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たった一つの行路 №143

/たった一つの行路 №143

 この話は私の母方の祖父が教えてくれたお話だ。
 昔にあったと言われる話で、御伽話みたいな話だけど聞くか……?



 たった一つの行路 №143



「ヘクチッ!!」

 グスッと鼻を鳴らす可愛い女の子が一人いた。
 その女の子の名前はアンリ。
 緑色で長めのマフラーを首に3回くらい巻いているのが特徴だ。
 それ以外は黒のミニスカートにクリーム色で長袖のカーディガンをきっちりとは着用しているなど、ぴっちりした性格をしていそうな女の子だ。
 彼女は別段可愛いというわけではないが、引きつける魅力というものがある。
 ……が、その魅力は、今は説明せずに置いておこう。

「うぅ……なんか悪寒がする……」

 長いマフラーと一口で説明したが、どのくらい長いというと、3回首に巻きながらも、地面にすれすれの長さなのである。
 彼女の身長が150センチくらいと少し小さい子だからという理由もあるだろうけど。
 そして、寒いと思い、アンリはマフラーをもう2度巻く。

「……え?」

 マフラーを巻く際に後ろを向いた時に、ふと彼女の目に映ったものがあった。
 そして、もう一度アンリはその目に映った“もの”を見た。
 “それ”は彼女を食入るように見て、決して目を離さなかった。
 あまりにもびっくりして、アンリは“手摺り”に飛びついて、しがみ付く。

「あんた、まだいたの!?」
「わりぃか!?」

 座りながら爪先立ち(一昔前のコンビニいる不良みたいな感じ)の男はやっぱり、アンリをじろじろ見ていた。
 メガネをかけた白髪で帽子を被った180センチほどの男。
 決してイケメンとは言わず、メガネと帽子を取ったら野獣に見えるだろう。
 ……とアンリは思っていた。

「コール!!いつまであたしに付きまとう気!?」
「ちげーよ!!別に俺はお前をストーカーしているわけじゃないぜ?ただ、俺が行きたい場所にお前がいるだけだ!」
「そんな嘘っぽい理由であたしが納得すると思うの!?」
「思う」

 ピキッ! バキッ!!

 キレたと思うと、アンリの右ストレートがコールという男の頬を打った。
 メガネが飛び、コールはゴロンゴロンと転がっていった。

「いてぇなっ!!女がグーで殴るかよ!?」
「たまには殴るわよ!」



 アンリとコール。
 別に一緒に旅をしているわけではない。
 2人が出会ったのはとある街のポケモンバトル大会でのことだった。
 トレーナーである2人はもちろんその大会に出場した。
 そして、決勝戦で合い見えることになった。
 戦いは熾烈を極め、最終的にはアンリが僅差でコールに勝った。
 それからというものの、コールはアンリを打ち負かそうと、何度も何度も挑戦してくるようになったのである。
 そう。やっぱりストーカーである。



 そして、2人は船で海を移動中だった。
 すっかり、アンリはしがみ付いた手摺りから離れている。
 しかし、コールの方は違った。

「うげぇ……」

 現在、船酔いをして地面に張り付いていた。

「何?あんた、船に弱いの?」
「お前が殴って吹っ飛ばさなければこんなことにはならなかったんだよ!」

 涙目でコールは呟く。
 そんな様子を見てアンリはため息をつく。

「何でもかんでもあたしのせいにしないでよね」
「うるせー!第一、俺はお前と勝負するまでついていくぞ!!」
「やっぱり、さっきのは嘘だったんじゃない!嘘はいけないのよ!」
「黙れ!バトルを……うぷっ……」

 慌ててコールはゴキブリのようにかさかさと動いて、顔を海に向けた。

「(とりあえず、島に着くまではコールとバトルはしなくて済みそうね)」

 コールと反対方向の海を見て、アンリは気付いた。

「島が見えたわね」

 その島は双子の島と近辺の者達から言われていた。
 そして、アンリとコールが向かう島の名のひとつは……月島と呼ばれていた。



 ポツッ ポツッ

 天然の鍾乳洞の洞窟。
 ポケモンが一匹もいないこの洞窟は地元の人でも近づこうとはしなかった。
 だが、この場所を歩く人影が2つ存在していた。
 一つの影はヒラヒラな服を着た女の子。
 もう一人も何かヒラヒラとしているが、身長はもう一方に比べるとやや高くがっしりしていた。

「ねえ……一体こんなところに案内させてどういうつもりなの?」

 ヒラヒラな服を着た女の子が後ろを向いて尋ねる。
 大人のような印象ものぞかせるが、少し子供っぽさが残る彼女は二十歳にはなっていないだろう。

「カズハ君。この場所にはとてつもないものが眠っているのだよ」

 後ろを歩くのはやはり声質から男の声だった。
 声は青年期を過ぎた男の声なのだが、男はまだ二十歳をやっとすぎたくらいの年齢だった。
 今歩いている少女……カズハとは3歳くらいはなれている。

「それなら私も聞いた事があります」
「うん。カズハ君が言うなら、やっぱり、私の魔術占いは間違ってはいなかったようだな」
「魔術占い……?」
「単純に魔力を使った占いだ。私はこう見えても魔導師でね、多少なり魔法が使えるのだよ」
「ルイさん。魔法なんて、本当にあるものなのですか……?」

 少し歩く足を緩めてカズハは男……ルイの横に並ぶ。

「超能力は知っている?」
「ええ」
「超能力は誰にでも備わっている。しかし、あるキッカケがないと目覚めることはない。まぁ、目覚めない人のほうがほとんどなのだろうけど」
「ですね」
「しかし、魔法は違う。あるときは儀式で継承され、あるときは親の魔力を受け継ぐ。それからたゆまぬ鍛錬で身につけていくもの。なかなか簡単に使えるものではない」
「便利なのですか?」
「まぁ、使いこなせればね。……しかし、魔導師や魔女の日当たりはあまり良くない。とある国では魔法使いは悪魔の使いとして駆逐された。魔女狩りなど、つい最近まであったことさ」
「……魔女狩りだなんて……」
「…………。魔法使いの中には、確かに魔法を悪用していた者のほうが多かったからあまり文句は言えないけどね。ところで……」

 ルイはう~んと、まじまじとカズハを見ながら言った。

「その服装は……君の趣味なの?……メイド服」
「え?……これはメイド服じゃないですよ?」

 さらりと彼女は一回りしてみせる。

「白と黒のドレスです」
「(……もしくはゴスロリの服に見えるのだが……)」

 黒髪で頭のてっぺんで髪をまとめているカズハの姿を見て、ふとルイはそう思っていた。

「そんなこといったら、ルイさんもその服はなんですか?」
「私の服はちゃんとした法衣だよ。魔力が宿った退魔の法衣」

 ゴホンッとルイは咳払いをする。

「とりあえず、私の魔術占いでは、この地に“強大な光と闇の存在”が眠っていると聞く。私はその存在と戦わなければならない運命にある」
「でも、そのような存在……月島の伝書にしか残っていませんでした。だから迷信だと思っていました」
「……迷信……ならばいいのだけどな」

 彼らが歩いていたのは鍾乳洞の洞窟だが、それは月島の地下にある洞窟だった。
 危険であるため月島の住民でもあまり近づこうとはしない場所だ。

「ルイさん……。やっぱりやめましょう!これ以上進んでは危険だと思いますよ!?」

 しかし、指を振ってルイはちっちっと鳴らす。

「危険を怖がっていては、前に進むことなんて出来ないではないか」

 ズンズンと進もうとするが……

 ボコッ!!

「なっ!?」

 ヒュ――――――――――――――――――――――――…………

「えっ!?ルイさん!?」

 足元が抜けてルイは落ちていった。
 慌ててカズハはルイの落ちた穴を追っていった。

 …………――――――――――――――――――――――スタッ

 と、何事もなかったかのようにルイは着地に成功した。

「ふう……『エア』の魔法の応用が出来てよかった」

 メキッ!!

 しかし、悲劇はルイを襲った。

「ぐわっ!」
「キャッ―――!!ルイさん!?」

 ルイが着地した場所へトロピウスに乗ったカズハが着地したのであった。

「大丈夫ですか!?」
「……あんまり大丈夫…じゃない(汗)」
「ごめんなさい……」
「……っつつ……それよりここは……?」

 彼らが出たその場所は、まるで地下とは思えない広い空洞だった。
 そこに、ポツンと何かの棺が置かれていた。

「……これか?」
「“強大な光と闇の存在”……まさかコレがですか……? ……って、ルイさん!?」

 カズハが半信半疑で棺を見ていると、ルイがべたべたと棺に触り始めたのである。

「この中に目的のものが……。しかし、棺を暴くわけには行かないな」

 バキッ!!

「っ!?」

 頭を叩いたのはカズハだった。
 やや涙目で彼女は訴える。

「下手に触って、その“強大な光と闇の存在”とやらが目覚めたらどうするんですか!!」
「目覚めたら目覚めたで好都合だ。私が滅ぼす」
「戦う気満々なのね……」
「そのために来たのだからな」

 呆れてカズハが棺に触れたそのときだった。

“この波動……忌々しき『クレハ』か!?”

「「!?」」

 突然聞こえた謎の声。
 しかし、ルイにはわかっていた。

「棺だ!カズハ君。離れろ!」

 ざっと飛び退くと、棺から何かが飛び出してきた。

「あれは!?」
「白と黒の……光……?」

 二つが混ざり合ったような光だった。

「どうやらこれが“強大な光と闇の存在”か……」
“『強大な光と闇の存在』とは……随分曖昧な名前だ。だが、私に名前などない。好きに呼ぶがいい。それよりいつ以来だろうか?この地に蘇ったのは……”
「蘇ったのはいいが、ここで滅びてもらう!!」

 ルイが懐から水晶玉とモンスターの入ったボールを取り出した。

“ヒヨッコが”

 白い光から細いエネルギー体が放たれる。
 ルイは慌ててかわすが、次のエネルギー体が次々と放たれる。
 ルイはかわすので精一杯だった。

「くっ!攻撃が出来ない」

“焼けろッ!!燃え尽きろ!!”

 ポケモンを出そうとするが、出した瞬間に攻撃を受けてしまうことを考慮して、ルイは出せなかった。
 しかしながら、その謎の光に攻撃を加えた存在があった。

 ズバッ!ズバッ!

“むっ!?”
「トロピウス……今度は『ソーラービーム』!!」

 葉っぱカッターで牽制し、続いてビームを撃った。
 謎の光は草系エネルギーを相殺させるために今度は黒い光を放った。
 徐々にソーラービームを押し返していく。

「強い!?」

 何とか攻撃をかわしたそのとき……

「今だ!」

 ルイのムウマージがシャドーボールを打ち出す。

“くっ!!”

 ソーラービームの相殺に気が散っていた謎の光はシャドーボールの攻撃を受けた。

「よし………………」

 ぶつぶつとなにやら詠唱を始めるルイ。

「『エアスラッシュ』よ!!」

 連続で攻撃を加え続けるトロピウス&カズハ。
 空気の刃で光を裂こうとするが、威力が足りないのか、その謎の光に当たって消滅する。

「…………よし、詠唱完了!“1つの万物を分かちたまえ!『Xカリバー』”!!」

 ルイが詠唱を終えたとき、水晶玉から瞬きもしない一瞬で斬撃が飛んでいった。

“ぐっわっ!?”

 スパンっと気持ちいように謎の光は真っ二つに切れた。

“バカな!?私を二つに分断するなんて……忌々しき月の踊り子『クレハ』にも出来なかったことなのに……貴様、何者だ!?”

 謎の光は黒と白の2つに完全に分かれた。

「私は名も無き魔導師さ」

 メガネを左手でクイッと直してその分断した光たちを見る。

「“クレハ”って……確か私のご先祖様の名前……?」

 カズハがそう呟く。

“……何!?そうか……そういうことだったのか……それなら、貴様を倒すことで私は恨みを果たすとしよう”

 黒い光と白い光がルイとカズハに襲い掛かる。
 しかし、体当たりの要領で突っ込んだが、黒い光はルイに当たって吹っ飛ばされ、白い光もトロピウスに当たって跳ね返された。

“何故だ!?”
「そんな“こと”、私には出来ない」

 ルイは水晶玉を構えつつ、そう言い放った。

“くそっ!!それなら……”
「!!」
「あっ!?」

 白い光と黒い光はルイたちが落ちてきた穴から脱出してしまった。

「まずい!カズハ君。急いで上に行こう!」
「ええ!!」

 トロピウスに乗って、2つの光を追いかけていったのだった。



「……ところで、どこまでついてくる気なの!?」
「お前がバトルをするまでどこまでもついて行くぞ!!」

 月島の集落の外れに今はいる最初のアンリ&コール。
 コールはモンスターの入ったボールを持って殺気立てながらアンリを追いかけていた。

「あたしはあんたと戦う気は無いわ」
「問答無用!!」

 コールが繰り出したのはシザリガーだ。

「さぁ……お前も出せ!」
「やだよ」
「出せっつーの!!」
「や…だ……?」
「……?どこを見ているんだ?」

 ふと、空を見ていたアンリの視線を追うようにコールも空を見る。
 二つの光が飛び交っていた。

「なんだあれ?」
「あたしがわかるわけないじゃない」

 そのとき、謎の声が2人に届いた。

“ほう……いい身体があるではないか”
「なっ!?」

 コールとアンリに襲い掛かる光……
 ピカッと光った瞬間、2人の意識は遠のいた。



「どこへ行った!?」
「あの2人は?」

 そこへ到着するルイとカズハ。

『『大文字』』
『『冷凍ハンマー』』
「「!!」」

 トロピウスに襲い掛かるシザリガーとアンリが繰り出したヤルキモノ。
 攻撃をかわそうとしたトロピウスだったが、どっちの攻撃も受けて迎撃されてしまった。

「まさか……」
「あの2人は……」
『気付いたか……?』

 謎の声が響く。

『私がこの2人を乗っ取った。この2人で貴様らを叩き潰してやろう!!』

 2人の目の前にいるのは、帽子とメガネの男と長いマフラーの女の子。
 一見普通のトレーナーに見えるが、2人の醸し出す雰囲気にルイとカズハは息を呑んだ。
 そのトレーナーというのは、さっき着いた船に乗っていたコールとアンリだった。

「ねぇ……まさかあの光……」

 カズハがルイの裾を引っ張る。

「ああ……間違いない。さっきの白と黒の光……あの2人に憑依している」

 男の方からは白い光、女の方からは黒い光が滲み出ていた。

『この身体なら貴様らを叩き潰すことは容易い!ポケモンも持っているようだしな!さぁ、やれ!』
「来る!」

 ヤルキモノがジグザグに動いて接近し、シザリガーは飛び上がってルイに襲い掛かる。

「トロピウス!『守る』!」

 上からと横からの攻撃を身体で受け止めるトロピウス。
 しかし、いつまでも持つとは限らない。

 ズバッ!!

 接近してからのヤルキモノの切り裂くがトロピウスを吹っ飛ばす。

「(ダメ……トロピウスじゃ勝てない)」

 シザリガーが上からハサミを叩きつける攻撃が決まろうとしたそのとき、黒い突風が2匹を吹っ飛ばした。

「カズハ君、一旦間合いを取るよ!」
「ルイさん!?」

 ムウマージを戻しつつ、カズハの手を引いて逃げ出す。

『貴様ら……逃がすか!!追え!!』

 憑依されている2人の指示に従って、ヤルキモノとシザリガーは2人を追っていく。

「どうするの……?」

 走りながらカズハはルイに尋ねる。

「君はあの2匹のポケモンを同時に相手できるかい?」
「……わからない。この島の中では私は強い方だと思います。でも、あの2人の強さは私より同等か、それ以上だと思います。時間稼ぎにしかならないかも……」
「足止めさえしてくれればいいのです。その間に私が魔法で何とかします」
「魔法で?」
「ああ。あの二つの光を追い出さないことには始まらないからね」
「わかりました」

 カズハは後ろを振り向いてモンスターの入ったボールを放り投げた。

「『マッハパンチ』!!」

 飛び出したのはキノガッサ。
 高速の拳でシザリガーとヤルキモノに向かっていき、パンチを繰り出す。
 シザリガーにダメージを与えたのはよかったが、ヤルキモノは受け止めて、倍返しをやってきた。
 カウンターだ。
 吹っ飛ばされてキノガッサは怯むがカウンターのあとの大文字にすぐ反応して、何かのオーラで打ち消した。

『……今のは……月舞踊か!?』
「『月舞踊:無姫<なきひめ>』……全ての特殊攻撃を無効化するわ。そして……」

 キノガッサがその場で一回りすると、ズバッ!!と風が巻き起こり、ヤルキモノとシザリガーをダウンさせた。

「『月舞踊:朔凪<さくなぎ>』……その場に生じる風の斬撃で相手を切りつけます」
『ふっ、私がその月舞踊を知らないとでも思ったか?」
「え?」

 ズゴゴゴゴッ

 地面から地響きがなり、カズハはバランスを崩す。

 ズゴッ!!

「キャッ!!」

 カズハとキノガッサは地面から出てきたガルーラによって空に打ち上げられた。

『ほら、やっちまえ!』

 待機していたもう一匹……ルナトーンがサイコキネシスでキノガッサと叩きつける。

「キノガッサ……がぁっ!!」

 落ちてきたところ、操られたコールが待ち構えて、カズハの首を片手で締め上げる。

『月の踊り子……。あぁ、忌まわしき月の踊り子。あの『クレハ』のせいで私はあの狭く暗い棺の中に閉じ込められた。その恨みを忘れたことはない。今こそ、月の踊り子を根絶やしにしてやる!!』
「がはっぁ……」

 首を絞められてもがき苦しむカズハ。
 憑依されているコールの手の力は強く、次々と力を加わることでカズハを苦しませる。

『くたばれ!』

 しかし、次のときだった。
 手刀がコールの腹を抉り、吹っ飛ばした。
 そして、カズハは地面に落ちて、嘔吐する。

「待たせた。大丈夫か?」
「な、何とか……。もうちょっと遅かったらダメだったわ」

 ルイと傍らにいるチャーレムが今度は戦線に立つ。

「大丈夫だ。詠唱はもう完成した。一気に行くぞ!」

 そして、一息して最後の呪文を唱えるルイ。

「“全ての事象を囲いたれ……『ボックス=アラウンド』”!!」

 最初に詠唱したのは半径50メートルを包囲する結界。
 これで中にいるものを逃がさないようにする効果があるのだという。

『やれ!やっちまえ!』

 ガルーラとルナトーンが襲い掛かる。

「チャーレム、ムウマージ!」

 ポケモン同士のバトルは、相性の関係と実力の関係上を足し合わせて互角だった。
 殴り合い、砲撃しあい、結局は相打ちでポケモンたちは倒れた。

『クソ……役立たずが』
「“悪しき力を退けたれ……『アウカ=レイド』”!!」

 両手で水晶玉を押さえつけて、次の瞬間、水晶玉を上へと投げる。
 そして、両手を前へ出すと、不思議な光がコールとアンリを貫く。

『ぐわぁぁぁーーーー!!』

 悶え苦しむ二人。
 しかし、次の瞬間、白の光と黒の光はコールとアンリから飛び出していった。
 コールとアンリはそれぞれ地面にバタッと倒れた。

「これで……決める……」

 落ちてくる水晶玉をキャッチして、再び水晶玉に目を通す。

「“悪しき万物よ消えたれ……『アウカ=デストラクト』”!!」

 黒い光と白い光を包囲して、その包囲した中に向かって魔力がびしびしと謎の光を襲っていった。

「消え去れ!!」

 ボーンッ!!!!!

 包囲した結界も自らの破壊の魔力には耐え切れずに粉砕した。

「……終わった……か?」
「はぁ…はぁ……」

 カズハもルイも息が絶え絶えである。

“なんだ、この程度だったのか”

「「!?」」

 爆発から現れる2つの光。

“確かに多大なダメージは負った……しかし、私を消すには遠く及ばない!”
「そんな……」
「まさか……私の力でも……消せないなんて……」

 ルイはがっくりと地面に膝をつく。

“私を倒せるものなどいやしない!!……さて、もう一回この者たちに憑依を……”

 バキンッ!!

“!?”

 しかし、2つの光はアンリとコールを拒んだ。

“何故だ!?”
「さっきの『アウカ=レイド』という魔法には、退魔の遺伝子を刻み込む性質を持つ魔法だ。だから、その2人には乗り移ることは出来ない」
“ならば……”
「私に乗り移ろうとしても無駄だ。私にはこの退魔の包囲がある上に魔導師だからね。カズハ君も月の踊り子で耐性があるに違いない」
“…………。まあいい。貴様の魔力が切れるまで、この結果の中にいるとしよう”
「私がそれを許すと思うか!?」

 ルイは立ち上がって手を前に差し出す。

「ルイさん!?無理をしちゃ駄目!もう体力も魔力も残ってないんでしょ!?」

 カズハの目から見ても、ルイが限界なのがわかっていた。

「そうだ……けど、やるしかないんだ!」

 ルイは詠唱を始める…………そして…………

「『プリズムプリズン』!!」

 ルイは魔法を唱えた。
 しかし、魔力はまったく足りず、魔法は発動しなかった。

「くそっ……封印まで出来ないなんて……。私は何てことをしてしまったんだ……」

 ルイは地面を叩く。
 そして、結界が解かれていく……

“よし、このまま外に出て、世界の人間に憑依してやる!そして、準備が整った時、貴様らを滅ぼしてやる!!”

 外に飛び出す2つの光。
 ルイとカズハはもう絶望に陥っていた。

「てめえ!!人を操っといて勝手にとんずらするんじゃねえ!!」
「あたしに何させてんのよ!!このバカッ―――!!」
“何!?”

 ボシュッ!! ……コトン ……コトン

 ルイとカズハは一瞬目を疑った。

「……ルイさん。今、あの2人……」
「……どういうことだ?」

 目を疑うのも無理はない。
 “強大な光と闇の存在”と呼ばれるものが、コールとアンリの怒りによって投げたモンスターを捕獲するボールの中に納まってしまったのである。
 この光景をどう理解できようか?いや、理解しがたい。

「あれ?なんか、捕まえることが出来たみたい」
「これって、ポケモンなのか?」

 …………。
 何はともあれ、“強大な光と闇の存在”と呼ばれた存在は、ボールに封印されたのだった。



“強大な光と闇の存在”の存在は、4人が二度とこんなものがこの世に現れないようにと、再び月島の地下深くの棺に眠らされることになったという。



「……アンリ……本当にもう行くの?」

 月島の港でカズハが寂しそうに尋ねる。

「うん。だって、いつまでもここに留まっている訳には行かないから……。あたしの旅はまだまだ続くのよ」
「そうか……」

 アンリの言葉を聞いてカズハは無理にでも笑った。



 4人はそのあとすぐに打ち解けて、仲良くなった。
 アンリは誰とでも仲良く、ポジティブに。
 コールは図々しくうざったくも、周りの雰囲気を調和させるように。
 カズハは自然と溶け込んで、和やかに。
 ルイは口数が少なくとも、みんなを驚嘆させる知力に。
 4人の性格は違えども、親友と呼べるくらい4人は仲良くなった。
 だが、月島に一生住む以外は、必ず別れはやってくる。
 ルイも修行のためにもう月島を発っていた。
 アンリもこの島を発とうとしていたのである。



「元気でね」
「カズハもね!」

 握手を交わした後、船は沖へ飛び出した。
 カズハは流れ出る涙を拭って、アンリを送っていた。
 それはアンリも同じだったのだが……

「やっぱり……寂しいよな」
「……っ!!」

 慌ててフェンスに飛びつくアンリ。
 そこにいたのは、爪先で立ちながら座って、食い入るようにアンリを見ていたコールだった。

「あ、あんた、まだあたしについてくる気なの!?」
「当たり前だろ!!まだ決着はついてねーんだよ!!」
「月島で5戦やってあたしの4勝1引き分け……どう見てもあたしの勝ちじゃない!!」
「俺が勝つまで、俺はてめえについていくって決めてんだよ!信念は曲げねえ!」
「そう……立派な信念ね……」

 アンリはスチャッと、フェンスから降りて、跳んだ。

「そんな信念曲げちまえ!!」

 バキッ!!

 小さい身体から繰り出す跳び蹴りがコールにまともにヒット!!
 コールはゴロンゴロンと船の上を転がっていった。

「ぐふぅ……ピカチュウ柄……」

 そう呟いてコールは気絶した。が、アンリはボッと一気に顔を赤くした。

「見ーたーね!?」

 ドガバキボコドガバキボゴ!!!!

 …………。

 こうして、アンリとコールの凸凹コンビの旅はまだまだ続いていったのだという。



「魔法に光と闇?」
「そんなことって本当にあるの?」

 幼い男の子と、その姉が話を聞いて頷いていた。

「パパにも信じがたい話だけどね」

 話をしていた男は20台の半ばあたり。
 2人の父親のようだった。

“パパー。挑戦者が来たみたいよ?”

 若い女性の声。恐らく、奥さんだろう。

「おっと。この話はまた今度な。これからジム戦だからな」
「わー!パパのジム戦!?僕も見る!」
「私も見たいかもー!!」
「わかった、わかった。一緒に行こうか」

 2人の子供を連れて、父親はジムフィールドへと向かっていったのだった。



 交錯する道たち 終わり


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Last-modified: 2015-05-21 (木) 23:20:36
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