身体のいたるところが悲鳴をあげていた。
火傷を負い、凍傷にかかり、雷撃を受けて、それらの傷がまったく癒えていないにもかかわらず、再び彼は大切な人を助けるために戦いの場に立っていた。
「負けない……僕は負けない……絶対負けるわけには行かないんだ!!ラティオス!!」
立っているのもやっとのはずなのに、リュウヤは大きな声で叫ぶ。
ラティオスもリュウヤの思いに応えてサイコキネシスをぶちかます。
「FUFUFU……『ハイパーボイス』」
しかし、相手は宇宙を創ったといわれるアルセウス。
たった一撃でサイコキネシスを相殺してしまう。
「『竜の波…… 「遅いNA!」
ズドンッ!! ドガンッ!!
指示を出すよりも先に、リュウヤとラティオスに触れるように、2発の攻撃が入った。
アルセウスの『神速』だ。
凄まじいスピードで反応することができなかった。
いや、反応することができたとしても、リュウヤにかわす力は残されてなかった。
「うわぁ――――――――――――っ!!」
地面に倒されて、身体を小さくうずくまるリュウヤ。
それを守るようにラティオスが独断で反撃にでる。
緑色のエネルギーの塊……先ほどリュウヤが指示し損ねた『竜の波動』だ。
「それじゃ、倒せないYO。『大地の力』DA」
先ほどエースのネオブラストバーンをも破った地面系の技を放つ。
下から突き上げられる地面のアッパーのような攻撃は、いとも簡単に竜の波動を消し去ってしまった。
ラティオスは上空へ飛んでかわそうとした。
特性の『浮遊』を持っている限り、地面系の攻撃は当たらないはずである。
「おやおや、逃げていいのかNA?トレーナーがどうなっても知らないZO?」
はっとラティオスは後ろを見て気付く。
大地の力はトレーナーであるリュウヤをも狙っていた。
それに気付いたラティオスは急いでリュウヤの元へと戻り、リュウヤのマントの裾を口で咥えて、飛び上がった。
「『破壊光線』DA」
極大のエネルギーがラティオスを襲う。
普段ならどんなに強力な攻撃もかわすことができるのだが、今はリュウヤを落とさないように運んでいる状態で、スピードが落ちていた。
そのスピードを活かせず身体を捻ってかわそうとしたが、攻撃が翼に当たる。
ラティオスは悲鳴をあげて、リュウヤと共に落下した。
それでも、ラティオスはすぐさま反撃に出た。
「ほう……『ラスターバージ』KA」
だが、この光線をザンクスとアルセウスはヒョイッとかわした。
「相手の隙がないのにそんな強力な攻撃が当たると思ったのKA?FUFUFU……裁きの時DA!」
アルセウスは身体からでている6本の骨(?)を光らせる。
ラティオスは攻撃を相殺するために何とかサイコパワーを溜めていく。
一方のリュウヤは気絶しているようで、動かなかった。
「『さばきのつぶて』DA!!」
そして、究極の一撃が放たれる……
「あとどのくらいで最上階まで着くのでしょう……?」
「…………」
TSUYOSHIを激しい戦いの末に破ったヒロトとオトハは塔を登り続けていた。
オトハが先に階段をのぼり、ヒロトは彼女についていくように登っていた。
「早くリリスと言う人を倒さなくては…………」
「…………」
「ヒロトさんは無理をしないでくださいね……私が何とかしますから……」
…………。
「ヒロトさん?」
…………。
「ヒロトさん……え?」
ふと後ろを向くと、ヒロトがいなかった。
どうしたのかと思い、少し階段を下ってみると、ヒロトは壁に手をついて、足がふらふらしていた。
ガッ!
「っ!!」
「ヒロトさん!」
ヒロトは階段を踏み外して、階段を落下しかける。
しかし、オトハがとっさにヒロトの手を掴んで、転がり落ちることだけは止めることができた。
「ヒロトさん!?大丈夫ですか!?」
「っ……。大丈夫」
「でも……顔色も悪いし……足元もふらついてますよ?」
「大丈夫だ!」
ヒロトはオトハの手を乱暴に振り払った。
「俺なら大丈夫だ……早く……リリスという女を倒さないと……世界が……」
「ヒロトさん……待ってください!!」
ヒロトは先に走って行ってしまう。
そして、ヒロトは先に最上階……亜空の入り口……そして“世界の狭間”に辿りつく。
「ここはなんだ……?それにあのポケモンはなんだ!?」
ヒロトの目に映ったのは、見たことのないポケモンとラティオスのバトルだった。
しかし、戦況はラティオスがリュウヤを庇っていて、相手のポケモンが最大の一撃を放ったところだった。
「(……まずい!!こっちにも来る!?)シオン!『光の壁』!!」
慌ててヒロトはシオンを繰り出した。
光の壁は特殊攻撃を半減させる技だ。
それにラティオスもサイコキネシスでアルセウスの攻撃を相殺しようとした。
だが、彼らの行動は無意味に等しかった。
サイコキネシスも光の壁も簡単に消されてしまった。
「はぁ…はぁ…ヒロトさん……やっと追いつきました……」
「(なっ!?オトハさん!?)」
何も知らずにオトハもこの場に到着した。
さばきのつぶてが全てに襲い掛かる…………
「FUFUFU……一掃したNA。これで、エグザイルの世界征服が始まるのDA!!」
ザンクスの視界に入ってくるのは、バクフーンと共に気絶しているエース、ラティオスと共に吹っ飛んだリュウヤ、そして、シオンとヒロトの倒れた姿だった。
「さて……その前に全員に止めを刺さないといけませんNE」
つかつかとリュウヤに歩み寄るザンクスとアルセウス。
だが、次の瞬間、強力な水攻撃が飛んできた。
「誰DA!?」
ザンクスの目に映るのは、白いスカートのピンクのカーディガンの女性とスイクンだった。
―――「ヒロトさん!?」―――
あのとっさの瞬間、ヒロトはオトハを押し倒した。
凄まじい攻撃の中、ヒロトとシオンは攻撃をもろに受けてしまった。
しかし、ヒロトはオトハだけは守りきっていたのである。
―――「……私を……助けてくれたのですか?」―――
―――「さっきは助けられたから……その借りを返しただけだ……。俺はもう誰かが傷つく姿を見たくないんだ……」―――
オトハは表情を引き締めて、前を見た。
「私の名前はオトハです。あなたたちを倒しにきました」
一方のザンクスは彼女を見て、フンッと鼻で笑った。
「なんDA。たかが一人の小娘KA。今更誰か来ようと同じことDA。アルセウス、やってしまうんDA!」
「スイクン、『オーロラビーム』です」
虹色の光線で攻撃する。
しかし、オトハはこのくらいの攻撃で倒せる相手でないことはわかっている。
ゆえに、この攻撃は牽制の意味を含めた攻撃なのだろう。
「……! 後ろです!」
オーロラビームを軽くかわされて、すぐ後ろに来たことに感づき、スイクンに後ろを向かせる。
ハイドロポンプで一気に押し返す。
「……戦術も反応速度もなかなかだNA」
「…………」
オトハはかつてないほど集中していた。
相手の動きを読む力と避ける力にかけては普通にヒロトやエース、そしてリュウヤさえも上回る力をオトハは持っていた。
「『ハイパーボイス』」
強烈な振動だ。
「(かわすのは少し辛いかもしれません……)『吼える』です!」
一方のスイクンもハイパーボイスに劣るが、音波を放って、スイクンとオトハの周辺の振動を相殺させた。
「『月舞踊――― 「終わりDA」
ハイパーボイスによる音の攻撃が終わると、すぐにアルセウスは神速で接近していた。
そして、破壊光線が放たれる。
「『受風』です!!」
オトハの指示と同時にスイクンが破壊光線に飲み込まれた。
「遅かったようだNA」
「そうでもありませんよ?」
アルセウスの破壊光線が終わった瞬間、水流がアルセウスを捉えた。
そのまま、押し飛ばし、アルセウスを転ばしたのである。
「『月舞踊:朔凪<さくなぎ>』です」
スイクンの連続攻撃が決まった。
7つの月舞踊の中でも攻撃の特性を持つのはこの一つだけ。
この朔凪は、何もないところから突発的な斬撃を生み出す絶対命中技だ。
大抵の相手ならば、この2つの攻撃で決まってしまうが、そう簡単に倒せる相手ではなかった。
アルセウスは少々ダメージを受けただけで簡単に立ち上がった。
「素晴らしいNA。あの一撃を耐えた上に、見事な攻撃……驚きましたYO」
余裕の表情を崩さないザンクス。
「スイクン!『聖なる風』です!!」
ただの風ではない。輝く風をスイクンは巻き起こす。
「むっ!!」
吹っ飛ぶほどの風はないが、アルセウスにダメージを与えていく。
しかも、膝をついた。
「まさKA……聖属性を操ることができるのKA!?」
「もう一回です!!」
「これは少し厄介ですNE。アルセウス、『さばきのつぶて』ですYO!!一気に倒すんDA!!」
先ほどの誰も止められなかった究極の一撃を再び解き放つ。
これは隕石だろうか?それとも流星だろうか?
宇宙の森羅万象を醸し出す技は、圧倒的な力で聖なる風をも消し去ってしまった。
「(これは先ほどの!?でも、チャンスです)スイクン、『聖なる衣』です!!」
淡く輝く衣を纏って攻撃を受け止めようとする。
ズドドドドドドドドッ!!!!
「(これは!?)」
しかし、オトハの予想していない事態が起きた。
「FUFUFU……その程度の熟練度の低い聖属性の技では、『さばきのつぶて』を返すことは不可能DA」
攻撃は全てスイクンに集中した。
そして、聖なる衣で跳ね返せず、ダメージが暴発してスイクンは倒れた。
「もしその技の熟練度が高かったならば、危なかったでしょうがNE。さあ、もう終わりにしましょうYO……ん?」
オトハは黙ってスイクンを戻している。
そして、別のモンスターボールを手に取った。
「OYAOYA……まだやる気ですKA?やめておきNA。お前の手持ちにスイクン以上のポケモンがいるというのKA?」
「さあ、どうでしょうか?でも、やってみないとわかりませんよ?」
オトハが繰り出したのはピンク色のプニプニした物体だった。
「……まさか……そのポケモンHA!?」
「『変身』です!!」
プニプニしたポケモンは、すぐさま自分の細胞を変化させて相手のポケモンとまったく同じ姿になった。
そう、このポケモンの正体はメタモンだった。
「だが、模倣ポケモンなんかに負けるはずGA……」
「『神速』です」
シュ!! ドガッ!!
「なんDA!?」
先制攻撃が炸裂した。
相手のアルセウスは打っ飛んで、地面を滑るように倒された。
「確かに模倣ですが、少しはこの子の実力を認めてください。『ハイパーボイス』です!!」
「……っ!!『ハイパーボイス』!!」
大音響の音がこだまして、相殺しあう。
「『破壊光線』です!!」
「『破壊光線』!!」
ドガンッ!!
「『神速』です!!」
「『神速』!!」
ズドンッ!!
だが、決着はつかない。
互いに同じ技同士で相殺し合い、結局ダメージは少しずつしか与えられなかったのである。
「アルセウス……模倣なんかにバカにされるNA!!『さばきのつぶて』!!」
「(来ましたね!?)メタモン!『さばきのつぶて』です!!」
二人とも同じ技で勝負に出た。そして、2人の考えてたことは一緒だった。
2匹の攻撃の軌道は、若干ずれていた。
つまり、どちらも相殺狙いの攻撃ではなく、相手にダメージを与えて気絶させるための攻撃だった。
ドドドドドドドンッ!!!!
両サイドは大爆発を巻き起こしたのだった。
「ふぅ……FUFUFU」
ザンクスは笑いを零す。
「HAHAHA!!全てのステータスが同じでも、体力までは模倣できなかったようだNA!!」
さばきのつぶての威力はアルセウスもアルセウスに変身したメタモンも違いはなかった。
そして、2匹の耐久力も。
しかし、決定的な違いは体力だった。
それを証拠に、メタモンは変身が解けてぐったりとダウンしていた。
でも無意味ではなかった。
アルセウスも自分の攻撃と同様のさばきのつぶてを受けて、平気なはずがなかった。やや息を荒くしている。
「これで本当に終わりDA!!大人しくくたばるんDA!!」
アルセウスと一緒にメタモンの傍にいると思われるオトハへと忍び寄る。
だが、煙が晴れた時、オトハはメタモンの傍どころか、どこにもいなかった。
「どこに行ったんDA!?」
360度を見回すがどこにもいない。
「こちらですよ」
「!!」
バッと上を見た。
オトハがワタッコと一緒に浮いていた。
「全てはこの一撃のためです……ワタッコ、『終の舞・月舞踊:朔凪演舞』です!!」
ありとあらゆる風がオトハのワタッコに味方した。
通常の朔凪がアルセウスを斬りつける。
さらにアルセウスを中心として、外部から風が襲い掛かる。
そして、最終的にはワタッコ自身の手に付加された風の力でアルセウスを打っ飛ばした。
「NA……?まさか……アルセウス……?」
一撃一撃が自然の力に匹敵する……いやそれ以上の力を持った攻撃は、アルセウスでも耐えられなかったようだった。
力なくアルセウスはぐったりとダウンした。
「私の勝ちですよぅ!さぁ、リリスさんはどこですか!?」
「……くっ……」
ザンクスは逃げようとした。
だが、次の瞬間、どこからともなくムチが飛んできた。
「なんDA!?」
「ザンクス……情けないわね。あんな小娘に負けるなんて」
「!!」
ザンクスをムチで捕まえたのは、リリスだった。
いや、正確にはリリスの意識を持った禁忌だ。
「リリス……放すんDA!!」
「あら……もうあなたは用済みよ」
「!?」
「この力を手に入れた今……仲間なんて要らないわ」
「お、オイ……やめるんDA!!」
リリスはザンクスを巻きつけているムチをブンブンと遠心力をつけて解き放った。
「くそっ!!リリス!!覚えてRO―――――――――!!!!」
そのままキラーンとザンクスは星になってしまった。
「まさか……仲間を……」
オトハは手を出さず、その場面をただ見ているだけだった。
しかし、今度はそうは行かない。
リリスがオトハを見る。
「ザンクスのアルセウスを倒すとは……やるじゃないの。でも、そんなあなたを放っておくわけには行かないわ」
すると、リリスは翼を広げた。
「消えなさい」
リリスは力を溜めて一斉に波動を解放した。
ブワッ!!とフィールドで全体を吹っ飛ばすほどの威力を持っていた。
「(かわせません!?)ワタッコ!!」
オトハは急いでワタッコを戻して、逃げようとした。
だが、その波動にオトハは吹き飛ばされる。
「きゃあ―――――――――ッ!!!!」
凄まじい威力にオトハは顔を歪ませて、吹っ飛ばされている最中、気絶してしまった。
第二幕 Dimensions Over Chaos
ラハブの新境地⑮ ―――VSザンクス(後編)――― 終わり