ポケモン小説wiki

たった一つの行路　№135

　２３

「（何てパワーだ）」

　汗が伝い落ちる。
　ガラガラの骨から発せられる凄まじい何かが、力を増大させていると言うことをヒロトは理解した。

「（要するに並のパワーとスピードじゃ、あいつには勝てない！）」

　ザッ……とガラガラが一歩踏み込む。
　その様子を見てから、すぐにヒロトはフライトを繰り出す。
　『竜の息吹』で牽制するが、やはり、骨で弾かれる。
　骨の一撃のリーチに入ったところで、ヒロトはフライトに乗って移動する。

「逃げるのか？」
「逃げるんじゃない！間合いを取ってるだけだ！」

　塔の内壁に体をつけて、フライトは『竜の波動』を放った。
　さっきの一撃よりは威力を込めた攻撃だったが、それさえもガラガラは一振りでぶった斬る。

「くっ！『ドラゴンクロー』！！」
「迎え撃て。『ボーンスウィング』！！」

　塔の内壁を蹴って、スピードをつけて攻撃を決めようとする。
　逆にガラガラはまるで野球のボールを打ち返すように、骨を構えていた。

「決まったな」

　ガラガラは真正面から来たフライゴンを捉えて打ち返した。
　……と思われた。

「（寸前の影分身？）」

　ガラガラの骨は空を切った。それが分身だったからなのだが。
　そして、本体はガラガラを通り過ぎて、Ｕターンをして一撃を決めようとした。

「（もらった！！）」
「だけどまだ技は継続中なんだな、コレが」

　ブォンッと骨を振ると、さらに一回転して、遠心力を利用して飛び上がる。

「！？」

　そして、飛び上がった力を利用して、フライゴンに一撃を与えた。
　フライゴンに乗っていたヒロトもフライトから落ちて、ゴロゴロと転がって壁に体をぶつけた。

「くぅ……」
「へぇ……」

　ＴＳＵＹＯＳＨＩはヒロトを見て意外そうな顔をしていた。

「運が良かったみたいだな。そして、この一撃で倒せないなんて、びっくりしたぞ」

　フライトは攻撃の衝撃で壁を突き抜けて、外へと飛び出してしまったが、何とかヒロトの元へと帰ってきた。
　やられなかった分良しとするべきものだが、ヒロトは険しい表情をしていた。

「（ここは建物の中だから『グラン・ドレイン』で地面を砂にできないし、砂嵐の効果も薄い……。やっぱり打撃技であの骨を破るしかないけど……）」

　やはり、ヒロトが見つめるのはガラガラの骨だった。

「（ガラガラの身体能力と骨の技が異様に強い。どっちか片方にすることができれば……！！）」
「ところで気になるな。一つ聞いていいか？」
「……なんだ？」
「何故、お前はリュウヤ・フィラデムに協力する？何故、俺たちの計画の邪魔をしようとする？この計画が成功すれば、世界はリリスの手によって管理される。それが不服なのか？」
「…………」
「答えろ！」

　ＴＳＵＹＯＳＨＩの大きな声と同時に、ガラガラが襲ってくる。

「フライト、最大パワーで『大文字』！！」

　ヒロトの指示通りにまるでヒロトたちを隠すように大きな炎を放つ。

「意味がないな」

　しかし、関係なく突進して、ズバッ！！と大文字を真っ二つに斬って、フライトに襲い掛かる。

「『ドラゴンクロー』！！」

　ドガンッ！！

　やはり、ドラゴンクローではガラガラの攻撃に対抗するのは無理だった。
　あっけなく飛ばされて、“消える”。

「！！」

　「しまった」と、ＴＳＵＹＯＳＨＩが思うのと、本体のフライトが姿を現すのは同時だった。

「『ガーネットクロー』！！」

　光り輝く爪で一気に引き裂こうとする。
　しかし、ガラガラはフライトのさっきに気付いて、ギリギリのタイミングで骨でガードした。
　威力はほぼ互角。真正面からの場合はガラガラに利があったものの、タイミング的にはフライトが早かったために互角に収まっていた。
　そして、二人は同時に次の指示を飛ばす。

「尻尾で叩き落とせ！！」　「そのままなぎ払え！！」

　作戦が最初から決まっていた者の指示と、瞬時に対応して出した指示……。
　結果は決まっていた。

　バチッ！！

　力を抜いてガラガラの骨のスウィングを退けると、体を捻って尻尾で骨を叩き落とした。

「行けッ！！」

　そして、ガーネットクローが２撃決まった。
　×の形に攻撃を打ち込んで、ガラガラをノックアウトさせた。

「ガラガラの『オーラフラット』を破るなんてな……」
「破るも何も、骨にだけ力が集中していたんだから、骨を叩き落せばいいだけの話だ」
「その隙を作るために、最大の『大文字』で自分達の姿を隠して、『身代わり』を作るなんてな」

　ふっ、とＴＳＵＹＯＳＨＩは不敵に笑う。

「それならこの技の正体を教えてやるよ。俺の技は闘気のオーラを纏うことによって力を上げる」
「闘気……格闘系の技ってことか？」
「違うな。これは『きあいだめ』の応用でその気合と言うか闘気を一点に集中させる……それが『オーラフラット』の正体だ」

　そして、新たにＴＳＵＹＯＳＨＩはポケモンを繰り出す。
　エビワラーだ。

「やれ！『スペシャルパンチ』！！」
「っ！！（速い！）『ドラゴンクロー』！！」

　バキッ！！　ブワッ！！

　両者の技が激突し、衝撃が巻き起こる。
　しかし、その衝撃のベクトルは主にヒロトたちのほうへ向いていた。
　技の威力に負けて、フライトはヒロト諸共吹き飛ばされて、地面を転がった。

「次で止めだ。『気合パンチ』」
「くっ、させるか！！『竜の波動』！！」

　何とか体勢を整えて、一撃をエビワラーに向かって放つ。
　気合パンチは基本的にダメージを与えてしまえば、集中力が途切れて技を出すことができなくなる。
　だから、当てることができればなんでも良かったのだろう。
　しかし、ヒョイッとエビワラーは攻撃をかわしてフライトに接近した。

「っ！！」
「破れかぶれの一撃なんて、『気合パンチ』を集中させながらでもかわせる」
「くっ！！フライト！！」

　攻撃が当たる瞬間、こちらも最大の接近技『ガーネットクロー』で対抗しようとする。

「遅いよ」

　エビワラーが加速した。
　そして、攻撃を相殺する前にフライトに攻撃が決まり、外へと吹っ飛ばされた。
　ヒロトはモンスターボールを持ってフライトを戻す。

「（今の加速……またさっきの『オーラフラット』か？）」

　『ガーネットクロー』の発動タイミングは、フライトとエビワラーがぶつかるのと同じタイミングだとヒロトは計算していた。
　しかし、エビワラーの足にオーラが纏わりつき、急に加速したのをヒロトは見逃さなかった。
　計算が外れた要因はこれだと感じていた。

「（こいつ……強い……）」

　さらに、もしエビワラーが先ほどのオーラを足だけでなく拳にも纏うことができるとしたら、エビワラーの実力はとんでもないものだと思っていた。

「どうした？次のポケモンを出して来ないのか？それとも降参か？」
「…………」

　ヒロトはフライトを戻して、深呼吸をした。
　それから、ＴＳＵＹＯＳＨＩをしっかりと見る。

「さっき質問に答えておこうと思ってな」
「ほう」
「俺がお前たちを邪魔する理由は２つある。まず一つは俺のような想いをする奴を出したくない」
「俺のような想いをする奴？」
「そして、２つ目が重要だ。それは俺の世界が……いや、俺の好きだった子の愛した世界がお前たちの手によって脅かされないように守るためだ！！」
「そうか……“たったそれだけのため”に、お前は俺たちに勝ち目のない戦いを挑んだんだな」
「ああ。お前にとって、それは“たったそれだけのため”のことかと思うかもしれない。だけど、俺にとって“たったそれだけのため”のことが全てだ！！」
「なるほど……面白いな、お前」
「シオン！！」

　シオンことライチュウが姿を現す。

「お前のエビワラーに対抗できるのはシオンしかいない。こいつがお前のエビワラーを倒す！！」
「ふっ、エビワラー、『スペシャルパンチ』！！」
「シオン、『爆裂パンチ』！！」

　ドガンッ！！

　エビワラーの攻撃を掻い潜って、シオンの右ストレートがエビワラーの顔に入った。
　そして、そのまま吹っ飛ばした。
　だが、受身を取るように素早くエビワラーは体制と立て直す。混乱しているにもかかわらず。

「そのライチュウ……意外と格闘センスがあるようだな。俺のエビワラーの攻撃をかわすとは」
「褒めたって何もでないぜ！『電撃波』！！」

　電撃のレーザーがエビワラーに寸分のズレもなく向かっていく。
　しかし、かわされる。

「さすがにこれは『見切り』を使わないとかわせないようだな」
「『１０万ボルト』！！」
「接近して、ぶちのめせ」

　電撃を巧みにかわして、すぐに目の前に来る。

「『スペシャルパンチ』！！」
「『かみなりパンチ』！！」

　ガッ！！

　拳と拳がぶつかる。
　一撃の威力は互角らしい。
　シオンはそこから尻尾をムチのようにしなやかに振るうが、一歩後退してかわされてしまった。

「どうやらそのライチュウは本気を出さないと、勝つのが難しいようだ」
「……。（これで本気じゃなかったのか）」

　ヒロトは拳を震わせる。

「エビワラー、『オーラセレクト』本格発動！！」

　すると、エビワラーの拳から闘気が溢れ出てきた。

「…………」

　ヒロトは予想していた展開に言葉が出ない。
　しかし、ヒロトの気も知れず、エビワラーが襲い掛かる。
　刹那、シオンに拳が一発入って殴り飛ばされた。

「っ！！」
「一撃で終わるなよ？せっかく、エビワラーが久しぶりに本気を出すんだからな」

　殴られて飛ばされた場所は卓球台の残骸だった。
　そこからすぐにシオンは飛び出して、電撃を飛ばす。
　フットワークを使い、エビワラーは攻撃を回避する。

「その電撃波ならもう、『オーラセレクト』の状態で見切りを使わずともかわせる」
「くっ……絶対命中をほこる技をかわすのか！？」
「『スペシャルパンチ』！！」

　襲い掛かる凶器のような一撃。
　その一撃をシオンがかわすと、後ろにあった卓球台が木っ端微塵に砕けてしまった。

「どんどんやれ！」
「間合いを取れ！」

　右、左、右、右、左……
　シオンはエビワラーの目を見て、攻撃を読み取ってかわしていた。
　攻撃は目を読み取ることでかわせることが多いのだという。

「シオン！『電光石火』！！」

　タンっと一歩後ろに下がったあと、地面を蹴ってエビワラーに突っ込んだ。
　相手の拳を出すタイミングを見て、カウンターを受けないように計ったタイミングだった。
　しかし、攻撃はすり抜けた。
　エビワラーが即座に右に避けたのだ。

「隙有り！」
「隙じゃない！」

　壁にぶつかろうとしたところを急転換し、エビワラーの周りを駆け巡る。

「（攻撃のための電光石火じゃなくて、移動のための電光石火か）」
「そのまま移動しながら『充電』！！」
「だが、そのくらいのスピードなら！！」

　バッ！　バッ！　バッ！

　シオンとエビワラーが同スピードで攻防を繰り広げる。
　ほとんど肉眼では見分けられないほどのスピードで２匹は動いていた。

「シオン！！『アイアンテール』！！」

　バッ！！

　と、次に見えた瞬間、シオンが尻尾を振る。
　毎回、シオンの後ろから攻撃を仕掛けようとついていくのを利用しての攻撃だった。
　そして、パンチを仕掛けるエビワラーの右拳に当たった。

「アイアンテールでオーラセレクト中のエビワラーの攻撃を押し切れると思うな」

　攻撃能力は互角だった。
　しかし、シオンはそのままの体勢でぶっ飛ばされた。
　エビワラーのパワーがシオンを身体ごと吹っ飛ばしたのだ。

「そこだ！『マルチ１０万ボルト』！！」

　だが、ヒロトはほとんど予想済みのようで、シオンが着地する寸前に指示を出す。
　幾つもの１０万ボルトの電流が、一気にエビワラーに襲い掛かる。

「『見切り』」

　電撃の嵐を怯みもせずに、一本一本正確にかわしてしまった。
　でも、ＴＳＵＹＯＳＨＩさえも次のシオンの攻撃までは若干の隙が生じた。
　電撃を避けきったエビワラーの目の前には、シオンがもうすでに迫っていたのである。

「……！！エビワラー……『オーラセレクト』」
「遅い！！『ボルテッカー』！！」
「『スペシャルアッパー』！！」

　タイミング的には圧倒的にシオンが有利だった。
　それなのにエビワラーは捨て身で体当たりしてきたシオンの腹の下へと潜り込んで、強烈な一撃を空に向かって打ち上げた。
　塔の中だから、天井というのが正しいけど。

「シオン！！」
「！！」

　ＴＳＵＹＯＳＨＩはこれで決まったと思っていた。
　だが、シオンは空中で持ち直して、天井に足をつけた。攻撃をこらえた。
　そして、天井が壊れるほどの力で地面へ向かって蹴った。

「向かい討て！！『気合パンチ』！！」
「これで決めろッ！！『エレキテール』！！」



「はぁ…はぁ…この塔……どこまで続くのでしょうか……？」

　息を切らし切らしで塔を登るのはオトハだった。

「……運動不足でしょうか。やはり、テレナさんの家でのんびりしたり、イエローさんの家でゆっくりしていたのがいけなかったようですね。（ダイエットを考えたほうがいいかもしれませんね……）」

　ふと、オトハは昨日の事を思い出す。
　そして、ボッと一気に顔を真っ赤にさせた。

「（思えば……あの時本当はヒロトさん……私のことを重いと思っていたんじゃ……）」

　ヒロトの背中のぬくもりを思い出すのと同時に自分の体重を気にするオトハ。

「……でもとりあえず……早くヒロトさんの元へ行かないと……」

　ズドガズシャンッ！！！！

「今のは……！？」

　凄まじい音が上階のほうから聞こえて、慌ててオトハは走って登っていった。
　そして、中階層のフロアにたどり着いたのだが、そこは煙でよく見えなかった。

「一体何があったのでしょう……！？」

　耳を澄ますと声が聞こえてきた。

「まさか……オーラセレクト状態のエビワラーが倒されるとは……」

　煙が晴れると、倒れたエビワラーと辛うじて立っているシオンの姿があった。

「お前の残りポケモンはあと一匹だな！」

　ヒロトは今にも倒れそうなシオンを戻す。

「やはり、全てを懸けて戦おうとする者は強い……」
「（全てを懸けて……？）」

　オトハはＴＳＵＹＯＳＨＩの言葉にキョトンとする。

「（ヒロトさんが全てを懸けて戦っている？何のために……）」
「オトハさん？」

　丁度、ヒロトは彼女に気がついた。

「お前は！！」

　ＴＳＵＹＯＳＨＩもオトハに気がついたようだ。

「ヒロトさん……ＴＳＵＹＯＳＨＩさんと戦っていたのですね」
「ああ。確か、オトハさんも戦ったんだよな？こいつと」
「ええ。手を抜いてくれていたので何とか勝つことができましたが……」

　そして、２人はＴＳＵＹＯＳＨＩを見据えた。

「（２対１か……。あの女の実力……カネコウジに聞いたが相当なものだと聞いている。それにここまで来たということには、下の奴らの誰かを退けてきたと言うこと……。あいつもまさかあの時、手を抜いていたということか？だとしたら厄介だ……）」

　ＴＳＵＹＯＳＨＩは懐から、小さいクリスタルの宝石を取り出した。

「（最後の一個……これで……）」

　２人に向かって、それを投げつけた。
　投げつけた先には……

「っ！！」

　真っ先に反応したのはヒロトだった。
　クリスタルはどんどん大きくなっていく。

「オトハさんッ！！危ないッ！！」
「え？」

　一瞬のうちに、オトハは自分を押そうとするヒロトの姿と自分に向かってくる水晶の影を確認した。
　そして……

「えっ？」

　ヒロトはあっけに取られた。
　オトハを押して助けようと思ったのだが、ヒロトの手はオトハをすり抜けた。

「オトハさん！？」

　水晶に当たる瞬間、オトハはヒロトに微笑んだ。

「ヒロトさん……あなたについていくと言ったのは私です。だから、私が足手まといになるようなら見捨ててもらって構いません。ヒロトさんはヒロトさんの意志を貫いてください……」

　そして、オトハは吸い込まれるように水晶に閉じ込められてしまった。

「……オトハさんッ！！」

　ヒロトはただオトハの姿を見ているだけだった。
　側にいるのに助けることができず、地面を叩いた。

「オトハさんに……何をした……？」
「いや、バトルの邪魔だから、そこで見てもらうだけだ。なあに、お前が勝てば水晶の壊し方を教えてやる。だが、お前が俺に勝つことはない」
「…………」

　ヒロトは思い出した。
　前にもこんなことがあったと。
　助けるつもりが助けられてしまったと。
　そして、助けられなかったと。

「俺は……」

　ヒロトはゆっくりと立ち上がる。

「２年前……今日と同じように大切にしていた彼女を助けようとして彼女に助けられて、そして、最終的に俺は彼女を助けられなかった……」
「……？」
「俺はこんなことを二度と起こさないために強くなろうとした」
「そうか……それじゃ、再びその苦しみを味あわせてやろう」

　不敵にＴＳＵＹＯＳＨＩは笑って最後のポケモンを投じる。

「過去の鎖を断ち切るのは今だ！絶対俺は負けない！！フシギバナ！！」
「ふっ……俺の切り札……お前に倒せるのか？」

　２人の戦いは最終局面へと向かう。



　第二幕　Dimensions Over Chaos
　ラハブの新境地⑫　―――VSＴＳＵＹＯＳＨＩ（前編）―――　終わり