは、いないの……」
「いないって?」
「わからないの……うまれたときから、パパはいないってママにきいたの」
「(そうか……この子のお父さんはお母さんに子供を押し付けて、雲隠れしちゃったんだな……)わかった……僕がついていてあげるよ。だから、もう寂しくないよ」
「……うん」

 俯いて、頷く。

「さて、そうと分かったら、今日の泊まるところを探さないとな!」
「そこのお前……そこの女の子を渡してもらう!」
「誰だ?!」

 カズミを後ろに隠して前に出るカツトシ。
 目の前には、数人の集団が睨んでいた。

「(穏やかには見えないな……それにしても、僕よりも年下だよな……?)」

 カツトシの見立ては間違っていなかった。
 その集団の平均年齢が大体15~16歳くらいで、22歳であるカツトシから見れば年下で、服装は少年が白いワイシャツの黒のスラックス、少女が紺色のスカートと白いブラウスで統一されていて、突っ張っているようなイメージを持つ不良たちだった。

「一体この子をどうするつもりだ?」
「お前に説明する義理はない。さっさと渡せ!」
「(そういえば、最近子供を誘拐している奴らがいるって聞いたことがある……もしかして、こいつらが?)」

 カツトシが町の情報を聞いてそう考えていた。
 珍しい土地を探して旅をする彼は3日前にこの街にやってきていた。
 この町に来て、ただならぬ雰囲気を感じ取っていた。
 それは、どこかおぞましい禍々しい悪意が感じられる……そう感じ取っていた。
 この街には人を思いやることも助けることもしない。
 そんなこの町にカツトシは寒気を感じていた。

「(そうだとしたら……渡すわけにはいかない……)……渡さないと言ったら?」

 ふと、集団の中に隠れていた少女がクスッと笑った。

「力づくで、奪う!」

 少年がボールを繰り出して、襲い掛かってきた。中から出てきたのは、程よく太った猫……ブニャットだった。

「やれ!『シャドークロー』!!」

 瞬時にカツトシとの間合いをつめて、爪を振り下ろす。
 太っているのにどこからそのスピードは来るのだろうか?謎である。
 だが、シャドークローを鞭のようなもので巻きつけて、攻撃をいなした。

「『パワーウィップ』!!」

 攻撃の隙間を狙い、超強力な鞭をブニャットに撃った。
 ブニャットは吹っ飛ばされて、トレーナーの目の前まで転がって踏みとどまった。

「一発では無理か……」
「俺のブニャットはこの脂肪でダメージを吸収する。俺のブニャットに勝つのは不可能だ」

 少年は不敵な笑みを浮かべて、カツトシに言った。

「それはどうかな?」

 カツトシもにやっと笑った。

「さぁ、行くぞ!マスキッパ!『パワーウィップ』!!」



「ここか……」

 黒いコートの男は砂漠の中乗ってきたバイクを横において、掲示板を見ていた。
 そこには、顔がずらっと並べられていた。正確には、“WANTED”と書かれた張り紙……つまり賞金首のリストだった。
 男は次々とそのリストをチェックしていった。



 司馬のタスク
 懸賞金……52万ポケドル
 所属……水郡

 破殻のシロヒメ
 懸賞金……12万ポケドル
 所属……水郡

 風帽子のハヤット
 懸賞金……76万ポケドル
 所属……風霧

 爆撃バリー
 懸賞金……30万ポケドル
 所属……エビルバット

 クロノスヴィーノ
 懸賞金……13万ポケドル
 所属……跳馬

 蛇髪のジャキラ
 懸賞金……20万ポケドル
 所属……シャドー

 魔女ココロ
 懸賞金……2万ポケドル
 所属……不明



「なんか、見たことある奴もいるな……それにしても……」

 男は最後にもう一度ある手配書を見た。



 水帝レグレイン
 懸賞金……200万ポケドル
 所属……水郡



「200万ポケドルだと……?一体こいつ……何者なんだ……?」

 と、呟いたとき、何者かにぶつけられた。
 男はそのショックで張り紙が張ってある壁に頭をぶつけた。

「つつ……何だぁ!?何しやがる!!」

 男は怒鳴り散らしたが、そのぶつかってきた集団は、そそくさと、街の外へ向かって消えてしまった。

「ん?」

 ふと、男はさっきの集団の中に、覗き料を請求してきた少女がいたことに気づいた。

「さっきのガキ?まぁいいや。早速仕事にかかるか……」

 ドサッ!

「ん?」

 男が意気揚々としていたところに、人が急に倒れ込んできた。

「何だお前?」
「……くっ……俺の名前はカツトシ……俺の代わりにあの子を助けてくれないか……?」

 カツトシはぼろぼろの体で必死に男に頼む。
 どうやら、彼は負けたらしい。

「やなこった」
「なっ!?何故だ!?」
「俺には関係ないことだ。それに、助けてえなら、てめぇが助けりゃ済む話だろうが」
「見ての通り俺は負けた……奴らに勝つことは出来なかった……だから……」
「だからって、何故俺に頼む?諦めれば済む話しだろーが」

 「これ以上付き合ってられねぇ」と言うと、男はカツトシに背を向けてバイクを引いて歩き出す。

「君は可愛そうだと思わないのかい?あんな小さい子がさらわれて……何をされるかわからないんだぞ!?相手は最近この街で名を上げている“エビルバット”なんだぞ?放っては置けないじゃないか!」
「そうか……てめぇはその組織の名の恐ろしさに向かっていく勇気がねえって話しか……」
「違う!そういうことを言いたいんじゃない!」
「ケッ、チキン野郎が……」

 男はセリフを吐き捨てて、バイクを引いてカツトシを無視して歩き出した。

「くっ……あいつといいここの街の人といい、何でみんな冷たい奴ばかりなんだ……?」

 カツトシはギュッと右手を握り締めたのだった。



 砂漠の温泉街<キャメット>① 終わり


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Last-modified: 2015-05-27 (水) 22:13:12
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