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たった一つの行路 №140

/たった一つの行路 №140

 不思議な空間。
 そのいびつで混沌とした世界の狭間の中で、一筋の爆発が生じた。
 爆発の根源とされる禁忌と呼ばれた存在は、弱点となるコアを突かれて前例のない大爆発を起こした。
 それを見ていた2人の男女。
 男は茫然と爆発を見て、女は爆発に巻き込まれし少年の名を叫んだが、轟々とする爆音にかき消される。
 また、爆発と共に凄まじい光が生じていた。
 それはまるで命の灯火というべき、素晴らしく、神々しい光だった。
 光は千に分かれてやがてどこかへ向かうように拡散し、この場から消えてしまった。
 そして、禁忌の消滅と共に“世界の狭間”やその根本となる世界も崩壊を迎え、そこにいる全ての者が巻き込まれていった。

 この世界……Dimensions Over Chaosに残った物は無く、全てが塵となってしまったのだった。



 たった一つの行路 №140



 27

 …………?
 ……どうしたんだ俺は?
 ……確かあの時、奴に殴られてそれから……
 ……その先のことは……わからない……
 ……でも、確かな事がある。
 ……俺は……生きている。



「うぅ……」
「お兄ちゃん!」
「兄貴!」
「エースさん!!」
「エース、しっかりして」

 彼の耳にいくつかの言葉が流れ込む。
 その呼びかけに答えるように彼の意識は覚醒し、目をあけた。
 その瞬間に、誰もが喜びの声を上げた。

「よ、よかった……。え、エースさん……ようやく起きましたね?」
「お兄ちゃん!!」

 起き上がるエースに、妹のジョカがガバッと抱きつく。

「ジョカ……」

 エースはふと、妹の頭を撫でてやる。

「それにしてもよかったッスよ、兄貴。いきなり、空から“3人”が落ちてきたんスよ!それもみんな気絶してたんスから」
「何はともあれ……無事でよかったです……」

 プレスとミナノもエースの様子を見て安心をした。

「でも、少し心配のことがあるのよね」
「他の人はどうしたんだ?リュウヤとかユウナは?」

 エースたちに集る場所よりちょっとだけ離れた場所で、アクアとファイアがエースに尋ねる。

「わからない……。あの時俺は……雑草のせいで最後まで戦えなかったからな」
「雑草……あのヒロトって奴スね!?」

 ヒロトの影人のトロイにやられたことがあるプレスは、悔しそうに地団太を踏んでいる。
 ちなみにプレスとミナノの2人が、1ばんどうろでジョカをさらったのはヒロトでなかったということを知るのは少し後の事である。

「それじゃ……負けちゃったのですか?」

 ミナノは不安な表情をしていた。

「いや……何となくだけどわかる。俺たちは勝ったんだと」
「「どうしてそう思うの?」」

 イエローとジョカがハモって不思議そうにエースを見る。

「よくわからないけど、そんな気がするんだ」

 そう言って、エースは空を見上げたのだった。



 そうして、彼らは再びトキワグローブ邸でバーベキューパーティを開くことになった。

「手伝おうか?」
「ありがとう。でもファイアは座っていて。ここは私がやるから」
「そうね、愛しい恋人のために」
「アクアさん!!」 「お姉ちゃん!!」

 顔を真っ赤にして、アクアに反論したのはファイアとリーフだ。

「キャッ!ごめんなさい!イエローさん」
「またミナノがこけてイエローさんの服にタレがついた!!!!」
「プレス!そんなに大きな声で言わなくていいんじゃないかな!?それに“また”って何よ?」
「この前だってこけたじゃねーか!!」
「うっ……そういえばそんなこともあったかな~?(汗)」
「あったんだよ!!」
「細かい事なんて覚えていないで下さい!!」

 と、こっちではプレスとミナノが口ケンカ。
 仲がいいんだか悪いんだかよくわからない2人である。

「と、とりあえず。大丈夫ですよ、ミナノちゃん。服の汚れは洗えば落ちるんだし」

 そう言って、なだめるようにイエローはミナノに言ったのだった。

「エース。少しいいか?」
「……父さん?なんですか?」

 シルバーに手招きされたエースは、家の中へと入っていった。

「お兄ちゃん……?」

 その様子をジョカは見ていたのだった。



「これから、お前はどうするんだ?」
「これから?」
「ああ。お前の実力なら、ジムリーダーになる事もできるし、アクアと共にSGとして働く実力もある」

 実はエースたちがティブスからDOCに行っている間、約2日が過ぎていた。
 DOCは他の世界よりも流れる時間が遅いらしい。
 つまり、エースたちは実際、1日程度しかDOCにいなかったのだが、ティブスでは2日程度も過ぎてしまっていたらしい。
 その間にアクアは入院しているテツマ&カンナと相談し、また、ポケモン協会などと相談をして、SGとTCを統合することになった。
 元SGの中には、ラナ&アメやタクス、マジカなど上の命令に従っていただけで、決して進んで悪に加担しようとしていたわけでない者たちもいたから、彼らと一緒に統合することになったのである。

「無理にとは言わないが……。ただ、俺は俺の代わりにSGのヘッドを担って欲しいと思っている」
「…………」
「どうだ?」
「父さん。残念だけど、断わる」
「…………」
「俺には待っている人がいるんだ。そのために俺は彼女へと続く道を探さなければならない」

 エースは怒るかなと思って父親の顔を見たけど、それほど怒っていなかった。
 むしろ、安心していたように見える。

「そうか。わかった」

 エースの肩にポンと手を置いてシルバーはもう一言だけ言った。

「がんばれよ」



「お兄ちゃん」

 入口を出たところでエースを呼びかけたのは妹であるジョカだった。

「ライトさんの所へ行くんだよね?」
「ああ」
「やっぱりそうだよね」

 ジョカはにっこりと笑う。

「ボクはお兄ちゃんを応援しているよ!……それと……」

 改まってジョカは一呼吸する。

「助けてくれてありがとう!!」
「……兄妹だから当たり前だろ?」

 ふっ、とエースは笑いジョカも照れ笑いした。
 そして、エースが行くと、ジョカはその兄の背中をじっと見ていたのだった。

「…………」

 ジョカは兄に背を向けて反対の方向へと足を動かして行ったのだった。
 そして、ジョカたちがエースの姿を見ることはもうなかったという。



「ぼ、僕はこれからどうしよう……?」

 トキワシティの外れにある川辺でエレキは水面をずっと見つめていた。

―――「エレキさんを見て気づいたのですが、あなたは“神の生まれ変わり”なのですよ。不意に生じるその力は、きっと神の遺産なのでしょう。力は小さくなっているようですが」―――

 タキジを倒したあと、目覚めたエレキに膝枕をしてあげていたハナがそう言っていた。 

「こ、こんな力なんていらなかったのに、僕は……」
「何を悩んでいるんだよ?」
「え、え?う、うわっ!!」

 いきなり現れたジョカの顔を見てビックリしたエレキは川に落下してしまった。

「だっ、大丈夫っ!?」
「な、何とか大丈夫だよ……クシュンッ!!」

 エレキはワニノコを繰り出して、何とか川から脱出していた。
 しかし、服がびしょびしょでエレキはくしゃみをした。

「えーと……服……脱いだ方がいいと思うんだよ……」
「で、でも……」
「そのままにしていると風邪引くんだよ?」
「う、うん……」

 ジョカに言われて仕方がなく、エレキはパンツ以外のものを全て脱いだ。
 そして、ジョカのマッグ(マグカルゴ)の炎であぶってエレキの服を乾かす。

「エレキでしょ?」
「え、え?な、何が?」

 背中合せ状態のエレキとジョカ。
 そんな状態なのは、エレキはジョカに見せられるのが恥ずかしく、ジョカはジョカで顔を赤らめているからのようだ。

「ボクをここまで運んできてくれたのだよ」
「そ、そうだけど……」
「御礼を言っておこうと思ったんだよ。ありがとう」
「う、うん……ど、どういたしまして……」
「…………」
「…………」

 その言葉を区切りに2人は黙り込んでしまった。
 随分長い時間だったようだ。
 その間に、エレキの服が乾いたようだ。

「ボクは……エレキの事がもっと知りたいんだよ」
「……え?」

 服を着ながらいきなり言われたエレキはキョトンとしてジョカを見る。

「目が覚めたときね、ボクは君の背中にしがみついていたんだよ?そのとき不意にボクの心がドクンと脈を打ったんだよ。こんな気持ちは初めてだったんだよ。だけど、ボクは君のことをまったく知らない……。だから、ボクは君の側にいたいんだよ」
「じょ、ジョカちゃん……」
「それとできるなら……呼び捨てで呼んで欲しい……んだよ……」

 手を後ろにまわして右足で地面をぐりぐりとしながら、目をそらしてジョカは言った。
 最初はまっすぐエレキを見ていたのだが、喋っているうちにだんだん照れくさくなって、さらに顔が赤くなって直視できなくなったようだった。

「ぼ、僕でいいの?」

 エレキの言葉にペコリと頷くジョカ。

「ぼ、僕……なんの取り合えもないよ?ふぁ、ファイアやアース……それに君のお兄さんのエースと比べたらダメダメな人間みたいなモンなんだよ?そ、それでもいいの?」
「……ボクは思うんだよ。取り得がないと思っているのは君自身だけなんだよ。どんなに駄目な人だって一つくらいは取り得を持っているものなんだよ?だから……ボクが君のいいところを見つけてあげるんだよ」
「……じょ、ジョカ……」

 エレキは少し戸惑ったが、手を差し伸べた。

「わ、わかった……宜しく……ジョカ」

 エレキが承諾した次の瞬間だった。
 身体に何かが巻きついてきた。
 少し落ち着いてみると、彼女が抱きついていたのだった。

「お願い……少しの間……こうやって泣いていていいかな?」
「……う、うん……い、いいよ」

 エレキが承諾すると、ジョカは溜まっていた涙を存分に流した。
 本当はエースがいなくなることが寂しかったのだ。
 それなのに、ジョカは我慢をしていたんだ。
 と、その事をエレキは後日知った。
 エレキはそんなジョカを優しく包み込むように抱きしめたのだった。



 28

「うぅん……ここは……?」

 起き上がってみると、地平線とまでは行かないが、かすか遠くの方まで山が見えるほどの平地の草原だった。

「あら、起きた?今日は早いのね」
「え?ユウナさん?」

 I☆NAをいじっていたユウナはずっとオトハが起きるのを待っていたようだった。

「そのケガ……どうしたんですか?」
「いろいろとね」

 手や頭に絆創膏やテーピングをしているユウナは苦笑いをしてオトハに言葉を返した。

「えーと……ここはどこですか?」
「ここはホクト地方のトウマ高原……あそこに小さく会場が見えるでしょう?」
「あ……。ありました」

 ユウナの指差す方向を見て、頷くオトハ。

「……あれ?私とユウナさんだけですか?」
「いいえ、そこらへんにいるでしょ」
「……?」

 見ると、一人の女性が息もしてないように見えるほど穏やかに眠っていた。

「この人は……?」
「リュウヤが探していたナミネって人だと思うわ」
「ナミネさんだけですか?」
「いや、あそこにもいるじゃない……」

 と、少し呆れた様子でユウナは言っている。
 ユウナの指差した方を見ると、オトハも「ああ」と言って、頷いた。
 簡単に説明すると、ラグナの背中に抱きつくようにハナが眠っていたのである。

「本当にラグナさんってモテますね~♪」
「(いや、絶対違うと思うけど)」

 と、心の中でオトハに突っ込むユウナ。

「はわぁ~!?」

 ぱちりと目を覚ますハナ。
 やっぱり彼女はニコニコと笑顔だ。

「あら、みなさんお目覚めになりました?」
「ええ。起きたわよ。そこのラグナとナミネを除いてね」
「ラグナさんはこうすればきっと起きますよ」

 ポコッ

「ぐわっ!!」

 そして、ラグナは飛び起きた。

「でしょ?(ニコニコ)」
「(でしょ?って……なんてとこを叩いているのよ。しかも笑顔で)」

 ユウナはハナに突っ込むに突っ込めなかった。

「ぐぉっ!!」

 そして、まだラグナはもがいている。
 死ぬほどのケガを負っていたのだから当然と言えば当然なのであるが。

「ハナ……てめぇ……覚えていろよ!!」
「残念ですが、次はありませんよ。なので覚えていても意味がありませんよ?(ニコニコ)」
「それなら今……」
「やめなさい」

 と、ユウナはラグナの脳天にチョップを叩き込んで静める。
 ラグナは低い唸り声を上げて、地面に沈んだ。

「ハナ……本当にこれだけなの?他に助かった人はいないのかしら?」
「大丈夫だと思いますよ?……ただ、一人だけ生死も行方もわからない人がいます(ニコニコ)」
「え……?まさか……」

 オトハは嫌な予感がした。

「そう、ヒロトさんです。彼だけはまったく行方がつきませんでした(ニコニコ)」
「…………」
「(オトハ……)」

 黙りこむオトハの様子を見てユウナは心配そうに見る。

「あの爆発でしたから、もしかしたら、禁忌と一緒に消し飛んだのかもしれませんね(ニコニコ)」

 決してハナはヒロトの事がいなくなって、喜んでいるわけでは無いのではない。
 この笑顔は生まれつきである。

「いいえ……ヒロトさんは必ずどこかにいます……」

 オトハは硬い表情をしていたが、そう言ったとき、ふっと力が抜けたような顔をした。

「オトハ……?」
「そして、私は探します。世界中を旅してでもヒロトさんを見つけて見せます」
「…………。そうですか……がんばってください(ニコニコ)」
「ラグナさん、ユウナさん……私、早速行きます」
「オトハ……私もできる限り協力するわ!」

 オトハの手をとるユウナ。

「まっ、あのバカにあったら「俺と戦え!」って俺が言ってたって言え。わかったな?」
「……ありがとう……」

 そして、オトハは山の方へと歩き出した。
 その姿をラグナとユウナは並んで眺めていた。

「ラグナ、あなたケガは大丈夫なの?」
「……あんま大丈夫じゃねぇかもな。体中がまだいてェ。さすがにちょっと休養しねぇとマジィかもな」
「あなたは無理しすぎなのよ」
「ほっとけ。それにてめぇも人のこと言えんのかよ?」
「あなたほど無茶はしてないわ」

 ユウナは髪を掻き分けてラグナに言葉を返した。

「けっ。それにしても……このナミネはどうすんだ?……あれ?」

 ラグナはナミネがいた場所を見たのだが、そこにナミネはいなかった。

「そういえば、ハナもいないわ……。どこへ行ったのかしら?」

 忽然として、ハナとナミネは姿を消したのだった。
 そして、彼らがハナの姿を見ることはもう二度とないのだった。



 29

「(ここは……?)ぐっ!!」

 起き上がろうと手を就くが、全身に負った傷は彼を立てなくしていた。

「(動けない…………それに僕は……一人なのか?)」
 
 静かなる空間。
 リュウヤが思うに、ここは空間と空間をつなぐ道なのだと思った。

「(ラティオス……がいない)」

 空間が崩れる瞬間にラティオスを戻そうとしたのだが、どうやら出来なかったようで、彼のラティオスの入っていたモンスターボールは空だった。

「(リリスは確かにヒロトが倒した。ザンクスもきっとあの空間の消滅に飲み込まれて消えたに違いない。これで世界を脅かす者はいない……)」

 ひとまずリュウヤは一安心した。
 しかし、もう一つ気になる事があった。

「(だけど……みんなは……ナミネは……?)」

 どんなに辺りの気配を探っても、自分ひとりだけだった。

「(このまま……眠ってもいいかな?……だけど……一目でいいから会いたいよ……ナミネ……)」

 浸りと涙が零れ落ちて、地面をぬらす。
 丁度そんな時、彼の耳にいかがわしい音が届いてくる。

「(……これなんだろう?)」
「♪よ~やく見つけた~」

 即座にその音がギターの音だと気付いた。
 そして、一人の男が自分を見下ろしていたことに気付く。

「……たし…か…モトキ?」
「そのと~り!俺の名前はモトキだよ~♪そして、ついでだから君を助けよ~かなと思ってね~」
「僕を…助ける?」
「~っそ」

 すると、彼の隣に女の子の姿があった。

「ハナ~ごくろ~さん!」
「大人の人を抱えてくるのは大変でした(ズズッ)」

 休憩の意味を兼ねて座って、お茶をたしなむハナ。

「ま…さか……ナ…ミ…ネ……?」
「そ~だよ。とりあえず、ハナ~」
「はい」

 ハナがリュウヤの身体に手を触れる。
 すると、淡い光が生じた。

「(何だこの感じ……とても癒される……)」
「はい……これで少しは歩けるでしょう(ズズッ)」

 にっこりと笑ってハナは言う。

「……!!」

 ゆっくりだけど、立ち上がれたことにリュウヤは驚きを隠せない。

「いったい君の力は何なんだ?」
「私の力は全ての力を癒す事が出来るのです。それが植物であろうと動物であろうとポケモンであろうと……もちろん人間にも効果があるのです」
「そんなの聞いたことがない……」
「私たち姉弟にしか、持っていない特殊能力ですから」
「ちなみに~俺の特殊の~りょくは~おしえな~い」

 ここまで来たら普通教えるもんじゃないのか?と突っ込みたいところだが、リュウヤは黙っていた。

「ナミネ!」

 慌ててリュウヤはナミネの元へと駆け寄る。
 彼女は横たわっていた。
 黒く長い髪と黒いワンピースのドレスは、小さい時のリュウヤのイメージと瓜二つだった。
 だが、違っていたのは、あんなに小さく純粋で大人しかった彼女が、背も伸びて、ユウナどころか、オトハにも負けないほどのスタイルを持っていたことである。
 リュウヤも少しの間息を飲んで彼女の身体に見入っていたが、ハッとして彼女を揺する。

「ナミネ!起きてくれ……ナミネ!!」
「あ~ちょっといいかな?」
「後にしてくれ!!」
「いやぁ~さすがに今じゃないとまずいんだよねぇ~。早くしないと~“空間のねじれ”が起きちゃうかもしれないから~」

 モトキに言われてリュウヤはとりあえず、押し黙った。

「……なんだよ?」
「君たちはこれからど~するのかな?」
「ど~するもなにも、一緒に元の世界で暮らすつもりだよ。ネスたちが待っているはずだし」
「2人で暮らすのはいいとしても、みんなのもとへ戻るのはどうでしょうね?(ニコニコ)」
「どういう意味だよ?」

 リュウヤはお茶を飲んでいるハナに尋ねる。

「“ミヤビ”の人たちは一っ子一人残らず石になってしまいました」
「それはわかる」
「つまり、石になっている間は年をとらないのですよ。なので、普通に年を重ねているのはあなたたち2人だけなのですよ」
「……!!」
「元の世界に戻っても~誰も気付かないだろ~な」
「…………」
「別に戻ってもいいよ?でも~俺は~別の世界で新たな暮らしを始める事を~勧めるよ~?」

 少しの間、リュウヤは考えた。
 そして、考えた末にリュウヤは言った。

「わかった。だけど、一つだけ君たちに頼みたい事があるんだ」

 そう言って、リュウヤはモトキに3つのモンスターボールを手渡した。

「彼らを元の世界に戻してやって欲しいんだ」
「そ~ゆ~ことならお安い御用さ~。さて、決まったら行くよ~」



「……!? ここは!?」

 いきなり、リュウヤの視界が変わった。
 見る限りどこかの島の丘の上のようである。
 ただ、無人島ではない。
 シーギャロップと呼ばれる客船も出ているのがその証拠である。

「ここなら~大丈夫だ~俺たちは~帰るよ~」
「それから、リュウヤさん。こんな話を聞いたことがありますか?」
「ん?」
「ずっと眠ったままのお姫様は王子様のキッスで目覚めるのです」
「…………」
「では、お幸せに」

 こうして、モトキとハナは丘を下っていった。

「(王子様のキスか……)」

 リュウヤは苦笑いをしながらも、半分冗談、半分信じて、目を瞑ってナミネに唇を近づける。
 温く柔らかい。それが彼が感じた彼女の唇の感触だった。
 やがて、顔を上げて彼女の顔を見た。

「……(やっぱり無理か……)」

 諦めて数秒の事だった。
 彼女の眉がピクっと動いた。
 そして、ゆっくりと彼女は目を見開く。

「ナミネ?……ナミネ!!」

 リュウヤは彼女の名前を口にする。

「リュ…ウ…く…ん?」
「そうだよ!僕だよ!リュウだよ!!」
「リュウ…くん……」
「ナミネ!!」

 起き上がろうとするナミネを抱き寄せて抱きしめる。

「リュウ…君……苦…しい…よ……」
「もう……僕は……君を……放しはしないよ……」

 彼らを祝福するかのようにシーギャロップが出航を継げて、ポッポやピジョンたちが飛んでいく。
 リュウとナミネ……2人の日々はここから始まるのである。



 幾つも存在する世界の中で……彼らは戦い、傷つき、そして愛を知った……
 世界を支配すると言う悪者とも出会い、彼らは戦った……
 そして、犠牲者を出しながらも彼らは勝った……
 そう。……これは後世に語られることのない……世界の狭間での戦いのお話……





 アトガキ

 第二幕もこの話で基本的にラストになります。ここまで来るのに長かったです。
 第二幕はポケスペの未来の話やらチートな兄妹の話やらポケモンと話ができる世界の人種やら詰め込むだけ詰め込みました。
 第一幕から引き続きでアニメのキャラたちも出てきたりするので、だいぶキャラの把握が大変でした。
 実際、第二幕設定資料集も作っているのですが、なんかもうめんd……しんどいです。

 ストーリー的には基本的にハッピーエンドとなっています。約何名かを除く←
 その何名かはきっと、次の幕でも何らかの活躍をするんじゃないかなと思います。
 ちなみに、ハッピーエンドになったキャラはもう出てこないです。……た、たぶん。

 そんなわけで、次の第三幕も引き続き読んでていただけたらと思います。
 (感想も欲s……いや、どちらかというと、どのキャラが好きかなんて言うコメントが有ったらうれしいです)

 ※ポケスペの設定ですが、書いていた時期の都合により大体25巻くらいの内容までからの未来設定になっています。



 30

 DOCでの戦いから1年が経過した。
 そして、ホクト地方のとある小屋。
 そこにある2人が住んでいた。

「今日は何にしようかな~?」

 意気揚々と買い物に出かけようとしていたのは、青いワンピースに黄色い髪をした女の子……ライトだった。
 その背中には一人の赤ん坊の姿があった。

「うわーん!!」

 そして、不意に彼女は泣き出す。

「わ~っ!!ちょっと、ミホシちゃん!泣かないで~。ミルク?ミルクなのね?ちょっと待ってよー!!」

 出かけようと思っていたライトに水を差すように、赤ん坊のミホシはミルクをせがんでいた。

「ふう……」

 ミルクを飲ませたミホシはすぐにぐったりと寝てしまった。
 仕方がなく、ライトも少し横になることにした。

「(もう……エースと別れて1年以上になるのね……。この子をエースにも見せてあげたいわ……)」

 ミホシは紛れもなくエースとライトの間に出来た子供だった。

 ポタポタッ

「(あれ?)」

 不意にエースのことを想うと、涙が止まらなくなっていた。

「やだ……私ったら……ミホシの前で泣いた姿なんて見せられないわ……」

 そう言って小屋の外へと飛び出していった。

「……グスンッ……やっぱり寂しい……寂しいよぉ……エース……」

 エースがくれたペンダントをギュッと握り締めて地面にうずくまるライト。
 そのときだった。

「何を泣いているんだ?ワケを話してみろよ」

 その声にぴくんとライトは反応した。

「(え……?まさか)」

 ふと、ライトは脳裏にエースの姿が浮かんだ。

「私には待っている人がいるの……その人を待っているんだけど……なかなか来ないの。そして、寂しくて泣いていたのよ……」

 と、その男の人にライトは言う。

「そうか……それなら、俺が君を慰めてもいいか?……“ライト”」
「……ええ。“エース”」

 バッと顔を上げて、ライトはエースの胸に飛び込んだ。
 そして、この時こそが2人の動き出した瞬間だった…………



 第二幕 Dimensions Over Chaos 最終話
 ふたりが望んだセカイ 終わり








 空は青く雲がかかっている。
 そして、太陽の下、砂浜にザザッと波が打ち寄せる。

 辺りは何もなく、本当に何もなく、ほんとーに何もない。
 木も家も建物も……遙か遠くに何かが目視できるほどだった。

 そんな砂浜に一人の白い法衣を纏った女性が素足で歩いていた。
 その女性は迷うことなく、しっかりと一歩一歩前に進んでいた。

 進むことに恐れはなかった。
 まるで今、こうやって進んでいることが、当たり前のように彼女は進んでいた。

 その姿は堂々として美しかった。
 見ている人がいれば、女神と称える位の気品を持ち合わせていた。
 しかし、辺りには誰もいない。
 褒める人は誰一人としていなかった。

 ふと、女性は足を止めた。
 しかし、その止め方と言うのは、自然な止まり方だった。
 まるで、その場所に止まることが最初から決まっていたかのように。

 そして、彼女は見下ろす。
 彼女の目にはボロボロの男の姿があった。
 グレーのジーンズにボロボロのシャツ……傷だらけで気を失っていた。

 彼女は懐から一枚の写真を取り出した。
 その写真はとても古く、ピントがぼやけていて、色褪せていた。
 そして、写真を見比べて彼女は呟く。

「緑髪……。間違いありません。……この方が……運命を背負った人……。ヒロト様……」



 To Be Continued somewhere


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Last-modified: 2015-05-19 (火) 23:56:34
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